社会や人々のありのままを切り取り、映し出すドキュメンタリー。映像というかたちでこの世界の“リアル”を知ることは、地球にも人にも優しい未来を考えるきっかけになります。
本連載では、気軽に観ることのできる短編のドキュメンタリー作品を配信する「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」から、今観たい1本をセレクト。毎月テーマを変えて、映像という切り口から、持続可能でエシカルな社会を考えます。
6月のテーマは「ファッションと環境問題」です。
装うことを楽しむすべての人へ
6月は、環境保全の重要性を見直すための環境月間です。私たちの現代的な生活は地球環境にとって負担となることが多く、一人ひとりがサステナブルな社会の実現に向けて行動することが求められています。
大量に生産できるようになった衣服も、その多くが短期的なサイクルで廃棄され、ファッション産業は他の産業と比べても、環境に与える影響が大きいことで知られています。
しかし、私たちに必要なのは環境のためにおしゃれを我慢することなのでしょうか―。
一人の靴職人の持つ想いに触れ、本質的な美について考えてみませんか。
『NIBE LEATHER ゴミでつくったドレスシューズ』
NIBE LEATHER ゴミでつくったドレスシューズ（Yahoo!ニュース ドキュメンタリー）
監督/撮影/編集：杉岡太樹
作品のあらすじ
社会や公益のための事業を行っている企業に与えられる、B Corp認証を取得したシューズブランド「H.Katsukawa」。ブランドの代名詞として知られているのは、通常は「ゴミ」として扱われる原皮の部位を皮革として仕上げた「ニベレザー」です。
ブランドを手掛けるのは、イギリスで紳士靴の本場での伝統製法と、素材にこだわる職人の仕事を学んだシューズデザイナー勝川永一さん。
イギリスの画一的な美意識に対して常に疑問を抱いてきたと言う勝川さんは、本場イギリスできめ細かく、なめらかで、均一に整ったものが「良質品の正解」とされることを目の当たりにした経験から、自身が感じる違和感や欠乏感をプロダクトに落とし込み、表現してきました。
廃棄となる素材や自然由来の素材を取り入れる、生産者の人権に配慮するなど、環境意識や倫理観をベースにしたサステナブルファッションブランドも多い中、ニベレザーのシューズ作りは自身の信じる「ファッションとしての美しさ」やクリエイティビティを追求することから始まりました。
靴のファクトリーが軒を連ねる英国ノーザンプトンの「ノーザンプトン博物館＆美術館」に永久コレクションとして収蔵されるなど、高い技術と芸術性が世界的に認められてきた勝川さんの考える真のファッションとは―。
結果的に“ゴミ”の活用にたどり着いた
「シューズ作りは、既存の価値を集めて上手に組み合わせることが定石です。ほぼ出来上がっているものを一部色を変えるとか、多少パターンを変えるとかの方が外れはないですよね」。作品内で勝川さんはシューズ作りの葛藤を吐露します。
勝川さんは、自分にしか作り出せない、価値あるシューズを追い求めてきた結果、代表作であるニベレザーのシューズをはじめ生分解性のソールを取り入れたシューズなど環境へ配慮したプロダクトを生み出してきました。
自己表現にとどまらず、人生の楽しみや個人の内面の豊かさにも深く関係するファッション。作品は、本質的なファッションを追求することが、地球への想いにつながってゆくことを私たちに語りかけています。
衣服との向き合い方を見つめる1本
ファストファッションやトレンドは、その華やかさの一方で衣服の消費サイクルを早め、大量生産・大量消費・大量廃棄を生み出す要因となっています。
ドイツの調査会社が公表しているデータによると、世界で1年間に生産される靴は約239億足。そのうち95％以上が焼却や埋め立て処分されていると言われています。
アパレル産業における環境負荷の高さが叫ばれる中、本当に身に着けたいファッションを考えるのは、私たち一人ひとりの大きな責任です。
生活の大きな柱となる衣食住の「衣」。その在り方を勝川さんの視点を借りて考えてみてはいかがでしょうか。
文／kagari
※作品はこちらから視聴できます
NIBE LEATHER ゴミでつくったドレスシューズ（Yahoo!ニュース ドキュメンタリー）
参考：
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240516/k10014447801000.html
