Fair Trade Student Network(以下、FTSN)は、フェアトレードに関心のある全国の学生を繋ぐ学生団体です。FTSNは、2004年に設立され、サステナブル業界で活躍しているOB・OGを多く輩出。定期的にイベントを開催しており、その中で最大のイベントがフェアトレード学生サミットです。 今年もフェアトレード学生サミットが開催 2023年8月29日の東京・代々木。国立オリンピック記念青少年総合センターには、フェアトレード学生サミットに参加するため、中学生から大学生まで、全国から学生が集いました。 開催20回目となる今回のテーマは「Discover & Communicate」。参加者一人ひとりがフェアトレードの“いちばんイイところ”を発見し、他者に伝えられるようになることを目標に、業界の第一線で活躍するゲストによる講演やワークショップを通して、3日間にわたり、フェアトレードに関する理解を深めました。 さらに、一般参加者を交えた交流パーティも組み込まれており、盛りだくさんのプログラムとなりました。 フェアトレードに対する理解を深める充実のプログラム 日本語で直訳すると「公正取引」となるフェアトレード。定義が難しく、他者に伝えるときにどうしても抽象的になりがちです。 サミットの初日には、フェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長の潮崎真惟子さんなど、フェアトレードの最前線で活躍するゲストによる講演を実施。フェアトレードの概念の伝え方についてイメージを膨らませました。 フェアトレード・ラベル・ジャパン潮崎さんによる講演 2日目には、これまでに数々のCMを手がけ、国内外で多数の受賞歴のある映像監督の高島太士さんを講師に招いて、フェアトレードの魅力の「伝え方」に関するワークショップを開催。 グループに分かれた参加者は、高島さんが用意したフレームワークに基づいて、それぞれが設定したターゲットの心を動かす方法を議論し、キャッチコピーの形へと落とし込んでいきます。 学生たちは高島さんの助言を受けながらキャッチコピーを作成した 最終日にはサミットの締めくくりとして、グループごとに作成したキャッチコピーのプレゼンテーションを行いました。 学生たちの未来につながる3日間に キャッチコピーを学ぶワークショップでは、プログラムの時間だけでは飽き足りず、夜遅くまで白熱した議論を重ねる学生が多く見られました。また、プレゼンテーション本番では思うように発表することができずに悔し涙を流す姿も。フェアトレードと真剣に向き合う熱い姿勢が伝わる3日間となりました。 参加した学生からは「これまでになかった視点から、伝える上で必要な考え方を学べた」という声が。普段関わる機会のないゲストとの交流や、同じ志を持つ全国の学生との出会いは、参加した学生たちにとって大きな財産になるでしょう。 より良い社会のために踏み出す学生の活躍に期待 これまで、フェアトレードの活動に関わったことがないという学生の参加もあった今回のサミット。そのことからも、社会を良くするために一歩踏み出そうとする若い人が増えてきていることがわかります。 「ここで得た経験をそれぞれ持ち帰り、周りの人へ広めていくことで良い循環が生まれることを期待したいです。」と広報担当で自身も学生の村瀬さんは話します。 FTSNは今後もオンラインの定期的な団体交流企画などを予定。今後ますます盛り上がりを見せることが期待されます。 【第20回フェアトレード学生サミット】主催:第20回フェアトレード学生サミット実行委員会公式サイト:https://20th-ftsn-summit.studio.site/
車の自動運転や、人間のような会話ができるChatGPTなど、様々なAIの登場によって、私たちの生活は日々便利になり続けています。一方で、AIが人間の仕事を奪ったり、人間社会を支配したりするのではないかと不安を抱える人もいるでしょう。果たして、AIは人間を幸せにするのでしょうか…?AIのメリットやデメリット、その活用事例を見ながら、新しいテクノロジーとの付き合い方について考えていきます。 AI(人工知能)とは 出典:pexels.com AI(人工知能)はArtificial Intelligenceの略で、人間の知的能力を人工的に再現するものです。AIが登場する以前のコンピューターはプログラムされた通りの処理しか行うことができませんでしが、AIは蓄積されたデータを基に自ら学習し、状況に応じて柔軟に判断することができます。しかし現在、どこまでできたらAIとするかについては、実は明確には定義されていません。 AIにできること、できないこと https://www.pexels.com/ja-jp/photo/8386422/ AIは以下のようなことが得意とされています。 画像・音声認識:音声に字幕をつける、顔認証をするなど 自然言語処理:chatGPTのように言語を理解し、文章をつくるなど 検知・予測:過去のデータと現在の状況を比較、これから起こることを予測するなど 機械制御:自動車の自動運転のように、状況をみて機械を適切にコントロールするなど これらは全て蓄積されたデータから学習し行われます。 したがって、データが存在しないものをゼロから作り出したり、全く不規則なデータを扱うことはできないとされています。また、人間のような汎用性はないため、決められた役割以外のことはできません。例えば、音声認識のために開発されたAIが自動運転をすることはありません。 AIがもたらす5つのメリット 出典:pexels.com 生活が便利になる AIは日常生活だけではなく、企業・医療・教育の現場など、様々な場面で使用されています。あらゆるサービスに搭載されたAIが様々な課題を解決することで、私たちの生活はこれからも日々便利になっていくことは間違いないでしょう。 生産性が向上する 多くの仕事はAIで代用できると言われています。労働不足の解消・業務の効率化・人件費の削減・ヒューマンエラーの排除などのように、多くの問題がAIで解消され、生産性が向上すると考えられています。 事故の減少と安全性の向上 自動運転の導入によって、交通事故が減少すると考えられています。また、機械の劣化を自動で検知できればインフラの安全性の向上にもつながるでしょう。正確な作業を繰り返し、異常を検知することに優れるAIを用いることで、社会の安全性が高まります。 高精度なデータ分析・予測が可能になる AIは膨大な量のデータを処理し、分析したり予測したりすることができます。市場のあらゆるデータから社会や個々の人に必要なことを効率的に予測することで、マーケティングや医療、教育などの質を向上することが期待されています。 やりたいことに時間を使えるようになる AIの活用方法はアイデア次第です。これまで人間が行なっていた様々な作業をAIに任せることで、人間はより重要なことに集中することができます。例えば、AIを搭載した家電に家事を任せれば、家族と過ごす時間を増やすことができるようになるかもしれません。 AIの活用に伴う4つのリスク 出典:pexels.com 雇用が減少する可能性がある 多くの作業がAIに置き換わるため、これまで人が担っていた仕事は減っていきます。新たな仕事も生まれていきますが、必要なスキルを身に付けるなど、社会全体のシフトが必要です。 責任が曖昧になる 例えば、自動運転の自動車で事故を起こした場合、責任の所在がとても分かりづらいという点が懸念されています。AIが十分に社会に浸透し、法律が整備されるまでは、責任が曖昧にならないように注意が必要です。 思考のプロセスが見えない 実はAIの出す答えには、「どういうプロセスで導き出したかわからない」という問題があります。これは、ブラックボックス問題と呼ばれ、解決とともに信頼性の向上が求められています。また、AIを使用する人間側にも、思考することなくAIの導いた答えを受け入れてしまうリスクがあり、こちらも問題視されています。 不適切に活用される恐れがある 画像や文章などのコンテンツを生成できるAIが開発されたことで、フェイクニュースや誹謗中傷の量産といった悪用が危惧されています。 他にも、悪用とは異なりますがデータが独占されるリスクがあります。前述したようにAIはデータに基づいて学習します。実は現状ではこのデータの所有者はあいまいになっています。一部の事業者にデータが集中すると市場が正常に機能しなくなる恐れがあるため、注意が必要です。 AIは人を幸せにするのか 出典:pexels.com AIが人を幸せにするかについて、多くの人が気になっていることでしょう。しかし、AIはツールに過ぎないため、AI自体は人を幸せにも不幸にもしません。全てはそれを使用する人間次第なのです。その中で最も重要となるのが、ガイドラインや法律です。道路交通法がないと安心して運転ができないのと同じように、ルールなくしてAIの幸せな活用方法はありえません。 どのように活用すればAIが人の暮らしを豊かにするかについては、現在多くの議論がされています。例えば、国連のグテレス事務総長は加盟各国への勧告をまとめた提言書を公表し、2026年までにAIを搭載した兵器を法的に禁止する枠組みを設けるように求めています。また、AIの安全保障リスク軽減に向けた新たな国際機関の設置を検討するよう促しました。 AIの存在しない時代に戻ることはない 出典:pexels.com これまで、様々なテクノロジーが社会に変革をもたらしてきました。例えば自動車はより多くのものをより遠くへより速く移動させることを可能にした反面、環境汚染や交通事故を引き起こしました。インターネットやSNSの登場は、誰でも膨大な情報にアクセスできる便利な社会を作った一方で、信憑性のない情報も増えるなど問題もたくさん存在します。 どんなテクノロジーにも良い面と悪い面があり、その全てが人々の生活を豊かにしたと一概に評価することはできません。一つ間違いなく言えることは、一度テクノロジーが社会に浸透すると、それがない時代に戻ることはないということです。それだけ多くの可能性をテクノロジーが切り開いてきたのです。 AIがない時代には戻れない以上、AIを豊かな社会づくりに活用する方法を考えていくことが大切です。全ては使い方次第。無限の可能性を秘めたAIと共存する豊かな未来を思い描いてみては?
「サステナブル」や「SDGs」といったワードを聞くようになって久しいですが、一度傷ついてしまった豊かな地球環境を取り戻すためには、さらに踏み込んだアイデアが必要です。近年サステナブルの一歩先を行く概念として広がりつつある「リジェネラティブ」。その意味と事例を見ていきます。 リジェネラティブとは 出典:pexels.com リジェネラティブ(regenerative)とは、直訳すると「再生させる」という意味。自然環境と紐づけられることが多く、例えば農業や漁業においては、土壌や水質の改善を目指し、生物多様性を向上することによって、自然が持つ本来の力を取り戻し、環境を回復していこうとする考え方です。 サステナブルとの違い リジェネラティブに対して使われる言葉として、サステナブルがあります。持続可能な地球をつくっていこうという考え方ではリジェネラティブもサステナブルも重なる点は多いものの、サステナブルは直訳すると「維持できる」となり、現状維持のような、少々消極的な意味合いに受け取られることもあります。それに対し、積極的に自然環境を再生していこうというリジェネラティブの風潮が高まっています。 「リジェネラティブ」が活発な分野は? 出典:unsplash.com 自然を再生していこうとするリジェネラティブは、現在、農業や水産業で活発に取り入れられ始めています。 リジェネラティブ農業(環境再生型農業)の場合、有機肥料を使用したり、土を耕さない不耕起栽培を採用したりするケースが多く見られます。不耕起栽培は、土壌にCO2が貯留でき、土壌に生息する生物の多様性の向上が期待できます。リジェネラティブ水産業(環境再生型水産業)の場合は、ゴミ問題や地球温暖化などにより悪化する海洋環境を改善し、生物多様性を取り戻すような取り組みが行われています。 実際にどのような事例があるのか見ていきます。 リジェネラティブ農業(環境再生型農業) ① 米の栽培 ホテル事業などを手掛けるサン・クレアが注力しているのが、環境再生型農業です。農地があるのは、愛媛県松野町目黒。有機農法、自然栽培、自然農法など、自然にあらがうことのない米作りを模索し、試行錯誤を続けた結果、田んぼを耕さない農法(不耕起栽培)の米作りにたどり着きました。 森のミネラルをたっぷり含んだ目黒川の清流水を使用し、不耕起栽培でできるのは、“野生のお米”。一本一本、ひと粒ひと粒丁寧に刈り取った米は、ハザ掛け(稲木)に干すことで、ゆっくり自然乾燥されたハザ掛け米になります。 ② 栗の栽培 栗の生産量日本一の茨城県。中でも、茨城県の中部に位置する笠間市岩間地方は栗の生産が大変盛んな地域です。その岩間地区近隣において、栗の圃場(ほじょう)の管理・運営を行う会社、いわまの栗では、岩間地区の栗生産の落ち込みを補うため、また近隣で育まれた栗文化を継承していくために耕作放棄地、休耕地を改植。リジェネラティブな農地に作り替えていく取り組みを行なっています。 栗はもともと山に自生していた植物のため、果樹の中でも特に自然に近い状態で育てることが可能。いわまの栗では、できる限り自然を活かし、農薬はもちろん、肥料類も使わず、畑に生える草を活かした「自然草生栽培」を行っています。 リジェネラティブ水産業(環境再生型水産業) 今世界的に問題となっているのが、海藻が著しく減少する「磯焼け」です。海の多様な生物の産卵場所や住みかとなり、CO2を吸収し酸素を供給してくれる場所として、海だけでなく地球にとって海藻の存在は欠かせません。海藻が消失している表立った原因が特定されているわけではありませんが、水温の上昇や生活・工業排水の流入などが影響していると見られています。その中で、ウニが海藻を食べつくしてしまう「食害」も原因のひとつと考えられています。それでも、朝焼け海域に生息するウニは栄養不足で実が入っていない状態のため、食用には向かず、捨てられてきました。 岩手県の水産会社、北三陸ファクトリーでは、磯焼けを防ぐために駆除・廃棄されていた栄養不足の痩せたウニを採取して2カ月間養殖。その結果、実入りの良いウニにすることに成功しました。現在は、全国にそのノウハウを広めています。 さらには、未利用資源であるウニ殻を活用し「施肥ブロック」を製造し、海中に沈め藻場の再生活動を実施。施肥ブロックを用いることで海藻が繁茂することが確認できています。 磯焼けの問題を解決しつつ、ウニという資源を最大限活用し、かつ藻場を再生させる先進的な取り組みとなっています。 リジェネラティブは、様々な産業・分野へ 出典:unsplash.com リジェネラティブな水産業や農業の大きな目的は、自然の回復力と生産を両立することです。その目的に加え、失われつつある日本の農業・水産業や地方を活気づけるために取り入れている場合も多く見受けられます。 今後、第一次産業だけでなく、他の産業にも広がっていくことが見込まれるリジェネラティブという概念。地球環境を守っていくために、それぞれの分野で、サステナブルのその先の積極的な取り組みが求められています。
素材や形、トレンド、自分に似合うかどうか。洋服を選ぶときに大切にしていることは人それぞれ。でも、もし自分が身に着けている服が、知らず知らずのうちに誰かを傷つけていたら…?これから先、私たちが洋服を選ぶ際の基準にプラスしたいのが、“生産者にとっても消費者にとってもハッピーであるかどうか”です。 今回は、フェアトレードファッションの草分け的存在であるピープルツリーからフェアトレードファッションの根本的な考え方を学び、その大切さを一緒に考えます。 ●ピープルツリー 1991年に2人のイギリス人によって日本で設立されたフェアトレード専門ブランド。オーガニックコットンの衣類や、チョコレートやコーヒーなどの食品、雑貨など幅広くオリジナルで展開。日本では自由が丘と立川高島屋S.C.に直営店がある他、全国のセレクトショップなどで取り扱いがある。WFTO(世界フェアトレード連盟)に加盟し、製品にはWFTO保証ラベル(原材料から生産までフェアトレードを保証するラベル)を付けている。 お話を伺ったのは、ピープルツリー広報の鈴木啓美さん。2023年のファッションレボリューションウィークで参加者からの反響が大きかった、映画「メイド・イン・バングラデシュ」の解説を交えながら、フェアトレードについて基礎的なところからお聞きしました。 そもそもフェアトレードってなに? ――ファッションの話の前に、フェアトレードとは何かを教えていただけますか。 端的に言うなら、貧困問題と環境問題をビジネスの力で解決しようとする取り組みです。直訳すると「公平・公正な貿易、取引」となります。スポーツで公平性を表すフェアプレーの“フェア”をイメージしていただけると近いと思います。 ピープルツリーが加盟するWFTOは生産者の労働条件、賃金、児童労働、環境などに関しての基準「フェアトレード10の指針」を定めています。 Photo by ピープルツリー そのうちの1つ「適正な金額を支払う」だけが注目されフェアトレードの代名詞のようになっているのが現状ですが、それは「手段」の1つ。何のためにやっているのかという「目的」が大事です。「みんなが幸せに暮らせること」をゴールに、10の指針をもとに、様々な活動をしています。 フェアトレードという言葉ができるまで Photo by ピープルツリー ――ただ適正な金額を支払うだけではなく、生産者も幸せに暮らせることが大切ということですね。いつ頃できた概念なのでしょうか? 国際的な会議の場で初めて「フェアトレード」という言葉が使われたのは1984~85年頃と言われています。1950年代からチャリティー貿易が存在していましたが、対等というよりも“助けてあげる”という意味合いが強いものでした。そこから1960年代に、取引は対等であるべきだという考えのもと、フェアトレードの前身となるオルター(オルタナティブ)トレードと呼ばれる概念が生まれたのです。日本では70年代から80年代にかけて、フェアトレードに類する活動をする団体が活動を始めました。 参考:https://fairtrade-forum-japan.org/fairtrade/fairtrade-history ファストファッションの“アンフェア”な真実 ――今年のFRW※1に、ピープルツリーは映画「メイド・イン・バングラデシュ」※2の上映・解説イベントを開催しました。フェアトレードの視点から作品を観るときのポイントを教えてください。 「メイド・イン・バングラデシュ」は、縫製工場で働く女性工員たちが労働組合を発足するまでの奮闘を描いた映画です。作品はフィクションであるものの、監督のルバイヤット・ホセインが沢山の工場労働者に会ってリサーチし製作した、限りなくリアルに近い物語です。工場での話だけではなく、ところどころにバングラデシュで働く人々が置かれている状況が散りばめられており、主人公シムの人生もまさにバングラデシュで生きる女性の現状を映し出しています。 ――衣類産業大国であるバングラデシュの現状がとてもよく描かれていました。 バングラデシュは世界2位の衣類輸出国であり、国内の7~8割が衣料に関わる産業です。しかし、映画にもあるように、政治家などの権力者と工場経営者に癒着があったり、権力者自らがオーナーであったりして、労働者に目が向いていない事実があります。国外に安価な労働力を提供する一方で、労働者の賃金や労働環境は後回しにされているのです。 例えば作中、シムは、労働組合を作るための資料として、労働者権利団体のナシマに渡されたスマートフォンで工場内の様子を密かに撮影します。そこではグローバルアパレル企業の白人男性が工場見学に来るのですが、「君の工場は高すぎる!」と値下げを求めているのです。労働組合が存在せず、権利が保障されていない状態で、労働者は満足のいく賃金をもらえていません。それにも関わらず、先進国で洋服をさらに安く売るために工賃の値下げを要求される。このシーンからは、先進国において消費者が安価な洋服を求め、企業がそれに応えようと考えた結果、生産国で働く労働者にコスト削減のしわ寄せがいっているということを知ることができます。 ※1 ファッションレボリューションウィーク。毎年、4月24日を含む1週間、ファッションの透明性を高めることを目的としたイベントが世界中で開かれる。縫製工場で働く1,100名以上の女性が犠牲となった2013年4月24日の「ラナ・プラザ崩壊事故」がきっかけとなっている。 ※2 世界のファッション産業を支えるバングラデシュで、縫製工場の過酷な労働環境と低賃金の改善に立ち上がったひとりの女性の実話をもとに製作されたヒューマンストーリー。 生産背景以外にも目を向けたい現地のリアル Photo by ピープルツリー ――安さの裏にこういった現実があることは常に意識しておきたいですね。他にもこの映画から私たちが学べることはありますか。 作品では、ジェンダーの問題と児童婚の現状も垣間見えます。実はバングラデシュは、政治の面で見ると首相をはじめ女性議員の割合が日本よりかなり大きく、最新のジェンダーギャップ指数も59位で日本よりはるかに上位にいます。ところが、経済面で見ると、バングラデシュは男性の失業率が高く、作中のシムと夫のように、女性が縫製工場などで働き家計を支えているという構図が珍しくないんですよね。数字だけを見ると女性の社会進出が進んでいるかのように見えますが、どういう基準でジャッジされた数字なのか、その裏側にある事実を知ろうとすることが大切だと思います。 ――生産の現場はもちろん、生産国がどのような状況なのか、知ろうとすることが重要ですね。 シムが、母親から11歳の時に40歳の人と結婚させられそうになったと告白する場面も衝撃的です。バングラデシュの法律では18歳以下の結婚は禁止されていますが、なんと半数以上が18歳以下で結婚していると言われています。貧困から脱しようと、母親が子どもの幼い頃からお金持ちの男性を探すケースが多いのです。幼い頃に結婚をすると、低年齢により妊娠・出産のリスクが高まる、虐待の対象となる、教育の機会を奪われることなどが懸念されます。 このように、私たちの衣服と深い関わりのあるバングラデシュの日常を、物語を通して知ることができるのもこの映画の特徴です。個人レベルで起きているように見える問題も、国際市場での立場、社会通念や文化的背景からくる社会システムのひずみが要因で起きているということが見えてきます。 フェアトレードファッションはこうやって作られる Photo by ピープルツリー ――ファストファッションが作られる生産背景はイメージできましたが、フェアトレードの衣類は具体的にどのように作られるのでしょうか。 ピープルツリーのファッションを例にすると、「フェアトレードの10の指針」をクリアし、WFTOに加盟する、信頼のおける生産者団体との取引を行っています。 オーガニックコットンをはじめとする素材の調達から最終加工まで、どこで誰がどんなふうにつくっているのか把握すること、生産者に無理強いをしないため生産に十分な時間を設けること、生産団体にオーダーする時点で最大50%を前払いすることなど、双方向のやり取りをすること、透明性と公平性を保つために様々な取り組みを行っています。また、製品は日本向けに企画し、団体に所属する生産者たちが持てる技術を活かした上で、手作業でひとつひとつ丁寧に作られます。そうすることで、伝統的な手仕事の継承にもつながるのです。 日本で販売するとなると、クオリティも大事になってきますので、技術支援や細やかなフィードバックを行うなど、生産者がスキルを磨けるようなサポートも欠かしません。 その他、生産活動以外の取り組みの例として、女性の地位向上のための研修や子どもの教育に関する支援、労働者の人権のために尽力しているバングラデシュの弁護士の支援なども、ピープルツリーの母体であるNGOグローバル・ヴィレッジを通して行っています。 私たちにできることは、消費するということに責任を持つこと。 出典:pexels.com ――洋服の生産の背景を知ってしまうと、どんな洋服を購入したら良いのかわからない…という方も多いと思います。大きなアクションではなく、私たち消費者が今日から始められることはありますか? 今まで選択してきたものと、生産の背景を意識して選択してみたもの、一見似ているけれど何が違うのか?そのような小さな疑問を持つことから始めてみるのがいいのではないかと思います。洋服を買う際には、タグを見る、どこで作られているのか、素材にどのような違いがあるのかを気にしてみるなど、小さな気づきから知識を増やしていけば良いのです。完璧を求めるのではなく、今の時点でより良い方を選べるように努め、良かったらそれを友人に広めるのもいいですよね。 「とりあえず」の買い物はしないことも一つの方法です。間に合わせで購入するのではなく、ずっと大切にしたいと思える物だけを選びたいですよね。 また、疑問に思ったことがあれば、ブランドに問い合わせをすることや、SNSで発信することも重要です。企業に消費者の声を届けることで、企業側もそのニーズに気が付くようになります。 企業は今あるリソースを活かし一歩踏み出すことが重要 ――社会に貢献するアクションを起こしたいと考えている企業ができることは何でしょうか。 企業は、自分たちの元々持っているフィールドにおいて一歩踏み出すことが大切だと思います。つまり、自社の事業の延長線上で取り組むということです。そもそも何のために創設されたのか、原点を改めて見つめると、自分たちの使命が盛り込まれていると思うのです。 企業も個人も、大きな変革や完璧さを最初から求めるではなく、今あるリソースを活かせる方法で社会に貢献していくのが、健やかで無理のない方法なのではないかと思います。 フェアトレードファッションを学んで 「フェアトレードも、SDGsもサステナブルも、地球と人、みんなが幸せに暮らせるようにするためのものです。そして、忘れたくないのは、その“みんな”という中にはちゃんと自分自身も含まれているということですよね。自己犠牲や我慢を強いるものだと続かないので、自分も楽しむことが大事だと思います」最後に鈴木さんはこうお話してくれました。フェアトレードは、特別なことではなく、他の人に対して対等・平等に向き合う、という人としての基本的な姿勢なのだと改めて感じました。 私たちの洋服を取り巻く“アンフェア”な関係は、今も世界のあらゆるところで存在しています。洋服を身に着ける人も作り手も、みんなが対等な世の中であるために、現状を知り、一人ひとりが小さなアクションを起こしていくことが、これからのファッションには求められているのではないでしょうか。
