エシカルやサステナブルなライフワークを持つ人へのインタビューを通じて、“本当の豊かさ”を見つめ直すrootusの本企画。今回は、障害のあるスタッフが活躍するロースタリーカフェ併設の福祉施設「ソーシャルグッドロースターズ」などを手掛け、多方面で障がい者の支援を行ってきた一般社団法人ビーンズの代表坂野拓海さんをお迎えします。坂野さんの言葉には、「誰一人として取り残さない」社会の本質とその実現に向けたヒントが散りばめられています。 坂野拓海さんプロフィール 経営コンサルタントとして働いた後、“密に個人と向き合う仕事がしたい”と障がい者専門の就職支援会社に入社。そこでの仕事や様々なボランティア経験を積むうちに、知的障がいや精神障がいなど目に見えづらい障がいがある方への支援の必要性を感じ、ビーンズを設立。2018年には就労支援施設であるコーヒーショップ「ソーシャルグッドロースターズ」をオープン。2022年には、クラフトビールの醸造所「方南ローカルグッドブリュワーズ」をオープンし、これまでにない形で施設利用者と社会が繋がれるソーシャルグッドな場所を作り出している。 時間をかけながら、やりがいある現場を作っていく ――rootusは以前「ソーシャルグッドロースターズ」を取材しましたが、坂野さんが代表を務めるビーンズでは、障がい者の方を中心に支援されていますよね。 「私たちは障がいのあるなしに関わらず、何かしらの困難を抱えている人のサポートをしたいと思っています。身体障がいや知的障がいなど、障がいと一言に言っても様々な障がいがありますが、障がいの中には、虐待や社会生活の中で生じてしまったものも少なからずあるのです。そのような困難の中にいる方の立場に立って、総合的にサポートしていく場を作っていこうと動いています。 ここ数年力を入れてきた「ソーシャルグッドロースターズ」や「方南ローカルグッドブリュワーズ」では、障がい者が、従来のような単純作業ではなく、一人ひとりがスキルを身に着け、生き生きと働けるような就労支援施設を目指しています。 障がいも困難も人それぞれですが、今の時代に合った選択肢をできるだけ多く増やし、個人に合った支援を提供していきたいと思っています。」 本格的なスペシャリティコーヒーを提供する千代田区のソーシャルグッドロースターズ ――多角的に支援事業をされていますが、活動や運営の中で大切にしていることはありますか。 「“場を作る人を育てること”というのは大切にしています。代表として、意見を言いたくなるときもあるのですが、それだけでは現場が育たず、施設利用者やスタッフも委縮してしまいます。時間がかかることがほとんどですが、みんなで意見を出し合って、みんなで課題を解決していく。それを繰り返していくうちに、現場がどんどんブラッシュアップされていき、ノウハウがたまっていく。そんな場所であったら、全員が生き生きとやりがいを持って働けるようになるのだと、ソーシャルグッドロースターズの運営を通し、身を持って感じています。」 対等に生きていくために、一緒に楽しみを見つけ成長していく現場を ――福祉に携わる方の働きかたの見直しが求められている中で、職員にとってもビーンズの運営方針は革新的なものですよね。 「長年福祉の現場に携わってきましたが、障がい者を支援する仕事は、肉体的にも精神的にもきついことが多く、正直、心から楽しさを感じ、喜びを持って働こうという雰囲気ではありませんでした。それは、慢性的な人手不足や人材が育たないことからも顕著ですね。でも、障がい者の方を支援するということは、お世話をすることとイコールではないと思うんです。一緒にどう楽しみながら、一緒にどう成長していけるか、ともに対等に生きていくためには、視点の転換が大切だと感じます。」 方南ローカルグッドブリュワーズのクラフトビールは商店街の新名物に 誰一人取り残されないために必要なのは、批判ではなく、困っている人と同じ目線に立つこと ――近年はSDGsの広がりもあり、「誰一人取り残さない社会」というキーワードが注目されるようになっていますよね。福祉を取り巻く環境にも変化は見られますか。 「変化はかなり感じますね。日本を含む先進国では中間層が薄くなってきているとよく言われますが、取り残される側になる人も増えてきていると感じます。そのため、みんなが取り残される当事者になる可能性が増し、取り残されることへの危機感も持っているのではないかと思います。私たちのような活動に目を向けていただける機会も増えました。ともに生きていける社会の実現に向けて、一人ひとりの意識が変わってきている証拠なのではないでしょうか。 そんな社会で大切なのは、分断や批判ではなく、困っている人と同じ目線に立って、必要な支え方を模索すること、支援の選択肢を増やすことではないかと思います。幸運なことに、日本は生活困窮者などに向けての行政の支援は充実しており、システムは十分に機能しています。そこに困っている人の気持ちに寄り添う人々や、団体が増えていけば、さらに助け合いの輪が広がっていくのではないでしょうか。」 ――これまでにない方法で福祉のあり方を追求してきたビーンズですが、これからの展望を教えてください。 「ソーシャルグッドロースターズや方南ローカルグッドブリュワーズは、障がい者など生活が困難な人たちへ向けた支援の“出口”だと思っています。ここで社会とつながりを持ち、積み上げた経験やスキルを活かして、他の場所に飛び立っていく人もいます。これからは、そのような“出口”の支援だけでなく、支援の“入口”になる場所も作っていきたいと思っています。社会には、様々な理由で頼れる人がおらず、身動きが取れない人がたくさんいらっしゃいます。そのような方を受け入れるのが支援の入口だと思っています。生活がままならない方の受け入れ先となり、スキルや経験を積んで社会で活躍できるようになるまで総合的、継続的に支援できるような団体になっていきたいです。」 本当に強い社会とは、ポジティブな循環が生まれる社会のこと ――最後に、坂野さんにとっての「豊かさ」とはなにか教えて下さい。 「豊かさとは、“自分も相手も気分がいいこと”だと思っています。これは職場や家庭でもそうですが、関わるみんながお互いを知ろうと努力し、相手を尊重し合うことで、一日を心地よく過ごすことができる、そんな関わり方が理想ですよね。