「Less is moreに生きる」 久保まゆみさんが考える豊かさ

エシカルやサステナブルなライフワークを持つ人へのインタビューを通じて、「本当の豊かさ」を見つめ直すrootusの本企画。今回は、長年アパレル業界に携わり、サステナブルなファッションの在り方を追求してきたクリエイティブ・ディレクターの久保まゆみさんがゲスト。プライベートでは、児童養護施設の子どもたちに向けた七五三や成人式のお祝いボランティアとしても活動する彼女から、豊かな社会へのヒントをもらいます。

久保まゆみさんプロフィール

クリエイティブ・ディレクター。美大を卒業後、ジュエリーデザイナーとしてアパレル会社に入社。その後フランスに留学し、帰国後、株式会社JUNが運営していたA.P.C.の発足メンバーとしてプレスを担当。出産を機にフリーランスへ転向し、子どものカルチャー誌『m/f and you』の編集長としてエディトリアルを経験。現在は株式会社JUNのファッションブランド「LA LIGNE ROPÉ」のブランディング、コミュニケーションデザインを担う。社会的慶祝支援団体「一般社団法人 いちご言祝ぎの杜」メンバーとしても活動中。

久保まゆみさん 公式Instagram

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伝統文化が息づくサステナブルファッションを後世に

――久保さんはアパレル業界を中心に様々なキャリアを積まれていますよね。

久保さん:大学卒業後、アパレル会社に就職しましたが、海外で文化体験をしたいと思い、退職してフランスに3年ほど留学しました。当時、「A.P.C.」というブランドがパリでも展開し始めた頃で、これまでのモードとは一線を画したミニマリズムな哲学に衝撃を受け、急いで帰国出願し、後立ち上げメンバーに加わることとなりました。
もう30年も前になりますが「A.P.C.」のデザイナー・ジャン・トゥイトゥに感化され、私にとってのサステナブルな精神の芽生えがあったと思います。それは既存への警鐘のようなタイムレスなアティチュードでした。
今のようにライフステージが変わっても女性が働ける場が整っていなかったこともあり、出産を機に働き方をフリーランスに変更しPRとしてのキャリアを重ねました。
その後、創刊した子どものファッション誌は、もっと子どもたちを取り巻くさまざまな環境への疑問から文化醸成を掲げ、服育、アート、ドネーションなどを特集したニッチ過ぎる媒体で(笑)リーマンショックと同時に、志なかばに廃刊となりました。
再びJUNグループに復職し、グループ全体のブランドを統括するマーケティング・コミュニケーション部にいましたが、定年退職、再契約を経て「LA LIGNE ROPÉ(ラリーニュ ロペ)」というブランドと文化部門のコミュニケーションを担当しています。

――LA LIGNE ROPÉはサステナブルなファッションブランドとしてスタートしたのですよね。

久保さん:みなさんご存知のように、アパレル業界は、大量生産、大量廃棄、生産者の低賃金労働、輸送にかかる大きな環境負荷など様々な問題があります。2015年に国連がSDGsを立ち上げた頃から個人的にも会社的にも何か改善をしなくてはならないという思いがありましたが、当時、企業や既存ブランドでは、すぐにアクションを起こせずもどかしさは感じていました。
そんな中2017年に新規ブランドを発足するチャンスに恵まれ、アパレル業界では循環型ファッションブランドの先駆けとしてテストマーケティング的にスタートしました。
2020年にはステートメントを制定し、宣言をコミットできるよう、プランを再構築しました。

――ブランドでは具体的にはどのような取り組みを行っていますか。

久保さん: LA LIGNE ROPÉでは、日本古来の着物の技術と知恵を大切にしています。着物は「直線裁ち」の技法が取り入れられ、布を無駄にしないよう工夫されてきました。そんな日本の「もったいない文化」から直線裁ちによって生地を無駄に捨てないという点が大きな特長です。
また、人件費が安い国で生産をせず物流に絡む燃料をなるべく抑えるなどして、国産にこだわり、シンプルで透明性の高い生産と流通を実現しました。
ステートメントの中に「真っ直ぐに、しなやかに、美しく」ということを掲げていますが、「真っ直ぐに」というのは直線裁ちの意味合いだけでなく、「精神的な正当性」という意味が込められています。
「Timeless ageless」という日本の文化を踏襲し、着物の美しいモノづくりの文化を後世に伝えていきたいと思っています。

