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  • 未来に残したい世界の絶景「ペリト・モレノ氷河/南米パタゴニア地方」

    この連載では、世界各国を回る旅人やツアーコンダクターが旅先で出会った景色をお届けします。世界から届く絶景写真から、人と自然が共存する豊かな社会の在り方を考えてみませんか? 第三回目となる今回は、アルゼンチンとチリにまたがるパタゴニア地方のペリト・モレノ氷河です。南アメリカ大陸の最南端、パタゴニア地方にあるロス・グラシアレス国立公園は、南極大陸、グリーンランドに続く世界で3番目に大きい氷河地帯です。その中で最も有名な氷河が、ペリト・モレノ氷河。展望台から見える氷の壁は、どこまでも果てしなく続き、圧巻のひと言! 総面積は250km2に及ぶというから驚きです。 氷河は、展望台だけでなく船で湖上から見ることができ、高い頻度で崩落の瞬間に立ち会うことができます。崩落が始まると、そこにいる誰もが、儚くも迫力ある一瞬に釘付けに。毎日2mも前進し続けているペリト・モレノ氷河は、壮大な代謝を繰り返し、まさに呼吸をしているかのような氷河なのです。地球温暖化の影響から氷河が溶けているというニュースは耳にしますが、ペリト・モレノ氷河は、成長を続けています。その理由は解明されていないものの、世界中の氷河が縮小していく中で貴重な氷河といえるのかもしれません。 力強い地球の生命力を間近で感じられるこの氷河もまた、未来に繋いでいきたい景色の一つです。 photos by rootus編集部

  • イタリア、トスカーナで体験。暮らすように滞在するアグリツーリズム【現地レポート】

    農家に宿泊する休暇の過ごし方が、都市部に住むヨーロッパに人から人気を集めています。動物に触れあいながら自然を身近に感じることは、子どもにとっても大人にとってもかけがえのない体験に。今回は、アグリツーリズムが盛んなイタリアから、トスカーナ地方で体験したファームステイをレポートします。 アグリツーリズムとは? アグリツーリズムとは、「アグリカルチャー(農業)」+「ツーリズム(観光)」を組み合わせた造語で、20世紀後半のヨーロッパで生まれました。ファームステイ、農家民宿、と言うとよりイメージしやすいと思います。それ以前から夏休みなどを田舎で過ごし、自然に触れ、現地の人と交流する習慣があったので、ヨーロッパの人々にとっては真新しい概念ではありませんが、近年は、より体系化。選択肢も増え、アグリツーリズムの滞在先が選べるサイトが充実し、情報も得られやすくなってきています。 イタリア・トスカーナ地方で盛んなアグリツーリズム イタリア全国で盛んなアグリツーリズム(イタリア語では「アグリツーリズモ」)ですが、イタリア中部のトスカーナ地方は、質、量、人気ともに群を抜いています。フィレンツェから少し足を伸ばすと、ワイナリーや丘の上の中世の街が宝石のように点在するトスカーナ。お城を改装したラグジュアリーなホテルなども多い中、ファミリーに最適なのがアグリツーリズモ滞在です。ハイシーズンは6月頃から。ヨーロッパ各地だけでなく、北米などから家族連れが次々に訪れ、自然や農家と触れ合いながら都会では体験できないスローライフを満喫します。一度滞在して気に入ると翌年もリピートするゲストが多く、アグリツーリズモのオーナー一家とは友人や家族のような関係になることも。基本的には、どの滞在も朝食付きで、夕食をとることもでき、子どもをプールで遊ばせている間などに、他のファミリーとも自然に交流が生まれるのもこの滞在の醍醐味です。 ワイン畑を見晴らす「アルパカの丘」でアグリツーリズム体験 トスカーナに住む義叔母が友人から、アルパカと触れ合えるアグリツーリズモがある、と聞いて今回訪れたのが、こちらの「LA VALLE DEGLI ALPACA(ラ・ヴァッレ・ディ・アルパカ)」。アルパカの谷、という意味ですが、実際はワインの産地、キャンティの丘の上にあるアグリツーリズムです。 オーナーが手作りした大きな家は、元々は宿泊客を迎えるために建てられたのですが、年々孫が増え、今はオーナー一家が3世帯で賑やかに暮らしています。4月から9月の半年間、日帰りのゲストを迎えるスタイルをとっています。屋外プールや、広い芝生を貸し切ることも可能。最大の魅力は、何と言ってもアルパカをはじめとした動物たちとの触れ合いです。 私たちが訪れた夕刻は、動物たちが庭から小屋に戻り始めていました。 アルパカは典型的な草食動物で、性格はとても穏やか。後ろの方から私たちをじっと見つめているアルパカもいれば好奇心旺盛で近づいてくるアルパカもいて、色々な反応を観察できます。4年前、夜中にオオカミの群れに襲われて12頭のアルパカが亡くなるという、嘘のような痛ましい出来事もあったそう。 生後2週間の赤ちゃんの可愛さと柔らかさは格別でした。 アルパカに続き、羊と馬も小屋に。これから動物たちは各部屋で食事を済ませ、19時頃寝るそう。放牧されていたアヒルや七面鳥たちも、鳥小屋へと戻ってきます。 ゲストの子どもたちはオーナー一家の子どもや犬とも自然に仲良くなり、暗くなるまで丘を駆け回って遊びます。子どもたちにとって、都会の日常では体験できない自然や動物との触れ合いは、何事にも変えがたい貴重な経験です。 オーガニックのローカルフードもファームステイの楽しみのひとつ 一方大人は、18時ごろから手作りのチーズや生ハム、ブルスケッタ、ワインでアペリティーボタイムがスタート。オーガニックのローカルフードはどれも新鮮で、絶品。 広い空が薄暮に染まるのを、ゆったりと眺めながらいただくワインも格別です。丘の向こうから吹くひんやりとした風に吹かれて、一日が終わります。 心豊かになれる旅の選択肢、アグリツーリズム ミラノやローマなど都会で働く人も、週末やバカンスは仕事モードをオフにして、家族や友人と、自然に囲まれてのんびりと過ごします。イタリアでは引きこもりという話を聞いたことがありません。長い夏休みや冬休みは反強制的に山や海に連れ出されるので、引きこもる暇がないのかもしれません。観光地をめぐる旅行とは一味違ったアグリツーリズム。動物や人々との交流を通して思い出に残る体験をしたい人におすすめしたい旅のスタイルです。 LA VALLE DEGLI ALPACAhttp://www.lavalledeglialpaca.com

  • 未来に残したい世界の絶景「オーロラ/イエローナイフ」

    今回が二回目の連載となる「未来に残したい世界の絶景写真」。 この連載では世界各国を回る旅人やツアーコンダクターが旅先で出会った景色をお届けします。世界から届く絶景写真から、人と自然が共存する豊かな社会の在り方を考えてみませんか。今回は、カナダのイエローナイフに出現するオーロラです。イエローナイフは、カナダ北西部ノースウェスト準州の州都。オーロラベルト上にあり、晴天率が高いことから、オーロラを鑑賞できる確率が高いことで有名です。“オーロラのメッカ”との呼び声も高く、その神秘的な光景を求めて、世界中から観光客が集まります。 オーロラ鑑賞に適している冬はマイナス30度まで下がる極寒の世界で、気が付けばまつ毛が凍っていることもしばしば。しかし、ひとたび空いっぱいに光のカーテンが出現すると、その美しさから、寒さを忘れるほどの感動が押し寄せます。秋には湖に写る逆さオーロラを望めるチャンスもあります。太陽と地球が見せてくれる光の天体ショー。私たちは奇跡的な条件の上に生かされているということを感じずにはいられません。未来に向けて守っていきたい地球の絶景の一つです。 photos by @tsugraphy_319

