世界には、さまざまな陶磁器があります。日本にも、古くから続く焼き物の産地と窯元があり、日常使いの食器から工芸品として価値の高いものまで多種多様です。
そんな日本の焼き物の特徴と魅力を、サステナブルな一面も織りまぜて紹介していきます。
日本の焼き物の特徴

日本の焼き物の特徴はいくつかありますが、最も特徴的なのは、海外のものと比較して、左右対称ではない、厚みが不均衡、色や模様が統一されていないものが多くあることです。また、それらが一般的にも広く受け入れられているだけでなく、文化的、芸術的な価値の高いものが多いのも特徴です。
海外の焼き物の多くが、左右対称の形で、かつ左右同じデザインや図柄が使われます。一般的にもそういったものが好まれる傾向にあるのが、日本の焼き物との違いです。
日本の特徴的な焼き物の根底には「不完全さ」を愛でるといった、日本独自の美意識と、釉薬が織りなす色の濃淡や模様など、自然発生的な作用を慈しむ精神があるといわれています。
意外な発想が生んだサステナブルな焼き物

日本の焼き物は、産地と窯元によって質感や色の使い方などが違うように、産地としての成り立ちもそれぞれ違います。
中には、意外なきっかけと発想から生まれたものもあります。その一つが、愛媛県砥部町を中心に作られている砥部焼です。
江戸時代、藩の財政の立て直しを目的に砥石くずを用いて始まったのが砥部焼です。天然の鉱物である砥石は、山から切り出す際に砥石くずが出て、その処理に手間とコストがかかっていました。そんな本来捨てられる砥石くずを活用して生まれた砥部焼は、経済的にも環境的にもとてもサステナブルな発想から生まれた焼き物といえます。
どんな種類がある?

焼き物には、土器・陶器・炻器(せっき)・磁器の4つの種類があります。
- 土器:小石や砂などをつなぎとした粘土で形を作り、釉薬をかけずに700〜800度で焼成したもの。縄文土器、弥生土器などが広く知られているように、原始的な道具を表す場合に使われますが、現在も素焼きの技法として、園芸用ポットなどに応用されています。
- 陶器:陶土とよばれる粘土質の土を練って形を作り素焼きした後、釉薬をかけ1200度前後で焼成したもの。一般的な食器の他、抹茶椀や花器など工芸品としてもさまざまなものがあります。
- 炻器:鉄分を含む粘土質の土が主な原料として使われ、1200〜1300度で長時間かけて焼成されます。食器や花器、置物などの他、建築用タイルにもよく使われます。
- 磁器:石を主な原料とした焼き物で、釉薬をかけて1300度以上の高温で焼成されます。陶器よりも硬く耐久性があり、家庭用の食器として幅広く使われています。
人類が初めて作った焼き物が土器、次に古いのが陶器、炻器、磁器という流れです。
有名な日本の焼き物とその特徴

日本の焼き物として有名なのは、三大焼き物といわれる、瀬戸焼・美濃焼・有田焼です。
また、日本六古窯として日本遺産に認定された常滑焼・越前焼・信楽焼・丹波焼・備前焼(瀬戸焼も認定)の他、清水焼・益子焼・唐津焼・九谷焼・萩焼・会津焼などもよく知られています。
日本三大焼き物
瀬戸焼
愛知県瀬戸市とその周辺が生産地で、中国の青磁や白磁のような白い素地が特徴。起源は古墳時代で、多種多様な陶磁器が生産されてきました。伝統的工芸品から現代的なデザインのものまでラインナップが豊富。日本六古窯の一つでもあります。
美濃焼
黄瀬戸、瀬戸黒、志野、織部など、茶の湯とのつながりが深い焼き物を世に送りだしてきた、千年以上の歴史を持つ陶器です。岐阜県多治見市、土岐市、瑞浪市などの東濃地域が生産地。文化的価値の高いものも多いですが、普段使いのリーズナブルなものも揃っています。
有田焼
佐賀県有田町とその周辺で生産されている、日本で最初に焼かれた磁器。江戸時代には、伊万里焼もしくは肥前焼と呼ばれていました。藍と紅の独特な染付が特徴的で、骨董品として高い価値を持つものも多く、国内外ともに根強い人気があります。
日本六古窯
常滑焼
愛知県知多半島の常滑を中心に平安時代から生産されてきた、素焼きのような素朴な風合いが特徴の焼き物。常滑焼の急須はお茶をまろやかにするといわれ、高く評価されています。
越前焼
850年前の平安時代末期から続く、福井県越前周辺で生産されている焼き物。特有の技法で作られた手作り感と、鉄分の多い陶土が生む自然の風合いが魅力です。
信楽焼
ご存知、狸の置物で有名な滋賀県信楽町周辺で生産されている陶器。鎌倉時代中期に始まり、火鉢、茶壺、徳利、土鍋、食器など、大物から日々使う雑貨類まで、幅広い製品が生産されています。
丹波焼
兵庫県丹波篠山市周辺で生産されている、850年以上の歴史を持つ焼き物。素朴で飾り気のないシルエットと、灰釉や鉄釉が織りなす自然な優しい色合いが特徴です。
備前焼
日本六古窯のなかで最も古く、岡山県備前市伊部地区周辺で生産されている陶器。釉薬を使わず色付けもせず、焼く時に現われる色の変化が織りなす自然の模様が特徴であり魅力です。
清水焼・九谷焼・唐津焼
清水焼
平安時代以前に起源を持つ、華やかな色と図柄が特徴的な焼き物。江戸時代初期に京都の清水寺の参道である五条坂周辺で発展し、現在は京都市清水焼団地が生産地の中心です。
九谷焼
17世紀前半に生産が始まった古九谷焼の流れをくむ陶磁器で、深みのある複数の色を使った大胆な図柄が特徴的。石川県加賀市、小松市など南部を中心に生産されています。
唐津焼
桃山時代から続く佐賀県唐津市周辺で生産される陶器で、土の性質、釉薬、技法によって6種類ある。素朴で力強い印象のものが多く、日常使いの器として定評があります。
生活を豊かにする日本の焼き物

これまで紹介してきた焼き物は一部に過ぎず、まだたくさんの焼き物と窯元があります。またここ数年、伝統工芸の伝承に取り組んできた結果、若手の陶芸家も登場し、伝統的な技法に新しい感性が加わった、スタイリッシュな食器や日用雑貨も増えています。
素朴な風合いの一輪差しに花を飾る、手に馴染むカップでコーヒーを飲む、落ちつきのある和色のプレートでケーキを食べるなど、イメージしただけで楽しくなる気がしませんか。
日本の焼き物は、忙しい日常にほんの少しほっとする時間を与えてくれるかもしれません。
日本の焼き物が思い出させてくれるもの

物を大事にする精神と、不完全を愛でる精神に育まれてきた日本の焼き物は、長い歴史の中で時に形を変えながら発展してきました。欠けたり割れたりした陶磁器を美しく装飾しながら修復する「金継ぎ」も、古くからある漆を使った修復方法が発展したものです。
茶の湯が広まった室町時代から金粉が使われるようになったようですが、身近なところで生産された焼き物を日常的に使い、身近なところで修復し、長く使うという自然な流れが日本の焼き物にはあったことがうかがえます。
「もったいない」という言葉が世界で広がった今、日本の焼き物の根底にある、物を大事にする精神を思い出す必要があるのかもしれません。