ともに時間を過ごす人やチームがあることは、何事にも代えがたいことです。それこそ、取り残されない社会の実現に向けて大切なことの一つではないかと思います。信頼できるコミュニティやバックグラウンドがあるからまた新たなことに挑戦できるんですよね。そのような良い循環が生まれる社会は、とても強いものであると思います。」 取材中に何度も、「私よりも施設利用者や職員が主役です」という言葉が出てきた坂野さん。ビーンズでは、活動に関わる利用者やスタッフ中心の運営であることが垣間見えました。 障がいがあるかどうかにかかわらず、一人ひとりが個性を生かし、尊重し合うことの大切さが求められる今。お互いの目線に立ち理解しようとする姿勢こそが、誰一人として取り残さない、強く豊かな社会の実現に向けた第一歩なのではないでしょうか。 ソーシャルグッドロースターズ 公式ホームページ方南ローカルグッドブリュワーズ 公式ホームページ 取材・文 / rootus編集部
エシカルやサステナブルなライフワークを持つ人へのインタビューを通じて、「本当の豊かさ」を見つめ直すrootusの本企画。今回は、長年アパレル業界に携わり、サステナブルなファッションの在り方を追求してきたクリエイティブ・ディレクターの久保まゆみさんがゲスト。プライベートでは、児童養護施設の子どもたちに向けた七五三や成人式のお祝いボランティアとしても活動する彼女から、豊かな社会へのヒントをもらいます。 久保まゆみさんプロフィール クリエイティブ・ディレクター。美大を卒業後、ジュエリーデザイナーとしてアパレル会社に入社。その後フランスに留学し、帰国後、株式会社JUNが運営していたA.P.C.の発足メンバーとしてプレスを担当。出産を機にフリーランスへ転向し、子どものカルチャー誌『m/f and you』の編集長としてエディトリアルを経験。現在は株式会社JUNのファッションブランド「LA LIGNE ROPÉ」のブランディング、コミュニケーションデザインを担う。社会的慶祝支援団体「一般社団法人 いちご言祝ぎの杜」メンバーとしても活動中。 久保まゆみさん 公式Instagram 伝統文化が息づくサステナブルファッションを後世に ――久保さんはアパレル業界を中心に様々なキャリアを積まれていますよね。 久保さん:大学卒業後、アパレル会社に就職しましたが、海外で文化体験をしたいと思い、退職してフランスに3年ほど留学しました。当時、「A.P.C.」というブランドがパリでも展開し始めた頃で、これまでのモードとは一線を画したミニマリズムな哲学に衝撃を受け、急いで帰国出願し、後立ち上げメンバーに加わることとなりました。もう30年も前になりますが「A.P.C.」のデザイナー・ジャン・トゥイトゥに感化され、私にとってのサステナブルな精神の芽生えがあったと思います。それは既存への警鐘のようなタイムレスなアティチュードでした。今のようにライフステージが変わっても女性が働ける場が整っていなかったこともあり、出産を機に働き方をフリーランスに変更しPRとしてのキャリアを重ねました。その後、創刊した子どものファッション誌は、もっと子どもたちを取り巻くさまざまな環境への疑問から文化醸成を掲げ、服育、アート、ドネーションなどを特集したニッチ過ぎる媒体で(笑)リーマンショックと同時に、志なかばに廃刊となりました。再びJUNグループに復職し、グループ全体のブランドを統括するマーケティング・コミュニケーション部にいましたが、定年退職、再契約を経て「LA LIGNE ROPÉ(ラリーニュ ロペ)」というブランドと文化部門のコミュニケーションを担当しています。 ――LA LIGNE ROPÉはサステナブルなファッションブランドとしてスタートしたのですよね。 久保さん:みなさんご存知のように、アパレル業界は、大量生産、大量廃棄、生産者の低賃金労働、輸送にかかる大きな環境負荷など様々な問題があります。2015年に国連がSDGsを立ち上げた頃から個人的にも会社的にも何か改善をしなくてはならないという思いがありましたが、当時、企業や既存ブランドでは、すぐにアクションを起こせずもどかしさは感じていました。そんな中2017年に新規ブランドを発足するチャンスに恵まれ、アパレル業界では循環型ファッションブランドの先駆けとしてテストマーケティング的にスタートしました。2020年にはステートメントを制定し、宣言をコミットできるよう、プランを再構築しました。 ――ブランドでは具体的にはどのような取り組みを行っていますか。 久保さん: LA LIGNE ROPÉでは、日本古来の着物の技術と知恵を大切にしています。着物は「直線裁ち」の技法が取り入れられ、布を無駄にしないよう工夫されてきました。そんな日本の「もったいない文化」から直線裁ちによって生地を無駄に捨てないという点が大きな特長です。また、人件費が安い国で生産をせず物流に絡む燃料をなるべく抑えるなどして、国産にこだわり、シンプルで透明性の高い生産と流通を実現しました。ステートメントの中に「真っ直ぐに、しなやかに、美しく」ということを掲げていますが、「真っ直ぐに」というのは直線裁ちの意味合いだけでなく、「精神的な正当性」という意味が込められています。「Timeless ageless」という日本の文化を踏襲し、着物の美しいモノづくりの文化を後世に伝えていきたいと思っています。 LA LIGNE ROPÉ ブランドサイト LA LIGNE ROPÉ オンラインストア 子どもに関わる慶祝ボランティアがライフワーク ――久保さんはいちご言祝ぎの杜の活動にも参加されていますよね。活動について教えてください。 久保さん:定年を機に、自分の興味があることはなにか、人生でやり残したことがないか、ということを考え、一般社団法人いちご言祝ぎの杜のボランティアメンバーとして活動を始めました。いちご言祝ぎの杜は、児童養護施設や乳児院など、様々な理由で親元を離れて暮らす子どもたちに、七五三や成人式にお祝いを贈るする団体です。着物を選ぶところから始まり、当日はプロのヘアメイクが着付けやメイクをし、カメラマンが写真を撮ります。