FEATURE

  • 都会の真ん中に新オープンのエシカル空間。トリバコーヒーが愛される理由

    コーヒー豆専門店として東京・銀座で2014年にオープンし、こだわりのある香り高いコーヒーから人々に愛されてきたトリバコーヒー。2022年秋に惜しまれながらも閉店しましたが、2023年6月、東京駅からアクセスの良い八重洲ヤンマー東京B1Fに移転オープンしました。 旧銀座店はコーヒー豆の販売が専門でしたが、新店舗はカフェスペースを併設し、コーヒーとともにフード、スイーツを店頭で楽しむことができるように。移転後も変わらず、都会のど真ん中にいてもどこか居心地の良いトリバコーヒー。実は、その秘密は、社を挙げて実践する、積極的なエシカルへの取り組みにありました。今回は、トリバコーヒーの魅力に迫ります! 居心地抜群。喫茶店のような落ち着いた雰囲気の店内 店舗は、入りやすい設計でありながらも、優しい光にほっとする店内。今どきというよりも、重厚感ある雰囲気で、落ち着いてコーヒーを楽しむことができます。複合ビルの中にあり、働く人を中心に、人通りも多い立地であるにも関わらず、店内はゆったりとした空気が流れています。その空間の背景にあるのは、前店舗のインテリアをできるだけ使用し、今ある物をうまく生かした店舗づくりです。 例えば、アンティークな雰囲気が漂うランプは、なんとコーヒーミルをアップサイクルしたもの。店内にはコーヒー機器を使用した照明がいくつもあり、個性豊か。 スタンディングテーブルにもエシカルな工夫が。旧店舗で使用していたテーブルの板部分だけを切り取り、短い脚をつけ直してリメイクしています。外枠の木材も不要になった素材をアップサイクルしたものです。 ブランドに大小の変化が加わる度に使用する食器類も一新すると廃棄が出てしまうため、あえて最初からどんな状況にも馴染むアンティーク食器を採用したそう。ひとつずつ違う絵柄がかわいい! どのお皿が使われるのかワクワクします。 すべてを刷新する必要はなく、足りない物だけを足していく。エシカルなスタンスでありながら、我慢ではなく楽しく工夫し、新店舗の準備にあたっていたそう。コンセプトを統一して新品を集めなくとも、アップサイクルやセカンドハンド品たちが温かみやオリジナリティを生み出しているのです。 絶品! トリバコーヒーおすすめのコーヒーとビーガングルメ コーヒーはもちろん、フードも充実しているトリバコーヒー。ランチや軽食の利用にもぴったりのメニューが揃っています。メニュー表は「V」はヴィーガン商品、「G」はグルテンフリー商品だとひと目でわかるよう工夫されています。ヴィーガンの人も、そうでない人も一緒に飲食を楽しむことができることはうれしいポイント! またミルク入りドリンクは牛乳以外に豆乳、オーツミルクに変更してもプラス料金がかからないので、植物性のミルクも気軽にオーダーできます。 マイstorjoを持ち込みました 訪問日の「本日のドリップ」(¥400)は、深煎りブレンド(レインフォレスト認証20%)は、バランスが取れた味わいで毎日飲んでも飽きない味。グルテンフリーかつ植物性の原料のみでつくられたオリジナルレシピの自家製カヌレ(¥400)と最高の組み合わせです。毎日店内で焼いているだけあり、外はカリっと中はもちもち!植物性であることを感じさせないしっかりとした満足感があります。 紅茶が定番のチャイですが、トリバコーヒーではありそうで中々見かけないコーヒーをベースにしたコーヒーチャイ(¥680)が提供されています。8つのスパイスを配合したオリジナルのコーヒーチャイは、ほろ苦いコーヒーにすっきりとしたスパイスが相性抜群でした。 サンドイッチからは、ヴィーガン仕様の3種のグリルきのこ&キャロットラぺ(¥900)を頂きました。グリルされたきのこがボリューム満点!しっかりとした旨味があり、お肉不使用でも満足感があります。 トリバコーヒーがエシカルな理由は? トリバコーヒーに根付くエシカルマインドの背景には、どんなストーリーがあるのでしょうか。その秘密は、社をあげて取り組む「エシカル宣言15カ条」と「エシカルミーティング」にあります。 社員自ら提案。「エシカル宣言15カ条」 トリバコーヒーでは、地球にやさしい未来をつくるため「エシカル宣言15カ条」を2021年からスタートしました。トップダウンではなく現場スタッフからの発案でエシカルな取り組みを始めるようになったそうです。 例えば、「エシカル商品の開発に取り組む」、「牛乳はアニマルウェルフェアなもののみ使用する」など、一つひとつ、本当にエシカルな意味があるのか、“ウォッシュ”になってしまわないか、じっくり考えられています。 運営する会社は、トリバコーヒーの他、飲食店7ブランドを運営していますが、それぞれの店舗でエシカル宣言15カ条を作成し、毎年達成状況などを振り返った上で、内容の見直しが行われています。 定期的なエシカルミーティングの開催 トリバコーヒーを運営する会社では、本社と現場スタッフが参加する「エシカルミーティング」が週に1度開催されています。初めの1年は、毎週担当者を決め、その担当者がテーマを持ち寄る形式で進められました。 例えば、「日本で起こっている環境問題について」、「飲食店業界と環境問題の関わり」、「飲食店としてエシカルを進める上での課題」、「トリバコーヒーとしてはどんなアクションプランが考えられるか」など、社員や飲食店を運営する一人として、様々な目線から会社が今できる取り組みを考えていったそうです。 そんなエシカルミーティングでは、社員からの意見がたくさん出ています。例えば、スタッフへのエコカップ「stojo」の配布、生ゴミを乾燥させ焼却時のCO2排出量を抑えることができるフードドライヤーの導入、まかないに週一回「ミートフリーデー」を設け環境負荷の高い肉を食べない日をつくるなどのアイデアは、実際に社員から出たアイデアが採用されたものだそうです。 居心地の良いエシカル空間で、豊かな一杯を 先導的に食品ロス問題や環境問題などに取り組んでいるトリバコーヒーですが、今後実現していきたいビジョンがまだまだあるそう。 店舗で出た生ゴミを自社の土地に還して作物を育て収穫し店舗のメニューに使用する循環サイクルの確立や、店舗から出るミルク類の紙パックを再生紙に戻し店内ポスターなどの販促物に活用するなど、アイデアは止まりません。実現すれば、自社内のサーキュラーエコノミーモデルが動き出すこととなる構想です。 コーヒーやフードの品質や、店舗デザインだけでなく、私たち消費者の見えない背景までこだわるトリバコーヒー。お店の想いを知れば、一杯のコーヒーがもっと美味しく感じるはずです。 お買い物や観光の合間に、仕事や家事の息抜きに、トリバコーヒーのエシカルな空気に癒されてみては? TORIBA COFFEE TOKYO住所:東京都中央区八重洲2丁目1−1 YANMAR TOKYO B1F公式HP:https://www.toriba-coffee.com/

  • 子ども食堂の新たな選択肢。「こどもごちめし」がつくる助け合いの循環

    厚生労働省の調査によると、日本の子どもの7人に一人が相対的貧困であることがわかっています。そのような現状の中、子どもたちに食事を無償または低価格で提供しようと各地で開かれているのが子ども食堂です。認定NPO法人全国こども食堂支援センター むすびえによると、2023年2月時点で全国にある子ども食堂は7,363箇所。その数は年々増加傾向にあり、子ども食堂を必要としている家庭が多いことを示していますが、ボランティアで行われていることが多いことから、継続的な運営が課題になっています。 今回は、2023年にスタートした「こどもごちめし」を運営するKids Future Passportを取材。継続的な子ども食堂を全国に広めるための新たな仕組み、こどもごちめしの背景にある想いを、代表の今井了介さんに伺いました。 子どもの成長を社会や地域全体で支える新たな仕組み 2023年にスタートしたこどもごちめしは、地域の飲食店を起点にこどもの居場所をつくり、食事を提供するウェブ上のサービスです。こどもごちめしのサイトに飲食店が登録し、子ども食堂としての役目を担います。中学生以下の子どもたちは提携しているお店から好きな場所を選んで食事をとることができ、その食事代は、企業や自治体、個人の寄付で賄われる仕組みです。 今井さんは、こどもごちめしの特徴を以下のように説明します。 「現在、日本に住むこどもの7人に一人が相対的貧困で、ひとり親家庭の相対的貧困は、48%以上と言われています。見た目だけではわからないケースも多いため「隠れ貧困」とも言われ、困窮する家庭が多いという現実が、まだまだ知られていないのです。そのような子どもたちを支援しようと、子ども食堂が各地にありますが、みなさんボランティアでやられていることがほとんどなので、資金面や運用面から、毎日の食事を提供することは難しいことを隣で見て感じていました。そこで、社会全体で、継続的に子どもの食をサポートしていけないかと考えたのが、こどもごちめしです。 こどもごちめしは、飲食店を利用した継続性の高い子ども食堂です。こどもたちは、行きたい日に行きたいレストランを選んでいくことができます。また、家庭の状況というのは大変繊細なものです。子ども食堂というと、周りの目が気になって利用できない方もいます。こどもごちめしはご飯を食べ終わったら、スマホ内のデジタルチケットを見せます。電子マネーで支払うのと動作が似ており、他の人から見ると、子ども食堂を利用したということがわかりにくいため、本人や家族は周りの目を気にせずに利用できるのも特徴です。」 サービスの使い方。わかりやすさを大切にしている こどもごちめしは、子どもが食事を無料(1,000円まで)でとれるだけでなく、子どもを持つ家庭や飲食店がサービスを使うハードルがとても低いことも特筆すべき点です。 「飲食店は登録料を必要とせず、既存のメニューを子どもたちに提供するので、コストがかかることはありません。利用したいご家庭は、ユーザー登録をすれば、誰でも1週間に3回利用することができ、生活保護を受給している家庭の子どもは毎日利用することができます。」 家庭と飲食店と寄付する団体や個人、三方が関わり合って、子どもたちの食を社会全体で支えていく。それをウェブのシステムで展開しているのがこどもごちめしなのです。 全国の子ども食堂と連携して広く深い支援を 子ども食堂の役割は、食事を提供することだけではありません。食の場を通して、地域の大人と子どもとの接点ができ、コミュニティが作られるという大きな意義も持ち合わせています。 「本人や親御さんからありがたいと言ってもらえるこどもごちめしのサービスですが、飲食店様からも、“地元の子どもと関われるきっかけができて嬉しい”という声をいただきます。」と今井さんは話します。 こどもごちめしに登録するTACO RICOのスタッフと今井さん(右下) また、今井さんは、全国の子ども食堂にもこどもごちめしのシステムを利用してもらい、連携していくことを大切にしていきたいと言います。 「相対的貧困に当てはまると言われている子どもたちが国内に200万人以上もいる中、こどもごちめしのサービスは、より多くの子どもたちに食を届けることができます。そして、各地の子ども食堂の役割は、地域コミュニティにとって大変重要です。多くの子どもの成長を見守っていくためには、地域の子ども食堂と伴走し、広く深く支援していくことが重要だと考えています。ふるさと納税の使途として“子どもを支援する”という選択肢を増やし、子ども食堂の食事代に充てていくという取り組みも少しずつ始まっています。例えば茨城県境町はその取り組みで、3年間で6万食以上を子どもたちに届けています。 最近は、子ども家庭庁の子どもの未来応援基金という補助金も新たに新設されました。そのような補助金とこどもごちめしのシステムを利用して、自治体や商店街ぐるみでの子ども食堂を開催いただけたら嬉しいです。」 相対的貧困の家庭の子どもたちに、毎日の食を提供するためには、現状の地域の子ども食堂に任せておくには負担が大きすぎます。こどもごちめしのようなサービスが、自治体や企業を巻き込んで社会全体で子どもたちを支えていくこと、そして地域の子ども食堂が子どもたちの居場所を作っていくことの、2つの方向からのアプローチが必要なのです。 食と一緒に子どもたちの夢を応援していきたい こどもごちめしでは、子どもたちが楽しめるイベントも企画しています。 「まだスタートして間もないですが、イベントも積極的に開催しています。例えば、先日はプロバスケットボールであるBリーグに所属するサンロッカーズ渋谷の選手をゲストに呼び、子どもたちとシュート体験を楽しみました。キッチンカーを呼び、そこで実際にこどもごちめしのサービスを体験できるような場所にしました。子どもたちにとって、プロのバスケットボール選手と間近で会えるのは、きっと思い出に残りますよね。スポーツや音楽に関連したアクティビティや、こどもごちめしのアンバサダーの方々に協力していただくイベントも開催していく予定です。子どもの食事だけでなく、夢を応援するサービスにしていきたいと思っています。」 スーパーマーケットの前で行われたイベントには多くの親子が訪れた©️ SUNROCKERS SHIBUYA 助け合いの循環ができる社会を目指して 子どもが毎日当たり前に食事をとれるよう、社会全体で見守ることを目指す、こどもごちめし。今井さんは最後にこう話してくださいました。 「こどもごちめしは、食事が終わってレジで画面を見せると、協賛する企業の名前が出てくるようになっています。それを見て“自分たちはこういう大人に支えられているんだ”ということを頭のどこかにでも置いておいてもらえたら、その子たちが大人になったときに誰かを支えよう、困っている人を助けよう、という循環が生まれてくれるのではないかと期待しています。子どもが大人に期待していないという話も聞いたりしますが、“絶対に君たちのことを見限ってないよ”“取り残されていないよ”というメッセージを強く伝えていきたいと思っています。」 自分が受けた善意を他の誰かに渡すことで、善意をその先につないでいくというPay it forwardのマインドを持つこどもごちめし。日本の子どもの未来を社会全体で支えていこうというエシカルな取り組みの今後に注目です。 お話を聞いた人:今井了介さん NPO法人Kids Future Passport 代表理事。Gigi株式会社 代表取締役。作曲家・音楽プロデューサー。2018年にGigi株式会社を立ち上げ、人とお店と地域にやさしいビジネスモデルを提案し、フードテックを使用した「ごちめし」などのサービスを展開。未来の子どもたちを支える支援の輪を広げていきたいと、2023年7月にNPO法人Kids Future Passportを設立、「こどもごちめし」をローンチした。 こどもごちめし公式HP:https://kodomo-gochimeshi.org/

  • GOOD VIBES ONLY。最新技術で目指す、“衣類廃棄ゼロ”への道

    環境省によると、一年間でごみに出される衣類は約50.8万トン。消費者が廃棄する衣類が膨大であるのに加え、売り切ることができずに在庫として残り、結果として消費者のもとに届く前に廃棄される衣類も多く存在します。 今回は、“衣類廃棄ゼロ”を目標に掲げ、最新のデジタル技術を取り入れたアパレル企業向けのプラットフォームを展開する、GOOD VIBES ONLYを取材。代表の野田貴司さんに、今のアパレル産業が抱える課題についてお聞きしました。 在庫ロスは生産量の30%以上が当たり前。多くのアパレル企業が抱える課題 出典:unsplash.com 本当に欲しいと思った洋服しか買わない、長持ちする素材を選ぶ、など消費者が衣服に関わる環境負荷を低減するためにできることは、大方想像がつくものです。しかし、企業がどのような問題を抱えているかは、なかなか知る機会がないもの。長年アパレル業界に携わる野田さんは、企業における衣類廃棄問題を以下のように話します。 「時代の流れもあり、現在は少しずつ在庫を減らしている企業さんは多いものの、生産量の30%以上は在庫として常に倉庫で保管しているというのが一般的です。機会損失を避けるため、売り切れを出さないよう、はじめから売れ残りを想定して、発注なども行っているところが多いですね。プロパーの在庫消化率70%だと、かなりいい方という印象です。在庫の処分方法はもちろん、倉庫の維持費もかさみ、実は課題があったのにもかかわらず、そのモデルが出来上がっている中で、なかなか改善されてきませんでした。」 GOOD VIBES ONLY代表の野田貴司さん そのようにして売れ残った在庫がたどる経路は様々です。 「企業として、在庫の処分を行う際は、サンプルセールなどを行う、焼却、バイヤーに買ってもらって海外に売る、バッタ屋(商品を格安で販売する店)に買ってもらって安く売るという選択肢があります。最終的には、海外に送られて埋め立てられるケースも多く、アパレルは生産だけでなく、廃棄の方法も問題になっています。」 なぜそんなに在庫をかかえているのかという質問に答えることができなかった 野田さんが初めて衣類廃棄について問題意識を持ったのは、他業界の人の何気ない一言でした。 「以前携わっていたアパレルブランドを売却するときに、今までアパレルには全く携わってこなかった業種の企業からの、デューデリジェンス(事前調査)がありました。当時20~30億円ほどの売上がある会社で4億円分の衣類が過剰在庫になっていることをお伝えしたのですが、そのときに“なぜ在庫が4億円分もあるのですか?”と驚かれて、そのときにはっとしました。」 アパレル企業では、その量の在庫を抱えることは極めて一般的であり、疑問に思うことがなかったため、その質問に答えられなかったと言います。 その出来事をきっかけに、野田さんは“衣類廃棄ゼロ”をミッションに掲げたGOOD VIBES ONLYを設立。アパレル企業が抱える課題を解決しながら衣類廃棄をなくすためのプラットフォーム“Prock(プロック)”の開発に着手しました。現場や企業の声を反映し、自社ブランドでのテストを繰り返しながら、およそ3年の歳月をかけて実用化にこぎつけたのです。 廃棄衣類ゼロを目指して開発、現場の課題解決にも繋がるツールの開発 Prockが提案する新しい洋服のサプライチェーン 「Prockでは、アパレル企業が行う企画・デザイン~販売までの管理をDX化し、業務の効率化を測りながら、余剰在庫問題をワンストップで解決することができるサービスです。大きな特徴の一つは、3Dデジタルサンプル技術です。試作品であるサンプルを実際に作らなくとも、特徴や質感など細かく数値化された生地を画面上で選び、リアルに限りなく近い質感の立体的なサンプルを確認することが可能になっています。洋服のサンプルはもちろん、生地屋さんから送られてくる生地のサンプルの廃棄も減らすことにも寄与しています。品質の高い日本の生地をデジタルサンプルとして海外に展開することも考えています。」 実際のデジタルサンプル。すでに大手のアパレルブランドでも取り入れられている Prockの二つ目の特徴として、AIによる需要予測があります。これまで現場の人の経験と勘で行ってきた発注作業を、AIを使用してどのくらいの需要が見込めるのかを判断することにより、正確で、売れ残りのない数の発注が可能になったのです。 「AIによる需要予測では、SNSに3Dサンプルを掲載した際の反応から、発注の段階で、販売数の見込みがわかります。必要以上の生産をしないことにより、無駄になってしまう衣服を生まないことに繋がります。Prockは、アパレル産業で長い間慣習化されてきたやり方を見なおし、課題を一つずつ解決しながら辿り着いた結果です。デジタルサンプルに置き換えるだけで、国内だけでも1600万着と言われるサンプルを削減することができます。また、アパレル業界全体の余剰在庫を10%削減すると、国内で2億着近くの在庫ロスをなくすことができると試算しています。」 課題解決と売上アップの両立を目指す 衣類廃棄ゼロを掲げProckを各アパレルメーカーに提案する中で、課題も見えてきています。 「現場の作業をより効率化し、同時に在庫管理を行えるツールとしてProckの導入をお勧めする中で、企業さんからは、課題解決も嬉しいけれど売上も伸ばしたい、という声が聞かれるようになりました。業務を効率化するだけでは、今のアパレル業界にアジャストできないと感じています。そんな中、私たちは、不特定多数の人にアプローチする販売方法ではなく、SNSの分析結果を利用したPRを行っています。その洋服を必要としている人に効率的に情報を届けることで、売上に繋げながらも、無駄になる衣服を減らしていくことを目指しています。」 結果、サンプルコストは80%削減し、プロパーでの利益率がアップした事例が出てきています。 また、NFTとしてデジタルサンプルを販売し、ゲームの中のキャラクターにリアルなアパレルメーカーの衣装を着させることができるような、新たな挑戦も。デジタルで洋服を売るという、アパレル企業にとって新しいビジネスモデルを提案しています。 そして、すべてがオンライン上のサービスであるからこそ、人の顔が見える機会を大切にしたいと、野田さんは言います。 「オンライン上で完結してしまう時代ですが、人との繋がりは、サステナブルな社会にリンクしていると思います。私たちがやっていることはデジタルだからこそ、リアルイベントなども行っていきたいと思っています。デジタルファッションを通じて、買う過程を楽しめるようなエンターテインメント性のあるものが良いですね。」 消費者の私たちにできることは? 出典:pexels.com メーカーでも細部まで把握しきれないほど、複雑になっている洋服のサプライチェーン。その中で販売される前に捨てられ、日の目を見ることのない洋服が大量にあるという現実。私たち消費者が洋服を購入するとき、どのようにブランドを選ぶのがよりエシカルなのでしょうか。 最後に、サステナブルな生産に配慮したブランドかどうか見極めるための方法をお聞きしました。 「サステナビリティを打ち出しているブランドさんは増えてきていますが、洋服を購入する際は、生産情報を開示しているかどうか、確認してみるのが良いと思います。販売員さんに、どのように生産されているのか直接聞いてみるのも良いと思います。売り場の販売員さんが生産の背景まで知っているブランドなら、信頼も高まります。オンラインのショップであればぜひ問い合わせしてみてください。消費者が変われば、その需要に応じて生産者も変わります。どちらか一方ではなく、両方の意識が、透明性の高いアパレル産業の実現には欠かせません。」 「アパレルが汚染産業であることから目を背けず、目を向けることが大切だと思っています。アパレル産業を含む社会全体もそうであってほしい。」と話す野田さんからは、アパレル産業を変革していくという強い意志を感じました。持続可能な社会へ大きく舵を切るためには、新しい技術を取り入れ、時代や社会のニーズに合った取り組みが不可欠なのではないでしょうか。 お話を聞いた人 株式会社グッドバイブスオンリー代表取締役 野田貴司さん  1992年、福岡県出身。大学を経て上京し、22歳からソーシャルメディアマーケティングに携わる。その後、D2Cの先駆けであるD2Cファッションブランド「eimyistoire」の立ち上げに貢献。2017年に同社を退社し、「廃棄衣類ゼロ」をミッションに掲げるGOOD VIBES ONLYの立ち上げに参画。これまでの経験を活かし、従来の洋服のサプライチェーンをより効率的かつサステナブルにするシステム「Prock」を開発。3DデジタルサンプルをはじめとするProckは、現在大手アパレルメーカーにも取り入れられている。