日常生活の中で 「エコ」や「環境にやさしい」という言葉を見ない日はないほど、社会では環境に配慮する風潮が高まっています。気候変動など地球レベルの社会問題に対応するため、あらゆる業界が脱炭素や環境配慮の方向へとビジネスの舵を切っていますが、その中で生まれた新たな問題のひとつがグリーンウォッシュです。消費者や企業は何に気を付ければいけないのでしょうか。グリーンウォッシュへの対応策を学んでいきます。 グリーンウォッシュ(Greenwashing)とは グリーンウォッシュ(Greenwashing)とは、その実態は環境配慮がなされていないのにも関わらず、消費者に商品やサービスがあたかも環境に良いものだと見せかけることです。“うわべだけ”や“ごまかし”を意味する「ホワイトウォッシュ」と“エコ”や“環境に良いこと”を意味する「グリーン」を組み合わせた造語で、1980年代に米国の環境活動家ジェイ・ヴェステルフェルトが使い始めたとされています。サステナブルな社会が目指される中で、グリーンウォッシュは商品を購入する消費者はもちろん、販売する企業担当者も留意するべき点を知り、気を付けなければならない問題です。 どんなものがグリーンウォッシュになる? 出典:unsplash.com ここではグリーンウォッシュについて、具体的にどんなことに留意するべきか見ていきましょう。米国の第三者安全科学機関であるULソリューションズが、消費者のためのグリーンウォッシュ判断基準である「グリーンウォッシュ7つの罪(Sins of Greenwashing)」を発表しています。 1. トレードオフの罪:環境に配慮している点のみ主張し、他方でより大きな環境負荷が発生していても隠ぺいする2. 証拠のない罪:十分な証拠や根拠を提示していない3. 曖昧さの罪:環境配慮に対する定義が不十分である4. 偽りのラベルを表示する罪:あたかも第三者から認められたような偽のラベルを表示する5. 無関係の罪:環境にやさしいものを求める消費者には関係のない、環境に関する事実を並べる6. 2つの悪のうち小さい方の罪:製品カテゴリー内で比べて環境負荷が低いことを主張し、全体から見ると環境負荷が高いことから視点をずらす7. ねつぞうの罪:虚偽を記載する 以上の「グリーンウォッシュ7つの罪」をより具体的な例で見てみましょう。もしかすると思い当たる商品やサービスがあるかもしれません。 ・化石燃料へ投資しているにも関わらずそれは公開せず、自社の行う植林活動だけをピックアップして自社HPに記載する・十分な根拠がないのに、生分解性プラスチックのカトラリーを「土に還る」と表現する・環境配慮への生産背景が見えないにも関わらず「エコ・フレンドリー」をうたう・独自基準で作成したエコラベルを第三者機関が関わっているかのように見せかけ、商品に記載する・根拠のないファッションアイテムに緑色や自然をイメージする画像を使用した広告・環境負荷が高いと言われる飛行機だが、「他社よりも環境負荷が低い」とアピールする・エコな要素がないのに、エコであると主張する なぜグリーンウォッシュは問題になる? 出典:unsplash.com 企業は自社製品やブランド価値向上のためのツールとしてエコや環境配慮といったイメージを利用しているケースがあります。事実に基づいたものであれば何ら問題はありませんが、消費者に誤認させてしまうことが大きな問題に繋がります。グリーンウォッシュによって引き起こされる問題を見ていきましょう。 1. 環境のことを考えたアクションが実は環境に良い影響を与えていない真っ当なグリーン製品であれば、環境負荷を減らし気候変動問題に少なからず寄与するはずです。しかしグリーンウォッシュの製品やサービスでは「見せかけのエコ」であることから、エコだと思ってアクションをしているはずなのに、環境のためではなく、企業の売上に貢献しているだけの場合があります。 2. 消費者が本物のエコな製品・サービスを見つけることが難しくなる環境負荷の低い製品と、見せかけの製品が混在することにより、消費者は嘘のない製品を選ぶのが難しくなってしまいます。 3. 企業イメージの損失企業がグリーンウォッシュだと消費者や国から指摘されることは、消費者と企業の信頼関係が揺るがされる事態に発展します。事実が明るみに出れば利益を失うことはもちろん、企業イメージの損失など大きな代償が伴います。 各国で進むグリーンウォッシュの規制 出典:unsplash.com 世界では今、企業やサービスに対する告発や懲罰の例が既に存在し、未然防止のための規制強化が進んでいます。近年の事例を見ていきましょう。 2022年には、アメリカのFTC(Federal Trade Commission:米連邦取引委員会)が、製品の素材にレーヨンが使われているのにもかかわらず竹が使われていると虚偽の表示を行い、あたかも環境にやさしいかのように販売していたとして、大手スーパーマーケットのウォルマートと大手百貨店のコールズに対し、2社合わせて550万ドルの民事制裁金を請求しました。同じく2022年、日本では、レジ袋やごみ袋などが「生分解性である」など環境に配慮した製品であると表示していたにもかかわらず、それを裏付けする根拠がないとし、消費者庁が10社に対して、処置命令を出しています。 欧州でも各国で規制の整備が進んでいます。英国の競争・市場庁(CMA)は21年9月にグリーンクレームコード(環境配慮の主張に関する指針)を発表。フランスでも同年の21年4月に規制法が採択され違反した広告には広告費の最大8割の罰金を課されます。直近では2023年3月には「グリーンクレーム(環境主張)指令」提案が欧州委員会により採択されました。これにより、企業側は国際認証などパブリックな認定を受けた根拠を示すことでのみ「エコ・フレンドリー」などの表現を使用することができることとなります。企業側は独自の判断ではなく、第三者機関などによる認証を得ることが求められ、消費者はグリーンクレーム指令を理解するとともに、購入前に正しい基準に則った認証マークが付与されているか確認することが求められます。 消費者にできることは? 出典:unsplash.com 消費者にできることとしては、「環境に優しい」、「エコ」など、一見イメージの良いキャッチコピーを鵜吞みにせず、どういった点がサステナブルなのか、地球環境にやさしいとする根拠の提示がなされているか、一度立ち止まって確認することが大切です。また企業へ直接問い合わせることで本当に環境にやさしいのかを知ることができる上に、企業側に情報公開の要望があることを知ってもらう機会になります。 企業も十分に気を付けたいグリーンウォッシュ 出典:unsplash.com 消費者庁が証拠不十分の生分解性ゴミ袋の会社に措置命令を出したように、今後さらに監視の目は厳しくなるかもしれません。また、グリーンウォッシュだと指摘された場合のイメージの損失ははかり知れないものです。企業側も意図せずグリーンウォッシュをしていることがないよう、十分にグリーンウォッシュについて知り、適切なマーケティングを行っていく必要があります。 イメージに流されず、本当に必要なものを選ぼう 2020年、欧州委員会は、環境配慮をうたう製品やサービスの実に40%に「根拠がない」という発表をしました。残念なことに日本企業の商品やサービスにもグリーンウォッシュは数多く潜んでいるのが現実です。グリーンな製品を購入するときは、グリーンウォッシュに加担しないためにも、ぜひその生産方法などをチェックしてみてはいかがでしょうか。
コロナ対策が緩和されたことにより、旅行をする人が増えてきています。2023年のゴールデンウィークの羽田空港にはコロナ前の活気が戻ってきており、今年の夏も旅行者の増加が予想されます。一方で多くの観光客が一カ所に集中すると、地域に住む人の日常生活に支障が出る、自然環境が傷つけられるといったオーバーツーリズム(観光公害)が起こる場合があります。旅行をするときに私たちが考えなければならないことは何でしょうか。今回は、オーバーツーリズムの概要とサステナブルな旅行のポイントをまとめました。 オーバーツーリズムとは? 出典:pexels.com オーバーツーリズムとは、「Over(過剰)」と「Tourism(観光)」を組み合わせた英語の造語です。日本語にすると「観光公害」と表現されます。 観光は、地域経済の活性化に繋がり、地元の雇用を生み出すなどのメリットも多くありますが、一方で、特定の観光地にキャパシティを上回る観光客が訪れることで、混雑が起こり地域住民の生活に影響が出るほか、ゴミ問題などにより自然環境の破壊が起こるなどオーバーツーリズムの問題が顕著になっています。 世界各国でオーバーツーリズムが深刻な問題を引き起こしていますが、日本も例外ではなく、京都や鎌倉などの観光地では、歩道に人が溢れかえり、渋滞やマナー違反などが起こっています。また、SNSの普及により、これまで有名観光地ではなかった場所にも人が押し寄せる現象も起きています。日本では2018年、観光庁に「持続可能な観光推進本部」を設置。観光と地域住民の生活環境の共存を図るため、調査やヒアリング、ガイドラインの作成などを行っています。 コロナ禍で一時は観光客が減り、オーバーツーリズムの問題も落ち着きを見せていましたが、再び旅行ができるようになった今、地域住民や自然環境に大きな負担がかかるような旅行ではなく、バランスのとれた持続可能な旅行の在り方が見直されています。 オーバーツーリズムの具体例 出典:pixabay.com オーバーツーリズムにはどのような問題点があるのでしょうか。主な具体例を見ていきましょう。 混雑・渋滞 観光客が増えると、観光スポットや公共の交通機関だけでなく、駐車場や飲食店なども混雑します。地域や時間帯によっては道路の渋滞や施設の入場規制なども発生し、地域に住む人の暮らしや労働に大きな影響を与えます。 マナー違反 観光客のマナー違反は、ニュースでも何度も取り上げられてきました。特に、ゴミのポイ捨てや立ち入りが禁じられているスポットでの記念撮影、深夜の屋外での騒音などの問題があります。他にも重要文化財や遺跡などの先人たちが守ってきた場所への落書、建造物の損壊などといった事態も発生しており、これもオーバーツーリズムの影響の一つといえるでしょう。 環境汚染や景観の悪化 山や海など自然が豊かな場所に観光客が殺到すると、自然の破壊や景観の悪化が懸念されます。例えば、タイ・ピピ島のマヤビーチは映画で有名になり、観光客が増加。そのことにより環境が悪化しました。サンゴ礁や生物の保護などを理由に定期的にビーチへの立ち入りを禁止しています。 CO2の排出 観光地に人が集まると使い捨ての食器やペットボトルなどのゴミが増え、それを焼却する際にCO2排出量が発生します。ほかにも飛行機や車での移動もCO2を排出します。 オーバーツーリズムに関する地域の取り組み事例 次に、国内外のオーバーツーリズム対策について紹介します。 北海道・美瑛町/畑看板プロジェクトで問題解決に踏み込む 北海道美瑛町では、美しく広大な農地をバックにした観光客の撮影が問題となっていました。観光客が撮影のベストスポットを探す際に、農地へ無断侵入してしまう迷惑行為が急増したのです。それを解決するために始まったのが、“畑看板プロジェクト”です。畑看板プロジェクトでは、立ち入り禁止の看板の代わりに、道と農地の間に撮影スポットの目印となる看板を設置。看板に掲載されたQRコードからは、農地を所有する農家のSNSや、オンライン販売サイトが見ることができるなど、農家の顔が見える工夫が施されています。このような取り組みは、農家と観光客とのより良い関係性を築く一つの手段となっています。 フランス・パリ/街ぐるみで環境を考えた自転車移動の推進 2024年夏季オリンピックの開催地パリでは、人気の観光施設ベルサイユ宮殿やルーヴル美術館などで、オンラインによるチケット予約システムを採用しています。このようなシステムを用いることで混雑を避けることが期待されています。また行政は、2026年までに自転車利用者に優しい街にする計画を実行しています。市内どこでも自転車で移動ができるよう、自転車専用道路や駐輪場を整備しているのです。自転車移動はCO2を排出しないだけでなく、道路渋滞の緩和にも役立ちます。 イタリア・ミラノでも自転車の利用を促進する取り組みがすでに始まっており、世界中から注目されています。 関連記事:自転車が主役。世界が注目するミラノの都市デザイン【現地レポート】 私たちができる、旅行をする際の心構え 出典:pexels.com 意図せずに旅行先に迷惑をかけてしまわないよう、旅行をする際に考えたいことは何でしょうか。前提である観光地のルールを守るということ以外に、持続可能な旅行のためのアイデアをご紹介します。 レスポンシブルツーリズムを知る レスポンシブルツーリズムとは、「責任ある観光」のこと。旅行先の住民や自然環境に十分配慮し、責任を持って行動することです。自身の行動が地域にどのような影響を与えるのかを考え、人々や自然を尊重しながら観光をする意識を持つことが大切です。 エコツアーに参加する 環境に十分配慮しながら、大自然を満喫できるエコツアーを推し進めている自治体が多く存在します。旅行先にそのような場所を選んでみてはいかがでしょうか。エコツアーにはその土地のことを知り尽くしたネイチャーガイドが付いていることが多いので、より深く旅行を楽しめるでしょう。 関連記事:旅行好きの方必見。新しい旅のかたち「エコツーリズム」のすすめ 現地の移動にはCO2の排出量が少ないものを活用する 観光地によっては自転車移動を推奨している場所があります。事前に自転車など燃料を使わない乗り物を借りられる場所を確認し、移動の際には積極的に使ってみてはいかがでしょうか。 観光する時間帯を工夫する 例えば早朝に観光するなど、混雑する時間を避けるのも一つの方法です。地域住民のためだけでなく、自分自身もストレスなく観光ができます。 混雑状況がわかるアプリやサイトを確認する 自治体によっては、観光地の混雑状況を公開している場所があります。また、VACANのようなサービスでも空き状況を確認できるので、混みそうな場所を訪れる際は行く前にチェックしましょう。 宿泊施設のアメニティを持参する 使い捨ての場合も多い宿泊施設のアメニティ。最近の宿泊施設では必要な人のみに提供するという流れになってきていますが、歯磨きやシャンプーは家から詰め替えて持参し、シェーバーなどは普段使っているものを持って行きましょう。それを持ち帰るというのも大切です。アメニティが置いてあっても使わずに返すといったアクションが、ゴミ削減に繋がります。 アフターコロナは思いやりを持った観光を 出典:pixabay.com これからの観光には、自分たちの満足だけを考えるのではなく、地元の方と環境への思いやりの気持ちを持つことが求められています。観光客を受け入れる自治体や地域もオーバーツーリズム対策を行っていますが、観光客の意識を変えていくことも重要なのです。レスポンシブルツーリズムをキーワードに、旅行先の選定や観光方法などを考えてみてはいかがでしょうか。
働いてお金を稼ぎ、そのお金で生活をする。それが当たり前の世の中ですが、近年「ベーシックインカム」という新しい概念が登場しています。ベーシックインカムとはどんなものなのか、世界の事例とともにご紹介します。 ベーシックインカムとは? 出典:unsplash.com ベーシックインカムとは、政府が国民全員に対し決められた額のお金を定期的に支給する社会保障制度のことで、最低所得保障制度とも呼ばれています。これまでの社会保障と大きく異なる点は、個人の労働収入や保有資産など、受給資格や条件が設けられておらず、無条件で国民全員が受け取れることです。個人が一定の生活資金を恒久的に得られるベーシックインカムは、21世紀の新しい資本主義のあり方として世界の行政からも注目を集めています。 ベーシックインカムのメリット ベーシックインカムが導入されるとある程度の収入が保障されるため、「生きるために働く」状態から脱し、最低限の生活を維持できるようになります。その結果、以下のようなメリットがあると期待されています。 ・貧困の解決や対策になる・少子化の解消に繋がる・長時間労働の削減や労働環境の改善・多様な生き方が可能になる また、国民全員に一律で支給することから、社会保障制度を簡略化や生活保護の不正受給問題の解決にもつながります。管理が効率化されるため、支給される側だけではなく、する側にとっても大きなメリットとなります。 ベーシックインカムの課題 一方で、ベーシックインカムを導入する場合は以下のような課題があります。 ・財源の確保・従来の社会保障制度の見直し・個人の労働意欲や企業の競争力の維持 他に、適切な支給額の算出が難しいという問題もあります。そのため、本格的に導入する前に大規模な実証実験を行い、支給額に対してどの程度の効果と影響があるかを検証する必要があるでしょう。 ベーシックインカムはなぜ注目されている? 出典:unsplash.com ベーシックインカムは、コロナ渦をきっかけに訪れた経済危機をきっかけに、実施を検討する国や自治体が増加しました。日本においては、進む少子高齢化で年金制度への不安が増していることや、AIの発展によって失業者が増える可能性があるといった社会背景も脚光を浴びている一因です。 “わたしたちは、持続可能な世界を築くためには、極度の貧困をふくめ、あらゆる形の、そして、あらゆる面の貧困をなくすことが一番大きな、解決しなければならない課題であると、認めます。”SDGsの前文で上記のように宣言されていることからわかるように、貧困問題や格差の是正は世界的に大きな悲願であり、ベーシックインカムが有効な手段のひとつとして各国で模索が進んでいるのです。 ベーシックインカムの導入国と成功例 ベーシックインカムは、“全員が国からお金をもらえる”という一見夢のような話ですが、実際に導入された場合に社会は正常に機能するのでしょうか。実はコロナ禍以前からベーシックインカムの議論はされていて、ベーシックインカムの導入に向けて条件を絞った実証実験を行っている国や自治体は多くあります。それらの事例から、成功例を3つお届けします。 ブラジル 出典:unsplash.com ブラジルでは2004年に「市民ベーシックインカム法」が成立。その第一段階として、最も困窮している層を対象に給付する政策「ボルサ・ファミリア」が始まりました。2023年からは「新ボルサ・ファミリア」として給付が始まり、平均給付額は714 レアル(約2万円)に。受け取れる基準が変更され、対象は2,080万世帯まで拡大する見込みです。ブラジルでは、市単位でもベーシックインカム支給の動きがあります。リオデジャネイロ州のマリカ市では、2013年から貧困層を対象に給付を開始。コロナ禍で額が上がり、3人家族なら1ヵ月あたり日本円で約1万9000円の支給が行われています。特筆すべきは、市内の加盟店でのみ使える現地通貨「ムンブカ」をカードやスマートフォンへチャージして使用するという点です。これにより地域経済の活性化と雇用の促進が期待でき、人々がベーシックインカムを何に使ったのかなど、消費動向データを収集し分析できるようになっています。 フィンランド 出典:pexels.com 2017年1月から約2年間の期間で、失業者からランダムに選出された2,000人を対象に毎月560ユーロ(約7万円)が無条件で支給されました。フィンランドの社会保険庁は、「人々の労働日数にほぼ変化は見られず、勤労意欲に変化がない傾向がある」と結果を発表。劇的な雇用の改善には繋がらなかったものの、悪化もしておらず、ベーシックインカムの懸念として挙げられることの多い「勤労意欲の低下」は見られない結果となりました。また、生活保障を得たことでライスワーク(生きるための仕事)から脱し、起業などのライフワークへ挑戦する意欲が高まったとポジティブな回答も見られました。 カナダ 出典:unsplash.com 2017年7月から、オンタリオ州では約4,000人を対象におよそ所得の約50%を給付するベーシックインカムの実験を開始。3年続くはずだった実験は、多大なコストを理由に1年で終了となったものの、参加者へのインタビューでは、タバコやアルコールの摂取が減ったという例や、うつ状態から回復し社会復帰のために職業訓練に通い出したという例もあり、心身の健康状態へポジティブな影響が見られました。 ベーシックインカムの導入国は増える? ベーシックインカムは、貧富の格差を解消し社会保障制度を単純化するなどのメリットがありますが、実証実験を行ったものの本格的な導入には至らないケースが多いこともあります。足踏み状態となる原因として、まず財源確保の課題があります。例えばブラジルのマリカ市は油田を持ち石油会社からの税収で財政が潤っているため、コロナ渦でもベーシックインカムで多くの市民の生活を支えることができました。しかし、これは稀なケースと言えるでしょう。他にも、日本を含む社会保障が手厚い国では従来の社会保障とベーシックインカムのバランスをどう調整していくかという点も議論の焦点となっていくでしょう。まだまだ発展途上のベーシックインカム。SDGsで貧困をなくすことが目標とされ、AIが進歩が目覚ましい中、どのような国や地域がどのような施策を打ち出していくのでしょうか。これからのベーシックインカムにますます注目が集まりそうです。
新しい年度が始まり少し経った今、プライベートと仕事や勉強の切り替えはうまくできているでしょうか。リモートワークが定着し、家で仕事をする人が増え、再注目されているのが、自宅でもない仕事先でもない居場所・サードプレイスの重要性です。今回は、サードプレイスの概要をメリットと事例を交えてご紹介します。 サードプレイスとは サードプレイス(third place/第三の場所)とは、家庭や学校、職場と離れた、居心地の良いと感じる場所(コミュニティ)のことです。アメリカの都市社会学者レイ・オルデンバーグが、ストレスの多い現代社会の中、心をくつろげ、かつストレスから解放される場所・サードプレイスが重要であるということを自著『The Great Good Place』で提唱し、注目されるようになりました。オルデンバーグによるとサードプレイスは以下の8つの特徴があります。 ・特定の団体や組織に属しておらず、中立である・社会的地位などに重きを置かず、平等である・楽しい会話が中心に存在する・誰でも訪れやすく利便性が高い・常連がおり、新しく入る人にも開かれている・派手さはなく安心できる・緊張などはなく、陽気な雰囲気・第二の家になる ファーストプレイスとセカンドプレイス サードプレイスとは第三の場所ですが、それではファーストプレイスとセカンドプレイスのとはどこを示すのでしょうか。 ファーストプレイス ファーストプレイスとは、主に自宅のことを指します。食事や睡眠、入浴などといった基本的な生活を行う場所のことです。私たちに欠かせない場所である一方で、家族がいる場合などは、お互いが快適かつ安全に暮らせるよう配慮が必要です。家族に対して責任や義務があります。 セカンドプレイス セカンドプレイスとは、職場または学校のことであり、仕事をしたり、学びを得たりする場所を指します。収入を得て生活を維持する、これからの人生のために学ぶ場所ではあるものの、それらに対して責任が生じます。それは直接職場や学校に赴かないオンラインであっても同じです。私たちの生活の長い時間を過ごし、責務もあるため、多少なりともストレスを抱えてしまうことがあります。 サードプレイスのメリット 出典:pixabay.com 自宅や職場、学校以外に、自分の居場所であるサードプレイスを持つことは、私たちに多くのポジティブな効果をもたらします。その一部を見ていきましょう。 新しい考え方と学びを得られる 家庭や職場、学校の人間関係は比較的固定されがちです。 それとは逆に、サードプレイスでは、職業や年齢、性別、出身地などがあらゆるバックグラウンドを持つ人との関わりが増えます。異なる価値観を持った人たちと交流をすることで、これまで考えたことがなかったアイデアや考え方に触れることができ、新たな学びや刺激を獲得できます。 共通の趣味の人と出会える サードプレイスは、共通の趣味を持っている人と出会う確率が高い場所です。典型的な例を挙げるなら、スポーツクラブやジムはサードプレイスに近いものがあります。ほかにも映画や特定の小説家が好きといった趣味の集まりもたくさん開催されており、趣味の話題で盛り上がることでしょう。 ストレス発散になる 自分のサードプレイスがあると、ファーストプレイスやセカンドプレイスで抱えてしまったストレスが発散され、メンタルの維持にもつながります。また、サードプレイスがあるから仕事や学校でのモチベーションをキープできるのです。 サードプレイスの具体例 ヨーロッパではサードプレイスの存在が生活に溶け込んでいると言われています。海外や国内のサードプレイスの例を見てみましょう。 カフェや居酒屋 欧米のカフェや居酒屋(※イギリスの場合パブ)の中には、飲食を楽しむだけでなく、顔見知りのお客とスタッフが会話を楽しめる場所として利用する人が多くいます。家族や職場の同僚以外の人と会話をすることは、気分転換になります。 サウナ サウナの発祥地フィンランドでは、サウナがサードプレイスになっています。サウナは身体を療養し、リフレッシュをする場でもあり、そこでたわいもない会話が生まれることで、心身ともに爽快な気分でサウナを出ることができます。 乗車をシェアするサービス 高齢者の割合が高くなり、人口減少が進んでいる石川県輪島市では、地域の方の移動手段として「WA-MO(Wajina Small Mobility、ワーモ)」という交通システムを稼働しています。この交通システムは、3つルートで4人乗りまたは7人乗りの小型車両を走らせ、住民と観光客が無料で乗れる仕組みとなっています。乗車した者同士の交流が生まれ、それがサードプレイスとなったのです。このシステムによって地域の交通インフラが整ったとともに、コミュニティも豊かになってきています。 ※コロナにより運行を休止している場合があります。 サードプレイスの作り方 それでは、実際サードプレイスはどのように探したら良いでしょうか。サードプレイスの見つけ方には次のような方法があります。 自宅から職場までの地域を散策する サードプレイスを見つける最も手軽な手段の一つとして、オフィスや学校から自宅までの道中や、散歩コースを見直してみるということが挙げられます。普段は通り過ぎていたお店や貼り紙などを意識すると「行ってみたい」と思えるスポットが見つかるかもしれません。また、公園やカフェがサードプレイスになる可能性もあります。地域のコミュニティ活動もサードプレイスになるかもしれません。 SNSを利用する インターネットが普及している今日、SNSで自分にぴったりのサードプレイスを探すことも可能です。似た趣味の人との出会いがあり、交流が始まり、良い関係性に発展するパターンもあります。自分の趣味や好みが明確になっている方はSNSでサードプレイスを見つけてみるのも良いでしょう。 サードプレイスの活用で充実した毎日を 出典:pexels.com 自分のサードプレイスがあると、自分自身のステップアップにつながり、家庭でも仕事学校でも新しい考え方やアイデアが生まれやすくなるといわれています。今の自分の生活に何か新しい風を吹かせたい方、新生活で少しストレスを感じている方は、サードプレイスを見つけ、新しい出会いを楽しんでみてはいかがでしょうか。
