世界中で衣服の大量消費・大量廃棄の問題が取りざたされる中、不要になった衣類を捨てるのではなく、新しい素材として再利用する動きが進んでいます。今回は、不要な衣服を原料とするファイバーボード「PANECO(パネコ)」を開発した株式会社ワークスタジオを取材。パネコ開発の背景にある、廃棄衣服の問題意識やサーキュラーエコノミーの考え方について話を伺いました。 インテリアとして生まれ変わる廃棄衣服 誰もがファッションを手軽に楽しめる時代。その一方で、衣服のライフサイクルが早まり、それが大量廃棄に繋がっているとされている。環境への負荷を最小限にとどめ、持続可能な社会を作っていくために、衣服の大量廃棄は私たちが今すぐに向き合わなければならない問題のひとつだ。 そんな中、一つの新しい技術が今注目されている。廃棄になるはずだった衣服が原料になっているファイバーボード「PANECO(パネコ)」だ。パネコは、衣服を細かく粉砕し、特殊な技術を用いて作られている。現在は主に、大手アパレルブランドの内装や什器、企業の受付カウンターとして使用されることが多い。 パネコが什器として使用されているFREAK'S STORE(株式会社デイトナ・インターナショナル)。写真は、アミュプラザ博多店 また、パネコの大きな特徴の一つとして、木製のボードのように加工がしやすいという点が挙げられ、コースターやハンガーなど、デザインや使い方次第で様々な製品を生み出すことができる。 衣服由来ということもあり、パネコの質感やカラーも特徴的だ。使用する衣服次第では様々な色のボードを作ることができ、子ども部屋のインテリアにもなりそうなカラフルで可愛らしいものもある。 サーキュラーエコノミーを取り入れたミニマムなデザイン パネコのボードがサステナブルであるのは、不要になった衣服を原料としている点だけではない。「パネコは繰り返しボードとして再利用することが可能で、役目が終わった時のことまで考えて生産されています。」そう語るのは、株式会社ワークスタジオの篠嵜さんだ。「使用後のボードは再度、粉砕し原料として使用できます。パネコを使用することにより、廃棄物を減らすことが可能となります。」手放すときのことも考えて生産するサーキュラーエコノミーの考え方が取り入れられているのだ。 例えば今までは、什器が大掛かりに入れ替えられていた店舗の内装リニューアルも、パネコのような環境配慮型の素材選定や設計により廃棄物を出さず、ミニマルでシンプルな入れ替えが実現する。 パネコは衣類だけでなく、スニーカーや木材を原料に混ぜ込んで作ることもできる 洋服が行きつく先を視察することでより深くファッションロスを考える ワークスタジオは、もともとは什器のデザインなどを行っており、アパレル業界ともかかわりの深い会社だった。衣類からもボードを作れるのではないかという話から、洋服の大量廃棄問題を知ることとなり、約3年の研究を経て、リサイクルボードであるパネコの開発に成功した。 ワークスタジオでは、洋服の廃棄問題に本格的に取り組みたいとの思いから、代表と社員が世界中から古着が集まるアフリカのガーナを訪問。先進国で不要となった衣服の行く末を実際にその目で見てきた。 ガーナでは、マーケットに各国から届いた古着が届けられ、商人は売れそうな洋服を見極めて持ち帰るが、売れないと判断された洋服は捨てられてしまいゴミとなる。ガーナに届けられた衣類の多くが廃棄になってしまうというのが現実だ。さらに、不要とされた洋服はゴミになるといっても焼却処分されるわけではない。衣類はゴミ置き場に運ばれると、そのまま積み上げられ、見上げるほど巨大なゴミの山の一部となる。ゴミの山のすぐ近くには住宅もあり、人々の生活がある。隣接する海にも、ゴミの一部が流れ出て、洋服が波の打ち付ける砂浜に埋まってしまい、どんなに引っ張っても回収できない状態になっているという。 状況は違うにせよ、日本でも毎日大量の洋服が捨てられていく。私たちも他人ごとではなく、一人ひとりが考えていかなくてはいけない大きな問題だ。 展示会では廃棄になった服の山を表現。来場者の目をひいた 「都市森林」から価値あるものを作り出す 「都市鉱山ということばがあるように、私たちは都市森林があると思っています。都市森林とはクローゼットに眠っている衣服のことで、それも立派な資源のひとつと考えています。」篠嵜さんは話す。「1つの考えとして、我々、消費者自身が何かを購入する時に、モノのライフサイクルを考えることが大切だと思います。」 輸送時の環境負荷なども考えてアップサイクルやリサイクルはその土地で行う「地産地消」のかたちをとるパネコ。次は、海外でも、その国や土地で出た廃棄衣類を原料に、ファイバーボードを製造する技術を広めていく予定だ。 持続可能なファッションを目指すために 国内で毎日何万トンもあるといわれる洋服の廃棄。今私たち消費者には大きな意識の変革が求められている。必要以上に購入せず、一枚の洋服を大切に長持ちさせること。それでも不要になった衣服はパネコのような選択肢があるということを知っておきたい。今後店舗でパネコを見かけたときは、未来に向けて持続可能なファッションとはなにか、今一度考えてみてほしい。 PANECO®公式HP https://paneco.tokyo/
東京、神田に画期的なコーヒーショップがあるのをご存知でしょうか。ソーシャルグッドロースターズ千代田は、福祉施設でありながら、こだわりのコーヒーを提供するコーヒーショップです。今世界が未来に向けて目指す、「誰一人取り残さない社会」はどのように作られるのか?そのヒントを探すため、商品のクオリティだけでなく、コーヒーに関わる人たちに重きを置くソーシャルグッドロースターズを取材しました。 新しいかたちの福祉施設 平日の昼下がり。ソーシャルグッドロースターズには、近隣に住む人や、オフィスで働く人々が一杯のコーヒーを求めて次々と来店する。 コーヒーの香ばしい香りが充満する店内は、生豆の選別や焙煎、接客、コーヒーのドリップなど、それぞれの仕事に取り組むスタッフで活気づいている。 ソーシャルグッドロースターズが他のコーヒーショップと違う点は、焙煎所を兼ねるロースタリーカフェでありながら、障がいがある人が働く福祉施設でもあるという点だ。