身の回りのものや人とどう向き合う?アイヌ文化に見る豊かな社会のヒント

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2024年1月、全国の映画館で上映が開始されるやいなや、多くの人々を魅了している映画『ゴールデンカムイ』。そんな『ゴールデンカムイ』の作中では、アイヌの人々の暮らしがフィーチャーされており、本作をきっかけにアイヌの文化に興味を持った方も多いのではないでしょうか。

アイヌの文化にはエシカルな生活に活かせるような伝統的価値観や、生活の知恵が多く存在しています。本記事では、マンガ『ゴールデンカムイ』でアイヌ語の監修を担当した中川裕さんの著書『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』から、アイヌの人々の暮らしに根付く、より良い社会へのヒントを見つけます。

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アイヌ民族とは

出典:photo-ac.com

アイヌ民族は、おおよそ17世紀から19世紀において東北地方北部から北海道(蝦夷ヶ島)、サハリン(樺太)、千島列島に及ぶ広範囲に先住していていた民族のことです。

日本語と系統の異なる言語である「アイヌ語」を話し、自然界すべての物に魂が宿るとされている「精神文化」を持ち合わせているアイヌ民族は、祭りや家庭での行事などでは「古式舞踊」を踊るほか、独特の「文様」による刺繍や木彫りの工芸など、民族固有の文化を発展させてきました。

しかし、19世紀当初から20世紀後半まで行われた、日本の中央政権による「同化政策」により、多くの文化や風習が制限されてきた歴史があります。

現在は、平成31年4月に「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(「アイヌ施策推進法」)が制定、令和2年7月には、アイヌ文化の復興・発展に向けたナショナルセンター「ウポポイ(民族共生象徴空間)」(北海道白老町)が開業するなど、民族とその文化を守るために、取り組みが行われています。

アイヌ文化から学べる豊かな社会へのヒント

アイヌ民族の風習や考え方には、私たちの豊かな社会に欠かせない要素がたくさん詰まっています。その内容を紐解いていきましょう。

「カムイ」とのいい関係によって生活が幸福に保たれる

出典:photo-ac.com

アイヌの文化を知るために、キーワードの一つとなっているのが、「カムイ」です。

「カムイ」とは、人間の周りにある、人間が生活を送るために必要なものを指します。木や水、動物などの自然的存在はもちろんのこと、小刀や鍋、家などもカムイとなります。つまり「環境」のことを表しているのです。

『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』では以下のように説明されています。

アイヌの伝統的な考え方では、表を歩いている犬や猫、庭にやってくるスズメやカラスはみなカムイです。神様のお使いなどということではなくて、その一匹一匹がカムイなのです。そればかりではありません。道端に立っている木も、その下に生えている草も、その間を飛び回っている虫たちも、基本的にはみんなカムイです。それどころか、家や舟や、鍋や茶碗などの食器類――つまり人間の作ったものもカムイですし、ガスコンロの火もカムイです。

中川 裕『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(集英社新書、2019年)

アイヌの人々は、アイヌ(=人間)とカムイとがいい関係を結ぶことによって、互いの生活が幸福に保たれると考えています。

感謝の気持ちを表す最大のお祭り「イオマンテ」

アイヌ民族の最大の祭りである「イオマンテ」は、アイヌの人々の循環的な価値観をよく表していると考えられるでしょう。

アイヌの文化では、クマは、カムイモシリ(神の国)から人間の世界にやってきてくれたカムイだとされています。くまは自分がまとう衣(毛皮)や肉を人間にもたらしてくれるので、人間たちはそのお返しに酒や供物、踊りなどを捧げてクマをもてなし、多くのお土産を持たせてクマをカムイモシリへ送り返すのです。

そして、イオマンテによって神の国へと送り返されたクマの霊魂に「アイヌ(人間の世界)はとても楽しいところだった」と認識してもらい、またクマたちが人間世界にやってきて、その肉や毛皮を人間たちに与えてもらうように行う祭事なのです。

いただいたものに感謝し、もてなし、再び天へ返して、また戻ってきてもらう……この一連の考え方はまさに循環を表しています。そこには、資源を与えてくれるカムイに対しての感謝の気持ちと、それがこの先もずっと続くことを願う未来への視点が感じられます。

これを私たちの生活に置き換えてみると、果たして私たちは自分たちの周りの「カムイ」と良い関係を結べているのでしょうか。大量の廃棄物、過度な消費などが当たり前になっている社会で、カムイ=環境に感謝し、共存していくという姿勢からは考えさせられることがたくさんあります。

武力ではなく、対話で解決しようとする文化

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アイヌ独自の文化として「チャランケ」という紛争の解決方法が存在しています。「チャランケ」とは「弁舌を行う」という意味で、コタン(アイヌの村)内外で争いがあった場合には、それぞれの立場から代表して「チャランケ」が選出され、裁判のようなものが行われました。

双方の主張は、どちらかが相手を言い負かすまで数日間にも及ぶこともあったようですが、「チャランケ」では個々の意見が尊重され、すべてが「言葉」によって解決されてきたのです。

アイヌの物語には、「トパットゥミ」という紛争が登場します。それは非常に凄惨なものであり、アイヌの人々はそれを教訓とし、対話を重視してきたと考えられています。

『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』では以下のように説明があります。

このトパットゥミという戦いの特徴は、一切言葉を交わすことなく、おそらく襲ってきた相手が誰かもわからないまま、戦いが終わり始まることです。(中略)言葉によるコミュニケーションを欠いた争いは、凄惨な結果を引き起こすということを熟知していたアイヌの人々は、だからこそ言葉によってすべてが決定されるような解決法を、長い時間をかけて構築してきたのでしょう。

中川 裕『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(集英社新書、2019年)

現在、世界各地では戦争や紛争が絶えることはありません。私たちも普段の生活のなかで、紛争や戦争によって崩壊した都市や、罪もないのに命を奪われた人々のニュースを目にしています。争いを解決するには、武力行使しか道はないのか。アイヌの人々のように、対話で解決できることはないのか考えていくことが大切です。

アイヌ文化から私たちの在り方を考える

今、映画の人気とともに見直されているアイヌ民族とその文化。今回ご紹介した以外にも、アイヌの文化には自然や人と共に生きる風習や考え方が存在しています。

カムイとの良き関係を築き、言葉によって争いごとを解決していく。アイヌの人々の文化には、より良い社会へのヒントが隠されているのではないでしょうか。

【参考】

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