2023年版の世界幸福度ランキングが発表されました。トップ20の国と日本のランキングを紹介するとともに、世界幸福度ランキングの概要やランキングの決まり方について説明していきます。 世界幸福度ランキングとは? 世界幸福度ランキングとは国連の関連団体であるSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)が2012年から発行している「World Hapiness Report」に記載されているランキングです。同年3月20日に宣言された「国際幸福デー」に合わせて毎年ランキングが発表されています。背景に2011年の国連総会で、幸せの国としても知られるブータンのティンレイ首相(当時)が「幸福度を国際社会全体の開発目標に据えよう」と問題提起し、全会一致で採択されたことがあります。世界的な金融危機や環境破壊の経験を踏まえ、GDPなどの経済指標だけでは豊かさや幸福度を測れないことから、世界的に幸福度を重視するような機運が高まっています。 ランキングはどうやって決まる? 出典:unsplash.com 世界幸福度ランキングはどのように決まるのでしょうか。幸福度の調査はカントリルラダー(Cantril ladder)と呼ばれる方法を用いた世論調査によって行われます。具体的には、可能な限り最高の人生を10、最悪の人生を0とし、回答者に自分の人生が0から10のどの段階にあるかを評価してもらいます。得られた回答の過去3年間の平均値をスコアとし、ランク付けをしています。 また、報告書においては得られたスコアがどのような要因で説明できるか、統計学的な観点から分析しています。説明に使われる要因は以下の6つの項目です。 ・一人当たり国内総生産(GDP)・社会的支援(社会保障制度など)・健康寿命・人生選択の自由度・他人への寛容さ(寄付活動など)・腐敗認識度(国・政治への信頼) ここで注意が必要なのが、6つの項目は結果を後から分析するために用いられるものであって、幸福度のスコアやランキングには影響していないということです。World Hapiness Reportのホームページには以下の記述があります。 “Our happiness rankings are not based on any index of these six factors – the scores are instead based on individuals’ own assessments of their lives, in particular, their answers to the single-item Cantril ladder life-evaluation question”(我々の幸福度ランキングは6つの指標に基づきません。代わりに、スコアは個人の生活の評価、特に単一項目のカントリルラダー生活評価質問への回答に基づいています) https://worldhappiness.report/about/ ランキングはあくまでも、個人の主観的な生活評価に基づいているのです。 最新の世界幸福度ランキング 3月20日に最新の世界幸福度ランキングが発表されました。 World Happiness Report 2023 より再編 図には分析された6つの項目を色別で記載しています。6つの項目とは前述したとおりですが、紺色の「基準値 + 残差」の「基準値」は、全ての国に対して基準となる共通の値を与え、「残差」は6つの項目で分析しきれない部分を表すことを目的として導入されています。 上位3国は昨年と変わらない結果となりました。また、日本は47位で、昨年よりも順位があがっています。 ここからは、上位3国において、国民の幸福度の高さの所以はどこにあるのかと日本の順位が低い理由を考えていきます。 世界幸福度ランキング1位 <フィンランド> 出典:unsplash.com 6年連続で幸福度ランキング1位となったフィンランド。透明性の高い政治で国民からの信頼が厚いと言われており、社会保障制度が充実していることで知られています。また、フィンランドでは、教育や子育てにも力を入れています。 教育の質の高さ・学力を競うのではなく、自分のために勉強するという価値観・生徒一人ひとりの状況を把握できるよう少人数教育を実施・教員は修士号取得など、厳しい条件をクリアしている・子どもの頃から自然の中で身体を動かすことを楽しめる環境が整っている 子育て環境・就学前教育から高等教育まで学費や給食費が無料・親の就労の有無にかかわらず、すべての子どもが保育園に入ることができる・16時ごろまでに仕事を終わらせる文化があり、残業はほとんどしない・妊娠期から就学するまで「ネウボラ制度」により家庭をサポートする担当者がつく・男性が育休を取得しやすい 世界幸福度ランキング2位 <デンマーク> 出典:pixabay.com デンマークは幸福度の高さと国際競争力を両立している国として知られています。社会保険料の代わりに高い税金により手厚い社会保障制度が整っていることが特徴です。その中でも、特に注目されている高齢者福祉について詳しく見ていきましょう。 高齢者福祉・年金の財源は税金のため、未加入や無年金にはならない・充実した年金制度で、生命保険に入る必要がない・自立を促す在宅介護が中心で、手厚いケアにより一人でも安心して暮らすことができる・すべての地方自治体が介護サービスを提供しており、無料で利用できる 世界幸福度ランキング3位 <アイスランド> 出典:unsplash.com アイスランドは、国土面積は北海道と四国を合わせたほどの小国ながら、1人当たりのGDPが高水準である裕福な国です。 社会保障が充実していることから、子どもからお年寄りまで安心して暮らせる環境が整っている上に、ジェンダー平等を推進している点も特徴的です。 ジェンダー平等・男女の同一労働・同一賃金を義務付ける法律を世界で初めて制定・クオータ制により、企業役員や議員などはメンバーの40%以上を女性とすることが定められている・育児休暇期間は、母親が6か月、父親が6か月に加え、どちらがとるか自由に決められる期間が6週間ある 日本の世界幸福度ランキング - 順位が低い理由は? 2023年の世界幸福度ランキングで日本は47位となり、昨年の54位から順位を上げました。また、スコアも昨年より上がっています。6つの分析項目でランキング1位のフィンランドと比較すると、人生選択の自由度、他人への寛容度、腐敗認識度が低いようです。 しかし、何よりも差が大きいのは「残差」の部分です。宗教や文化の違いから東アジアの人はカントリルラダーを控えめに回答する傾向にあることが知られています。残差の部分にその結果が表れ、ランキングに影響していると考えられます。 日本の幸福度を高めるためには? 実は6つの項目による分析結果だけをみると日本は20位のリトアニアよりもスコアが高いです。 主観的な回答に基づいて決まる世界幸福度ランキングは分析しきれない部分が大きく、高順位の国を見て日本の幸福度が低いと考えるのは安直です。幸福度を高めるために大切なことは順位を上げることではなく、分析結果から学ぶことだと言えます。 もし比較するのであれば、順位を見るのではなく、分析結果から日本の良いところや日本に足りないものを考える、過去の日本のスコアと比較して今の日本がどうかを評価する、などが良いでしょう。 世界幸福度ランキングの楽しみ方 出典:pexels.com 一見すると政治への信頼度や社会保障制度の充実度など、ランキング上位国は理想郷そのものに見えますが、その全てが完璧な訳ではありません。例えば、ランキング1位のフィンランドでは日本同様少子化の問題を抱えていますし、他にも、人道的な理由から多くの難民を受け入れたことが、社会保障制度の負担になるという声も上がっています。どれほど幸福度が高い国でも問題は抱えているものです。それでも多くのフィンランド国民は自分たちのことを幸せだと思っているということが幸福度ランキングからはわかります。 GDPや社会の制度そのものではなく「主観的に幸せだと思えること」が大切なことであり、幸福度ランキングが私たちに伝えてくれているものです。どのような宗教や文化、価値観を持つ国の人でも、自信を持って自分は幸せだと言える世界であってほしいですね。
グローバル化が進み、原料や生産コストを抑えられるようになったことで、私たちは安く服を手に入れられるようになりました。しかしその一方で、衣服の大量生産・大量廃棄による環境への負荷や、生産者の労働環境などが問題になっているのも事実です。 今、様々なブランドで、人権や環境を尊重したファッションに移行する動きが高まっています。この記事では、世界がファッションの在り方や楽しみ方を考え直し、エシカルファッションということばが広まるきっかけになった「ラナ・プラザ崩壊事故(ダッカ近郊ビル崩落事故)」について見ていきます。 人や動物、環境に配慮する「エシカルファッション時代」の到来 出典:unsplash.com エシカルファッションとは、素材の調達から販売に至るまで、生産・販売に関わる人や動物、自然環境を尊重し、配慮されて作られたファッションのことです。 労働者に適切な支払いを行う、労働環境を整える、動物性の毛皮などを使用しない、なるべく水を使わずCO2の排出を最低限に抑えるなどといった取り組みを行っているものを指します。環境に配慮しているという点では、持続可能なアパレルの生産を目指すサステナブルファッションと被るところも多くあります。今でこそ企業や消費者のファッションに対する向き合い方は少しずつ変わってきましたが、グローバル化が進み、安価な労働力を海外に求めるようになってからは、生産の背景を透明化することは難しいことでした。私たちが着ている洋服はどのような場所でどのように作られたものかを知らずに購入するケースが多かったのではないでしょうか。そんな中、企業や消費者が、生産者の人権を尊重するファッションについて考えるようになった大きな事故があります。それが「ラナ・プラザ崩壊事故(ダッカ近郊ビル崩落事故)」です。 世界に大きな衝撃を与えた「ラナ・プラザ崩壊事故」 出典:unsplash.com ラナ・プラザ崩壊事故、別名ダッカ近郊ビル崩落事故は、2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカから北西約20kmにあるシャバールで起きたビルの崩壊事故です。縫製工場、銀行、商店などが入っていた8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」の崩落により、死者は1134人、負傷者は2500人以上にのぼりました。犠牲者の多くが縫製工場で働いていた若い女性たちであったとされています。ビルは以前から耐震性を無視した違法な増築を繰り返し、事故の前日にも、ひび割れが発見されましたが、建物の所有者はその指摘を無視していました。その杜撰な安全管理の末、ビル内に設置された4基の大型発電機の振動や数千台のミシンの振動が引き金となり、崩落したとされています。 事故後ラナ・プラザの縫製工場は、粗末な安全管理が明るみになっただけではなく、低賃金で長時間労働が行われている「スウェットショップ(搾取工場)」であり、労働組合を作ることを認められていなかった等の不平等な労働環境も広く知れ渡ることになりました。このビルの崩壊により、消費者やファッション業界が求めてきた安価な洋服の先にあった、劣悪な労働環境が浮き彫りとなったのです。 崩壊事故を受けた世界の反応 ラナ・プラザには、世界でも有名なアパレルブランドの下請けを工場が入っていました。ベネトンや、ウォルマート、マンゴーなど、日本でも馴染みのある世界的なブランドの下請け工場もラナ・プラザにありました。各ブランド・メーカーはこの労働環境について知らなかったと発表していますが、事故後これらのブランドには多くの批判的な意見が寄せられています。 崩落事故から、約1か月後には「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関わる協定(The Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh )」が作られ、欧州を主としたブランドや小売企業とバングラデシュの労働組合等との間で、その協定の締結がなされるようになりました。この協定にはユニクロやH&M など多数の主要アパレルが署名しています。輸出先の国や地域によってその対応は変わりますが、他にも、労働法の順守、従業員への給与支払いおよび休日の付与などをチェックする機能なども新たに作られるようになり、バングラデシュの縫製工場を取り巻く環境は少しずつ変化しつつありますが、まだまだ課題が残っているのが現状です。 ファッションレボリューションデーの設立 出典:unsplash.com 事故後、市民の間でもムーブメントが起きています。ラナ・プラザ崩壊事故を受けて、イギリスではファッションレボリューションが設立されました。環境や人権に配慮したファッション産業を広めるキャンペーンとして、世界中に広まっています。ファッションレボリューションではラナ・プラザ崩壊事故に合わせて、毎年4月24日を「ファッションレボリューションデー」と制定。その前後1週間のファッションレボリューションウィークは、世界中で様々なイベントが行われます。2022年、日本では「服を長く愛するために」をテーマに多方面から服の“お直し”をするクリエーターや団体による展示が行われました。 複雑なサプライチェーンとグローバルサウス・グローバルノース グローバル化が進み、あらゆる素材を調達し生産するファッションは、サプライチェーンの透明化が非常に難しいとされています。しかし、ファストファッションを生み出す縫製工場の多くは、新興国にあるのが事実です。残念ながら、安価な労働力を求められる生産地の新興国では、現地の労働環境に光が当たることは、今まであまりありませんでした。アパレル産業に関わらず、ヨーロッパやアメリカ、日本といったグローバルノースと呼ばれる国々がグローバル化の恩恵を受ける一方で、バングラデシュをはじめとしたグローバルサウスと呼ばれる国々にその負担がかかっていることがあるのです。このことをグローバルノースに住む私たちは知っておく必要があります。 関連記事:日本に住むなら絶対に知っておきたい、グローバルサウス・グローバルノースとは ラナ・プラザ崩壊事故への理解が深まるドキュメンタリー映画 最後に、ラナ・プラザ崩壊事故やバングラデシュの下請け縫製工場について描かれた映画をご紹介します。 『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』 ラナ・プラザ崩壊事故をきっかけに作られたファッション業界の裏側に迫るドキュメンタリー。服の価格が低下する一方、人や環境が支払う代償が劇的に上昇してきた現代で、服を巡る知られざるストーリーに光を当て、「服に対して本当のコストを支払っているのは誰か?」という問題を提起した話題作。 『メイド・イン・バングラデシュ』 10代半ばからバングラデシュの労働闘争に関わってきたダリヤ・アクター・ドリの実話をもとに作られた、バングラデシュの縫製工場で働く女性たちが主人公の物語。バングラデシュ・ダッカ生まれの女性監督ルバイヤット・ホセインがメガホンをとった。 悲劇を繰り返さないために、私たちにできること 出典:unsplash.com 買い物をするということは投票することと同じことです。買い物をするときには、その洋服がどのように作られているのか背景を知ろうとすることや、グローバルサウスの国々でどんなことが起きているのかを知ること。そしてより良い選択を行っていくことが、ラナ・プラザのような事故を起こさないために、私たち消費者ができるアクションです。
近年、国全体で長時間労働や雇用格差などを見直す動きが進んでいます。その流れによって、これまでの働き方が見直され、少しずつですがそれぞれのライフスタイルを重視した働き方が選べるようになってきました。今回は、新しい働き方につながるワークライフマネジメントについて解説していきます。 ワークライフマネジメントとは? 出典:unsplash.com ワークライフマネジメントとは、自分のペースに合わせて仕事(Work)と私生活(Life)の管理を行い、バランスを取りながら両方とも充実させていく考え方です。 自分自身で仕事もプライベートもマネジメントすることで、仕事に意欲がわき成果を出しやすくなり、オフタイムは自分の好きなことや興味関心のあることを存分に楽しめるようになるといわれています。 ワークライフバランスとの違いは? ワークライフマネジメントは、ワークライフバランスと混同される場合がありますが、ふたつのワードの相違点は、「自発的」に動いているか否かです。 ワークライフマネジメントは、仕事や私生活を自らコントロール・管理する意味合いが含まれています。一方でワークライフバランスは、企業サイドが時短勤務やフレックス制度、短時間勤務などを設けて、従業員に提案や奨励をするようなかたちのことを示します。 ワークライフマネジメントが注目される背景 出典:pexels.com 日本ではこれまで、長時間労働やみなし残業といった労働形態が大きな社会問題になってきました。会社や業界にもよりますが、現在、労働環境は改善されている傾向にあり、そのような流れで出てきたのがワークライフバランスという言葉です。 ワークライフバランスもワークライフマネジメントと目指すところは一緒でしたが、前述した通り、次第に“会社が社員に制度として提供するもの”という意味合いが強くなってきてしまい、社員はその制度を受け取る、受け身の状態であることが懸念されていました。そこで、社員自らが仕事とプライベートを充実させようと管理することが大切だという本来の認識を取り戻すべく、ワークライフマネジメントという言葉が新しく誕生したのです。 ワークライフマネジメントのメリット ワークライフマネジメントが進むと個人にとって、以下のようなメリットがあります。 ・モチベーションの向上働き方やプライベートに満足していればモチベーションが向上。双方のクオリティアップにも繋がります。 ・やりがいを感じるやらされているわけではなく、自ら選択しマネジメントすることはやりがいに繋がります。 ・ライフステージが変わっても働き続けることができる働き方を選ぶことができれば、親の介護や出産・育児など様々な理由で離職する可能性も少なくなります。 一方企業にとっても以下のようなメリットが生まれます。 ・優秀な人材の確保ライフステージの変化によって職場を離れるケースが減少することは、優秀な人材の流出を抑止することにも繋がります。 ・生産性の向上一人ひとりのモチベーションが上がることにより生産性の向上が見込めます。 ・新たなアイデアの創出プライベートを充実させることで、仕事においても革新的なアイデアが生まれるかもしれません。近年子どもだけでなく、大人にとっての“遊び”の重要性が注目されています。 ワークライフマネジメントの企業事例 社員自ら生活をマネジメントするためには、それが叶うような職場の環境が非常に重要です。最近は、ワークライフマネジメントを推し進める企業が出てきています。主な事例として次の3社があります。 株式会社ベネッセホールディングス 株式会社ベネッセホールディングスでは、多様な働き方によって仕事(Work)と私生活(Life)の両方を大切にすることを推奨しています。在宅勤務やフレックス勤務などの働き方だけでなく、リスキル休暇といった自己研鑽に充てる休暇も提供し、従業員が満足できる働き方を実現しています。 参考サイト:働きやすく活気ある職場づくり(労働慣行) | 社会 | サステナビリティ | 株式会社ベネッセホールディングス 株式会社日本総合研究所 株式会社日本総合研究所では、性別やライフステージを問わず『社員全員にとって働きやすい職場づくり』を推進。ライフステージに合わせた働き方の選択肢を設け、女性のキャリアステップにおけるロールモデルの拡充や、多様な価値観に応じた柔軟で生産性の高い働き方の実現を目指しています。 参考サイト:ワークライフマネジメント|学生向け・キャリア採用向け情報サイト|日本総合研究所 千寿製薬株式会社 千寿製薬株式会社では、ライフワークバランスから一歩踏み込んだライフワークマネジメントを軸にした働き方改革を実践。充実した休暇制度や、子育てや介護に関する制度、在宅勤務制度など、全社員が「ワークライフマネジメント」の当事者であると認識し、仕事と生活を充実させるために主体的に働き方を考えられるような取り組みを行っています。 参考サイト:「仕事と生活の調和」のさらに先へ 「ワークライフマネジメント」の推進 | SENJU SENSE | 千寿製薬について ワークライフマネジメントで充実した働き方とライフスタイルを叶えよう 自分で仕事も生活をマネジメントし、充実させることは簡単なことではないように思うかもしれませんが、自らの生活や人生について考えることは私たちにとって大変重要なことです。ライフワークマネジメントをキーワードに、会社の制度を再度確認し、自分の希望の働き方やプライベートの時間を見つめなおしてみるのもいいかも知れません。
グローバル化が進展する中、その流れとは逆を行く「ローカリゼーション」というワードが世界中で注目を集めています。ローカリゼーションとはなにか、なぜ今注目されるのかを解説しています。 ローカリゼーションとは 元々、ローカリゼーションとは、自分たちの手がけた製品もしくはサービスを特定のマーケットに適応させる取り組みのことでした。 最近では、ローカリゼーションは、地域社会に紐づくワードでも使われるようになっています。この場合の意味合いは、地域内の資源やお金を回すことで、生産に携わった人と消費者が距離を縮めながら、自分たちで地域を活性化するということを指します。グローバル化が進み、安価な輸入品が手に入り、便利になった一方で、地域の文化が失われることが危ぶまれ、地元産のものを購入し、地域の活動を盛り上げようとするローカリゼーションのムーブメントが世界中で起こっています。 グローバリゼーションとローカリゼーション ローカリゼーションは、グローバリゼーションの対極にあるといってもいい言葉です。様々な国から調達した原料を使い、労働力のある国の工場で大量生産し、それを輸送して別の場所で売る、といった仕組みを持つのがグローバリゼーションです。私たちが普段購入する洋服や雑貨などあらゆるものが、複雑なサプライチェーンを持っています。 一方、ローカリゼーションでは、地元で採れたものや生産されたものを地元で売るというようなことが進みます。「地方創生」「地産地消」などもローカリゼーションの一環です。 関連記事:実はこんなにたくさん!地産地消のメリットとは ローカリゼーションが注目される背景 出典:unsplash.com 近年、ローカリゼーションが注目さる主な背景として以下のようなものが挙げられます。 人とのつながりが希薄となった 少子高齢化や核家族の増加、そして新型コロナウイルス感染拡大によって、家族以外の人と触れる機会が減っています。なかには近所付き合いが全くないという人も一定数います。このような人が地域の中で取り残されないよう、地元の人通しで繋がれるローカリゼーションが必要とされています。 地域文化の継承が難しくなった 日本では地方の過疎化が加速し、働き盛り世代で地域を担う人が少なくなっています。そのため地域の文化や伝統、技術の継承が大変難しい状況です。その解決のひとつとして、ローカリゼーションを加速させ、地域の魅力を再発見することが挙げられます。 ローカリゼーションのメリット ローカリゼーションのメリットは、地域の人と人との繋がりが密になることで、「絆」が強くなることです。例えば、地域全体で地域に住む子どもの面倒を見ることで、自分の居場所を確保しやすくなり、世代を超えてコミュニティが構築されます。地域のコミュニティは有事の際にも重要で、例えば災害があった場合でも安否の確認がしやすくなり、避難するのが困難な高齢者や障がい者に声を掛け合うなど、お互いに助け合うことができます。 また、地域で経済が回ることで、地域の活性化が見込めます。新しい取り組みや場所、商品などが地域から生まれることにより、新たな雇用の創出や、若い世代が地域に残って生活することに繋がるかもしれません。活性化することで地域外の人からも目に留まりやすくなり、地域文化の継承や後継者不足の問題解決にも繋がる可能性があります。 最後に、環境にもたらす影響も少なからずあります。遠くの国から輸入してくるモノや食品と比べて、地域でできたものは「フードマイレージ」が低く、輸送にかかる環境負荷が抑えられます。 関連記事:フードマイレージとは?買い物するときに注目したいポイントを解説 ローカリゼーションのデメリット ローカリゼーションが進むことで私たちの生活にマイナスの影響はあるのでしょうか。 今私たちの身の回りには、安価で生産数も安定しているものが多くあり、豊富な種類が手に入ります。これはグローバリゼーションの賜物です。一方、ローカルで作られるものは、大量生産でないことも多く、供給は安定しないかもしれません。また、生産者との公正な取引から、価格も多少高めに設定されることもあります。しかし、ローカリゼーションが進み、地域の経済が潤うようになれば、このような問題も少なくなってくるでしょう。 ローカリゼーションの国内具体例 ローカリゼーションの取り組みとして、各地で施策が始まっています。 JAあいち三河 JAあいち三河では、ローカリゼーションの一環として中山間地域を中心に金融機関の移動車と移動購買店舗車の運転をしており、地域に住む方の生活インフラを整えています。ほかにもいちご農家の減少を食い止めるための「いちご塾」を開校し、次世代を担う農家の育成にも注力しています。 参考:JA あいち三河 × SDGs 兵庫県豊岡市 兵庫県豊岡市では、若者の人口減少にフォーカスした取り組みを積極的に行っています。ほかにもジェンダーギャップの解消と外国人定住者の受け入れなど、誰もが暮らしやすい地域を目指すため、今の時代背景を考えた施策を提案し、実行しています。 参考:豊岡市の地方創生戦略 (人口減少対策) 豊かな地域を育むために 出典:unsplash.com 地域過疎化・後継者不足といった深刻な地域の問題を解決していくためには、ローカリゼーションは必要な要素です。最近は、若い世代や移住した人たちが地方を盛り上げる取り組みも多く見られます。 経済やコミュニティを豊かなものにして、地域が力をつけていくために、私たち個人ができることはたくさんあります。生産者に会えるマーケットに出かけて地元の野菜を買う、地域の産業や伝統文化を知ることも、そのひとつです。世界でも注目されるローカリゼーションは、日本でもますます大切な取り組みとして広まっていくことでしょう。
