悲劇から10年。エシカルファッションの原点、ラナ・プラザ崩壊事故とは

グローバル化が進み、原料や生産コストを抑えられるようになったことで、私たちは安く服を手に入れられるようになりました。
しかしその一方で、衣服の大量生産・大量廃棄による環境への負荷や、生産者の労働環境などが問題になっているのも事実です。

今、様々なブランドで、人権や環境を尊重したファッションに移行する動きが高まっています。この記事では、世界がファッションの在り方や楽しみ方を考え直し、エシカルファッションということばが広まるきっかけになった「ラナ・プラザ崩壊事故(ダッカ近郊ビル崩落事故)」について見ていきます。

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人や動物、環境に配慮する「エシカルファッション時代」の到来

出典:unsplash.com

エシカルファッションとは、素材の調達から販売に至るまで、生産・販売に関わる人や動物、自然環境を尊重し、配慮されて作られたファッションのことです。

労働者に適切な支払いを行う、労働環境を整える、動物性の毛皮などを使用しない、なるべく水を使わずCO2の排出を最低限に抑えるなどといった取り組みを行っているものを指します。環境に配慮しているという点では、持続可能なアパレルの生産を目指すサステナブルファッションと被るところも多くあります。
今でこそ企業や消費者のファッションに対する向き合い方は少しずつ変わってきましたが、グローバル化が進み、安価な労働力を海外に求めるようになってからは、生産の背景を透明化することは難しいことでした。私たちが着ている洋服はどのような場所でどのように作られたものかを知らずに購入するケースが多かったのではないでしょうか。
そんな中、企業や消費者が、生産者の人権を尊重するファッションについて考えるようになった大きな事故があります。それが「ラナ・プラザ崩壊事故(ダッカ近郊ビル崩落事故)」です。

世界に大きな衝撃を与えた「ラナ・プラザ崩壊事故」

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ラナ・プラザ崩壊事故、別名ダッカ近郊ビル崩落事故は、2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカから北西約20kmにあるシャバールで起きたビルの崩壊事故です。縫製工場、銀行、商店などが入っていた8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」の崩落により、死者は1134人、負傷者は2500人以上にのぼりました。
犠牲者の多くが縫製工場で働いていた若い女性たちであったとされています。
ビルは以前から耐震性を無視した違法な増築を繰り返し、事故の前日にも、ひび割れが発見されましたが、建物の所有者はその指摘を無視していました。その杜撰な安全管理の末、ビル内に設置された4基の大型発電機の振動や数千台のミシンの振動が引き金となり、崩落したとされています。

事故後ラナ・プラザの縫製工場は、粗末な安全管理が明るみになっただけではなく、低賃金で長時間労働が行われている「スウェットショップ(搾取工場)」であり、労働組合を作ることを認められていなかった等の不平等な労働環境も広く知れ渡ることになりました。
このビルの崩壊により、消費者やファッション業界が求めてきた安価な洋服の先にあった、劣悪な労働環境が浮き彫りとなったのです。

崩壊事故を受けた世界の反応

ラナ・プラザには、世界でも有名なアパレルブランドの下請けを工場が入っていました。ベネトンや、ウォルマート、マンゴーなど、日本でも馴染みのある世界的なブランドの下請け工場もラナ・プラザにありました。各ブランド・メーカーはこの労働環境について知らなかったと発表していますが、事故後これらのブランドには多くの批判的な意見が寄せられています。

崩落事故から、約1か月後には「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関わる協定(The Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh )」が作られ、欧州を主としたブランドや小売企業とバングラデシュの労働組合等との間で、その協定の締結がなされるようになりました。この協定にはユニクロやH&M など多数の主要アパレルが署名しています。
輸出先の国や地域によってその対応は変わりますが、他にも、労働法の順守、従業員への給与支払いおよび休日の付与などをチェックする機能なども新たに作られるようになり、バングラデシュの縫製工場を取り巻く環境は少しずつ変化しつつありますが、まだまだ課題が残っているのが現状です。

ファッションレボリューションデーの設立

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事故後、市民の間でもムーブメントが起きています。ラナ・プラザ崩壊事故を受けて、イギリスではファッションレボリューションが設立されました。環境や人権に配慮したファッション産業を広めるキャンペーンとして、世界中に広まっています。ファッションレボリューションではラナ・プラザ崩壊事故に合わせて、毎年4月24日を「ファッションレボリューションデー」と制定。
その前後1週間のファッションレボリューションウィークは、世界中で様々なイベントが行われます。2022年、日本では「服を長く愛するために」をテーマに多方面から服の“お直し”をするクリエーターや団体による展示が行われました。

複雑なサプライチェーンとグローバルサウス・グローバルノース

グローバル化が進み、あらゆる素材を調達し生産するファッションは、サプライチェーンの透明化が非常に難しいとされています。しかし、ファストファッションを生み出す縫製工場の多くは、新興国にあるのが事実です。残念ながら、安価な労働力を求められる生産地の新興国では、現地の労働環境に光が当たることは、今まであまりありませんでした。
アパレル産業に関わらず、ヨーロッパやアメリカ、日本といったグローバルノースと呼ばれる国々がグローバル化の恩恵を受ける一方で、バングラデシュをはじめとしたグローバルサウスと呼ばれる国々にその負担がかかっていることがあるのです。このことをグローバルノースに住む私たちは知っておく必要があります。

関連記事:日本に住むなら絶対に知っておきたい、グローバルサウス・グローバルノースとは

ラナ・プラザ崩壊事故への理解が深まるドキュメンタリー映画

最後に、ラナ・プラザ崩壊事故やバングラデシュの下請け縫製工場について描かれた映画をご紹介します。

『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』

ラナ・プラザ崩壊事故をきっかけに作られたファッション業界の裏側に迫るドキュメンタリー。服の価格が低下する一方、人や環境が支払う代償が劇的に上昇してきた現代で、服を巡る知られざるストーリーに光を当て、「服に対して本当のコストを支払っているのは誰か?」という問題を提起した話題作。

『メイド・イン・バングラデシュ』

10代半ばからバングラデシュの労働闘争に関わってきたダリヤ・アクター・ドリの実話をもとに作られた、バングラデシュの縫製工場で働く女性たちが主人公の物語。バングラデシュ・ダッカ生まれの女性監督ルバイヤット・ホセインがメガホンをとった。

悲劇を繰り返さないために、私たちにできること

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買い物をするということは投票することと同じことです。買い物をするときには、その洋服がどのように作られているのか背景を知ろうとすることや、グローバルサウスの国々でどんなことが起きているのかを知ること。そしてより良い選択を行っていくことが、ラナ・プラザのような事故を起こさないために、私たち消費者ができるアクションです。

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