自由で大胆な色遣いが目を引くアフリカ布やウガンダのサステナブルな素材を使用したバッグやアパレルを扱うライフスタイルブランド『RICCI EVERYDAY』。ひとつひとつ個性が際立つデザインは、自分らしくあることを肯定してくれるだけでなく、生産地であるウガンダの女性たちの生活も支えています。
今回は、現地の人との繋がりを大切にしながら、アフリカンプリントの魅力を伝える、RICCI EVERYDAY代表の仲本千津(なかもとちづ)さんに、活動や事業を通して感じる「豊かさ」について伺いました。
仲本千津さんプロフィール
RICCI EVERYDAY代表。学生時代より内戦や紛争の問題に関心をもち、アフリカの政治を研究。国内で銀行員を経て、NGOに転職しウガンダに駐在。そこでアフリカンプリントに出会い、翌年、アフリカ布を使用したバッグやアパレルを企画・製造・販売する『RICCI EVERYDAY』を設立。
2023年には、自身の半生を綴った著書『アフリカで、バッグの会社はじめました 寄り道多め、仲本千津の進んできた道』(著者:江口絵理、さ・え・ら書房)を出版。
「自分は何者なのか」自分だけの小さな抵抗がブランドに
―まず初めに、『RICCI EVERYDAY』に込められたメッセージについて、教えてください。
RICCI EVERYDAYは「“好ましい”より“好き”を」という想いを大切にしています。
それは、私が銀行員だった頃の経験が影響しています。全員同じ格好をして、同じ考え方になっていくのに強い違和感があって…。
例えば研修でも、答えがみんな一緒なんですよ。いろんな答えがあっていいはずなのに、みんな同じ答えに落ち着いちゃう。毎日服装も同じで、髪型や色まで決められていて。
私はそれに反発して、派手な格好をしていましたね。網タイツとか履いちゃって(笑)自分だけの小さな抵抗活動を続けていました。
でも、そうやって自分を表現することで救われたんです。色や個性的な格好で、自分らしさを保てている感覚がありました。周りが灰色に見えてくる中で、色のある服を着ることが私の支えになっていたんです。
「自分は何者なのか」ということがわからなくなった時、色を身に付けるのが力になったという原体験がRICCI EVERYDAYのアフリカンプリントに繋がっている、と思っています。
アフリカンプリントってすごくカラフルで、日本だと珍しい色の組み合わせがあるんです。それを見ると、今までの価値観が揺さぶられる感じがして。
「“好ましい”より“好き”を」という言葉は、誰かが「いいね」と言うものでなく、自分が「好き!」って思うものを選ぼうよ、というメッセージです。
ウガンダで一人の女性と繋がったことがはじまり
―仲本さんとアフリカンプリントの出会いを教えてください。
銀行からNGOに転職し、その駐在先がウガンダでした。ウガンダでは、本当に毎日が楽しかったです。どこへ行くにも、今日は何があるんだろうという感じでした。
ウガンダは過ごしやすい気温で、緑が多く、食べ物も美味しくて、人々もオープンマインドで話しやすいんです。治安も比較的良いところです。
休日にはいつも街や市場を巡っていました。そこで、出会ったのがアフリカンプリントです。
アフリカンプリントの布を見たときは、衝撃的でした。目の覚めるような色の布が天井まで高く積みあげられていて、「なんだここは!」ってすごく惹きつけられたんです。
友人と「こっちの柄がかわいい」とか「あっちの方がいいかな」なんて話をしながら、布を引っ張りだしてもらって。そんなことをしているうちに、あっという間に2~3時間経っていました。
たくさんのアフリカンプリントのなかから、ひとつ「いいな」と思うものを決めていくというプロセスがすごく楽しくて。
