毎日のように食卓に並ぶお肉や卵、牛乳。みなさんは普段どのように食材を選んでいますか。
今、「アニマルウェルフェア」という考え方が世界で広がりを見せています。私たちがいただくお肉や卵はどのように飼育され生産されているのか。動物が生きている間、過剰な苦痛を伴っていないか。
美味しさで選ぶだけではなく、そのような生産の背景を知ることも消費者の大きな役割になってきています。
アニマルウェルフェアとは?
アニマルウェルフェア(Animal Welfare)とは、家畜が生まれてから死を迎えるまで、ストレスが最小限に抑えられ、健康的で行動欲求が満たされた状態の飼育方法を目指す畜産のことです。日本語では「動物福祉」とも訳されます。
世界の動物衛生の向上を目的とする国際獣疫事務局(OIE)は、「アニマルウェルフェアとは、動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」と定義しています。
アニマルウェルフェアにおける「5つの自由」
アニマルウェルフェアの考え方は以下の「5つの自由」が指標になっています。
①飢え、渇き、及び栄養不良からの自由
②恐怖及び苦悩からの自由
③物理的及び熱の不快からの自由
④苦痛、傷害及び疾病からの自由
⑤通常の行動様式を発現する自由
- 十分に良質な飼料や水を与えられているか
- 丁寧に取り扱われているか
- 清潔かつその動物にとって適切な環境下で飼育されているか
- 健康管理はされているか
- 動物が正常な行動をするために十分なスペースが用意されているか
などが挙げられます。
家畜の動物も同じ地球に生きる大切な命。動物にとってなるべく負担のかからない環境で大切に飼育しようというのがアニマルウェルフェアの基本的な考え方です。
近年この考え方は、家畜にとどまらず、ペットや実験に使われる動物に対しても広まってきています。
アニマルウェルフェアの始まりと欧州の現在
アニマルウェルフェアは、1964年、近代畜産に疑問を呈したルース・ハリソンが「アニマル・マシーン」という本を発表したことに始まります。本の発表を受けて、イギリスでは専門委員会が発足。調査の元、近代畜産には虐待の可能性があると指摘されました。
「5つの自由」という考えはそこから始まり、今日のアニマルウェルフェアの礎となっています。
現在、欧州ではアニマルウェルフェアの考えの元、様々な動きが見られます。
鶏においては、狭小のケージである「バタリーケージ」が禁止され、鶏卵ひとつひとつに飼育方法などの記載が義務付けられています。
豚においては、身動きの取れない「ストール」による飼育が禁止。 2018年には、バタリーケージ等に限らずすべてのケージの廃止を求める署名運動が行われ、それを受けて、2021年には欧州委員会がケージ禁止の立法案を提出することを約束しました。
思うように進まない日本国内のアニマルウェルフェア
一方日本では、農林水産省を中心に「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」などが作成され、普及活動をはじめています。
ただ、まだEUのような規制はありません。
国内で生産される90%以上の卵は、バタリーケージで飼育された鶏のものとされています。
また、豚は群れを作って生活する動物ですが、立つか座るかしかできないほどの狭いストールで一頭ずつ仕切られて、一生のほとんどの時間を過ごすというのが現状です。
諸外国でこのストールが規制される中で、日本では使用率が90%にものぼります。
ケージやストールは動物に多大なストレスをかけるのはもちろんのこと、けがや運動不足のリスクにさらされることになります。
最近ではオリンピックの会場や選手村の食材調達においても、アニマルウェルフェアの考え方が重要視されており、ロンドン大会やリオ大会では放し飼いや平飼いの卵が最低条件となりました。
しかし、東京オリンピックでは、その実現が叶わず、バタリーケージの卵が容認されたことが物議を醸しだしました。
お肉や卵の表示を確認してみることからはじめよう
まだまだ日本では発展途上のアニマルウェルフェアですが、まずは、このアニマルウェルフェアという考え方があるということを知ること。そしてお肉や卵、牛乳を買うときに飼育方法などの記載があれば確認してみることが大切です。
もちろんアニマルウェルフェアの考え方を取り入れている生産者もたくさんいるので、そのような商品を探すのも良いでしょう。
大切な命をいただいているという意識を持ち、生産の背景を知り、その上で購入するということが大切なのではないでしょうか。