  • 古いものを、カッコよく。ミラノのエコ蚤の市「EAST MARKET」に潜入!【現地レポート】

    行政や企業、市民が主体となり、世界の中でも持続可能な社会づくりが進むヨーロッパ。近年は特に環境問題への関心が高く、環境に負荷をかけない選択肢が増えてきています。rootusでは、現地に長年住むレポーターが、住んでいるからこそ見えてくるリアルな情報を発信。サステナブルな社会はどのように実現可能なのか、最前線から学べることを考えます。 フリーマーケットがエコに進化中 昔からヨーロッパ各地で開催されているフリーマーケットや青空市場。ヨーロッパにはもともと古いものを大切に使い続ける文化があり、最近はそこにアップサイクルアイテムなどのエコな要素も入ってきています。今回は、そんなヨーロッパ市民の生活になくてはならないマーケットに潜入。実際にどのようなものが売られているのか、どこまでエコ意識は浸透しているのか、見てきました。 訪れたのは、イタリアの首都ミラノで有名な蚤の市「EAST MARKET」。近年オシャレに敏感なミラネーゼたちの間で話題のフリーマーケットです。単なるヴィンテージの売買が目的ではなく、リユース、リサイクル、アップサイクルをもっと根付かせよう、という目的のもとに2014年にスタートしました。 イベントは不定期に開催され、SNSやホームページで開催日が告知されます。 ミラノのEAST MARKETは、19世紀から続くロンドンのリベラルな蚤の市「EAST STREET MARKET」の影響を受けており、21世紀仕様にアップデートされています。会場は広大な飛行機工場の跡地です。 出展者同士の物々交換もOK 約300店が出店する屋内スペースでは、「EVERYTHING OLD IS NEW AGAIN(=すべての古いものに価値を)」をコンセプトに、ヴィンテージ、リサイクル、アップサイクル、アート作品などが展示されています。 得意分野を活かしたアマチュアやプロが、来場客との売り買いを行っているだけでなく、出展者同士の物々交換が自由に繰り広げられています。 センスあふれるヴィンテージ雑貨がずらり 出店していたお店の一部を覗いてみましょう。 リキュールの空き瓶をアップサイクルしたソープボトル。空き缶を容器として再利用したキャンドルもありました。確かに捨てるのにはもったいないデザインの瓶や缶。一工夫でおしゃれなインテリアに変身です。 ヴィンテージのカラフルなスウォッチ。今はもう販売されていないレトロなデザインは、眺めているだけで楽しい! こちらは、ハイブランドのヴィンテージボタンをペンダントや指輪にアップサイクルしています。 他にも、古いおもちゃやポスターにライトニングを施して新たなアート作品を生み出したり、古着に新たなデザインやロゴを加えたり、様々なアイデアとクリエティビティを駆使したショップが軒を連ねます。もちろんどれもハイセンス。さすがイタリアです。 プラスチックフリーを徹底したフードコート 屋外のフードコートでは、多種多様なファストフードを楽しめます。 気心の知れた友達やカップルで来ていて、みんなアルコールを片手にお喋りしたり音楽に身を任せたり。思い思いに週末の夕べを過ごしています。ケバブやブリトー、フリットなど、お酒に合うインターナショナルなジャンクフードのお店が多いですが、プラスチックフリーというルールは徹底されていて、紙や植物性の透明容器を使っています。 スタートから9年目を迎えた現在の賑わいを見ると、EAST MARKETがエコロジカルなライフスタイルを若者に浸透させることに成功したことがわかります。ピースフルでクリエイティブな空間に、また足を運びたくなる、そんな素敵な場所でした。 EAST MARKETVia Mecenate, 88/A, Milan, Italyhttps://www.eastmarketmilano.com

  • 未来に残したい世界の絶景「バオバブの木/マダガスカル」

    今回が1回目の連載「未来に残したい世界の絶景」。 この連載では世界各国を回る旅人やツアーコンダクターが旅先で出会った景色をお届け。この先ずっと守っていきたい豊かな自然や文化から、持続可能な社会の大切さを感じてみませんか。 第一回目は、マダガスカルのモロンダバ郊外にあるバオバブの並木道。 マダガスカルは、アフリカの南東に浮かぶ島国です。バオバブは、アフリカ原産の木で、巨大な幹が特徴。古いものだと樹齢2000年を超えるものもあると言われています。 マダガスカルでは古くから市民の間で親しまれ、その大きさと個性的なフォルムは世界中の旅行者を魅了し続けています。 バオバブの木を目にして驚くのがその圧倒的な存在感。バオバブが立ち並ぶこの場所は、昼間の姿と夕景の姿の違いがまた美しく、時間の経過を忘れて見入ってしまうほど、印象的な場所です。 何千年も生きると言われるバオバブですが、実は近年枯れるペースが速くなっていることが発見されました。原因の特定には至っていませんが、気候変動が原因になっているとする研究者もいます。 私たちが生まれるずっと前からそこに生きるバオバブの木。未来に向けて守っていきたい地球の絶景の一つです。 photos by @tsugraphy_319

  • ミラノのハーブ店が地域を巻き込み完全プラフリーにするまで【現地取材】

    私たちの生活に溢れている、プラスチック製品。機能的で安価な一方で、回収・処理が最も難しい素材の一つだ。自然に分解されないプラスチックゴミ約800万トンが毎年海へと溜まり、2050年には世界の魚の容量を超えると言われている。 知ってはいても、私たちの日常生活やビジネスで、完全プラスチックフリーを実現するのは簡単ではない、このプラスチック問題。しかし、不可能ではないことを実証したショップがミラノにある。どのようなきっかけで完全プラスチックフリーを目指し、それを成し遂げたのか、オーナーにその想いを聞いた。 地元の人と一緒に実現するプラスチックフリー生活 ヨーロッパの伝統的なハーブ療法、フィトセラピーは、古くからヨーロッパ人の生活に根付いている自然療法だ。イタリアにも「エルボリステリア」と呼ばれるハーブ薬局が数多くある。 ハーバリストのオルネッラさんが経営する「QUINTESSENZA(クインテッセンツァ)」は、他のエルボリステリアと同じように、ハーブ、そして自然原料やオーガニックの製品を取り扱ってきた。3年前、マイクロプラスチックの海洋汚染が喫緊の課題だと知り、一人一人の意識から変えていくことが大切であることを認識。それ以来、店内から全てのプラスチック製品を排除した。 地域密着型のこのお店がプラスチックフリーにすることで、地元の人々と一緒に少しでもプラスチックを出さない生活を実現しようとしたのだ。 品質が良いものも、売れ筋の商品も、一部でもプラスチックを使っていれば入荷を中止。店頭や倉庫にあったプラスチック製品は、全て半額にして売り出した。オルネッラさんは娘のキアラさんと二人三脚で、日々プラスチックゴミを出すことへの罪悪感と疲労感を、プラスチックフリー実現へのエネルギーに変えたのだ。まわりの反応はというと、若い客層からはすぐに受け入れられたが、 高齢の常連客からは、最初は否定的な意見もあったという。しかし人々の中で環境問題への関心が高まっていることもあり、今では多くの人の賛同を得ている。 高品質なプラスチックフリー製品との出会い 店内の在庫を処分するのと同時に始めたのは、ヨーロッパ各国で作られているプラスチックフリー製品のリサーチだ。環境に負担の少ないものを探し出し、取り扱いを始めた。 当初は難航することを覚悟していた買い付け。しかし探してみると、イタリアやヨーロッパの小さな村でプラスチックを使わず丁寧に作られている高品質なコスメや日用品、アイテムが次々と見つかった。プラスチックフィルムの代替品や、紙ゴミさえ出さずに土に帰すことのできる素材があるなど、技術も進んでいることもわかった。 二人が想像していた以上にマーケットは厚かったのだ。そして、それらの製品をショップで扱うことが、小さな製造元を応援することにつながるという好循環が生まれた。プラスチックフリーのお店を作ると決めた二人を待っていたのは、プラスチックフリー製品を作るということに本気で取り組み、情熱を注ぐ人々との素晴らしい出会いだった。 プラスチックフリー生活のヒントになる情報も発信 QUINTESSENZA(クインテッセンツァ)のブログでは、エコロジカルな生活を送るためのアドバイスも発信している。 オルネッラさんオススメの、誰でも取り入れやすく効果的なプラスチックフリーアイテムは、スチール製ウォーターボトル。今やマイボトルを持つことは当たり前、モードとさえ見なされる風潮もあり、様々なデザインやサイズから選べるようになった。ペットボトルゴミが毎分33,000本以上地中海に流れている現状を食い止める、効果的なダイレクトアクションだ。 2つ目は、固形シャンプー。 こちらも様々なタイプが揃い、髪や頭皮への効果を選ぶことができる。シリコンなどの非分解成分を含まず、パッケージは詰め替えでゼロウェイストを実現しやすい。軽量でコンパクトなのに従来のシャンプーの2倍長持ちするなど、メリットが目白押しだ。 家庭でも不可能ではないプラスチックフリー生活 この3年間で世の中の風向きも追い風となり、転換期の経営的な負担を乗り越え、現在は安定したショップの運営ができているという。 最後に、店舗よりも難しいと思われる家庭でのプラスチック削減への取り組みを聞いた。 「日用品は容器をお店に持ち込んでリフィル。プラスチックを使用したスーパーの商品は買わず野菜やフルーツは農家から直接買っています。たとえばプラスチックの容器があっても、それを捨てずに使い続けるのも大切です。ショッピングバッグ以外にどうしても袋が必要になるときは紙袋を利用しています。」とのこと。「生活を大きく変えなくても意識を変えるだけで実際に環境負荷の少ない生活が送れていますよ。」と頼もしい答えが返ってきた。 【ショップ情報】QUINTESSENZAVia Tolstoi 40  Milano Italyhttps://www.quint-essenza.it

