「相手の目線に立つことが強い社会への第一歩」福祉団体ビーンズが目指すもの

エシカルやサステナブルなライフワークを持つ人へのインタビューを通じて、“本当の豊かさ”を見つめ直すrootusの本企画。今回は、障害のあるスタッフが活躍するロースタリーカフェ併設の福祉施設「ソーシャルグッドロースターズ」などを手掛け、多方面で障がい者の支援を行ってきた一般社団法人ビーンズの代表坂野拓海さんをお迎えします。坂野さんの言葉には、「誰一人として取り残さない」社会の本質とその実現に向けたヒントが散りばめられています。

坂野拓海さんプロフィール

経営コンサルタントとして働いた後、“密に個人と向き合う仕事がしたい”と障がい者専門の就職支援会社に入社。そこでの仕事や様々なボランティア経験を積むうちに、知的障がいや精神障がいなど目に見えづらい障がいがある方への支援の必要性を感じ、ビーンズを設立。2018年には就労支援施設であるコーヒーショップ「ソーシャルグッドロースターズ」をオープン。2022年には、クラフトビールの醸造所「方南ローカルグッドブリュワーズ」をオープンし、これまでにない形で施設利用者と社会が繋がれるソーシャルグッドな場所を作り出している。

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時間をかけながら、やりがいある現場を作っていく

――rootusは以前「ソーシャルグッドロースターズ」を取材しましたが、坂野さんが代表を務めるビーンズでは、障がい者の方を中心に支援されていますよね。

「私たちは障がいのあるなしに関わらず、何かしらの困難を抱えている人のサポートをしたいと思っています。身体障がいや知的障がいなど、障がいと一言に言っても様々な障がいがありますが、障がいの中には、虐待や社会生活の中で生じてしまったものも少なからずあるのです。そのような困難の中にいる方の立場に立って、総合的にサポートしていく場を作っていこうと動いています。

ここ数年力を入れてきた「ソーシャルグッドロースターズ」や「方南ローカルグッドブリュワーズ」では、障がい者が、従来のような単純作業ではなく、一人ひとりがスキルを身に着け、生き生きと働けるような就労支援施設を目指しています。

障がいも困難も人それぞれですが、今の時代に合った選択肢をできるだけ多く増やし、個人に合った支援を提供していきたいと思っています。」

本格的なスペシャリティコーヒーを提供する千代田区のソーシャルグッドロースターズ

――多角的に支援事業をされていますが、活動や運営の中で大切にしていることはありますか。

「“場を作る人を育てること”というのは大切にしています。代表として、意見を言いたくなるときもあるのですが、それだけでは現場が育たず、施設利用者やスタッフも委縮してしまいます。時間がかかることがほとんどですが、みんなで意見を出し合って、みんなで課題を解決していく。それを繰り返していくうちに、現場がどんどんブラッシュアップされていき、ノウハウがたまっていく。そんな場所であったら、全員が生き生きとやりがいを持って働けるようになるのだと、ソーシャルグッドロースターズの運営を通し、身を持って感じています。」

対等に生きていくために、一緒に楽しみを見つけ成長していく現場を

――福祉に携わる方の働きかたの見直しが求められている中で、職員にとってもビーンズの運営方針は革新的なものですよね。

「長年福祉の現場に携わってきましたが、障がい者を支援する仕事は、肉体的にも精神的にもきついことが多く、正直、心から楽しさを感じ、喜びを持って働こうという雰囲気ではありませんでした。それは、慢性的な人手不足や人材が育たないことからも顕著ですね。でも、障がい者の方を支援するということは、お世話をすることとイコールではないと思うんです。一緒にどう楽しみながら、一緒にどう成長していけるか、ともに対等に生きていくためには、視点の転換が大切だと感じます。」

方南ローカルグッドブリュワーズのクラフトビールは商店街の新名物に

誰一人取り残されないために必要なのは、批判ではなく、困っている人と同じ目線に立つこと

――近年はSDGsの広がりもあり、「誰一人取り残さない社会」というキーワードが注目されるようになっていますよね。福祉を取り巻く環境にも変化は見られますか。

「変化はかなり感じますね。日本を含む先進国では中間層が薄くなってきているとよく言われますが、取り残される側になる人も増えてきていると感じます。そのため、みんなが取り残される当事者になる可能性が増し、取り残されることへの危機感も持っているのではないかと思います。私たちのような活動に目を向けていただける機会も増えました。ともに生きていける社会の実現に向けて、一人ひとりの意識が変わってきている証拠なのではないでしょうか。

そんな社会で大切なのは、分断や批判ではなく、困っている人と同じ目線に立って、必要な支え方を模索すること、支援の選択肢を増やすことではないかと思います。幸運なことに、日本は生活困窮者などに向けての行政の支援は充実しており、システムは十分に機能しています。そこに困っている人の気持ちに寄り添う人々や、団体が増えていけば、さらに助け合いの輪が広がっていくのではないでしょうか。」

――これまでにない方法で福祉のあり方を追求してきたビーンズですが、これからの展望を教えてください。

「ソーシャルグッドロースターズや方南ローカルグッドブリュワーズは、障がい者など生活が困難な人たちへ向けた支援の“出口”だと思っています。ここで社会とつながりを持ち、積み上げた経験やスキルを活かして、他の場所に飛び立っていく人もいます。これからは、そのような“出口”の支援だけでなく、支援の“入口”になる場所も作っていきたいと思っています。社会には、様々な理由で頼れる人がおらず、身動きが取れない人がたくさんいらっしゃいます。そのような方を受け入れるのが支援の入口だと思っています。生活がままならない方の受け入れ先となり、スキルや経験を積んで社会で活躍できるようになるまで総合的、継続的に支援できるような団体になっていきたいです。」

本当に強い社会とは、ポジティブな循環が生まれる社会のこと

――最後に、坂野さんにとっての「豊かさ」とはなにか教えて下さい。

「豊かさとは、“自分も相手も気分がいいこと”だと思っています。これは職場や家庭でもそうですが、関わるみんながお互いを知ろうと努力し、相手を尊重し合うことで、一日を心地よく過ごすことができる、そんな関わり方が理想ですよね。ともに時間を過ごす人やチームがあることは、何事にも代えがたいことです。それこそ、取り残されない社会の実現に向けて大切なことの一つではないかと思います。信頼できるコミュニティやバックグラウンドがあるからまた新たなことに挑戦できるんですよね。そのような良い循環が生まれる社会は、とても強いものであると思います。」

取材中に何度も、「私よりも施設利用者や職員が主役です」という言葉が出てきた坂野さん。ビーンズでは、活動に関わる利用者やスタッフ中心の運営であることが垣間見えました。

障がいがあるかどうかにかかわらず、一人ひとりが個性を生かし、尊重し合うことの大切さが求められる今。お互いの目線に立ち理解しようとする姿勢こそが、誰一人として取り残さない、強く豊かな社会の実現に向けた第一歩なのではないでしょうか。

ソーシャルグッドロースターズ 公式ホームページ
方南ローカルグッドブリュワーズ 公式ホームページ

取材・文 / rootus編集部

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