ここでは様々な障がいのある人たちが、コーヒーづくりから接客に至るまで、それぞれ得意な分野を担当しながら専門的な経験を積める就労の場として活用している。 はじまりは障がい者の働き方の現状を知ったこと ソーシャルグッドロースターズを運営する一般社団法人ビーンズ代表の坂野さんは、障がい者の方と一緒に外出するボランティアをしていた際、本人やその母親から働き先がない、と聞くことがよくあったと言う。 「実際に障がい者の人と一緒に仕事を探してみると、働き先の数はあるものの、職種が極端に少ない状況でした。どうしても単純作業が多く、やりがいやスキルアップの機会を見いだせない仕事が多かったのです。それは高い離職率からも顕著でした。そこで、障がい者の人も、社会で働く他の人々と同じように、技術を習得でき、自分の仕事に誇りを持って働けるような福祉施設を作りたいと思い、このような場所を立ち上げることになりました。」 “障がい者でもできる仕事”ではなく、“みんながやりたいと思えるような仕事”で、スキルも身に着けられるような仕事を、と選んだのがコーヒーショップだった。 一人ひとりの個性が生かされたコーヒーづくり ここでのコーヒーづくりは、人の手で生豆をひとつひとつ選別するハンドソーティングから始まる。農産物である生豆の中には虫が食っているものや欠けている豆があり、それが入ってしまうと雑味に繋がるとされるため、取り除く必要があるのだ。簡単なようで、意外と難しいハンドソーティングは、集中力と根気がいる作業だ。 選別された豆は、世界でもトップクラスの焙煎機「GIESEN」で焙煎。ブレンドの作業では、一人ではなく味覚の鋭い障がい者を含めたスタッフ数人で行い、調整して本当に美味しいと思えるものに仕上げている。そして最後にコーヒーは、ハンドドリップで一杯ずつ丁寧に淹れていくか、バリスタの手によってエスプレッソマシンで淹れられ提供される。 このように、ハンドソーティングからはじまり、焙煎、ブレンド、ドリップ、接客に至るまで、たくさんの役割がある中、スタッフは、それぞれが自分の能力を発揮できる持ち場についている。美味しいコーヒーをつくり提供するという共通のゴールを持ちながら、個性を生かし、尊重し合いながら働いているのだ。 社会の一員として誇りを持って働ける現場を ソーシャルグッドロースターズでは、立ち上げの際の設備投資を惜しまなかったと坂野さんは話す。「みんながチャレンジしていける場を作りたかったんです。そのためには世界レベルの焙煎機やエスプレッソマシンが必要だと思いました。最初は誰一人として機械の使い方がわからなかったんですよ(笑)でも今は、使いこなせるスタッフが数名います。」実際にここで働くことで一人ひとりの知識や経験値、技術が向上しているのだ。 「スタッフには、福祉施設だということをアピールしないで下さいよ、と言われます。障がいのあるなしに関わらず、全員が社会で働く一人として、プライドを持って働いてくれているんです。」お店でコーヒーが作られていく過程を見ると、どの工程も訓練やスキルがないと難しい。そして出来上がったコーヒーも一流のコーヒーショップと遜色がない。声を掛け合う和やかな空気が流れる中、スタッフがそれぞれの仕事に熱中する様子からは、美味しいコーヒーを作りたいという意気込みが伝わってくる。 どこまでも平等であることを追求する ソーシャルグッドロースターズで仕入れる豆は、インドのコーヒー農園からフェアトレードで購入している。持続可能なコーヒーの生産を目指すコーヒーサプライヤーであるオリジンコーヒーグループと「人に優しいコーヒーを」という思いを一緒に、できるだけコーヒー生産者に売り上げを還元できるような仕組みを整えた。 豆が生産されてからお店に届くまで、どこにどのくらいコストがかかっているか、徹底的に透明化。ソーシャルグッドロースターズでは、その詳細を毎回仕入れごとに確認している。 社会にとって平等であるか、ということをどこまでも追及しているのだ。 一杯のコーヒーを通して見えてくるこれからの社会 名前の通り、「ソーシャルグッド」な流れを生み出すソーシャルグッドロースターズ。ここにいると、「誰一人取り残さない社会」とはどんなものなのか、一杯のコーヒーを通して見えてくる。障がいのあるなしに関わらず、一人ひとりの多様性を認め合い、みんなが平等に社会の一員として活躍できること。そしてそれが社会にとって良い循環を生み出していくこと。美味しいコーヒーとともに、誰もが大切に思われる社会の重要性を考えさせてくれる貴重なコーヒーショップだ。 ソーシャルグッドロースターズ千代田東京都千代田区神田錦町1-14-13 LANDPOOL KANDA TERRACE 2F10:00~18:00日曜定休・都営新宿線/三田線/東京メトロ 半蔵門線「神保町駅」徒歩6分・都営新宿線「小川町駅」徒歩2分・東京メトロ 丸ノ内線「淡路町駅」徒歩2分・東京メトロ 千代田線「新御茶ノ水駅」徒歩2分・JR/つくばエキスプレス/東京メトロ 日比谷線「秋葉原駅」徒歩12分https://sgroasters.jp/
私たちの人生の節目や日常を豊かに彩ってくれる花。しかし、花が私たちの手元に届くまでに、実はたくさんの花の廃棄「フラワーロス」が存在しているのをご存じでしょうか。今回は、“Leave no flower behind=一輪の花も取り残さない”というモットーで活動を行うスマイルフラワープロジェクトを取材。フラワーロスの問題や、プロジェクトが目指す花のある豊かな社会について話を伺いました。 コロナで明るみに。花の廃棄「フラワーロス」問題 2020年4月、コロナの急速な感染拡大により、緊急事態宣言が発令された。休業要請や行動制限の他、予定されていたイベントがすべて中止になり、社会では多くの「ロス(廃棄)」が発生。その中で大量の生花も行き場を失い、「フラワーロス」という言葉が世の中に広く知れ渡るようになった。 コロナは大きなきっかけだったが、実はそれ以前から農家や花屋の店頭では、たくさんの花が日の目を見ないまま廃棄される現状があった。野菜と同じで花には規格があり、茎の長さが足りない、傷がある、茎が曲がっている、葉っぱが足りないなど、規格に満たないと市場では買い取ってもらえない。