  • ファッションに改革を。SETCHUが実現するサステナブルな未来【現地取材】

    今世界が注目するミラノ発のファッションブランド、SETCHU。最近日本での販売も開始され、その勢いは加速する一方です。生地やデザインへのこだわりだけでなく、ファッションが環境に与える多大な負荷を解決するため、サステナビリティを実現するSETCHUの魅力をイタリアからレポートします。 日本人デザイナーが手掛ける和洋折衷ブランド 東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ミラノ。桑田悟史さんは、世界各地のモード発信地で経験を積んだファッションデザイナーだ。ロンドンの歴史ある高級テーラー街サヴィル・ロウで働き、ジバンシィのシニアデザイナーとしてオートクチュールを手がけるなど、ファッションの真髄に携わってきた。 上質と洗練、ファッションを知り尽くした桑田さんが、ミラノで自らのブランド「SETCHU」を立ち上げた。日本文化の面白さを世界に発信したいという思いから、ブランド名は「和洋折衷」に由来する。 ブランドのテーマは「アーティザン(クラフトマンシップ)」「タイムレス」そして「旅行」。洋と和、性別、時代、伝統と斬新など、全てのボーダーを取り払ったデザインは、服だけでなく靴、鞄、傘、器などライフスタイル全般に及ぶ。 近年、ファッション業界が環境に与える負荷の大きさが取り沙汰されている。中でも服や生地の廃棄量は凄まじく、増加の一途を辿る。その現実を目の当たりにしてきた桑田さんが、SETCHUで実現しているサステナビリティとは。 ①ブランドから出る上質な余剰在庫生地の利用 まず桑田さんが着目したのは、余剰在庫生地。ブランドに購入されなかった、または返品された大量の生地が、生地工場の倉庫に廃棄待ち状態で眠っている。 一流ブランドの生地を手がける、北イタリアにあるコモのシルク工場。そこで廃棄の運命にあった、希少で美しい織りの生地を見つけた。それに最終加工を施し、ハンカチーフとクッションを作って製品にした。 最終加工前の生地を見定めて、工場と密にやりとりしながら理想の生地に仕上げて、製品にしていく。大手メゾンに比べ格段に小規模なオーダーを依頼しても、相手にされないことが多い世界。しかし、多くの一流の工場や職人がSETCHU のブランドコンセプトに共感し、桑田さんの熱意に応える形で協力してくれる結果となった。 ②長く着られるディテールとデザイン 年齢と時代を問わずずっと着られる、上質な服。英国王室ご用達でもあるサヴィル・ロウで、100年以上前のスーツのお直しなどにも携わりながら、桑田さんが行き着いたコンセプトだ。 シーズン毎に発表するコレクションは、流行によって「流す」のではなく「重ねて」いくことで、ブランドという木を育てていくビジョンを持つ。エルメスやクリスチャン・ディオールなど、一握りの高級ブランドに見られる価値観だ。 例えば、ファッション関係者たちが一目惚れし、自身用に購入する人が続出したジャケット「ENRICO」。旅と釣りを愛する桑田さんにとって、折り紙のようにスーツケースに折り畳める軽量のジャケット作りは必然だった。 服は縫い目が少ないほど長持ちするため、ノーダーツなどの工夫を細部にこらしながら、縫い目を最小限に抑えている。ウールヴィスコースの生地に刻まれた、ユニークな折り目とゆったりしたダブルボタンの美しいデザインは、私たち日本人には羽織を連想させる。帯のようなベルトを縛ると、女性らしいシルエットが生まれるなど、様々な表情が楽しめる。性別や年齢を選ばないENRICOジャケットは、シーズンごとに異なる生地で展開されていく。 ③環境への負荷を抑えた配送方法 SETCHUの配送におけるサステナビリティのポイントは、2点ある。 一つ目は、コンパクトなパッキング。薄く軽量な生地で作られ、折りたためるデザインの服が多いため、一箱に何着も入れて輸送できる。 もう一つは、商品の梱包袋が「リサイクル素材を使ったリサイクル可能なもの」であること。「RECYCLED & RECYCABLE」であることが、サステナビリティのあるべき姿の一つだと桑田さんは考える。 その他、100%リサイクルペットボトル製の生地を採用したり、長持ちしにくいニット素材には強度の高いウールを混ぜるなど、一つ一つの素材にこだわり抜く。 持続可能なファッションを、実現可能へ 将来は、SETCHUの自社牧場を持ち、コットンから栽培したいと語る。目から鱗の発想だが、気がつけばウール用の羊に囲まれた桑田さんの姿まで想像できてしまうほど、有言実行の人だ。その世界では、更なるサステナビリティが実現しているに違いない。 SETCHUhttps://www.laesetchu.com

  • 自転車が主役。世界が注目するミラノの都市デザイン【現地レポート】

    今世界で、自転車人口が増えているのをご存知でしょうか。移動手段を語る際、長らく副次的にポジション甘んじてきた自転車。それがパンデミック以降、 熱い視線を注がれ、国や市町村単位で取り入れる動きが活発化しています。今回はミラノから、最新の自転車事情をレポート。大気汚染という大きな問題を抱えた工業都市が今どのように生まれ変わろうとしているのでしょうか。世界の都市、そして私たちがミラノから学べることとは。 大気汚染の問題に乗り出したミラノ市 60年代、ニューヨークを破壊的な都市計画から救った都市思想家ジェイン・ジェイコブズが唱えた「日常生活の主な目的地は徒歩圏内にあるべき」という都市デザイン。その考え方が近年再評価される中、徒歩や自転車での移動を要とする都市計画が、世界各地で取り入れられています。 イタリアの経済・ファッションの中心地ミラノもその例のひとつ。ミラノは、自動車産業などで発展した工業都市でもあり、車通勤が一般的だった上に盆地でスモッグが溜まりやすく、深刻な大気汚染という問題を長年抱えてきました。 ミラノが動き出したのは2015年の万博、そして2016年のCO2削減目標を宣言したパリ協定。長年環境と健康に大きなダメージを与えてきた大気汚染の問題に、市をあげての本格的な取り組みが始まりました。 市民の生活が少しずつ変わり、街には自然も ミラノ市営のバイクシェア「bikeMi」 2020年からスタートした「STRADE APERTE(=オープンロード)計画」は、車通勤から自転車通勤へのシフトを目的に、自転車に関するあらゆる法令を整備しました。同年5月には、ロックダウン解除のタイミングで自転車補助金制度をスタート。自転車を購入すると、市から費用の60%、最大500ユーロ(約65,000円)の補助がキャッシュバックされるという制度に、多くの市民が自転車を購入同時に道路には自転車道が急ピッチで増設されました。ミラノ市営のレンタル自転車は最初の30分を無料、その後も30分50セントで格安で利用ができます。また、民間の企業がレンタルを始めた自転車、キックボードバイクなども街なかでよく見かけるようになりました。 結果、1990年代には89台だった人口100人当たりの自家用車の数を、2021年には49台にまで減らことに成功。交通渋滞が緩和され、車から発生する汚染物質ベンゼンと窒素酸化物は3分の2に減少したのです公園には虫や鳥が戻ってきたと指摘する専門家もいます。 グレタ・トゥーンベリも称賛。世界の都市に広まる動き この「STRADE APERTE」計画は、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリが称賛し、同じく自転車通勤を推進するニューヨーク市が、モデル事例と携えるなど、世界各地の都市計画を牽引し始めています。 パリ、ロンドン、上海なども同様に、互いに競い合うのではなく情報をシェアし学び合う姿勢が見えてきたのもパンデミック後の大きな変化です。 フィンランドも注目する自転車社会の副産物 自転車保有率世界一のオランダ 交通手段としての自転車の利点は、健康上のメリットも。自転車は、ダイエットにも効果的で続けやすい有酸素運動。ペダルを漕ぐことで腸の動きも良くなり、睡眠の質が向上するのに加え、幸福感をもたらすドーパミンや、精神を安定させるセロトニンが分泌され、メンタルにもいいことがわかっています。2030年までに徒歩と自転車の利用を増やす計画を打ち出しているフィンランドでは、2019年比で自転車利用者が20%増えると、40億ユーロの医療費を削減できると試算しているほど、健康上の大きな効果も見込んでいます。 一方課題としては、安全の確保、インフラの整備、市民の意識改革などが挙げられます。それらの課題を解決して、自転車をブームで終わらせない。それが今後、世界規模での大きな目標となっていくでしょう。