  • 探していた結婚式がここに。エシカルウェディングが紡ぐ二人の未来

    “エシカルな結婚式”と言うワードからどんなウェディングを想像しますか。環境に優しいナチュラルテイストの装飾?プラントベースのお料理? エシカルと聞くと、質素なものというイメージが先行するかもしれませんが、エシカルウェディングは、主役の二人や、式に関わる全ての人はもちろん、地球の未来を大切に考える要素を取り入れた結婚式。多種多様なスタイルと可能性に満ちたニューノーマルな結婚式の在り方です。 今、ウェディング業界に新しい風をもたらす一般社団法人エシカルウェディング協会代表の野口雅子さんと、これからの時代の結婚式に求められるものを考えていきます。 エシカルウェディングとは エシカルウィディングの一例として、米粉のマフィンで作られたウェディングケーキと 自然農園で育てられた花の装飾などを取り入れている エシカルウェディングとは、人と地球環境、地域社会、に配慮する“エシカル”な価値観を取り入れたウェディングのことです。 野口さんは、「大量消費の時代に生まれた従来の日本の結婚式・披露宴は、華やかである一方で、実は社会課題が多数存在しています。」と話します。 「エシカルウェディングは、まず、二人が本当に望む未来とは?結婚式とは?の本質的な意味をディスカッションすることで、必要のないものや無駄なことを省くことから始まります。 また、ウェディングの事業者さんと、体に優しい食材を使った料理や、フードロスがでない料理の出し方を工夫するアイデアをシェアしたり、デザイナーさんと資材を使い切る装飾方法を考えたりすることを積極的に行っています。他にも、自然素材で作られたドレスやフェアトレードや地域創生につながるギフトアイテムなどを選ぶなど、ひとつひとつエシカルな提案を行い、それが多くの人の選択肢となれば、結果として環境負荷を減らし、社会貢献に繋がると考えています。」 レースカーテンの残布で作られたドレスで前撮り。ドレス制作: KUMIKO TANI そんなエシカルウェディングを普及するために、野口さんが2021年に立ち上げたエシカルウェディング協会では、現在約30名のウェディングプランナーとクリエイターが活動。 ウェディングプランナーとクリエイターは、本質を大切にした結婚式を実現するために、常に情報のキャッチアップやアイデアの交換を欠かしません。協会では、個人向けにはもちろん、事業者向けにも具体的な情報やノウハウの提供も行っています。 エシカルウェディング協会2周年記念イベントにて みんなが少しずつ感じている“結婚式はこうあるべき”の違和感 新婦の祖母が遺してくれた毛糸や布でギフトを兼ねて装飾 エシカルウェディング協会による結婚式・披露宴に関するアンケート調査では、「結婚式を通じて環境や社会に貢献するアイデアを周囲の人に共有したい」と答えた人が約8割にのぼる結果に。また、同調査において結婚式・披露宴に持つマイナスイメージとして上位に挙げられた項目は「多額の費用がかかる」、「形式的でどれも同じテンプレートに感じる」などがあります。 そんな時代の流れの中、野口さんは、長年、多くのウェディングの現場に携ってきた経験から、従来のやり方にとらわれないウェディングにシフトしていくべきだと強く感じています。 「式場ではパッケージ化されたプランが一般的です。より深くお二人に寄り添いたいと思っても、実現するのが難しいという歯がゆさを感じてきました。」 エシカルウェディング協会では、あらゆる選択肢の中から、二人に寄り添ったウェディングスタイルを提案しています。 教会や神社、ゲストハウス、ホテル、レストランだけが結婚式の舞台ではありません。 「お二人のご希望をお聞きして、様々な場所をご提案します。場所の使用許可さえ取れればどんな場所でもウェディングは実現可能なんです。ゆかりのある場所、思い入れのある場所ならば、二人の母校や、ご自宅でも。ライブハウス、撮影スタジオ、キャンプ場、アーチェリー場、古民家、歴史的建造物、料亭、旅先の旅館、ワイナリー、無人島、農園、原っぱ、田んぼの真ん中など、考えもつかなかった場所が会場となり、二人の門出に最もふさわしい場所になるかもしれません。」 東京都主催TOKYO ETHICAL ACTIONのエシカルマルシェで模擬挙式を実演 結婚式を出発点に、社会全体が幸せに溢れたものに 進行についても、予定調和なスタイルだけが答えではありません。 「これまでも、ご家族全員からお二人への手紙を読んでいただく挙式、お二人がカフェ店員になってゲスト全員にドリンクを提供するウェルカムパーティ、アーチェリーのレクチャーを取り入れた結婚式、二箇所のメインブースを設けて過去と未来を行ったり来たりするかのように体験できるパーティスタイル、ライブハウスを貸し切って思いっきり音楽とサンバを楽しむパーティーなど、二人の夢や要望をとことんヒアリングし、それを形にしてきました。大切なのは、“なにをやるか”ではなく、“どうしてそれをやるのか”。その理由を明確にするからこそ、結婚式は、二人の心に深く刻まれる日となります。そして、そこから始まった家族の歴史は、やがて社会や未来に繋がっていくんです。結婚式というのは、そういう役割があると感じています。」と野口さん。 エシカルウェディング協会のウェディングプランナーやクリエイターは、結婚式当日だけでなく、その後ずっと続く未来も見据えて、二人の本当の幸せとはなんだろう?ということに想いを馳せ、一緒に結婚式を作り上げてくれます。 ウェディング業界自体は思い切った変革が必要 ロスフラワー®を使った装飾も積極的に取り入れている 高度経済成長期から続く慣習が根強く残ると言われる、ウェディング業界。 例えば、二人はもとより、ゲストもゆっくり食事をとる時間がない、といったケースも少なくありません。また、会場のバックヤードでは、ケーキや料理が大量に残ってしまい食品ロスになってしまう、せっかく作った席次表などのペーパーアイテムやお金をかけた装飾資材が廃棄されてしまう、などの問題が常に起きています。さらには、ウェディングを取り巻く環境においても、人手不足や労働環境、高い離職率など、悩みは尽きません。 「二人やゲストが幸せになる場の裏側で、地球や誰かに負担がかかってしまうことは一つでも減らしたい。結婚式だからこそ、本当にお二人の未来につながるあり方であってほしいと願っています。」と野口さんは話します。 SDGsの達成や循環型社会が叫ばれるなか、ウェディング業界も持続可能な方向へさらに大きくシフトチェンジしていく必要があるのです。 競争ではなく、手を取り合ってウェディングを変えていく TOKYO ETHICAL ACTIONのエシカルマルシェで協会活動を紹介する野口さん 「存在しないなら自分たちでつくるしかない」と新しい試みに対してもとても前向きな野口さん。 賛同するフリープランナーや事業者が増えているものの、エシカルウェディング協会の取り組みは発展途上であり、さらなる広がりを目指していると言います。 「ウェディング業界内で差別化したり、競争し合ったりするのではなく、業界全体で手を取り合うことが非常に重要だと考えています。そのため、今後はより多くのウェディング事業者やSDGsに取り組まれている企業、公共団体、個人をつなげ、大きなチームとしてエシカルウェディングのムーブメントを起こしていきたいです。」 多様な価値観が広がる今、形式を重視するのではなく、自分たちやゲストが本当に望む結婚式を挙げたいと思っている人も多いのではないでしょうか。 どこかに負担のかかる結婚式ではなく、人にも地球にも社会にも優しいエシカルウェディングという選択肢が、結婚式のスタンダードになる日は遠くないかもしれません。 編集後記 「厳かなチャペルで式を挙げて、披露宴会場では多くの余興とともにフルコースのフレンチが次々と並べられる……」 これは今回の取材を行う前、筆者がウェディングに持っていた固定概念です。 しかし、パッケージ化されたウェディングスタイルのみが結婚式ではなく、場所、料理、余興、進行などすべての要素において、二人の願いをしなやかな発想で最大限に叶えられることを知り、エシカルウェディングは従来のウェディングと比べるととても自由であることに驚かされました。 また、華やかな舞台の裏側では、食品ロス、資材などの廃棄ロス、関わる人々の労働問題など、長年見て見ぬフリがされてきた現実があります。未来を見つめ持続可能性を探るエシカルな結婚式は、大量生産・大量消費に違和感を持つ人が多い現代、人々のニーズにもマッチしているのではないでしょうか。 お話を聞いた方 野口雅子さん 一般社団法人エシカルウェディング協会発起人&代表理事エシカルウェディングコンサルタントIWPA認定ウェディングコンサルタント自身の海外結婚式の経験がきっかけで自然との共生をコンセプトとした結婚式のプロデュースをスタート。2011年5月、日本初となる「エシカルウェディング」を手掛ける。プロデュース歴28年 経験組約1500組。 一般社団法人エシカルウェディング協会 公式情報サイトhttps://ethicalwedding.info

  • 夢のアフリカ渡航が目前に。アーティストSUDA YUMAと家族の知られざるストーリー

    今年の9月、東京・世田谷の落ち着いた住宅街に佇むギャラリーで行われたのが、SUDA YUMAの展示会です。中に入るなり、色鮮やかに躍動する動物を描いた作品が目に飛び込んできます。発達障がいのあるアーティスト、YUMA。彼の目を通して見える動物の世界は、優しく平和で、愛に溢れ、人々の心を魅了し続けています。 動物を描き続けてきたYUMAはこの秋、自身初となるアフリカ渡航プロジェクトを実施予定。ケニアのサファリを訪れ野生の動物を見に行くという大きな挑戦には、クラウドファンディングで多くの支援者が集まっています。 今回は新進気鋭のアーティストYUMAをマネジメントする母の須田裕子さんとご家族を取材。作品のこと、これまでの道のり、そしてアフリカへの挑戦についてお聞きしました。 各界が注目。YUMAが表現する、ポップでユニークな動物たちの世界 YUMAのアートはすべて、動物が主役です。ゾウやキリン、フラミンゴや、クマ、ペンギン、海の生き物たち…それ以外にも多種多様な動物が、ジャングルや森、湖、雪山を背景に登場します。動物たちはみな、生命力に満ち溢れ、個性豊か。ポップな色彩が、唯一無二の世界観を作り出しています。 彼の描く作品には、純粋でユニークな動物の魅力を思い出させてくれる力が宿っているのです。 YUMAはこれまで、個展や合同の展示会を開催しているほか、アパレルメーカーとのコラボレーションを実現。 今年は、富岡八幡宮から「アートパラ干支大絵馬」のアーティストとして選ばれ、2023年の年末から2024年まで、本殿にYUMAの作品が飾られます。 幼い頃からずっと続けてきた、描くということ 幼い頃からクレヨンなどを使って文字や絵を描くことに夢中だったYUMA。裕子さんはその頃のことをこう振り返ります。 「最初はずっとアルファベットを書いていました。そのうち、動物を描くようになっていくのですが、集中力があり、毎日何時間も絵を描いているということが多かったですね。中学生になるころには、小さいサイズの紙から、だんだん大きな紙に描くようになっていました。」 YUMAが現在のスタイルにたどり着いたのは、約3年前。幼い頃から動物を描き続けてきた彼は、初めは色鉛筆など細いタッチの画材を使用していましたが、知人からのすすめもあり、アクリル絵の具を使うように。大胆に色を塗ることができるこのスタイルが自身とマッチし、もともとあった才能をさらに開花させるきっかけとなりました。 自宅にあるアトリエ。100近い色の種類の絵具を全て記憶している 「絵を描き始めると彼の中で迷いはありません。色を選ぶ際も、迷っているのを見たことがないですね。最初から頭の中で色の配色が決まっているようで、バランスを見て色を決めたり、足したりするスタイルではありません。例えばピンクをとったら、先にピンクに塗りたい場所を埋めていくことがほとんどです。」 現在は、図鑑や写真集、実際に動物園に行ったときに見た動物からインスピレーションを受けて創作を行っています。中でも上野動物園には100回以上足を運んでいて、名古屋市の東山動物園もお気に入りだそう。 実物だけでなく、本からも多くの着想を得ている 作品からは見えてこない障がいの現実 才能に溢れた若きアーティスト。YUMAのことを知ろうとするとき、そのような単純な言葉では語れない歴史が、本人と家族にはあります。 裕子さんの言葉の端々からは、朗らかな家族の雰囲気や明るい作品からは想像のつかない、障がいと共に生きることの苦労が垣間見えます。 「YUMAは、思考や感情を口に出して伝えることが得意ではありません。また、記憶力が人並以上であることから、私たちが考えている以上に、これまでの思い出や情報が頭の中に残っています。それをうまく吐き出し、考えをまとめられる方法が、YUMAにとっては描くということです。絵はもちろん、文字をノートに書くことも同じです。常にフル回転している頭を休ませるために、彼にとってそれがとても大切な時間なのです。」 YUMAには欠かせないノート。絵の構想や学んだことなどが書いてある 「アーティストとして活動する前、YUMAは5年ほど働いていました。毎日一生懸命働いていましたが、同じ作業の繰り返しで成長を感じられず、本人は働く目的や目標を失っていました。私も、彼が職場にいることでみなさんに迷惑をかけているんじゃないかと思ってしまい、いつも“すみません、すみません”と謝ってばかりいて、疲弊していたと思います。本人が家でイライラすることも増えてきて、限界だなと思うことが多くなり、じっくり話し合って卒業する決断をしたんです。今は毎日穏やかに過ごしていますが、季節の変わり目などは、バランスを崩しやすいです。日常生活での小さな出来事がストレスになってしまうこともあります。“才能があっていいですね”と言われることもありますが、家族にとっては毎日が戦いです。子育てはみんな大変ですが、自立がなくサポートをずっと続けていかなくてはならないというのは、精神的にも負担です。次も障がいのある子を産みたいかと聞かれたら、二つ返事で“はい”とは言えないですね。」 「ひとつの個性という人もいるけれど、障がいはそのような言葉で説明できるほどいいものではない」とYUMAの兄である将太郎さんも言います。 本人が生まれたときからずっと障がいと向き合ってきた家族からは、借りてきた言葉ではなく、リアルで率直な感情が言葉になって出てきます。 誰の目に映る動物とも違う、YUMAの描く生命力にあふれた優しい動物たち。彼にしか生み出せないアートの背景には、本人と家族しかわからない、日々の物語があるのです。 YUMAの活動が、みんなが生きやすい社会へ繋がるように ピアノは楽譜ではなく、音と指の動きから曲を覚える。記憶している曲数は20曲以上にのぼる 「YUMAは絵を描いて生活しているので、とても恵まれていると思いますが、障がいのある子どもを育てるということは、本人と家族にたくさんの困難があります。例えば学生時代は親の送り迎えが必要で、休まる時間はありませんでした。特別支援学校は駅から離れている場合が多く、一人で通学するのは難しいところが多いんです。周りの親御さんも自分のことは後回しで、働くこともままならない方が多かったですね。中には夜中に働いている親御さんもいました。」 ここ数年、多様性を受け入れる社会の構築は進みつつありますが、その家族まで、必要とされる理解や支援は行き届いていないのが現実です。 学校を卒業する年齢が近づくと他の課題にも直面します。障がいのある子は、社会に出ること自体を目標に設定されがちで、本人の個性や希望などは二の次になってしまうのです。 「障がい者にとって、就労というのはひとつの大きな目標になっています。就労するためにみんな同じような訓練を重ねるんですが、本当は一人ひとり個性豊かで、得意・不得意だってあります。しかし障がいがある人のほとんどは、そのように決められたコースしか選べない現状があるんです。 YUMAの活動を通して、社会に当事者とその家族の状況が伝わり、障がい者の教育や働き方の選択肢が少しでも広がってくれると嬉しいと思っています。」 まだまだ知らない人も多い、障がいを取り巻く現実。YUMAの活動が、障がいのある人と周りの人に対する理解へと繋がり、誰もが生きやすい社会になっていくことを裕子さんは願っています。 YUMAの作品は、たくさんの動物が集まり、まるで話をしているような作品が多い 「いつか行きたいね」が現実に。夢のアフリカへの挑戦 YUMAと母の裕子さん。直接アートを描いたリビングのドアの前で 今、Yumaは長年家族で話していた“アフリカで野生の動物が見たい”という夢を叶えようとしています。 アフリカ渡航プロジェクトは、兄の将太郎さんとその友人の稲川雅也さんが中心となってスタート。何度もアフリカの地に足を運んだ経験や、現地の人との繋がりもあることから、プロジェクトのアイデアが生まれました。 今回訪れるのは、豊かな大自然に多くの生き物が暮らすケニア。ライオン、アフリカゾウ、サイ、ヒョウをはじめとした多様な生物が共生するマサイマラ国立保護区でのサファリ体験をメインに、ナイバシャ湖では水辺に生息する鳥などを観察予定。さらに、現地のアートセンターを訪問し、地元のアーティストとコラボレーションを行います。 渡航に先立ち始まったクラウドファンディングでは、目標額を大きく超え、650万円を達成。リターンの選択肢の一つである、彼がアフリカ帰国後に制作するアートが人気であることから、彼の活躍に期待し、応援したいと考える支援者の多いことが伺い知れます。 アフリカの大地に立つ彼はどんな表情をしているのか。初めて出会う人や文化、自然や動物は彼の目にどのように映るのか。そして帰国したとき、彼が描くものとは・・・? rootusでは、帰国後のYUMAも取材予定。アフリカ渡航という大きなチャレンジを成し遂げようとする若きアーティストYUMAから、今後も目が離せません。 プロフィール SUDAYUMA 1998年、東京都生まれ。発達障がいがあり、夢中になって動物の絵を描く子ども時代を過ごす。現在はアクリル絵の具を使用し、ポップなカラーで彩られた多様な動物が登場する作品の数々を発表。彼の目線で描かれたユニークな生き物の世界観に、アパレルメーカーやクリエイター、芸能人などからの熱い視線が送られている。2023年10月には長年の夢であったアフリカ渡航を予定。クラウドファンディングを中心に、彼の挑戦を支持し、今後の活躍に期待する声が高まっている。 公式HP:https://www.sudayuma.com/公式インスタグラム:https://www.instagram.com/sudayuma/?hl=jaクラウドファンディングサイトページ:https://rescuex.jp/project/76450

