夜パンB&Bカフェが新オープン。枝元なほみさんが目指す「繋がる社会」とは

協力パン屋から売れ残りそうなパンを引き取って販売する「夜のパン屋さん」。今回、夜のパン屋さんが新しいプロジェクトとして、築150年の古民家「けやきの森の季楽堂」で「夜パンB&Bカフェ」をスタート。

運営を行う、THE BIG ISSUE JapanとMINI JAPANのスローガン「BIG LOVE」からBをとってB&Bと名付けられました。毎月第二土曜日に開催し、カフェに加えて、夜のパン屋さんやマルシェなども出店。
「次に来る誰か」のためにランチ代などを先払いできる「お福分け券」の仕組みを整えるなど、金銭的に余裕がない人でも利用しやすいアイデアが取り入れられています。

今回は、夜のパン屋さんを立ち上げた枝元なほみさんに、夜のパン屋さんが目指す「人と人が繋がる社会」についてお話を伺いました。

枝元なほみさんProfile

横浜市生まれ。料理研究家としてテレビや雑誌などで活躍。農業支援活動団体「チームむかご」を立ち上げ、NPO法人「ビッグイシュー基金」の共同代表を務めながら、雑誌「ビッグイシュー日本版」では連載を持つ。2020年にはパン屋さんで廃棄になりそうなパンを救う「夜のパン屋さん」をオープンし話題に。これまで多数の執筆を手掛けており、近著として『捨てない未来 キッチンから、ゆるく、おいしくフードロスを打ち返す』(朝日新聞出版)がある。

枝元なほみさん 公式Twitter
NPO法人ビッグイシュー基金公式ホームページ

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循環させる大切さを届けたい思いで、夜のパン屋さんをオープン

――はじめに、今回のカフェの元となっている「夜のパン屋さん」をスタートしたいきさつを教えてください

枝元さん:2019年に私が連載をしている『ビッグイシュー日本版』を発行する「有限会社ビッグイシュー日本」(ホームレスの人の仕事をつくり、生活再建を応援する社会的企業)に篤志家の方から寄付のお申し出があったのですが、「皆さんに配って終わりではなく、何らかの形で循環できるよう使っていただきたい」との要望でした。
「新たな仕事の場づくりができないか?」とビッグイシューのスタッフから相談を受けて、夕方まで売り切れなかったパンを街のパン屋さんからお預かりし、それを夜の時間帯に販売することを思いついたのです。破棄になるかもしれなかったパンを、必要としている人に届けるのです。
一見あまり関連のないように感じる夜のパン屋さんとビッグイシューですが、ふたつとも「最後のつなぎ役」という役割でリンクしています。

――夜のパン屋さんの活動は、SDGsの考え方とも深くかかわっていますよね

枝元さん:最近は社会の流れも変わってきて、みなさんが「自分たちもやらなくては」という雰囲気になり、一緒にやりたいと声をかけて下さる方が増えてきました。テレビで夜のパン屋さんを観て協力してくださるパン屋さんもいます。賛同してくださる方が増え、同じ想いを持ってできるのが嬉しいですね。

みんなで環境問題や社会問題解決の意識を持っていけたらと思っています。食べ物が満足に行き渡らない人たちのことや、自然環境のことを、子どもたちと一緒に学び考えながら食べ物をいただくことが大事ではないでしょうか。

「夜パンB&Bカフェ」はお互いを受け入れ合い、交流する場所にしたい

――今回、夜のパン屋さんから発展して「夜パンB&Bカフェ」をオープンするに至った経緯を教えてください。

枝元さん:夜のパン屋さん(以下、夜パン)は東京で2020年10月に始まり、オープンから2年が経ちました。つい最近、札幌にもオープンしたところです。夜パンの運営が軌道に乗り始め、次のステップに進めると感じたときに、色々な人とゆっくり話ができ、交流し合うカフェが出来たらいいなと思いました。そこでできたのが、練馬のけやきの森の季楽堂での「夜パンB&Bカフェ」の構想です。

自動車のMINIが企画する「BIG LOVE ACTION powered by MINI.※1」で支援先に選んでいただいたことで、場所を1年間借りるサポートを受けることができ、実施が可能になりました。カフェの運営パートナーとして、その他のサポートもして下さっています。

(※1)BIG LOVE ACTION powered by MINI. 性別・年齢・国籍にかかわらず、誰もが個性を発揮できる未来の実現を目的としたソーシャル・アントレプレナー支援の企画。世の中を良くするアイデアの中から、サポーターの投票により支援プロジェクトを選定。選ばれた活動に対し、MINI Japanが継続的なサポートを行なう。