  • 絶景に溶け込む体験。イタリアで人気のエコホテルが提案する新しい旅【現地レポート】

    中部イタリア、アドリア海に面するマルケ州。ここにEUのナチュラリストの間でも話題の、エコを極めた宿がある。自然の恵みを最大限に生かし、環境への負荷を徹底的に抑えることに成功したB&B「LA FORESTALE(ラ・フォレスターレ)」。その宿のエコなスタイルから、私たちの新しい旅のスタイルが見えてくる。 手付かずの大自然が共存するステイ イタリア人がマルケと聞いて連想するのは、手付かずの大自然。アドリア海随一の美しいビーチ、イタリア半島を縦断するアペニン山脈が作り出す、表情豊かな川、谷、森。北部のフルロ渓谷自然公園には絶滅危惧種の鳥類が多く生存し、公園内の街道には古代ローマ人が建設したトンネルや遺跡が残る。 エコフレンドリーを極めたB&B「LA FORETALE」 フランス人のエリックも、このエリアに魅せられた一人。トレッキング愛好家でもある彼が“手付かずの自然の中で暮らしてみたい”という想いを持った始まりだ。そこから7年の歳月をかけて、かつての森林警備隊の兵舎と土地に、自宅とB&Bを兼ねた「LA FORESTALE(ラ・フォレスターレ)」をオープン。山の斜面と見事に調和している外観が印象的だ。 LA FORESTALEのコンセプトは、エコラグジュアリー。ミニマルな美しいデザインと、環境との共存に、徹底的にこだわった。エコ建築デザインの分野でも、注目されるホテルだ。 徹底したエネルギーシステムで、電気の100%自給自足を実現 エリックがまずこだわったのが、建物のエネルギーシステム。電気は、太陽光発電を取り入れることにより、建物で消費するすべての電力をまかなっている。さらに、デザインの一部にもなっているのが、屋根やバルコニーに敷き詰められた54枚ものソーラーパネルだ。太陽光発電が「電気」を作る一方で、ソーラーシステム(太陽熱利用システム)は、「熱」を作る仕組みで、温水や温風を作り出している。 ボイラー室の天井を埋め尽くすのは、電気が通るパイプ管。「この建物で最高のアートかもしれない」というエリックの言葉からは、この発電システムへのプライドと愛着が伝わってくる。 暖房や給湯、照明などで、電力を多く消費する冬は、電力消費量が供給量の半分を下回る日も多い。夏は、冬の約2倍強の電力が作られるそうだ。発電量を最大化する「パワーオプティマイザー」という装置の導入により、曇りの日でも効率よく発電できるようになっている。余剰電力は、電力会社に売ることができるので無駄にならない。 電力を生み出すだけでなく、建物の造りも省エネルギーであるよう工夫がなされている。断熱性・換気性に優れた外壁の厚さは42cm。屋内にエアコンはなく、夏場は広いテラスから風を取り込んで、涼を楽しむことができる。 随所に自然への敬愛が込められたゲストルーム 渓谷を見下ろす広いテラスとキッチン付きのアパートメントタイプや、暖炉やバスタブを備えたスイートロイヤルなど、LA FORESTALEのゲストルームは全5室。どの部屋も自然との一体感を味わえるリラックス空間だ。 バスルームの壁材、断熱性に優れた大きな窓やミニマルなデザインのライト、随所にこだわりと ホスピタリティが感じられる。 そして、部屋にはテレビがない。自然と見事に調和した部屋は、テレビを必要としない、テレビが似合わない空間なのだ。 この夏にはヨガスペースとプールが完成するなど、来年以降はフェーズ2のプロジェクトも携えている。大自然に溶け込み、心身共に癒されるウェルネスなステイ。自然と一体化してゆっくりと歩み続けるこの宿は、これからの新しい宿泊の形なのかもしれない。 LA FORESTALEhttps://www.laforestale.it

  • 発祥の地EUからアニマルウェルフェアの今をレポート【現地レポート】

    イギリスで誕生したアニマルウェルフェア アニマルウェルフェアの概念が生まれたのは、18世紀のイギリスと言われています。 動物虐待防止法が制定されたのは19世紀初頭。1960年代には、畜産業における動物への虐待についての議論が活発化し、イギリス政府は「家畜に、立つ、寝る、向きを変える、身繕いする、手足を伸ばす自由を」という家畜の「5つの自由」を打ち出しました。これはその後アニマルウェルフェアの基本原則となり、この理念はヨーロッパで急速に浸透していったのです。これは、キリスト教の倫理観の下、動物愛護精神が根底にあったことが大きいとされています。 https://rootus.net/article/694 https://rootus.net/article/694 EUにおける鶏卵の飼育方法 現在EUでは、鶏卵は次のような飼育方法の表記が義務付けられています。 0(オーガニック):有機農業と有機飼料で育てられた鶏の卵。日中は放し飼いで、1羽あたり4㎡以上のスペースが確保されている。アニマルウェルフェアの実現度が最も高い。 1(放し飼い):日中、屋外で放し飼いにされて育てられた鶏の卵。オーガニックの鶏卵と同じく、1羽あたり4m2以上のスペースが利用可能。 2(平飼い):おがくずが敷かれた室内で育てられた鶏の卵。 1100cm2で1羽の鶏が飼育されている。 3(ケージ飼い):750cm2で1羽を飼育するというエンリッチドケージを採用。止まり木の設置なども義務付けられている。 スーパーなどで売られている卵には一つ一つに、このいずれかの番号と生産国、地域などが印字されています。EUでは、非常に狭く身動きのとれないバタリーケージは2012年に廃止されました。ちなみに日本では現在でも9割ほどの鶏卵はこのバタリーケージで飼育されています。 オーストリアやルクセンブルクでは、ケージ自体の使用を禁止。また、ドイツでは2020年にケージで飼育された産卵鶏は6%未満になっており、2025年までに廃止される予定です。 EUにおける豚の飼育方法 豚の飼育においては、妊娠期以外の「妊娠ストール」の使用が2013年より禁止されています。妊娠ストールとは、一頭ずつ入れられる檻のこと。立つか座るかスペースしかなく、方向転換ができないほど小さい檻で、EUでは2013年から使用が禁止されました。イギリスやスウェーデン、ノルウェーでは、妊娠期であってもストールを使用しておらず、他のEUの国々でも全ての時期を通してのストール廃止を求める声があがっています。 大手スーパーマーケットの卵売り場へ 実際にお店の卵売り場を見てみましょう。訪れたのはイタリアの大手スーパーマーケット、Esselunga(エッセルンガ)。BIO専門や高級セレクトショップというわけではなく、市民が日常使いするスーパーマーケットです。 こちらが卵売り場。ケージ飼い表記の卵はひとつも売られていませんでした。 オーガニックの種類も多く取り揃えています。オーガニックの卵の価格は、一番安い平飼いの卵と比べて2倍程度に抑えられているので、比較的手に取りやすいのも特徴です。 アグリツーリズムという新しい学び方 ミラノ中心地から車を20分ほど走らせると広がる、牧草地や田んぼのどかな風景。「カッシーナ」と呼ばれる農家では、消費者がそこで飼育されている家畜と触れ合いながら肉類や乳製品を購入でき、レストランが併設されているところも。また、暮らすように滞在できる農家もあります。このような新しい観光のかたち、アグリツーリズムが今、都市部に住む人たちからの注目を集めています。 口に入れるものが、どんな場所で誰によりどのように飼育され作られているのか。それが可視化されている安心感は、他のどんな価値にも代えがたいもの。新鮮さとおいしさも折り紙付きです。スーパーマーケットで売られている卵やお肉だけでなく、アグリツーリズムの人気の高まりからも、市民のアニマルウェルフェアへの関心の高さが伺えます。 アニマルウェルフェアのこれから。Farm to Tableの実現に向けて 欧州委員会は2020年に発表した「農場から食卓へ戦略」で、ラベル表示の統一化について検討を開始。2023年までにアニマルウェルフェアに関する規制を改正して、消費者に向けた基準をより明確にしていく方針です。 ケージ飼育に関する規制は、採卵鶏の他に肉用鶏、雌豚、子牛も対象に。市民の間でアニマルウェルフェアへの意識が高まり、署名活動などが活発化した結果、2027年までに段階的にケージ飼いを禁止していくことが決定しています。 また欧州委員会の検討チーム内では、家畜の移送・食肉処理までを含めた生産全般の情報がQRコードなどにより得られる仕組みを、生鮮食品や加工品などを対象に義務化する動きもあります。 動物にとっても消費者にとっても意義のあるこういった潮流を生んだのは、紛れもなくEU市民の声と力。市民は今後も購買行動や署名活動などを通じて、政府に訴え動かし評価する、必要不可欠な役割を担い続けていくことでしょう。