さらに、店頭では品揃えを豊富にするため花を多めに仕入れる傾向にあり、すべて売り切れずに鮮度が落ち、廃棄になるものが多くある。 毎年どのくらいの花が廃棄されているかを示すはっきりとしたデータはないものの、規格外により農家で廃棄されてしまう花が6億本以上と総生産数の2~3割、店頭での廃棄は仕入れの3割にのぼり、少なく見積もっても一年に10億本ものフラワーロスがあるとされている。 長年花に携わってきた企業として花のある文化を未来に残したい スマイルフラワープロジェクトは、コロナをきっかけにフラワーロスを救済する活動を本格化。今まで900万本を超える花を救ってきただけでなく、フラワーロスについて知ってもらう活動を精力的に行っている。 このプロジェクトを先導しているのは、東京や富山、大阪を拠点に花屋を展開する業界有数のグループ会社だ。 「花の命を一本も無駄にしないために、農家とお客さんを繋ぐ花屋としてできることをしていきたいと思っています。」プロジェクトを立ち上げた株式会社ジャパン・フラワー・コーポレーションの大槻さんは言う。「弊社では創業以来、一輪の花も無駄にしないよう、割引などをして売り切り、それでも残ってしまった場合は茎や葉を堆肥にするなどの工夫をしてきましたが、スマイルフラワープロジェクトではさらに踏み込んでフラワーロスの問題にアプローチしています。コロナで行き場を失ってしまった花を救うことを目標にスタートしたプロジェクトですが、今では農家さんの協力をいただきながら、これまで廃棄が当然とされてきた『規格外』の花も価値あるものとして世に送り出しています。」 花農家と一緒にフラワーロスゼロを目指す プロジェクトではロスのない生産流通を確立するために生産者とコミュニケーションを重ね、これまで廃棄されることが業界の通例であった「規格外」の花を買い取ってECサイトで販売をしている。これは業界初の試みだ。 また、花は適正価格で購入することで、農家をサポートできる仕組みになっている。スタート当初、農家では産地のブランドイメージを守るためにロスを公にしたがらないところも多かったが、今は賛同してくれる農家が増えてきているという。 品質、生産量ともに日本一の浜松PCガーベラ。スタート当初からプロジェクトに賛同している 実際にスマイルフラワープロジェクトで販売されている花は、小さな傷がある、少し曲がっている程度で、規格外と言っても自宅で楽しむ分には何の問題もない。購入者からも産地から届く新鮮な花は好評を得ている。 さらに、大槻さんはフラワーロスのアップサイクルを推進するため、花染花馥研究所(はなそめはなふくけんきゅうじょ)を設立。花を使った染色やインクの製造をはじめ、同グループのバラ専門店ROSE GALLERYの香り高いバラからはローズウォーターを抽出。それを配合したルームフレグランス「re:ROSE」を販売するなど、まさに、花一輪、一滴も無駄にしないためにできることを日々研究している。 フラワーロスを知らなかった人に花を届ける スマイルフラワープロジェクトでは、フラワーロスを知ってもらうイベントも積極的に実施している。 上智大学のキャンパスでは、フラワーロスの存在を若い世代に知ってもらいたいと、学生と一緒に規格外の花を配るイベントを開催。当日は用意していた500本の花をあっという間に配り終え、急遽フラワーカーの装飾として使用した500本もブーケとして配り大盛況に終わった。 また、航空会社JALとタッグを組んで、朝採れの「規格外」の花を羽田空港へ空輸し、空港利用者に配布。フラワーロスを知ってもらうのと同時に、日本各地の産地と都会を結び、地方創生につなげたい思いがあった。花を受け取った人からは、「フラワーロスのことを初めて知ったが、とても綺麗で嬉しい」と、多くの喜びの声が聞かれた。 上智大学でのイベントには長蛇の列ができた さらには「フラワーライフ振興協議会」を設立し、世界遺産や国宝を会場にフラワーイベントを実施したり、富山で球根を育てるために切り落とされてしまうチューリップ30万輪を使ってフラワーカーペットを作るなど、全国でフラワーロスや花の魅力を知ってもらう活動を行っている。 “花も人と同じ、一輪も取り残したくない” 「活動を通して、ひとの心に寄り添い笑顔にしてくれるお花の力は思う以上のものがあると何度も勇気づけられてきました。私たちが一人ひとり個性を持っているのと同じように、姿かたちの個性も含めて一輪の花も無駄にすることなく活かしてゆきたいと思っています。」と大槻さんは話す。 花農家は、後継者不足で存続が厳しいところが多く、コロナをはじめ社会の情勢によって花の価格が急落してしまうリスクを常に抱え、課題はフラワーロスの削減だけではない。 もし、世の中から花がなくなってしまったら、私たちの生活から彩りが失われてしまうのではないだろうか。 フラワースマイルプロジェクトはこれからも農家と一緒になって、花のある豊かな文化を未来に残していきたいと考えている。 取材を通して~花の命を無駄にしないために私たちにできること フラワーロスの話を聞いてまず驚いたのが1年に10億本と言われる廃棄される花の数だ。その数から、私たちの手元に届く花は厳しい基準をクリアした完璧な花であることに改めて気が付かされる。私たちにできることはまずフラワーロスという問題を知ること。それだけでも規格外の花をインターネットで探してみたり、数日前に作られ店頭で安くなっているブーケを購入したりするきっかけになるのではないかと思う。 スマイルフラワープロジェクトhttps://jfc.thebase.in/フラワーロスのサブスクリプションhttps://flover-s.jp/
