ルワンダと日本を“取引”ではなく“関係”でつなぐ。友だちから始まるフェアトレード

「安く買い叩かない」「適正価格で買う」――フェアトレードという言葉を聞いたとき、多くの人が思い浮かべるのはそのようなイメージではないでしょうか。それはフェアな関係性を築くための大切な第一歩です。

そしていま、フェアトレードの最前線では、新たな変化が起きています。生産地と消費地が商品を売り買いするだけでなく、人と人の関係性を構築するモデルへのシフトです。 

その変化の最前線を走るのが、ルワンダを拠点に活動するアパレルブランド「INSHUTI(インシュティ)」です。ルワンダ語で「ともだち」を意味するブランド名が示す通り、活動の核心にあるのは「ビジネスパートナーである前に、友だちである」という哲学です。フェアトレードのこれからの在り方とは?運営する望月優子さんにお話を伺いました。

ブランド発足は「友だち関係をつくりたい」という想いから

INSHUTIの代表・望月優子さん。手刺繍でロゴのアップリケを制作する工房IBABAにて

生地の販売からスタートしたINSHUTIは、現在ルワンダの9カ所の工房と連携し、アパレル、カバン、アクセサリー、サイザル素材のバスケットなどを製作し、日本で販売しています。

INSHUTIの活動はファッション雑貨の販売にとどまらず、ルワンダ産コーヒー販売をスタート。さらに、現地でのスタディプログラムの実施や、小中学校での出張授業など、幅広い活動を行っています。

モデルを務める、元お手伝いさんだったBellaと望月さん

国際開発とは縁がなかった代表の望月さんがアフリカと出会ったのは、夫のアフリカへの赴任がきっかけでした。

望月さんは、2008年にザンビアへ移住し、現地のNGOでボランティアとして、虐待を受けた子どもたちへのケアや感染症対策プロジェクトに参加。

その後マラウイ滞在を経て、2015年から2018年末までの3年間をルワンダで過ごします。この間、NPOスタッフとして関わった職業訓練プロジェクトが、INSHUTIの原点となりました。

長年の活動の中で、支援者と受益者というアンバランスな関係にいつも疑問を抱くようになった望月さん。

寄付をもらってプロジェクトをやる立場では、どうしても対等な友だちにはなれない―。同じ人間なのに、生まれた場所によって、大きな格差があるという不均衡さをどう解消するか、真剣に考え続けてきました。

「寄付をもらってお金や食べ物を配る活動ではなく、自分たちが希望を持って手を動かし、足を動かすというところが、人の姿を大きく変えるんですよ。それが尊厳を持って生きるということだと気づいたんです」

望月さんは一方的な寄付ではなく、対等に関わっていくために必要なことは何なのか、その答えをビジネスの中に見出しました。

「小さくてもビジネスを通して関わることで、友だち関係が達成できるのではないかと。それが今のINSHUTIになったきっかけです」

ものを作ることが目的ではない

ルワンダ国内では、9か所の工房と連携し、さまざまなアパレル商品を制作している

さまざまな国でフェアトレードや女性支援をおこなう団体は多くあります。INSHUTIはどこが違うのか。望月さんはこう語ります。

「フェアトレードをやりたいとか、エシカルなブランドを立ち上げようというルートじゃないんです。現地にいて、この人たちと一緒に生きていくためには何ができるかと考えて始めたことが、後から”フェアトレードだよ”と意味付けされた感覚です」

望月さんが技術支援をおこなっている様子

また技術移転の面でも独自のアプローチをとっています。日本から専門家を派遣するのではなく、同じルワンダ出身の職人が技術支援をする体制をとってきました。

「一番大事なのは人を尊重するということ。現地の人のコミュニケーションツールはルワンダ語しか喋れない人も多い。日々の作業の中でちょっと困ったことを気軽に相談できる、すぐ答えてくれる人がそこにいることが大切なんです」

価格交渉の前に、誰がどんな環境でコーヒーを作っているのか

コーヒー農園の様子。ルワンダはコーヒー豆の一大産地としても知られている

アパレル事業からスタートしたINSHUTIですが、それだけで持続可能な収益構造をつくることは簡単ではありませんでした。もう一つの収益の柱をつくろうと考えたことが、ルワンダのコーヒーを取り扱うきっかけになりました。

ルワンダはスターバックスをはじめとする世界的なコーヒーブランドが調達するほどのコーヒー豆の産地です。

「アパレル製品を日本に送料をかけて送っても、収益率が高いわけではなく、ビジネスとしては非効率。でもそれをやるのは、現地の人の自立や雇用につながっているから。その意義ある事業を続けるために、収益率の高い柱が必要だった―。ルワンダでそれができるものって何か、と考えたときにコーヒーが浮かんだんです」

現在は日本の商社経由でルワンダ産の豆を仕入れ、国内で焙煎してINSHUTIブランドで販売しています。しかし望月さんの目指す先は、農園との直接取引にあります。

すでに3カ所のコーヒー農園を視察し、価格交渉の前に、どんな人が働いていて、どんな思いでその農園が成り立ってきたのかを自分の目で確かめるのが彼女の流儀です。

「コーヒーだけで儲けたいという人たちとはちょっと違う。実際に行ってみて、どういう人が働いていて、どういう農園でどういう思いがあるのかを知りたい。その人たちとコーヒー事業をやりたいと思えるところを選びたいんです」

