このところ、よく耳にするようになった「グラスフェッド」。
聞いたことはあるけれどよく知らない、なんとなく気になっている、という方も多いのではないでしょうか。
これから日本でも広く認識されていくことが期待されるグラスフェッドについて、その意味やメリット、海外での先進的な取り組み、日本における現状を紹介します。
グラスフェッドとは

直訳すると「草で育てられた」「草を食べて育った」という意味のグラスフェッドとは、牧草や干し草などの自然な飼料を与え、放牧を基本とした自然に近い環境で飼育する方法のこと。また、その方法で飼育された牛や羊、山羊の肉や乳、そしてそれらの加工品などを指す言葉でもあります。
放牧され、自由に動き回れる環境で育つため、肉は脂肪が少なく、引き締まった赤身の肉質が特徴です。日本ではまだ少ないですが、海外では比較的早くから行われている飼育方法です。
近年では、グラスフェッドビーフやグラスフェッドヤギミルク、グラスフェッドバター、グラスフェッドチーズ、グラスフェッドプリンなど、少しずつ商品ラインナップが増えてきています。
グレインフェッドとの違い

グラスフェッドと異なる飼育方法の代表例として「グレインフェッド」があります。トウモロコシや大豆、麦などの穀物を中心とした飼料で飼育する方法で、日本でも世界でも一般的な飼育スタイルといえます。
グレインフェッドで飼育された牛肉は、穀物を与える日数によって、ショート(100日以上)、ミドル(150日以上)、ロング(200日以上)に分類されます。
グラスフェッドビーフと比べて、適度な脂肪が細かい網目のように入り、肉質が柔らかいのが特徴です。
グラスフェッドのメリット

グラスフェッドには、主に4つのメリットがあります。
アニマルウェルフェア
グラスフェッドで飼育される牛や羊は、栄養豊富な牧草地を自由に歩き回ることができ、ストレスがかかりにくい環境で育ちます。
また、基本的には牧草や干し草などを食べて育つため、抗生物質や成長ホルモンの影響を受けることなく、健康に育ちます。動物との関わり方が見直される今、欠かせない視点です。
環境に優しい
グラスフェッドは、温室効果ガスの削減にも効果があるとされています。
放牧された牛が牧草を食べることで草の成長が促進され、より多くの葉が生えます。その結果、植物はより多くの二酸化炭素を大気中から吸収し地中に根を張ります。
吸収された二酸化炭素は安定した炭素として地中に貯蔵され、何世紀にもわたってそのまま残るとされています。そのため、グラスフェッドは環境保全においても、持続可能な方法として大きく貢献しているのです。
栄養分が豊富
研究によると、グラスフェッドの肉には、グレインフェッドのものより、健康に良いオメガ3脂肪酸が2〜4倍多く含まれているといわれています。
また肉と牛乳には、免疫機能の改善や動脈硬化の予防、血圧上昇抑制作用のある共役リノール酸が3〜5倍多く含まれ、ビタミンEの含有量も多いことが研究で示されています。
生産者にとってのメリット
グラスフェッドでは、大量の飼料や病気を防ぐための抗生剤や、成長を促すためのホルモン剤を使わないケースが多いことから、それらにかかる費用を抑えることができます。
さらに、牛や羊の排泄物を肥料として牧草が成長し、それをまた家畜が食べるというサイクルができるため、草刈りなど管理の手間も時間も削減できます。
また、グラスフェッドは市場価値が高いだけでなく、アニマルウェルフェアやサステナブルといった社会への貢献度も高いことから、社会的信頼が得られます。
グラスフェッドのデメリット

社会的な貢献度が高くメリットが大きい一方で、いくつかのデメリットもあります。
最も大きなデメリットは、グレインフェッドのように牧草飼育期間などの基準が明確ではない点です。また、科学的な根拠に基づく飼育方法が十分確立されていない点もデメリットの一つです。
特に山間地域が多い日本では、「放牧に必要な十分な広さが確保しにくい」「乳量が安定しにくい」「知識と経験を積んだ専門家が少ない」といった課題があり、グラスフェッドへの取り組みのハードルを高くしているといえるでしょう。
さらに、自然な生育に任せることで飼育期間が長くなり、食肉として流通させる際に価格が高くなる傾向があります。これは消費者にとってもデメリットといえるかもしれません。
グラスフェッドが進んでいる国は?

グラスフェッドへの取り組みは、世界各国で進められており、酪農が盛んなニュージーランド、オーストラリア、イギリス、アイルランド、アメリカは、先進的な取り組みを展開しています。
なかでもニュージーランドでは、政府機関である農業・一次産業省(MPI)がグラスフェッド乳製品に関する管理基準を明示しています。主な要件は以下の通りです:
- 飼料の90%以上が牧草および牧草由来の飼料(過去3年間のローリング平均)
- 年間340日以上、かつ1日あたり少なくとも8時間以上の放牧
- 健康的で動物福祉に配慮した放牧環境の維持
これらの基準を満たすには、MPIに認定された第三者機関による監査が必須であり、基準をクリアすると政府認証マーク「Grass-Fed FernMark」を使用することができます。
また、ニュージーランド最大の酪農協同組合「フォンテラ(Fonterra)」は、農学研究者と連携して、より科学的な放牧管理手法を導入。政府の基準に加えて、独自の「Fonterra Grass Fed Standard」を設け、品質と透明性の向上に努めています。
アメリカコロラド州のアメリカグラスフェッド協会(AGA)は、USDA(アメリカ農務省)と協力して、グラスフェッドの法的定義を確立。その後、独自基準をもとに認証制度をスタートさせました。
グラスフェッドの認証制度は、法的定義が存在しない国にも広がりを見せており、日本でも認証制度が始まっています。
日本におけるグラスフェッドの取り組み例

グラスフェッドの取り組み例は各国それぞれありますが、実は日本には、長年、放牧に取り組んできた生産者がいます。今回は代表的な事例を紹介します。
しあわせ牧場
岩手県宮古市の自然豊かな土地で、畜舎を用いずに牛、ヤギ、ヒツジを飼育。グラスフェッドのミルクやバターだけでなく、プリンやヨーグルトなどの加工品も展開しています。
http://www.shiawase-farm.co.jp/
北里大学獣医学部付属フィールドサイエンスセンター八雲牧場
北海道八雲町にある、環境保全型畜産の実践研究の場としての牧場。広大な牧草地で、アニマルウェルフェアの考えに基づき、牧草だけで牛を育てています。
グラスフェッドの商品を探してみよう

世界でも日本でも、グラスフェッドに取り組む酪農家はまだまだ少なく、商品も充実しているとはいえませんが、少しずつ商品ラインナップや取り扱い店舗は増えています。
オンラインショップで購入できる商品も多く、グラスフェッドは身近な選択肢の一つになりつつあります。
アニマルウェルフェア、サステナビリティ、ヘルシーと良いことづくしのグラスフェッドは、これからさらに広がっていくことが考えられます。
これまで気になっていた方も、あまり興味がなかった方も、どんな商品ががあるか知るために、まずはグラスフェッドの商品を探すことから始めてみてはいかがでしょうか。