カーボンニュートラルは、私たちの住む地球を持続可能なものにしていくためのキーワードの一つです。近年、テレビや新聞で取り上げられることも増え、国や企業を中心にカーボンニュートラルを意識した取り組みが広がっています。こちらの記事では、少し難しいように感じるカーボンニュートラルについて、かみ砕いてわかりやすく解説します。 カーボンニュートラルとは 出典:unsplash.com カーボンニュートラルとは、人の活動が起因となって発生する温室効果ガス(CO2など)の排出量から、植林などによる「吸収量」を差し引き、排出量の合計を実質的に「ゼロ」にすることを指します。 2015年のパリ協定では、世界共通の長期目標として、 ・世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること(2℃目標) ・今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること などが合意されました。 これに伴い、日本を含む120以上の国が2050年までにカーボンニュートラルを達成するために取り組みを始めています。 カーボンニュートラルが必要な理由 出典:unsplash.com 世界では海面上昇や砂漠化、大規模災害、深刻な水不足など、気候変動が人々や生態系に大きな影響を与えています。私たちの住む日本も例外ではなく、埼玉県や群馬県、岐阜県といった内陸の県の夏は異常な暑さとなり、全国的にゲリラ豪雨などによる被害も多く発生しています。 世界の国々が一丸となってカーボンニュートラルを目指す主な理由は、このような気候変動危機を回避することにあります。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、世界で工業化が進んでから、世界の平均気温は約1.1℃上昇しているとされており、人類や地球上の生態系に深刻な影響が出る境界値は工業化からプラス1.5℃と言われており、気温上昇はあと0.4℃に抑える必要があるのです。 持続可能な未来に向けて、今すぐ私たちが取り組まなければならない喫緊の課題である気候変動。気候変動を食い止める一つの策としてカーボンニュートラルの取り組みが求められています。 日本政府も目指す「2050年カーボンニュートラル」 日本では、2020年10月に開かれた臨時国会の所信表明演説において、当時の内閣総理大臣だった菅義偉氏が「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指す」という宣言をしました。 日本は、CO2だけに限らず、メタン、N2O(一酸化二窒素)、フロンガスを温室効果ガスとして削減することを目指しています。現在国内の温室効果ガスの排出量は、年間12億トンを超えると言われています。「2050年カーボンニュートラル」を確実に進めるために、2030年には温室効果ガスを2013年度の46%削減することを目指し、段階を踏んで達成していくことを宣言しています。 国が進める具体的な取り組み 日本政府はカーボンニュートラルを現実のものとするために、多方面での取り組みを行っています。いくつか具体的な事例を見ていきましょう。 グリーン成長戦略 並大抵の努力では実現が難しい2050年カーボンニュートラル。目標を達成するためには、エネルギー・産業の構造の大きな転換や、投資によるイノベーションが必要となります。積極的に温暖化対策を行うことが成長のチャンスであるという考えのもと、「経済と環境の好循環」を作っていく産業政策 がグリーン成長戦略です。国は、再生エネルギーの促進をはじめとし、農業やIT産業など14の分野でそれぞれの課題や目標を明記。税金の投入や、規制改革および標準化・国際連携などを通して全面的に企業をサポートします。 ゼロカーボンシティの実現 環境省は、地方公共団体の脱炭素化への取組に対し、情報基盤整備、計画等策定支援、設備等導入を支援しています。2050年カーボンニュートラルを宣言する地方公共団体は増加してきており、2022年12月時点では、800を超える地方公共団体が取り組みを始めています。 脱炭素社会の実現に向けて 国の動きに連動して、国内では脱炭素社会に向けた取り組みを行う大企業が増えてきています。国や企業が脱炭素社会に向けて取り組むインパクトは、社会にとって大変大きいもので、2050年カーボンニュートラルの実現のためには不可欠です。 私たちの生活に関わる企業も取り組みを始めています。そのような企業に注目することが私たち一人ひとりにできるカーボンニュートラルに向けたアクションになってくるでしょう。 【参考】令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)第1部 第2章|資源エネルギー庁国の取組 - 脱炭素ポータル|環境省
みんなが住みやすい社会を作っていくためのソーシャルデザイン。近年国内外で、人にフォーカスした社会づくりや街づくりが活発になっています。今回は、国内・海外から注目のソーシャルデザイン事例をピックアップ。もともとあった場所をどんな世代の人でも使えるようにバリアフリーにすることでみんなが集まれる場所へとリニューアルしたり、人と自然が共存できる場所を作ったりと、アイデアに溢れた場所がどんどん増えてきています。各地でどんな取り組みが進んでいるのか見ていきましょう。 関連記事:https://rootus.net/article/1490 日本のソーシャルデザイン事例3選 アーティストが提案する憩いの場「HIROPPA」(長崎県波佐見町) この投稿をInstagramで見る 有限会社マルヒロ(@maruhiro.hasami)がシェアした投稿 「HIROPPA(ヒロッパ)」は、磁器づくりの歴史がある波佐見町に拠点を構え、波佐見焼の食器や雑貨を販売する企業、マルヒロが2021年10月にオープンした複合施設です。敷地内には国内外のアーティストが手がける作品が点在しているのが特徴です。芝生をメインとした公園を中心とした施設には、コーヒーショップやマルヒロの直営店、キオスクを併設。ベビーカーや車椅子でも回れるよう、バリアフリーの通路を完備するなど、老若男女どんな人でも楽しめるコミュニティースペースとなっています。また、子どもたちに自由に遊びを楽しんで欲しいとい願いから、公園には一般的な遊具はあえて設置していません。廃棄予定の波佐見焼を利用した白い「砂浜」など、気軽に地域の伝統に触れられる工夫が随所に施されています。 マルヒロ公式サイト https://www.hasamiyaki.jp/ HIROPPA公式サイト https://hiroppa.hasamiyaki.jp/ 子どもも大歓迎のくつろげる空間にリニューアル(滋賀県立美術館) この投稿をInstagramで見る 滋賀県立美術館SMoA(@shigamuseum)がシェアした投稿 1984年に開館した滋賀県立近代美術館。時代の変化に合わせて、敷居の高いイメージだった美術館から、どんな人も広く受け入れる「くつろげる美術館」を目指し、大幅な改修を経て、2021年6月に滋賀県立美術館としてリニューアルオープンしました。ガラス張りの大きな窓から光が降り注ぐ、明るいキッズスペースには様々な空間設計がされています。琵琶湖をイメージしたという柔らかなフォルムのプレイマットの傍に本棚を設置し、遊びながら自然にアートと触れ合うことのできる仕掛けを施したり、椅子と机は低めにすることで乳児~小学生までの使用を可能にしています。また、授乳室のあるファミリールームやファミリートイレも完備。大人の楽しむ場所のイメージが強い美術館が、幅広い年代の集う空間へと生まれ変わりました。 公式サイト https://www.shigamuseum.jp/ 企業と警察が一緒に課題を解決(広島県尾道市) おのみちサイクルポリス隊員が,サイクルイベント「グラン・ツール・せとうち2022」で,参加者に法令遵守と交通事故防止を呼びかけました。5月は「自転車マナーアップ強化月間」です。交通ルールの遵守とマナーの向上を目指しましょう。「自転車も ルールを守る ドライバー」【#尾道警察署】 pic.twitter.com/dsQpTLojkh— 広島県警察(公式) (@HP_maplekun) April 27, 2022 広島県尾道市は、しまなみ海道のサイクリングの拠点となっており、レンタサイクルやサイクリストのための施設などが充実する「サイクリストの聖地」。コロナ以前は年間30万超のサイクリストが訪れていましたが、来訪者の一部にはマナーやモラルに欠ける行為もあり、地元住民を悩ませていました。尾道サイクリング協会は、2017年10月、事故防止とマナー啓発に役立てて欲しいとの願いを込めて、尾道署へポリス特別仕様の自転車5台を寄贈。フラットバーを採用したハンドルや、誘導灯、サイドミラーを装備するなど警察官が使いやすいデザインとなっていて、坂道の多い尾道でも乗りやすいよう設計されています。高い機能性を備えた自転車でパトロールする「サイクルポリス隊」は、尾道のまちづくりを支えるシンボル的存在です。 海外のソーシャルデザイン事例3選 使われなくなった街の電話ボックスを現代風にアップグレード(中国・上海) スマートフォンの普及により現代人には馴染みの薄い存在になりつつある公衆電話。上海では、使われずに街の中でスペースを取っていた公衆電話ボックスを、誰もが使えるスペースに改修する取り組みが行われています。目に飛び込んでくるのはビビッドなオレンジに塗りつくされた内装。かつての電話ボックスは個室タイプですが、再生後は歩道側の壁をなくし、誰でも座れるパブリックスペースに生まれ変わりました。イス、テーブルにフリーWi-Fiと充実の設備で、カフェさながらのつくりに。公衆電話の機能を残しながらも、現代にマッチしたスペースは街の人たちに有効利用されています。 公式サイト https://100architects.com/project/orange-phonebooths/ 人々が気軽に集まれる都市型デザインの移動式空間(チェコ) この投稿をInstagramで見る KOGAA(@kogaa_studio)がシェアした投稿 都市は華やかで活気がある一方、人々の孤立も生む一面も合わせ持っています。チェコのデザイン事務所が提案するのは、都市空間の活用されていないスペースに「移動式」のパブリックスペースを作り、街を活気づけるアイデアです。屋根のない円形型の移動式建築「AIR SQUARE」にはベンチが備え付けてあり、人々の憩いの場として活用され、イベントやファーマーズマーケットとしても使用可能。上部リングにはヒートアイランド対策として熱を和らげる効果がある他、夜間には照明の役割を担い、街の安全性に貢献します。どんな人も気兼ねなく使えるようにバリアフリーに設計されています。 公式サイト https://www.kogaa.eu/projects/air-square 野鳥とサステナブルを体験する宿泊施設(スウェーデン・ハラッズ) この投稿をInstagramで見る Treehotel(@treehotel)がシェアした投稿 Biosphereは野鳥保護を目的としてスウェーデンの宿泊施設「Treehotel」内に作られた客室です。ホテルのコンセプトはサステナビリティと自然環境を楽しむこと。総数340個の鳥の巣箱が、木の上に建てられた客室を360度ぐるっと囲むように設置され、客が鳥たちの住まいにお邪魔させてもらっているかのようなユニークなデザインに。鳥たちの生息地で暮らす体験を通して、サステナビリティへの新たな知見を得ることができ、人々の癒しにも繋がります。 公式サイト https://treehotel.se/en/rooms/the-biosphere 世界的に広がりをみせるソーシャルデザイン 国内外のソーシャルデザイン事例を紹介しました。世界的にも人が暮らしやすい街づくりは注目されており、さらには自然保護も掛け合わせて、新たなアイデアが次々と誕生しています。より良い社会を作るのに欠かせないソーシャルデザイン。みなさんもぜひ身の回りのソーシャルデザインを探してみませんか。
皆さんは食材を買う際にどのような点チェックしますか。持続可能な食の未来を考えるとき、まず確認しておきたいのが、食材の原産地です。本記事では、買い物をするときに取り入れたいアイデア、「フードマイレージ」について解説します。 フードマイレージとは 出典:unsplash.com フードマイレージとは、食料の輸送量に輸送距離を掛け合わせた指標のことです。地産地消を進めて環境負荷を減らそうとイギリスで広がった「フードマイルズ運動」を参考に、20年前に日本の農林水産省農林水産政策研究所が提唱しました。 フードマイレージの計算方法 出典:pexels.com フードマイレージの計算式は簡単で、以下の方法で算出できます。 フードマイレージ=「食料の輸送量(t)」×「輸送距離(km)」 ※単位はt・km(トン・キロメートル) フードマイレージは、数値が大きければ大きいほど、購入者と生産地が離れていることを表します。食品が私たちの食卓に並ぶまでには、輸送のプロセスを経ていて、移動や品質保持のため、石油などのエネルギーが使われ、CO2が排出されているのです。つまり生産地と食卓の距離が長ければ長いほど、環境に負荷をかけているということになります。 フードマイレージが小さい食材のメリット フードマイレージが小さい食材のメリットは、運送コストがほとんどかからず、地球環境に与える負荷が少ない点です。生産地から食卓までの輸送距離が短いと、CO2の排出を最小限に抑えることができます。同じ食材を選ぶのであれば、地元や近くの生産地で収穫された食材の方が、環境に優しいのです。また、国内で生産されたものを選ぶことは食料自給率の向上にも繋がり、これは持続可能な食の在り方に欠かせません。 日本のフードマイレージ 農林水産省が公開した「令和3年度食料需給表」の資料によると、近年の日本の食料自給率は4割に満たない数値が続いており、欧米と比べても明らかに低いということがわかります。 出典:農林水産省大臣官房政策課 食料安全保障室 令和3年度食料需給表(pdf) また、農林水産省では、主要国のフードマイレージに関するデータも公開しています。 グラフを見てもわかるとおり、食料自給率が低い日本は食料を海外に依存しているということもあり、フードマイレージの数値が極めて高いという結果となっています。 出典:「フード・マイレージ」について - 農林水産省(pdf) この2つのデータやグラフから見てもわかるとおり、私たちが普段食べている食材の多くは輸入に頼っており、食卓に並ぶまでには大きな環境負荷がかかっていることが見て取れるでしょう。 フードマイレージのデメリット 出典:pexels.com 食材が生産地から食卓に並ぶまでの環境負荷などがわかるフードマイレージですが、留意しなければならない点もあります。まず、フードマイレージの指標は、食品の輸送に限定されているという点です。例えば生産段階でどのくらいCO2が排出されているかなどは考慮されていません。そのため、単純に海外で作られたものの方が国産に比べて環境負荷が高いとは言い切れないのです。どのくらい環境に負荷がかかっているのかは、生産から総合的に見なければなりません。また、輸送手段によってCO2の排出量は異なるという点も留意したいところです。トラックよりも船の方がCO2排出量は格段に少ないですが、これはフードマイレージには反映されていません。 以上のように、簡単に算出できるフードマイレージだけでは総合的な環境負荷は判断しきれません。しかし簡単だからこそイメージがしやすく、私たち消費者が買い物をする上でアクションに結び付けやすいのではないでしょうか。フードマイレージも含め、食材がどのように作られて、どのように私たちの元にやってきたのか、生産や輸送の背景を知ることが大切なのです。 フードマイレージの小さいものを選ぶには 出典:unsplash.com フードマイレージが小さいものを選ぶポイントは以下のとおりです。 ・生産地をチェックする ・住んでいる地域の特産品をリサーチする ・食材を選ぶときは外国産ではなく、なるべく国産を選ぶ 他にも近くで開催されているファーマーズマーケットなどに足を運んでみるのもおすすめです。直接生産者から地元野菜を購入できるメリットがあり、生産の背景を知ることができます。 関連記事:【都内近郊18選】生産者に会えるファーマーズマーケットに行こう 私たちが普段触れている食料になかには、コーヒーやアボカドなど国内で生産していない食料があり、すべての食料を環境負荷の少ないものに切り替えることは難しいのが現状です。 しかし、一人ひとりが地元や国内で手に入る食料を知り、フードマイレージを小さくしようとする意識の積み重ねで、環境への影響が変わってきます。食料の選び方のひとつにフードマイレージを取り入れてみてはいかがでしょうか。
各国が抱える経済格差や貧困、環境汚染などの解決すべき課題。世界にはそんな時代に一石を投じるチェンジメーカーがいます。今回は私たちの社会にインパクトを与え、新たな波を起こしたチェンジメーカーをご紹介します。 チェンジメーカーとは 出典:unsplash.com チェンジメーカーとは、ビジネスや活動を通して社会の課題解決にチャレンジし、新しい風を吹き込むような人を指します。時代によって社会の課題は異なるので、チェンジメーカーと呼ばれる人の定義も社会の状況によって変化するものですが、今日の社会では、チェンジメーカー=社会起業家のようなイメージもあり、物質的な豊かさではなく精神的な豊かさを求め、貧困や環境問題などに取り組む人が支持を得ています。 世界のチェンジメーカー7人 社会にソーシャルグッドなインパクトを与えるだけでなく、私たち個人にも新しい発想をもたらしてくれるチェンジメーカー。 今回は、世界的に大きな影響を与える現代のチェンジメーカー7人をピックアップしました。 ホセ・ムヒカ氏 ホセ・ムヒカ氏は、ウルグアイの元大統領です。2012年にブラジル・リオデジャネイロでの国連会議で大量消費社会を痛烈に批判し、人類にとって本当の「幸せ」とは何かを訴えたスピーチで一躍有名になりました。貧困をなくす政策を推し進めた大統領時代には、自身の給料の9割を寄付。大統領公邸には住まず、郊外の質素な家で妻と生活していたことから、敬愛の念を込めて「世界でいちばん貧しい大統領」とも呼ばれ、過去には日本でもドキュメンタリー映画が上映されました。ウルグアイだけでなく世界中にファンの多い元大統領です。 ムハマド・ユヌス氏 ムハマド・ユヌス氏は、バングラデシュ出身の経済学者であり、実業家です。貧困の根絶を目指し、1983年に無担保小口貸付を行うグラミン銀行を創設。生活に困難な人たちの自立支援に尽力しました。2006年にはグラミン銀行とともに、ノーベル平和賞を受賞。無担保小口貸付の仕組みはマイクロ・クレジットと呼ばれ、それを取り入れたマイクロ・クレジット・バンクが、60カ国以上の国で設立されています。日本でも、ユヌス氏のビジネスモデルをベースに「一般社団法人グラミン日本」が、シングルマザーを中心とした支援を行っています。ユヌス氏はそれまで難しいとされてきた貧困の根本的解決に挑み、その仕組みが世界に大きな影響を与えているのです。 ケイト・ラワース氏 ケイト・ラワース氏は、イギリス出身の経済学者です。自身の著書『ドーナツ経済学が地球を救う』では、地球を気候変動から守りつつ、貧困や格差を解消していく経済活動のモデルを「ドーナツ」型の図にしたことで多くの人たちから注目を集めました。これまで社会が当たり前に追い求めてきた成長ではなく、持続可能な繁栄の社会を作ることを提案しています。その持続可能なモデルは、各国の自治体からも支持を受け、オランダのアムステルダムでは市をあげてドーナツ型の経済のかたちを目指しています。 セリーナ・ユール氏 セリーナ・ユール氏は、ロシア出身で現在はデンマークで活動する食品ロス問題の専門家であり、NGO団体「Stop Wasting Food movement Denmark」の設立者です。デンマークで目の当たりにした大量の食品廃棄に疑問を持ち、2008年にフェイスブックページでグループを作ってロスをなくす運動を開始。スーパーなどに声をかけ、無駄が出やすい食品のまとめ売りをなくすところから始めました。政府も彼女の活動に賛同し、メディアが取り上げ始め、協力者はまたたくまに増加。2013年までの5年間でデンマーク国内の食品廃棄量を25%削減するのに大きく貢献しました。 マララ・ユスフザイ氏 マララ・ユスフザイ氏は、史上最年少でノーベル平和賞を受賞したパキスタン出身の人道活動家です。女性教育弾圧に反対活動をしたことでタリバンから銃撃を受けながらも、女性が教育を受ける権利を全世界に訴え続けました。その努力が認められ、パキスタンでは初めて無償で義務教育を受けられる権利を盛り込んだ法案を可決。また、「マララ基金」を設立し、すべての女子が平等に教育を受けられるよう活動をしています。著書には『武器より一冊の本をください:少女マララ・ユスフザイの祈り』があり、彼女の半生を綴ったドキュメンタリー映画も制作されています。 斎藤幸平氏 斎藤幸平氏は、日本の哲学者であり、経済思想家(マルクス主義者)です。歴代最年少でマルクス研究者の最高権威『ドイッチャー記念賞』を受賞した自身の著書『大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝』では、温暖化、異常気象などの問題を抱える資本主義の構造を批判し、私たちはどうあるべきかを説いています。新書大賞を獲得した2021年の著書『人新世の「資本論」』も、今地球上で起きている問題を自分事としてとらえながら読み進めることができる、おすすめの一冊です。NHKの番組などメディアでも活躍する斎藤氏。持続可能な未来に向けて真剣に取り組む姿勢と、わかりやすい説明にファンが増え続けています。 小林りん氏 小林りん氏は、学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン(以下、UWC ISAK Japan)の代表理事であり、2013年に日経ビジネスが選ぶ「チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した方です。留学中に経験したメキシコでの貧困問題や、国際児童基金(ユニセフ)でフィリピンのストリートチルドレンの教育支援に携わったことから、この社会の仕組みを変えていくリーダーシップ教育の必要性を実感。2014年に軽井沢に全寮制インターナショナルスクールUWC ISAK Japanを開校しました。国籍も育ってきた環境も異なる生徒は、チェンジメーカーを育てるための実践的な授業を受けるだけでなく、ダイバーシティの中で生きるということを、身を持って経験しています。 チェンジメーカーからインスピレーションを 出典:unsplash.com 世界や社会を大きく動かしているチェンジメーカー。たとえ自分が直接その影響を受けることがなくても、彼らの思想を学ぶだけで大きな刺激になります。今私たちが直面するたくさんの課題。チェンジメーカーを手本に、一人ひとりが真剣に地球の未来について考えなくてはいけないフェーズにきているのかも知れません。今回ご紹介した7人については、書籍や映画もあり、インターネットなどでも情報を集められるので、ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。
