厚生労働省の調査によると、日本の子どもの7人に一人が相対的貧困であることがわかっています。そのような現状の中、子どもたちに食事を無償または低価格で提供しようと各地で開かれているのが子ども食堂です。認定NPO法人全国こども食堂支援センター むすびえによると、2023年2月時点で全国にある子ども食堂は7,363箇所。その数は年々増加傾向にあり、子ども食堂を必要としている家庭が多いことを示していますが、ボランティアで行われていることが多いことから、継続的な運営が課題になっています。
今回は、2023年にスタートした「こどもごちめし」を運営するKids Future Passportを取材。継続的な子ども食堂を全国に広めるための新たな仕組み、こどもごちめしの背景にある想いを、代表の今井了介さんに伺いました。
子どもの成長を社会や地域全体で支える新たな仕組み
2023年にスタートしたこどもごちめしは、地域の飲食店を起点にこどもの居場所をつくり、食事を提供するウェブ上のサービスです。こどもごちめしのサイトに飲食店が登録し、子ども食堂としての役目を担います。中学生以下の子どもたちは提携しているお店から好きな場所を選んで食事をとることができ、その食事代は、企業や自治体、個人の寄付で賄われる仕組みです。
今井さんは、こどもごちめしの特徴を以下のように説明します。
「現在、日本に住むこどもの7人に一人が相対的貧困で、ひとり親家庭の相対的貧困は、48%以上と言われています。見た目だけではわからないケースも多いため「隠れ貧困」とも言われ、困窮する家庭が多いという現実が、まだまだ知られていないのです。
そのような子どもたちを支援しようと、子ども食堂が各地にありますが、みなさんボランティアでやられていることがほとんどなので、資金面や運用面から、毎日の食事を提供することは難しいことを隣で見て感じていました。そこで、社会全体で、継続的に子どもの食をサポートしていけないかと考えたのが、こどもごちめしです。
こどもごちめしは、飲食店を利用した継続性の高い子ども食堂です。こどもたちは、行きたい日に行きたいレストランを選んでいくことができます。
また、家庭の状況というのは大変繊細なものです。子ども食堂というと、周りの目が気になって利用できない方もいます。こどもごちめしはご飯を食べ終わったら、スマホ内のデジタルチケットを見せます。電子マネーで支払うのと動作が似ており、他の人から見ると、子ども食堂を利用したということがわかりにくいため、本人や家族は周りの目を気にせずに利用できるのも特徴です。」
こどもごちめしは、子どもが食事を無料(1,000円まで)でとれるだけでなく、子どもを持つ家庭や飲食店がサービスを使うハードルがとても低いことも特筆すべき点です。
「飲食店は登録料を必要とせず、既存のメニューを子どもたちに提供するので、コストがかかることはありません。利用したいご家庭は、ユーザー登録をすれば、誰でも1週間に3回利用することができ、生活保護を受給している家庭の子どもは毎日利用することができます。」
家庭と飲食店と寄付する団体や個人、三方が関わり合って、子どもたちの食を社会全体で支えていく。それをウェブのシステムで展開しているのがこどもごちめしなのです。
全国の子ども食堂と連携して広く深い支援を
子ども食堂の役割は、食事を提供することだけではありません。食の場を通して、地域の大人と子どもとの接点ができ、コミュニティが作られるという大きな意義も持ち合わせています。
「本人や親御さんからありがたいと言ってもらえるこどもごちめしのサービスですが、飲食店様からも、“地元の子どもと関われるきっかけができて嬉しい”という声をいただきます。」と今井さんは話します。
また、今井さんは、全国の子ども食堂にもこどもごちめしのシステムを利用してもらい、連携していくことを大切にしていきたいと言います。
「相対的貧困に当てはまると言われている子どもたちが国内に200万人以上もいる中、こどもごちめしのサービスは、より多くの子どもたちに食を届けることができます。そして、各地の子ども食堂の役割は、地域コミュニティにとって大変重要です。多くの子どもの成長を見守っていくためには、地域の子ども食堂と伴走し、広く深く支援していくことが重要だと考えています。
ふるさと納税の使途として“子どもを支援する”という選択肢を増やし、子ども食堂の食事代に充てていくという取り組みも少しずつ始まっています。例えば茨城県境町はその取り組みで、3年間で6万食以上を子どもたちに届けています。
最近は、子ども家庭庁の子どもの未来応援基金という補助金も新たに新設されました。そのような補助金とこどもごちめしのシステムを利用して、自治体や商店街ぐるみでの子ども食堂を開催いただけたら嬉しいです。」
相対的貧困の家庭の子どもたちに、毎日の食を提供するためには、現状の地域の子ども食堂に任せておくには負担が大きすぎます。こどもごちめしのようなサービスが、自治体や企業を巻き込んで社会全体で子どもたちを支えていくこと、そして地域の子ども食堂が子どもたちの居場所を作っていくことの、2つの方向からのアプローチが必要なのです。
食と一緒に子どもたちの夢を応援していきたい
こどもごちめしでは、子どもたちが楽しめるイベントも企画しています。
「まだスタートして間もないですが、イベントも積極的に開催しています。例えば、先日はプロバスケットボールであるBリーグに所属するサンロッカーズ渋谷の選手をゲストに呼び、子どもたちとシュート体験を楽しみました。
キッチンカーを呼び、そこで実際にこどもごちめしのサービスを体験できるような場所にしました。子どもたちにとって、プロのバスケットボール選手と間近で会えるのは、きっと思い出に残りますよね。
スポーツや音楽に関連したアクティビティや、こどもごちめしのアンバサダーの方々に協力していただくイベントも開催していく予定です。
子どもの食事だけでなく、夢を応援するサービスにしていきたいと思っています。」
助け合いの循環ができる社会を目指して
子どもが毎日当たり前に食事をとれるよう、社会全体で見守ることを目指す、こどもごちめし。今井さんは最後にこう話してくださいました。
「こどもごちめしは、食事が終わってレジで画面を見せると、協賛する企業の名前が出てくるようになっています。それを見て“自分たちはこういう大人に支えられているんだ”ということを頭のどこかにでも置いておいてもらえたら、その子たちが大人になったときに誰かを支えよう、困っている人を助けよう、という循環が生まれてくれるのではないかと期待しています。
子どもが大人に期待していないという話も聞いたりしますが、“絶対に君たちのことを見限ってないよ”“取り残されていないよ”というメッセージを強く伝えていきたいと思っています。」
自分が受けた善意を他の誰かに渡すことで、善意をその先につないでいくというPay it forwardのマインドを持つこどもごちめし。日本の子どもの未来を社会全体で支えていこうというエシカルな取り組みの今後に注目です。
お話を聞いた方
今井了介さん
NPO法人Kids Future Passport 代表理事。Gigi株式会社 代表取締役。作曲家・音楽プロデューサー。2018年にGigi株式会社を立ち上げ、人とお店と地域にやさしいビジネスモデルを提案し、フードテックを使用した「ごちめし」などのサービスを展開。未来の子どもたちを支える支援の輪を広げていきたいと、2023年7月にNPO法人Kids Future Passportを設立、「こどもごちめし」をローンチした。
こどもごちめし公式HP:https://kodomo-gochimeshi.org/