「今の世界を納得して生きたい」グランプリ受賞、内田英恵さんのドキュメンタリーはなぜ多くの共感を呼ぶのか

2024年3月、都内でYahoo!ニュースが主催する「ベスト エキスパート 2024」授賞式が開催されました。
Yahoo!ニュースに所属する各分野のエキスパートが選出される中、ドキュメンタリー部門では、映像作家の内田英恵さんがグランプリであるFilmmaker of the yearを受賞。

今回は、授賞式直後の内田さんに映像制作の裏側にある想いなどをお聞きしました。

ドキュメンタリー部門 グランプリFilmmaker of the yearとは

ドキュメンタリー部門 グランプリFilmmaker of the yearは、「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」において、1年間に配信された作品の中から、社会課題への貢献度、視聴数、反響などを考慮し、卓越した映像作品に贈られる年間賞です。

内田英恵さんの主な選考理由は、被写体と信頼関係を築き自然体や本音を引き出すことで、視聴者が主人公に共感できる作品を作り出している点です。2023年に制作した3本の作品は多くの人に社会課題を身近に感じるきっかけを提供しました。作品の質と視聴数の功績を称えられ、今回グランプリの受賞に至りました。

内田英恵さんプロフィール

1981年東京生まれ。東京とロサンゼルスで映像制作を学び、帰国後映画制作会社勤務を経て独立。放送・プロモーション・商用映像などの制作に携わる一方で、映像制作経験を活かしたプロボノやドキュメンタリー制作に取り組む。
2023年、「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」では以下の3作品を発表。

同意のない性交が犯罪にならない現実——13万の署名と共に刑法改正に挑む当事者たち(2023/1/28公開)

「死にたい人放っておけない」相談者の悩みに寄り添い続ける女性住職 #今つらいあなたへ(2023/9/2公開)

「必要なのは情報」難病ALSでも生きる喜びを――母を思う19歳の決意#病とともに(2023/12/21公開)

取材させていただいている方の人生の一部を預けていただいていることに感謝の気持ちでいっぱい

―今回は「ベスト エキスパート 2024」ドキュメンタリー部門グランプリの受賞、おめでとうございます。改めて、今のお気持ちをお聞かせください。

ありがとうございます。今回の受賞に関して、何よりも取材を受けてくださった方への感謝の気持ちが大きいです。
ドキュメンタリーに出るということはとても勇気がいることだと思います。みなさん覚悟を決めてご出演されています。
ドキュメンタリーの制作では、私が一方的にカメラを回すだけでなく、取材を受けてくださった方と一緒に作品をつくっていくことになります。向き合っている課題は違いますが、みなさんが最後まで一緒に伴走してくださったことへの感謝がまず一番にあります。
それから、これまでは年に1本の作品を作るので精一杯でしたが、2023年は3本の作品を作ることができました。これは、「Yahoo!ニュース エキスパート」のスタッフさんの全面的なサポートがあってのことです。
今回の受賞は私一人のものではなく、みなさんのおかげだと思っています。

ありのままの姿や声を届けられるのがドキュメンタリーの魅力

―経歴を拝見すると、初めはドキュメンタリーではない映像制作をしていたとのことですが、ドキュメンタリーを撮り始めたきっかけを教えてください。

もともと人々に元気や勇気を与えられるような映画を撮り、厳しい環境にいる人や子どもに届けられたらいいなと思っていたのですが、自分の作りたいものを作ってそのような場所に持って行くのではなく、別の役割もあるんじゃないかと少しずつ思い始めました。
前職でドキュメンタリーを作る機会をもらったのですが、そのときに、実際に起こっていることを作り込まず、生のままを映し出し、そこに自分の視点を入れて編集していくドキュメンタリーに面白さと可能性を感じました。

―一番初めに撮った作品はどのような内容でしたか。

最初はALSという難病の患者さんを取材しました。その時は短編でしたが、何年後かに同じALSというテーマで長編の映像も撮りました。その長編の作品を再編集させていただいたのが、「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」での最初の作品です。

―様々なテーマで作品を撮られていますが、テーマは毎回どのように決められているのでしょうか。

お会いした方、取り組みなどについて、「知れて良かったな」「生きていく中で自分自身にもとても関わっているな」と感じられたときに、ぜひ作品にしたいと思って企画を考え始めます。

私たちを取り巻く文化にこそ豊かさがあるのでは

―ドキュメンタリーは社会や人の豊かさに結び付くものだと思いますか。

ルーツや歴史、文化は私たちにとって大切なものです。昨年出した3本は社会課題をダイレクトに映し出す作品でしたが、アートや音楽、映画など文化的なものにも深く興味があり、それらは生活に不可欠なものだと思っています。そのような文化と人との関わりを大切にしていきたいです。豊かさとはそこにあるものだと思いますし、今後そのようなテーマがあったら追求していきたいと思っています。

観てくれる方に希望や新しい視点を与えられる作品を作っていきたい

―今後はどのような作品を撮っていきたいですか。

私は、ドキュメンタリー作品を撮ることは、自分自身が今いる世界がどんな世界なのか知ることのできる一つの方法だと思っています。自分の隣にいる人がどんな人なのかを体温を持って感じることで、自分自身が今の世界を納得して生きられるんです。
今後も、「この事実に出会えてよかった」と思う人や物事に出会えた時にまた作品にしていきたいと思っています。
そして映像は観てくださる方があってのものだと思いますので、自己満足にならないよう、観てくださった方に、未来に向かう光や新しい扉を見つけてもらえるような作品を撮っていきたいです。

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