Fair Trade Student Network(以下、FTSN)は、フェアトレードに関心のある全国の学生を繋ぐ学生団体です。FTSNは、2004年に設立され、サステナブル業界で活躍しているOB・OGを多く輩出。定期的にイベントを開催しており、その中で最大のイベントがフェアトレード学生サミットです。 今年もフェアトレード学生サミットが開催 2023年8月29日の東京・代々木。国立オリンピック記念青少年総合センターには、フェアトレード学生サミットに参加するため、中学生から大学生まで、全国から学生が集いました。 開催20回目となる今回のテーマは「Discover & Communicate」。参加者一人ひとりがフェアトレードの“いちばんイイところ”を発見し、他者に伝えられるようになることを目標に、業界の第一線で活躍するゲストによる講演やワークショップを通して、3日間にわたり、フェアトレードに関する理解を深めました。 さらに、一般参加者を交えた交流パーティも組み込まれており、盛りだくさんのプログラムとなりました。 フェアトレードに対する理解を深める充実のプログラム 日本語で直訳すると「公正取引」となるフェアトレード。定義が難しく、他者に伝えるときにどうしても抽象的になりがちです。 サミットの初日には、フェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長の潮崎真惟子さんなど、フェアトレードの最前線で活躍するゲストによる講演を実施。フェアトレードの概念の伝え方についてイメージを膨らませました。 フェアトレード・ラベル・ジャパン潮崎さんによる講演 2日目には、これまでに数々のCMを手がけ、国内外で多数の受賞歴のある映像監督の高島太士さんを講師に招いて、フェアトレードの魅力の「伝え方」に関するワークショップを開催。 グループに分かれた参加者は、高島さんが用意したフレームワークに基づいて、それぞれが設定したターゲットの心を動かす方法を議論し、キャッチコピーの形へと落とし込んでいきます。 学生たちは高島さんの助言を受けながらキャッチコピーを作成した 最終日にはサミットの締めくくりとして、グループごとに作成したキャッチコピーのプレゼンテーションを行いました。 学生たちの未来につながる3日間に キャッチコピーを学ぶワークショップでは、プログラムの時間だけでは飽き足りず、夜遅くまで白熱した議論を重ねる学生が多く見られました。また、プレゼンテーション本番では思うように発表することができずに悔し涙を流す姿も。フェアトレードと真剣に向き合う熱い姿勢が伝わる3日間となりました。 参加した学生からは「これまでになかった視点から、伝える上で必要な考え方を学べた」という声が。普段関わる機会のないゲストとの交流や、同じ志を持つ全国の学生との出会いは、参加した学生たちにとって大きな財産になるでしょう。 より良い社会のために踏み出す学生の活躍に期待 これまで、フェアトレードの活動に関わったことがないという学生の参加もあった今回のサミット。そのことからも、社会を良くするために一歩踏み出そうとする若い人が増えてきていることがわかります。 「ここで得た経験をそれぞれ持ち帰り、周りの人へ広めていくことで良い循環が生まれることを期待したいです。」と広報担当で自身も学生の村瀬さんは話します。 FTSNは今後もオンラインの定期的な団体交流企画などを予定。今後ますます盛り上がりを見せることが期待されます。 【第20回フェアトレード学生サミット】主催:第20回フェアトレード学生サミット実行委員会公式サイト:https://20th-ftsn-summit.studio.site/
車の自動運転や、人間のような会話ができるChatGPTなど、様々なAIの登場によって、私たちの生活は日々便利になり続けています。一方で、AIが人間の仕事を奪ったり、人間社会を支配したりするのではないかと不安を抱える人もいるでしょう。果たして、AIは人間を幸せにするのでしょうか…?AIのメリットやデメリット、その活用事例を見ながら、新しいテクノロジーとの付き合い方について考えていきます。 AI(人工知能)とは 出典:pexels.com AI(人工知能)はArtificial Intelligenceの略で、人間の知的能力を人工的に再現するものです。AIが登場する以前のコンピューターはプログラムされた通りの処理しか行うことができませんでしが、AIは蓄積されたデータを基に自ら学習し、状況に応じて柔軟に判断することができます。しかし現在、どこまでできたらAIとするかについては、実は明確には定義されていません。 AIにできること、できないこと https://www.pexels.com/ja-jp/photo/8386422/ AIは以下のようなことが得意とされています。 画像・音声認識:音声に字幕をつける、顔認証をするなど 自然言語処理:chatGPTのように言語を理解し、文章をつくるなど 検知・予測:過去のデータと現在の状況を比較、これから起こることを予測するなど 機械制御:自動車の自動運転のように、状況をみて機械を適切にコントロールするなど これらは全て蓄積されたデータから学習し行われます。 したがって、データが存在しないものをゼロから作り出したり、全く不規則なデータを扱うことはできないとされています。また、人間のような汎用性はないため、決められた役割以外のことはできません。例えば、音声認識のために開発されたAIが自動運転をすることはありません。 AIがもたらす5つのメリット 出典:pexels.com 生活が便利になる AIは日常生活だけではなく、企業・医療・教育の現場など、様々な場面で使用されています。あらゆるサービスに搭載されたAIが様々な課題を解決することで、私たちの生活はこれからも日々便利になっていくことは間違いないでしょう。 生産性が向上する 多くの仕事はAIで代用できると言われています。労働不足の解消・業務の効率化・人件費の削減・ヒューマンエラーの排除などのように、多くの問題がAIで解消され、生産性が向上すると考えられています。 事故の減少と安全性の向上 自動運転の導入によって、交通事故が減少すると考えられています。また、機械の劣化を自動で検知できればインフラの安全性の向上にもつながるでしょう。正確な作業を繰り返し、異常を検知することに優れるAIを用いることで、社会の安全性が高まります。 高精度なデータ分析・予測が可能になる AIは膨大な量のデータを処理し、分析したり予測したりすることができます。市場のあらゆるデータから社会や個々の人に必要なことを効率的に予測することで、マーケティングや医療、教育などの質を向上することが期待されています。 やりたいことに時間を使えるようになる AIの活用方法はアイデア次第です。これまで人間が行なっていた様々な作業をAIに任せることで、人間はより重要なことに集中することができます。例えば、AIを搭載した家電に家事を任せれば、家族と過ごす時間を増やすことができるようになるかもしれません。 AIの活用に伴う4つのリスク 出典:pexels.com 雇用が減少する可能性がある 多くの作業がAIに置き換わるため、これまで人が担っていた仕事は減っていきます。新たな仕事も生まれていきますが、必要なスキルを身に付けるなど、社会全体のシフトが必要です。 責任が曖昧になる 例えば、自動運転の自動車で事故を起こした場合、責任の所在がとても分かりづらいという点が懸念されています。AIが十分に社会に浸透し、法律が整備されるまでは、責任が曖昧にならないように注意が必要です。 思考のプロセスが見えない 実はAIの出す答えには、「どういうプロセスで導き出したかわからない」という問題があります。これは、ブラックボックス問題と呼ばれ、解決とともに信頼性の向上が求められています。また、AIを使用する人間側にも、思考することなくAIの導いた答えを受け入れてしまうリスクがあり、こちらも問題視されています。 不適切に活用される恐れがある 画像や文章などのコンテンツを生成できるAIが開発されたことで、フェイクニュースや誹謗中傷の量産といった悪用が危惧されています。 他にも、悪用とは異なりますがデータが独占されるリスクがあります。前述したようにAIはデータに基づいて学習します。実は現状ではこのデータの所有者はあいまいになっています。一部の事業者にデータが集中すると市場が正常に機能しなくなる恐れがあるため、注意が必要です。 AIは人を幸せにするのか 出典:pexels.com AIが人を幸せにするかについて、多くの人が気になっていることでしょう。しかし、AIはツールに過ぎないため、AI自体は人を幸せにも不幸にもしません。全てはそれを使用する人間次第なのです。その中で最も重要となるのが、ガイドラインや法律です。道路交通法がないと安心して運転ができないのと同じように、ルールなくしてAIの幸せな活用方法はありえません。 どのように活用すればAIが人の暮らしを豊かにするかについては、現在多くの議論がされています。例えば、国連のグテレス事務総長は加盟各国への勧告をまとめた提言書を公表し、2026年までにAIを搭載した兵器を法的に禁止する枠組みを設けるように求めています。また、AIの安全保障リスク軽減に向けた新たな国際機関の設置を検討するよう促しました。 AIの存在しない時代に戻ることはない 出典:pexels.com これまで、様々なテクノロジーが社会に変革をもたらしてきました。例えば自動車はより多くのものをより遠くへより速く移動させることを可能にした反面、環境汚染や交通事故を引き起こしました。インターネットやSNSの登場は、誰でも膨大な情報にアクセスできる便利な社会を作った一方で、信憑性のない情報も増えるなど問題もたくさん存在します。 どんなテクノロジーにも良い面と悪い面があり、その全てが人々の生活を豊かにしたと一概に評価することはできません。一つ間違いなく言えることは、一度テクノロジーが社会に浸透すると、それがない時代に戻ることはないということです。それだけ多くの可能性をテクノロジーが切り開いてきたのです。 AIがない時代には戻れない以上、AIを豊かな社会づくりに活用する方法を考えていくことが大切です。全ては使い方次第。無限の可能性を秘めたAIと共存する豊かな未来を思い描いてみては?
「サステナブル」や「SDGs」といったワードを聞くようになって久しいですが、一度傷ついてしまった豊かな地球環境を取り戻すためには、さらに踏み込んだアイデアが必要です。近年サステナブルの一歩先を行く概念として広がりつつある「リジェネラティブ」。その意味と事例を見ていきます。 リジェネラティブとは 出典:pexels.com リジェネラティブ(regenerative)とは、直訳すると「再生させる」という意味。自然環境と紐づけられることが多く、例えば農業や漁業においては、土壌や水質の改善を目指し、生物多様性を向上することによって、自然が持つ本来の力を取り戻し、環境を回復していこうとする考え方です。 サステナブルとの違い リジェネラティブに対して使われる言葉として、サステナブルがあります。持続可能な地球をつくっていこうという考え方ではリジェネラティブもサステナブルも重なる点は多いものの、サステナブルは直訳すると「維持できる」となり、現状維持のような、少々消極的な意味合いに受け取られることもあります。それに対し、積極的に自然環境を再生していこうというリジェネラティブの風潮が高まっています。 「リジェネラティブ」が活発な分野は? 出典:unsplash.com 自然を再生していこうとするリジェネラティブは、現在、農業や水産業で活発に取り入れられ始めています。 リジェネラティブ農業(環境再生型農業)の場合、有機肥料を使用したり、土を耕さない不耕起栽培を採用したりするケースが多く見られます。不耕起栽培は、土壌にCO2が貯留でき、土壌に生息する生物の多様性の向上が期待できます。リジェネラティブ水産業(環境再生型水産業)の場合は、ゴミ問題や地球温暖化などにより悪化する海洋環境を改善し、生物多様性を取り戻すような取り組みが行われています。 実際にどのような事例があるのか見ていきます。 リジェネラティブ農業(環境再生型農業) ① 米の栽培 ホテル事業などを手掛けるサン・クレアが注力しているのが、環境再生型農業です。農地があるのは、愛媛県松野町目黒。有機農法、自然栽培、自然農法など、自然にあらがうことのない米作りを模索し、試行錯誤を続けた結果、田んぼを耕さない農法(不耕起栽培)の米作りにたどり着きました。 森のミネラルをたっぷり含んだ目黒川の清流水を使用し、不耕起栽培でできるのは、“野生のお米”。一本一本、ひと粒ひと粒丁寧に刈り取った米は、ハザ掛け(稲木)に干すことで、ゆっくり自然乾燥されたハザ掛け米になります。 ② 栗の栽培 栗の生産量日本一の茨城県。中でも、茨城県の中部に位置する笠間市岩間地方は栗の生産が大変盛んな地域です。その岩間地区近隣において、栗の圃場(ほじょう)の管理・運営を行う会社、いわまの栗では、岩間地区の栗生産の落ち込みを補うため、また近隣で育まれた栗文化を継承していくために耕作放棄地、休耕地を改植。リジェネラティブな農地に作り替えていく取り組みを行なっています。 栗はもともと山に自生していた植物のため、果樹の中でも特に自然に近い状態で育てることが可能。いわまの栗では、できる限り自然を活かし、農薬はもちろん、肥料類も使わず、畑に生える草を活かした「自然草生栽培」を行っています。 リジェネラティブ水産業(環境再生型水産業) 今世界的に問題となっているのが、海藻が著しく減少する「磯焼け」です。海の多様な生物の産卵場所や住みかとなり、CO2を吸収し酸素を供給してくれる場所として、海だけでなく地球にとって海藻の存在は欠かせません。海藻が消失している表立った原因が特定されているわけではありませんが、水温の上昇や生活・工業排水の流入などが影響していると見られています。その中で、ウニが海藻を食べつくしてしまう「食害」も原因のひとつと考えられています。それでも、朝焼け海域に生息するウニは栄養不足で実が入っていない状態のため、食用には向かず、捨てられてきました。 岩手県の水産会社、北三陸ファクトリーでは、磯焼けを防ぐために駆除・廃棄されていた栄養不足の痩せたウニを採取して2カ月間養殖。その結果、実入りの良いウニにすることに成功しました。現在は、全国にそのノウハウを広めています。 さらには、未利用資源であるウニ殻を活用し「施肥ブロック」を製造し、海中に沈め藻場の再生活動を実施。施肥ブロックを用いることで海藻が繁茂することが確認できています。 磯焼けの問題を解決しつつ、ウニという資源を最大限活用し、かつ藻場を再生させる先進的な取り組みとなっています。 リジェネラティブは、様々な産業・分野へ 出典:unsplash.com リジェネラティブな水産業や農業の大きな目的は、自然の回復力と生産を両立することです。その目的に加え、失われつつある日本の農業・水産業や地方を活気づけるために取り入れている場合も多く見受けられます。 今後、第一次産業だけでなく、他の産業にも広がっていくことが見込まれるリジェネラティブという概念。地球環境を守っていくために、それぞれの分野で、サステナブルのその先の積極的な取り組みが求められています。
素材や形、トレンド、自分に似合うかどうか。洋服を選ぶときに大切にしていることは人それぞれ。でも、もし自分が身に着けている服が、知らず知らずのうちに誰かを傷つけていたら…?これから先、私たちが洋服を選ぶ際の基準にプラスしたいのが、“生産者にとっても消費者にとってもハッピーであるかどうか”です。 今回は、フェアトレードファッションの草分け的存在であるピープルツリーからフェアトレードファッションの根本的な考え方を学び、その大切さを一緒に考えます。 ●ピープルツリー 1991年に2人のイギリス人によって日本で設立されたフェアトレード専門ブランド。オーガニックコットンの衣類や、チョコレートやコーヒーなどの食品、雑貨など幅広くオリジナルで展開。日本では自由が丘と立川高島屋S.C.に直営店がある他、全国のセレクトショップなどで取り扱いがある。WFTO(世界フェアトレード連盟)に加盟し、製品にはWFTO保証ラベル(原材料から生産までフェアトレードを保証するラベル)を付けている。 お話を伺ったのは、ピープルツリー広報の鈴木啓美さん。2023年のファッションレボリューションウィークで参加者からの反響が大きかった、映画「メイド・イン・バングラデシュ」の解説を交えながら、フェアトレードについて基礎的なところからお聞きしました。 そもそもフェアトレードってなに? ――ファッションの話の前に、フェアトレードとは何かを教えていただけますか。 端的に言うなら、貧困問題と環境問題をビジネスの力で解決しようとする取り組みです。直訳すると「公平・公正な貿易、取引」となります。スポーツで公平性を表すフェアプレーの“フェア”をイメージしていただけると近いと思います。 ピープルツリーが加盟するWFTOは生産者の労働条件、賃金、児童労働、環境などに関しての基準「フェアトレード10の指針」を定めています。 Photo by ピープルツリー そのうちの1つ「適正な金額を支払う」だけが注目されフェアトレードの代名詞のようになっているのが現状ですが、それは「手段」の1つ。何のためにやっているのかという「目的」が大事です。「みんなが幸せに暮らせること」をゴールに、10の指針をもとに、様々な活動をしています。 フェアトレードという言葉ができるまで Photo by ピープルツリー ――ただ適正な金額を支払うだけではなく、生産者も幸せに暮らせることが大切ということですね。いつ頃できた概念なのでしょうか? 国際的な会議の場で初めて「フェアトレード」という言葉が使われたのは1984~85年頃と言われています。1950年代からチャリティー貿易が存在していましたが、対等というよりも“助けてあげる”という意味合いが強いものでした。そこから1960年代に、取引は対等であるべきだという考えのもと、フェアトレードの前身となるオルター(オルタナティブ)トレードと呼ばれる概念が生まれたのです。日本では70年代から80年代にかけて、フェアトレードに類する活動をする団体が活動を始めました。 参考:https://fairtrade-forum-japan.org/fairtrade/fairtrade-history ファストファッションの“アンフェア”な真実 ――今年のFRW※1に、ピープルツリーは映画「メイド・イン・バングラデシュ」※2の上映・解説イベントを開催しました。フェアトレードの視点から作品を観るときのポイントを教えてください。 「メイド・イン・バングラデシュ」は、縫製工場で働く女性工員たちが労働組合を発足するまでの奮闘を描いた映画です。作品はフィクションであるものの、監督のルバイヤット・ホセインが沢山の工場労働者に会ってリサーチし製作した、限りなくリアルに近い物語です。工場での話だけではなく、ところどころにバングラデシュで働く人々が置かれている状況が散りばめられており、主人公シムの人生もまさにバングラデシュで生きる女性の現状を映し出しています。 ――衣類産業大国であるバングラデシュの現状がとてもよく描かれていました。 バングラデシュは世界2位の衣類輸出国であり、国内の7~8割が衣料に関わる産業です。しかし、映画にもあるように、政治家などの権力者と工場経営者に癒着があったり、権力者自らがオーナーであったりして、労働者に目が向いていない事実があります。国外に安価な労働力を提供する一方で、労働者の賃金や労働環境は後回しにされているのです。 例えば作中、シムは、労働組合を作るための資料として、労働者権利団体のナシマに渡されたスマートフォンで工場内の様子を密かに撮影します。そこではグローバルアパレル企業の白人男性が工場見学に来るのですが、「君の工場は高すぎる!」と値下げを求めているのです。労働組合が存在せず、権利が保障されていない状態で、労働者は満足のいく賃金をもらえていません。それにも関わらず、先進国で洋服をさらに安く売るために工賃の値下げを要求される。このシーンからは、先進国において消費者が安価な洋服を求め、企業がそれに応えようと考えた結果、生産国で働く労働者にコスト削減のしわ寄せがいっているということを知ることができます。 ※1 ファッションレボリューションウィーク。毎年、4月24日を含む1週間、ファッションの透明性を高めることを目的としたイベントが世界中で開かれる。縫製工場で働く1,100名以上の女性が犠牲となった2013年4月24日の「ラナ・プラザ崩壊事故」がきっかけとなっている。 ※2 世界のファッション産業を支えるバングラデシュで、縫製工場の過酷な労働環境と低賃金の改善に立ち上がったひとりの女性の実話をもとに製作されたヒューマンストーリー。 生産背景以外にも目を向けたい現地のリアル Photo by ピープルツリー ――安さの裏にこういった現実があることは常に意識しておきたいですね。他にもこの映画から私たちが学べることはありますか。 作品では、ジェンダーの問題と児童婚の現状も垣間見えます。実はバングラデシュは、政治の面で見ると首相をはじめ女性議員の割合が日本よりかなり大きく、最新のジェンダーギャップ指数も59位で日本よりはるかに上位にいます。ところが、経済面で見ると、バングラデシュは男性の失業率が高く、作中のシムと夫のように、女性が縫製工場などで働き家計を支えているという構図が珍しくないんですよね。数字だけを見ると女性の社会進出が進んでいるかのように見えますが、どういう基準でジャッジされた数字なのか、その裏側にある事実を知ろうとすることが大切だと思います。 ――生産の現場はもちろん、生産国がどのような状況なのか、知ろうとすることが重要ですね。 シムが、母親から11歳の時に40歳の人と結婚させられそうになったと告白する場面も衝撃的です。バングラデシュの法律では18歳以下の結婚は禁止されていますが、なんと半数以上が18歳以下で結婚していると言われています。貧困から脱しようと、母親が子どもの幼い頃からお金持ちの男性を探すケースが多いのです。幼い頃に結婚をすると、低年齢により妊娠・出産のリスクが高まる、虐待の対象となる、教育の機会を奪われることなどが懸念されます。 このように、私たちの衣服と深い関わりのあるバングラデシュの日常を、物語を通して知ることができるのもこの映画の特徴です。個人レベルで起きているように見える問題も、国際市場での立場、社会通念や文化的背景からくる社会システムのひずみが要因で起きているということが見えてきます。 フェアトレードファッションはこうやって作られる Photo by ピープルツリー ――ファストファッションが作られる生産背景はイメージできましたが、フェアトレードの衣類は具体的にどのように作られるのでしょうか。 ピープルツリーのファッションを例にすると、「フェアトレードの10の指針」をクリアし、WFTOに加盟する、信頼のおける生産者団体との取引を行っています。 オーガニックコットンをはじめとする素材の調達から最終加工まで、どこで誰がどんなふうにつくっているのか把握すること、生産者に無理強いをしないため生産に十分な時間を設けること、生産団体にオーダーする時点で最大50%を前払いすることなど、双方向のやり取りをすること、透明性と公平性を保つために様々な取り組みを行っています。また、製品は日本向けに企画し、団体に所属する生産者たちが持てる技術を活かした上で、手作業でひとつひとつ丁寧に作られます。そうすることで、伝統的な手仕事の継承にもつながるのです。 日本で販売するとなると、クオリティも大事になってきますので、技術支援や細やかなフィードバックを行うなど、生産者がスキルを磨けるようなサポートも欠かしません。 その他、生産活動以外の取り組みの例として、女性の地位向上のための研修や子どもの教育に関する支援、労働者の人権のために尽力しているバングラデシュの弁護士の支援なども、ピープルツリーの母体であるNGOグローバル・ヴィレッジを通して行っています。 私たちにできることは、消費するということに責任を持つこと。 出典:pexels.com ――洋服の生産の背景を知ってしまうと、どんな洋服を購入したら良いのかわからない…という方も多いと思います。大きなアクションではなく、私たち消費者が今日から始められることはありますか? 今まで選択してきたものと、生産の背景を意識して選択してみたもの、一見似ているけれど何が違うのか?そのような小さな疑問を持つことから始めてみるのがいいのではないかと思います。洋服を買う際には、タグを見る、どこで作られているのか、素材にどのような違いがあるのかを気にしてみるなど、小さな気づきから知識を増やしていけば良いのです。完璧を求めるのではなく、今の時点でより良い方を選べるように努め、良かったらそれを友人に広めるのもいいですよね。 「とりあえず」の買い物はしないことも一つの方法です。間に合わせで購入するのではなく、ずっと大切にしたいと思える物だけを選びたいですよね。 また、疑問に思ったことがあれば、ブランドに問い合わせをすることや、SNSで発信することも重要です。企業に消費者の声を届けることで、企業側もそのニーズに気が付くようになります。 企業は今あるリソースを活かし一歩踏み出すことが重要 ――社会に貢献するアクションを起こしたいと考えている企業ができることは何でしょうか。 企業は、自分たちの元々持っているフィールドにおいて一歩踏み出すことが大切だと思います。つまり、自社の事業の延長線上で取り組むということです。そもそも何のために創設されたのか、原点を改めて見つめると、自分たちの使命が盛り込まれていると思うのです。 企業も個人も、大きな変革や完璧さを最初から求めるではなく、今あるリソースを活かせる方法で社会に貢献していくのが、健やかで無理のない方法なのではないかと思います。 フェアトレードファッションを学んで 「フェアトレードも、SDGsもサステナブルも、地球と人、みんなが幸せに暮らせるようにするためのものです。そして、忘れたくないのは、その“みんな”という中にはちゃんと自分自身も含まれているということですよね。自己犠牲や我慢を強いるものだと続かないので、自分も楽しむことが大事だと思います」最後に鈴木さんはこうお話してくれました。フェアトレードは、特別なことではなく、他の人に対して対等・平等に向き合う、という人としての基本的な姿勢なのだと改めて感じました。 私たちの洋服を取り巻く“アンフェア”な関係は、今も世界のあらゆるところで存在しています。洋服を身に着ける人も作り手も、みんなが対等な世の中であるために、現状を知り、一人ひとりが小さなアクションを起こしていくことが、これからのファッションには求められているのではないでしょうか。