実際、日本の友人をそこに連れて行くと、みんな口をそろえて「楽しい」と言うんです。これは日本でも需要があるかもしれないと思いました。
―そこからブランドを立ち上げることになったんですね。
ウガンダで働く中で現地の女性のパワーに魅了され、普段は「縁の下の力持ち」のような彼女たちにスポットライトが当たるブランドを立ち上げたいと考えました。
私には「物を作る」という技術がなかったので、協力してくれる人を探している時に出会ったのが、ナカウチ・グレースという一人の女性でした。グレースは4人の子どもを抱えたシングルマザーで、金銭的に余裕がないながらも、子どもに教育を受けさせたいという強い思いを持っていました。
彼女は自分で生活を変えようと行動を起こしていて、育てた豚を売って収入を得るなど、賢明な方法でお金を運用していたんです。「彼女とならできる」と感じました。
最終的に、日本人の友人から縫製の得意な女性を紹介してもらい、グレースを含む3人と私でスタートしたのがブランドのはじまりです。
生活に困窮する人たちの支えとなるビジネスを
―ウガンダではグレースさんのように、困難な状況に置かれている女性が多いのでしょうか。
実は、ブランドを立ち上げたときに現地メンバーは皆シングルマザーだったんです。
「この国はシングルマザーが多いのかな」と調べてみたら、見えてきたのはウガンダの二極化された女性たちの姿と厳しい社会構造でした。
ウガンダは女性の政治家の割合も高く、都市部で教育を受けた女性は日本よりも「自分のありたい姿」を求めやすい環境にあるのでは、と思います。
しかし、農村部では男尊女卑の考え方が強く、男性が全ての意思決定権を持っています。
お金の使い方から子どもの教育まで全部決めてしまうんです。これが家庭内暴力に繋がることもあり、耐えられなくなって子どもを連れて家を飛び出す女性もいます。
一夫多妻制もシングルマザーという状況を生み出す要因の一つです。
妻の知らないところで夫が別の家族を作っている、なんてことも。そうすると家族の問題が起きて、お金もどんどん分配されて、金銭的に困窮してしまいます。
他にも紛争や、HIVなどの病気でパートナーをなくすなど、いろんな要素が重なって、シングルマザーがうまれやすいんです。
そういった女性が都市部に流れ込んできても、定職に就くことができず、多くの方が「インフォーマルセクター」と呼ばれる日雇いや日銭稼ぎの仕事にいきつきます。例えば、道端でトウモロコシを焼いて販売し、その日の売り上げで何とか生計を立てる生活を送っているんです。ひどい状況だと、セックスワーカーとして働くしかない人たちもいます。
私が事業をやるなら、都市部に暮らすシングルマザーなど、困難をかかえ社会的に疎外されている人たちを支える形のビジネスがしたいと考えるようになりました。
シングルマザーの彼女たちは、自ら十分な教育や経験がないことを選んだわけではありません。
「物作りが好きだけれど収入に繋がらない」「子どもを学校に通わせたいけれど仕事がない」など、様々な悩みを抱えています。
そういった方々にものづくりの機会を提供することで、彼女たちは好きな作業に没頭しながら安定した給料を得たり、子どもを継続的に学校に通わせたりすることができます。
また、日本という遠い国の人々に喜んでもらえる商品を作り、自分の技術が認められることに誇りを感じられるような、自己実現の場を作りたいと考えています。
「完壁」を求める減点方式の日本。いろいろな人を巻き込んで加点していくウガンダ
―ウガンダのシングルマザーを支える事業を行う中で、逆に彼女たちから学んだものや、影響を受けた考えなどはありますか?
