街に魅力的なチョコレートが並ぶ季節。今年はどれを買おうかと、胸をときめかせる方も多いのではないでしょうか。
たくさんの商品がある中、大切な人への贈り物や自分へのご褒美に手に取りたいのが、生産現場で児童労働が禁止されるなどの取り組みがなされているフェアトレードのチョコレート。
今回は国際的なフェアトレード認証マークである「国際フェアトレード認証ラベル」のライセンス事業やフェアトレードの啓もう活動を行うフェアトレード・ラベル・ジャパンの広報担当である北戸香那さんにお話を伺い、フェアトレードチョコレートの概要や、原料となるカカオの生産背景にある問題、フェアトレードチョコレートの選び方をまとめました。
そもそもフェアトレードとは
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フェアトレードを直訳すると「公平・公正な貿易」という意味です。
日本などの先進国では、開発途上国で生産された日用品、食料品を安い価格で購入することがあります。しかしその裏側では、小規模な生産者が産品を安く買いたたかれてしまうという問題が生まれている場合があるのです。
このような取引により、生産者の生活水準は低下。生産におけるコスト削減を目的とし、児童労働が行われたり、過剰な農薬が使用されたりしています。
過剰な農薬の使用は、環境破壊や生産者の健康被害が引き起こされたりするなど、さまざまな問題に発展しています。
それらを解決するため、産品への適正価格の保証や、環境に配慮した生産、そして児童労働の禁止など、持続可能な生産と生産者の生活向上を目的とする取り組みがフェアトレードです。
不公平な取引が行われやすい産品
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生産者にとって不利な取引が行われやすい産品には、どのようなものがあるのでしょうか。その産品は多岐にわたりますが、身近な代表例をご紹介します。
・コーヒー
・砂糖
・カカオ など
食品以外にも、下記の産品なども生産者にとって不利な条件で売買が進められることが多く、問題になっています。
・金
・レンガ
・綿花
・タバコ など
上記のように、マーケット動向の情報が入手しづらく、市場への販売ルートを持たない小規模農家で作られた産品は、安く買いたたかれて、低価格でマーケットに出回る可能性があるのです。
日本のマーケットにもこのような経路をたどってきた産品は、たくさん流通しています。
カカオにおいて公平性を欠く取引が行われる理由
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チョコレートの原料となるカカオ豆。そのカカオの生産や流通には、どのような状況があるのでしょうか。不利な取引が行われてしまう原因をいくつか見ていきましょう。
先物取引で値決めされる
カカオはコーヒーと同じように、その多くがロンドンとニューヨークの先物取引市場で値決めが行われています。
産地や市場の状況を反映し、価格は日々変動しているのです。価格は、生産地と遠く離れた場所で決められてしまい、生産者はそこに関わることはありません。
小規模農家が多い
カカオの主な生産地である西アフリカの生産者は、家族単位の小規模な農家がほとんどです。力を持たない小規模農家は、業者の言い値で売ることしかできず、自分たちで価格を設定することはできません。
安いモノを求める消費行動
生産者に支払われる価格は、私たち消費者の行動とも深く関係しています。
私たち消費者が「安い商品」を買い求めた場合、私たちが商品を購入するスーパーなどの小売店は、取引先のメーカーに価格を下げるようリクエストします。するとメーカーが輸入企業にモノの安さを求めることとなり、結果的に生産者がその負担を負うことになってしまうのです。
カカオショックが生産者に落とす影
近年の「カカオショック」も生産者にとって不安定な収入をもたらす要素の一つです。
2~3ドル/kg程度が一般的だったカカオの価格が、2024年の1月から3月のあいだに12ドル/㎏まで高騰した「カカオショック」。
背景には、カカオが低単価で売買されていたために生産者たちの生活が立ち行かなくなり、カカオの生産量が減ってしまったことが挙げられます。
また、気候変動もカカオショックの原因のひとつとされています。
カカオの生産地、コートジボワールやガーナでは異常気象により、水不足や洪水、カカオの木を枯死させる病気が起こり、その結果、カカオの生産量は約半分にまで減少してしまったのです。
さらに生産国の経済的不安定さなどが複合的に重なった結果、カカオショックが起こったと言われています。
チョコレート生産における児童労働問題
生産者が十分な収入を得られず貧困に陥っている場合、様々な問題が起きますが、その中でも深刻なのは児童労働です。
児童労働とは、本来義務教育を受けるべきである15歳未満の子どもの労働と、18歳未満の子どもが危険で有害な労働を行うことを指します。
西アフリカのカカオ生産地域では、家族単位の小規模な農家がほとんどです。
カカオ豆の生産には多くの労働力が必要とされているにもかかわらず、小規模な農家には労働者を雇う経済的余裕がありません。そのため、子どもたちが重要な労働力となってしまうのです。
カカオの生産地として世界第一位のコートジボワールでは79万人、第二位のガーナでは75万人と、危険な労働を強いられる児童労働者の数が確認されています。このふたつの国だけでも、児童労働者の数は156万人に及びます(2020年、シカゴ大学による調べ)。
児童労働が抱える問題点