日常生活の中で 「エコ」や「環境にやさしい」という言葉を見ない日はないほど、社会では環境に配慮する風潮が高まっています。気候変動など地球レベルの社会問題に対応するため、あらゆる業界が脱炭素や環境配慮の方向へとビジネスの舵を切っていますが、その中で生まれた新たな問題のひとつがグリーンウォッシュです。消費者や企業は何に気を付ければいけないのでしょうか。グリーンウォッシュへの対応策を学んでいきます。 グリーンウォッシュ(Greenwashing)とは グリーンウォッシュ(Greenwashing)とは、その実態は環境配慮がなされていないのにも関わらず、消費者に商品やサービスがあたかも環境に良いものだと見せかけることです。“うわべだけ”や“ごまかし”を意味する「ホワイトウォッシュ」と“エコ”や“環境に良いこと”を意味する「グリーン」を組み合わせた造語で、1980年代に米国の環境活動家ジェイ・ヴェステルフェルトが使い始めたとされています。サステナブルな社会が目指される中で、グリーンウォッシュは商品を購入する消費者はもちろん、販売する企業担当者も留意するべき点を知り、気を付けなければならない問題です。 どんなものがグリーンウォッシュになる? 出典:unsplash.com ここではグリーンウォッシュについて、具体的にどんなことに留意するべきか見ていきましょう。米国の第三者安全科学機関であるULソリューションズが、消費者のためのグリーンウォッシュ判断基準である「グリーンウォッシュ7つの罪(Sins of Greenwashing)」を発表しています。 1. トレードオフの罪:環境に配慮している点のみ主張し、他方でより大きな環境負荷が発生していても隠ぺいする2. 証拠のない罪:十分な証拠や根拠を提示していない3. 曖昧さの罪:環境配慮に対する定義が不十分である4. 偽りのラベルを表示する罪:あたかも第三者から認められたような偽のラベルを表示する5. 無関係の罪:環境にやさしいものを求める消費者には関係のない、環境に関する事実を並べる6. 2つの悪のうち小さい方の罪:製品カテゴリー内で比べて環境負荷が低いことを主張し、全体から見ると環境負荷が高いことから視点をずらす7. ねつぞうの罪:虚偽を記載する 以上の「グリーンウォッシュ7つの罪」をより具体的な例で見てみましょう。もしかすると思い当たる商品やサービスがあるかもしれません。 ・化石燃料へ投資しているにも関わらずそれは公開せず、自社の行う植林活動だけをピックアップして自社HPに記載する・十分な根拠がないのに、生分解性プラスチックのカトラリーを「土に還る」と表現する・環境配慮への生産背景が見えないにも関わらず「エコ・フレンドリー」をうたう・独自基準で作成したエコラベルを第三者機関が関わっているかのように見せかけ、商品に記載する・根拠のないファッションアイテムに緑色や自然をイメージする画像を使用した広告・環境負荷が高いと言われる飛行機だが、「他社よりも環境負荷が低い」とアピールする・エコな要素がないのに、エコであると主張する なぜグリーンウォッシュは問題になる? 出典:unsplash.com 企業は自社製品やブランド価値向上のためのツールとしてエコや環境配慮といったイメージを利用しているケースがあります。事実に基づいたものであれば何ら問題はありませんが、消費者に誤認させてしまうことが大きな問題に繋がります。グリーンウォッシュによって引き起こされる問題を見ていきましょう。 1. 環境のことを考えたアクションが実は環境に良い影響を与えていない真っ当なグリーン製品であれば、環境負荷を減らし気候変動問題に少なからず寄与するはずです。しかしグリーンウォッシュの製品やサービスでは「見せかけのエコ」であることから、エコだと思ってアクションをしているはずなのに、環境のためではなく、企業の売上に貢献しているだけの場合があります。 2. 消費者が本物のエコな製品・サービスを見つけることが難しくなる環境負荷の低い製品と、見せかけの製品が混在することにより、消費者は嘘のない製品を選ぶのが難しくなってしまいます。 3. 企業イメージの損失企業がグリーンウォッシュだと消費者や国から指摘されることは、消費者と企業の信頼関係が揺るがされる事態に発展します。事実が明るみに出れば利益を失うことはもちろん、企業イメージの損失など大きな代償が伴います。 各国で進むグリーンウォッシュの規制 出典:unsplash.com 世界では今、企業やサービスに対する告発や懲罰の例が既に存在し、未然防止のための規制強化が進んでいます。近年の事例を見ていきましょう。 2022年には、アメリカのFTC(Federal Trade Commission:米連邦取引委員会)が、製品の素材にレーヨンが使われているのにもかかわらず竹が使われていると虚偽の表示を行い、あたかも環境にやさしいかのように販売していたとして、大手スーパーマーケットのウォルマートと大手百貨店のコールズに対し、2社合わせて550万ドルの民事制裁金を請求しました。同じく2022年、日本では、レジ袋やごみ袋などが「生分解性である」など環境に配慮した製品であると表示していたにもかかわらず、それを裏付けする根拠がないとし、消費者庁が10社に対して、処置命令を出しています。 欧州でも各国で規制の整備が進んでいます。英国の競争・市場庁(CMA)は21年9月にグリーンクレームコード(環境配慮の主張に関する指針)を発表。フランスでも同年の21年4月に規制法が採択され違反した広告には広告費の最大8割の罰金を課されます。直近では2023年3月には「グリーンクレーム(環境主張)指令」提案が欧州委員会により採択されました。これにより、企業側は国際認証などパブリックな認定を受けた根拠を示すことでのみ「エコ・フレンドリー」などの表現を使用することができることとなります。企業側は独自の判断ではなく、第三者機関などによる認証を得ることが求められ、消費者はグリーンクレーム指令を理解するとともに、購入前に正しい基準に則った認証マークが付与されているか確認することが求められます。 消費者にできることは? 出典:unsplash.com 消費者にできることとしては、「環境に優しい」、「エコ」など、一見イメージの良いキャッチコピーを鵜吞みにせず、どういった点がサステナブルなのか、地球環境にやさしいとする根拠の提示がなされているか、一度立ち止まって確認することが大切です。また企業へ直接問い合わせることで本当に環境にやさしいのかを知ることができる上に、企業側に情報公開の要望があることを知ってもらう機会になります。 企業も十分に気を付けたいグリーンウォッシュ 出典:unsplash.com 消費者庁が証拠不十分の生分解性ゴミ袋の会社に措置命令を出したように、今後さらに監視の目は厳しくなるかもしれません。また、グリーンウォッシュだと指摘された場合のイメージの損失ははかり知れないものです。企業側も意図せずグリーンウォッシュをしていることがないよう、十分にグリーンウォッシュについて知り、適切なマーケティングを行っていく必要があります。 イメージに流されず、本当に必要なものを選ぼう 2020年、欧州委員会は、環境配慮をうたう製品やサービスの実に40%に「根拠がない」という発表をしました。残念なことに日本企業の商品やサービスにもグリーンウォッシュは数多く潜んでいるのが現実です。グリーンな製品を購入するときは、グリーンウォッシュに加担しないためにも、ぜひその生産方法などをチェックしてみてはいかがでしょうか。
コロナ対策が緩和されたことにより、旅行をする人が増えてきています。2023年のゴールデンウィークの羽田空港にはコロナ前の活気が戻ってきており、今年の夏も旅行者の増加が予想されます。一方で多くの観光客が一カ所に集中すると、地域に住む人の日常生活に支障が出る、自然環境が傷つけられるといったオーバーツーリズム(観光公害)が起こる場合があります。旅行をするときに私たちが考えなければならないことは何でしょうか。今回は、オーバーツーリズムの概要とサステナブルな旅行のポイントをまとめました。 オーバーツーリズムとは? 出典:pexels.com オーバーツーリズムとは、「Over(過剰)」と「Tourism(観光)」を組み合わせた英語の造語です。日本語にすると「観光公害」と表現されます。 観光は、地域経済の活性化に繋がり、地元の雇用を生み出すなどのメリットも多くありますが、一方で、特定の観光地にキャパシティを上回る観光客が訪れることで、混雑が起こり地域住民の生活に影響が出るほか、ゴミ問題などにより自然環境の破壊が起こるなどオーバーツーリズムの問題が顕著になっています。 世界各国でオーバーツーリズムが深刻な問題を引き起こしていますが、日本も例外ではなく、京都や鎌倉などの観光地では、歩道に人が溢れかえり、渋滞やマナー違反などが起こっています。また、SNSの普及により、これまで有名観光地ではなかった場所にも人が押し寄せる現象も起きています。日本では2018年、観光庁に「持続可能な観光推進本部」を設置。観光と地域住民の生活環境の共存を図るため、調査やヒアリング、ガイドラインの作成などを行っています。 コロナ禍で一時は観光客が減り、オーバーツーリズムの問題も落ち着きを見せていましたが、再び旅行ができるようになった今、地域住民や自然環境に大きな負担がかかるような旅行ではなく、バランスのとれた持続可能な旅行の在り方が見直されています。 オーバーツーリズムの具体例 出典:pixabay.com オーバーツーリズムにはどのような問題点があるのでしょうか。主な具体例を見ていきましょう。 混雑・渋滞 観光客が増えると、観光スポットや公共の交通機関だけでなく、駐車場や飲食店なども混雑します。地域や時間帯によっては道路の渋滞や施設の入場規制なども発生し、地域に住む人の暮らしや労働に大きな影響を与えます。 マナー違反 観光客のマナー違反は、ニュースでも何度も取り上げられてきました。特に、ゴミのポイ捨てや立ち入りが禁じられているスポットでの記念撮影、深夜の屋外での騒音などの問題があります。他にも重要文化財や遺跡などの先人たちが守ってきた場所への落書、建造物の損壊などといった事態も発生しており、これもオーバーツーリズムの影響の一つといえるでしょう。 環境汚染や景観の悪化 山や海など自然が豊かな場所に観光客が殺到すると、自然の破壊や景観の悪化が懸念されます。例えば、タイ・ピピ島のマヤビーチは映画で有名になり、観光客が増加。そのことにより環境が悪化しました。サンゴ礁や生物の保護などを理由に定期的にビーチへの立ち入りを禁止しています。 CO2の排出 観光地に人が集まると使い捨ての食器やペットボトルなどのゴミが増え、それを焼却する際にCO2排出量が発生します。ほかにも飛行機や車での移動もCO2を排出します。 オーバーツーリズムに関する地域の取り組み事例 次に、国内外のオーバーツーリズム対策について紹介します。 北海道・美瑛町/畑看板プロジェクトで問題解決に踏み込む 北海道美瑛町では、美しく広大な農地をバックにした観光客の撮影が問題となっていました。観光客が撮影のベストスポットを探す際に、農地へ無断侵入してしまう迷惑行為が急増したのです。それを解決するために始まったのが、“畑看板プロジェクト”です。畑看板プロジェクトでは、立ち入り禁止の看板の代わりに、道と農地の間に撮影スポットの目印となる看板を設置。看板に掲載されたQRコードからは、農地を所有する農家のSNSや、オンライン販売サイトが見ることができるなど、農家の顔が見える工夫が施されています。このような取り組みは、農家と観光客とのより良い関係性を築く一つの手段となっています。 フランス・パリ/街ぐるみで環境を考えた自転車移動の推進 2024年夏季オリンピックの開催地パリでは、人気の観光施設ベルサイユ宮殿やルーヴル美術館などで、オンラインによるチケット予約システムを採用しています。このようなシステムを用いることで混雑を避けることが期待されています。また行政は、2026年までに自転車利用者に優しい街にする計画を実行しています。市内どこでも自転車で移動ができるよう、自転車専用道路や駐輪場を整備しているのです。自転車移動はCO2を排出しないだけでなく、道路渋滞の緩和にも役立ちます。 イタリア・ミラノでも自転車の利用を促進する取り組みがすでに始まっており、世界中から注目されています。 関連記事:自転車が主役。世界が注目するミラノの都市デザイン【現地レポート】 私たちができる、旅行をする際の心構え 出典:pexels.com 意図せずに旅行先に迷惑をかけてしまわないよう、旅行をする際に考えたいことは何でしょうか。前提である観光地のルールを守るということ以外に、持続可能な旅行のためのアイデアをご紹介します。 レスポンシブルツーリズムを知る レスポンシブルツーリズムとは、「責任ある観光」のこと。旅行先の住民や自然環境に十分配慮し、責任を持って行動することです。自身の行動が地域にどのような影響を与えるのかを考え、人々や自然を尊重しながら観光をする意識を持つことが大切です。 エコツアーに参加する 環境に十分配慮しながら、大自然を満喫できるエコツアーを推し進めている自治体が多く存在します。旅行先にそのような場所を選んでみてはいかがでしょうか。エコツアーにはその土地のことを知り尽くしたネイチャーガイドが付いていることが多いので、より深く旅行を楽しめるでしょう。 関連記事:旅行好きの方必見。新しい旅のかたち「エコツーリズム」のすすめ 現地の移動にはCO2の排出量が少ないものを活用する 観光地によっては自転車移動を推奨している場所があります。事前に自転車など燃料を使わない乗り物を借りられる場所を確認し、移動の際には積極的に使ってみてはいかがでしょうか。 観光する時間帯を工夫する 例えば早朝に観光するなど、混雑する時間を避けるのも一つの方法です。地域住民のためだけでなく、自分自身もストレスなく観光ができます。 混雑状況がわかるアプリやサイトを確認する 自治体によっては、観光地の混雑状況を公開している場所があります。また、VACANのようなサービスでも空き状況を確認できるので、混みそうな場所を訪れる際は行く前にチェックしましょう。 宿泊施設のアメニティを持参する 使い捨ての場合も多い宿泊施設のアメニティ。最近の宿泊施設では必要な人のみに提供するという流れになってきていますが、歯磨きやシャンプーは家から詰め替えて持参し、シェーバーなどは普段使っているものを持って行きましょう。それを持ち帰るというのも大切です。アメニティが置いてあっても使わずに返すといったアクションが、ゴミ削減に繋がります。 アフターコロナは思いやりを持った観光を 出典:pixabay.com これからの観光には、自分たちの満足だけを考えるのではなく、地元の方と環境への思いやりの気持ちを持つことが求められています。観光客を受け入れる自治体や地域もオーバーツーリズム対策を行っていますが、観光客の意識を変えていくことも重要なのです。レスポンシブルツーリズムをキーワードに、旅行先の選定や観光方法などを考えてみてはいかがでしょうか。
働いてお金を稼ぎ、そのお金で生活をする。それが当たり前の世の中ですが、近年「ベーシックインカム」という新しい概念が登場しています。ベーシックインカムとはどんなものなのか、世界の事例とともにご紹介します。 ベーシックインカムとは? 出典:unsplash.com ベーシックインカムとは、政府が国民全員に対し決められた額のお金を定期的に支給する社会保障制度のことで、最低所得保障制度とも呼ばれています。これまでの社会保障と大きく異なる点は、個人の労働収入や保有資産など、受給資格や条件が設けられておらず、無条件で国民全員が受け取れることです。個人が一定の生活資金を恒久的に得られるベーシックインカムは、21世紀の新しい資本主義のあり方として世界の行政からも注目を集めています。 ベーシックインカムのメリット ベーシックインカムが導入されるとある程度の収入が保障されるため、「生きるために働く」状態から脱し、最低限の生活を維持できるようになります。その結果、以下のようなメリットがあると期待されています。 ・貧困の解決や対策になる・少子化の解消に繋がる・長時間労働の削減や労働環境の改善・多様な生き方が可能になる また、国民全員に一律で支給することから、社会保障制度を簡略化や生活保護の不正受給問題の解決にもつながります。管理が効率化されるため、支給される側だけではなく、する側にとっても大きなメリットとなります。 ベーシックインカムの課題 一方で、ベーシックインカムを導入する場合は以下のような課題があります。 ・財源の確保・従来の社会保障制度の見直し・個人の労働意欲や企業の競争力の維持 他に、適切な支給額の算出が難しいという問題もあります。そのため、本格的に導入する前に大規模な実証実験を行い、支給額に対してどの程度の効果と影響があるかを検証する必要があるでしょう。 ベーシックインカムはなぜ注目されている? 出典:unsplash.com ベーシックインカムは、コロナ渦をきっかけに訪れた経済危機をきっかけに、実施を検討する国や自治体が増加しました。日本においては、進む少子高齢化で年金制度への不安が増していることや、AIの発展によって失業者が増える可能性があるといった社会背景も脚光を浴びている一因です。 “わたしたちは、持続可能な世界を築くためには、極度の貧困をふくめ、あらゆる形の、そして、あらゆる面の貧困をなくすことが一番大きな、解決しなければならない課題であると、認めます。”SDGsの前文で上記のように宣言されていることからわかるように、貧困問題や格差の是正は世界的に大きな悲願であり、ベーシックインカムが有効な手段のひとつとして各国で模索が進んでいるのです。 ベーシックインカムの導入国と成功例 ベーシックインカムは、“全員が国からお金をもらえる”という一見夢のような話ですが、実際に導入された場合に社会は正常に機能するのでしょうか。実はコロナ禍以前からベーシックインカムの議論はされていて、ベーシックインカムの導入に向けて条件を絞った実証実験を行っている国や自治体は多くあります。それらの事例から、成功例を3つお届けします。 ブラジル 出典:unsplash.com ブラジルでは2004年に「市民ベーシックインカム法」が成立。その第一段階として、最も困窮している層を対象に給付する政策「ボルサ・ファミリア」が始まりました。2023年からは「新ボルサ・ファミリア」として給付が始まり、平均給付額は714 レアル(約2万円)に。受け取れる基準が変更され、対象は2,080万世帯まで拡大する見込みです。ブラジルでは、市単位でもベーシックインカム支給の動きがあります。リオデジャネイロ州のマリカ市では、2013年から貧困層を対象に給付を開始。コロナ禍で額が上がり、3人家族なら1ヵ月あたり日本円で約1万9000円の支給が行われています。特筆すべきは、市内の加盟店でのみ使える現地通貨「ムンブカ」をカードやスマートフォンへチャージして使用するという点です。これにより地域経済の活性化と雇用の促進が期待でき、人々がベーシックインカムを何に使ったのかなど、消費動向データを収集し分析できるようになっています。 フィンランド 出典:pexels.com 2017年1月から約2年間の期間で、失業者からランダムに選出された2,000人を対象に毎月560ユーロ(約7万円)が無条件で支給されました。フィンランドの社会保険庁は、「人々の労働日数にほぼ変化は見られず、勤労意欲に変化がない傾向がある」と結果を発表。劇的な雇用の改善には繋がらなかったものの、悪化もしておらず、ベーシックインカムの懸念として挙げられることの多い「勤労意欲の低下」は見られない結果となりました。また、生活保障を得たことでライスワーク(生きるための仕事)から脱し、起業などのライフワークへ挑戦する意欲が高まったとポジティブな回答も見られました。 カナダ 出典:unsplash.com 2017年7月から、オンタリオ州では約4,000人を対象におよそ所得の約50%を給付するベーシックインカムの実験を開始。3年続くはずだった実験は、多大なコストを理由に1年で終了となったものの、参加者へのインタビューでは、タバコやアルコールの摂取が減ったという例や、うつ状態から回復し社会復帰のために職業訓練に通い出したという例もあり、心身の健康状態へポジティブな影響が見られました。 ベーシックインカムの導入国は増える? ベーシックインカムは、貧富の格差を解消し社会保障制度を単純化するなどのメリットがありますが、実証実験を行ったものの本格的な導入には至らないケースが多いこともあります。足踏み状態となる原因として、まず財源確保の課題があります。例えばブラジルのマリカ市は油田を持ち石油会社からの税収で財政が潤っているため、コロナ渦でもベーシックインカムで多くの市民の生活を支えることができました。しかし、これは稀なケースと言えるでしょう。他にも、日本を含む社会保障が手厚い国では従来の社会保障とベーシックインカムのバランスをどう調整していくかという点も議論の焦点となっていくでしょう。まだまだ発展途上のベーシックインカム。SDGsで貧困をなくすことが目標とされ、AIが進歩が目覚ましい中、どのような国や地域がどのような施策を打ち出していくのでしょうか。これからのベーシックインカムにますます注目が集まりそうです。
新しい年度が始まり少し経った今、プライベートと仕事や勉強の切り替えはうまくできているでしょうか。リモートワークが定着し、家で仕事をする人が増え、再注目されているのが、自宅でもない仕事先でもない居場所・サードプレイスの重要性です。今回は、サードプレイスの概要をメリットと事例を交えてご紹介します。 サードプレイスとは サードプレイス(third place/第三の場所)とは、家庭や学校、職場と離れた、居心地の良いと感じる場所(コミュニティ)のことです。アメリカの都市社会学者レイ・オルデンバーグが、ストレスの多い現代社会の中、心をくつろげ、かつストレスから解放される場所・サードプレイスが重要であるということを自著『The Great Good Place』で提唱し、注目されるようになりました。オルデンバーグによるとサードプレイスは以下の8つの特徴があります。 ・特定の団体や組織に属しておらず、中立である・社会的地位などに重きを置かず、平等である・楽しい会話が中心に存在する・誰でも訪れやすく利便性が高い・常連がおり、新しく入る人にも開かれている・派手さはなく安心できる・緊張などはなく、陽気な雰囲気・第二の家になる ファーストプレイスとセカンドプレイス サードプレイスとは第三の場所ですが、それではファーストプレイスとセカンドプレイスのとはどこを示すのでしょうか。 ファーストプレイス ファーストプレイスとは、主に自宅のことを指します。食事や睡眠、入浴などといった基本的な生活を行う場所のことです。私たちに欠かせない場所である一方で、家族がいる場合などは、お互いが快適かつ安全に暮らせるよう配慮が必要です。家族に対して責任や義務があります。 セカンドプレイス セカンドプレイスとは、職場または学校のことであり、仕事をしたり、学びを得たりする場所を指します。収入を得て生活を維持する、これからの人生のために学ぶ場所ではあるものの、それらに対して責任が生じます。それは直接職場や学校に赴かないオンラインであっても同じです。私たちの生活の長い時間を過ごし、責務もあるため、多少なりともストレスを抱えてしまうことがあります。 サードプレイスのメリット 出典:pixabay.com 自宅や職場、学校以外に、自分の居場所であるサードプレイスを持つことは、私たちに多くのポジティブな効果をもたらします。その一部を見ていきましょう。 新しい考え方と学びを得られる 家庭や職場、学校の人間関係は比較的固定されがちです。 それとは逆に、サードプレイスでは、職業や年齢、性別、出身地などがあらゆるバックグラウンドを持つ人との関わりが増えます。異なる価値観を持った人たちと交流をすることで、これまで考えたことがなかったアイデアや考え方に触れることができ、新たな学びや刺激を獲得できます。 共通の趣味の人と出会える サードプレイスは、共通の趣味を持っている人と出会う確率が高い場所です。典型的な例を挙げるなら、スポーツクラブやジムはサードプレイスに近いものがあります。ほかにも映画や特定の小説家が好きといった趣味の集まりもたくさん開催されており、趣味の話題で盛り上がることでしょう。 ストレス発散になる 自分のサードプレイスがあると、ファーストプレイスやセカンドプレイスで抱えてしまったストレスが発散され、メンタルの維持にもつながります。また、サードプレイスがあるから仕事や学校でのモチベーションをキープできるのです。 サードプレイスの具体例 ヨーロッパではサードプレイスの存在が生活に溶け込んでいると言われています。海外や国内のサードプレイスの例を見てみましょう。 カフェや居酒屋 欧米のカフェや居酒屋(※イギリスの場合パブ)の中には、飲食を楽しむだけでなく、顔見知りのお客とスタッフが会話を楽しめる場所として利用する人が多くいます。家族や職場の同僚以外の人と会話をすることは、気分転換になります。 サウナ サウナの発祥地フィンランドでは、サウナがサードプレイスになっています。サウナは身体を療養し、リフレッシュをする場でもあり、そこでたわいもない会話が生まれることで、心身ともに爽快な気分でサウナを出ることができます。 乗車をシェアするサービス 高齢者の割合が高くなり、人口減少が進んでいる石川県輪島市では、地域の方の移動手段として「WA-MO(Wajina Small Mobility、ワーモ)」という交通システムを稼働しています。この交通システムは、3つルートで4人乗りまたは7人乗りの小型車両を走らせ、住民と観光客が無料で乗れる仕組みとなっています。乗車した者同士の交流が生まれ、それがサードプレイスとなったのです。このシステムによって地域の交通インフラが整ったとともに、コミュニティも豊かになってきています。 ※コロナにより運行を休止している場合があります。 サードプレイスの作り方 それでは、実際サードプレイスはどのように探したら良いでしょうか。サードプレイスの見つけ方には次のような方法があります。 自宅から職場までの地域を散策する サードプレイスを見つける最も手軽な手段の一つとして、オフィスや学校から自宅までの道中や、散歩コースを見直してみるということが挙げられます。普段は通り過ぎていたお店や貼り紙などを意識すると「行ってみたい」と思えるスポットが見つかるかもしれません。また、公園やカフェがサードプレイスになる可能性もあります。地域のコミュニティ活動もサードプレイスになるかもしれません。 SNSを利用する インターネットが普及している今日、SNSで自分にぴったりのサードプレイスを探すことも可能です。似た趣味の人との出会いがあり、交流が始まり、良い関係性に発展するパターンもあります。自分の趣味や好みが明確になっている方はSNSでサードプレイスを見つけてみるのも良いでしょう。 サードプレイスの活用で充実した毎日を 出典:pexels.com 自分のサードプレイスがあると、自分自身のステップアップにつながり、家庭でも仕事学校でも新しい考え方やアイデアが生まれやすくなるといわれています。今の自分の生活に何か新しい風を吹かせたい方、新生活で少しストレスを感じている方は、サードプレイスを見つけ、新しい出会いを楽しんでみてはいかがでしょうか。