  • 【山形国際ドキュメンタリー映画祭】映画の都で、世界の今を知る8日間

    新型コロナの影響を受けオンライン開催となった2021年を乗り越え、2023年10月5日からの8日間、リアルでの開催が予定される山形国際ドキュメンタリー映画祭。クリエイティビティ溢れるドキュメンタリー映画と山形という魅力的な土地が相乗効果を生み出す映画祭は、ドキュメンタリー好きでなくても一度は足を運びたい“お祭り”です。 今回は、山形国際ドキュメンタリー映画祭理事の藤岡朝子さん、広報の村田悦子さんのお二人に、山形国際ドキュメンタリー映画祭とドキュメンタリー作品の魅力、そして2023年の映画祭の見どころを伺いました。 日本が世界に誇るヤマガタって実はこんな場所 提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭 東京から新幹線で約2時間半の山形県山形市。山形と聞くと、樹氷で有名な蔵王や、芋煮などの郷土料理を思い浮かべる人も多いかも知れません。 実は、山形は日本で初めてユネスコ創造都市ネットワークに認定された映画都市として、世界でも有名な都市。もともと映画上映が盛んな街であり、中でもシンボル的なイベントとなっているのが、2年に一度開かれる山形国際ドキュメンタリー映画祭(以下YIDFF)です。 全国でもトップクラスの映画スクリーン数を誇る映画の街、山形市で30年以上、2年に一度開催されてきたYIDFFでは、2000本以上の応募がある中から、例年150~200本ほどの映画を上映。世界から集まる珠玉のドキュメンタリー作品をいち早く目撃できる映画祭であるとともに、若手監督を輩出するアジアドキュメンタリー映画の登竜門としても知られています。 2019年の動員数は約23,000人。期間中は、市内数か所の会場で一日中ドキュメンタリー映画が上映され、参加者は音楽フェスのように、思い思いに映画を楽しみます。市内は、国内外から訪れる映画関係者や愛好者で活気づき、人々がドキュメンタリー映画について語りつくす一週間となります。 リアルを写し、貴重な記録として受け継がれるドキュメンタリー 豪華な俳優が出演し、大きく広告を打つような劇映画とは違った魅力がドキュメンタリー映画にはあります。 「ドキュメンタリーには、現地にいるからこそ撮影できるリアルがそこには映し出されています。報道とは違った角度から、世界の今を知ることができるんです。」 藤岡さんはそのようにドキュメンタリー映画を語ります。 「さらに、過去の歴史を知ることができる側面もドキュメンタリー映画は持ち合わせています。YIDFFは最新作を上映するだけではなく、過去の作品を保存するライブラリーを保有しており、国内外の貴重な記録を歴史的な資料として後世に継承する役割も担っています。映画祭期間外に山形へ鑑賞に訪れる方もいますよ。」 監督自身が写したいもの、伝えたいことが映像になって現れるドキュメンタリー映画。二度と出会うことのない一瞬の連続が詰まった映像には、普段の生活では知り得ない光景が広がっています。それはお金で価値をつけられるものではなく、それらを受け継いでいくこともまた世界にとって大きな意味のあることなのです。 地域や人との繋がりが感じられる「市民による映画祭」 提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭 市民ボランティアや、地元企業によって支えられていることもYIDFFの大きな特徴です。 「近年都会では失われてしまいつつある人と人のつながりが山形には生き続けているんです。映画祭期間中は、映画祭公認の交流の居酒屋“香味庵”で、ボランティア、監督、参加者、みなが集いフラットに交流を楽しみます。レッドカーペットをスターが歩くきらびやかな映画祭とはまた違った魅力がありますよね。」と藤岡さんは語ります。 ボランティアスタッフには地元住民や近隣大学の生徒など、多くの市民が参加しており、上映会場や香味庵の運営をはじめ、英語が話せるスタッフであれば来日した監督のアテンドや字幕のない作品の同時通訳なども担っています。 またYIDFFの黎明に精神的な柱だった小川紳介監督率いる小川プロの存在も映画祭を語る上で欠かせない存在です。彼らが成田空港建設反対闘争を描いた“三里塚”シリーズの後、山形に移住して映画製作を続けたことが、山形を映画の街にした大きな礎となったのです。 人と映画との偶然的な出会いを楽しむという贅沢さ 提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭 期間中、参加者はプログラムを手に会場を巡り、朝から夜まで様々な作品を鑑賞します。作品は、長いものだと3時間以上に及ぶ長編作品もあり、その空き時間や食事時に、地元のお店で一息つくというのが、多くの参加者のルーティーン。そして夜は、米どころ山形産の日本酒をたしなみながら映画の感想を語り合う時間を過ごし、翌朝には作品鑑賞から一日が始まるのです。 そんなYIDFFでは、監督や評論家などの専門家、地元住民や遠方からの参加者など誰もが訪れることのできる“香味庵”を中心に、多くの出会いがあります。 香味庵の様子 提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭 「映画鑑賞後に監督と出会うことができたり、初めて出会った人同士であっても同じ作品を観たもの同士ああでもない、こうでもないと語り合うことができたりする映画祭であることも大きな醍醐味です。」と藤岡さんは言います。 「映画鑑賞後に立ち話をしていたらお目当ての作品を見逃してしまい、しかたなく入った別作品が思いがけずとても良い作品だった、など、作品との予期せぬ出会いも起こります。このような偶然や奇跡を楽しむのも、オンライン上映では味わうことのできない体験です。」 宣伝内容やレビューを事前にチェックする情報先行型の見方や、タイムパフォーマンスを考える映像の視聴方法が主流となりつつある中、YIDFFの面白さは全く逆の、思いもよらない映画や人との出会いにあります。縁に身を任せて偶然を楽しむという贅沢な時間を参加者にもたらしてくれるのです。 2023年山形国際ドキュメンタリー映画祭の楽しみ方 提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭 2023年のYIDFFで注目したい作品を、プログラム別に広報の村田さんにお聞きしました。 「インターナショナル・コンペティションプログラムでは、ウクライナの作品が2作品上映されます。監督自身が救護兵として前線に参加した様子や兵士たちの休暇などを映し出した「東部戦線」、そして、ゼレンスキー大統領が当選した選挙の年の市民たちを追った「三人の女たち」です。2作品ともウクライナを撮った作品ですが、全く違った切り口で、どちらも大変見ごたえがある作品です。 アジア千波万波プログラムでは、ミャンマーの「地の上、地の下」、「鳥が飛び立つとき」、「負け戦でも」の3本が上映されます。混乱が続くミャンマーですが、現地で一般市民の犠牲者が出ていることなどの実情は、日本ではあまり伝わっていないように思います。そこで同じアジアの国として、ミャンマーの作品をYIDFFでお届けしたいと考えています。 やまがたと映画プログラムからは、山形の肘折温泉全編ロケ作品の「雪の詩」がおすすめです。肘折温泉は、昔から湯治場として多くのアーティストや作家などの文化人が集う場所で、映画も例外ではなく、過去に多くの作品が製作される舞台でした。 今回1976年に撮られた「雪の詩」のフィルムが47年ぶりに発掘されたことにより、上映される運びとなりました。本作は劇映画ですが、70年代の街並みを背景に多くの地元民がエキストラとして参加しており、当時の様子がフィルムを通してよみがえる様はドキュメンタリー性を持ち合わせています。 野田真吉特集:モノと生の祝祭プログラムにも注目していただきたいです。野田真吉は、戦前から東宝映画の文化映画部で演出を手掛け、企業PR映画や民俗芸能映画などの記録映像をはじめとし、地元のお祭り、ニュース映像など幅広い映像を残した人物です。早くから映像民俗学に取り組み、「日本映像民俗学の会」を立ち上げた人物でありながら、国内でもほとんどフィーチャーされてこなかった彼の作品が、一挙に上映される貴重な機会です。」 ドキュメンタリー映画と聞くと、馴染みのない方には“著名人のライフストーリーを追った作品”や“自然をテーマにした作品”などが思い浮かぶかも知れません。しかし、ドキュメンタリー映画と一口に言っても実は多種多様。社会問題、アートや人々の日常を追った作品など人間の活動にまつわる全ての事柄が作品の題材となり得るのです。 「YIDFFでは、監督がドキュメンタリー映画と称すれば応募可能なのも面白いところです。」と村田さんは話します。 そのため“これってドキュメンタリー映画なの!?”と感じるようなクリエイティブに富んだ作品もあり、これまでのドキュメンタリー映画の固定概念を覆す出会いが期待できます。 コロナが明けて初めての開催。ヤマガタにまた“お祭り”が戻ってくる! 提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭 現地の山形では、映画祭以外の期間も、ドキュメンタリー企画を磨く育成ワークショップや山形県各地での上映会、映画にまつわるワークショップなど多くの活動が行われています。山形で日々行われているローカルな活動と、世界の作品が集う2年に一度のグローバルな映画祭。地元の人に大切に紡がれ、親しまれていることこそ、映画祭が多くの人々を魅了し続けている所以なのかもしれません。 ヤマガタで、世界の今を知る一週間。これまでドキュメンタリー映画に縁がなかった方も、作品と出会いにどっぷり浸かる豊かな時間を過ごしに、映画祭を訪れてみては。 山形国際ドキュメンタリー映画祭2023 10月5日(木)~10月12日(木)公式サイト:www.yidff.jp/2023/ ※U-NEXTに映画祭特集プログラムで過去上映作品を配信《9月下旬開始》https://video.unext.jp/browse/feature/FET0001939

  • 端材に命を吹き込む。ANIMA FORMAが生み出す一点モノのアートから大量生産社会を考える

    本物の動物を想起させるANIMA FORMA(アニマフォルマ)の作品。ANIMA FORMAは、作品の材料にウール生地の生産過程で廃棄される端材を使ったアップサイクルアートプロジェクトです。作品を通して動物たちが私たちに語り掛けてくることとは? ANIMA FORMAのデザイナー村松恵さんに作品の背景にある想いを伺いました。 不要になったウール生地の端材に新たに命を吹き込んだアート“ANIMA FORMA” ANIMA FORMAの展示会に訪れるなり、目に飛び込んでくるのは壁に掛けられた様々な動物たち。牛のような大きなものから、ムササビのような小さなものまで、本物にはない配色でありながら、どこかリアルで、まるで生きているかのような躍動感を感じます。それもそのはず、作品はウールなどの生地の端材を使用し、形はカット前の剥いだ状態の動物の毛皮からインスピレーションを得たもの。ANIMA FORMAは、コートやジャケットなどの衣服やブランケットなどに使われるウール生地の生産段階で出てしまう端材に命を吹き込み、壁に飾るアート、ウォールハンギングとして生まれ変わらせるアップサイクルのアートプロジェクトです。 きっかけは大量に生産される中で不要になる「端材」 プロジェクトを始動させたデザイナーの村松恵さんは、美術大学を卒業し、生活雑貨のデザイナーとして働くなど、長年テキスタイルデザインに関わってきました。そこでいつも目にしてきたのが、織物工場の端っこに積み上げられていたウール生地などの端材です。衣服や雑貨の生産過程でどうしても発生してしまう端材の山を見て、いつも違和感があったと村松さんは言います。「織物工場で不要になった端材を見るたびに、何かに使えないだろうかと考えていました。それと同時に、大量生産され使い捨てが当たり前になってしまった現代のモノの在り方にも疑問を持っていたんです。その思いが形となったのが、端材となった獣毛を使った作品です。獣毛を再び動物の形に“戻す”ことで、獣毛の端材にまだ残存している生命の痕跡が見える化され、この世で唯一無二の価値を持つ毛物(獣)が生まれると感じました。」 量産されたものを唯一無二のアートに作り替えていく 本物の動物のようでありながら、インテリアにも溶け込むデザインのANIMA FORMAの作品は、製作段階からひとつひとつこだわりを持ってデザインされています。「リアルすぎないようにしつつも、どんな動物かを想像できるようなフォルムにしています。革をとるために開いた状態にされた動物の毛皮を参考にはしていますが、全くその通りではなく、そこにデザインを加えて架空の動物を作り上げています。」動物の色や柄を決めていく工程では、村松さんがひとつひとつをデザインし、二つとして同じ作品ができることはありません。「工場から送られてくる端材は素材もカラーも様々です。季節やトレンドによって出回るカラーや柄が変わってくるので、その時々で違った表情に仕上がります。偶然的に集まった生地の端材を組み合わせて、思いもよらない配色の毛物(獣)が生まれる瞬間が、制作する中で一番面白いところだと思っています。」レイアウトされた端材は、素材の繊維同士を絡ませフェルト化する“ニードルパンチ”という工程を経て、一枚の作品になります。 二つとして同じものがない作品からは、コピーされ大量に生産されたモノにはない、私たち人間や動物たちが持つ個性や多様性のようなものを感じます。その時にしかない出会いを楽しめるのも、ANIMA FORMAの大きな魅力のひとつです。 モノとの出会いから“本当のサステナブル”を考える 私生活では、アンティークの雑貨に出会える蚤の市によく足を運ぶという村松さん。ひとつひとつのモノとの出会いを大切にし、その時に“ビビッ!”とくる感覚も大切にしていると言います。「私が着ている洋服はほとんどが古着なんです。アンティークの雑貨にも目がありません。洋服や雑貨が、どのように作られてどのように使われてきたのか、教えてもらったり、想像したりするのが好きなんです。そんな風にANIMA FORMAの作品も見てもらえたらという思いで制作しています。」 ここ数年で一気に持続可能な社会の在り方が考えられるようになってきましたが、“エコ”などのワードが書かれた商品を購入することだけではなく、もとからあるものを長く使うことや、モノとの出会いを大切にすることこそ、本当のサステナブルなのではないかと改めて気付かされます。 最後に、今後のアート活動について、村松さんにお聞きしました。「ANIMA FORMAは私の活動の中のひとつのプロジェクトです。今後も新しいプロジェクトを立ち上げていきたいと思っていますが、どんなプロジェクトをするにしても、すでにあるものや不要なものを作り替えて価値を付けていくということは一貫してテーマにしていきたいです。」 今年、初の海外での展示会を控えているANIMA FORMA。強くもしなやかなメッセージを発信するアートプロジェクトはどのような広がりを見せるのか。これからも目が離せません。 プロフィール 村松恵さん 1983年東京生まれ。多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻卒。株式会社良品計画の生活雑貨部企画デザイン室を経て独立。2021年、布地の生産過程において廃棄される端材を一点モノの毛物(獣)として蘇らせるアートプロジェクト「ANIMA FORMA」を始動。これまでの展示に「Life in Art Exhibition」MUJI GINZA(2021)「MEGUMI MURAMATSU EXHIBITION」世界遺産富岡製糸場(2022)「ANIMA FORMA×FEEL SEEN」FEEL SEEN GINZA (2023)などがある。 【ANIMA FORMA最新展示情報】ANIMA FORMAがフィンランド フォルッサ市で行われるテキスタイルの展示会「Forssa textile week 2023」に出展予定。デザイン大国であり、サステナビリティへの意識・関心が高いフィンランドで、日本発・端材から作られる一点モノのANIMA FORMAの作品が披露されます。https://www.forssatextileweek.fi/ ANIMA FORMA公式HP https://animaforma.com/公式インスタグラム @animaforma

  • 海洋プラに新たな価値を。アップサイクルアクセサリーsobolonが、かわいいワケ

    思わず「かわいい!」と声をあげてしまうほど美しくキラキラとしたアクセサリー。でも実はこれ、かわいいだけじゃないんです! sobolon は、海岸から拾ってきた海洋プラスチックを使いネックレスやピアス、イヤリングなどを制作・販売するアクセサリーブランド。今回は、その魅力に迫るべく、sobolon代表の山崎姫菜子さんにお話を伺いました。 厄介者ではなく、大切な地球の一部として扱いたい 「海洋プラスチック」とは、海を漂うプラスチックごみのこと。便利な生活になった一方で、私たち人間は大量のプラスチックを海に放出してきました。自然に還るまで何百年、何千年もかかると言われるプラスチックは、一度海に流れ出てしまうと漂い続け、劣化して小さな破片になったものは魚や鳥が間違えて食べてしまうことも珍しくありません。 そんな「厄介者」とされる海洋プラスチックですが、その海洋プラスチックを材料としてオリジナルアクセサリーを制作しているジュエリーブランドがあります。それがsobolonです。 心ときめく世界にひとつしかないジュエリー 指輪、ネックレス、ピアス、イヤリングなど、sobolonのアクセサリーはすべてクリエイターによる手作り作品です。海洋プラスチックの特徴を知り尽くしたクリエイターが、異なるカラーや形を組み合わせながら世界に一つしかないアクセサリーを作り上げています。カラフルで個性的なもの、シンプルで普段使いしやすいものなど、デザインが豊富なのも特徴。オンラインショップではセミオーダーも受け付けています。 sobolonの原点は“我慢”と“制約” ブランドの原点は、代表の山崎さんが子どもの時に学校で環境問題のことを学び、大きなショックを受けたことにあります。 「私たちの住む地球で大変なことが起きていると知り、アクションを起こしたいと思いました。でも“我慢”“制約”と言ったネガティブな方法しか思いつかず結局挫折。その後は学業の忙しさなどもあって、具体的な活動を起こすことができないまま、モヤモヤを抱えて大人になりました。」 そんな山崎さんが行動を起こしたのは、社会人になってからのことです。「やはり、環境問題の解決のために何か活動がしたいと、諦められない気持ちがありました。そんなとき大きなきっかけになったのが、仲間の存在です。進学や就職で一度はバラバラになった同級生3人が、再び地元の岐阜に戻ってくることになったのです。みんなに想いを打ち明けると、“やってみよう!”という話になり、4人で創業しました。 今は結婚や出産などライフスタイルが大きく変化してメンバーは変わっていますが、彼女たちの存在が大きな支えとなりました。」母親が手芸好きで、自身も元々モノづくりが好きだったという山崎さん。手先を動かすことに加えてファッションやデザインにも興味があったことから、海洋プラスチックをアクセサリーにするというアイデアが生まれたそうです。 海洋プラスチックがジュエリーにアップサイクルされるまで ひとつひとつニュアンスの異なるジュエリーができるまでには、海洋プラスチックを使ったアクセサリーならではの工程があります。まずは砂浜に打ち上げられた海洋プラスチックの回収から始まります。主な回収場所は、活動の拠点となっている岐阜県から近い愛知県常滑市の海岸です。 次に選別を行います。手で簡単に砕くことができるか、もしくはハサミを使って細かくできるかどうかを基準に、厚さ約1~2mm程度のものを選んでいきます。 選別され洗浄されたプラスチックは、全国にいるsobolonのクリエイターへと送られます。クリエイターの元に届いたら、そこからデザインと製作作業がスタート。海洋プラスチックはひとつひとつサイズや色が異なるので、先にデザインを決めるわけではなく、パーツを組み合わせながらプラスチックの色や形を生かしたデザインに仕上げていきます。 山崎さんは、海洋プラスチックの素材の特徴が生かされていることに加え、クリエイターによる多彩なデザインもsobolonのアクセサリーの面白さだと言います。 「クリエイターさん同士でコミュニケーションを取り、アイデアをシェアし合うので、デザインがどんどんブラッシュアップされていくんです。クリエイターさんの個性が光るのもハンドメイドならではの味わいです。そこも楽しみながらご自身のお気に入りの一点を見つけて欲しいです。」 アクセサリーに使えなかったプラスチックも価値あるものに 大量に漂着する海洋プラスチックのなかには、アクセサリーには適さない大きさや硬さのものもあります。sobolonではそのような海洋プラスチックを、アクセサリー以外の方法で活用しています。各地で行っているのは、子どもたちと一緒に海洋プラスチックのモザイクアートを作る活動。分割された用紙に指定の色のプラスチックを貼り、それを組み合わせることで、全員で大きな一枚の絵を作り上げます。他にも万華鏡作りのワークショップを開催するなど、ものづくりやアートを純粋に楽しみながら、材料の海洋プラスチックを通して環境問題を身近に感じてもらうことができればと考えています。 環境問題に興味を持つ入り口に「かわいい!」を まじめに取り組もうと思えば思うほど“我慢しなければならない”という思考に陥りがちな環境問題。しかし、本当の意味で持続可能なものにしていくには、前向きな姿勢が必要だと、山崎さんは考えます。 「環境問題の解決に向けて様々なアプローチがある中で、かわいい!というところから海洋プラスチックや環境問題に興味を持ってもらうことが私たちの目的です。私たちが回収・アップサイクルする海洋プラスチックは全体から見れば微々たる量で、直接問題の解決に繋がるものではありません。しかし、一見遠回りに思えても、ポジティブに楽しむことが、環境問題を考える“入口”になるのではないかと考えています。」 最後に山崎さんは豊かさについてこう話してくれました。「大量生産・大量消費の現代、環境問題をはじめとした社会問題がたくさんありますが、それは私たちの心の豊かさが失われていることからきているように感じます。“自然の恵みにより私たち人間は生かされている”という感謝の気持ちや、物を長く大切にする気持ちを持つことこそが、心が豊かであることだと思うんです。“自分自身の心がハッピーになることが環境や社会の豊かさにも繋がっていく”そんな想いをsobolonのアクセサリーにのせて広げていきたいです。」 一見不格好で必要とされていない「そぼろ」なものでも、見方を変えればかわいいものになるという意味が込められているsobolon。かわいいアクセサリーとして私たちの元に帰ってきた海洋プラスチックは、私たちに物を大切に使い続けることの大切さを教えてくれます。 sobolonオンラインショップ https://sobolon3695.thebase.in/公式インスタグラム(取扱店やポップアップストア情報はこちらから) https://www.instagram.com/sobolon3695/

  • 洋服の大量廃棄問題に挑む。環境配慮型ファイバーボード「PANECO®」

    世界中で衣服の大量消費・大量廃棄の問題が取りざたされる中、不要になった衣類を捨てるのではなく、新しい素材として再利用する動きが進んでいます。今回は、不要な衣服を原料とするファイバーボード「PANECO(パネコ)」を開発した株式会社ワークスタジオを取材。パネコ開発の背景にある、廃棄衣服の問題意識やサーキュラーエコノミーの考え方について話を伺いました。 インテリアとして生まれ変わる廃棄衣服 誰もがファッションを手軽に楽しめる時代。その一方で、衣服のライフサイクルが早まり、それが大量廃棄に繋がっているとされている。環境への負荷を最小限にとどめ、持続可能な社会を作っていくために、衣服の大量廃棄は私たちが今すぐに向き合わなければならない問題のひとつだ。 そんな中、一つの新しい技術が今注目されている。廃棄になるはずだった衣服が原料になっているファイバーボード「PANECO(パネコ)」だ。パネコは、衣服を細かく粉砕し、特殊な技術を用いて作られている。現在は主に、大手アパレルブランドの内装や什器、企業の受付カウンターとして使用されることが多い。 パネコが什器として使用されているFREAK'S STORE(株式会社デイトナ・インターナショナル)。写真は、アミュプラザ博多店 また、パネコの大きな特徴の一つとして、木製のボードのように加工がしやすいという点が挙げられ、コースターやハンガーなど、デザインや使い方次第で様々な製品を生み出すことができる。 衣服由来ということもあり、パネコの質感やカラーも特徴的だ。使用する衣服次第では様々な色のボードを作ることができ、子ども部屋のインテリアにもなりそうなカラフルで可愛らしいものもある。 サーキュラーエコノミーを取り入れたミニマムなデザイン パネコのボードがサステナブルであるのは、不要になった衣服を原料としている点だけではない。「パネコは繰り返しボードとして再利用することが可能で、役目が終わった時のことまで考えて生産されています。」そう語るのは、株式会社ワークスタジオの篠嵜さんだ。「使用後のボードは再度、粉砕し原料として使用できます。パネコを使用することにより、廃棄物を減らすことが可能となります。」手放すときのことも考えて生産するサーキュラーエコノミーの考え方が取り入れられているのだ。 例えば今までは、什器が大掛かりに入れ替えられていた店舗の内装リニューアルも、パネコのような環境配慮型の素材選定や設計により廃棄物を出さず、ミニマルでシンプルな入れ替えが実現する。 パネコは衣類だけでなく、スニーカーや木材を原料に混ぜ込んで作ることもできる 洋服が行きつく先を視察することでより深くファッションロスを考える ワークスタジオは、もともとは什器のデザインなどを行っており、アパレル業界ともかかわりの深い会社だった。衣類からもボードを作れるのではないかという話から、洋服の大量廃棄問題を知ることとなり、約3年の研究を経て、リサイクルボードであるパネコの開発に成功した。 ワークスタジオでは、洋服の廃棄問題に本格的に取り組みたいとの思いから、代表と社員が世界中から古着が集まるアフリカのガーナを訪問。先進国で不要となった衣服の行く末を実際にその目で見てきた。 ガーナでは、マーケットに各国から届いた古着が届けられ、商人は売れそうな洋服を見極めて持ち帰るが、売れないと判断された洋服は捨てられてしまいゴミとなる。ガーナに届けられた衣類の多くが廃棄になってしまうというのが現実だ。さらに、不要とされた洋服はゴミになるといっても焼却処分されるわけではない。衣類はゴミ置き場に運ばれると、そのまま積み上げられ、見上げるほど巨大なゴミの山の一部となる。ゴミの山のすぐ近くには住宅もあり、人々の生活がある。隣接する海にも、ゴミの一部が流れ出て、洋服が波の打ち付ける砂浜に埋まってしまい、どんなに引っ張っても回収できない状態になっているという。 状況は違うにせよ、日本でも毎日大量の洋服が捨てられていく。私たちも他人ごとではなく、一人ひとりが考えていかなくてはいけない大きな問題だ。 展示会では廃棄になった服の山を表現。来場者の目をひいた 「都市森林」から価値あるものを作り出す 「都市鉱山ということばがあるように、私たちは都市森林があると思っています。都市森林とはクローゼットに眠っている衣服のことで、それも立派な資源のひとつと考えています。」篠嵜さんは話す。「1つの考えとして、我々、消費者自身が何かを購入する時に、モノのライフサイクルを考えることが大切だと思います。」 輸送時の環境負荷なども考えてアップサイクルやリサイクルはその土地で行う「地産地消」のかたちをとるパネコ。次は、海外でも、その国や土地で出た廃棄衣類を原料に、ファイバーボードを製造する技術を広めていく予定だ。 持続可能なファッションを目指すために 国内で毎日何万トンもあるといわれる洋服の廃棄。今私たち消費者には大きな意識の変革が求められている。必要以上に購入せず、一枚の洋服を大切に長持ちさせること。それでも不要になった衣服はパネコのような選択肢があるということを知っておきたい。今後店舗でパネコを見かけたときは、未来に向けて持続可能なファッションとはなにか、今一度考えてみてほしい。 PANECO®公式HP https://paneco.tokyo/