様々なボランティアがある中で、いちご言祝ぎの杜はファッションのプロフェッショナルが集まっているところが特徴です。 久保さん:いちご言祝ぎの杜では、お祝いだけでなく、施設や子どもたちにおける課題をヒアリングし、一緒に考えることも大切にしています。実際、養護施設に七五三のお祝いの打ち合わせのときに、昨今、虐待やDVによって子どもの入所が急増していて、施設が満杯になっているということを伺いました。その際に「施設入所だけではなく、一般の方も加担できる里親支援、養子縁組の認知がもっと流布すれば、軽減できることもある――。週末もしくは1年限定で子どもを預かるという選択肢があることや、支援金で子どもをサポートすることもできるということを知ってほしい」という、施設側の声があったので、LA LIGNE ROPÉではそれを周知するイベントを行いました。また他にも活動の一環として、女子大学と学習プログラムと組み、後世のボランティアを育成する活動や女性支援も行っています。 ――いちご言祝ぎの杜の活動の中で印象的なエピソードはありますか。 久保さん:七五三のお祝いとして児童養護施設や乳児院に行くことが多いのですが、何らかの事情を抱えている子どもたちばかりです。七五三のお祝いの時に、7歳の子に「泣きたいぐらい嬉しい」「みんながいるから言えなかったけど、ありがとう」などの声に嬉しい反面、こちらの想像を超えてくる大人びた言葉使いに胸が締め付けられます。心の中で「もっと子どもらしく、無邪気でいいのよ」と、こちらも泣きたくなります。大人への慶祝の節目に立ち合わせていただき、親が子どもの成長を寂しくも喜ばしいと思うように毎回ドラマッチックです。 「豊かさ」とは、無駄のない、飾らない生き方をすること ――多方面でエシカル、サステナブルな取り組みをされていますが、今後の展望を教えてください。 久保さん:2022年の夏に京都の茶道・千家十職、袋師の土田友湖家の仕事場の軒下にオープンした「A LITTLE PLACE」というギャラリーのPRとして携わっています。そのプロダクト一つとして「紀siècle」というブランドがあるのですが、100年前の貴重な苧麻(ちょま)の着物をほどき使って、フランスの100年前の作業着のパターンに着想を経て、新たな服に創り変えて次の100年へ。まさに循環していくブランドです。このように、さまざまな取り組みを通して、日本の「古くからある良質なもの」を世の中に伝えていきたいと思っています。価値があるものに再び光を当てて受け継いでいくことは、サステナブルの基本だと思っています。 A LITTLE PLACE 公式Instagram ――最後に、久保さんが考える「本当の豊かさ」とはなんですか。 久保さん:好きな言葉の一つに、ミース・ファン・デル・ローエの「Less is More」があります。日本語に訳すと「少ないことが美しい」という意味です。「侘び寂び」と共通する概念であると思っていて、美しいものは華やかなものではなく洗練されそぎ落とされた「無駄がない」もの、時が育んだ「豊かさ」だと思います。飾らない生き方の方が、自分にも地球にも負担がかからないと思います。そんなにたくさんのモノを持たなくても良いのです。今、色々なことを淘汰して考え直さなくてはならない時代なのではないでしょうか。「Less is More」「侘び寂び」の精神が「本当の豊かさ」かなのではないかと思います。 いちご言祝ぎ杜 公式ホームページいちご言祝ぎの 杜公式noteいちご言祝ぎの杜 公式Instagram 取材・文 / オダルミコ
協力パン屋から売れ残りそうなパンを引き取って販売する「夜のパン屋さん」。今回、夜のパン屋さんが新しいプロジェクトとして、築150年の古民家「けやきの森の季楽堂」で「夜パンB&Bカフェ」をスタート。 運営を行う、THE BIG ISSUE JapanとMINI JAPANのスローガン「BIG LOVE」からBをとってB&Bと名付けられました。毎月第二土曜日に開催し、カフェに加えて、夜のパン屋さんやマルシェなども出店。「次に来る誰か」のためにランチ代などを先払いできる「お福分け券」の仕組みを整えるなど、金銭的に余裕がない人でも利用しやすいアイデアが取り入れられています。 今回は、夜のパン屋さんを立ち上げた枝元なほみさんに、夜のパン屋さんが目指す「人と人が繋がる社会」についてお話を伺いました。 枝元なほみさんProfile 横浜市生まれ。料理研究家としてテレビや雑誌などで活躍。農業支援活動団体「チームむかご」を立ち上げ、NPO法人「ビッグイシュー基金」の共同代表を務めながら、雑誌「ビッグイシュー日本版」では連載を持つ。2020年にはパン屋さんで廃棄になりそうなパンを救う「夜のパン屋さん」をオープンし話題に。これまで多数の執筆を手掛けており、近著として『捨てない未来 キッチンから、ゆるく、おいしくフードロスを打ち返す』(朝日新聞出版)がある。 枝元なほみさん 公式TwitterNPO法人ビッグイシュー基金公式ホームページ 循環させる大切さを届けたい思いで、夜のパン屋さんをオープン ――はじめに、今回のカフェの元となっている「夜のパン屋さん」をスタートしたいきさつを教えてください。 枝元さん:2019年に私が連載をしている『ビッグイシュー日本版』を発行する「有限会社ビッグイシュー日本」(ホームレスの人の仕事をつくり、生活再建を応援する社会的企業)に篤志家の方から寄付のお申し出があったのですが、「皆さんに配って終わりではなく、何らかの形で循環できるよう使っていただきたい」との要望でした。「新たな仕事の場づくりができないか?」とビッグイシューのスタッフから相談を受けて、夕方まで売り切れなかったパンを街のパン屋さんからお預かりし、それを夜の時間帯に販売することを思いついたのです。破棄になるかもしれなかったパンを、必要としている人に届けるのです。一見あまり関連のないように感じる夜のパン屋さんとビッグイシューですが、ふたつとも「最後のつなぎ役」という役割でリンクしています。 ――夜のパン屋さんの活動は、SDGsの考え方とも深くかかわっていますよね 枝元さん:最近は社会の流れも変わってきて、みなさんが「自分たちもやらなくては」という雰囲気になり、一緒にやりたいと声をかけて下さる方が増えてきました。