社会や人々のありのままを切り取り、映し出すドキュメンタリー。映像というかたちでこの世界の“リアル”を知ることは、地球にも人にも優しい未来を考えるきっかけになります。
本連載では、気軽に観ることのできる約10分のドキュメンタリー作品を配信する「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」から、今観たい1本をセレクト。毎月テーマを変えて、映像という切り口から、持続可能でエシカルな社会を考えます。
4月のテーマは「地域と挑戦」です。
新たな道を歩む人へ贈りたい物語
新年度を迎える4月は、就職や転勤、入学など新たなスタートを切る人々にとって特別な時期です。桜が満開となり希望に満ちた空気が漂う中、人生の新たな挑戦に踏み出す瞬間は、誰しも期待だけでなく、緊張や不安などをいだくのではないでしょうか。
そんな季節におすすめしたい今月の1本は、Yahoo!ニュースの「ベスト エキスパート 2025」ドキュメンタリークリエイター部門、グランプリに選出された作品。
過疎化が進む街が舞台となったこの作品は、持続可能な地域の在り方について気付きをもたらすだけでなく、新しい日々の様々な場面において、観る人に寄り添い勇気をくれる1本です。
『母の心配』

監督/撮影/編集:山田裕一郎
作品のあらすじ
作品の舞台は、人口約4,200人(令和7年2月末)の北海道厚真町。過疎化が進むこの町に2021年、4歳の娘と愛犬とともに移り住んだシングルマザーの渡部真子さんは、「協働型」地域おこし協力隊員として町の林業に携わり、3年の任期を勤め上げました。

任期を終えた後も、厚真町で暮らすことを決意した真子さん。元から携わっていた林業に加えて地元名産のハスカップ農家に弟子入りし、小さな畑で試行錯誤しながら栽培にも携わるようになりました。
町の主力産業であるハスカップ栽培ですが、深刻な高齢化と後継者不足により農家は厳しい直面に立たされています。
縁あってハスカップ栽培に携わることとなった真子さんは、苦しい状況にあるハスカップ産業の未来の担い手のひとりとして貢献していきたい想いがあります。

作品の最後には、「自分の力で生きていくことを実現したいし、それを娘にも見てほしい。そしたら、娘もいろんなことを乗り越えられる人になるんじゃないかなと思っています」と、慣れない地で、新たな仕事に挑戦をする理由を話します。

一人の女性の生き方から考える、これからの地域社会
2024年の『令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート』によれば、消滅可能性都市は744自治体にのぼると発表されています。
作品の舞台となる北海道厚真町は現在消滅可能性都市には指定されていませんが、ハスカップ栽培など主要産業の衰退が顕著です。厚真町だけでなく、他の多くの地方においても少子高齢化は歯止めがきかず、移住誘致や地域産業の担い手を呼び込むことは喫緊の課題となっています。
作中でも度々登場する、手作業でひとつずつ収穫や選別を行う場面からも、わたしたちの手に届くまで多くの手間がかけられていることが分かるハスカップですが、その栽培は難しく金銭面では決して楽なものではありません。

しかし、「正解のない時代」と言われるように生き方や働き方は多様化を遂げ、主人公の真子さんのように、自己実現を大切に考える人が増えてきていることは確かです。
試行錯誤しながら農作物と向き合い、子育てにも奮闘する真子さんの前向きな姿勢は、地方と人の持続可能性の希望となってゆくことを感じさせます。

「自分のやっていることに自信が持てない」と話す真子さんですが、力強くもしなやかな生きざまに、励まされる方は多いのではないでしょうか。
このような生き方を選ぶ人たちがこれからの地域発展の担い手になっていくのかも知れません。
はじまりの季節に、背中を押してくれる作品を
人口減少、地方創生などの言葉が叫ばれる中、ある家族の営みから地方で暮らす上で理想論だけではなく現実的な視点も描き、地域社会のこれからの在り方を考える今回の作品。
新たな土地や環境で新生活を迎える人も多い4月、作品を通して勇気をもらうきっかけとしてみてはいかがでしょうか。
文/kagari
※作品はこちらから視聴できます
母の心配(Yahoo!ニュース ドキュメンタリー)