  • ソーシャルグッドロースターズに聞く、人と社会に寄り添うコーヒーができるまで

    東京、神田に画期的なコーヒーショップがあるのをご存知でしょうか。ソーシャルグッドロースターズ千代田は、福祉施設でありながら、こだわりのコーヒーを提供するコーヒーショップです。今世界が未来に向けて目指す、「誰一人取り残さない社会」はどのように作られるのか?そのヒントを探すため、商品のクオリティだけでなく、コーヒーに関わる人たちに重きを置くソーシャルグッドロースターズを取材しました。 新しいかたちの福祉施設 平日の昼下がり。ソーシャルグッドロースターズには、近隣に住む人や、オフィスで働く人々が一杯のコーヒーを求めて次々と来店する。 コーヒーの香ばしい香りが充満する店内は、生豆の選別や焙煎、接客、コーヒーのドリップなど、それぞれの仕事に取り組むスタッフで活気づいている。 ソーシャルグッドロースターズが他のコーヒーショップと違う点は、焙煎所を兼ねるロースタリーカフェでありながら、障がいがある人が働く福祉施設でもあるという点だ。ここでは様々な障がいのある人たちが、コーヒーづくりから接客に至るまで、それぞれ得意な分野を担当しながら専門的な経験を積める就労の場として活用している。 はじまりは障がい者の働き方の現状を知ったこと ソーシャルグッドロースターズを運営する一般社団法人ビーンズ代表の坂野さんは、障がい者の方と一緒に外出するボランティアをしていた際、本人やその母親から働き先がない、と聞くことがよくあったと言う。 「実際に障がい者の人と一緒に仕事を探してみると、働き先の数はあるものの、職種が極端に少ない状況でした。どうしても単純作業が多く、やりがいやスキルアップの機会を見いだせない仕事が多かったのです。それは高い離職率からも顕著でした。そこで、障がい者の人も、社会で働く他の人々と同じように、技術を習得でき、自分の仕事に誇りを持って働けるような福祉施設を作りたいと思い、このような場所を立ち上げることになりました。」 “障がい者でもできる仕事”ではなく、“みんながやりたいと思えるような仕事”で、スキルも身に着けられるような仕事を、と選んだのがコーヒーショップだった。 一人ひとりの個性が生かされたコーヒーづくり ここでのコーヒーづくりは、人の手で生豆をひとつひとつ選別するハンドソーティングから始まる。農産物である生豆の中には虫が食っているものや欠けている豆があり、それが入ってしまうと雑味に繋がるとされるため、取り除く必要があるのだ。簡単なようで、意外と難しいハンドソーティングは、集中力と根気がいる作業だ。 選別された豆は、世界でもトップクラスの焙煎機「GIESEN」で焙煎。ブレンドの作業では、一人ではなく味覚の鋭い障がい者を含めたスタッフ数人で行い、調整して本当に美味しいと思えるものに仕上げている。そして最後にコーヒーは、ハンドドリップで一杯ずつ丁寧に淹れていくか、バリスタの手によってエスプレッソマシンで淹れられ提供される。 このように、ハンドソーティングからはじまり、焙煎、ブレンド、ドリップ、接客に至るまで、たくさんの役割がある中、スタッフは、それぞれが自分の能力を発揮できる持ち場についている。美味しいコーヒーをつくり提供するという共通のゴールを持ちながら、個性を生かし、尊重し合いながら働いているのだ。 社会の一員として誇りを持って働ける現場を ソーシャルグッドロースターズでは、立ち上げの際の設備投資を惜しまなかったと坂野さんは話す。「みんながチャレンジしていける場を作りたかったんです。そのためには世界レベルの焙煎機やエスプレッソマシンが必要だと思いました。最初は誰一人として機械の使い方がわからなかったんですよ(笑)でも今は、使いこなせるスタッフが数名います。」実際にここで働くことで一人ひとりの知識や経験値、技術が向上しているのだ。 「スタッフには、福祉施設だということをアピールしないで下さいよ、と言われます。障がいのあるなしに関わらず、全員が社会で働く一人として、プライドを持って働いてくれているんです。」お店でコーヒーが作られていく過程を見ると、どの工程も訓練やスキルがないと難しい。そして出来上がったコーヒーも一流のコーヒーショップと遜色がない。声を掛け合う和やかな空気が流れる中、スタッフがそれぞれの仕事に熱中する様子からは、美味しいコーヒーを作りたいという意気込みが伝わってくる。 どこまでも平等であることを追求する ソーシャルグッドロースターズで仕入れる豆は、インドのコーヒー農園からフェアトレードで購入している。持続可能なコーヒーの生産を目指すコーヒーサプライヤーであるオリジンコーヒーグループと「人に優しいコーヒーを」という思いを一緒に、できるだけコーヒー生産者に売り上げを還元できるような仕組みを整えた。 豆が生産されてからお店に届くまで、どこにどのくらいコストがかかっているか、徹底的に透明化。ソーシャルグッドロースターズでは、その詳細を毎回仕入れごとに確認している。 社会にとって平等であるか、ということをどこまでも追及しているのだ。 一杯のコーヒーを通して見えてくるこれからの社会 名前の通り、「ソーシャルグッド」な流れを生み出すソーシャルグッドロースターズ。ここにいると、「誰一人取り残さない社会」とはどんなものなのか、一杯のコーヒーを通して見えてくる。障がいのあるなしに関わらず、一人ひとりの多様性を認め合い、みんなが平等に社会の一員として活躍できること。そしてそれが社会にとって良い循環を生み出していくこと。美味しいコーヒーとともに、誰もが大切に思われる社会の重要性を考えさせてくれる貴重なコーヒーショップだ。 ソーシャルグッドロースターズ千代田東京都千代田区神田錦町1-14-13 LANDPOOL KANDA TERRACE 2F10:00~18:00日曜定休・都営新宿線/三田線/東京メトロ 半蔵門線「神保町駅」徒歩6分・都営新宿線「小川町駅」徒歩2分・東京メトロ 丸ノ内線「淡路町駅」徒歩2分・東京メトロ 千代田線「新御茶ノ水駅」徒歩2分・JR/つくばエキスプレス/東京メトロ 日比谷線「秋葉原駅」徒歩12分https://sgroasters.jp/

  • フラワーロスを900万本救済。老舗の花屋が私たちの未来に残したいもの

    私たちの人生の節目や日常を豊かに彩ってくれる花。しかし、花が私たちの手元に届くまでに、実はたくさんの花の廃棄「フラワーロス」が存在しているのをご存じでしょうか。今回は、“Leave no flower behind=一輪の花も取り残さない”というモットーで活動を行うスマイルフラワープロジェクトを取材。フラワーロスの問題や、プロジェクトが目指す花のある豊かな社会について話を伺いました。 コロナで明るみに。花の廃棄「フラワーロス」問題 2020年4月、コロナの急速な感染拡大により、緊急事態宣言が発令された。休業要請や行動制限の他、予定されていたイベントがすべて中止になり、社会では多くの「ロス(廃棄)」が発生。その中で大量の生花も行き場を失い、「フラワーロス」という言葉が世の中に広く知れ渡るようになった。 コロナは大きなきっかけだったが、実はそれ以前から農家や花屋の店頭では、たくさんの花が日の目を見ないまま廃棄される現状があった。野菜と同じで花には規格があり、茎の長さが足りない、傷がある、茎が曲がっている、葉っぱが足りないなど、規格に満たないと市場では買い取ってもらえない。さらに、店頭では品揃えを豊富にするため花を多めに仕入れる傾向にあり、すべて売り切れずに鮮度が落ち、廃棄になるものが多くある。 毎年どのくらいの花が廃棄されているかを示すはっきりとしたデータはないものの、規格外により農家で廃棄されてしまう花が6億本以上と総生産数の2~3割、店頭での廃棄は仕入れの3割にのぼり、少なく見積もっても一年に10億本ものフラワーロスがあるとされている。 長年花に携わってきた企業として花のある文化を未来に残したい スマイルフラワープロジェクトは、コロナをきっかけにフラワーロスを救済する活動を本格化。今まで900万本を超える花を救ってきただけでなく、フラワーロスについて知ってもらう活動を精力的に行っている。 このプロジェクトを先導しているのは、東京や富山、大阪を拠点に花屋を展開する業界有数のグループ会社だ。 「花の命を一本も無駄にしないために、農家とお客さんを繋ぐ花屋としてできることをしていきたいと思っています。」プロジェクトを立ち上げた株式会社ジャパン・フラワー・コーポレーションの大槻さんは言う。「弊社では創業以来、一輪の花も無駄にしないよう、割引などをして売り切り、それでも残ってしまった場合は茎や葉を堆肥にするなどの工夫をしてきましたが、スマイルフラワープロジェクトではさらに踏み込んでフラワーロスの問題にアプローチしています。コロナで行き場を失ってしまった花を救うことを目標にスタートしたプロジェクトですが、今では農家さんの協力をいただきながら、これまで廃棄が当然とされてきた『規格外』の花も価値あるものとして世に送り出しています。」 花農家と一緒にフラワーロスゼロを目指す プロジェクトではロスのない生産流通を確立するために生産者とコミュニケーションを重ね、これまで廃棄されることが業界の通例であった「規格外」の花を買い取ってECサイトで販売をしている。これは業界初の試みだ。 また、花は適正価格で購入することで、農家をサポートできる仕組みになっている。スタート当初、農家では産地のブランドイメージを守るためにロスを公にしたがらないところも多かったが、今は賛同してくれる農家が増えてきているという。 品質、生産量ともに日本一の浜松PCガーベラ。スタート当初からプロジェクトに賛同している 実際にスマイルフラワープロジェクトで販売されている花は、小さな傷がある、少し曲がっている程度で、規格外と言っても自宅で楽しむ分には何の問題もない。購入者からも産地から届く新鮮な花は好評を得ている。 さらに、大槻さんはフラワーロスのアップサイクルを推進するため、花染花馥研究所(はなそめはなふくけんきゅうじょ)を設立。花を使った染色やインクの製造をはじめ、同グループのバラ専門店ROSE GALLERYの香り高いバラからはローズウォーターを抽出。それを配合したルームフレグランス「re:ROSE」を販売するなど、まさに、花一輪、一滴も無駄にしないためにできることを日々研究している。 フラワーロスを知らなかった人に花を届ける スマイルフラワープロジェクトでは、フラワーロスを知ってもらうイベントも積極的に実施している。 上智大学のキャンパスでは、フラワーロスの存在を若い世代に知ってもらいたいと、学生と一緒に規格外の花を配るイベントを開催。当日は用意していた500本の花をあっという間に配り終え、急遽フラワーカーの装飾として使用した500本もブーケとして配り大盛況に終わった。 また、航空会社JALとタッグを組んで、朝採れの「規格外」の花を羽田空港へ空輸し、空港利用者に配布。フラワーロスを知ってもらうのと同時に、日本各地の産地と都会を結び、地方創生につなげたい思いがあった。花を受け取った人からは、「フラワーロスのことを初めて知ったが、とても綺麗で嬉しい」と、多くの喜びの声が聞かれた。 上智大学でのイベントには長蛇の列ができた さらには「フラワーライフ振興協議会」を設立し、世界遺産や国宝を会場にフラワーイベントを実施したり、富山で球根を育てるために切り落とされてしまうチューリップ30万輪を使ってフラワーカーペットを作るなど、全国でフラワーロスや花の魅力を知ってもらう活動を行っている。 “花も人と同じ、一輪も取り残したくない” 「活動を通して、ひとの心に寄り添い笑顔にしてくれるお花の力は思う以上のものがあると何度も勇気づけられてきました。私たちが一人ひとり個性を持っているのと同じように、姿かたちの個性も含めて一輪の花も無駄にすることなく活かしてゆきたいと思っています。」と大槻さんは話す。 花農家は、後継者不足で存続が厳しいところが多く、コロナをはじめ社会の情勢によって花の価格が急落してしまうリスクを常に抱え、課題はフラワーロスの削減だけではない。 もし、世の中から花がなくなってしまったら、私たちの生活から彩りが失われてしまうのではないだろうか。 フラワースマイルプロジェクトはこれからも農家と一緒になって、花のある豊かな文化を未来に残していきたいと考えている。 取材を通して~花の命を無駄にしないために私たちにできること フラワーロスの話を聞いてまず驚いたのが1年に10億本と言われる廃棄される花の数だ。その数から、私たちの手元に届く花は厳しい基準をクリアした完璧な花であることに改めて気が付かされる。私たちにできることはまずフラワーロスという問題を知ること。それだけでも規格外の花をインターネットで探してみたり、数日前に作られ店頭で安くなっているブーケを購入したりするきっかけになるのではないかと思う。 スマイルフラワープロジェクトhttps://jfc.thebase.in/フラワーロスのサブスクリプションhttps://flover-s.jp/

  • 行き場のないコスメの救世主。プラスコスメプロジェクトが描く「クリエイティブな循環」

    洋服の大量廃棄問題は耳にすることも多くなりましたが、実は同じく深刻なのがコスメの廃棄です。洋服と同じく、流行などに左右されやすいコスメは、使いきれずに捨てられてしまうケースも珍しくありません。 今回は、“コスメを通じてクリエイティブな循環を実現させたい”そんな想いのもと、不要になった化粧品を回収し画材として新たに生まれ変わらせる取り組みを行う、PLUS COSME PROJECT(プラスコスメプロジェクト)を取材しました。 コスメのアップサイクルとは? 子どもたちによる自由で想像力豊かなアート。これは、コスメから作られた画材を使って描かれた作品です。コスメが元から持っている色味や質感を生かすことで、画材として魅力あるものに生まれ変わります。捨てられるはずだったものが新たな価値を持ち、生まれ変わるというコスメのアップサイクルは、まだ使えるものを再利用することで廃棄を減らすことはもちろん、コスメの廃棄問題を広く知ってもらうという大きな役割を担っています。 プラスコスメプロジェクトのアンケート調査によると、女性80名のうち6割が化粧品を使いきれずに捨てた経験があると回答。コスメの廃棄問題は、私たちにとって身近な問題なのです。 始まりは化粧品の大量廃棄に疑問を持ったこと 「化粧品の廃棄問題を知ったのは、以前化粧品会社に勤務していた時でした。中身が残ったままの化粧品が大量に廃棄されていくのを見て、化粧品業界のサステナビリティを考えるようになりました。自分自身もコスメのテスターやサンプルをどのように処分したらよいか困っていたんです。」そう話すのは、プラスコスメプロジェクト代表の坂口翠さん。当時、スキンケア化粧品のボトルをリサイクルする動きはあったものの、コスメそのものをリサイクルするという選択肢はなく、不要になったたくさんのコスメが行き場を失い、廃棄になっていたのです。 坂口さんは、化粧品業界の環境問題やサステナビリティを学ぶために、大学院へ入学。化粧品リサイクルなどの研究をスタート。2012年には、メイクアップコスメを画材へアップサイクルするプラスコスメプロジェクトの活動を開始しました。 プラスコスメプロジェクト代表の坂口翠さん 活動を行っていてよく聞くようになったのが「余ったコスメを廃棄することができず、とても困っていた。このように再活用してもらえると嬉しい」という人々の声です。協力企業からも「廃棄するものなので是非とも活用してもらいたい」と賛同の声が上がっています。 コスメならではのカラー。アップサイクルクレヨンができるまで プラスコスメプロジェクトのアップサイクルはメイクアップコスメを集めることから始まります。個人で不要になったコスメの他に、化粧品メーカーや商業施設、団体からも不要コスメを回収。回収したコスメはまず、容器から残っている化粧品を取り出します。それを色ごとに分別し、蜜蝋などの材料と混ぜ合わせ、クレヨンが出来上がります。メイクアップコスメが持っているラメなどの質感もそのままクレヨンに引き継がれるので、これまでのクレヨンとは違った色味を楽しむことができるのが特徴です。また、アップサイクルクレヨンは安全認証機関でも安全テストを受けているので、安心して使用することができます。 アートを楽しむことがコスメの廃棄問題を知ることに繋がる プロジェクトでは、アートイベントやアーティストへの画材提供を行い、アート活動をサポートする取り組みも行っています。他にも地域密着型の化粧品店で、不要コスメから絵具を作るワークショップなども開催。クリエイティブな時間を楽しんでもらいながら、コスメの廃棄問題についても知ってもらいたいという思いがあります。プラスコスメプロジェクトは、不要になってしまったコスメとアートを楽しむ人々をつなぎ、コスメのサステナビリティ意識を広める役割も果たしているのです。 プラスコスメプロジェクトの見つめる未来 これまで受注制作がメインでしたが、今プラスコスメプロジェクトでは、クレヨンを販売する計画が進んでいます。坂口さんが2012年にプロジェクトを開始したときに思い描いていたものが現実のものになっているそうです。コスメを回収してからクレヨンが完成するまで全てを手作業で行っているため、回収量が多いときは製作が追い付かないという苦労もありながら、坂口さんは活動に確かな手ごたえを感じています。「コスメを廃棄することに悩んだり、罪悪感を抱く人も少なくありません。そんな中でプロジェクトに取り組んでいると、行き場のないコスメを再活用してもらえることに感謝され、想いに賛同してくれる方も多くいらっしゃいます。国内外のアートイベントで活用されている報告や、応援の声が大きな原動力となっています。」また、コスメを捨てるのに罪悪感を持っている人のためにもなりたいと話します。 「ご縁があって手元にはやってきたものの、どうしても使うことができず、不要になってしまった残ったままの化粧品。その化粧品が新たな形で再利用されれば、手放す際の“小さなわだかまり(ストレス)”も少し軽くなるのではないでしょうか。それは心の中の健やかさや美しさにもつながっていくのではないかと思っています。」 プラスコスメプロジェクトは、誰でも簡単に参加することができます。「現在は郵送でも不要コスメ回収を受け付けておりますので、是非ともご一報ください! 皆様の代わりにアップサイクルさせて頂きます。また画材提供先として不要コスメで作品を描いてくださるアーティストさんも随時募集しております。今後この活動が必要なくなった時は、本当の意味で化粧品のサステナブルな仕組みが実現したときだと思っております。」 ポップアートアーティストへ画材を提供した際、廃棄されるはずだったコスメが画材として絵画に変化していく様子を見て、感動を覚えたという坂口さん。アーティストへの提供を通じて日本のサスティナブルアート文化を盛り上げていきたいこと、絵本作家と協力し子どもたちと一緒に地球環境を考える絵本を製作したいことなど、坂口さんは色彩豊かな未来を描いています。 <編集後記> コスメを使いきることができず廃棄した経験や、ポーチで眠ったままにしている方は多いのではないでしょうか。筆者にもそんな経験があり、不要になったコスメの活用方法があることを多くの方に知ってもらいたいという思いから今回プラスコスメプロジェクトさんを取材させて頂きました。コスメを使う人々や企業、アーティスト、子どもたちを巻き込みながら、不要コスメから始まる循環の輪はますます広がりを見せてゆくでしょう。10年目を迎えたプラスコスメプロジェクト。今後の活動にも期待したいと思います! PLUS COSME PROJECT公式サイト https://www.pluscosmeproject.com/Instagram公式アカウント https://www.instagram.com/pluscosmeproject/