カフェは、開放的でありながら温かみのある空間

――令和の時代とは思えないほど、「夜パンB&Bカフェ」は昭和の古き良き空気を感じます。懐かしい気分になりますね。

枝元さん:古民家だからというのもあると思いますが、誰でも受け入れる雰囲気がありますよね。このカフェは滞在時間に制限はなく、縁側でお茶を飲みながら何時間過ごしても大丈夫です。

イベントでは新鮮な野菜なども販売されている

ビッグイシューも協力して年末年始に実施している、生活に困っている人が無料で食事ができる場「年越し大人食堂」では、生活相談を受けたり、炊き出しをしたりしていますが、元気のない男性が多く、女性や小さなお子さん連れの方は食料をもらったらすぐ帰ってしまうことも多いんですよ。でも私はそういう人たちともお話をしたいし、繋がりを持ちたいと思っています。

だからこそ夜パンB&Bカフェでは、誰でも居心地よく過ごせる場所でありたいと思っています。他の人を受け入れ、自分も受け入れてもらい、一緒に時間を共有できるコミュニティが欲しいのです。
悩んでいることがあっても、「お茶を飲もうよ」「これを食べね」と声をかけあって繋がり合うことで、人は生きていけるのではないかと思っています。

女性がいきいきと働くことはコミュニティを生み出すきっかけになる

――夜パンではフードロスの問題に取り組まれていますが、女性の働く場所を作ることにも力を入れていらっしゃいますよね。

枝元さん: 夜パンの運営を通して、これからは男性だけでなく女性のできる仕事を増やすことに取り組みたいと思っています。私は幸いなことに仕事をやらせていただいていますが、コロナ禍で女性の貧困や格差の問題が浮き彫りとなり、仕事や住まいをなくした方もたくさんいらっしゃいます。
そんななか、コミュニティがあり、その中で「いつでも話せる」関係性が大切だと思っています。例えばシングルマザーでも、コミュニティがあれば子どもの世話も含めて助け合えると思うんです。スタッフには、積極的に「子どもも連れてきてね」と伝えるようにしています。

子どもっているだけで、その場の雰囲気が和らぎますよね。カフェには不登校の男の子が来ていますが、彼はキッチンのサポートを積極的に行っています。アメリカのレモネードスタンド活動のように、子どもがレモネードみたいなものを売ってみても良いですよね。

女性はもちろん、子どもにとっても居場所になれたらいいですね。

「ロス=捨てる」のではなく、命をつなげていくもの

取材時のカフェのメニュー。写真右は里芋の皮を活用し、甘辛く炒めたもの

――カフェのメニューは本来捨てられるものも工夫して調理し、美味しい一皿になっていますよね。食品ロスについてはどうお考えですか?

枝元さん:なにを「ロス」とするかは、人の都合なんですよね。できるだけ「ロス」にするのではなく、命を繋いでいくものとして、どう美味しい料理を作れるかを考えるのはとても楽しいですよ。

料理すると気付くのですが、自分で作ったお弁当よりもコンビニで売っている弁当の方が安いんですよね。でも、自分が作ったものの方が残さず大事に食べられたりします。大量生産、大量廃棄の時代ですが、安さだけでなく、美味しく大事に食べられる方を選んでいくのも大切なのではないでしょうか。

今後も「繋がる」をキーワードに社会を循環させていきたい

これからも「繋がり」を築いていきたいと語る枝元さん

――今後はどのようなことに力を入れていきたいですか。

枝元さん:夜のパン屋さんをやってみて思ったのは、「繋がり」が一方通行でなく循環する仕組みが必要だということです。人と人が相互に繋がり、みんなの輪が広がっていく活動をしていきたいです。具体的にはまだわかりませんが、もしかすると繋がりを求めて、食堂を作るということになるかもしれません。

働き方に関しても積極的に新しい取り組みを行っていきたいですね。例えば小さいお子さんがいると働く時間が限られてしまいますが、そのような方も働けるような場所を作っていきたいと思っています。

今回の取材を終えて

今回の取材を通し、不確実な世の中だからこそ悩んでいることを打ち明けるような場が必要であると実感しました。お茶を飲んで一息つける夜パンB&Bカフェは、お金には代えられない安心感が得られ、人と人との繋がりを再確認することができます。このような場所から、誰も取り残されない社会へのヒントが見つかる気がしました。

取材・文 / オダルミコ

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