実はサステナブル?平安時代にあった豊かな暮らし【平安時代を紐解く】

紫式部を主人公とした、2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』。本作がきっかけで、平安時代に興味を持った方も多いのではないでしょうか。

平安時代はその名の通り、平和な時代でした。そのために独自の文化が発展し、日本らしさのベースが形成されたといえるでしょう。どんどんグローバル化していく現代にこそ、日本の文化の基盤が築かれたプロセスを知ることは、とても重要なことではないでしょうか。

本連載では、さまざまな視点から平安時代を紐解き、「豊かな文化」とは何なのかを考えていきます。

最終回となる今回は、平安時代の文化に散りばめられた、サステナブルな暮らしのヒントを見つけていきます。

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日本文化の源となった平安時代にみるサステナブルな暮らし

1000年以上経っているにもかかわらず、現代の私たちの生活に根付いている、平安時代の文化。

かな文字や、「もののあはれ」を感じる日本独自の美意識もこの時代に誕生したものです。多くの和歌・文学作品は時代を超えて多くの人に親しまれ、七夕や桃の節句などの年中行事は、平安時代の慣習が時代を経て発展してきました。

『光る君へ』では、多くのシーンでその魅力を味わうことができます。

作中では華やかな描写が多く、豪華絢爛なイメージのある平安時代ですが、その文化や生活は意外にも、サステナブルな知恵に溢れています。

衣・食・住などを中心とした平安時代のモノ・コトから見る、持続可能な生活へのヒントを紹介します。

工夫にみちた着物の発展

出典:photo-ac.com

着物というと、日本の伝統的な衣服のことを想像される方は多いのではないでしょうか。伝統的な着物の形が大きく発展したのが、平安時代のことだといわれています。

平安時代に誕生したのは、着る人の体の線にとらわれない「直線裁(ちょくせんだち)」という製法です。直線裁によって、衣服にゆとりが出て、日本の気候や風土のなかで快適に過ごせるようになりました。また、寒いときには重ね着ができる、暑いときには風通しのよい素材を使うなど、工夫にも溢れています。

直線裁の着物は、生地を断ち切る際に曲線を極力使わず、反物を真っ直ぐに裁ちます。生地に無駄を出さず、廃棄を生まない点で非常にサステナブルな手法と言えるでしょう。

さらに、平安時代の着こなしには、季節感を大切にした色合いが取り入れられていました。使われる色は自然のなかにある「美しいもの」の色で、自然を表現したコーディネートを楽しんでいたのです。

地産地消と保存食中心の食生活

出典:unsplash.com

平安時代の人びとは、基本的に地元で採れた旬の物を食べていました。たとえば、海から離れた京都の中心部では、野菜が食文化の中心的役割を果たしていたといいます。
全国的に魚などは、イワシや鮎などの淡水魚・沿海魚がよく食べられていました。これは、川の多い日本ならではの食生活だといえます。

さらに、食材の多くは、長期保存をするため、干物にしたり発酵させたりする工夫がありました。梅干しなどの保存食も、この頃からすでに食べられていたといわれています。そのほかの発酵食品として「蘇(そ)」とよばれる、牛乳を濃縮してチーズのようにしたものが取り入れられていました。

現代で考えると、地産地消の食生活は輸送コストがかからないため、環境の負担が低い選択肢です。また、旬の季節以外にも食材を確保し、無駄なく食べきる方法として、食材を保存する知恵があったのです。

自然と共生する平安時代の建築

平安時代の貴族の住居には「寝殿(しんでん)造り」という建築様式が使われていました。
寝殿造りは、屋敷の主人の住居である「寝殿」を中心に、東・西・北などに別棟がおかれ、それぞれに妻子などが住んでいるという特徴を持っています。

庭からは四季折々の景色を楽しめるほか、風通しのよさなど、湿気の多い日本の気候に対応した建築様式でした。

当時の姿を今につたえる絵巻物『年中行事絵巻 鶏闘の図』では、季節ごとの自然や草花を愛でながら、貴族たちが宴を楽しむ様子が描かれています。

『光る君へ』のなかでは、平安絵巻の世界を再現するために、庭に設営されたテントのような「幄舎(あくしゃ)」や、「渡殿(わたどの。部屋と部屋をつなぐ渡り廊下のこと)」の下を優雅に流れる「遣水(やりみず)」などを制作し、平安時代の雅な様子を見事に表現していました。

日常生活で目に触れるところに、自然の景観を取り入れる工夫がなされていたことが分かります。

日用品にみられるエコな精神

平安時代には、日用品からもエコな精神が見出せます。

たとえば、風呂敷に衣類などを包んで運ぶ様子が、当時の暮らしを描いた絵画や書物などにのこされています。
近年繰り返し使用できることからその魅力が見直されている風呂敷は、平安時代にはすでに日常生活で広く使われていたのです。

当時は貴重なものだった紙にも、さまざまな工夫がなされていました。再生紙という概念が生まれたのも平安時代のことです。紙は非常に高価であったため、人々は和歌や書などに使われた紙を集め、リサイクルしていたのです。
これを「古紙の漉き(すき)返し」と呼び、再生された和紙は「薄墨紙」と呼ばれました。

『光る君へ』では、主人公のまひろ(紫式部)がみずから製本する「御冊子づくり」の様子が描かれました。当時は印刷技術がなかったので、1冊の本を手書きで書き写して複製していたのです。
書くだけでなく、どんな紙を選ぶのかということにも楽しみを見出しているこの場面。自分の作品を手ずから整えていく時間が豊かなものであったこと、紙一枚を大切に思っていたことが想像できるシーンでした。

平安時代の暮らしから「サステナブル」を見直そう

平安時代の暮らしには、着るものの工夫や地産地消を意識した食生活、自然と調和するために住まいを整えることなど、私たちの生活にも反映できるヒントが隠されています。

「サステナブル」は近年使われるようになった新しい概念ですが、日本に古くから伝わる文化を知ることこそ、自然と共生する生活の第一歩かもしれません。平安時代の暮らしから、どのような生活が豊かさをもたらしてくれるのかを考えてみませんか。

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この記事を書いた人

元舞台俳優からライターへ転身した1児の母。
日本舞踊や三味線を学んでいた経験から日本文化の魅力と大切さに気付き、世界に誇る日本文化や日本の古典文学、芸能の魅力を発信する。
趣味は読書と寺社仏閣巡り。

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