  • 都会の真ん中に新オープンのエシカル空間。トリバコーヒーが愛される理由

    コーヒー豆専門店として東京・銀座で2014年にオープンし、こだわりのある香り高いコーヒーから人々に愛されてきたトリバコーヒー。2022年秋に惜しまれながらも閉店しましたが、2023年6月、東京駅からアクセスの良い八重洲ヤンマー東京B1Fに移転オープンしました。 旧銀座店はコーヒー豆の販売が専門でしたが、新店舗はカフェスペースを併設し、コーヒーとともにフード、スイーツを店頭で楽しむことができるように。移転後も変わらず、都会のど真ん中にいてもどこか居心地の良いトリバコーヒー。実は、その秘密は、社を挙げて実践する、積極的なエシカルへの取り組みにありました。今回は、トリバコーヒーの魅力に迫ります! 居心地抜群。喫茶店のような落ち着いた雰囲気の店内 店舗は、入りやすい設計でありながらも、優しい光にほっとする店内。今どきというよりも、重厚感ある雰囲気で、落ち着いてコーヒーを楽しむことができます。複合ビルの中にあり、働く人を中心に、人通りも多い立地であるにも関わらず、店内はゆったりとした空気が流れています。その空間の背景にあるのは、前店舗のインテリアをできるだけ使用し、今ある物をうまく生かした店舗づくりです。 例えば、アンティークな雰囲気が漂うランプは、なんとコーヒーミルをアップサイクルしたもの。店内にはコーヒー機器を使用した照明がいくつもあり、個性豊か。 スタンディングテーブルにもエシカルな工夫が。旧店舗で使用していたテーブルの板部分だけを切り取り、短い脚をつけ直してリメイクしています。外枠の木材も不要になった素材をアップサイクルしたものです。 ブランドに大小の変化が加わる度に使用する食器類も一新すると廃棄が出てしまうため、あえて最初からどんな状況にも馴染むアンティーク食器を採用したそう。ひとつずつ違う絵柄がかわいい! どのお皿が使われるのかワクワクします。 すべてを刷新する必要はなく、足りない物だけを足していく。エシカルなスタンスでありながら、我慢ではなく楽しく工夫し、新店舗の準備にあたっていたそう。コンセプトを統一して新品を集めなくとも、アップサイクルやセカンドハンド品たちが温かみやオリジナリティを生み出しているのです。 絶品! トリバコーヒーおすすめのコーヒーとビーガングルメ コーヒーはもちろん、フードも充実しているトリバコーヒー。ランチや軽食の利用にもぴったりのメニューが揃っています。メニュー表は「V」はヴィーガン商品、「G」はグルテンフリー商品だとひと目でわかるよう工夫されています。ヴィーガンの人も、そうでない人も一緒に飲食を楽しむことができることはうれしいポイント! またミルク入りドリンクは牛乳以外に豆乳、オーツミルクに変更してもプラス料金がかからないので、植物性のミルクも気軽にオーダーできます。 マイstorjoを持ち込みました 訪問日の「本日のドリップ」(¥400)は、深煎りブレンド(レインフォレスト認証20%)は、バランスが取れた味わいで毎日飲んでも飽きない味。グルテンフリーかつ植物性の原料のみでつくられたオリジナルレシピの自家製カヌレ(¥400)と最高の組み合わせです。毎日店内で焼いているだけあり、外はカリっと中はもちもち!植物性であることを感じさせないしっかりとした満足感があります。 紅茶が定番のチャイですが、トリバコーヒーではありそうで中々見かけないコーヒーをベースにしたコーヒーチャイ(¥680)が提供されています。8つのスパイスを配合したオリジナルのコーヒーチャイは、ほろ苦いコーヒーにすっきりとしたスパイスが相性抜群でした。 サンドイッチからは、ヴィーガン仕様の3種のグリルきのこ&キャロットラぺ(¥900)を頂きました。グリルされたきのこがボリューム満点!しっかりとした旨味があり、お肉不使用でも満足感があります。 トリバコーヒーがエシカルな理由は? トリバコーヒーに根付くエシカルマインドの背景には、どんなストーリーがあるのでしょうか。その秘密は、社をあげて取り組む「エシカル宣言15カ条」と「エシカルミーティング」にあります。 社員自ら提案。「エシカル宣言15カ条」 トリバコーヒーでは、地球にやさしい未来をつくるため「エシカル宣言15カ条」を2021年からスタートしました。トップダウンではなく現場スタッフからの発案でエシカルな取り組みを始めるようになったそうです。 例えば、「エシカル商品の開発に取り組む」、「牛乳はアニマルウェルフェアなもののみ使用する」など、一つひとつ、本当にエシカルな意味があるのか、“ウォッシュ”になってしまわないか、じっくり考えられています。 運営する会社は、トリバコーヒーの他、飲食店7ブランドを運営していますが、それぞれの店舗でエシカル宣言15カ条を作成し、毎年達成状況などを振り返った上で、内容の見直しが行われています。 定期的なエシカルミーティングの開催 トリバコーヒーを運営する会社では、本社と現場スタッフが参加する「エシカルミーティング」が週に1度開催されています。初めの1年は、毎週担当者を決め、その担当者がテーマを持ち寄る形式で進められました。 例えば、「日本で起こっている環境問題について」、「飲食店業界と環境問題の関わり」、「飲食店としてエシカルを進める上での課題」、「トリバコーヒーとしてはどんなアクションプランが考えられるか」など、社員や飲食店を運営する一人として、様々な目線から会社が今できる取り組みを考えていったそうです。 そんなエシカルミーティングでは、社員からの意見がたくさん出ています。例えば、スタッフへのエコカップ「stojo」の配布、生ゴミを乾燥させ焼却時のCO2排出量を抑えることができるフードドライヤーの導入、まかないに週一回「ミートフリーデー」を設け環境負荷の高い肉を食べない日をつくるなどのアイデアは、実際に社員から出たアイデアが採用されたものだそうです。 居心地の良いエシカル空間で、豊かな一杯を 先導的に食品ロス問題や環境問題などに取り組んでいるトリバコーヒーですが、今後実現していきたいビジョンがまだまだあるそう。 店舗で出た生ゴミを自社の土地に還して作物を育て収穫し店舗のメニューに使用する循環サイクルの確立や、店舗から出るミルク類の紙パックを再生紙に戻し店内ポスターなどの販促物に活用するなど、アイデアは止まりません。実現すれば、自社内のサーキュラーエコノミーモデルが動き出すこととなる構想です。 コーヒーやフードの品質や、店舗デザインだけでなく、私たち消費者の見えない背景までこだわるトリバコーヒー。お店の想いを知れば、一杯のコーヒーがもっと美味しく感じるはずです。 お買い物や観光の合間に、仕事や家事の息抜きに、トリバコーヒーのエシカルな空気に癒されてみては? TORIBA COFFEE TOKYO住所:東京都中央区八重洲2丁目1−1 YANMAR TOKYO B1F公式HP:https://www.toriba-coffee.com/

  • 子ども食堂の新たな選択肢。「こどもごちめし」がつくる助け合いの循環

    厚生労働省の調査によると、日本の子どもの7人に一人が相対的貧困であることがわかっています。そのような現状の中、子どもたちに食事を無償または低価格で提供しようと各地で開かれているのが子ども食堂です。認定NPO法人全国こども食堂支援センター むすびえによると、2023年2月時点で全国にある子ども食堂は7,363箇所。その数は年々増加傾向にあり、子ども食堂を必要としている家庭が多いことを示していますが、ボランティアで行われていることが多いことから、継続的な運営が課題になっています。 今回は、2023年にスタートした「こどもごちめし」を運営するKids Future Passportを取材。継続的な子ども食堂を全国に広めるための新たな仕組み、こどもごちめしの背景にある想いを、代表の今井了介さんに伺いました。 子どもの成長を社会や地域全体で支える新たな仕組み 2023年にスタートしたこどもごちめしは、地域の飲食店を起点にこどもの居場所をつくり、食事を提供するウェブ上のサービスです。こどもごちめしのサイトに飲食店が登録し、子ども食堂としての役目を担います。中学生以下の子どもたちは提携しているお店から好きな場所を選んで食事をとることができ、その食事代は、企業や自治体、個人の寄付で賄われる仕組みです。 今井さんは、こどもごちめしの特徴を以下のように説明します。 「現在、日本に住むこどもの7人に一人が相対的貧困で、ひとり親家庭の相対的貧困は、48%以上と言われています。見た目だけではわからないケースも多いため「隠れ貧困」とも言われ、困窮する家庭が多いという現実が、まだまだ知られていないのです。そのような子どもたちを支援しようと、子ども食堂が各地にありますが、みなさんボランティアでやられていることがほとんどなので、資金面や運用面から、毎日の食事を提供することは難しいことを隣で見て感じていました。そこで、社会全体で、継続的に子どもの食をサポートしていけないかと考えたのが、こどもごちめしです。 こどもごちめしは、飲食店を利用した継続性の高い子ども食堂です。こどもたちは、行きたい日に行きたいレストランを選んでいくことができます。また、家庭の状況というのは大変繊細なものです。子ども食堂というと、周りの目が気になって利用できない方もいます。こどもごちめしはご飯を食べ終わったら、スマホ内のデジタルチケットを見せます。電子マネーで支払うのと動作が似ており、他の人から見ると、子ども食堂を利用したということがわかりにくいため、本人や家族は周りの目を気にせずに利用できるのも特徴です。」 サービスの使い方。わかりやすさを大切にしている こどもごちめしは、子どもが食事を無料(1,000円まで)でとれるだけでなく、子どもを持つ家庭や飲食店がサービスを使うハードルがとても低いことも特筆すべき点です。 「飲食店は登録料を必要とせず、既存のメニューを子どもたちに提供するので、コストがかかることはありません。利用したいご家庭は、ユーザー登録をすれば、誰でも1週間に3回利用することができ、生活保護を受給している家庭の子どもは毎日利用することができます。」 家庭と飲食店と寄付する団体や個人、三方が関わり合って、子どもたちの食を社会全体で支えていく。それをウェブのシステムで展開しているのがこどもごちめしなのです。 全国の子ども食堂と連携して広く深い支援を 子ども食堂の役割は、食事を提供することだけではありません。食の場を通して、地域の大人と子どもとの接点ができ、コミュニティが作られるという大きな意義も持ち合わせています。 「本人や親御さんからありがたいと言ってもらえるこどもごちめしのサービスですが、飲食店様からも、“地元の子どもと関われるきっかけができて嬉しい”という声をいただきます。」と今井さんは話します。 こどもごちめしに登録するTACO RICOのスタッフと今井さん(右下) また、今井さんは、全国の子ども食堂にもこどもごちめしのシステムを利用してもらい、連携していくことを大切にしていきたいと言います。 「相対的貧困に当てはまると言われている子どもたちが国内に200万人以上もいる中、こどもごちめしのサービスは、より多くの子どもたちに食を届けることができます。そして、各地の子ども食堂の役割は、地域コミュニティにとって大変重要です。多くの子どもの成長を見守っていくためには、地域の子ども食堂と伴走し、広く深く支援していくことが重要だと考えています。ふるさと納税の使途として“子どもを支援する”という選択肢を増やし、子ども食堂の食事代に充てていくという取り組みも少しずつ始まっています。例えば茨城県境町はその取り組みで、3年間で6万食以上を子どもたちに届けています。 最近は、子ども家庭庁の子どもの未来応援基金という補助金も新たに新設されました。そのような補助金とこどもごちめしのシステムを利用して、自治体や商店街ぐるみでの子ども食堂を開催いただけたら嬉しいです。」 相対的貧困の家庭の子どもたちに、毎日の食を提供するためには、現状の地域の子ども食堂に任せておくには負担が大きすぎます。こどもごちめしのようなサービスが、自治体や企業を巻き込んで社会全体で子どもたちを支えていくこと、そして地域の子ども食堂が子どもたちの居場所を作っていくことの、2つの方向からのアプローチが必要なのです。 食と一緒に子どもたちの夢を応援していきたい こどもごちめしでは、子どもたちが楽しめるイベントも企画しています。 「まだスタートして間もないですが、イベントも積極的に開催しています。例えば、先日はプロバスケットボールであるBリーグに所属するサンロッカーズ渋谷の選手をゲストに呼び、子どもたちとシュート体験を楽しみました。キッチンカーを呼び、そこで実際にこどもごちめしのサービスを体験できるような場所にしました。子どもたちにとって、プロのバスケットボール選手と間近で会えるのは、きっと思い出に残りますよね。スポーツや音楽に関連したアクティビティや、こどもごちめしのアンバサダーの方々に協力していただくイベントも開催していく予定です。子どもの食事だけでなく、夢を応援するサービスにしていきたいと思っています。」 スーパーマーケットの前で行われたイベントには多くの親子が訪れた©️ SUNROCKERS SHIBUYA 助け合いの循環ができる社会を目指して 子どもが毎日当たり前に食事をとれるよう、社会全体で見守ることを目指す、こどもごちめし。今井さんは最後にこう話してくださいました。 「こどもごちめしは、食事が終わってレジで画面を見せると、協賛する企業の名前が出てくるようになっています。それを見て“自分たちはこういう大人に支えられているんだ”ということを頭のどこかにでも置いておいてもらえたら、その子たちが大人になったときに誰かを支えよう、困っている人を助けよう、という循環が生まれてくれるのではないかと期待しています。子どもが大人に期待していないという話も聞いたりしますが、“絶対に君たちのことを見限ってないよ”“取り残されていないよ”というメッセージを強く伝えていきたいと思っています。」 自分が受けた善意を他の誰かに渡すことで、善意をその先につないでいくというPay it forwardのマインドを持つこどもごちめし。日本の子どもの未来を社会全体で支えていこうというエシカルな取り組みの今後に注目です。 お話を聞いた人:今井了介さん NPO法人Kids Future Passport 代表理事。Gigi株式会社 代表取締役。作曲家・音楽プロデューサー。2018年にGigi株式会社を立ち上げ、人とお店と地域にやさしいビジネスモデルを提案し、フードテックを使用した「ごちめし」などのサービスを展開。未来の子どもたちを支える支援の輪を広げていきたいと、2023年7月にNPO法人Kids Future Passportを設立、「こどもごちめし」をローンチした。 こどもごちめし公式HP:https://kodomo-gochimeshi.org/

  • GOOD VIBES ONLY。最新技術で目指す、“衣類廃棄ゼロ”への道

    環境省によると、一年間でごみに出される衣類は約50.8万トン。消費者が廃棄する衣類が膨大であるのに加え、売り切ることができずに在庫として残り、結果として消費者のもとに届く前に廃棄される衣類も多く存在します。 今回は、“衣類廃棄ゼロ”を目標に掲げ、最新のデジタル技術を取り入れたアパレル企業向けのプラットフォームを展開する、GOOD VIBES ONLYを取材。代表の野田貴司さんに、今のアパレル産業が抱える課題についてお聞きしました。 在庫ロスは生産量の30%以上が当たり前。多くのアパレル企業が抱える課題 出典:unsplash.com 本当に欲しいと思った洋服しか買わない、長持ちする素材を選ぶ、など消費者が衣服に関わる環境負荷を低減するためにできることは、大方想像がつくものです。しかし、企業がどのような問題を抱えているかは、なかなか知る機会がないもの。長年アパレル業界に携わる野田さんは、企業における衣類廃棄問題を以下のように話します。 「時代の流れもあり、現在は少しずつ在庫を減らしている企業さんは多いものの、生産量の30%以上は在庫として常に倉庫で保管しているというのが一般的です。機会損失を避けるため、売り切れを出さないよう、はじめから売れ残りを想定して、発注なども行っているところが多いですね。プロパーの在庫消化率70%だと、かなりいい方という印象です。在庫の処分方法はもちろん、倉庫の維持費もかさみ、実は課題があったのにもかかわらず、そのモデルが出来上がっている中で、なかなか改善されてきませんでした。」 GOOD VIBES ONLY代表の野田貴司さん そのようにして売れ残った在庫がたどる経路は様々です。 「企業として、在庫の処分を行う際は、サンプルセールなどを行う、焼却、バイヤーに買ってもらって海外に売る、バッタ屋(商品を格安で販売する店)に買ってもらって安く売るという選択肢があります。最終的には、海外に送られて埋め立てられるケースも多く、アパレルは生産だけでなく、廃棄の方法も問題になっています。」 なぜそんなに在庫をかかえているのかという質問に答えることができなかった 野田さんが初めて衣類廃棄について問題意識を持ったのは、他業界の人の何気ない一言でした。 「以前携わっていたアパレルブランドを売却するときに、今までアパレルには全く携わってこなかった業種の企業からの、デューデリジェンス(事前調査)がありました。当時20~30億円ほどの売上がある会社で4億円分の衣類が過剰在庫になっていることをお伝えしたのですが、そのときに“なぜ在庫が4億円分もあるのですか?”と驚かれて、そのときにはっとしました。」 アパレル企業では、その量の在庫を抱えることは極めて一般的であり、疑問に思うことがなかったため、その質問に答えられなかったと言います。 その出来事をきっかけに、野田さんは“衣類廃棄ゼロ”をミッションに掲げたGOOD VIBES ONLYを設立。アパレル企業が抱える課題を解決しながら衣類廃棄をなくすためのプラットフォーム“Prock(プロック)”の開発に着手しました。現場や企業の声を反映し、自社ブランドでのテストを繰り返しながら、およそ3年の歳月をかけて実用化にこぎつけたのです。 廃棄衣類ゼロを目指して開発、現場の課題解決にも繋がるツールの開発 Prockが提案する新しい洋服のサプライチェーン 「Prockでは、アパレル企業が行う企画・デザイン~販売までの管理をDX化し、業務の効率化を測りながら、余剰在庫問題をワンストップで解決することができるサービスです。大きな特徴の一つは、3Dデジタルサンプル技術です。試作品であるサンプルを実際に作らなくとも、特徴や質感など細かく数値化された生地を画面上で選び、リアルに限りなく近い質感の立体的なサンプルを確認することが可能になっています。洋服のサンプルはもちろん、生地屋さんから送られてくる生地のサンプルの廃棄も減らすことにも寄与しています。品質の高い日本の生地をデジタルサンプルとして海外に展開することも考えています。」 実際のデジタルサンプル。すでに大手のアパレルブランドでも取り入れられている Prockの二つ目の特徴として、AIによる需要予測があります。これまで現場の人の経験と勘で行ってきた発注作業を、AIを使用してどのくらいの需要が見込めるのかを判断することにより、正確で、売れ残りのない数の発注が可能になったのです。 「AIによる需要予測では、SNSに3Dサンプルを掲載した際の反応から、発注の段階で、販売数の見込みがわかります。必要以上の生産をしないことにより、無駄になってしまう衣服を生まないことに繋がります。Prockは、アパレル産業で長い間慣習化されてきたやり方を見なおし、課題を一つずつ解決しながら辿り着いた結果です。デジタルサンプルに置き換えるだけで、国内だけでも1600万着と言われるサンプルを削減することができます。また、アパレル業界全体の余剰在庫を10%削減すると、国内で2億着近くの在庫ロスをなくすことができると試算しています。」 課題解決と売上アップの両立を目指す 衣類廃棄ゼロを掲げProckを各アパレルメーカーに提案する中で、課題も見えてきています。 「現場の作業をより効率化し、同時に在庫管理を行えるツールとしてProckの導入をお勧めする中で、企業さんからは、課題解決も嬉しいけれど売上も伸ばしたい、という声が聞かれるようになりました。業務を効率化するだけでは、今のアパレル業界にアジャストできないと感じています。そんな中、私たちは、不特定多数の人にアプローチする販売方法ではなく、SNSの分析結果を利用したPRを行っています。その洋服を必要としている人に効率的に情報を届けることで、売上に繋げながらも、無駄になる衣服を減らしていくことを目指しています。」 結果、サンプルコストは80%削減し、プロパーでの利益率がアップした事例が出てきています。 また、NFTとしてデジタルサンプルを販売し、ゲームの中のキャラクターにリアルなアパレルメーカーの衣装を着させることができるような、新たな挑戦も。デジタルで洋服を売るという、アパレル企業にとって新しいビジネスモデルを提案しています。 そして、すべてがオンライン上のサービスであるからこそ、人の顔が見える機会を大切にしたいと、野田さんは言います。 「オンライン上で完結してしまう時代ですが、人との繋がりは、サステナブルな社会にリンクしていると思います。私たちがやっていることはデジタルだからこそ、リアルイベントなども行っていきたいと思っています。デジタルファッションを通じて、買う過程を楽しめるようなエンターテインメント性のあるものが良いですね。」 消費者の私たちにできることは? 出典:pexels.com メーカーでも細部まで把握しきれないほど、複雑になっている洋服のサプライチェーン。その中で販売される前に捨てられ、日の目を見ることのない洋服が大量にあるという現実。私たち消費者が洋服を購入するとき、どのようにブランドを選ぶのがよりエシカルなのでしょうか。 最後に、サステナブルな生産に配慮したブランドかどうか見極めるための方法をお聞きしました。 「サステナビリティを打ち出しているブランドさんは増えてきていますが、洋服を購入する際は、生産情報を開示しているかどうか、確認してみるのが良いと思います。販売員さんに、どのように生産されているのか直接聞いてみるのも良いと思います。売り場の販売員さんが生産の背景まで知っているブランドなら、信頼も高まります。オンラインのショップであればぜひ問い合わせしてみてください。消費者が変われば、その需要に応じて生産者も変わります。どちらか一方ではなく、両方の意識が、透明性の高いアパレル産業の実現には欠かせません。」 「アパレルが汚染産業であることから目を背けず、目を向けることが大切だと思っています。アパレル産業を含む社会全体もそうであってほしい。」と話す野田さんからは、アパレル産業を変革していくという強い意志を感じました。持続可能な社会へ大きく舵を切るためには、新しい技術を取り入れ、時代や社会のニーズに合った取り組みが不可欠なのではないでしょうか。 お話を聞いた人 株式会社グッドバイブスオンリー代表取締役 野田貴司さん  1992年、福岡県出身。大学を経て上京し、22歳からソーシャルメディアマーケティングに携わる。その後、D2Cの先駆けであるD2Cファッションブランド「eimyistoire」の立ち上げに貢献。2017年に同社を退社し、「廃棄衣類ゼロ」をミッションに掲げるGOOD VIBES ONLYの立ち上げに参画。これまでの経験を活かし、従来の洋服のサプライチェーンをより効率的かつサステナブルにするシステム「Prock」を開発。3DデジタルサンプルをはじめとするProckは、現在大手アパレルメーカーにも取り入れられている。