洋服の大量廃棄問題は耳にすることも多くなりましたが、実は同じく深刻なのがコスメの廃棄です。洋服と同じく、流行などに左右されやすいコスメは、使いきれずに捨てられてしまうケースも珍しくありません。 今回は、“コスメを通じてクリエイティブな循環を実現させたい”そんな想いのもと、不要になった化粧品を回収し画材として新たに生まれ変わらせる取り組みを行う、PLUS COSME PROJECT(プラスコスメプロジェクト)を取材しました。 コスメのアップサイクルとは? 子どもたちによる自由で想像力豊かなアート。これは、コスメから作られた画材を使って描かれた作品です。コスメが元から持っている色味や質感を生かすことで、画材として魅力あるものに生まれ変わります。捨てられるはずだったものが新たな価値を持ち、生まれ変わるというコスメのアップサイクルは、まだ使えるものを再利用することで廃棄を減らすことはもちろん、コスメの廃棄問題を広く知ってもらうという大きな役割を担っています。 プラスコスメプロジェクトのアンケート調査によると、女性80名のうち6割が化粧品を使いきれずに捨てた経験があると回答。コスメの廃棄問題は、私たちにとって身近な問題なのです。 始まりは化粧品の大量廃棄に疑問を持ったこと 「化粧品の廃棄問題を知ったのは、以前化粧品会社に勤務していた時でした。中身が残ったままの化粧品が大量に廃棄されていくのを見て、化粧品業界のサステナビリティを考えるようになりました。自分自身もコスメのテスターやサンプルをどのように処分したらよいか困っていたんです。」そう話すのは、プラスコスメプロジェクト代表の坂口翠さん。当時、スキンケア化粧品のボトルをリサイクルする動きはあったものの、コスメそのものをリサイクルするという選択肢はなく、不要になったたくさんのコスメが行き場を失い、廃棄になっていたのです。 坂口さんは、化粧品業界の環境問題やサステナビリティを学ぶために、大学院へ入学。化粧品リサイクルなどの研究をスタート。2012年には、メイクアップコスメを画材へアップサイクルするプラスコスメプロジェクトの活動を開始しました。 プラスコスメプロジェクト代表の坂口翠さん 活動を行っていてよく聞くようになったのが「余ったコスメを廃棄することができず、とても困っていた。このように再活用してもらえると嬉しい」という人々の声です。協力企業からも「廃棄するものなので是非とも活用してもらいたい」と賛同の声が上がっています。 コスメならではのカラー。アップサイクルクレヨンができるまで プラスコスメプロジェクトのアップサイクルはメイクアップコスメを集めることから始まります。個人で不要になったコスメの他に、化粧品メーカーや商業施設、団体からも不要コスメを回収。回収したコスメはまず、容器から残っている化粧品を取り出します。それを色ごとに分別し、蜜蝋などの材料と混ぜ合わせ、クレヨンが出来上がります。メイクアップコスメが持っているラメなどの質感もそのままクレヨンに引き継がれるので、これまでのクレヨンとは違った色味を楽しむことができるのが特徴です。また、アップサイクルクレヨンは安全認証機関でも安全テストを受けているので、安心して使用することができます。 アートを楽しむことがコスメの廃棄問題を知ることに繋がる プロジェクトでは、アートイベントやアーティストへの画材提供を行い、アート活動をサポートする取り組みも行っています。他にも地域密着型の化粧品店で、不要コスメから絵具を作るワークショップなども開催。クリエイティブな時間を楽しんでもらいながら、コスメの廃棄問題についても知ってもらいたいという思いがあります。プラスコスメプロジェクトは、不要になってしまったコスメとアートを楽しむ人々をつなぎ、コスメのサステナビリティ意識を広める役割も果たしているのです。 プラスコスメプロジェクトの見つめる未来 これまで受注制作がメインでしたが、今プラスコスメプロジェクトでは、クレヨンを販売する計画が進んでいます。坂口さんが2012年にプロジェクトを開始したときに思い描いていたものが現実のものになっているそうです。コスメを回収してからクレヨンが完成するまで全てを手作業で行っているため、回収量が多いときは製作が追い付かないという苦労もありながら、坂口さんは活動に確かな手ごたえを感じています。「コスメを廃棄することに悩んだり、罪悪感を抱く人も少なくありません。そんな中でプロジェクトに取り組んでいると、行き場のないコスメを再活用してもらえることに感謝され、想いに賛同してくれる方も多くいらっしゃいます。国内外のアートイベントで活用されている報告や、応援の声が大きな原動力となっています。」また、コスメを捨てるのに罪悪感を持っている人のためにもなりたいと話します。 「ご縁があって手元にはやってきたものの、どうしても使うことができず、不要になってしまった残ったままの化粧品。その化粧品が新たな形で再利用されれば、手放す際の“小さなわだかまり(ストレス)”も少し軽くなるのではないでしょうか。それは心の中の健やかさや美しさにもつながっていくのではないかと思っています。」 プラスコスメプロジェクトは、誰でも簡単に参加することができます。「現在は郵送でも不要コスメ回収を受け付けておりますので、是非ともご一報ください! 皆様の代わりにアップサイクルさせて頂きます。また画材提供先として不要コスメで作品を描いてくださるアーティストさんも随時募集しております。今後この活動が必要なくなった時は、本当の意味で化粧品のサステナブルな仕組みが実現したときだと思っております。」 ポップアートアーティストへ画材を提供した際、廃棄されるはずだったコスメが画材として絵画に変化していく様子を見て、感動を覚えたという坂口さん。アーティストへの提供を通じて日本のサスティナブルアート文化を盛り上げていきたいこと、絵本作家と協力し子どもたちと一緒に地球環境を考える絵本を製作したいことなど、坂口さんは色彩豊かな未来を描いています。 <編集後記> コスメを使いきることができず廃棄した経験や、ポーチで眠ったままにしている方は多いのではないでしょうか。筆者にもそんな経験があり、不要になったコスメの活用方法があることを多くの方に知ってもらいたいという思いから今回プラスコスメプロジェクトさんを取材させて頂きました。コスメを使う人々や企業、アーティスト、子どもたちを巻き込みながら、不要コスメから始まる循環の輪はますます広がりを見せてゆくでしょう。10年目を迎えたプラスコスメプロジェクト。今後の活動にも期待したいと思います! 【PLUS COSME PROJECT】公式サイト https://www.pluscosmeproject.com/Instagram公式アカウント https://www.instagram.com/pluscosmeproject/