2023年版の世界幸福度ランキングが発表されました。トップ20の国と日本のランキングを紹介するとともに、世界幸福度ランキングの概要やランキングの決まり方について説明していきます。 世界幸福度ランキングとは? 世界幸福度ランキングとは国連の関連団体であるSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)が2012年から発行している「World Hapiness Report」に記載されているランキングです。同年3月20日に宣言された「国際幸福デー」に合わせて毎年ランキングが発表されています。背景に2011年の国連総会で、幸せの国としても知られるブータンのティンレイ首相(当時)が「幸福度を国際社会全体の開発目標に据えよう」と問題提起し、全会一致で採択されたことがあります。世界的な金融危機や環境破壊の経験を踏まえ、GDPなどの経済指標だけでは豊かさや幸福度を測れないことから、世界的に幸福度を重視するような機運が高まっています。 ランキングはどうやって決まる? 出典:unsplash.com 世界幸福度ランキングはどのように決まるのでしょうか。幸福度の調査はカントリルラダー(Cantril ladder)と呼ばれる方法を用いた世論調査によって行われます。具体的には、可能な限り最高の人生を10、最悪の人生を0とし、回答者に自分の人生が0から10のどの段階にあるかを評価してもらいます。得られた回答の過去3年間の平均値をスコアとし、ランク付けをしています。 また、報告書においては得られたスコアがどのような要因で説明できるか、統計学的な観点から分析しています。説明に使われる要因は以下の6つの項目です。 ・一人当たり国内総生産(GDP)・社会的支援(社会保障制度など)・健康寿命・人生選択の自由度・他人への寛容さ(寄付活動など)・腐敗認識度(国・政治への信頼) ここで注意が必要なのが、6つの項目は結果を後から分析するために用いられるものであって、幸福度のスコアやランキングには影響していないということです。World Hapiness Reportのホームページには以下の記述があります。 “Our happiness rankings are not based on any index of these six factors – the scores are instead based on individuals’ own assessments of their lives, in particular, their answers to the single-item Cantril ladder life-evaluation question”(我々の幸福度ランキングは6つの指標に基づきません。代わりに、スコアは個人の生活の評価、特に単一項目のカントリルラダー生活評価質問への回答に基づいています) https://worldhappiness.report/about/ ランキングはあくまでも、個人の主観的な生活評価に基づいているのです。 最新の世界幸福度ランキング 3月20日に最新の世界幸福度ランキングが発表されました。 World Happiness Report 2023 より再編 図には分析された6つの項目を色別で記載しています。6つの項目とは前述したとおりですが、紺色の「基準値 + 残差」の「基準値」は、全ての国に対して基準となる共通の値を与え、「残差」は6つの項目で分析しきれない部分を表すことを目的として導入されています。 上位3国は昨年と変わらない結果となりました。また、日本は47位で、昨年よりも順位があがっています。 ここからは、上位3国において、国民の幸福度の高さの所以はどこにあるのかと日本の順位が低い理由を考えていきます。 世界幸福度ランキング1位 <フィンランド> 出典:unsplash.com 6年連続で幸福度ランキング1位となったフィンランド。透明性の高い政治で国民からの信頼が厚いと言われており、社会保障制度が充実していることで知られています。また、フィンランドでは、教育や子育てにも力を入れています。 教育の質の高さ・学力を競うのではなく、自分のために勉強するという価値観・生徒一人ひとりの状況を把握できるよう少人数教育を実施・教員は修士号取得など、厳しい条件をクリアしている・子どもの頃から自然の中で身体を動かすことを楽しめる環境が整っている 子育て環境・就学前教育から高等教育まで学費や給食費が無料・親の就労の有無にかかわらず、すべての子どもが保育園に入ることができる・16時ごろまでに仕事を終わらせる文化があり、残業はほとんどしない・妊娠期から就学するまで「ネウボラ制度」により家庭をサポートする担当者がつく・男性が育休を取得しやすい 世界幸福度ランキング2位 <デンマーク> 出典:pixabay.com デンマークは幸福度の高さと国際競争力を両立している国として知られています。社会保険料の代わりに高い税金により手厚い社会保障制度が整っていることが特徴です。その中でも、特に注目されている高齢者福祉について詳しく見ていきましょう。 高齢者福祉・年金の財源は税金のため、未加入や無年金にはならない・充実した年金制度で、生命保険に入る必要がない・自立を促す在宅介護が中心で、手厚いケアにより一人でも安心して暮らすことができる・すべての地方自治体が介護サービスを提供しており、無料で利用できる 世界幸福度ランキング3位 <アイスランド> 出典:unsplash.com アイスランドは、国土面積は北海道と四国を合わせたほどの小国ながら、1人当たりのGDPが高水準である裕福な国です。 社会保障が充実していることから、子どもからお年寄りまで安心して暮らせる環境が整っている上に、ジェンダー平等を推進している点も特徴的です。 ジェンダー平等・男女の同一労働・同一賃金を義務付ける法律を世界で初めて制定・クオータ制により、企業役員や議員などはメンバーの40%以上を女性とすることが定められている・育児休暇期間は、母親が6か月、父親が6か月に加え、どちらがとるか自由に決められる期間が6週間ある 日本の世界幸福度ランキング - 順位が低い理由は? 2023年の世界幸福度ランキングで日本は47位となり、昨年の54位から順位を上げました。また、スコアも昨年より上がっています。6つの分析項目でランキング1位のフィンランドと比較すると、人生選択の自由度、他人への寛容度、腐敗認識度が低いようです。 しかし、何よりも差が大きいのは「残差」の部分です。宗教や文化の違いから東アジアの人はカントリルラダーを控えめに回答する傾向にあることが知られています。残差の部分にその結果が表れ、ランキングに影響していると考えられます。 日本の幸福度を高めるためには? 実は6つの項目による分析結果だけをみると日本は20位のリトアニアよりもスコアが高いです。 主観的な回答に基づいて決まる世界幸福度ランキングは分析しきれない部分が大きく、高順位の国を見て日本の幸福度が低いと考えるのは安直です。幸福度を高めるために大切なことは順位を上げることではなく、分析結果から学ぶことだと言えます。 もし比較するのであれば、順位を見るのではなく、分析結果から日本の良いところや日本に足りないものを考える、過去の日本のスコアと比較して今の日本がどうかを評価する、などが良いでしょう。 世界幸福度ランキングの楽しみ方 出典:pexels.com 一見すると政治への信頼度や社会保障制度の充実度など、ランキング上位国は理想郷そのものに見えますが、その全てが完璧な訳ではありません。例えば、ランキング1位のフィンランドでは日本同様少子化の問題を抱えていますし、他にも、人道的な理由から多くの難民を受け入れたことが、社会保障制度の負担になるという声も上がっています。どれほど幸福度が高い国でも問題は抱えているものです。それでも多くのフィンランド国民は自分たちのことを幸せだと思っているということが幸福度ランキングからはわかります。 GDPや社会の制度そのものではなく「主観的に幸せだと思えること」が大切なことであり、幸福度ランキングが私たちに伝えてくれているものです。どのような宗教や文化、価値観を持つ国の人でも、自信を持って自分は幸せだと言える世界であってほしいですね。
グローバル化が進み、原料や生産コストを抑えられるようになったことで、私たちは安く服を手に入れられるようになりました。しかしその一方で、衣服の大量生産・大量廃棄による環境への負荷や、生産者の労働環境などが問題になっているのも事実です。 今、様々なブランドで、人権や環境を尊重したファッションに移行する動きが高まっています。この記事では、世界がファッションの在り方や楽しみ方を考え直し、エシカルファッションということばが広まるきっかけになった「ラナ・プラザ崩壊事故(ダッカ近郊ビル崩落事故)」について見ていきます。 人や動物、環境に配慮する「エシカルファッション時代」の到来 出典:unsplash.com エシカルファッションとは、素材の調達から販売に至るまで、生産・販売に関わる人や動物、自然環境を尊重し、配慮されて作られたファッションのことです。 労働者に適切な支払いを行う、労働環境を整える、動物性の毛皮などを使用しない、なるべく水を使わずCO2の排出を最低限に抑えるなどといった取り組みを行っているものを指します。環境に配慮しているという点では、持続可能なアパレルの生産を目指すサステナブルファッションと被るところも多くあります。今でこそ企業や消費者のファッションに対する向き合い方は少しずつ変わってきましたが、グローバル化が進み、安価な労働力を海外に求めるようになってからは、生産の背景を透明化することは難しいことでした。私たちが着ている洋服はどのような場所でどのように作られたものかを知らずに購入するケースが多かったのではないでしょうか。そんな中、企業や消費者が、生産者の人権を尊重するファッションについて考えるようになった大きな事故があります。それが「ラナ・プラザ崩壊事故(ダッカ近郊ビル崩落事故)」です。 世界に大きな衝撃を与えた「ラナ・プラザ崩壊事故」 出典:unsplash.com ラナ・プラザ崩壊事故、別名ダッカ近郊ビル崩落事故は、2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカから北西約20kmにあるシャバールで起きたビルの崩壊事故です。縫製工場、銀行、商店などが入っていた8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」の崩落により、死者は1134人、負傷者は2500人以上にのぼりました。犠牲者の多くが縫製工場で働いていた若い女性たちであったとされています。ビルは以前から耐震性を無視した違法な増築を繰り返し、事故の前日にも、ひび割れが発見されましたが、建物の所有者はその指摘を無視していました。その杜撰な安全管理の末、ビル内に設置された4基の大型発電機の振動や数千台のミシンの振動が引き金となり、崩落したとされています。 事故後ラナ・プラザの縫製工場は、粗末な安全管理が明るみになっただけではなく、低賃金で長時間労働が行われている「スウェットショップ(搾取工場)」であり、労働組合を作ることを認められていなかった等の不平等な労働環境も広く知れ渡ることになりました。このビルの崩壊により、消費者やファッション業界が求めてきた安価な洋服の先にあった、劣悪な労働環境が浮き彫りとなったのです。 崩壊事故を受けた世界の反応 ラナ・プラザには、世界でも有名なアパレルブランドの下請けを工場が入っていました。ベネトンや、ウォルマート、マンゴーなど、日本でも馴染みのある世界的なブランドの下請け工場もラナ・プラザにありました。各ブランド・メーカーはこの労働環境について知らなかったと発表していますが、事故後これらのブランドには多くの批判的な意見が寄せられています。 崩落事故から、約1か月後には「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関わる協定(The Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh )」が作られ、欧州を主としたブランドや小売企業とバングラデシュの労働組合等との間で、その協定の締結がなされるようになりました。この協定にはユニクロやH&M など多数の主要アパレルが署名しています。輸出先の国や地域によってその対応は変わりますが、他にも、労働法の順守、従業員への給与支払いおよび休日の付与などをチェックする機能なども新たに作られるようになり、バングラデシュの縫製工場を取り巻く環境は少しずつ変化しつつありますが、まだまだ課題が残っているのが現状です。 ファッションレボリューションデーの設立 出典:unsplash.com 事故後、市民の間でもムーブメントが起きています。ラナ・プラザ崩壊事故を受けて、イギリスではファッションレボリューションが設立されました。環境や人権に配慮したファッション産業を広めるキャンペーンとして、世界中に広まっています。ファッションレボリューションではラナ・プラザ崩壊事故に合わせて、毎年4月24日を「ファッションレボリューションデー」と制定。その前後1週間のファッションレボリューションウィークは、世界中で様々なイベントが行われます。2022年、日本では「服を長く愛するために」をテーマに多方面から服の“お直し”をするクリエーターや団体による展示が行われました。 複雑なサプライチェーンとグローバルサウス・グローバルノース グローバル化が進み、あらゆる素材を調達し生産するファッションは、サプライチェーンの透明化が非常に難しいとされています。しかし、ファストファッションを生み出す縫製工場の多くは、新興国にあるのが事実です。残念ながら、安価な労働力を求められる生産地の新興国では、現地の労働環境に光が当たることは、今まであまりありませんでした。アパレル産業に関わらず、ヨーロッパやアメリカ、日本といったグローバルノースと呼ばれる国々がグローバル化の恩恵を受ける一方で、バングラデシュをはじめとしたグローバルサウスと呼ばれる国々にその負担がかかっていることがあるのです。このことをグローバルノースに住む私たちは知っておく必要があります。 関連記事:日本に住むなら絶対に知っておきたい、グローバルサウス・グローバルノースとは ラナ・プラザ崩壊事故への理解が深まるドキュメンタリー映画 最後に、ラナ・プラザ崩壊事故やバングラデシュの下請け縫製工場について描かれた映画をご紹介します。 『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』 ラナ・プラザ崩壊事故をきっかけに作られたファッション業界の裏側に迫るドキュメンタリー。服の価格が低下する一方、人や環境が支払う代償が劇的に上昇してきた現代で、服を巡る知られざるストーリーに光を当て、「服に対して本当のコストを支払っているのは誰か?」という問題を提起した話題作。 『メイド・イン・バングラデシュ』 10代半ばからバングラデシュの労働闘争に関わってきたダリヤ・アクター・ドリの実話をもとに作られた、バングラデシュの縫製工場で働く女性たちが主人公の物語。バングラデシュ・ダッカ生まれの女性監督ルバイヤット・ホセインがメガホンをとった。 悲劇を繰り返さないために、私たちにできること 出典:unsplash.com 買い物をするということは投票することと同じことです。買い物をするときには、その洋服がどのように作られているのか背景を知ろうとすることや、グローバルサウスの国々でどんなことが起きているのかを知ること。そしてより良い選択を行っていくことが、ラナ・プラザのような事故を起こさないために、私たち消費者ができるアクションです。
近年、国全体で長時間労働や雇用格差などを見直す動きが進んでいます。その流れによって、これまでの働き方が見直され、少しずつですがそれぞれのライフスタイルを重視した働き方が選べるようになってきました。今回は、新しい働き方につながるワークライフマネジメントについて解説していきます。 ワークライフマネジメントとは? 出典:unsplash.com ワークライフマネジメントとは、自分のペースに合わせて仕事(Work)と私生活(Life)の管理を行い、バランスを取りながら両方とも充実させていく考え方です。 自分自身で仕事もプライベートもマネジメントすることで、仕事に意欲がわき成果を出しやすくなり、オフタイムは自分の好きなことや興味関心のあることを存分に楽しめるようになるといわれています。 ワークライフバランスとの違いは? ワークライフマネジメントは、ワークライフバランスと混同される場合がありますが、ふたつのワードの相違点は、「自発的」に動いているか否かです。 ワークライフマネジメントは、仕事や私生活を自らコントロール・管理する意味合いが含まれています。一方でワークライフバランスは、企業サイドが時短勤務やフレックス制度、短時間勤務などを設けて、従業員に提案や奨励をするようなかたちのことを示します。 ワークライフマネジメントが注目される背景 出典:pexels.com 日本ではこれまで、長時間労働やみなし残業といった労働形態が大きな社会問題になってきました。会社や業界にもよりますが、現在、労働環境は改善されている傾向にあり、そのような流れで出てきたのがワークライフバランスという言葉です。 ワークライフバランスもワークライフマネジメントと目指すところは一緒でしたが、前述した通り、次第に“会社が社員に制度として提供するもの”という意味合いが強くなってきてしまい、社員はその制度を受け取る、受け身の状態であることが懸念されていました。そこで、社員自らが仕事とプライベートを充実させようと管理することが大切だという本来の認識を取り戻すべく、ワークライフマネジメントという言葉が新しく誕生したのです。 ワークライフマネジメントのメリット ワークライフマネジメントが進むと個人にとって、以下のようなメリットがあります。 ・モチベーションの向上働き方やプライベートに満足していればモチベーションが向上。双方のクオリティアップにも繋がります。 ・やりがいを感じるやらされているわけではなく、自ら選択しマネジメントすることはやりがいに繋がります。 ・ライフステージが変わっても働き続けることができる働き方を選ぶことができれば、親の介護や出産・育児など様々な理由で離職する可能性も少なくなります。 一方企業にとっても以下のようなメリットが生まれます。 ・優秀な人材の確保ライフステージの変化によって職場を離れるケースが減少することは、優秀な人材の流出を抑止することにも繋がります。 ・生産性の向上一人ひとりのモチベーションが上がることにより生産性の向上が見込めます。 ・新たなアイデアの創出プライベートを充実させることで、仕事においても革新的なアイデアが生まれるかもしれません。近年子どもだけでなく、大人にとっての“遊び”の重要性が注目されています。 ワークライフマネジメントの企業事例 社員自ら生活をマネジメントするためには、それが叶うような職場の環境が非常に重要です。最近は、ワークライフマネジメントを推し進める企業が出てきています。主な事例として次の3社があります。 株式会社ベネッセホールディングス 株式会社ベネッセホールディングスでは、多様な働き方によって仕事(Work)と私生活(Life)の両方を大切にすることを推奨しています。在宅勤務やフレックス勤務などの働き方だけでなく、リスキル休暇といった自己研鑽に充てる休暇も提供し、従業員が満足できる働き方を実現しています。 参考サイト:働きやすく活気ある職場づくり(労働慣行) | 社会 | サステナビリティ | 株式会社ベネッセホールディングス 株式会社日本総合研究所 株式会社日本総合研究所では、性別やライフステージを問わず『社員全員にとって働きやすい職場づくり』を推進。ライフステージに合わせた働き方の選択肢を設け、女性のキャリアステップにおけるロールモデルの拡充や、多様な価値観に応じた柔軟で生産性の高い働き方の実現を目指しています。 参考サイト:ワークライフマネジメント|学生向け・キャリア採用向け情報サイト|日本総合研究所 千寿製薬株式会社 千寿製薬株式会社では、ライフワークバランスから一歩踏み込んだライフワークマネジメントを軸にした働き方改革を実践。充実した休暇制度や、子育てや介護に関する制度、在宅勤務制度など、全社員が「ワークライフマネジメント」の当事者であると認識し、仕事と生活を充実させるために主体的に働き方を考えられるような取り組みを行っています。 参考サイト:「仕事と生活の調和」のさらに先へ 「ワークライフマネジメント」の推進 | SENJU SENSE | 千寿製薬について ワークライフマネジメントで充実した働き方とライフスタイルを叶えよう 自分で仕事も生活をマネジメントし、充実させることは簡単なことではないように思うかもしれませんが、自らの生活や人生について考えることは私たちにとって大変重要なことです。ライフワークマネジメントをキーワードに、会社の制度を再度確認し、自分の希望の働き方やプライベートの時間を見つめなおしてみるのもいいかも知れません。
グローバル化が進展する中、その流れとは逆を行く「ローカリゼーション」というワードが世界中で注目を集めています。ローカリゼーションとはなにか、なぜ今注目されるのかを解説しています。 ローカリゼーションとは 元々、ローカリゼーションとは、自分たちの手がけた製品もしくはサービスを特定のマーケットに適応させる取り組みのことでした。 最近では、ローカリゼーションは、地域社会に紐づくワードでも使われるようになっています。この場合の意味合いは、地域内の資源やお金を回すことで、生産に携わった人と消費者が距離を縮めながら、自分たちで地域を活性化するということを指します。グローバル化が進み、安価な輸入品が手に入り、便利になった一方で、地域の文化が失われることが危ぶまれ、地元産のものを購入し、地域の活動を盛り上げようとするローカリゼーションのムーブメントが世界中で起こっています。 グローバリゼーションとローカリゼーション ローカリゼーションは、グローバリゼーションの対極にあるといってもいい言葉です。様々な国から調達した原料を使い、労働力のある国の工場で大量生産し、それを輸送して別の場所で売る、といった仕組みを持つのがグローバリゼーションです。私たちが普段購入する洋服や雑貨などあらゆるものが、複雑なサプライチェーンを持っています。 一方、ローカリゼーションでは、地元で採れたものや生産されたものを地元で売るというようなことが進みます。「地方創生」「地産地消」などもローカリゼーションの一環です。 関連記事:実はこんなにたくさん!地産地消のメリットとは ローカリゼーションが注目される背景 出典:unsplash.com 近年、ローカリゼーションが注目さる主な背景として以下のようなものが挙げられます。 人とのつながりが希薄となった 少子高齢化や核家族の増加、そして新型コロナウイルス感染拡大によって、家族以外の人と触れる機会が減っています。なかには近所付き合いが全くないという人も一定数います。このような人が地域の中で取り残されないよう、地元の人通しで繋がれるローカリゼーションが必要とされています。 地域文化の継承が難しくなった 日本では地方の過疎化が加速し、働き盛り世代で地域を担う人が少なくなっています。そのため地域の文化や伝統、技術の継承が大変難しい状況です。その解決のひとつとして、ローカリゼーションを加速させ、地域の魅力を再発見することが挙げられます。 ローカリゼーションのメリット ローカリゼーションのメリットは、地域の人と人との繋がりが密になることで、「絆」が強くなることです。例えば、地域全体で地域に住む子どもの面倒を見ることで、自分の居場所を確保しやすくなり、世代を超えてコミュニティが構築されます。地域のコミュニティは有事の際にも重要で、例えば災害があった場合でも安否の確認がしやすくなり、避難するのが困難な高齢者や障がい者に声を掛け合うなど、お互いに助け合うことができます。 また、地域で経済が回ることで、地域の活性化が見込めます。新しい取り組みや場所、商品などが地域から生まれることにより、新たな雇用の創出や、若い世代が地域に残って生活することに繋がるかもしれません。活性化することで地域外の人からも目に留まりやすくなり、地域文化の継承や後継者不足の問題解決にも繋がる可能性があります。 最後に、環境にもたらす影響も少なからずあります。遠くの国から輸入してくるモノや食品と比べて、地域でできたものは「フードマイレージ」が低く、輸送にかかる環境負荷が抑えられます。 関連記事:フードマイレージとは?買い物するときに注目したいポイントを解説 ローカリゼーションのデメリット ローカリゼーションが進むことで私たちの生活にマイナスの影響はあるのでしょうか。 今私たちの身の回りには、安価で生産数も安定しているものが多くあり、豊富な種類が手に入ります。これはグローバリゼーションの賜物です。一方、ローカルで作られるものは、大量生産でないことも多く、供給は安定しないかもしれません。また、生産者との公正な取引から、価格も多少高めに設定されることもあります。しかし、ローカリゼーションが進み、地域の経済が潤うようになれば、このような問題も少なくなってくるでしょう。 ローカリゼーションの国内具体例 ローカリゼーションの取り組みとして、各地で施策が始まっています。 JAあいち三河 JAあいち三河では、ローカリゼーションの一環として中山間地域を中心に金融機関の移動車と移動購買店舗車の運転をしており、地域に住む方の生活インフラを整えています。ほかにもいちご農家の減少を食い止めるための「いちご塾」を開校し、次世代を担う農家の育成にも注力しています。 参考:JA あいち三河 × SDGs 兵庫県豊岡市 兵庫県豊岡市では、若者の人口減少にフォーカスした取り組みを積極的に行っています。ほかにもジェンダーギャップの解消と外国人定住者の受け入れなど、誰もが暮らしやすい地域を目指すため、今の時代背景を考えた施策を提案し、実行しています。 参考:豊岡市の地方創生戦略 (人口減少対策) 豊かな地域を育むために 出典:unsplash.com 地域過疎化・後継者不足といった深刻な地域の問題を解決していくためには、ローカリゼーションは必要な要素です。最近は、若い世代や移住した人たちが地方を盛り上げる取り組みも多く見られます。 経済やコミュニティを豊かなものにして、地域が力をつけていくために、私たち個人ができることはたくさんあります。生産者に会えるマーケットに出かけて地元の野菜を買う、地域の産業や伝統文化を知ることも、そのひとつです。世界でも注目されるローカリゼーションは、日本でもますます大切な取り組みとして広まっていくことでしょう。