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貧困によって引き起こされる児童労働。子どもによる労働は主に以下のような点が懸念されています。
ケガなどの危険性
チョコレートの生産現場を例に挙げると、子どもたちは刃渡りの大きな「なた」を使って農園を開墾し、収穫したカカオの実やカカオ豆を運搬することなどを主な仕事としています。
大きな刃物を使うことはもちろんのこと、子どもの力では持ち上げることのできない重さの荷物を頭に乗せて運搬することなど、労働には危険が潜んでいます。
教育を受けられないことにより狭まる選択肢
労働によって適切な教育を失ってしまうことも大きな問題です。
子ども時代に必要な教育を受けられないと、大人になってからもさまざまなリスクを負うことになります。
職業の選択肢が狭まるなどの問題に加え、社会福祉などの行政サービスやそれに伴う情報にアクセスができない、農薬の正しい使い方が分からないといった、生活に直接かかわる問題も起こり得るのです。
何世代にも続く貧困の連鎖の可能性
教育の機会を得られないということは、次世代にとって大きな影響を及ぼします。「学校には行かずに働くことが当たり前」という考えしかない環境下で育った子どもは、将来大人になって子どもを育てる際に、同じ考えをもって子どもを育てます。
その結果、貧困や児童労働の連鎖が何世代にも渡って続いてしまうのです。
チョコレート生産・流通においてのフェアトレードの取り組み
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生産者との公平な取引を行い、児童労働を禁止するフェアトレード。具体的にはどのような取り組みが行われているのでしょうか。
世界で最も広く使用されているフェアトレード認証マークである、「国際フェアトレード認証ラベル」を例に、フェアトレードの取り組みを見ていきましょう。
① 児童労働問題について
児童労働の根本的な原因として、貧困や教育機会の欠如などがあげられます。
そのため、フェアトレードの生産者コミュニティの若者を対象に、教育や就職、将来の希望などを調査。生産者コミュニティが子供の権利を守るNGOと連携し、児童労働の監視や救済システムの確立を支援しています。
② 人権とデュー・ディリジェンスについて
生産国の農家や労働者、鉱山労働者、経営者などに継続的なアドバイスやトレーニングなどのサポートを実施。
さらに、市場価格が暴落しても生産者の生活を保証する「プレミアム」という仕組みを作り、資金面での支援も行っています。これらの方針やプロセスは国連の定めた「ビジネスと人権に関する指導原則」に沿って進められているのです。
③ ジェンダー平等について
女性がビジネスや交渉、財務などのスキルを学べるようにスクールを展開しているほか、性別や配偶者の有無による差別の禁止、性的な虐待や搾取、脅迫を禁止し、女性の立場と安全を守っています。
また、時代の変化に合わせたジェンダーポリシーを策定するなど、現在の問題だけではなく、継続的なジェンダー平等の取り組みを行っています。
④ 気候変動と環境について
土や水をきれいに保つ、危険な化学物質を使わない、自然と調和した害虫対策を行うなど、健康な土地で作物を育てることをフェアトレードの基準とし、環境に配慮した農業を生産者が学べるよう、スキルアップや知識を高める技術的な支援、生産のための支援を行っています。
また、生産農家が気候変動への適応に投資できるよう、「フェアトレード・カーボン・クレジット」を導入。農家は環境対策をすることでお金を得られ、そのお金をさらなる環境対策に使用できるのです。
フェアトレードのチョコレートはどう選べばいいの?
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私たちがチョコレートを購入する際、どのようにフェアトレードのチョコレートを選べばよいのでしょうか。ここからはその見分け方をご紹介します。
認証マークを確認する
フェアトレードチョコレートを選ぶときに役立つのが商品に記載されている認証マークです。
認証マークはいつくか種類がありますが、国際的に最も知られているのが、「国際フェアトレード認証ラベル」です。生産者から商品が出来上がるまでに関わるサプライチェーン上の全ての法人が国際フェアトレード基準で定められた基準を守り、監査・認証を受けた商品にのみにこの認証マークが記載されています。
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認証マークのほかに、企業が独自で行うフェアトレードも
認証マークの他にも、フェアトレードについて独自の取り組みをしている企業も多くあります。
フェアトレードをはじめとした持続可能な取り組みを積極的に発信していることも多いので、チョコレートを購入する際には、メーカーや企業のウェブサイトをチェックしてみるのもいいかもしれません。
バレンタインにはフェアトレードチョコレートを選ぼう
美味しいチョコレートでも、実は児童労働によって作られたカカオが使用されていては、心から楽しめないはず。まずは商品の背景に目を向けてみることが大切です。
今年のバレンタインは身近な人だけでなく、もっと遠くの誰かへ優しさも一緒に届けてみませんか?
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<監修者プロフィール>
認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン
Fairtrade International の構成メンバー。日本国内における国際フェアトレード認証ラベルのライセンス事業、製品認証事業、フェアトレードの教育啓発活動を主に行う。