世界中で衣服の大量消費・大量廃棄の問題が取りざたされる中、不要になった衣類を捨てるのではなく、新しい素材として再利用する動きが進んでいます。今回は、不要な衣服を原料とするファイバーボード「PANECO(パネコ)」を開発した株式会社ワークスタジオを取材。パネコ開発の背景にある、廃棄衣服の問題意識やサーキュラーエコノミーの考え方について話を伺いました。 インテリアとして生まれ変わる廃棄衣服 誰もがファッションを手軽に楽しめる時代。その一方で、衣服のライフサイクルが早まり、それが大量廃棄に繋がっているとされている。環境への負荷を最小限にとどめ、持続可能な社会を作っていくために、衣服の大量廃棄は私たちが今すぐに向き合わなければならない問題のひとつだ。 そんな中、一つの新しい技術が今注目されている。廃棄になるはずだった衣服が原料になっているファイバーボード「PANECO(パネコ)」だ。パネコは、衣服を細かく粉砕し、特殊な技術を用いて作られている。現在は主に、大手アパレルブランドの内装や什器、企業の受付カウンターとして使用されることが多い。 パネコが什器として使用されているFREAK'S STORE(株式会社デイトナ・インターナショナル)。写真は、アミュプラザ博多店 また、パネコの大きな特徴の一つとして、木製のボードのように加工がしやすいという点が挙げられ、コースターやハンガーなど、デザインや使い方次第で様々な製品を生み出すことができる。 衣服由来ということもあり、パネコの質感やカラーも特徴的だ。使用する衣服次第では様々な色のボードを作ることができ、子ども部屋のインテリアにもなりそうなカラフルで可愛らしいものもある。 サーキュラーエコノミーを取り入れたミニマムなデザイン パネコのボードがサステナブルであるのは、不要になった衣服を原料としている点だけではない。「パネコは繰り返しボードとして再利用することが可能で、役目が終わった時のことまで考えて生産されています。」そう語るのは、株式会社ワークスタジオの篠嵜さんだ。「使用後のボードは再度、粉砕し原料として使用できます。パネコを使用することにより、廃棄物を減らすことが可能となります。」手放すときのことも考えて生産するサーキュラーエコノミーの考え方が取り入れられているのだ。 例えば今までは、什器が大掛かりに入れ替えられていた店舗の内装リニューアルも、パネコのような環境配慮型の素材選定や設計により廃棄物を出さず、ミニマルでシンプルな入れ替えが実現する。 パネコは衣類だけでなく、スニーカーや木材を原料に混ぜ込んで作ることもできる 洋服が行きつく先を視察することでより深くファッションロスを考える ワークスタジオは、もともとは什器のデザインなどを行っており、アパレル業界ともかかわりの深い会社だった。衣類からもボードを作れるのではないかという話から、洋服の大量廃棄問題を知ることとなり、約3年の研究を経て、リサイクルボードであるパネコの開発に成功した。 ワークスタジオでは、洋服の廃棄問題に本格的に取り組みたいとの思いから、代表と社員が世界中から古着が集まるアフリカのガーナを訪問。先進国で不要となった衣服の行く末を実際にその目で見てきた。 ガーナでは、マーケットに各国から届いた古着が届けられ、商人は売れそうな洋服を見極めて持ち帰るが、売れないと判断された洋服は捨てられてしまいゴミとなる。ガーナに届けられた衣類の多くが廃棄になってしまうというのが現実だ。さらに、不要とされた洋服はゴミになるといっても焼却処分されるわけではない。衣類はゴミ置き場に運ばれると、そのまま積み上げられ、見上げるほど巨大なゴミの山の一部となる。ゴミの山のすぐ近くには住宅もあり、人々の生活がある。隣接する海にも、ゴミの一部が流れ出て、洋服が波の打ち付ける砂浜に埋まってしまい、どんなに引っ張っても回収できない状態になっているという。 状況は違うにせよ、日本でも毎日大量の洋服が捨てられていく。私たちも他人ごとではなく、一人ひとりが考えていかなくてはいけない大きな問題だ。 展示会では廃棄になった服の山を表現。来場者の目をひいた 「都市森林」から価値あるものを作り出す 「都市鉱山ということばがあるように、私たちは都市森林があると思っています。都市森林とはクローゼットに眠っている衣服のことで、それも立派な資源のひとつと考えています。」篠嵜さんは話す。「1つの考えとして、我々、消費者自身が何かを購入する時に、モノのライフサイクルを考えることが大切だと思います。」 輸送時の環境負荷なども考えてアップサイクルやリサイクルはその土地で行う「地産地消」のかたちをとるパネコ。次は、海外でも、その国や土地で出た廃棄衣類を原料に、ファイバーボードを製造する技術を広めていく予定だ。 持続可能なファッションを目指すために 国内で毎日何万トンもあるといわれる洋服の廃棄。今私たち消費者には大きな意識の変革が求められている。必要以上に購入せず、一枚の洋服を大切に長持ちさせること。それでも不要になった衣服はパネコのような選択肢があるということを知っておきたい。今後店舗でパネコを見かけたときは、未来に向けて持続可能なファッションとはなにか、今一度考えてみてほしい。 PANECO®公式HP https://paneco.tokyo/
東京、神田に画期的なコーヒーショップがあるのをご存知でしょうか。ソーシャルグッドロースターズ千代田は、福祉施設でありながら、こだわりのコーヒーを提供するコーヒーショップです。今世界が未来に向けて目指す、「誰一人取り残さない社会」はどのように作られるのか?そのヒントを探すため、商品のクオリティだけでなく、コーヒーに関わる人たちに重きを置くソーシャルグッドロースターズを取材しました。 新しいかたちの福祉施設 平日の昼下がり。ソーシャルグッドロースターズには、近隣に住む人や、オフィスで働く人々が一杯のコーヒーを求めて次々と来店する。 コーヒーの香ばしい香りが充満する店内は、生豆の選別や焙煎、接客、コーヒーのドリップなど、それぞれの仕事に取り組むスタッフで活気づいている。 ソーシャルグッドロースターズが他のコーヒーショップと違う点は、焙煎所を兼ねるロースタリーカフェでありながら、障がいがある人が働く福祉施設でもあるという点だ。