  • 探していた結婚式がここに。エシカルウェディングが紡ぐ二人の未来

    “エシカルな結婚式”と言うワードからどんなウェディングを想像しますか。環境に優しいナチュラルテイストの装飾?プラントベースのお料理? エシカルと聞くと、質素なものというイメージが先行するかもしれませんが、エシカルウェディングは、主役の二人や、式に関わる全ての人はもちろん、地球の未来を大切に考える要素を取り入れた結婚式。多種多様なスタイルと可能性に満ちたニューノーマルな結婚式の在り方です。 今、ウェディング業界に新しい風をもたらす一般社団法人エシカルウェディング協会代表の野口雅子さんと、これからの時代の結婚式に求められるものを考えていきます。 エシカルウェディングとは エシカルウィディングの一例として、米粉のマフィンで作られたウェディングケーキと 自然農園で育てられた花の装飾などを取り入れている エシカルウェディングとは、人と地球環境、地域社会、に配慮する“エシカル”な価値観を取り入れたウェディングのことです。 野口さんは、「大量消費の時代に生まれた従来の日本の結婚式・披露宴は、華やかである一方で、実は社会課題が多数存在しています。」と話します。 「エシカルウェディングは、まず、二人が本当に望む未来とは?結婚式とは?の本質的な意味をディスカッションすることで、必要のないものや無駄なことを省くことから始まります。 また、ウェディングの事業者さんと、体に優しい食材を使った料理や、フードロスがでない料理の出し方を工夫するアイデアをシェアしたり、デザイナーさんと資材を使い切る装飾方法を考えたりすることを積極的に行っています。他にも、自然素材で作られたドレスやフェアトレードや地域創生につながるギフトアイテムなどを選ぶなど、ひとつひとつエシカルな提案を行い、それが多くの人の選択肢となれば、結果として環境負荷を減らし、社会貢献に繋がると考えています。」 レースカーテンの残布で作られたドレスで前撮り。ドレス制作: KUMIKO TANI そんなエシカルウェディングを普及するために、野口さんが2021年に立ち上げたエシカルウェディング協会では、現在約30名のウェディングプランナーとクリエイターが活動。 ウェディングプランナーとクリエイターは、本質を大切にした結婚式を実現するために、常に情報のキャッチアップやアイデアの交換を欠かしません。協会では、個人向けにはもちろん、事業者向けにも具体的な情報やノウハウの提供も行っています。 エシカルウェディング協会2周年記念イベントにて みんなが少しずつ感じている“結婚式はこうあるべき”の違和感 新婦の祖母が遺してくれた毛糸や布でギフトを兼ねて装飾 エシカルウェディング協会による結婚式・披露宴に関するアンケート調査では、「結婚式を通じて環境や社会に貢献するアイデアを周囲の人に共有したい」と答えた人が約8割にのぼる結果に。また、同調査において結婚式・披露宴に持つマイナスイメージとして上位に挙げられた項目は「多額の費用がかかる」、「形式的でどれも同じテンプレートに感じる」などがあります。 そんな時代の流れの中、野口さんは、長年、多くのウェディングの現場に携ってきた経験から、従来のやり方にとらわれないウェディングにシフトしていくべきだと強く感じています。 「式場ではパッケージ化されたプランが一般的です。より深くお二人に寄り添いたいと思っても、実現するのが難しいという歯がゆさを感じてきました。」 エシカルウェディング協会では、あらゆる選択肢の中から、二人に寄り添ったウェディングスタイルを提案しています。 教会や神社、ゲストハウス、ホテル、レストランだけが結婚式の舞台ではありません。 「お二人のご希望をお聞きして、様々な場所をご提案します。場所の使用許可さえ取れればどんな場所でもウェディングは実現可能なんです。ゆかりのある場所、思い入れのある場所ならば、二人の母校や、ご自宅でも。ライブハウス、撮影スタジオ、キャンプ場、アーチェリー場、古民家、歴史的建造物、料亭、旅先の旅館、ワイナリー、無人島、農園、原っぱ、田んぼの真ん中など、考えもつかなかった場所が会場となり、二人の門出に最もふさわしい場所になるかもしれません。」 東京都主催TOKYO ETHICAL ACTIONのエシカルマルシェで模擬挙式を実演 結婚式を出発点に、社会全体が幸せに溢れたものに 進行についても、予定調和なスタイルだけが答えではありません。 「これまでも、ご家族全員からお二人への手紙を読んでいただく挙式、お二人がカフェ店員になってゲスト全員にドリンクを提供するウェルカムパーティ、アーチェリーのレクチャーを取り入れた結婚式、二箇所のメインブースを設けて過去と未来を行ったり来たりするかのように体験できるパーティスタイル、ライブハウスを貸し切って思いっきり音楽とサンバを楽しむパーティーなど、二人の夢や要望をとことんヒアリングし、それを形にしてきました。大切なのは、“なにをやるか”ではなく、“どうしてそれをやるのか”。その理由を明確にするからこそ、結婚式は、二人の心に深く刻まれる日となります。そして、そこから始まった家族の歴史は、やがて社会や未来に繋がっていくんです。結婚式というのは、そういう役割があると感じています。」と野口さん。 エシカルウェディング協会のウェディングプランナーやクリエイターは、結婚式当日だけでなく、その後ずっと続く未来も見据えて、二人の本当の幸せとはなんだろう?ということに想いを馳せ、一緒に結婚式を作り上げてくれます。 ウェディング業界自体は思い切った変革が必要 ロスフラワー®を使った装飾も積極的に取り入れている 高度経済成長期から続く慣習が根強く残ると言われる、ウェディング業界。 例えば、二人はもとより、ゲストもゆっくり食事をとる時間がない、といったケースも少なくありません。また、会場のバックヤードでは、ケーキや料理が大量に残ってしまい食品ロスになってしまう、せっかく作った席次表などのペーパーアイテムやお金をかけた装飾資材が廃棄されてしまう、などの問題が常に起きています。さらには、ウェディングを取り巻く環境においても、人手不足や労働環境、高い離職率など、悩みは尽きません。 「二人やゲストが幸せになる場の裏側で、地球や誰かに負担がかかってしまうことは一つでも減らしたい。結婚式だからこそ、本当にお二人の未来につながるあり方であってほしいと願っています。」と野口さんは話します。 SDGsの達成や循環型社会が叫ばれるなか、ウェディング業界も持続可能な方向へさらに大きくシフトチェンジしていく必要があるのです。 競争ではなく、手を取り合ってウェディングを変えていく TOKYO ETHICAL ACTIONのエシカルマルシェで協会活動を紹介する野口さん 「存在しないなら自分たちでつくるしかない」と新しい試みに対してもとても前向きな野口さん。 賛同するフリープランナーや事業者が増えているものの、エシカルウェディング協会の取り組みは発展途上であり、さらなる広がりを目指していると言います。 「ウェディング業界内で差別化したり、競争し合ったりするのではなく、業界全体で手を取り合うことが非常に重要だと考えています。そのため、今後はより多くのウェディング事業者やSDGsに取り組まれている企業、公共団体、個人をつなげ、大きなチームとしてエシカルウェディングのムーブメントを起こしていきたいです。」 多様な価値観が広がる今、形式を重視するのではなく、自分たちやゲストが本当に望む結婚式を挙げたいと思っている人も多いのではないでしょうか。 どこかに負担のかかる結婚式ではなく、人にも地球にも社会にも優しいエシカルウェディングという選択肢が、結婚式のスタンダードになる日は遠くないかもしれません。 編集後記 「厳かなチャペルで式を挙げて、披露宴会場では多くの余興とともにフルコースのフレンチが次々と並べられる……」 これは今回の取材を行う前、筆者がウェディングに持っていた固定概念です。 しかし、パッケージ化されたウェディングスタイルのみが結婚式ではなく、場所、料理、余興、進行などすべての要素において、二人の願いをしなやかな発想で最大限に叶えられることを知り、エシカルウェディングは従来のウェディングと比べるととても自由であることに驚かされました。 また、華やかな舞台の裏側では、食品ロス、資材などの廃棄ロス、関わる人々の労働問題など、長年見て見ぬフリがされてきた現実があります。未来を見つめ持続可能性を探るエシカルな結婚式は、大量生産・大量消費に違和感を持つ人が多い現代、人々のニーズにもマッチしているのではないでしょうか。 お話を聞いた方 野口雅子さん 一般社団法人エシカルウェディング協会発起人&代表理事エシカルウェディングコンサルタントIWPA認定ウェディングコンサルタント自身の海外結婚式の経験がきっかけで自然との共生をコンセプトとした結婚式のプロデュースをスタート。2011年5月、日本初となる「エシカルウェディング」を手掛ける。プロデュース歴28年 経験組約1500組。 一般社団法人エシカルウェディング協会 公式情報サイトhttps://ethicalwedding.info

  • 夢のアフリカ渡航が目前に。アーティストSUDA YUMAと家族の知られざるストーリー

    今年の9月、東京・世田谷の落ち着いた住宅街に佇むギャラリーで行われたのが、SUDA YUMAの展示会です。中に入るなり、色鮮やかに躍動する動物を描いた作品が目に飛び込んできます。発達障がいのあるアーティスト、YUMA。彼の目を通して見える動物の世界は、優しく平和で、愛に溢れ、人々の心を魅了し続けています。 動物を描き続けてきたYUMAはこの秋、自身初となるアフリカ渡航プロジェクトを実施予定。ケニアのサファリを訪れ野生の動物を見に行くという大きな挑戦には、クラウドファンディングで多くの支援者が集まっています。 今回は新進気鋭のアーティストYUMAをマネジメントする母の須田裕子さんとご家族を取材。作品のこと、これまでの道のり、そしてアフリカへの挑戦についてお聞きしました。 各界が注目。YUMAが表現する、ポップでユニークな動物たちの世界 YUMAのアートはすべて、動物が主役です。ゾウやキリン、フラミンゴや、クマ、ペンギン、海の生き物たち…それ以外にも多種多様な動物が、ジャングルや森、湖、雪山を背景に登場します。動物たちはみな、生命力に満ち溢れ、個性豊か。ポップな色彩が、唯一無二の世界観を作り出しています。 彼の描く作品には、純粋でユニークな動物の魅力を思い出させてくれる力が宿っているのです。 YUMAはこれまで、個展や合同の展示会を開催しているほか、アパレルメーカーとのコラボレーションを実現。 今年は、富岡八幡宮から「アートパラ干支大絵馬」のアーティストとして選ばれ、2023年の年末から2024年まで、本殿にYUMAの作品が飾られます。 幼い頃からずっと続けてきた、描くということ 幼い頃からクレヨンなどを使って文字や絵を描くことに夢中だったYUMA。裕子さんはその頃のことをこう振り返ります。 「最初はずっとアルファベットを書いていました。そのうち、動物を描くようになっていくのですが、集中力があり、毎日何時間も絵を描いているということが多かったですね。中学生になるころには、小さいサイズの紙から、だんだん大きな紙に描くようになっていました。」 YUMAが現在のスタイルにたどり着いたのは、約3年前。幼い頃から動物を描き続けてきた彼は、初めは色鉛筆など細いタッチの画材を使用していましたが、知人からのすすめもあり、アクリル絵の具を使うように。大胆に色を塗ることができるこのスタイルが自身とマッチし、もともとあった才能をさらに開花させるきっかけとなりました。 自宅にあるアトリエ。100近い色の種類の絵具を全て記憶している 「絵を描き始めると彼の中で迷いはありません。色を選ぶ際も、迷っているのを見たことがないですね。最初から頭の中で色の配色が決まっているようで、バランスを見て色を決めたり、足したりするスタイルではありません。例えばピンクをとったら、先にピンクに塗りたい場所を埋めていくことがほとんどです。」 現在は、図鑑や写真集、実際に動物園に行ったときに見た動物からインスピレーションを受けて創作を行っています。中でも上野動物園には100回以上足を運んでいて、名古屋市の東山動物園もお気に入りだそう。 実物だけでなく、本からも多くの着想を得ている 作品からは見えてこない障がいの現実 才能に溢れた若きアーティスト。YUMAのことを知ろうとするとき、そのような単純な言葉では語れない歴史が、本人と家族にはあります。 裕子さんの言葉の端々からは、朗らかな家族の雰囲気や明るい作品からは想像のつかない、障がいと共に生きることの苦労が垣間見えます。 「YUMAは、思考や感情を口に出して伝えることが得意ではありません。また、記憶力が人並以上であることから、私たちが考えている以上に、これまでの思い出や情報が頭の中に残っています。それをうまく吐き出し、考えをまとめられる方法が、YUMAにとっては描くということです。絵はもちろん、文字をノートに書くことも同じです。常にフル回転している頭を休ませるために、彼にとってそれがとても大切な時間なのです。」 YUMAには欠かせないノート。絵の構想や学んだことなどが書いてある 「アーティストとして活動する前、YUMAは5年ほど働いていました。毎日一生懸命働いていましたが、同じ作業の繰り返しで成長を感じられず、本人は働く目的や目標を失っていました。私も、彼が職場にいることでみなさんに迷惑をかけているんじゃないかと思ってしまい、いつも“すみません、すみません”と謝ってばかりいて、疲弊していたと思います。本人が家でイライラすることも増えてきて、限界だなと思うことが多くなり、じっくり話し合って卒業する決断をしたんです。今は毎日穏やかに過ごしていますが、季節の変わり目などは、バランスを崩しやすいです。日常生活での小さな出来事がストレスになってしまうこともあります。“才能があっていいですね”と言われることもありますが、家族にとっては毎日が戦いです。子育てはみんな大変ですが、自立がなくサポートをずっと続けていかなくてはならないというのは、精神的にも負担です。次も障がいのある子を産みたいかと聞かれたら、二つ返事で“はい”とは言えないですね。」 「ひとつの個性という人もいるけれど、障がいはそのような言葉で説明できるほどいいものではない」とYUMAの兄である将太郎さんも言います。 本人が生まれたときからずっと障がいと向き合ってきた家族からは、借りてきた言葉ではなく、リアルで率直な感情が言葉になって出てきます。 誰の目に映る動物とも違う、YUMAの描く生命力にあふれた優しい動物たち。彼にしか生み出せないアートの背景には、本人と家族しかわからない、日々の物語があるのです。 YUMAの活動が、みんなが生きやすい社会へ繋がるように ピアノは楽譜ではなく、音と指の動きから曲を覚える。記憶している曲数は20曲以上にのぼる 「YUMAは絵を描いて生活しているので、とても恵まれていると思いますが、障がいのある子どもを育てるということは、本人と家族にたくさんの困難があります。例えば学生時代は親の送り迎えが必要で、休まる時間はありませんでした。特別支援学校は駅から離れている場合が多く、一人で通学するのは難しいところが多いんです。周りの親御さんも自分のことは後回しで、働くこともままならない方が多かったですね。中には夜中に働いている親御さんもいました。」 ここ数年、多様性を受け入れる社会の構築は進みつつありますが、その家族まで、必要とされる理解や支援は行き届いていないのが現実です。 学校を卒業する年齢が近づくと他の課題にも直面します。障がいのある子は、社会に出ること自体を目標に設定されがちで、本人の個性や希望などは二の次になってしまうのです。 「障がい者にとって、就労というのはひとつの大きな目標になっています。就労するためにみんな同じような訓練を重ねるんですが、本当は一人ひとり個性豊かで、得意・不得意だってあります。しかし障がいがある人のほとんどは、そのように決められたコースしか選べない現状があるんです。 YUMAの活動を通して、社会に当事者とその家族の状況が伝わり、障がい者の教育や働き方の選択肢が少しでも広がってくれると嬉しいと思っています。」 まだまだ知らない人も多い、障がいを取り巻く現実。YUMAの活動が、障がいのある人と周りの人に対する理解へと繋がり、誰もが生きやすい社会になっていくことを裕子さんは願っています。 YUMAの作品は、たくさんの動物が集まり、まるで話をしているような作品が多い 「いつか行きたいね」が現実に。夢のアフリカへの挑戦 YUMAと母の裕子さん。直接アートを描いたリビングのドアの前で 今、Yumaは長年家族で話していた“アフリカで野生の動物が見たい”という夢を叶えようとしています。 アフリカ渡航プロジェクトは、兄の将太郎さんとその友人の稲川雅也さんが中心となってスタート。何度もアフリカの地に足を運んだ経験や、現地の人との繋がりもあることから、プロジェクトのアイデアが生まれました。 今回訪れるのは、豊かな大自然に多くの生き物が暮らすケニア。ライオン、アフリカゾウ、サイ、ヒョウをはじめとした多様な生物が共生するマサイマラ国立保護区でのサファリ体験をメインに、ナイバシャ湖では水辺に生息する鳥などを観察予定。さらに、現地のアートセンターを訪問し、地元のアーティストとコラボレーションを行います。 渡航に先立ち始まったクラウドファンディングでは、目標額を大きく超え、650万円を達成。リターンの選択肢の一つである、彼がアフリカ帰国後に制作するアートが人気であることから、彼の活躍に期待し、応援したいと考える支援者の多いことが伺い知れます。 アフリカの大地に立つ彼はどんな表情をしているのか。初めて出会う人や文化、自然や動物は彼の目にどのように映るのか。そして帰国したとき、彼が描くものとは・・・? rootusでは、帰国後のYUMAも取材予定。アフリカ渡航という大きなチャレンジを成し遂げようとする若きアーティストYUMAから、今後も目が離せません。 プロフィール SUDAYUMA 1998年、東京都生まれ。発達障がいがあり、夢中になって動物の絵を描く子ども時代を過ごす。現在はアクリル絵の具を使用し、ポップなカラーで彩られた多様な動物が登場する作品の数々を発表。彼の目線で描かれたユニークな生き物の世界観に、アパレルメーカーやクリエイター、芸能人などからの熱い視線が送られている。2023年10月には長年の夢であったアフリカ渡航を予定。クラウドファンディングを中心に、彼の挑戦を支持し、今後の活躍に期待する声が高まっている。 公式HP:https://www.sudayuma.com/公式インスタグラム:https://www.instagram.com/sudayuma/?hl=jaクラウドファンディングサイトページ:https://rescuex.jp/project/76450