たくさんありますね。
一つは、お互いを許し合う姿勢です。何か問題が起きても、誰が悪いかを追及するより、どう解決するかを話し合います。日本だと責任追及に注力しがちですが、現地では全く違うんです。
「この問題が起こらないようにするには、次はどうしたらよいか」というところを話し合っていて、私にとっては非常にカルチャーショックでした。この姿勢は、日本も学ぶべきだなと思います。
日本に住む私たちよりも、紛争や病気など、彼女たちには「死」が身近にあります。
皆が身近な人を亡くしたりしているからこそ、互いに許し合い、前を向いて生きていくメンタリティがあるのかなと思っています。
仕事に対する姿勢も学びたいところですね。スピードはゆっくりですが、彼女たちは「仕事があること」にとても感謝しています。会社の問題を自分ごととして捉えて、前向きに対処してくれることも多いです。
例えば、コロナ禍のロックダウンの時、公共交通機関が止まっていたのに、彼女たちは片道30分から1時間という時間をかけて工房まで歩いて来てくれたんです。そのおかげで商品を定期的に日本に輸出でき、販売を続けられたということがありました。
―他にもウガンダと日本で、大きく違うなと思う価値観や文化はありますか。
日本人は、完璧を求め、求められる場面が多いと思います。「これができていない、あれができていない」という減点方式で、評価がどんどん下がっていく印象を受けます。
逆にウガンダは加点方式ですね。協力して、何かできるようになるとみんなで「すごい!」って喜ぶ。ひとつひとつの物事の受け止め方が全然違って、ストレスを感じにくいですね。
―お聞きしているとウガンダは、仕事や生活がしやすそうな印象ですね。一方で大変なこともありますか。
もちろん良い面だけでなく、文化の違いや歴史的な背景もあって、一緒に仕事する上でいろいろ難しいところもあります。
例えば職場では、人間関係の問題なども起きますが、外国人の私はどこまで介入すべきかをいつも考えています。私が入ると、みんな意見が言えなくなってしまうからです。
それは私が雇用主だからというのもありますし、基本的に外国人に対してイエスマンになろうとする国民性がある気がしています。
ウガンダの人々からは、「雇われている側の自分たちは、強く意見を言う立場じゃない」と思っているのを感じます。植民地時代からの名残なのかもしれません。
難民の人々に向けて、ものづくりの技術支援を行っていきたい
―直近の大きなイベントやプロジェクトがあれば教えてください。
来年以降は特に、ウガンダ北部に暮らす南スーダンからの難民の人々と関わりたいと思っています。
難民の方々は通常、難民キャンプに暮らして1、2年で自国に帰るのが前提ですが、ウガンダでは、定住してもらうことが基本。移動の自由もあるし、教育を受ける権利も、社会保障を受ける権利も、ビジネスを始める権利もある。アフリカでは一番の、世界でも有数の難民受け入れ国なんです。
ただ、最近の問題として、国連機関の予算が世界中の紛争地域に分散されているため、南スーダンからの難民への支援がカットされつつあります。そのため、今まで食料支援を受けていた難民たちの生活が立ち行かなくなる恐れがあるんです。
そこでウガンダでは、彼らに職業訓練の機会を提供しようという動きがあり、農業や自動車整備、ミシンを使った製品作りなどの技術を支援しようとしています。
その中で私たちRICCI EVERYDAYは、ものづくりの技術、品質管理の技術、デザインなどを提供し、ローカル市場だけでなくグローバル市場も狙えるようなスキルを提供していきたいと考えています。
世界中から紛争をなくすために、一歩ずつできること
―RICCI EVERYDAYの今後の展望をお聞かせください。
私は学生時代から、「紛争を経験した地域が、どうやって安定や平和を取り戻すか」ということを考えてきました。そこに暮らす人たちが自分の生活に前向きになれているかどうかが非常に重要だと考えています。
仕事を持つことで「自分には居場所があるんだ」「必要とされているんだ」という感覚を持てることが必要なのです。
どんなに小さな仕事でも、「あなたがいないとこれが成り立たない」と言われるだけで、頑張ろうという気持ちになりますよね。
紛争が起きると、生活に困っている人は、報酬を目的に民兵として参加するというのも珍しくありません。
しかし、仕事があることで、人々が紛争に向かう流れを少し遅らせたり、断ち切れたりする可能性が出てくるのではないでしょうか。仕事を捨ててまで紛争に参加するべきなのかどうか、考える機会と選択肢を提供できるのです。
不安定な地域にこそ仕事が必要です。将来、ウガンダ以外の地域でも紛争後の支援ができるようこれから経験を積んでいきたいです。
豊かさとは、誰かのことを考えられる「余白」
—異なる文化の中で平和を目指して活動する仲本さんですが、ご自身の考える「豊かさ」について教えてください。
誰かのことを考えられる気持ちの余白や、人との繋がりがあることって、すごく豊かだなと思います。
人と繋がるということは、とても主観的なものではあるのですが、誰かと出会えたことで面白い経験ができたり、新しい知識に触れられたり、そんなステキな出会いのある環境にいられたらラッキーだと思います。
どんどん人生が深く、豊かになっていくような気がするんです。
RICCI EVERYDAY公式サイト:https://www.riccieveryday.com
取材・文 / 糸崎 舞