テレビで夜のパン屋さんを観て協力してくださるパン屋さんもいます。賛同してくださる方が増え、同じ想いを持ってできるのが嬉しいですね。 みんなで環境問題や社会問題解決の意識を持っていけたらと思っています。食べ物が満足に行き渡らない人たちのことや、自然環境のことを、子どもたちと一緒に学び考えながら食べ物をいただくことが大事ではないでしょうか。 「夜パンB&Bカフェ」はお互いを受け入れ合い、交流する場所にしたい ――今回、夜のパン屋さんから発展して「夜パンB&Bカフェ」をオープンするに至った経緯を教えてください。 枝元さん:夜のパン屋さん(以下、夜パン)は東京で2020年10月に始まり、オープンから2年が経ちました。つい最近、札幌にもオープンしたところです。夜パンの運営が軌道に乗り始め、次のステップに進めると感じたときに、色々な人とゆっくり話ができ、交流し合うカフェが出来たらいいなと思いました。そこでできたのが、練馬のけやきの森の季楽堂での「夜パンB&Bカフェ」の構想です。 自動車のMINIが企画する「BIG LOVE ACTION powered by MINI.※1」で支援先に選んでいただいたことで、場所を1年間借りるサポートを受けることができ、実施が可能になりました。カフェの運営パートナーとして、その他のサポートもして下さっています。 (※1)BIG LOVE ACTION powered by MINI. 性別・年齢・国籍にかかわらず、誰もが個性を発揮できる未来の実現を目的としたソーシャル・アントレプレナー支援の企画。世の中を良くするアイデアの中から、サポーターの投票により支援プロジェクトを選定。選ばれた活動に対し、MINI Japanが継続的なサポートを行なう。 カフェは、開放的でありながら温かみのある空間 ――令和の時代とは思えないほど、「夜パンB&Bカフェ」は昭和の古き良き空気を感じます。懐かしい気分になりますね。 枝元さん:古民家だからというのもあると思いますが、誰でも受け入れる雰囲気がありますよね。このカフェは滞在時間に制限はなく、縁側でお茶を飲みながら何時間過ごしても大丈夫です。 イベントでは新鮮な野菜なども販売されている ビッグイシューも協力して年末年始に実施している、生活に困っている人が無料で食事ができる場「年越し大人食堂」では、生活相談を受けたり、炊き出しをしたりしていますが、元気のない男性が多く、女性や小さなお子さん連れの方は食料をもらったらすぐ帰ってしまうことも多いんですよ。でも私はそういう人たちともお話をしたいし、繋がりを持ちたいと思っています。 だからこそ夜パンB&Bカフェでは、誰でも居心地よく過ごせる場所でありたいと思っています。他の人を受け入れ、自分も受け入れてもらい、一緒に時間を共有できるコミュニティが欲しいのです。悩んでいることがあっても、「お茶を飲もうよ」「これを食べね」と声をかけあって繋がり合うことで、人は生きていけるのではないかと思っています。 女性がいきいきと働くことはコミュニティを生み出すきっかけになる ――夜パンではフードロスの問題に取り組まれていますが、女性の働く場所を作ることにも力を入れていらっしゃいますよね。 枝元さん: 夜パンの運営を通して、これからは男性だけでなく女性のできる仕事を増やすことに取り組みたいと思っています。私は幸いなことに仕事をやらせていただいていますが、コロナ禍で女性の貧困や格差の問題が浮き彫りとなり、仕事や住まいをなくした方もたくさんいらっしゃいます。そんななか、コミュニティがあり、その中で「いつでも話せる」関係性が大切だと思っています。例えばシングルマザーでも、コミュニティがあれば子どもの世話も含めて助け合えると思うんです。スタッフには、積極的に「子どもも連れてきてね」と伝えるようにしています。 子どもっているだけで、その場の雰囲気が和らぎますよね。カフェには不登校の男の子が来ていますが、彼はキッチンのサポートを積極的に行っています。アメリカのレモネードスタンド活動のように、子どもがレモネードみたいなものを売ってみても良いですよね。 女性はもちろん、子どもにとっても居場所になれたらいいですね。 「ロス=捨てる」のではなく、命をつなげていくもの 取材時のカフェのメニュー。写真右は里芋の皮を活用し、甘辛く炒めたもの ――カフェのメニューは本来捨てられるものも工夫して調理し、美味しい一皿になっていますよね。食品ロスについてはどうお考えですか? 枝元さん:なにを「ロス」とするかは、人の都合なんですよね。できるだけ「ロス」にするのではなく、命を繋いでいくものとして、どう美味しい料理を作れるかを考えるのはとても楽しいですよ。 料理すると気付くのですが、自分で作ったお弁当よりもコンビニで売っている弁当の方が安いんですよね。でも、自分が作ったものの方が残さず大事に食べられたりします。大量生産、大量廃棄の時代ですが、安さだけでなく、美味しく大事に食べられる方を選んでいくのも大切なのではないでしょうか。 今後も「繋がる」をキーワードに社会を循環させていきたい これからも「繋がり」を築いていきたいと語る枝元さん ――今後はどのようなことに力を入れていきたいですか。 枝元さん:夜のパン屋さんをやってみて思ったのは、「繋がり」が一方通行でなく循環する仕組みが必要だということです。人と人が相互に繋がり、みんなの輪が広がっていく活動をしていきたいです。具体的にはまだわかりませんが、もしかすると繋がりを求めて、食堂を作るということになるかもしれません。 働き方に関しても積極的に新しい取り組みを行っていきたいですね。例えば小さいお子さんがいると働く時間が限られてしまいますが、そのような方も働けるような場所を作っていきたいと思っています。 今回の取材を終えて 今回の取材を通し、不確実な世の中だからこそ悩んでいることを打ち明けるような場が必要であると実感しました。お茶を飲んで一息つける夜パンB&Bカフェは、お金には代えられない安心感が得られ、人と人との繋がりを再確認することができます。このような場所から、誰も取り残されない社会へのヒントが見つかる気がしました。 取材・文 / オダルミコ