  • 未来に残したい世界の絶景「ペリト・モレノ氷河/南米パタゴニア地方」

    この連載では、世界各国を回る旅人やツアーコンダクターが旅先で出会った景色をお届けします。世界から届く絶景写真から、人と自然が共存する豊かな社会の在り方を考えてみませんか? 第三回目となる今回は、アルゼンチンとチリにまたがるパタゴニア地方のペリト・モレノ氷河です。南アメリカ大陸の最南端、パタゴニア地方にあるロス・グラシアレス国立公園は、南極大陸、グリーンランドに続く世界で3番目に大きい氷河地帯です。その中で最も有名な氷河が、ペリト・モレノ氷河。展望台から見える氷の壁は、どこまでも果てしなく続き、圧巻のひと言! 総面積は250km2に及ぶというから驚きです。 氷河は、展望台だけでなく船で湖上から見ることができ、高い頻度で崩落の瞬間に立ち会うことができます。崩落が始まると、そこにいる誰もが、儚くも迫力ある一瞬に釘付けに。毎日2mも前進し続けているペリト・モレノ氷河は、壮大な代謝を繰り返し、まさに呼吸をしているかのような氷河なのです。地球温暖化の影響から氷河が溶けているというニュースは耳にしますが、ペリト・モレノ氷河は、成長を続けています。その理由は解明されていないものの、世界中の氷河が縮小していく中で貴重な氷河といえるのかもしれません。 力強い地球の生命力を間近で感じられるこの氷河もまた、未来に繋いでいきたい景色の一つです。 photos by rootus編集部

  • イタリア、トスカーナで体験。暮らすように滞在するアグリツーリズム【現地レポート】

    農家に宿泊する休暇の過ごし方が、都市部に住むヨーロッパに人から人気を集めています。動物に触れあいながら自然を身近に感じることは、子どもにとっても大人にとってもかけがえのない体験に。今回は、アグリツーリズムが盛んなイタリアから、トスカーナ地方で体験したファームステイをレポートします。 アグリツーリズムとは? アグリツーリズムとは、「アグリカルチャー(農業)」+「ツーリズム(観光)」を組み合わせた造語で、20世紀後半のヨーロッパで生まれました。ファームステイ、農家民宿、と言うとよりイメージしやすいと思います。それ以前から夏休みなどを田舎で過ごし、自然に触れ、現地の人と交流する習慣があったので、ヨーロッパの人々にとっては真新しい概念ではありませんが、近年は、より体系化。選択肢も増え、アグリツーリズムの滞在先が選べるサイトが充実し、情報も得られやすくなってきています。 イタリア・トスカーナ地方で盛んなアグリツーリズム イタリア全国で盛んなアグリツーリズム(イタリア語では「アグリツーリズモ」)ですが、イタリア中部のトスカーナ地方は、質、量、人気ともに群を抜いています。フィレンツェから少し足を伸ばすと、ワイナリーや丘の上の中世の街が宝石のように点在するトスカーナ。お城を改装したラグジュアリーなホテルなども多い中、ファミリーに最適なのがアグリツーリズモ滞在です。ハイシーズンは6月頃から。ヨーロッパ各地だけでなく、北米などから家族連れが次々に訪れ、自然や農家と触れ合いながら都会では体験できないスローライフを満喫します。一度滞在して気に入ると翌年もリピートするゲストが多く、アグリツーリズモのオーナー一家とは友人や家族のような関係になることも。基本的には、どの滞在も朝食付きで、夕食をとることもでき、子どもをプールで遊ばせている間などに、他のファミリーとも自然に交流が生まれるのもこの滞在の醍醐味です。 ワイン畑を見晴らす「アルパカの丘」でアグリツーリズム体験 トスカーナに住む義叔母が友人から、アルパカと触れ合えるアグリツーリズモがある、と聞いて今回訪れたのが、こちらの「LA VALLE DEGLI ALPACA(ラ・ヴァッレ・ディ・アルパカ)」。アルパカの谷、という意味ですが、実際はワインの産地、キャンティの丘の上にあるアグリツーリズムです。 オーナーが手作りした大きな家は、元々は宿泊客を迎えるために建てられたのですが、年々孫が増え、今はオーナー一家が3世帯で賑やかに暮らしています。4月から9月の半年間、日帰りのゲストを迎えるスタイルをとっています。屋外プールや、広い芝生を貸し切ることも可能。最大の魅力は、何と言ってもアルパカをはじめとした動物たちとの触れ合いです。 私たちが訪れた夕刻は、動物たちが庭から小屋に戻り始めていました。 アルパカは典型的な草食動物で、性格はとても穏やか。後ろの方から私たちをじっと見つめているアルパカもいれば好奇心旺盛で近づいてくるアルパカもいて、色々な反応を観察できます。4年前、夜中にオオカミの群れに襲われて12頭のアルパカが亡くなるという、嘘のような痛ましい出来事もあったそう。 生後2週間の赤ちゃんの可愛さと柔らかさは格別でした。 アルパカに続き、羊と馬も小屋に。これから動物たちは各部屋で食事を済ませ、19時頃寝るそう。放牧されていたアヒルや七面鳥たちも、鳥小屋へと戻ってきます。 ゲストの子どもたちはオーナー一家の子どもや犬とも自然に仲良くなり、暗くなるまで丘を駆け回って遊びます。子どもたちにとって、都会の日常では体験できない自然や動物との触れ合いは、何事にも変えがたい貴重な経験です。 オーガニックのローカルフードもファームステイの楽しみのひとつ 一方大人は、18時ごろから手作りのチーズや生ハム、ブルスケッタ、ワインでアペリティーボタイムがスタート。オーガニックのローカルフードはどれも新鮮で、絶品。 広い空が薄暮に染まるのを、ゆったりと眺めながらいただくワインも格別です。丘の向こうから吹くひんやりとした風に吹かれて、一日が終わります。 心豊かになれる旅の選択肢、アグリツーリズム ミラノやローマなど都会で働く人も、週末やバカンスは仕事モードをオフにして、家族や友人と、自然に囲まれてのんびりと過ごします。イタリアでは引きこもりという話を聞いたことがありません。長い夏休みや冬休みは反強制的に山や海に連れ出されるので、引きこもる暇がないのかもしれません。観光地をめぐる旅行とは一味違ったアグリツーリズム。動物や人々との交流を通して思い出に残る体験をしたい人におすすめしたい旅のスタイルです。 LA VALLE DEGLI ALPACAhttp://www.lavalledeglialpaca.com

  • 未来に残したい世界の絶景「オーロラ/イエローナイフ」

    今回が二回目の連載となる「未来に残したい世界の絶景写真」。 この連載では世界各国を回る旅人やツアーコンダクターが旅先で出会った景色をお届けします。世界から届く絶景写真から、人と自然が共存する豊かな社会の在り方を考えてみませんか。今回は、カナダのイエローナイフに出現するオーロラです。イエローナイフは、カナダ北西部ノースウェスト準州の州都。オーロラベルト上にあり、晴天率が高いことから、オーロラを鑑賞できる確率が高いことで有名です。“オーロラのメッカ”との呼び声も高く、その神秘的な光景を求めて、世界中から観光客が集まります。 オーロラ鑑賞に適している冬はマイナス30度まで下がる極寒の世界で、気が付けばまつ毛が凍っていることもしばしば。しかし、ひとたび空いっぱいに光のカーテンが出現すると、その美しさから、寒さを忘れるほどの感動が押し寄せます。秋には湖に写る逆さオーロラを望めるチャンスもあります。太陽と地球が見せてくれる光の天体ショー。私たちは奇跡的な条件の上に生かされているということを感じずにはいられません。未来に向けて守っていきたい地球の絶景の一つです。 photos by @tsugraphy_319