 LA LIGNE ROPÉ ブランドサイト
 LA LIGNE ROPÉ オンラインストア

子どもに関わる慶祝ボランティアがライフワーク

――久保さんはいちご言祝ぎの杜の活動にも参加されていますよね。活動について教えてください。

久保さん:定年を機に、自分の興味があることはなにか、人生でやり残したことがないか、ということを考え、一般社団法人いちご言祝ぎの杜のボランティアメンバーとして活動を始めました。
いちご言祝ぎの杜は、児童養護施設や乳児院など、様々な理由で親元を離れて暮らす子どもたちに、七五三や成人式にお祝いを贈るする団体です。着物を選ぶところから始まり、当日はプロのヘアメイクが着付けやメイクをし、カメラマンが写真を撮ります。様々なボランティアがある中で、いちご言祝ぎの杜はファッションのプロフェッショナルが集まっているところが特徴です。

久保さん:いちご言祝ぎの杜では、お祝いだけでなく、施設や子どもたちにおける課題をヒアリングし、一緒に考えることも大切にしています。
実際、養護施設に七五三のお祝いの打ち合わせのときに、昨今、虐待やDVによって子どもの入所が急増していて、施設が満杯になっているということを伺いました。
その際に「施設入所だけではなく、一般の方も加担できる里親支援、養子縁組の認知がもっと流布すれば、軽減できることもある――。週末もしくは1年限定で子どもを預かるという選択肢があることや、支援金で子どもをサポートすることもできるということを知ってほしい」という、施設側の声があったので、LA LIGNE ROPÉではそれを周知するイベントを行いました。
また他にも活動の一環として、女子大学と学習プログラムと組み、後世のボランティアを育成する活動や女性支援も行っています。

――いちご言祝ぎの杜の活動の中で印象的なエピソードはありますか。

久保さん:七五三のお祝いとして児童養護施設や乳児院に行くことが多いのですが、何らかの事情を抱えている子どもたちばかりです。
七五三のお祝いの時に、7歳の子に「泣きたいぐらい嬉しい」「みんながいるから言えなかったけど、ありがとう」などの声に嬉しい反面、こちらの想像を超えてくる大人びた言葉使いに胸が締め付けられます。
心の中で「もっと子どもらしく、無邪気でいいのよ」と、こちらも泣きたくなります。大人への慶祝の節目に立ち合わせていただき、親が子どもの成長を寂しくも喜ばしいと思うように毎回ドラマッチックです。

「豊かさ」とは、無駄のない、飾らない生き方をすること

――多方面でエシカル、サステナブルな取り組みをされていますが、今後の展望を教えてください。

久保さん:2022年の夏に京都の茶道・千家十職、袋師の土田友湖家の仕事場の軒下にオープンした「A LITTLE PLACE」というギャラリーのPRとして携わっています。
そのプロダクト一つとして「紀siècle」というブランドがあるのですが、100年前の貴重な苧麻(ちょま)の着物をほどき使って、フランスの100年前の作業着のパターンに着想を経て、新たな服に創り変えて次の100年へ。まさに循環していくブランドです。
このように、さまざまな取り組みを通して、日本の「古くからある良質なもの」を世の中に伝えていきたいと思っています。価値があるものに再び光を当てて受け継いでいくことは、サステナブルの基本だと思っています。

A LITTLE PLACE 公式Instagram

――最後に、久保さんが考える「本当の豊かさ」とはなんですか。

久保さん:好きな言葉の一つに、ミース・ファン・デル・ローエの「Less is More」があります。日本語に訳すと「少ないことが美しい」という意味です。
「侘び寂び」と共通する概念であると思っていて、美しいものは華やかなものではなく洗練されそぎ落とされた「無駄がない」もの、時が育んだ「豊かさ」だと思います。
飾らない生き方の方が、自分にも地球にも負担がかからないと思います。そんなにたくさんのモノを持たなくても良いのです。
今、色々なことを淘汰して考え直さなくてはならない時代なのではないでしょうか。「Less is More」「侘び寂び」の精神が「本当の豊かさ」かなのではないかと思います。

いちご言祝ぎ杜 公式ホームページ
いちご言祝ぎの 杜公式note
いちご言祝ぎの杜 公式Instagram

取材・文 / オダルミコ

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