エシカルやサステナブルなライフワークを持つ人へのインタビューを通じて、“本当の豊かさ”を見つめ直すrootusの本企画。今回は、障害のあるスタッフが活躍するロースタリーカフェ併設の福祉施設「ソーシャルグッドロースターズ」などを手掛け、多方面で障がい者の支援を行ってきた一般社団法人ビーンズの代表坂野拓海さんをお迎えします。坂野さんの言葉には、「誰一人として取り残さない」社会の本質とその実現に向けたヒントが散りばめられています。 坂野拓海さんプロフィール 経営コンサルタントとして働いた後、“密に個人と向き合う仕事がしたい”と障がい者専門の就職支援会社に入社。そこでの仕事や様々なボランティア経験を積むうちに、知的障がいや精神障がいなど目に見えづらい障がいがある方への支援の必要性を感じ、ビーンズを設立。2018年には就労支援施設であるコーヒーショップ「ソーシャルグッドロースターズ」をオープン。2022年には、クラフトビールの醸造所「方南ローカルグッドブリュワーズ」をオープンし、これまでにない形で施設利用者と社会が繋がれるソーシャルグッドな場所を作り出している。 時間をかけながら、やりがいある現場を作っていく ――rootusは以前「ソーシャルグッドロースターズ」を取材しましたが、坂野さんが代表を務めるビーンズでは、障がい者の方を中心に支援されていますよね。 「私たちは障がいのあるなしに関わらず、何かしらの困難を抱えている人のサポートをしたいと思っています。身体障がいや知的障がいなど、障がいと一言に言っても様々な障がいがありますが、障がいの中には、虐待や社会生活の中で生じてしまったものも少なからずあるのです。そのような困難の中にいる方の立場に立って、総合的にサポートしていく場を作っていこうと動いています。 ここ数年力を入れてきた「ソーシャルグッドロースターズ」や「方南ローカルグッドブリュワーズ」では、障がい者が、従来のような単純作業ではなく、一人ひとりがスキルを身に着け、生き生きと働けるような就労支援施設を目指しています。 障がいも困難も人それぞれですが、今の時代に合った選択肢をできるだけ多く増やし、個人に合った支援を提供していきたいと思っています。」 本格的なスペシャリティコーヒーを提供する千代田区のソーシャルグッドロースターズ ――多角的に支援事業をされていますが、活動や運営の中で大切にしていることはありますか。 「“場を作る人を育てること”というのは大切にしています。代表として、意見を言いたくなるときもあるのですが、それだけでは現場が育たず、施設利用者やスタッフも委縮してしまいます。時間がかかることがほとんどですが、みんなで意見を出し合って、みんなで課題を解決していく。それを繰り返していくうちに、現場がどんどんブラッシュアップされていき、ノウハウがたまっていく。そんな場所であったら、全員が生き生きとやりがいを持って働けるようになるのだと、ソーシャルグッドロースターズの運営を通し、身を持って感じています。」 対等に生きていくために、一緒に楽しみを見つけ成長していく現場を ――福祉に携わる方の働きかたの見直しが求められている中で、職員にとってもビーンズの運営方針は革新的なものですよね。 「長年福祉の現場に携わってきましたが、障がい者を支援する仕事は、肉体的にも精神的にもきついことが多く、正直、心から楽しさを感じ、喜びを持って働こうという雰囲気ではありませんでした。それは、慢性的な人手不足や人材が育たないことからも顕著ですね。でも、障がい者の方を支援するということは、お世話をすることとイコールではないと思うんです。一緒にどう楽しみながら、一緒にどう成長していけるか、ともに対等に生きていくためには、視点の転換が大切だと感じます。」 方南ローカルグッドブリュワーズのクラフトビールは商店街の新名物に 誰一人取り残されないために必要なのは、批判ではなく、困っている人と同じ目線に立つこと ――近年はSDGsの広がりもあり、「誰一人取り残さない社会」というキーワードが注目されるようになっていますよね。福祉を取り巻く環境にも変化は見られますか。 「変化はかなり感じますね。日本を含む先進国では中間層が薄くなってきているとよく言われますが、取り残される側になる人も増えてきていると感じます。そのため、みんなが取り残される当事者になる可能性が増し、取り残されることへの危機感も持っているのではないかと思います。私たちのような活動に目を向けていただける機会も増えました。ともに生きていける社会の実現に向けて、一人ひとりの意識が変わってきている証拠なのではないでしょうか。 そんな社会で大切なのは、分断や批判ではなく、困っている人と同じ目線に立って、必要な支え方を模索すること、支援の選択肢を増やすことではないかと思います。幸運なことに、日本は生活困窮者などに向けての行政の支援は充実しており、システムは十分に機能しています。そこに困っている人の気持ちに寄り添う人々や、団体が増えていけば、さらに助け合いの輪が広がっていくのではないでしょうか。」 ――これまでにない方法で福祉のあり方を追求してきたビーンズですが、これからの展望を教えてください。 「ソーシャルグッドロースターズや方南ローカルグッドブリュワーズは、障がい者など生活が困難な人たちへ向けた支援の“出口”だと思っています。ここで社会とつながりを持ち、積み上げた経験やスキルを活かして、他の場所に飛び立っていく人もいます。これからは、そのような“出口”の支援だけでなく、支援の“入口”になる場所も作っていきたいと思っています。社会には、様々な理由で頼れる人がおらず、身動きが取れない人がたくさんいらっしゃいます。そのような方を受け入れるのが支援の入口だと思っています。生活がままならない方の受け入れ先となり、スキルや経験を積んで社会で活躍できるようになるまで総合的、継続的に支援できるような団体になっていきたいです。」 本当に強い社会とは、ポジティブな循環が生まれる社会のこと ――最後に、坂野さんにとっての「豊かさ」とはなにか教えて下さい。 「豊かさとは、“自分も相手も気分がいいこと”だと思っています。