  • 【山形国際ドキュメンタリー映画祭】映画の都で、世界の今を知る8日間

    新型コロナの影響を受けオンライン開催となった2021年を乗り越え、2023年10月5日からの8日間、リアルでの開催が予定される山形国際ドキュメンタリー映画祭。クリエイティビティ溢れるドキュメンタリー映画と山形という魅力的な土地が相乗効果を生み出す映画祭は、ドキュメンタリー好きでなくても一度は足を運びたい“お祭り”です。 今回は、山形国際ドキュメンタリー映画祭理事の藤岡朝子さん、広報の村田悦子さんのお二人に、山形国際ドキュメンタリー映画祭とドキュメンタリー作品の魅力、そして2023年の映画祭の見どころを伺いました。 日本が世界に誇るヤマガタって実はこんな場所 提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭 東京から新幹線で約2時間半の山形県山形市。山形と聞くと、樹氷で有名な蔵王や、芋煮などの郷土料理を思い浮かべる人も多いかも知れません。 実は、山形は日本で初めてユネスコ創造都市ネットワークに認定された映画都市として、世界でも有名な都市。もともと映画上映が盛んな街であり、中でもシンボル的なイベントとなっているのが、2年に一度開かれる山形国際ドキュメンタリー映画祭(以下YIDFF)です。 全国でもトップクラスの映画スクリーン数を誇る映画の街、山形市で30年以上、2年に一度開催されてきたYIDFFでは、2000本以上の応募がある中から、例年150~200本ほどの映画を上映。世界から集まる珠玉のドキュメンタリー作品をいち早く目撃できる映画祭であるとともに、若手監督を輩出するアジアドキュメンタリー映画の登竜門としても知られています。 2019年の動員数は約23,000人。期間中は、市内数か所の会場で一日中ドキュメンタリー映画が上映され、参加者は音楽フェスのように、思い思いに映画を楽しみます。市内は、国内外から訪れる映画関係者や愛好者で活気づき、人々がドキュメンタリー映画について語りつくす一週間となります。 リアルを写し、貴重な記録として受け継がれるドキュメンタリー 豪華な俳優が出演し、大きく広告を打つような劇映画とは違った魅力がドキュメンタリー映画にはあります。 「ドキュメンタリーには、現地にいるからこそ撮影できるリアルがそこには映し出されています。報道とは違った角度から、世界の今を知ることができるんです。」 藤岡さんはそのようにドキュメンタリー映画を語ります。 「さらに、過去の歴史を知ることができる側面もドキュメンタリー映画は持ち合わせています。YIDFFは最新作を上映するだけではなく、過去の作品を保存するライブラリーを保有しており、国内外の貴重な記録を歴史的な資料として後世に継承する役割も担っています。映画祭期間外に山形へ鑑賞に訪れる方もいますよ。」 監督自身が写したいもの、伝えたいことが映像になって現れるドキュメンタリー映画。二度と出会うことのない一瞬の連続が詰まった映像には、普段の生活では知り得ない光景が広がっています。それはお金で価値をつけられるものではなく、それらを受け継いでいくこともまた世界にとって大きな意味のあることなのです。 地域や人との繋がりが感じられる「市民による映画祭」 提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭 市民ボランティアや、地元企業によって支えられていることもYIDFFの大きな特徴です。 「近年都会では失われてしまいつつある人と人のつながりが山形には生き続けているんです。映画祭期間中は、映画祭公認の交流の居酒屋“香味庵”で、ボランティア、監督、参加者、みなが集いフラットに交流を楽しみます。レッドカーペットをスターが歩くきらびやかな映画祭とはまた違った魅力がありますよね。」と藤岡さんは語ります。 ボランティアスタッフには地元住民や近隣大学の生徒など、多くの市民が参加しており、上映会場や香味庵の運営をはじめ、英語が話せるスタッフであれば来日した監督のアテンドや字幕のない作品の同時通訳なども担っています。 またYIDFFの黎明に精神的な柱だった小川紳介監督率いる小川プロの存在も映画祭を語る上で欠かせない存在です。彼らが成田空港建設反対闘争を描いた“三里塚”シリーズの後、山形に移住して映画製作を続けたことが、山形を映画の街にした大きな礎となったのです。 人と映画との偶然的な出会いを楽しむという贅沢さ 提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭 期間中、参加者はプログラムを手に会場を巡り、朝から夜まで様々な作品を鑑賞します。作品は、長いものだと3時間以上に及ぶ長編作品もあり、その空き時間や食事時に、地元のお店で一息つくというのが、多くの参加者のルーティーン。そして夜は、米どころ山形産の日本酒をたしなみながら映画の感想を語り合う時間を過ごし、翌朝には作品鑑賞から一日が始まるのです。 そんなYIDFFでは、監督や評論家などの専門家、地元住民や遠方からの参加者など誰もが訪れることのできる“香味庵”を中心に、多くの出会いがあります。 香味庵の様子 提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭 「映画鑑賞後に監督と出会うことができたり、初めて出会った人同士であっても同じ作品を観たもの同士ああでもない、こうでもないと語り合うことができたりする映画祭であることも大きな醍醐味です。」と藤岡さんは言います。 「映画鑑賞後に立ち話をしていたらお目当ての作品を見逃してしまい、しかたなく入った別作品が思いがけずとても良い作品だった、など、作品との予期せぬ出会いも起こります。このような偶然や奇跡を楽しむのも、オンライン上映では味わうことのできない体験です。」 宣伝内容やレビューを事前にチェックする情報先行型の見方や、タイムパフォーマンスを考える映像の視聴方法が主流となりつつある中、YIDFFの面白さは全く逆の、思いもよらない映画や人との出会いにあります。縁に身を任せて偶然を楽しむという贅沢な時間を参加者にもたらしてくれるのです。 2023年山形国際ドキュメンタリー映画祭の楽しみ方 提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭 2023年のYIDFFで注目したい作品を、プログラム別に広報の村田さんにお聞きしました。 「インターナショナル・コンペティションプログラムでは、ウクライナの作品が2作品上映されます。監督自身が救護兵として前線に参加した様子や兵士たちの休暇などを映し出した「東部戦線」、そして、ゼレンスキー大統領が当選した選挙の年の市民たちを追った「三人の女たち」です。2作品ともウクライナを撮った作品ですが、全く違った切り口で、どちらも大変見ごたえがある作品です。 アジア千波万波プログラムでは、ミャンマーの「地の上、地の下」、「鳥が飛び立つとき」、「負け戦でも」の3本が上映されます。混乱が続くミャンマーですが、現地で一般市民の犠牲者が出ていることなどの実情は、日本ではあまり伝わっていないように思います。そこで同じアジアの国として、ミャンマーの作品をYIDFFでお届けしたいと考えています。 やまがたと映画プログラムからは、山形の肘折温泉全編ロケ作品の「雪の詩」がおすすめです。肘折温泉は、昔から湯治場として多くのアーティストや作家などの文化人が集う場所で、映画も例外ではなく、過去に多くの作品が製作される舞台でした。 今回1976年に撮られた「雪の詩」のフィルムが47年ぶりに発掘されたことにより、上映される運びとなりました。本作は劇映画ですが、70年代の街並みを背景に多くの地元民がエキストラとして参加しており、当時の様子がフィルムを通してよみがえる様はドキュメンタリー性を持ち合わせています。 野田真吉特集:モノと生の祝祭プログラムにも注目していただきたいです。野田真吉は、戦前から東宝映画の文化映画部で演出を手掛け、企業PR映画や民俗芸能映画などの記録映像をはじめとし、地元のお祭り、ニュース映像など幅広い映像を残した人物です。早くから映像民俗学に取り組み、「日本映像民俗学の会」を立ち上げた人物でありながら、国内でもほとんどフィーチャーされてこなかった彼の作品が、一挙に上映される貴重な機会です。」 ドキュメンタリー映画と聞くと、馴染みのない方には“著名人のライフストーリーを追った作品”や“自然をテーマにした作品”などが思い浮かぶかも知れません。しかし、ドキュメンタリー映画と一口に言っても実は多種多様。社会問題、アートや人々の日常を追った作品など人間の活動にまつわる全ての事柄が作品の題材となり得るのです。 「YIDFFでは、監督がドキュメンタリー映画と称すれば応募可能なのも面白いところです。」と村田さんは話します。 そのため“これってドキュメンタリー映画なの!?”と感じるようなクリエイティブに富んだ作品もあり、これまでのドキュメンタリー映画の固定概念を覆す出会いが期待できます。 コロナが明けて初めての開催。ヤマガタにまた“お祭り”が戻ってくる! 提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭 現地の山形では、映画祭以外の期間も、ドキュメンタリー企画を磨く育成ワークショップや山形県各地での上映会、映画にまつわるワークショップなど多くの活動が行われています。山形で日々行われているローカルな活動と、世界の作品が集う2年に一度のグローバルな映画祭。地元の人に大切に紡がれ、親しまれていることこそ、映画祭が多くの人々を魅了し続けている所以なのかもしれません。 ヤマガタで、世界の今を知る一週間。これまでドキュメンタリー映画に縁がなかった方も、作品と出会いにどっぷり浸かる豊かな時間を過ごしに、映画祭を訪れてみては。 山形国際ドキュメンタリー映画祭2023 10月5日(木)~10月12日(木)公式サイト:www.yidff.jp/2023/ ※U-NEXTに映画祭特集プログラムで過去上映作品を配信《9月下旬開始》https://video.unext.jp/browse/feature/FET0001939

  • 端材に命を吹き込む。ANIMA FORMAが生み出す一点モノのアートから大量生産社会を考える

    本物の動物を想起させるANIMA FORMA(アニマフォルマ)の作品。ANIMA FORMAは、作品の材料にウール生地の生産過程で廃棄される端材を使ったアップサイクルアートプロジェクトです。作品を通して動物たちが私たちに語り掛けてくることとは? ANIMA FORMAのデザイナー村松恵さんに作品の背景にある想いを伺いました。 不要になったウール生地の端材に新たに命を吹き込んだアート“ANIMA FORMA” ANIMA FORMAの展示会に訪れるなり、目に飛び込んでくるのは壁に掛けられた様々な動物たち。牛のような大きなものから、ムササビのような小さなものまで、本物にはない配色でありながら、どこかリアルで、まるで生きているかのような躍動感を感じます。それもそのはず、作品はウールなどの生地の端材を使用し、形はカット前の剥いだ状態の動物の毛皮からインスピレーションを得たもの。ANIMA FORMAは、コートやジャケットなどの衣服やブランケットなどに使われるウール生地の生産段階で出てしまう端材に命を吹き込み、壁に飾るアート、ウォールハンギングとして生まれ変わらせるアップサイクルのアートプロジェクトです。 きっかけは大量に生産される中で不要になる「端材」 プロジェクトを始動させたデザイナーの村松恵さんは、美術大学を卒業し、生活雑貨のデザイナーとして働くなど、長年テキスタイルデザインに関わってきました。そこでいつも目にしてきたのが、織物工場の端っこに積み上げられていたウール生地などの端材です。衣服や雑貨の生産過程でどうしても発生してしまう端材の山を見て、いつも違和感があったと村松さんは言います。「織物工場で不要になった端材を見るたびに、何かに使えないだろうかと考えていました。それと同時に、大量生産され使い捨てが当たり前になってしまった現代のモノの在り方にも疑問を持っていたんです。その思いが形となったのが、端材となった獣毛を使った作品です。獣毛を再び動物の形に“戻す”ことで、獣毛の端材にまだ残存している生命の痕跡が見える化され、この世で唯一無二の価値を持つ毛物(獣)が生まれると感じました。」 量産されたものを唯一無二のアートに作り替えていく 本物の動物のようでありながら、インテリアにも溶け込むデザインのANIMA FORMAの作品は、製作段階からひとつひとつこだわりを持ってデザインされています。「リアルすぎないようにしつつも、どんな動物かを想像できるようなフォルムにしています。革をとるために開いた状態にされた動物の毛皮を参考にはしていますが、全くその通りではなく、そこにデザインを加えて架空の動物を作り上げています。」動物の色や柄を決めていく工程では、村松さんがひとつひとつをデザインし、二つとして同じ作品ができることはありません。「工場から送られてくる端材は素材もカラーも様々です。季節やトレンドによって出回るカラーや柄が変わってくるので、その時々で違った表情に仕上がります。偶然的に集まった生地の端材を組み合わせて、思いもよらない配色の毛物(獣)が生まれる瞬間が、制作する中で一番面白いところだと思っています。」レイアウトされた端材は、素材の繊維同士を絡ませフェルト化する“ニードルパンチ”という工程を経て、一枚の作品になります。 二つとして同じものがない作品からは、コピーされ大量に生産されたモノにはない、私たち人間や動物たちが持つ個性や多様性のようなものを感じます。その時にしかない出会いを楽しめるのも、ANIMA FORMAの大きな魅力のひとつです。 モノとの出会いから“本当のサステナブル”を考える 私生活では、アンティークの雑貨に出会える蚤の市によく足を運ぶという村松さん。ひとつひとつのモノとの出会いを大切にし、その時に“ビビッ!”とくる感覚も大切にしていると言います。「私が着ている洋服はほとんどが古着なんです。アンティークの雑貨にも目がありません。洋服や雑貨が、どのように作られてどのように使われてきたのか、教えてもらったり、想像したりするのが好きなんです。そんな風にANIMA FORMAの作品も見てもらえたらという思いで制作しています。」 ここ数年で一気に持続可能な社会の在り方が考えられるようになってきましたが、“エコ”などのワードが書かれた商品を購入することだけではなく、もとからあるものを長く使うことや、モノとの出会いを大切にすることこそ、本当のサステナブルなのではないかと改めて気付かされます。 最後に、今後のアート活動について、村松さんにお聞きしました。「ANIMA FORMAは私の活動の中のひとつのプロジェクトです。今後も新しいプロジェクトを立ち上げていきたいと思っていますが、どんなプロジェクトをするにしても、すでにあるものや不要なものを作り替えて価値を付けていくということは一貫してテーマにしていきたいです。」 今年、初の海外での展示会を控えているANIMA FORMA。強くもしなやかなメッセージを発信するアートプロジェクトはどのような広がりを見せるのか。これからも目が離せません。 プロフィール 村松恵さん 1983年東京生まれ。多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻卒。株式会社良品計画の生活雑貨部企画デザイン室を経て独立。2021年、布地の生産過程において廃棄される端材を一点モノの毛物(獣)として蘇らせるアートプロジェクト「ANIMA FORMA」を始動。これまでの展示に「Life in Art Exhibition」MUJI GINZA(2021)「MEGUMI MURAMATSU EXHIBITION」世界遺産富岡製糸場(2022)「ANIMA FORMA×FEEL SEEN」FEEL SEEN GINZA (2023)などがある。 【ANIMA FORMA最新展示情報】ANIMA FORMAがフィンランド フォルッサ市で行われるテキスタイルの展示会「Forssa textile week 2023」に出展予定。デザイン大国であり、サステナビリティへの意識・関心が高いフィンランドで、日本発・端材から作られる一点モノのANIMA FORMAの作品が披露されます。https://www.forssatextileweek.fi/ ANIMA FORMA公式HP https://animaforma.com/公式インスタグラム @animaforma

  • 海洋プラに新たな価値を。アップサイクルアクセサリーsobolonが、かわいいワケ

    思わず「かわいい!」と声をあげてしまうほど美しくキラキラとしたアクセサリー。でも実はこれ、かわいいだけじゃないんです! sobolon は、海岸から拾ってきた海洋プラスチックを使いネックレスやピアス、イヤリングなどを制作・販売するアクセサリーブランド。今回は、その魅力に迫るべく、sobolon代表の山崎姫菜子さんにお話を伺いました。 厄介者ではなく、大切な地球の一部として扱いたい 「海洋プラスチック」とは、海を漂うプラスチックごみのこと。便利な生活になった一方で、私たち人間は大量のプラスチックを海に放出してきました。自然に還るまで何百年、何千年もかかると言われるプラスチックは、一度海に流れ出てしまうと漂い続け、劣化して小さな破片になったものは魚や鳥が間違えて食べてしまうことも珍しくありません。 そんな「厄介者」とされる海洋プラスチックですが、その海洋プラスチックを材料としてオリジナルアクセサリーを制作しているジュエリーブランドがあります。それがsobolonです。 心ときめく世界にひとつしかないジュエリー 指輪、ネックレス、ピアス、イヤリングなど、sobolonのアクセサリーはすべてクリエイターによる手作り作品です。海洋プラスチックの特徴を知り尽くしたクリエイターが、異なるカラーや形を組み合わせながら世界に一つしかないアクセサリーを作り上げています。カラフルで個性的なもの、シンプルで普段使いしやすいものなど、デザインが豊富なのも特徴。オンラインショップではセミオーダーも受け付けています。 sobolonの原点は“我慢”と“制約” ブランドの原点は、代表の山崎さんが子どもの時に学校で環境問題のことを学び、大きなショックを受けたことにあります。 「私たちの住む地球で大変なことが起きていると知り、アクションを起こしたいと思いました。でも“我慢”“制約”と言ったネガティブな方法しか思いつかず結局挫折。その後は学業の忙しさなどもあって、具体的な活動を起こすことができないまま、モヤモヤを抱えて大人になりました。」 そんな山崎さんが行動を起こしたのは、社会人になってからのことです。「やはり、環境問題の解決のために何か活動がしたいと、諦められない気持ちがありました。そんなとき大きなきっかけになったのが、仲間の存在です。進学や就職で一度はバラバラになった同級生3人が、再び地元の岐阜に戻ってくることになったのです。みんなに想いを打ち明けると、“やってみよう!”という話になり、4人で創業しました。 今は結婚や出産などライフスタイルが大きく変化してメンバーは変わっていますが、彼女たちの存在が大きな支えとなりました。」母親が手芸好きで、自身も元々モノづくりが好きだったという山崎さん。手先を動かすことに加えてファッションやデザインにも興味があったことから、海洋プラスチックをアクセサリーにするというアイデアが生まれたそうです。 海洋プラスチックがジュエリーにアップサイクルされるまで ひとつひとつニュアンスの異なるジュエリーができるまでには、海洋プラスチックを使ったアクセサリーならではの工程があります。まずは砂浜に打ち上げられた海洋プラスチックの回収から始まります。主な回収場所は、活動の拠点となっている岐阜県から近い愛知県常滑市の海岸です。 次に選別を行います。手で簡単に砕くことができるか、もしくはハサミを使って細かくできるかどうかを基準に、厚さ約1~2mm程度のものを選んでいきます。 選別され洗浄されたプラスチックは、全国にいるsobolonのクリエイターへと送られます。クリエイターの元に届いたら、そこからデザインと製作作業がスタート。海洋プラスチックはひとつひとつサイズや色が異なるので、先にデザインを決めるわけではなく、パーツを組み合わせながらプラスチックの色や形を生かしたデザインに仕上げていきます。 山崎さんは、海洋プラスチックの素材の特徴が生かされていることに加え、クリエイターによる多彩なデザインもsobolonのアクセサリーの面白さだと言います。 「クリエイターさん同士でコミュニケーションを取り、アイデアをシェアし合うので、デザインがどんどんブラッシュアップされていくんです。クリエイターさんの個性が光るのもハンドメイドならではの味わいです。そこも楽しみながらご自身のお気に入りの一点を見つけて欲しいです。」 アクセサリーに使えなかったプラスチックも価値あるものに 大量に漂着する海洋プラスチックのなかには、アクセサリーには適さない大きさや硬さのものもあります。sobolonではそのような海洋プラスチックを、アクセサリー以外の方法で活用しています。各地で行っているのは、子どもたちと一緒に海洋プラスチックのモザイクアートを作る活動。分割された用紙に指定の色のプラスチックを貼り、それを組み合わせることで、全員で大きな一枚の絵を作り上げます。他にも万華鏡作りのワークショップを開催するなど、ものづくりやアートを純粋に楽しみながら、材料の海洋プラスチックを通して環境問題を身近に感じてもらうことができればと考えています。 環境問題に興味を持つ入り口に「かわいい!」を まじめに取り組もうと思えば思うほど“我慢しなければならない”という思考に陥りがちな環境問題。しかし、本当の意味で持続可能なものにしていくには、前向きな姿勢が必要だと、山崎さんは考えます。 「環境問題の解決に向けて様々なアプローチがある中で、かわいい!というところから海洋プラスチックや環境問題に興味を持ってもらうことが私たちの目的です。私たちが回収・アップサイクルする海洋プラスチックは全体から見れば微々たる量で、直接問題の解決に繋がるものではありません。しかし、一見遠回りに思えても、ポジティブに楽しむことが、環境問題を考える“入口”になるのではないかと考えています。」 最後に山崎さんは豊かさについてこう話してくれました。「大量生産・大量消費の現代、環境問題をはじめとした社会問題がたくさんありますが、それは私たちの心の豊かさが失われていることからきているように感じます。“自然の恵みにより私たち人間は生かされている”という感謝の気持ちや、物を長く大切にする気持ちを持つことこそが、心が豊かであることだと思うんです。“自分自身の心がハッピーになることが環境や社会の豊かさにも繋がっていく”そんな想いをsobolonのアクセサリーにのせて広げていきたいです。」 一見不格好で必要とされていない「そぼろ」なものでも、見方を変えればかわいいものになるという意味が込められているsobolon。かわいいアクセサリーとして私たちの元に帰ってきた海洋プラスチックは、私たちに物を大切に使い続けることの大切さを教えてくれます。 sobolonオンラインショップ https://sobolon3695.thebase.in/公式インスタグラム(取扱店やポップアップストア情報はこちらから) https://www.instagram.com/sobolon3695/

  • 洋服の大量廃棄問題に挑む。環境配慮型ファイバーボード「PANECO®」

    世界中で衣服の大量消費・大量廃棄の問題が取りざたされる中、不要になった衣類を捨てるのではなく、新しい素材として再利用する動きが進んでいます。今回は、不要な衣服を原料とするファイバーボード「PANECO(パネコ)」を開発した株式会社ワークスタジオを取材。パネコ開発の背景にある、廃棄衣服の問題意識やサーキュラーエコノミーの考え方について話を伺いました。 インテリアとして生まれ変わる廃棄衣服 誰もがファッションを手軽に楽しめる時代。その一方で、衣服のライフサイクルが早まり、それが大量廃棄に繋がっているとされている。環境への負荷を最小限にとどめ、持続可能な社会を作っていくために、衣服の大量廃棄は私たちが今すぐに向き合わなければならない問題のひとつだ。 そんな中、一つの新しい技術が今注目されている。廃棄になるはずだった衣服が原料になっているファイバーボード「PANECO(パネコ)」だ。パネコは、衣服を細かく粉砕し、特殊な技術を用いて作られている。現在は主に、大手アパレルブランドの内装や什器、企業の受付カウンターとして使用されることが多い。 パネコが什器として使用されているFREAK'S STORE(株式会社デイトナ・インターナショナル)。写真は、アミュプラザ博多店 また、パネコの大きな特徴の一つとして、木製のボードのように加工がしやすいという点が挙げられ、コースターやハンガーなど、デザインや使い方次第で様々な製品を生み出すことができる。 衣服由来ということもあり、パネコの質感やカラーも特徴的だ。使用する衣服次第では様々な色のボードを作ることができ、子ども部屋のインテリアにもなりそうなカラフルで可愛らしいものもある。 サーキュラーエコノミーを取り入れたミニマムなデザイン パネコのボードがサステナブルであるのは、不要になった衣服を原料としている点だけではない。「パネコは繰り返しボードとして再利用することが可能で、役目が終わった時のことまで考えて生産されています。」そう語るのは、株式会社ワークスタジオの篠嵜さんだ。「使用後のボードは再度、粉砕し原料として使用できます。パネコを使用することにより、廃棄物を減らすことが可能となります。」手放すときのことも考えて生産するサーキュラーエコノミーの考え方が取り入れられているのだ。 例えば今までは、什器が大掛かりに入れ替えられていた店舗の内装リニューアルも、パネコのような環境配慮型の素材選定や設計により廃棄物を出さず、ミニマルでシンプルな入れ替えが実現する。 パネコは衣類だけでなく、スニーカーや木材を原料に混ぜ込んで作ることもできる 洋服が行きつく先を視察することでより深くファッションロスを考える ワークスタジオは、もともとは什器のデザインなどを行っており、アパレル業界ともかかわりの深い会社だった。衣類からもボードを作れるのではないかという話から、洋服の大量廃棄問題を知ることとなり、約3年の研究を経て、リサイクルボードであるパネコの開発に成功した。 ワークスタジオでは、洋服の廃棄問題に本格的に取り組みたいとの思いから、代表と社員が世界中から古着が集まるアフリカのガーナを訪問。先進国で不要となった衣服の行く末を実際にその目で見てきた。 ガーナでは、マーケットに各国から届いた古着が届けられ、商人は売れそうな洋服を見極めて持ち帰るが、売れないと判断された洋服は捨てられてしまいゴミとなる。ガーナに届けられた衣類の多くが廃棄になってしまうというのが現実だ。さらに、不要とされた洋服はゴミになるといっても焼却処分されるわけではない。衣類はゴミ置き場に運ばれると、そのまま積み上げられ、見上げるほど巨大なゴミの山の一部となる。ゴミの山のすぐ近くには住宅もあり、人々の生活がある。隣接する海にも、ゴミの一部が流れ出て、洋服が波の打ち付ける砂浜に埋まってしまい、どんなに引っ張っても回収できない状態になっているという。 状況は違うにせよ、日本でも毎日大量の洋服が捨てられていく。私たちも他人ごとではなく、一人ひとりが考えていかなくてはいけない大きな問題だ。 展示会では廃棄になった服の山を表現。来場者の目をひいた 「都市森林」から価値あるものを作り出す 「都市鉱山ということばがあるように、私たちは都市森林があると思っています。都市森林とはクローゼットに眠っている衣服のことで、それも立派な資源のひとつと考えています。」篠嵜さんは話す。「1つの考えとして、我々、消費者自身が何かを購入する時に、モノのライフサイクルを考えることが大切だと思います。」 輸送時の環境負荷なども考えてアップサイクルやリサイクルはその土地で行う「地産地消」のかたちをとるパネコ。次は、海外でも、その国や土地で出た廃棄衣類を原料に、ファイバーボードを製造する技術を広めていく予定だ。 持続可能なファッションを目指すために 国内で毎日何万トンもあるといわれる洋服の廃棄。今私たち消費者には大きな意識の変革が求められている。必要以上に購入せず、一枚の洋服を大切に長持ちさせること。それでも不要になった衣服はパネコのような選択肢があるということを知っておきたい。今後店舗でパネコを見かけたときは、未来に向けて持続可能なファッションとはなにか、今一度考えてみてほしい。 PANECO®公式HP https://paneco.tokyo/