ここでは様々な障がいのある人たちが、コーヒーづくりから接客に至るまで、それぞれ得意な分野を担当しながら専門的な経験を積める就労の場として活用している。 はじまりは障がい者の働き方の現状を知ったこと ソーシャルグッドロースターズを運営する一般社団法人ビーンズ代表の坂野さんは、障がい者の方と一緒に外出するボランティアをしていた際、本人やその母親から働き先がない、と聞くことがよくあったと言う。 「実際に障がい者の人と一緒に仕事を探してみると、働き先の数はあるものの、職種が極端に少ない状況でした。どうしても単純作業が多く、やりがいやスキルアップの機会を見いだせない仕事が多かったのです。それは高い離職率からも顕著でした。そこで、障がい者の人も、社会で働く他の人々と同じように、技術を習得でき、自分の仕事に誇りを持って働けるような福祉施設を作りたいと思い、このような場所を立ち上げることになりました。」 “障がい者でもできる仕事”ではなく、“みんながやりたいと思えるような仕事”で、スキルも身に着けられるような仕事を、と選んだのがコーヒーショップだった。 一人ひとりの個性が生かされたコーヒーづくり ここでのコーヒーづくりは、人の手で生豆をひとつひとつ選別するハンドソーティングから始まる。農産物である生豆の中には虫が食っているものや欠けている豆があり、それが入ってしまうと雑味に繋がるとされるため、取り除く必要があるのだ。簡単なようで、意外と難しいハンドソーティングは、集中力と根気がいる作業だ。 選別された豆は、世界でもトップクラスの焙煎機「GIESEN」で焙煎。ブレンドの作業では、一人ではなく味覚の鋭い障がい者を含めたスタッフ数人で行い、調整して本当に美味しいと思えるものに仕上げている。そして最後にコーヒーは、ハンドドリップで一杯ずつ丁寧に淹れていくか、バリスタの手によってエスプレッソマシンで淹れられ提供される。 このように、ハンドソーティングからはじまり、焙煎、ブレンド、ドリップ、接客に至るまで、たくさんの役割がある中、スタッフは、それぞれが自分の能力を発揮できる持ち場についている。美味しいコーヒーをつくり提供するという共通のゴールを持ちながら、個性を生かし、尊重し合いながら働いているのだ。 社会の一員として誇りを持って働ける現場を ソーシャルグッドロースターズでは、立ち上げの際の設備投資を惜しまなかったと坂野さんは話す。「みんながチャレンジしていける場を作りたかったんです。そのためには世界レベルの焙煎機やエスプレッソマシンが必要だと思いました。最初は誰一人として機械の使い方がわからなかったんですよ(笑)でも今は、使いこなせるスタッフが数名います。」実際にここで働くことで一人ひとりの知識や経験値、技術が向上しているのだ。 「スタッフには、福祉施設だということをアピールしないで下さいよ、と言われます。障がいのあるなしに関わらず、全員が社会で働く一人として、プライドを持って働いてくれているんです。」お店でコーヒーが作られていく過程を見ると、どの工程も訓練やスキルがないと難しい。そして出来上がったコーヒーも一流のコーヒーショップと遜色がない。声を掛け合う和やかな空気が流れる中、スタッフがそれぞれの仕事に熱中する様子からは、美味しいコーヒーを作りたいという意気込みが伝わってくる。 どこまでも平等であることを追求する ソーシャルグッドロースターズで仕入れる豆は、インドのコーヒー農園からフェアトレードで購入している。持続可能なコーヒーの生産を目指すコーヒーサプライヤーであるオリジンコーヒーグループと「人に優しいコーヒーを」という思いを一緒に、できるだけコーヒー生産者に売り上げを還元できるような仕組みを整えた。 豆が生産されてからお店に届くまで、どこにどのくらいコストがかかっているか、徹底的に透明化。ソーシャルグッドロースターズでは、その詳細を毎回仕入れごとに確認している。 社会にとって平等であるか、ということをどこまでも追及しているのだ。 一杯のコーヒーを通して見えてくるこれからの社会 名前の通り、「ソーシャルグッド」な流れを生み出すソーシャルグッドロースターズ。ここにいると、「誰一人取り残さない社会」とはどんなものなのか、一杯のコーヒーを通して見えてくる。障がいのあるなしに関わらず、一人ひとりの多様性を認め合い、みんなが平等に社会の一員として活躍できること。そしてそれが社会にとって良い循環を生み出していくこと。美味しいコーヒーとともに、誰もが大切に思われる社会の重要性を考えさせてくれる貴重なコーヒーショップだ。 ソーシャルグッドロースターズ千代田東京都千代田区神田錦町1-14-13 LANDPOOL KANDA TERRACE 2F10:00~18:00日曜定休・都営新宿線/三田線/東京メトロ 半蔵門線「神保町駅」徒歩6分・都営新宿線「小川町駅」徒歩2分・東京メトロ 丸ノ内線「淡路町駅」徒歩2分・東京メトロ 千代田線「新御茶ノ水駅」徒歩2分・JR/つくばエキスプレス/東京メトロ 日比谷線「秋葉原駅」徒歩12分https://sgroasters.jp/
私たちの人生の節目や日常を豊かに彩ってくれる花。しかし、花が私たちの手元に届くまでに、実はたくさんの花の廃棄「フラワーロス」が存在しているのをご存じでしょうか。今回は、“Leave no flower behind=一輪の花も取り残さない”というモットーで活動を行うスマイルフラワープロジェクトを取材。フラワーロスの問題や、プロジェクトが目指す花のある豊かな社会について話を伺いました。 コロナで明るみに。花の廃棄「フラワーロス」問題 2020年4月、コロナの急速な感染拡大により、緊急事態宣言が発令された。休業要請や行動制限の他、予定されていたイベントがすべて中止になり、社会では多くの「ロス(廃棄)」が発生。その中で大量の生花も行き場を失い、「フラワーロス」という言葉が世の中に広く知れ渡るようになった。 コロナは大きなきっかけだったが、実はそれ以前から農家や花屋の店頭では、たくさんの花が日の目を見ないまま廃棄される現状があった。野菜と同じで花には規格があり、茎の長さが足りない、傷がある、茎が曲がっている、葉っぱが足りないなど、規格に満たないと市場では買い取ってもらえない。