これは職場や家庭でもそうですが、関わるみんながお互いを知ろうと努力し、相手を尊重し合うことで、一日を心地よく過ごすことができる、そんな関わり方が理想ですよね。ともに時間を過ごす人やチームがあることは、何事にも代えがたいことです。それこそ、取り残されない社会の実現に向けて大切なことの一つではないかと思います。信頼できるコミュニティやバックグラウンドがあるからまた新たなことに挑戦できるんですよね。そのような良い循環が生まれる社会は、とても強いものであると思います。」 取材中に何度も、「私よりも施設利用者や職員が主役です」という言葉が出てきた坂野さん。ビーンズでは、活動に関わる利用者やスタッフ中心の運営であることが垣間見えました。 障がいがあるかどうかにかかわらず、一人ひとりが個性を生かし、尊重し合うことの大切さが求められる今。お互いの目線に立ち理解しようとする姿勢こそが、誰一人として取り残さない、強く豊かな社会の実現に向けた第一歩なのではないでしょうか。 ソーシャルグッドロースターズ 公式ホームページ方南ローカルグッドブリュワーズ 公式ホームページ 取材・文 / rootus編集部
エシカルやサステナブルなライフワークを持つ人へのインタビューを通じて、「本当の豊かさ」を見つめ直すrootusの本企画。今回は、長年アパレル業界に携わり、サステナブルなファッションの在り方を追求してきたクリエイティブ・ディレクターの久保まゆみさんがゲスト。プライベートでは、児童養護施設の子どもたちに向けた七五三や成人式のお祝いボランティアとしても活動する彼女から、豊かな社会へのヒントをもらいます。 久保まゆみさんプロフィール クリエイティブ・ディレクター。美大を卒業後、ジュエリーデザイナーとしてアパレル会社に入社。その後フランスに留学し、帰国後、株式会社JUNが運営していたA.P.C.の発足メンバーとしてプレスを担当。出産を機にフリーランスへ転向し、子どものカルチャー誌『m/f and you』の編集長としてエディトリアルを経験。現在は株式会社JUNのファッションブランド「LA LIGNE ROPÉ」のブランディング、コミュニケーションデザインを担う。社会的慶祝支援団体「一般社団法人 いちご言祝ぎの杜」メンバーとしても活動中。 久保まゆみさん 公式Instagram 伝統文化が息づくサステナブルファッションを後世に ――久保さんはアパレル業界を中心に様々なキャリアを積まれていますよね。 久保さん:大学卒業後、アパレル会社に就職しましたが、海外で文化体験をしたいと思い、退職してフランスに3年ほど留学しました。当時、「A.P.C.」というブランドがパリでも展開し始めた頃で、これまでのモードとは一線を画したミニマリズムな哲学に衝撃を受け、急いで帰国出願し、後立ち上げメンバーに加わることとなりました。もう30年も前になりますが「A.P.C.」のデザイナー・ジャン・トゥイトゥに感化され、私にとってのサステナブルな精神の芽生えがあったと思います。それは既存への警鐘のようなタイムレスなアティチュードでした。今のようにライフステージが変わっても女性が働ける場が整っていなかったこともあり、出産を機に働き方をフリーランスに変更しPRとしてのキャリアを重ねました。その後、創刊した子どものファッション誌は、もっと子どもたちを取り巻くさまざまな環境への疑問から文化醸成を掲げ、服育、アート、ドネーションなどを特集したニッチ過ぎる媒体で(笑)リーマンショックと同時に、志なかばに廃刊となりました。再びJUNグループに復職し、グループ全体のブランドを統括するマーケティング・コミュニケーション部にいましたが、定年退職、再契約を経て「LA LIGNE ROPÉ(ラリーニュ ロペ)」というブランドと文化部門のコミュニケーションを担当しています。 ――LA LIGNE ROPÉはサステナブルなファッションブランドとしてスタートしたのですよね。 久保さん:みなさんご存知のように、アパレル業界は、大量生産、大量廃棄、生産者の低賃金労働、輸送にかかる大きな環境負荷など様々な問題があります。2015年に国連がSDGsを立ち上げた頃から個人的にも会社的にも何か改善をしなくてはならないという思いがありましたが、当時、企業や既存ブランドでは、すぐにアクションを起こせずもどかしさは感じていました。そんな中2017年に新規ブランドを発足するチャンスに恵まれ、アパレル業界では循環型ファッションブランドの先駆けとしてテストマーケティング的にスタートしました。2020年にはステートメントを制定し、宣言をコミットできるよう、プランを再構築しました。 ――ブランドでは具体的にはどのような取り組みを行っていますか。 久保さん: LA LIGNE ROPÉでは、日本古来の着物の技術と知恵を大切にしています。着物は「直線裁ち」の技法が取り入れられ、布を無駄にしないよう工夫されてきました。そんな日本の「もったいない文化」から直線裁ちによって生地を無駄に捨てないという点が大きな特長です。また、人件費が安い国で生産をせず物流に絡む燃料をなるべく抑えるなどして、国産にこだわり、シンプルで透明性の高い生産と流通を実現しました。ステートメントの中に「真っ直ぐに、しなやかに、美しく」ということを掲げていますが、「真っ直ぐに」というのは直線裁ちの意味合いだけでなく、「精神的な正当性」という意味が込められています。「Timeless ageless」という日本の文化を踏襲し、着物の美しいモノづくりの文化を後世に伝えていきたいと思っています。 LA LIGNE ROPÉ ブランドサイト LA LIGNE ROPÉ オンラインストア 子どもに関わる慶祝ボランティアがライフワーク ――久保さんはいちご言祝ぎの杜の活動にも参加されていますよね。活動について教えてください。 久保さん:定年を機に、自分の興味があることはなにか、人生でやり残したことがないか、ということを考え、一般社団法人いちご言祝ぎの杜のボランティアメンバーとして活動を始めました。いちご言祝ぎの杜は、児童養護施設や乳児院など、様々な理由で親元を離れて暮らす子どもたちに、七五三や成人式にお祝いを贈るする団体です。着物を選ぶところから始まり、当日はプロのヘアメイクが着付けやメイクをし、カメラマンが写真を撮ります。