  • 古いものを、カッコよく。ミラノのエコ蚤の市「EAST MARKET」に潜入!【現地レポート】

    行政や企業、市民が主体となり、世界の中でも持続可能な社会づくりが進むヨーロッパ。近年は特に環境問題への関心が高く、環境に負荷をかけない選択肢が増えてきています。rootusでは、現地に長年住むレポーターが、住んでいるからこそ見えてくるリアルな情報を発信。サステナブルな社会はどのように実現可能なのか、最前線から学べることを考えます。 フリーマーケットがエコに進化中 昔からヨーロッパ各地で開催されているフリーマーケットや青空市場。ヨーロッパにはもともと古いものを大切に使い続ける文化があり、最近はそこにアップサイクルアイテムなどのエコな要素も入ってきています。今回は、そんなヨーロッパ市民の生活になくてはならないマーケットに潜入。実際にどのようなものが売られているのか、どこまでエコ意識は浸透しているのか、見てきました。 訪れたのは、イタリアの首都ミラノで有名な蚤の市「EAST MARKET」。近年オシャレに敏感なミラネーゼたちの間で話題のフリーマーケットです。単なるヴィンテージの売買が目的ではなく、リユース、リサイクル、アップサイクルをもっと根付かせよう、という目的のもとに2014年にスタートしました。 イベントは不定期に開催され、SNSやホームページで開催日が告知されます。 ミラノのEAST MARKETは、19世紀から続くロンドンのリベラルな蚤の市「EAST STREET MARKET」の影響を受けており、21世紀仕様にアップデートされています。会場は広大な飛行機工場の跡地です。 出展者同士の物々交換もOK 約300店が出店する屋内スペースでは、「EVERYTHING OLD IS NEW AGAIN(=すべての古いものに価値を)」をコンセプトに、ヴィンテージ、リサイクル、アップサイクル、アート作品などが展示されています。 得意分野を活かしたアマチュアやプロが、来場客との売り買いを行っているだけでなく、出展者同士の物々交換が自由に繰り広げられています。 センスあふれるヴィンテージ雑貨がずらり 出店していたお店の一部を覗いてみましょう。 リキュールの空き瓶をアップサイクルしたソープボトル。空き缶を容器として再利用したキャンドルもありました。確かに捨てるのにはもったいないデザインの瓶や缶。一工夫でおしゃれなインテリアに変身です。 ヴィンテージのカラフルなスウォッチ。今はもう販売されていないレトロなデザインは、眺めているだけで楽しい! こちらは、ハイブランドのヴィンテージボタンをペンダントや指輪にアップサイクルしています。 他にも、古いおもちゃやポスターにライトニングを施して新たなアート作品を生み出したり、古着に新たなデザインやロゴを加えたり、様々なアイデアとクリエティビティを駆使したショップが軒を連ねます。もちろんどれもハイセンス。さすがイタリアです。 プラスチックフリーを徹底したフードコート 屋外のフードコートでは、多種多様なファストフードを楽しめます。 気心の知れた友達やカップルで来ていて、みんなアルコールを片手にお喋りしたり音楽に身を任せたり。思い思いに週末の夕べを過ごしています。ケバブやブリトー、フリットなど、お酒に合うインターナショナルなジャンクフードのお店が多いですが、プラスチックフリーというルールは徹底されていて、紙や植物性の透明容器を使っています。 スタートから9年目を迎えた現在の賑わいを見ると、EAST MARKETがエコロジカルなライフスタイルを若者に浸透させることに成功したことがわかります。ピースフルでクリエイティブな空間に、また足を運びたくなる、そんな素敵な場所でした。 EAST MARKETVia Mecenate, 88/A, Milan, Italyhttps://www.eastmarketmilano.com

  • 未来に残したい世界の絶景「バオバブの木/マダガスカル」

    今回が1回目の連載「未来に残したい世界の絶景」。 この連載では世界各国を回る旅人やツアーコンダクターが旅先で出会った景色をお届け。この先ずっと守っていきたい豊かな自然や文化から、持続可能な社会の大切さを感じてみませんか。 第一回目は、マダガスカルのモロンダバ郊外にあるバオバブの並木道。 マダガスカルは、アフリカの南東に浮かぶ島国です。バオバブは、アフリカ原産の木で、巨大な幹が特徴。古いものだと樹齢2000年を超えるものもあると言われています。 マダガスカルでは古くから市民の間で親しまれ、その大きさと個性的なフォルムは世界中の旅行者を魅了し続けています。 バオバブの木を目にして驚くのがその圧倒的な存在感。バオバブが立ち並ぶこの場所は、昼間の姿と夕景の姿の違いがまた美しく、時間の経過を忘れて見入ってしまうほど、印象的な場所です。 何千年も生きると言われるバオバブですが、実は近年枯れるペースが速くなっていることが発見されました。原因の特定には至っていませんが、気候変動が原因になっているとする研究者もいます。 私たちが生まれるずっと前からそこに生きるバオバブの木。未来に向けて守っていきたい地球の絶景の一つです。 photos by @tsugraphy_319

  • ミラノのハーブ店が地域を巻き込み完全プラフリーにするまで【現地取材】

    私たちの生活に溢れている、プラスチック製品。機能的で安価な一方で、回収・処理が最も難しい素材の一つだ。自然に分解されないプラスチックゴミ約800万トンが毎年海へと溜まり、2050年には世界の魚の容量を超えると言われている。 知ってはいても、私たちの日常生活やビジネスで、完全プラスチックフリーを実現するのは簡単ではない、このプラスチック問題。しかし、不可能ではないことを実証したショップがミラノにある。どのようなきっかけで完全プラスチックフリーを目指し、それを成し遂げたのか、オーナーにその想いを聞いた。 地元の人と一緒に実現するプラスチックフリー生活 ヨーロッパの伝統的なハーブ療法、フィトセラピーは、古くからヨーロッパ人の生活に根付いている自然療法だ。イタリアにも「エルボリステリア」と呼ばれるハーブ薬局が数多くある。 ハーバリストのオルネッラさんが経営する「QUINTESSENZA(クインテッセンツァ)」は、他のエルボリステリアと同じように、ハーブ、そして自然原料やオーガニックの製品を取り扱ってきた。3年前、マイクロプラスチックの海洋汚染が喫緊の課題だと知り、一人一人の意識から変えていくことが大切であることを認識。それ以来、店内から全てのプラスチック製品を排除した。 地域密着型のこのお店がプラスチックフリーにすることで、地元の人々と一緒に少しでもプラスチックを出さない生活を実現しようとしたのだ。 品質が良いものも、売れ筋の商品も、一部でもプラスチックを使っていれば入荷を中止。店頭や倉庫にあったプラスチック製品は、全て半額にして売り出した。オルネッラさんは娘のキアラさんと二人三脚で、日々プラスチックゴミを出すことへの罪悪感と疲労感を、プラスチックフリー実現へのエネルギーに変えたのだ。まわりの反応はというと、若い客層からはすぐに受け入れられたが、 高齢の常連客からは、最初は否定的な意見もあったという。しかし人々の中で環境問題への関心が高まっていることもあり、今では多くの人の賛同を得ている。 高品質なプラスチックフリー製品との出会い 店内の在庫を処分するのと同時に始めたのは、ヨーロッパ各国で作られているプラスチックフリー製品のリサーチだ。環境に負担の少ないものを探し出し、取り扱いを始めた。 当初は難航することを覚悟していた買い付け。しかし探してみると、イタリアやヨーロッパの小さな村でプラスチックを使わず丁寧に作られている高品質なコスメや日用品、アイテムが次々と見つかった。プラスチックフィルムの代替品や、紙ゴミさえ出さずに土に帰すことのできる素材があるなど、技術も進んでいることもわかった。 二人が想像していた以上にマーケットは厚かったのだ。そして、それらの製品をショップで扱うことが、小さな製造元を応援することにつながるという好循環が生まれた。プラスチックフリーのお店を作ると決めた二人を待っていたのは、プラスチックフリー製品を作るということに本気で取り組み、情熱を注ぐ人々との素晴らしい出会いだった。 プラスチックフリー生活のヒントになる情報も発信 QUINTESSENZA(クインテッセンツァ)のブログでは、エコロジカルな生活を送るためのアドバイスも発信している。 オルネッラさんオススメの、誰でも取り入れやすく効果的なプラスチックフリーアイテムは、スチール製ウォーターボトル。今やマイボトルを持つことは当たり前、モードとさえ見なされる風潮もあり、様々なデザインやサイズから選べるようになった。ペットボトルゴミが毎分33,000本以上地中海に流れている現状を食い止める、効果的なダイレクトアクションだ。 2つ目は、固形シャンプー。 こちらも様々なタイプが揃い、髪や頭皮への効果を選ぶことができる。シリコンなどの非分解成分を含まず、パッケージは詰め替えでゼロウェイストを実現しやすい。軽量でコンパクトなのに従来のシャンプーの2倍長持ちするなど、メリットが目白押しだ。 家庭でも不可能ではないプラスチックフリー生活 この3年間で世の中の風向きも追い風となり、転換期の経営的な負担を乗り越え、現在は安定したショップの運営ができているという。 最後に、店舗よりも難しいと思われる家庭でのプラスチック削減への取り組みを聞いた。 「日用品は容器をお店に持ち込んでリフィル。プラスチックを使用したスーパーの商品は買わず野菜やフルーツは農家から直接買っています。たとえばプラスチックの容器があっても、それを捨てずに使い続けるのも大切です。ショッピングバッグ以外にどうしても袋が必要になるときは紙袋を利用しています。」とのこと。「生活を大きく変えなくても意識を変えるだけで実際に環境負荷の少ない生活が送れていますよ。」と頼もしい答えが返ってきた。 【ショップ情報】QUINTESSENZAVia Tolstoi 40  Milano Italyhttps://www.quint-essenza.it