さらに、店頭では品揃えを豊富にするため花を多めに仕入れる傾向にあり、すべて売り切れずに鮮度が落ち、廃棄になるものが多くある。 毎年どのくらいの花が廃棄されているかを示すはっきりとしたデータはないものの、規格外により農家で廃棄されてしまう花が6億本以上と総生産数の2~3割、店頭での廃棄は仕入れの3割にのぼり、少なく見積もっても一年に10億本ものフラワーロスがあるとされている。 長年花に携わってきた企業として花のある文化を未来に残したい スマイルフラワープロジェクトは、コロナをきっかけにフラワーロスを救済する活動を本格化。今まで900万本を超える花を救ってきただけでなく、フラワーロスについて知ってもらう活動を精力的に行っている。 このプロジェクトを先導しているのは、東京や富山、大阪を拠点に花屋を展開する業界有数のグループ会社だ。 「花の命を一本も無駄にしないために、農家とお客さんを繋ぐ花屋としてできることをしていきたいと思っています。」プロジェクトを立ち上げた株式会社ジャパン・フラワー・コーポレーションの大槻さんは言う。「弊社では創業以来、一輪の花も無駄にしないよう、割引などをして売り切り、それでも残ってしまった場合は茎や葉を堆肥にするなどの工夫をしてきましたが、スマイルフラワープロジェクトではさらに踏み込んでフラワーロスの問題にアプローチしています。コロナで行き場を失ってしまった花を救うことを目標にスタートしたプロジェクトですが、今では農家さんの協力をいただきながら、これまで廃棄が当然とされてきた『規格外』の花も価値あるものとして世に送り出しています。」 花農家と一緒にフラワーロスゼロを目指す プロジェクトではロスのない生産流通を確立するために生産者とコミュニケーションを重ね、これまで廃棄されることが業界の通例であった「規格外」の花を買い取ってECサイトで販売をしている。これは業界初の試みだ。 また、花は適正価格で購入することで、農家をサポートできる仕組みになっている。スタート当初、農家では産地のブランドイメージを守るためにロスを公にしたがらないところも多かったが、今は賛同してくれる農家が増えてきているという。 品質、生産量ともに日本一の浜松PCガーベラ。スタート当初からプロジェクトに賛同している 実際にスマイルフラワープロジェクトで販売されている花は、小さな傷がある、少し曲がっている程度で、規格外と言っても自宅で楽しむ分には何の問題もない。購入者からも産地から届く新鮮な花は好評を得ている。 さらに、大槻さんはフラワーロスのアップサイクルを推進するため、花染花馥研究所(はなそめはなふくけんきゅうじょ)を設立。花を使った染色やインクの製造をはじめ、同グループのバラ専門店ROSE GALLERYの香り高いバラからはローズウォーターを抽出。それを配合したルームフレグランス「re:ROSE」を販売するなど、まさに、花一輪、一滴も無駄にしないためにできることを日々研究している。 フラワーロスを知らなかった人に花を届ける スマイルフラワープロジェクトでは、フラワーロスを知ってもらうイベントも積極的に実施している。 上智大学のキャンパスでは、フラワーロスの存在を若い世代に知ってもらいたいと、学生と一緒に規格外の花を配るイベントを開催。当日は用意していた500本の花をあっという間に配り終え、急遽フラワーカーの装飾として使用した500本もブーケとして配り大盛況に終わった。 また、航空会社JALとタッグを組んで、朝採れの「規格外」の花を羽田空港へ空輸し、空港利用者に配布。フラワーロスを知ってもらうのと同時に、日本各地の産地と都会を結び、地方創生につなげたい思いがあった。花を受け取った人からは、「フラワーロスのことを初めて知ったが、とても綺麗で嬉しい」と、多くの喜びの声が聞かれた。 上智大学でのイベントには長蛇の列ができた さらには「フラワーライフ振興協議会」を設立し、世界遺産や国宝を会場にフラワーイベントを実施したり、富山で球根を育てるために切り落とされてしまうチューリップ30万輪を使ってフラワーカーペットを作るなど、全国でフラワーロスや花の魅力を知ってもらう活動を行っている。 “花も人と同じ、一輪も取り残したくない” 「活動を通して、ひとの心に寄り添い笑顔にしてくれるお花の力は思う以上のものがあると何度も勇気づけられてきました。私たちが一人ひとり個性を持っているのと同じように、姿かたちの個性も含めて一輪の花も無駄にすることなく活かしてゆきたいと思っています。」と大槻さんは話す。 花農家は、後継者不足で存続が厳しいところが多く、コロナをはじめ社会の情勢によって花の価格が急落してしまうリスクを常に抱え、課題はフラワーロスの削減だけではない。 もし、世の中から花がなくなってしまったら、私たちの生活から彩りが失われてしまうのではないだろうか。 フラワースマイルプロジェクトはこれからも農家と一緒になって、花のある豊かな文化を未来に残していきたいと考えている。 取材を通して~花の命を無駄にしないために私たちにできること フラワーロスの話を聞いてまず驚いたのが1年に10億本と言われる廃棄される花の数だ。その数から、私たちの手元に届く花は厳しい基準をクリアした完璧な花であることに改めて気が付かされる。私たちにできることはまずフラワーロスという問題を知ること。それだけでも規格外の花をインターネットで探してみたり、数日前に作られ店頭で安くなっているブーケを購入したりするきっかけになるのではないかと思う。 スマイルフラワープロジェクトhttps://jfc.thebase.in/フラワーロスのサブスクリプションhttps://flover-s.jp/