  • ソーシャルグッドロースターズに聞く、人と社会に寄り添うコーヒーができるまで

    東京、神田に画期的なコーヒーショップがあるのをご存知でしょうか。ソーシャルグッドロースターズ千代田は、福祉施設でありながら、こだわりのコーヒーを提供するコーヒーショップです。今世界が未来に向けて目指す、「誰一人取り残さない社会」はどのように作られるのか?そのヒントを探すため、商品のクオリティだけでなく、コーヒーに関わる人たちに重きを置くソーシャルグッドロースターズを取材しました。 新しいかたちの福祉施設 平日の昼下がり。ソーシャルグッドロースターズには、近隣に住む人や、オフィスで働く人々が一杯のコーヒーを求めて次々と来店する。 コーヒーの香ばしい香りが充満する店内は、生豆の選別や焙煎、接客、コーヒーのドリップなど、それぞれの仕事に取り組むスタッフで活気づいている。 ソーシャルグッドロースターズが他のコーヒーショップと違う点は、焙煎所を兼ねるロースタリーカフェでありながら、障がいがある人が働く福祉施設でもあるという点だ。ここでは様々な障がいのある人たちが、コーヒーづくりから接客に至るまで、それぞれ得意な分野を担当しながら専門的な経験を積める就労の場として活用している。 はじまりは障がい者の働き方の現状を知ったこと ソーシャルグッドロースターズを運営する一般社団法人ビーンズ代表の坂野さんは、障がい者の方と一緒に外出するボランティアをしていた際、本人やその母親から働き先がない、と聞くことがよくあったと言う。 「実際に障がい者の人と一緒に仕事を探してみると、働き先の数はあるものの、職種が極端に少ない状況でした。どうしても単純作業が多く、やりがいやスキルアップの機会を見いだせない仕事が多かったのです。それは高い離職率からも顕著でした。そこで、障がい者の人も、社会で働く他の人々と同じように、技術を習得でき、自分の仕事に誇りを持って働けるような福祉施設を作りたいと思い、このような場所を立ち上げることになりました。」 “障がい者でもできる仕事”ではなく、“みんながやりたいと思えるような仕事”で、スキルも身に着けられるような仕事を、と選んだのがコーヒーショップだった。 一人ひとりの個性が生かされたコーヒーづくり ここでのコーヒーづくりは、人の手で生豆をひとつひとつ選別するハンドソーティングから始まる。農産物である生豆の中には虫が食っているものや欠けている豆があり、それが入ってしまうと雑味に繋がるとされるため、取り除く必要があるのだ。簡単なようで、意外と難しいハンドソーティングは、集中力と根気がいる作業だ。 選別された豆は、世界でもトップクラスの焙煎機「GIESEN」で焙煎。ブレンドの作業では、一人ではなく味覚の鋭い障がい者を含めたスタッフ数人で行い、調整して本当に美味しいと思えるものに仕上げている。そして最後にコーヒーは、ハンドドリップで一杯ずつ丁寧に淹れていくか、バリスタの手によってエスプレッソマシンで淹れられ提供される。 このように、ハンドソーティングからはじまり、焙煎、ブレンド、ドリップ、接客に至るまで、たくさんの役割がある中、スタッフは、それぞれが自分の能力を発揮できる持ち場についている。美味しいコーヒーをつくり提供するという共通のゴールを持ちながら、個性を生かし、尊重し合いながら働いているのだ。 社会の一員として誇りを持って働ける現場を ソーシャルグッドロースターズでは、立ち上げの際の設備投資を惜しまなかったと坂野さんは話す。「みんながチャレンジしていける場を作りたかったんです。そのためには世界レベルの焙煎機やエスプレッソマシンが必要だと思いました。最初は誰一人として機械の使い方がわからなかったんですよ(笑)でも今は、使いこなせるスタッフが数名います。」実際にここで働くことで一人ひとりの知識や経験値、技術が向上しているのだ。 「スタッフには、福祉施設だということをアピールしないで下さいよ、と言われます。障がいのあるなしに関わらず、全員が社会で働く一人として、プライドを持って働いてくれているんです。」お店でコーヒーが作られていく過程を見ると、どの工程も訓練やスキルがないと難しい。そして出来上がったコーヒーも一流のコーヒーショップと遜色がない。声を掛け合う和やかな空気が流れる中、スタッフがそれぞれの仕事に熱中する様子からは、美味しいコーヒーを作りたいという意気込みが伝わってくる。 どこまでも平等であることを追求する ソーシャルグッドロースターズで仕入れる豆は、インドのコーヒー農園からフェアトレードで購入している。持続可能なコーヒーの生産を目指すコーヒーサプライヤーであるオリジンコーヒーグループと「人に優しいコーヒーを」という思いを一緒に、できるだけコーヒー生産者に売り上げを還元できるような仕組みを整えた。 豆が生産されてからお店に届くまで、どこにどのくらいコストがかかっているか、徹底的に透明化。ソーシャルグッドロースターズでは、その詳細を毎回仕入れごとに確認している。 社会にとって平等であるか、ということをどこまでも追及しているのだ。 一杯のコーヒーを通して見えてくるこれからの社会 名前の通り、「ソーシャルグッド」な流れを生み出すソーシャルグッドロースターズ。ここにいると、「誰一人取り残さない社会」とはどんなものなのか、一杯のコーヒーを通して見えてくる。障がいのあるなしに関わらず、一人ひとりの多様性を認め合い、みんなが平等に社会の一員として活躍できること。そしてそれが社会にとって良い循環を生み出していくこと。美味しいコーヒーとともに、誰もが大切に思われる社会の重要性を考えさせてくれる貴重なコーヒーショップだ。 ソーシャルグッドロースターズ千代田東京都千代田区神田錦町1-14-13 LANDPOOL KANDA TERRACE 2F10:00~18:00日曜定休・都営新宿線/三田線/東京メトロ 半蔵門線「神保町駅」徒歩6分・都営新宿線「小川町駅」徒歩2分・東京メトロ 丸ノ内線「淡路町駅」徒歩2分・東京メトロ 千代田線「新御茶ノ水駅」徒歩2分・JR/つくばエキスプレス/東京メトロ 日比谷線「秋葉原駅」徒歩12分https://sgroasters.jp/

  • フラワーロスを900万本救済。老舗の花屋が私たちの未来に残したいもの

    私たちの人生の節目や日常を豊かに彩ってくれる花。しかし、花が私たちの手元に届くまでに、実はたくさんの花の廃棄「フラワーロス」が存在しているのをご存じでしょうか。今回は、“Leave no flower behind=一輪の花も取り残さない”というモットーで活動を行うスマイルフラワープロジェクトを取材。フラワーロスの問題や、プロジェクトが目指す花のある豊かな社会について話を伺いました。 コロナで明るみに。花の廃棄「フラワーロス」問題 2020年4月、コロナの急速な感染拡大により、緊急事態宣言が発令された。休業要請や行動制限の他、予定されていたイベントがすべて中止になり、社会では多くの「ロス(廃棄)」が発生。その中で大量の生花も行き場を失い、「フラワーロス」という言葉が世の中に広く知れ渡るようになった。 コロナは大きなきっかけだったが、実はそれ以前から農家や花屋の店頭では、たくさんの花が日の目を見ないまま廃棄される現状があった。野菜と同じで花には規格があり、茎の長さが足りない、傷がある、茎が曲がっている、葉っぱが足りないなど、規格に満たないと市場では買い取ってもらえない。さらに、店頭では品揃えを豊富にするため花を多めに仕入れる傾向にあり、すべて売り切れずに鮮度が落ち、廃棄になるものが多くある。 毎年どのくらいの花が廃棄されているかを示すはっきりとしたデータはないものの、規格外により農家で廃棄されてしまう花が6億本以上と総生産数の2~3割、店頭での廃棄は仕入れの3割にのぼり、少なく見積もっても一年に10億本ものフラワーロスがあるとされている。 長年花に携わってきた企業として花のある文化を未来に残したい スマイルフラワープロジェクトは、コロナをきっかけにフラワーロスを救済する活動を本格化。今まで900万本を超える花を救ってきただけでなく、フラワーロスについて知ってもらう活動を精力的に行っている。 このプロジェクトを先導しているのは、東京や富山、大阪を拠点に花屋を展開する業界有数のグループ会社だ。 「花の命を一本も無駄にしないために、農家とお客さんを繋ぐ花屋としてできることをしていきたいと思っています。」プロジェクトを立ち上げた株式会社ジャパン・フラワー・コーポレーションの大槻さんは言う。「弊社では創業以来、一輪の花も無駄にしないよう、割引などをして売り切り、それでも残ってしまった場合は茎や葉を堆肥にするなどの工夫をしてきましたが、スマイルフラワープロジェクトではさらに踏み込んでフラワーロスの問題にアプローチしています。コロナで行き場を失ってしまった花を救うことを目標にスタートしたプロジェクトですが、今では農家さんの協力をいただきながら、これまで廃棄が当然とされてきた『規格外』の花も価値あるものとして世に送り出しています。」 花農家と一緒にフラワーロスゼロを目指す プロジェクトではロスのない生産流通を確立するために生産者とコミュニケーションを重ね、これまで廃棄されることが業界の通例であった「規格外」の花を買い取ってECサイトで販売をしている。これは業界初の試みだ。 また、花は適正価格で購入することで、農家をサポートできる仕組みになっている。スタート当初、農家では産地のブランドイメージを守るためにロスを公にしたがらないところも多かったが、今は賛同してくれる農家が増えてきているという。 品質、生産量ともに日本一の浜松PCガーベラ。スタート当初からプロジェクトに賛同している 実際にスマイルフラワープロジェクトで販売されている花は、小さな傷がある、少し曲がっている程度で、規格外と言っても自宅で楽しむ分には何の問題もない。購入者からも産地から届く新鮮な花は好評を得ている。 さらに、大槻さんはフラワーロスのアップサイクルを推進するため、花染花馥研究所(はなそめはなふくけんきゅうじょ)を設立。花を使った染色やインクの製造をはじめ、同グループのバラ専門店ROSE GALLERYの香り高いバラからはローズウォーターを抽出。それを配合したルームフレグランス「re:ROSE」を販売するなど、まさに、花一輪、一滴も無駄にしないためにできることを日々研究している。 フラワーロスを知らなかった人に花を届ける スマイルフラワープロジェクトでは、フラワーロスを知ってもらうイベントも積極的に実施している。 上智大学のキャンパスでは、フラワーロスの存在を若い世代に知ってもらいたいと、学生と一緒に規格外の花を配るイベントを開催。当日は用意していた500本の花をあっという間に配り終え、急遽フラワーカーの装飾として使用した500本もブーケとして配り大盛況に終わった。 また、航空会社JALとタッグを組んで、朝採れの「規格外」の花を羽田空港へ空輸し、空港利用者に配布。フラワーロスを知ってもらうのと同時に、日本各地の産地と都会を結び、地方創生につなげたい思いがあった。花を受け取った人からは、「フラワーロスのことを初めて知ったが、とても綺麗で嬉しい」と、多くの喜びの声が聞かれた。 上智大学でのイベントには長蛇の列ができた さらには「フラワーライフ振興協議会」を設立し、世界遺産や国宝を会場にフラワーイベントを実施したり、富山で球根を育てるために切り落とされてしまうチューリップ30万輪を使ってフラワーカーペットを作るなど、全国でフラワーロスや花の魅力を知ってもらう活動を行っている。 “花も人と同じ、一輪も取り残したくない” 「活動を通して、ひとの心に寄り添い笑顔にしてくれるお花の力は思う以上のものがあると何度も勇気づけられてきました。私たちが一人ひとり個性を持っているのと同じように、姿かたちの個性も含めて一輪の花も無駄にすることなく活かしてゆきたいと思っています。」と大槻さんは話す。 花農家は、後継者不足で存続が厳しいところが多く、コロナをはじめ社会の情勢によって花の価格が急落してしまうリスクを常に抱え、課題はフラワーロスの削減だけではない。 もし、世の中から花がなくなってしまったら、私たちの生活から彩りが失われてしまうのではないだろうか。 フラワースマイルプロジェクトはこれからも農家と一緒になって、花のある豊かな文化を未来に残していきたいと考えている。 取材を通して~花の命を無駄にしないために私たちにできること フラワーロスの話を聞いてまず驚いたのが1年に10億本と言われる廃棄される花の数だ。その数から、私たちの手元に届く花は厳しい基準をクリアした完璧な花であることに改めて気が付かされる。私たちにできることはまずフラワーロスという問題を知ること。それだけでも規格外の花をインターネットで探してみたり、数日前に作られ店頭で安くなっているブーケを購入したりするきっかけになるのではないかと思う。 スマイルフラワープロジェクトhttps://jfc.thebase.in/フラワーロスのサブスクリプションhttps://flover-s.jp/

  • 行き場のないコスメの救世主。プラスコスメプロジェクトが描く「クリエイティブな循環」

    洋服の大量廃棄問題は耳にすることも多くなりましたが、実は同じく深刻なのがコスメの廃棄です。洋服と同じく、流行などに左右されやすいコスメは、使いきれずに捨てられてしまうケースも珍しくありません。 今回は、“コスメを通じてクリエイティブな循環を実現させたい”そんな想いのもと、不要になった化粧品を回収し画材として新たに生まれ変わらせる取り組みを行う、PLUS COSME PROJECT(プラスコスメプロジェクト)を取材しました。 コスメのアップサイクルとは? 子どもたちによる自由で想像力豊かなアート。これは、コスメから作られた画材を使って描かれた作品です。コスメが元から持っている色味や質感を生かすことで、画材として魅力あるものに生まれ変わります。捨てられるはずだったものが新たな価値を持ち、生まれ変わるというコスメのアップサイクルは、まだ使えるものを再利用することで廃棄を減らすことはもちろん、コスメの廃棄問題を広く知ってもらうという大きな役割を担っています。 プラスコスメプロジェクトのアンケート調査によると、女性80名のうち6割が化粧品を使いきれずに捨てた経験があると回答。コスメの廃棄問題は、私たちにとって身近な問題なのです。 始まりは化粧品の大量廃棄に疑問を持ったこと 「化粧品の廃棄問題を知ったのは、以前化粧品会社に勤務していた時でした。中身が残ったままの化粧品が大量に廃棄されていくのを見て、化粧品業界のサステナビリティを考えるようになりました。自分自身もコスメのテスターやサンプルをどのように処分したらよいか困っていたんです。」そう話すのは、プラスコスメプロジェクト代表の坂口翠さん。当時、スキンケア化粧品のボトルをリサイクルする動きはあったものの、コスメそのものをリサイクルするという選択肢はなく、不要になったたくさんのコスメが行き場を失い、廃棄になっていたのです。 坂口さんは、化粧品業界の環境問題やサステナビリティを学ぶために、大学院へ入学。化粧品リサイクルなどの研究をスタート。2012年には、メイクアップコスメを画材へアップサイクルするプラスコスメプロジェクトの活動を開始しました。 プラスコスメプロジェクト代表の坂口翠さん 活動を行っていてよく聞くようになったのが「余ったコスメを廃棄することができず、とても困っていた。このように再活用してもらえると嬉しい」という人々の声です。協力企業からも「廃棄するものなので是非とも活用してもらいたい」と賛同の声が上がっています。 コスメならではのカラー。アップサイクルクレヨンができるまで プラスコスメプロジェクトのアップサイクルはメイクアップコスメを集めることから始まります。個人で不要になったコスメの他に、化粧品メーカーや商業施設、団体からも不要コスメを回収。回収したコスメはまず、容器から残っている化粧品を取り出します。それを色ごとに分別し、蜜蝋などの材料と混ぜ合わせ、クレヨンが出来上がります。メイクアップコスメが持っているラメなどの質感もそのままクレヨンに引き継がれるので、これまでのクレヨンとは違った色味を楽しむことができるのが特徴です。また、アップサイクルクレヨンは安全認証機関でも安全テストを受けているので、安心して使用することができます。 アートを楽しむことがコスメの廃棄問題を知ることに繋がる プロジェクトでは、アートイベントやアーティストへの画材提供を行い、アート活動をサポートする取り組みも行っています。他にも地域密着型の化粧品店で、不要コスメから絵具を作るワークショップなども開催。クリエイティブな時間を楽しんでもらいながら、コスメの廃棄問題についても知ってもらいたいという思いがあります。プラスコスメプロジェクトは、不要になってしまったコスメとアートを楽しむ人々をつなぎ、コスメのサステナビリティ意識を広める役割も果たしているのです。 プラスコスメプロジェクトの見つめる未来 これまで受注制作がメインでしたが、今プラスコスメプロジェクトでは、クレヨンを販売する計画が進んでいます。坂口さんが2012年にプロジェクトを開始したときに思い描いていたものが現実のものになっているそうです。コスメを回収してからクレヨンが完成するまで全てを手作業で行っているため、回収量が多いときは製作が追い付かないという苦労もありながら、坂口さんは活動に確かな手ごたえを感じています。「コスメを廃棄することに悩んだり、罪悪感を抱く人も少なくありません。そんな中でプロジェクトに取り組んでいると、行き場のないコスメを再活用してもらえることに感謝され、想いに賛同してくれる方も多くいらっしゃいます。国内外のアートイベントで活用されている報告や、応援の声が大きな原動力となっています。」また、コスメを捨てるのに罪悪感を持っている人のためにもなりたいと話します。 「ご縁があって手元にはやってきたものの、どうしても使うことができず、不要になってしまった残ったままの化粧品。その化粧品が新たな形で再利用されれば、手放す際の“小さなわだかまり(ストレス)”も少し軽くなるのではないでしょうか。それは心の中の健やかさや美しさにもつながっていくのではないかと思っています。」 プラスコスメプロジェクトは、誰でも簡単に参加することができます。「現在は郵送でも不要コスメ回収を受け付けておりますので、是非ともご一報ください! 皆様の代わりにアップサイクルさせて頂きます。また画材提供先として不要コスメで作品を描いてくださるアーティストさんも随時募集しております。今後この活動が必要なくなった時は、本当の意味で化粧品のサステナブルな仕組みが実現したときだと思っております。」 ポップアートアーティストへ画材を提供した際、廃棄されるはずだったコスメが画材として絵画に変化していく様子を見て、感動を覚えたという坂口さん。アーティストへの提供を通じて日本のサスティナブルアート文化を盛り上げていきたいこと、絵本作家と協力し子どもたちと一緒に地球環境を考える絵本を製作したいことなど、坂口さんは色彩豊かな未来を描いています。 <編集後記> コスメを使いきることができず廃棄した経験や、ポーチで眠ったままにしている方は多いのではないでしょうか。筆者にもそんな経験があり、不要になったコスメの活用方法があることを多くの方に知ってもらいたいという思いから今回プラスコスメプロジェクトさんを取材させて頂きました。コスメを使う人々や企業、アーティスト、子どもたちを巻き込みながら、不要コスメから始まる循環の輪はますます広がりを見せてゆくでしょう。10年目を迎えたプラスコスメプロジェクト。今後の活動にも期待したいと思います! PLUS COSME PROJECT公式サイト https://www.pluscosmeproject.com/Instagram公式アカウント https://www.instagram.com/pluscosmeproject/