2025年1月5日から放送が開始されるNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。
喜多川歌麿や東洲斎写楽など、現代もよく知られている絵師たちを見出し、「江戸のメディア王」となった蔦屋重三郎を主役とした本作。光が当たるのは、江戸時代の代表的な文化のひとつであり、現在も国内外問わず多くの人に愛されている「浮世絵」です。
本記事では、浮世絵の概要や有名な作家などをわかりやすく紹介します。さらに、浮世絵に描かれた人々の暮らしから、江戸時代の「豊かさ」がどこにあったのか考えていきます。
浮世絵とは?
浮世絵は、江戸時代に誕生した絵画様式のことをいいます。
当時の生活や流行に加えて、役者や遊女などの有名人を題材に描かれた浮世絵は、主に庶民を中心に愛されました。人々にとって、トレンドを知る情報源や、娯楽のひとつだったと言われています。
庶民の生活に深く根付いていた浮世絵は、その制作方法によって「肉筆浮世絵」「浮世絵版画」と大きく2つに分類されます。
絵師が絵画の完成まで手作業で仕上げる「肉筆浮世絵」は、絵師の描きたいものやオーダーで作られたものが中心で一点ものの作品です。希少性が高く、絵師の画技を見ることができます。
それに対し、「浮世絵版画」は絵師だけではなく、木の板を彫る彫師、紙に絵の具を摺る摺師(すりし)など、多くの職人たちの手によって完成する作品のことを指します。大量に生産することができたので、庶民も手に入れやすい価格でした。大衆に売れることを意識して描かれています。
傑作を残した有名な浮世絵師たち
浮世絵をよく知らない人でも、絵を見ればなんとなく見たことがある、と思う方も多いはずです。特に有名な浮世絵師を紹介します。
葛飾北斎:西洋にも影響を与えた世界的浮世絵師
葛飾北斎(かつしか・ほくさい)は、富士山を題材にした風景画『富嶽三十六景(ふがくさんじゅうろっけい)』シリーズなどで有名な浮世絵師です。
このシリーズのなかでも、大胆な構図の白波と、その向こうに小さく富士山がみえる「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」に見覚えがある方も多いのでは。
19世紀の欧米では、日本独特の構図や色彩の構成に影響を受けた「ジャポニズム」と呼ばれるブームが起こります。それは単なる流行に留まらず、画家たちの新しい創作活動へと繋がっていったのです。
北斎をはじめとする浮世絵の作品は、クロード・モネ、フィンセント・ファン・ゴッホなど、西洋の「印象派」と呼ばれる画家たちに大きな影響を与えました。風景画や人物表現など、北斎の作品は、あらゆる視点から西洋の画家たちにインスピレーションを与えてきたのです。
千葉市美術館所蔵:富嶽三十六景 神奈川沖浪裏
https://www.ccma-net.jp/collection/works/5191
喜多川歌麿:上品で美しい女性が描かれた「美人画」
喜多川歌麿(きたがわ・うたまろ)は美人画の巨匠として有名で、庶民から遊女までさまざまな女性をモデルに絵を描きました。
代表作は「ポッピンを吹く女」(別名:「ビードロを吹く女」)。これは「扶助人相十品(ふじょにんそうじっぽん)」といわれるシリーズのなかの作品です。赤と白の華やかな市松模様の着物を着た女性が、ガラスの工芸品である「ポッピン」を吹いている様子が描かれています。
赤と白の着物の華やかさと、涼やかなガラスの色合い、そしてビードロを吹く女性の上品な佇まいなど、とても魅力的な作品です。
メトロポリタン美術館所蔵:ポッピンを吹く女
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/45017
東洲斎写楽:10ヶ月の活動期間で消えた謎の天才
「役者絵」で有名な浮世絵師、東洲斎写楽(とうしゅうさい・しゃらく)。
当時、一世を風靡した人気の浮世絵師でしたが、その活動期間はわずか10ヶ月でした。そして、その後忽然と姿を消してしまった「謎の浮世絵師」といわれています。
公金を奪う悪役、江戸兵衛を描いた「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」は、大きな顔にぎょろりとした目力が印象的な作品。
インパクトのある大きな顔に比べて、役者の体の前に出された両手は小さく、どこかアンバランスです。このデフォルメこそ、写楽による独自の画法だといわれています。
千葉市美術館所蔵:三代目大谷鬼次の江戸兵衛
https://www.ccma-net.jp/collection/works/2827
浮世絵から見えてくる、当時の人々の生きざま
さまざまな浮世絵を眺めていると、そこには江戸の人々の暮らしがいきいきと描かれています。なかでも特徴的な「江戸の人々の生き方」についてご紹介します。
江戸っ子に学ぶ”粋”な生き方。270年続いた平和がもたらしたものは
江戸の人々は、非常に「幸福力」が高かったのではないか、と言われています。そこには、270年ものあいだ、諸外国や国内での戦争・紛争が起きなかったことが関係しているのではないでしょうか。
平和な時代に作られたのは、江戸時代の人々の「なんでもよし」という考え方です。身の回りにどんなことが起きても、落ち込んだり悲観したりせず、なんでも「よし」と考えていました。
歌川国芳の「浮世よしづ久志」は、この考え方を題材にした作品です。
また、「粋」と呼ばれる江戸っ子独自の美意識は、しゃれたふるまいや洗練された美意識だけではなく、自分も他者も喜ばせるという、社会全体の調和や共感が重視された考え方のことです。江戸を代表するこの意識も、浮世絵の中で表現されています。
浮世絵が伝える江戸の暮らし。庶民の季節行事と日常風景
さまざまな浮世絵からは、当時の人々が日々の生活や季節の行事を重視していた様子が伺えます。
例えば、5月5日には邪気を払うために菖蒲の葉を入れた風呂に浸かる様子、夏に「ホタル狩り」を楽しむ様子、「二十六夜」と呼ばれる月見の行事の折には多くの屋台で人々が楽しむ様子などが描かれたのです。
季節ごとのイベントだけではなく、人々の何気ない日常生活の様子もありありと描かれています。
女性がくつろぎながら本を読んでいる様子や、裁縫をする姿、遊ぶ子供の姿や、食事の場面など。浮世絵を眺めているだけで、当時の人々の息遣いまでが伝わってきそうです。
浮世絵から見る江戸の豊かさ
浮世絵は、当時の人々が「見たいもの」「知りたいこと」を最も大切に考えて描かれた絵だと言われています。そこからは、時代を経ても変わらない、本質的な楽しみや豊かさ、幸福にまつわる考え方などを読み解くことができます。
日本独自の絵画技法や色彩感覚はもちろんのこと、それらの要素も浮世絵を鑑賞する私たちの心を強く打つのではないでしょうか。そのような視点を踏まえて浮世絵を楽しんでみては。