洋服の大量廃棄問題は耳にすることも多くなりましたが、実は同じく深刻なのがコスメの廃棄です。洋服と同じく、流行などに左右されやすいコスメは、使いきれずに捨てられてしまうケースも珍しくありません。 今回は、“コスメを通じてクリエイティブな循環を実現させたい”そんな想いのもと、不要になった化粧品を回収し画材として新たに生まれ変わらせる取り組みを行う、PLUS COSME PROJECT(プラスコスメプロジェクト)を取材しました。 コスメのアップサイクルとは? 子どもたちによる自由で想像力豊かなアート。これは、コスメから作られた画材を使って描かれた作品です。コスメが元から持っている色味や質感を生かすことで、画材として魅力あるものに生まれ変わります。捨てられるはずだったものが新たな価値を持ち、生まれ変わるというコスメのアップサイクルは、まだ使えるものを再利用することで廃棄を減らすことはもちろん、コスメの廃棄問題を広く知ってもらうという大きな役割を担っています。 プラスコスメプロジェクトのアンケート調査によると、女性80名のうち6割が化粧品を使いきれずに捨てた経験があると回答。コスメの廃棄問題は、私たちにとって身近な問題なのです。 始まりは化粧品の大量廃棄に疑問を持ったこと 「化粧品の廃棄問題を知ったのは、以前化粧品会社に勤務していた時でした。中身が残ったままの化粧品が大量に廃棄されていくのを見て、化粧品業界のサステナビリティを考えるようになりました。自分自身もコスメのテスターやサンプルをどのように処分したらよいか困っていたんです。」そう話すのは、プラスコスメプロジェクト代表の坂口翠さん。当時、スキンケア化粧品のボトルをリサイクルする動きはあったものの、コスメそのものをリサイクルするという選択肢はなく、不要になったたくさんのコスメが行き場を失い、廃棄になっていたのです。 坂口さんは、化粧品業界の環境問題やサステナビリティを学ぶために、大学院へ入学。化粧品リサイクルなどの研究をスタート。2012年には、メイクアップコスメを画材へアップサイクルするプラスコスメプロジェクトの活動を開始しました。 プラスコスメプロジェクト代表の坂口翠さん 活動を行っていてよく聞くようになったのが「余ったコスメを廃棄することができず、とても困っていた。このように再活用してもらえると嬉しい」という人々の声です。協力企業からも「廃棄するものなので是非とも活用してもらいたい」と賛同の声が上がっています。 コスメならではのカラー。アップサイクルクレヨンができるまで プラスコスメプロジェクトのアップサイクルはメイクアップコスメを集めることから始まります。個人で不要になったコスメの他に、化粧品メーカーや商業施設、団体からも不要コスメを回収。回収したコスメはまず、容器から残っている化粧品を取り出します。それを色ごとに分別し、蜜蝋などの材料と混ぜ合わせ、クレヨンが出来上がります。メイクアップコスメが持っているラメなどの質感もそのままクレヨンに引き継がれるので、これまでのクレヨンとは違った色味を楽しむことができるのが特徴です。また、アップサイクルクレヨンは安全認証機関でも安全テストを受けているので、安心して使用することができます。 アートを楽しむことがコスメの廃棄問題を知ることに繋がる プロジェクトでは、アートイベントやアーティストへの画材提供を行い、アート活動をサポートする取り組みも行っています。他にも地域密着型の化粧品店で、不要コスメから絵具を作るワークショップなども開催。クリエイティブな時間を楽しんでもらいながら、コスメの廃棄問題についても知ってもらいたいという思いがあります。プラスコスメプロジェクトは、不要になってしまったコスメとアートを楽しむ人々をつなぎ、コスメのサステナビリティ意識を広める役割も果たしているのです。 プラスコスメプロジェクトの見つめる未来 これまで受注制作がメインでしたが、今プラスコスメプロジェクトでは、クレヨンを販売する計画が進んでいます。坂口さんが2012年にプロジェクトを開始したときに思い描いていたものが現実のものになっているそうです。コスメを回収してからクレヨンが完成するまで全てを手作業で行っているため、回収量が多いときは製作が追い付かないという苦労もありながら、坂口さんは活動に確かな手ごたえを感じています。「コスメを廃棄することに悩んだり、罪悪感を抱く人も少なくありません。そんな中でプロジェクトに取り組んでいると、行き場のないコスメを再活用してもらえることに感謝され、想いに賛同してくれる方も多くいらっしゃいます。国内外のアートイベントで活用されている報告や、応援の声が大きな原動力となっています。」また、コスメを捨てるのに罪悪感を持っている人のためにもなりたいと話します。 「ご縁があって手元にはやってきたものの、どうしても使うことができず、不要になってしまった残ったままの化粧品。その化粧品が新たな形で再利用されれば、手放す際の“小さなわだかまり(ストレス)”も少し軽くなるのではないでしょうか。それは心の中の健やかさや美しさにもつながっていくのではないかと思っています。」 プラスコスメプロジェクトは、誰でも簡単に参加することができます。「現在は郵送でも不要コスメ回収を受け付けておりますので、是非ともご一報ください! 皆様の代わりにアップサイクルさせて頂きます。また画材提供先として不要コスメで作品を描いてくださるアーティストさんも随時募集しております。今後この活動が必要なくなった時は、本当の意味で化粧品のサステナブルな仕組みが実現したときだと思っております。」 ポップアートアーティストへ画材を提供した際、廃棄されるはずだったコスメが画材として絵画に変化していく様子を見て、感動を覚えたという坂口さん。アーティストへの提供を通じて日本のサスティナブルアート文化を盛り上げていきたいこと、絵本作家と協力し子どもたちと一緒に地球環境を考える絵本を製作したいことなど、坂口さんは色彩豊かな未来を描いています。 <編集後記> コスメを使いきることができず廃棄した経験や、ポーチで眠ったままにしている方は多いのではないでしょうか。筆者にもそんな経験があり、不要になったコスメの活用方法があることを多くの方に知ってもらいたいという思いから今回プラスコスメプロジェクトさんを取材させて頂きました。コスメを使う人々や企業、アーティスト、子どもたちを巻き込みながら、不要コスメから始まる循環の輪はますます広がりを見せてゆくでしょう。10年目を迎えたプラスコスメプロジェクト。今後の活動にも期待したいと思います! 【PLUS COSME PROJECT】公式サイト https://www.pluscosmeproject.com/Instagram公式アカウント https://www.instagram.com/pluscosmeproject/