様々なボランティアがある中で、いちご言祝ぎの杜はファッションのプロフェッショナルが集まっているところが特徴です。 久保さん:いちご言祝ぎの杜では、お祝いだけでなく、施設や子どもたちにおける課題をヒアリングし、一緒に考えることも大切にしています。実際、養護施設に七五三のお祝いの打ち合わせのときに、昨今、虐待やDVによって子どもの入所が急増していて、施設が満杯になっているということを伺いました。その際に「施設入所だけではなく、一般の方も加担できる里親支援、養子縁組の認知がもっと流布すれば、軽減できることもある――。週末もしくは1年限定で子どもを預かるという選択肢があることや、支援金で子どもをサポートすることもできるということを知ってほしい」という、施設側の声があったので、LA LIGNE ROPÉではそれを周知するイベントを行いました。また他にも活動の一環として、女子大学と学習プログラムと組み、後世のボランティアを育成する活動や女性支援も行っています。 ――いちご言祝ぎの杜の活動の中で印象的なエピソードはありますか。 久保さん:七五三のお祝いとして児童養護施設や乳児院に行くことが多いのですが、何らかの事情を抱えている子どもたちばかりです。七五三のお祝いの時に、7歳の子に「泣きたいぐらい嬉しい」「みんながいるから言えなかったけど、ありがとう」などの声に嬉しい反面、こちらの想像を超えてくる大人びた言葉使いに胸が締め付けられます。心の中で「もっと子どもらしく、無邪気でいいのよ」と、こちらも泣きたくなります。大人への慶祝の節目に立ち合わせていただき、親が子どもの成長を寂しくも喜ばしいと思うように毎回ドラマッチックです。 「豊かさ」とは、無駄のない、飾らない生き方をすること ――多方面でエシカル、サステナブルな取り組みをされていますが、今後の展望を教えてください。 久保さん:2022年の夏に京都の茶道・千家十職、袋師の土田友湖家の仕事場の軒下にオープンした「A LITTLE PLACE」というギャラリーのPRとして携わっています。そのプロダクト一つとして「紀siècle」というブランドがあるのですが、100年前の貴重な苧麻(ちょま)の着物をほどき使って、フランスの100年前の作業着のパターンに着想を経て、新たな服に創り変えて次の100年へ。まさに循環していくブランドです。このように、さまざまな取り組みを通して、日本の「古くからある良質なもの」を世の中に伝えていきたいと思っています。価値があるものに再び光を当てて受け継いでいくことは、サステナブルの基本だと思っています。 A LITTLE PLACE 公式Instagram ――最後に、久保さんが考える「本当の豊かさ」とはなんですか。 久保さん:好きな言葉の一つに、ミース・ファン・デル・ローエの「Less is More」があります。日本語に訳すと「少ないことが美しい」という意味です。「侘び寂び」と共通する概念であると思っていて、美しいものは華やかなものではなく洗練されそぎ落とされた「無駄がない」もの、時が育んだ「豊かさ」だと思います。飾らない生き方の方が、自分にも地球にも負担がかからないと思います。そんなにたくさんのモノを持たなくても良いのです。今、色々なことを淘汰して考え直さなくてはならない時代なのではないでしょうか。「Less is More」「侘び寂び」の精神が「本当の豊かさ」かなのではないかと思います。 いちご言祝ぎ杜 公式ホームページいちご言祝ぎの 杜公式noteいちご言祝ぎの杜 公式Instagram 取材・文 / オダルミコ
協力パン屋から売れ残りそうなパンを引き取って販売する「夜のパン屋さん」。今回、夜のパン屋さんが新しいプロジェクトとして、築150年の古民家「けやきの森の季楽堂」で「夜パンB&Bカフェ」をスタート。 運営を行う、THE BIG ISSUE JapanとMINI JAPANのスローガン「BIG LOVE」からBをとってB&Bと名付けられました。毎月第二土曜日に開催し、カフェに加えて、夜のパン屋さんやマルシェなども出店。「次に来る誰か」のためにランチ代などを先払いできる「お福分け券」の仕組みを整えるなど、金銭的に余裕がない人でも利用しやすいアイデアが取り入れられています。 今回は、夜のパン屋さんを立ち上げた枝元なほみさんに、夜のパン屋さんが目指す「人と人が繋がる社会」についてお話を伺いました。 枝元なほみさんProfile 横浜市生まれ。料理研究家としてテレビや雑誌などで活躍。農業支援活動団体「チームむかご」を立ち上げ、NPO法人「ビッグイシュー基金」の共同代表を務めながら、雑誌「ビッグイシュー日本版」では連載を持つ。2020年にはパン屋さんで廃棄になりそうなパンを救う「夜のパン屋さん」をオープンし話題に。これまで多数の執筆を手掛けており、近著として『捨てない未来 キッチンから、ゆるく、おいしくフードロスを打ち返す』(朝日新聞出版)がある。 枝元なほみさん 公式TwitterNPO法人ビッグイシュー基金公式ホームページ 循環させる大切さを届けたい思いで、夜のパン屋さんをオープン ――はじめに、今回のカフェの元となっている「夜のパン屋さん」をスタートしたいきさつを教えてください。 枝元さん:2019年に私が連載をしている『ビッグイシュー日本版』を発行する「有限会社ビッグイシュー日本」(ホームレスの人の仕事をつくり、生活再建を応援する社会的企業)に篤志家の方から寄付のお申し出があったのですが、「皆さんに配って終わりではなく、何らかの形で循環できるよう使っていただきたい」との要望でした。「新たな仕事の場づくりができないか?」とビッグイシューのスタッフから相談を受けて、夕方まで売り切れなかったパンを街のパン屋さんからお預かりし、それを夜の時間帯に販売することを思いついたのです。破棄になるかもしれなかったパンを、必要としている人に届けるのです。一見あまり関連のないように感じる夜のパン屋さんとビッグイシューですが、ふたつとも「最後のつなぎ役」という役割でリンクしています。 ――夜のパン屋さんの活動は、SDGsの考え方とも深くかかわっていますよね 枝元さん:最近は社会の流れも変わってきて、みなさんが「自分たちもやらなくては」という雰囲気になり、一緒にやりたいと声をかけて下さる方が増えてきました。