カーボンニュートラルは、私たちの住む地球を持続可能なものにしていくためのキーワードの一つです。近年、テレビや新聞で取り上げられることも増え、国や企業を中心にカーボンニュートラルを意識した取り組みが広がっています。こちらの記事では、少し難しいように感じるカーボンニュートラルについて、かみ砕いてわかりやすく解説します。 カーボンニュートラルとは 出典:unsplash.com カーボンニュートラルとは、人の活動が起因となって発生する温室効果ガス(CO2など)の排出量から、植林などによる「吸収量」を差し引き、排出量の合計を実質的に「ゼロ」にすることを指します。 2015年のパリ協定では、世界共通の長期目標として、 ・世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること(2℃目標) ・今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること などが合意されました。 これに伴い、日本を含む120以上の国が2050年までにカーボンニュートラルを達成するために取り組みを始めています。 カーボンニュートラルが必要な理由 出典:unsplash.com 世界では海面上昇や砂漠化、大規模災害、深刻な水不足など、気候変動が人々や生態系に大きな影響を与えています。私たちの住む日本も例外ではなく、埼玉県や群馬県、岐阜県といった内陸の県の夏は異常な暑さとなり、全国的にゲリラ豪雨などによる被害も多く発生しています。 世界の国々が一丸となってカーボンニュートラルを目指す主な理由は、このような気候変動危機を回避することにあります。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、世界で工業化が進んでから、世界の平均気温は約1.1℃上昇しているとされており、人類や地球上の生態系に深刻な影響が出る境界値は工業化からプラス1.5℃と言われており、気温上昇はあと0.4℃に抑える必要があるのです。 持続可能な未来に向けて、今すぐ私たちが取り組まなければならない喫緊の課題である気候変動。気候変動を食い止める一つの策としてカーボンニュートラルの取り組みが求められています。 日本政府も目指す「2050年カーボンニュートラル」 日本では、2020年10月に開かれた臨時国会の所信表明演説において、当時の内閣総理大臣だった菅義偉氏が「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指す」という宣言をしました。 日本は、CO2だけに限らず、メタン、N2O(一酸化二窒素)、フロンガスを温室効果ガスとして削減することを目指しています。現在国内の温室効果ガスの排出量は、年間12億トンを超えると言われています。「2050年カーボンニュートラル」を確実に進めるために、2030年には温室効果ガスを2013年度の46%削減することを目指し、段階を踏んで達成していくことを宣言しています。 国が進める具体的な取り組み 日本政府はカーボンニュートラルを現実のものとするために、多方面での取り組みを行っています。いくつか具体的な事例を見ていきましょう。 グリーン成長戦略 並大抵の努力では実現が難しい2050年カーボンニュートラル。目標を達成するためには、エネルギー・産業の構造の大きな転換や、投資によるイノベーションが必要となります。積極的に温暖化対策を行うことが成長のチャンスであるという考えのもと、「経済と環境の好循環」を作っていく産業政策 がグリーン成長戦略です。国は、再生エネルギーの促進をはじめとし、農業やIT産業など14の分野でそれぞれの課題や目標を明記。税金の投入や、規制改革および標準化・国際連携などを通して全面的に企業をサポートします。 ゼロカーボンシティの実現 環境省は、地方公共団体の脱炭素化への取組に対し、情報基盤整備、計画等策定支援、設備等導入を支援しています。2050年カーボンニュートラルを宣言する地方公共団体は増加してきており、2022年12月時点では、800を超える地方公共団体が取り組みを始めています。 脱炭素社会の実現に向けて 国の動きに連動して、国内では脱炭素社会に向けた取り組みを行う大企業が増えてきています。国や企業が脱炭素社会に向けて取り組むインパクトは、社会にとって大変大きいもので、2050年カーボンニュートラルの実現のためには不可欠です。 私たちの生活に関わる企業も取り組みを始めています。そのような企業に注目することが私たち一人ひとりにできるカーボンニュートラルに向けたアクションになってくるでしょう。 【参考】令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)第1部 第2章|資源エネルギー庁国の取組 - 脱炭素ポータル|環境省
みんなが住みやすい社会を作っていくためのソーシャルデザイン。近年国内外で、人にフォーカスした社会づくりや街づくりが活発になっています。今回は、国内・海外から注目のソーシャルデザイン事例をピックアップ。もともとあった場所をどんな世代の人でも使えるようにバリアフリーにすることでみんなが集まれる場所へとリニューアルしたり、人と自然が共存できる場所を作ったりと、アイデアに溢れた場所がどんどん増えてきています。各地でどんな取り組みが進んでいるのか見ていきましょう。 関連記事:https://rootus.net/article/1490 日本のソーシャルデザイン事例3選 アーティストが提案する憩いの場「HIROPPA」(長崎県波佐見町) この投稿をInstagramで見る 有限会社マルヒロ(@maruhiro.hasami)がシェアした投稿 「HIROPPA(ヒロッパ)」は、磁器づくりの歴史がある波佐見町に拠点を構え、波佐見焼の食器や雑貨を販売する企業、マルヒロが2021年10月にオープンした複合施設です。敷地内には国内外のアーティストが手がける作品が点在しているのが特徴です。芝生をメインとした公園を中心とした施設には、コーヒーショップやマルヒロの直営店、キオスクを併設。ベビーカーや車椅子でも回れるよう、バリアフリーの通路を完備するなど、老若男女どんな人でも楽しめるコミュニティースペースとなっています。また、子どもたちに自由に遊びを楽しんで欲しいとい願いから、公園には一般的な遊具はあえて設置していません。廃棄予定の波佐見焼を利用した白い「砂浜」など、気軽に地域の伝統に触れられる工夫が随所に施されています。 マルヒロ公式サイト https://www.hasamiyaki.jp/ HIROPPA公式サイト https://hiroppa.hasamiyaki.jp/ 子どもも大歓迎のくつろげる空間にリニューアル(滋賀県立美術館) この投稿をInstagramで見る 滋賀県立美術館SMoA(@shigamuseum)がシェアした投稿 1984年に開館した滋賀県立近代美術館。時代の変化に合わせて、敷居の高いイメージだった美術館から、どんな人も広く受け入れる「くつろげる美術館」を目指し、大幅な改修を経て、2021年6月に滋賀県立美術館としてリニューアルオープンしました。ガラス張りの大きな窓から光が降り注ぐ、明るいキッズスペースには様々な空間設計がされています。琵琶湖をイメージしたという柔らかなフォルムのプレイマットの傍に本棚を設置し、遊びながら自然にアートと触れ合うことのできる仕掛けを施したり、椅子と机は低めにすることで乳児~小学生までの使用を可能にしています。また、授乳室のあるファミリールームやファミリートイレも完備。大人の楽しむ場所のイメージが強い美術館が、幅広い年代の集う空間へと生まれ変わりました。 公式サイト https://www.shigamuseum.jp/ 企業と警察が一緒に課題を解決(広島県尾道市) おのみちサイクルポリス隊員が,サイクルイベント「グラン・ツール・せとうち2022」で,参加者に法令遵守と交通事故防止を呼びかけました。5月は「自転車マナーアップ強化月間」です。交通ルールの遵守とマナーの向上を目指しましょう。「自転車も ルールを守る ドライバー」【#尾道警察署】 pic.twitter.com/dsQpTLojkh— 広島県警察(公式) (@HP_maplekun) April 27, 2022 広島県尾道市は、しまなみ海道のサイクリングの拠点となっており、レンタサイクルやサイクリストのための施設などが充実する「サイクリストの聖地」。コロナ以前は年間30万超のサイクリストが訪れていましたが、来訪者の一部にはマナーやモラルに欠ける行為もあり、地元住民を悩ませていました。尾道サイクリング協会は、2017年10月、事故防止とマナー啓発に役立てて欲しいとの願いを込めて、尾道署へポリス特別仕様の自転車5台を寄贈。フラットバーを採用したハンドルや、誘導灯、サイドミラーを装備するなど警察官が使いやすいデザインとなっていて、坂道の多い尾道でも乗りやすいよう設計されています。高い機能性を備えた自転車でパトロールする「サイクルポリス隊」は、尾道のまちづくりを支えるシンボル的存在です。 海外のソーシャルデザイン事例3選 使われなくなった街の電話ボックスを現代風にアップグレード(中国・上海) スマートフォンの普及により現代人には馴染みの薄い存在になりつつある公衆電話。上海では、使われずに街の中でスペースを取っていた公衆電話ボックスを、誰もが使えるスペースに改修する取り組みが行われています。目に飛び込んでくるのはビビッドなオレンジに塗りつくされた内装。かつての電話ボックスは個室タイプですが、再生後は歩道側の壁をなくし、誰でも座れるパブリックスペースに生まれ変わりました。イス、テーブルにフリーWi-Fiと充実の設備で、カフェさながらのつくりに。公衆電話の機能を残しながらも、現代にマッチしたスペースは街の人たちに有効利用されています。 公式サイト https://100architects.com/project/orange-phonebooths/ 人々が気軽に集まれる都市型デザインの移動式空間(チェコ) この投稿をInstagramで見る KOGAA(@kogaa_studio)がシェアした投稿 都市は華やかで活気がある一方、人々の孤立も生む一面も合わせ持っています。チェコのデザイン事務所が提案するのは、都市空間の活用されていないスペースに「移動式」のパブリックスペースを作り、街を活気づけるアイデアです。屋根のない円形型の移動式建築「AIR SQUARE」にはベンチが備え付けてあり、人々の憩いの場として活用され、イベントやファーマーズマーケットとしても使用可能。上部リングにはヒートアイランド対策として熱を和らげる効果がある他、夜間には照明の役割を担い、街の安全性に貢献します。どんな人も気兼ねなく使えるようにバリアフリーに設計されています。 公式サイト https://www.kogaa.eu/projects/air-square 野鳥とサステナブルを体験する宿泊施設(スウェーデン・ハラッズ) この投稿をInstagramで見る Treehotel(@treehotel)がシェアした投稿 Biosphereは野鳥保護を目的としてスウェーデンの宿泊施設「Treehotel」内に作られた客室です。ホテルのコンセプトはサステナビリティと自然環境を楽しむこと。総数340個の鳥の巣箱が、木の上に建てられた客室を360度ぐるっと囲むように設置され、客が鳥たちの住まいにお邪魔させてもらっているかのようなユニークなデザインに。鳥たちの生息地で暮らす体験を通して、サステナビリティへの新たな知見を得ることができ、人々の癒しにも繋がります。 公式サイト https://treehotel.se/en/rooms/the-biosphere 世界的に広がりをみせるソーシャルデザイン 国内外のソーシャルデザイン事例を紹介しました。世界的にも人が暮らしやすい街づくりは注目されており、さらには自然保護も掛け合わせて、新たなアイデアが次々と誕生しています。より良い社会を作るのに欠かせないソーシャルデザイン。みなさんもぜひ身の回りのソーシャルデザインを探してみませんか。
皆さんは食材を買う際にどのような点チェックしますか。持続可能な食の未来を考えるとき、まず確認しておきたいのが、食材の原産地です。本記事では、買い物をするときに取り入れたいアイデア、「フードマイレージ」について解説します。 フードマイレージとは 出典:unsplash.com フードマイレージとは、食料の輸送量に輸送距離を掛け合わせた指標のことです。地産地消を進めて環境負荷を減らそうとイギリスで広がった「フードマイルズ運動」を参考に、20年前に日本の農林水産省農林水産政策研究所が提唱しました。 フードマイレージの計算方法 出典:pexels.com フードマイレージの計算式は簡単で、以下の方法で算出できます。 フードマイレージ=「食料の輸送量(t)」×「輸送距離(km)」 ※単位はt・km(トン・キロメートル) フードマイレージは、数値が大きければ大きいほど、購入者と生産地が離れていることを表します。食品が私たちの食卓に並ぶまでには、輸送のプロセスを経ていて、移動や品質保持のため、石油などのエネルギーが使われ、CO2が排出されているのです。つまり生産地と食卓の距離が長ければ長いほど、環境に負荷をかけているということになります。 フードマイレージが小さい食材のメリット フードマイレージが小さい食材のメリットは、運送コストがほとんどかからず、地球環境に与える負荷が少ない点です。生産地から食卓までの輸送距離が短いと、CO2の排出を最小限に抑えることができます。同じ食材を選ぶのであれば、地元や近くの生産地で収穫された食材の方が、環境に優しいのです。また、国内で生産されたものを選ぶことは食料自給率の向上にも繋がり、これは持続可能な食の在り方に欠かせません。 日本のフードマイレージ 農林水産省が公開した「令和3年度食料需給表」の資料によると、近年の日本の食料自給率は4割に満たない数値が続いており、欧米と比べても明らかに低いということがわかります。 出典:農林水産省大臣官房政策課 食料安全保障室 令和3年度食料需給表(pdf) また、農林水産省では、主要国のフードマイレージに関するデータも公開しています。 グラフを見てもわかるとおり、食料自給率が低い日本は食料を海外に依存しているということもあり、フードマイレージの数値が極めて高いという結果となっています。 出典:「フード・マイレージ」について - 農林水産省(pdf) この2つのデータやグラフから見てもわかるとおり、私たちが普段食べている食材の多くは輸入に頼っており、食卓に並ぶまでには大きな環境負荷がかかっていることが見て取れるでしょう。 フードマイレージのデメリット 出典:pexels.com 食材が生産地から食卓に並ぶまでの環境負荷などがわかるフードマイレージですが、留意しなければならない点もあります。まず、フードマイレージの指標は、食品の輸送に限定されているという点です。例えば生産段階でどのくらいCO2が排出されているかなどは考慮されていません。そのため、単純に海外で作られたものの方が国産に比べて環境負荷が高いとは言い切れないのです。どのくらい環境に負荷がかかっているのかは、生産から総合的に見なければなりません。また、輸送手段によってCO2の排出量は異なるという点も留意したいところです。トラックよりも船の方がCO2排出量は格段に少ないですが、これはフードマイレージには反映されていません。 以上のように、簡単に算出できるフードマイレージだけでは総合的な環境負荷は判断しきれません。しかし簡単だからこそイメージがしやすく、私たち消費者が買い物をする上でアクションに結び付けやすいのではないでしょうか。フードマイレージも含め、食材がどのように作られて、どのように私たちの元にやってきたのか、生産や輸送の背景を知ることが大切なのです。 フードマイレージの小さいものを選ぶには 出典:unsplash.com フードマイレージが小さいものを選ぶポイントは以下のとおりです。 ・生産地をチェックする ・住んでいる地域の特産品をリサーチする ・食材を選ぶときは外国産ではなく、なるべく国産を選ぶ 他にも近くで開催されているファーマーズマーケットなどに足を運んでみるのもおすすめです。直接生産者から地元野菜を購入できるメリットがあり、生産の背景を知ることができます。 関連記事:【都内近郊18選】生産者に会えるファーマーズマーケットに行こう 私たちが普段触れている食料になかには、コーヒーやアボカドなど国内で生産していない食料があり、すべての食料を環境負荷の少ないものに切り替えることは難しいのが現状です。 しかし、一人ひとりが地元や国内で手に入る食料を知り、フードマイレージを小さくしようとする意識の積み重ねで、環境への影響が変わってきます。食料の選び方のひとつにフードマイレージを取り入れてみてはいかがでしょうか。
各国が抱える経済格差や貧困、環境汚染などの解決すべき課題。世界にはそんな時代に一石を投じるチェンジメーカーがいます。今回は私たちの社会にインパクトを与え、新たな波を起こしたチェンジメーカーをご紹介します。 チェンジメーカーとは 出典:unsplash.com チェンジメーカーとは、ビジネスや活動を通して社会の課題解決にチャレンジし、新しい風を吹き込むような人を指します。時代によって社会の課題は異なるので、チェンジメーカーと呼ばれる人の定義も社会の状況によって変化するものですが、今日の社会では、チェンジメーカー=社会起業家のようなイメージもあり、物質的な豊かさではなく精神的な豊かさを求め、貧困や環境問題などに取り組む人が支持を得ています。 世界のチェンジメーカー7人 社会にソーシャルグッドなインパクトを与えるだけでなく、私たち個人にも新しい発想をもたらしてくれるチェンジメーカー。 今回は、世界的に大きな影響を与える現代のチェンジメーカー7人をピックアップしました。 ホセ・ムヒカ氏 ホセ・ムヒカ氏は、ウルグアイの元大統領です。2012年にブラジル・リオデジャネイロでの国連会議で大量消費社会を痛烈に批判し、人類にとって本当の「幸せ」とは何かを訴えたスピーチで一躍有名になりました。貧困をなくす政策を推し進めた大統領時代には、自身の給料の9割を寄付。大統領公邸には住まず、郊外の質素な家で妻と生活していたことから、敬愛の念を込めて「世界でいちばん貧しい大統領」とも呼ばれ、過去には日本でもドキュメンタリー映画が上映されました。ウルグアイだけでなく世界中にファンの多い元大統領です。 ムハマド・ユヌス氏 ムハマド・ユヌス氏は、バングラデシュ出身の経済学者であり、実業家です。貧困の根絶を目指し、1983年に無担保小口貸付を行うグラミン銀行を創設。生活に困難な人たちの自立支援に尽力しました。2006年にはグラミン銀行とともに、ノーベル平和賞を受賞。無担保小口貸付の仕組みはマイクロ・クレジットと呼ばれ、それを取り入れたマイクロ・クレジット・バンクが、60カ国以上の国で設立されています。日本でも、ユヌス氏のビジネスモデルをベースに「一般社団法人グラミン日本」が、シングルマザーを中心とした支援を行っています。ユヌス氏はそれまで難しいとされてきた貧困の根本的解決に挑み、その仕組みが世界に大きな影響を与えているのです。 ケイト・ラワース氏 ケイト・ラワース氏は、イギリス出身の経済学者です。自身の著書『ドーナツ経済学が地球を救う』では、地球を気候変動から守りつつ、貧困や格差を解消していく経済活動のモデルを「ドーナツ」型の図にしたことで多くの人たちから注目を集めました。これまで社会が当たり前に追い求めてきた成長ではなく、持続可能な繁栄の社会を作ることを提案しています。その持続可能なモデルは、各国の自治体からも支持を受け、オランダのアムステルダムでは市をあげてドーナツ型の経済のかたちを目指しています。 セリーナ・ユール氏 セリーナ・ユール氏は、ロシア出身で現在はデンマークで活動する食品ロス問題の専門家であり、NGO団体「Stop Wasting Food movement Denmark」の設立者です。デンマークで目の当たりにした大量の食品廃棄に疑問を持ち、2008年にフェイスブックページでグループを作ってロスをなくす運動を開始。スーパーなどに声をかけ、無駄が出やすい食品のまとめ売りをなくすところから始めました。政府も彼女の活動に賛同し、メディアが取り上げ始め、協力者はまたたくまに増加。2013年までの5年間でデンマーク国内の食品廃棄量を25%削減するのに大きく貢献しました。 マララ・ユスフザイ氏 マララ・ユスフザイ氏は、史上最年少でノーベル平和賞を受賞したパキスタン出身の人道活動家です。女性教育弾圧に反対活動をしたことでタリバンから銃撃を受けながらも、女性が教育を受ける権利を全世界に訴え続けました。その努力が認められ、パキスタンでは初めて無償で義務教育を受けられる権利を盛り込んだ法案を可決。また、「マララ基金」を設立し、すべての女子が平等に教育を受けられるよう活動をしています。著書には『武器より一冊の本をください:少女マララ・ユスフザイの祈り』があり、彼女の半生を綴ったドキュメンタリー映画も制作されています。 斎藤幸平氏 斎藤幸平氏は、日本の哲学者であり、経済思想家(マルクス主義者)です。歴代最年少でマルクス研究者の最高権威『ドイッチャー記念賞』を受賞した自身の著書『大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝』では、温暖化、異常気象などの問題を抱える資本主義の構造を批判し、私たちはどうあるべきかを説いています。新書大賞を獲得した2021年の著書『人新世の「資本論」』も、今地球上で起きている問題を自分事としてとらえながら読み進めることができる、おすすめの一冊です。NHKの番組などメディアでも活躍する斎藤氏。持続可能な未来に向けて真剣に取り組む姿勢と、わかりやすい説明にファンが増え続けています。 小林りん氏 小林りん氏は、学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン(以下、UWC ISAK Japan)の代表理事であり、2013年に日経ビジネスが選ぶ「チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した方です。留学中に経験したメキシコでの貧困問題や、国際児童基金(ユニセフ)でフィリピンのストリートチルドレンの教育支援に携わったことから、この社会の仕組みを変えていくリーダーシップ教育の必要性を実感。2014年に軽井沢に全寮制インターナショナルスクールUWC ISAK Japanを開校しました。国籍も育ってきた環境も異なる生徒は、チェンジメーカーを育てるための実践的な授業を受けるだけでなく、ダイバーシティの中で生きるということを、身を持って経験しています。 チェンジメーカーからインスピレーションを 出典:unsplash.com 世界や社会を大きく動かしているチェンジメーカー。たとえ自分が直接その影響を受けることがなくても、彼らの思想を学ぶだけで大きな刺激になります。今私たちが直面するたくさんの課題。チェンジメーカーを手本に、一人ひとりが真剣に地球の未来について考えなくてはいけないフェーズにきているのかも知れません。今回ご紹介した7人については、書籍や映画もあり、インターネットなどでも情報を集められるので、ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。