  • ファッションに改革を。SETCHUが実現するサステナブルな未来【現地取材】

    今世界が注目するミラノ発のファッションブランド、SETCHU。最近日本での販売も開始され、その勢いは加速する一方です。生地やデザインへのこだわりだけでなく、ファッションが環境に与える多大な負荷を解決するため、サステナビリティを実現するSETCHUの魅力をイタリアからレポートします。 日本人デザイナーが手掛ける和洋折衷ブランド 東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ミラノ。桑田悟史さんは、世界各地のモード発信地で経験を積んだファッションデザイナーだ。ロンドンの歴史ある高級テーラー街サヴィル・ロウで働き、ジバンシィのシニアデザイナーとしてオートクチュールを手がけるなど、ファッションの真髄に携わってきた。 上質と洗練、ファッションを知り尽くした桑田さんが、ミラノで自らのブランド「SETCHU」を立ち上げた。日本文化の面白さを世界に発信したいという思いから、ブランド名は「和洋折衷」に由来する。 ブランドのテーマは「アーティザン(クラフトマンシップ)」「タイムレス」そして「旅行」。洋と和、性別、時代、伝統と斬新など、全てのボーダーを取り払ったデザインは、服だけでなく靴、鞄、傘、器などライフスタイル全般に及ぶ。 近年、ファッション業界が環境に与える負荷の大きさが取り沙汰されている。中でも服や生地の廃棄量は凄まじく、増加の一途を辿る。その現実を目の当たりにしてきた桑田さんが、SETCHUで実現しているサステナビリティとは。 ①ブランドから出る上質な余剰在庫生地の利用 まず桑田さんが着目したのは、余剰在庫生地。ブランドに購入されなかった、または返品された大量の生地が、生地工場の倉庫に廃棄待ち状態で眠っている。 一流ブランドの生地を手がける、北イタリアにあるコモのシルク工場。そこで廃棄の運命にあった、希少で美しい織りの生地を見つけた。それに最終加工を施し、ハンカチーフとクッションを作って製品にした。 最終加工前の生地を見定めて、工場と密にやりとりしながら理想の生地に仕上げて、製品にしていく。大手メゾンに比べ格段に小規模なオーダーを依頼しても、相手にされないことが多い世界。しかし、多くの一流の工場や職人がSETCHU のブランドコンセプトに共感し、桑田さんの熱意に応える形で協力してくれる結果となった。 ②長く着られるディテールとデザイン 年齢と時代を問わずずっと着られる、上質な服。英国王室ご用達でもあるサヴィル・ロウで、100年以上前のスーツのお直しなどにも携わりながら、桑田さんが行き着いたコンセプトだ。 シーズン毎に発表するコレクションは、流行によって「流す」のではなく「重ねて」いくことで、ブランドという木を育てていくビジョンを持つ。エルメスやクリスチャン・ディオールなど、一握りの高級ブランドに見られる価値観だ。 例えば、ファッション関係者たちが一目惚れし、自身用に購入する人が続出したジャケット「ENRICO」。旅と釣りを愛する桑田さんにとって、折り紙のようにスーツケースに折り畳める軽量のジャケット作りは必然だった。 服は縫い目が少ないほど長持ちするため、ノーダーツなどの工夫を細部にこらしながら、縫い目を最小限に抑えている。ウールヴィスコースの生地に刻まれた、ユニークな折り目とゆったりしたダブルボタンの美しいデザインは、私たち日本人には羽織を連想させる。帯のようなベルトを縛ると、女性らしいシルエットが生まれるなど、様々な表情が楽しめる。性別や年齢を選ばないENRICOジャケットは、シーズンごとに異なる生地で展開されていく。 ③環境への負荷を抑えた配送方法 SETCHUの配送におけるサステナビリティのポイントは、2点ある。 一つ目は、コンパクトなパッキング。薄く軽量な生地で作られ、折りたためるデザインの服が多いため、一箱に何着も入れて輸送できる。 もう一つは、商品の梱包袋が「リサイクル素材を使ったリサイクル可能なもの」であること。「RECYCLED & RECYCABLE」であることが、サステナビリティのあるべき姿の一つだと桑田さんは考える。 その他、100%リサイクルペットボトル製の生地を採用したり、長持ちしにくいニット素材には強度の高いウールを混ぜるなど、一つ一つの素材にこだわり抜く。 持続可能なファッションを、実現可能へ 将来は、SETCHUの自社牧場を持ち、コットンから栽培したいと語る。目から鱗の発想だが、気がつけばウール用の羊に囲まれた桑田さんの姿まで想像できてしまうほど、有言実行の人だ。その世界では、更なるサステナビリティが実現しているに違いない。 SETCHUhttps://www.laesetchu.com

  • 自転車が主役。世界が注目するミラノの都市デザイン【現地レポート】

    今世界で、自転車人口が増えているのをご存知でしょうか。移動手段を語る際、長らく副次的にポジション甘んじてきた自転車。それがパンデミック以降、 熱い視線を注がれ、国や市町村単位で取り入れる動きが活発化しています。今回はミラノから、最新の自転車事情をレポート。大気汚染という大きな問題を抱えた工業都市が今どのように生まれ変わろうとしているのでしょうか。世界の都市、そして私たちがミラノから学べることとは。 大気汚染の問題に乗り出したミラノ市 60年代、ニューヨークを破壊的な都市計画から救った都市思想家ジェイン・ジェイコブズが唱えた「日常生活の主な目的地は徒歩圏内にあるべき」という都市デザイン。その考え方が近年再評価される中、徒歩や自転車での移動を要とする都市計画が、世界各地で取り入れられています。 イタリアの経済・ファッションの中心地ミラノもその例のひとつ。ミラノは、自動車産業などで発展した工業都市でもあり、車通勤が一般的だった上に盆地でスモッグが溜まりやすく、深刻な大気汚染という問題を長年抱えてきました。 ミラノが動き出したのは2015年の万博、そして2016年のCO2削減目標を宣言したパリ協定。長年環境と健康に大きなダメージを与えてきた大気汚染の問題に、市をあげての本格的な取り組みが始まりました。 市民の生活が少しずつ変わり、街には自然も ミラノ市営のバイクシェア「bikeMi」 2020年からスタートした「STRADE APERTE(=オープンロード)計画」は、車通勤から自転車通勤へのシフトを目的に、自転車に関するあらゆる法令を整備しました。同年5月には、ロックダウン解除のタイミングで自転車補助金制度をスタート。自転車を購入すると、市から費用の60%、最大500ユーロ(約65,000円)の補助がキャッシュバックされるという制度に、多くの市民が自転車を購入同時に道路には自転車道が急ピッチで増設されました。ミラノ市営のレンタル自転車は最初の30分を無料、その後も30分50セントで格安で利用ができます。また、民間の企業がレンタルを始めた自転車、キックボードバイクなども街なかでよく見かけるようになりました。 結果、1990年代には89台だった人口100人当たりの自家用車の数を、2021年には49台にまで減らことに成功。交通渋滞が緩和され、車から発生する汚染物質ベンゼンと窒素酸化物は3分の2に減少したのです公園には虫や鳥が戻ってきたと指摘する専門家もいます。 グレタ・トゥーンベリも称賛。世界の都市に広まる動き この「STRADE APERTE」計画は、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリが称賛し、同じく自転車通勤を推進するニューヨーク市が、モデル事例と携えるなど、世界各地の都市計画を牽引し始めています。 パリ、ロンドン、上海なども同様に、互いに競い合うのではなく情報をシェアし学び合う姿勢が見えてきたのもパンデミック後の大きな変化です。 フィンランドも注目する自転車社会の副産物 自転車保有率世界一のオランダ 交通手段としての自転車の利点は、健康上のメリットも。自転車は、ダイエットにも効果的で続けやすい有酸素運動。ペダルを漕ぐことで腸の動きも良くなり、睡眠の質が向上するのに加え、幸福感をもたらすドーパミンや、精神を安定させるセロトニンが分泌され、メンタルにもいいことがわかっています。2030年までに徒歩と自転車の利用を増やす計画を打ち出しているフィンランドでは、2019年比で自転車利用者が20%増えると、40億ユーロの医療費を削減できると試算しているほど、健康上の大きな効果も見込んでいます。 一方課題としては、安全の確保、インフラの整備、市民の意識改革などが挙げられます。それらの課題を解決して、自転車をブームで終わらせない。それが今後、世界規模での大きな目標となっていくでしょう。