テレビで夜のパン屋さんを観て協力してくださるパン屋さんもいます。賛同してくださる方が増え、同じ想いを持ってできるのが嬉しいですね。 みんなで環境問題や社会問題解決の意識を持っていけたらと思っています。食べ物が満足に行き渡らない人たちのことや、自然環境のことを、子どもたちと一緒に学び考えながら食べ物をいただくことが大事ではないでしょうか。 「夜パンB&Bカフェ」はお互いを受け入れ合い、交流する場所にしたい ――今回、夜のパン屋さんから発展して「夜パンB&Bカフェ」をオープンするに至った経緯を教えてください。 枝元さん:夜のパン屋さん(以下、夜パン)は東京で2020年10月に始まり、オープンから2年が経ちました。つい最近、札幌にもオープンしたところです。夜パンの運営が軌道に乗り始め、次のステップに進めると感じたときに、色々な人とゆっくり話ができ、交流し合うカフェが出来たらいいなと思いました。そこでできたのが、練馬のけやきの森の季楽堂での「夜パンB&Bカフェ」の構想です。 自動車のMINIが企画する「BIG LOVE ACTION powered by MINI.※1」で支援先に選んでいただいたことで、場所を1年間借りるサポートを受けることができ、実施が可能になりました。カフェの運営パートナーとして、その他のサポートもして下さっています。 (※1)BIG LOVE ACTION powered by MINI. 性別・年齢・国籍にかかわらず、誰もが個性を発揮できる未来の実現を目的としたソーシャル・アントレプレナー支援の企画。世の中を良くするアイデアの中から、サポーターの投票により支援プロジェクトを選定。選ばれた活動に対し、MINI Japanが継続的なサポートを行なう。 カフェは、開放的でありながら温かみのある空間 ――令和の時代とは思えないほど、「夜パンB&Bカフェ」は昭和の古き良き空気を感じます。懐かしい気分になりますね。 枝元さん:古民家だからというのもあると思いますが、誰でも受け入れる雰囲気がありますよね。このカフェは滞在時間に制限はなく、縁側でお茶を飲みながら何時間過ごしても大丈夫です。 イベントでは新鮮な野菜なども販売されている ビッグイシューも協力して年末年始に実施している、生活に困っている人が無料で食事ができる場「年越し大人食堂」では、生活相談を受けたり、炊き出しをしたりしていますが、元気のない男性が多く、女性や小さなお子さん連れの方は食料をもらったらすぐ帰ってしまうことも多いんですよ。でも私はそういう人たちともお話をしたいし、繋がりを持ちたいと思っています。 だからこそ夜パンB&Bカフェでは、誰でも居心地よく過ごせる場所でありたいと思っています。他の人を受け入れ、自分も受け入れてもらい、一緒に時間を共有できるコミュニティが欲しいのです。悩んでいることがあっても、「お茶を飲もうよ」「これを食べね」と声をかけあって繋がり合うことで、人は生きていけるのではないかと思っています。 女性がいきいきと働くことはコミュニティを生み出すきっかけになる ――夜パンではフードロスの問題に取り組まれていますが、女性の働く場所を作ることにも力を入れていらっしゃいますよね。 枝元さん: 夜パンの運営を通して、これからは男性だけでなく女性のできる仕事を増やすことに取り組みたいと思っています。私は幸いなことに仕事をやらせていただいていますが、コロナ禍で女性の貧困や格差の問題が浮き彫りとなり、仕事や住まいをなくした方もたくさんいらっしゃいます。そんななか、コミュニティがあり、その中で「いつでも話せる」関係性が大切だと思っています。例えばシングルマザーでも、コミュニティがあれば子どもの世話も含めて助け合えると思うんです。スタッフには、積極的に「子どもも連れてきてね」と伝えるようにしています。 子どもっているだけで、その場の雰囲気が和らぎますよね。カフェには不登校の男の子が来ていますが、彼はキッチンのサポートを積極的に行っています。アメリカのレモネードスタンド活動のように、子どもがレモネードみたいなものを売ってみても良いですよね。 女性はもちろん、子どもにとっても居場所になれたらいいですね。 「ロス=捨てる」のではなく、命をつなげていくもの 取材時のカフェのメニュー。写真右は里芋の皮を活用し、甘辛く炒めたもの ――カフェのメニューは本来捨てられるものも工夫して調理し、美味しい一皿になっていますよね。食品ロスについてはどうお考えですか? 枝元さん:なにを「ロス」とするかは、人の都合なんですよね。できるだけ「ロス」にするのではなく、命を繋いでいくものとして、どう美味しい料理を作れるかを考えるのはとても楽しいですよ。 料理すると気付くのですが、自分で作ったお弁当よりもコンビニで売っている弁当の方が安いんですよね。でも、自分が作ったものの方が残さず大事に食べられたりします。大量生産、大量廃棄の時代ですが、安さだけでなく、美味しく大事に食べられる方を選んでいくのも大切なのではないでしょうか。 今後も「繋がる」をキーワードに社会を循環させていきたい これからも「繋がり」を築いていきたいと語る枝元さん ――今後はどのようなことに力を入れていきたいですか。 枝元さん:夜のパン屋さんをやってみて思ったのは、「繋がり」が一方通行でなく循環する仕組みが必要だということです。人と人が相互に繋がり、みんなの輪が広がっていく活動をしていきたいです。具体的にはまだわかりませんが、もしかすると繋がりを求めて、食堂を作るということになるかもしれません。 働き方に関しても積極的に新しい取り組みを行っていきたいですね。例えば小さいお子さんがいると働く時間が限られてしまいますが、そのような方も働けるような場所を作っていきたいと思っています。 今回の取材を終えて 今回の取材を通し、不確実な世の中だからこそ悩んでいることを打ち明けるような場が必要であると実感しました。お茶を飲んで一息つける夜パンB&Bカフェは、お金には代えられない安心感が得られ、人と人との繋がりを再確認することができます。このような場所から、誰も取り残されない社会へのヒントが見つかる気がしました。 取材・文 / オダルミコ