2024年の夏に起きた「令和の米騒動」。生産量の低下、停滞型台風による流通網の混乱、災害に備えた買いだめ、新米入替時期前の一時的な在庫薄、インバウンド需要による影響など、複数の背景が重なって発生したと考えられています。
現在米は店頭に並ぶようになりましたが、価格が高騰し、昨年に比べて90%近くも値上がりしています。政府は2025年2月に備蓄米21万トンを市場に放出することを発表しました。
「令和の米騒動」以降、心配されているのが、米離れです。この記事では、米離れについてその現状や問題点を解説します。
米の生産量の推移
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日頃あまり意識していない人が多いであろう米の生産量ですが、「令和の米騒動」をきっかけに話題になることが増えました。
実際どう変化してきたか、現在の状況はどうなのか、生産量と稲作農家の戸数、米の消費量を50年前と比較してみましょう。
米の生産量と稲作農家の戸数
1970年から2020年までの50年間で、稲作農家は7割、生産量は4割減少しています。
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農林水産省統計によると、2020年の生産量は776万トン。うち主食用は723万トン。
米は主食用・備蓄用・飼料用・加工用(米粉などの加工品、酒)に区分されていて、このところ減少率が高くなっているのは、主食用です。飼料用と加工用はこの数年、生産量が上がっていますが、飼料用・加工用は、主食用と品種や栽培時の手間のかけ方が異なります。
備蓄用は大不作などで米が不足する場合に備えて政府がストックしている米で、その量およそ100万トン。大凶作や不作が連続するなど、著しく民間在庫が不足することが予測される場合に、農水省の食農審議会食糧部会で放出するかどうかを決めることになっています。
一人当たりの米の消費量
国民一人当たりの年間消費量も、1962年に比べ約半分に減少しています。
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食の多様化、洋食化という食生活の変化、人口減少、高齢化、そして「一日に一回は米を食べないと気が済まない」といったような、米への愛着の減少などの理由から、米の消費量が減少していると見られています。
米の消費が減ると需要と供給のバランスで生産量を減らさざるを得なくなり、市場に出回る米が減ってしまいます。その結果、「令和の米騒動」のようなことが起きやすくなるだけでなく、供給が追いつかないと価格の高騰を招くのです。
米離れが進む理由
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日本は現在、パンの種類も麺の種類も豊富で、ピザ、お好み焼きなど小麦粉を使う料理やファストフードといった、主食に代わる食の選択肢が増えました。また健康への意識の高まりから、雑穀などを主食にする流れも強まっています。
一方で米が好きという声も根強く、ネットリサーチサービス「DIMSDRIVE」によるアンケートでは、「お米が好き」は9割以上。6割以上が一番好きな米のタイプは「白米」と回答。ネット投票サイト「みんなのランキング」でも、好きな食べ物の1位は寿司で、焼肉、唐揚げ、ハンバーグといったご飯とよく合う主菜や、カレーライス、オムライス、おにぎりが上位にランクインしています。
これらの結果から、米離れの大きな要因は「食の多様化」にあると考えられます。それは下記の図からも見ることができます。また、新米が出回りだすと、世帯ごとの米の購入量は大きく増えることから、米好きが多いこともわかります。
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米離れの問題点は?
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それでは、米離れが進んだ先には、どのような問題が待っているのでしょうか。
食料自給率の低下
米の食料自給率はほぼ100%です。農林水産省によると、国民全員が一口多くお米を食べると食料自給率が1%上げられるという試算もあります。
それほど米と食料自給率には深い関係があり、米離れが進むということは、日本の食料自給率の低下を招くのです。
不安定な食料インフラを招く
気候変動や感染症の流行、インフレーションや世界情勢などで、必ずしも海外からの食料が調達できる状況ではなくなっています。米離れが加速し、米農家が減少することは、消費者にとって食料を安定的に入手できないというリスクを伴っています。
雇用の減少
米の生産量が減ることにより、米に関わる種子屋、米問屋、米穀店、運送事業者、農業協同組合などの規模が縮小。雇用減少などが懸念されています。
米は、日本の食料のインフラや雇用を守るために、最も重要な食材の一つです。そのため米離れによって引き起こされる問題は深刻です。
米離れを止めようという動きも
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米を好きな人は多いものの、一日に米を食べる回数や食べる量が減っているのが現実です。米離れがこれ以上進まないように、政府は民間企業や団体などと連携し、さまざまな対策を進めてきました。また民間企業や稲作農家、農業協同組合などによる、米離れを止めようという動きも強くなっています。
例えば政府は以下の取り組みなどを行っています。
・米飯学校給食の推進、定着
・多面的な情報発信
・新たな需要の取り込み
・米粉など米を使った新商品の開発
・米と健康に着目した情報発信
他にも、農林水産省では、2018年10月から米の消費拡大の取り組みを応援すべく、米の消費拡大情報サイト「やっぱりごはんでしょ! 」を展開。
米に関する雑学、データ、イベントや産地情報などを発信してきました。米を中心にした食生活、米を食べることの良さを広く伝えることにも政府は力を入れています。
他にも、このところ人気の高い「おにぎり」や「農家カフェ」、各地で行われている「米の収穫体験」なども、米離れを止める動きに大いに貢献しているのではないでしょうか。
日本人にとってかけがえのない米
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主食として人々の生命を支えてきただけでなく、経済と文化を支えてきた米は、私たちにとってなくてはならないかけがえのないものです。
朝食をパンからおにぎりにする、ランチタイムの麺類をご飯にする、週末は土鍋ご飯にするなど、今より少し積極的に米を楽しんでみてはいかがでしょうか。それでは物足りないという人には、種まきから収穫して食べるまでを体験してみるのもいいかもしれません。
参考:
https://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/soukatu/okome_majime/content/food.html
https://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/soukatu/okome_majime/index.html
https://www.zennoh.or.jp/