もちろん買い叩きではありません。現地の生産者が提示する価格を尊重し、適正価格で輸入する方針です。

スタディプログラム——フェアトレードの次の形

より現地のことを身近に感じることのできる、スタディプログラム

INSHUTIの新たな取り組みの中でも、特に象徴的なのが「現地スタディプログラム」です。「作り手」に直接会い、工房での作業を一緒に体験することができる、現地参加型のプログラムです。

望月さんのルワンダでの仕事場についてきた友人が、「これは旅行以上の価値がある」と言ったのをきっかけにはじまりました。

「参加者にとって価値を感じるのは、手に取っている商品の作り手に直接会えること。くわえて布の整理をしたり、一緒にアイロンをかけたりするなど、作業を体験することで、自分がその活動に参加しているように感じられると言ってもらっています」

ツアーでは貧困層から中間層まで、ルワンダのさまざまな生活レベルの人々と交流する機会があります。それが本当の意味でのルワンダへの理解につながっています。

「ボランティアになると、自分が何かしてあげたいっていうイメージが強いと思う。でもうちの場合は、もっと強い要素は”友だちに会いに行く”感じなんです。友だちと一緒に過ごす時間を楽しむという要素の方が強い」

フェアトレードは生産背景や社会的な構造を知らなければ続きません。スタディプログラムは、現地での体験を通して自分ごとにし、フェアトレードを担う人を育てる仕組みとして機能しています。

技術と誇りを持つ生産者に

KomeraCreativeでものづくりに携わるルワンダのスタッフ

工房で働く若い女性たちは「支援される人」ではありません。技術を身につけ、都市で出稼ぎをし、村の家族に仕送りをする自立した生産者です。

望月さんが実際に訪ねたある職人の実家では、お父さんはすでに家を出ており、高齢の母親と兄弟が日雇いの仕事でその日の食費をやりくりしている現実がありました。工房で技術を磨いた女性が仕送りをすることで、その家族全体の生活が支えられています。

印象深いエピソードがあります。望月さんが長年パートナーとして働いてきたグレースさんは、シングルマザーとして5人の子どもを育てあげ、いまでは現地で立派な家を構えるまでになりました。その末娘は大学進学を希望していますが、彼女は自分の学費より先に、虐殺で親を失った親戚の子どもたちの学費を優先しています。

「自分は40歳になっても50歳になっても大学に行けるけど、親を失った子どもたちは、ドロップアウトしたら先に進めないから、そっちが優先なんだって言うんですよ」

INSHUTIの発注が生む賃金は、直接の取引相手の後ろにいる子どもたちの学費にまで届いています。それが本当の意味でのフェアトレードだ、と望月さんは言います。

時間がかかっても根気よく伝えていけるかが重要な鍵

望月さんとルワンダのスタッフ。活動の中でときには壁にも直面する

活動を続ける中で、コミュニケーションの壁にも直面してきました。

「5分間話しても、オーダーの内容を1回のコミュニケーションでは半分しか理解していないんですよ。それを100%に近づけるために、口頭だけでなく、紙とペン、手振り、映像、実物と、色んな手法を組み合わせて何度もやり取りしなければいけない」

大企業がアフリカに仕事を発注しない理由の一つも、そこにあります。ビジネスを優先するなら「伝わらない人には仕事は渡せない」と切り捨てることになります。結果として、英語が話せる教育水準の高い人しか仕事に就けない社会が生まれてしまいます。

「本当の意味での草の根交流、つまり誰も取り残さない世界の実現のためには、そういった人たちに根気よく時間をかけて伝え、仕事を持っていくことが大事。でもそれができるかどうかは、その人が友だちかどうか、が鍵なんです」

友だちだからこそ、時間をかけても伝えようとする。INSHUTIが「ともだち」を核心に据える理由は、ここにもあります。

「教育 × 貿易 × 交流」を統合するフェアトレード組織へ

フェアトレードへの消費者意識は、ドイツやスイスなどに比べ、日本ではまだまだ根付いていません。望月さんはフェアトレードを前面に押し出すのではなく、現地のリアルを届けることに力を注いでいます。

将来的には日本側の教育現場への展開も視野に入れています。学校からの依頼に応じ、子どもたちがルワンダのパートナーへ実際にポーチを発注するプログラムを提供してきました。「なぜ同じ指示がこちらには伝わり、あちらには伝わらないのか」を体験することが、教育の格差と尊厳についての深い理解につながります。

名古屋ユネスコ協会での高校生、大学生向けの講演

「世界のあちこちで戦争をしているとき、自分の友だちがそこにいると考えたら、その友だちのために何かできることはないかと思うはず。友だちがいなければ他人事になる。世界の平和をつくるために、世界中に友だちを増やすのが一番の解決方法じゃないかと思っています」

コーヒーを飲む人が「作っている人はどんな人だろう」と想いを馳せる。スタディプログラムに参加した人がルワンダに友だちができる。商品を買った人がブランドの背景にある関係性を知る。そうした小さな接点の積み重ねが、国や人種を超えた「友だちの輪」を広げていきます。

INSHUTIはいま、その輪を着実に、静かに、でも確実に広げ続けています。

INSHUTI公式サイト:https://inshuti-japan.com/

この記事を書いた人

幼少期に途上国の貧困問題の現状を知り何とかしたいと思うようになる。2022年からエシカル・コンシェルジュとして、地球がより美しく平和ですべての生き物が幸せであり続けるためにさまざまな情報発信・活動をしている。プライベートではスイミングが趣味の一男一女の母。

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