  • 絶景に溶け込む体験。イタリアで人気のエコホテルが提案する新しい旅【現地レポート】

    中部イタリア、アドリア海に面するマルケ州。ここにEUのナチュラリストの間でも話題の、エコを極めた宿がある。自然の恵みを最大限に生かし、環境への負荷を徹底的に抑えることに成功したB&B「LA FORESTALE(ラ・フォレスターレ)」。その宿のエコなスタイルから、私たちの新しい旅のスタイルが見えてくる。 手付かずの大自然が共存するステイ イタリア人がマルケと聞いて連想するのは、手付かずの大自然。アドリア海随一の美しいビーチ、イタリア半島を縦断するアペニン山脈が作り出す、表情豊かな川、谷、森。北部のフルロ渓谷自然公園には絶滅危惧種の鳥類が多く生存し、公園内の街道には古代ローマ人が建設したトンネルや遺跡が残る。 エコフレンドリーを極めたB&B「LA FORETALE」 フランス人のエリックも、このエリアに魅せられた一人。トレッキング愛好家でもある彼が“手付かずの自然の中で暮らしてみたい”という想いを持った始まりだ。そこから7年の歳月をかけて、かつての森林警備隊の兵舎と土地に、自宅とB&Bを兼ねた「LA FORESTALE(ラ・フォレスターレ)」をオープン。山の斜面と見事に調和している外観が印象的だ。 LA FORESTALEのコンセプトは、エコラグジュアリー。ミニマルな美しいデザインと、環境との共存に、徹底的にこだわった。エコ建築デザインの分野でも、注目されるホテルだ。 徹底したエネルギーシステムで、電気の100%自給自足を実現 エリックがまずこだわったのが、建物のエネルギーシステム。電気は、太陽光発電を取り入れることにより、建物で消費するすべての電力をまかなっている。さらに、デザインの一部にもなっているのが、屋根やバルコニーに敷き詰められた54枚ものソーラーパネルだ。太陽光発電が「電気」を作る一方で、ソーラーシステム(太陽熱利用システム)は、「熱」を作る仕組みで、温水や温風を作り出している。 ボイラー室の天井を埋め尽くすのは、電気が通るパイプ管。「この建物で最高のアートかもしれない」というエリックの言葉からは、この発電システムへのプライドと愛着が伝わってくる。 暖房や給湯、照明などで、電力を多く消費する冬は、電力消費量が供給量の半分を下回る日も多い。夏は、冬の約2倍強の電力が作られるそうだ。発電量を最大化する「パワーオプティマイザー」という装置の導入により、曇りの日でも効率よく発電できるようになっている。余剰電力は、電力会社に売ることができるので無駄にならない。 電力を生み出すだけでなく、建物の造りも省エネルギーであるよう工夫がなされている。断熱性・換気性に優れた外壁の厚さは42cm。屋内にエアコンはなく、夏場は広いテラスから風を取り込んで、涼を楽しむことができる。 随所に自然への敬愛が込められたゲストルーム 渓谷を見下ろす広いテラスとキッチン付きのアパートメントタイプや、暖炉やバスタブを備えたスイートロイヤルなど、LA FORESTALEのゲストルームは全5室。どの部屋も自然との一体感を味わえるリラックス空間だ。 バスルームの壁材、断熱性に優れた大きな窓やミニマルなデザインのライト、随所にこだわりと ホスピタリティが感じられる。 そして、部屋にはテレビがない。自然と見事に調和した部屋は、テレビを必要としない、テレビが似合わない空間なのだ。 この夏にはヨガスペースとプールが完成するなど、来年以降はフェーズ2のプロジェクトも携えている。大自然に溶け込み、心身共に癒されるウェルネスなステイ。自然と一体化してゆっくりと歩み続けるこの宿は、これからの新しい宿泊の形なのかもしれない。 LA FORESTALEhttps://www.laforestale.it

  • 発祥の地EUからアニマルウェルフェアの今をレポート【現地レポート】

    イギリスで誕生したアニマルウェルフェア アニマルウェルフェアの概念が生まれたのは、18世紀のイギリスと言われています。 動物虐待防止法が制定されたのは19世紀初頭。1960年代には、畜産業における動物への虐待についての議論が活発化し、イギリス政府は「家畜に、立つ、寝る、向きを変える、身繕いする、手足を伸ばす自由を」という家畜の「5つの自由」を打ち出しました。これはその後アニマルウェルフェアの基本原則となり、この理念はヨーロッパで急速に浸透していったのです。これは、キリスト教の倫理観の下、動物愛護精神が根底にあったことが大きいとされています。 https://rootus.net/article/694 https://rootus.net/article/694 EUにおける鶏卵の飼育方法 現在EUでは、鶏卵は次のような飼育方法の表記が義務付けられています。 0(オーガニック):有機農業と有機飼料で育てられた鶏の卵。日中は放し飼いで、1羽あたり4㎡以上のスペースが確保されている。アニマルウェルフェアの実現度が最も高い。 1(放し飼い):日中、屋外で放し飼いにされて育てられた鶏の卵。オーガニックの鶏卵と同じく、1羽あたり4m2以上のスペースが利用可能。 2(平飼い):おがくずが敷かれた室内で育てられた鶏の卵。 1100cm2で1羽の鶏が飼育されている。 3(ケージ飼い):750cm2で1羽を飼育するというエンリッチドケージを採用。止まり木の設置なども義務付けられている。 スーパーなどで売られている卵には一つ一つに、このいずれかの番号と生産国、地域などが印字されています。EUでは、非常に狭く身動きのとれないバタリーケージは2012年に廃止されました。ちなみに日本では現在でも9割ほどの鶏卵はこのバタリーケージで飼育されています。 オーストリアやルクセンブルクでは、ケージ自体の使用を禁止。また、ドイツでは2020年にケージで飼育された産卵鶏は6%未満になっており、2025年までに廃止される予定です。 EUにおける豚の飼育方法 豚の飼育においては、妊娠期以外の「妊娠ストール」の使用が2013年より禁止されています。妊娠ストールとは、一頭ずつ入れられる檻のこと。立つか座るかスペースしかなく、方向転換ができないほど小さい檻で、EUでは2013年から使用が禁止されました。イギリスやスウェーデン、ノルウェーでは、妊娠期であってもストールを使用しておらず、他のEUの国々でも全ての時期を通してのストール廃止を求める声があがっています。 大手スーパーマーケットの卵売り場へ 実際にお店の卵売り場を見てみましょう。訪れたのはイタリアの大手スーパーマーケット、Esselunga(エッセルンガ)。BIO専門や高級セレクトショップというわけではなく、市民が日常使いするスーパーマーケットです。 こちらが卵売り場。ケージ飼い表記の卵はひとつも売られていませんでした。 オーガニックの種類も多く取り揃えています。オーガニックの卵の価格は、一番安い平飼いの卵と比べて2倍程度に抑えられているので、比較的手に取りやすいのも特徴です。 アグリツーリズムという新しい学び方 ミラノ中心地から車を20分ほど走らせると広がる、牧草地や田んぼのどかな風景。「カッシーナ」と呼ばれる農家では、消費者がそこで飼育されている家畜と触れ合いながら肉類や乳製品を購入でき、レストランが併設されているところも。また、暮らすように滞在できる農家もあります。このような新しい観光のかたち、アグリツーリズムが今、都市部に住む人たちからの注目を集めています。 口に入れるものが、どんな場所で誰によりどのように飼育され作られているのか。それが可視化されている安心感は、他のどんな価値にも代えがたいもの。新鮮さとおいしさも折り紙付きです。スーパーマーケットで売られている卵やお肉だけでなく、アグリツーリズムの人気の高まりからも、市民のアニマルウェルフェアへの関心の高さが伺えます。 アニマルウェルフェアのこれから。Farm to Tableの実現に向けて 欧州委員会は2020年に発表した「農場から食卓へ戦略」で、ラベル表示の統一化について検討を開始。2023年までにアニマルウェルフェアに関する規制を改正して、消費者に向けた基準をより明確にしていく方針です。 ケージ飼育に関する規制は、採卵鶏の他に肉用鶏、雌豚、子牛も対象に。市民の間でアニマルウェルフェアへの意識が高まり、署名活動などが活発化した結果、2027年までに段階的にケージ飼いを禁止していくことが決定しています。 また欧州委員会の検討チーム内では、家畜の移送・食肉処理までを含めた生産全般の情報がQRコードなどにより得られる仕組みを、生鮮食品や加工品などを対象に義務化する動きもあります。 動物にとっても消費者にとっても意義のあるこういった潮流を生んだのは、紛れもなくEU市民の声と力。市民は今後も購買行動や署名活動などを通じて、政府に訴え動かし評価する、必要不可欠な役割を担い続けていくことでしょう。