ヤングカンヌ日本代表が世界大会への意気込み。「クリエイティブの力で、本質的な社会課題解決を」

世界最大の広告賞である「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」。「ヤングライオンズコンペティション」(以下、ヤングカンヌ)は、その中で開催される30歳以下を対象にした大会の公式プログラムです。

(大会詳細:https://www.canneslionsjapan.com/youngcompetitions/results/

2025年の国内選考会では、世一麻恵さんと岡田大毅さんがデジタル部門でGOLDを獲得し、世界大会への切符を手にしました。

今年の課題は、「難民危機への認知拡大・支援拡大策を考えよ」というものです。

お二人は「先進国と難民キャンプの時差を活かして、難民を”背中合わせの仕事仲間”・”地球の裏側のヒーロー”に変える」「LinkedIn(世界最大の人材系SNS)を通じて、難民の就業機会を作る」というアイデアをプレゼンテーションボードで発表。

審査員からは、ビジネスモデルともいうべき発想であり、新しい時代のクリエイティビティの活かし方だと高く評価されました。

国内予選を勝ち抜いたお二人に、クリエイティブによる課題解決の考え方やそのバックグラウンド、6月に開催予定の世界本選に向けた意気込みまでたっぷりとお話を伺います。

プロフィール

世一 麻恵(よいち まえ)さん

東京都出身、早稲田大学商学部卒。学生時代よりイベント・ショーケース等の企画運営ならびにクリエイティブディレクションに携わる。2021年より、総合商社にてメディア・エンターテイメント・コンシューマービジネス領域における新規事業開発を担当。2025年、ヤングカンヌに日本代表として出場予定。

岡田 大毅(おかだ だいき)さん

山形県出身、早稲田大学社会科学部卒。2019年、自らの証明写真を駅に掲出、自作自演の投稿で12万RTを獲得。3年間 (株)ADKでのプランナー・コピーライターを経て、2025年に独立。SNSのバズから社会課題の解決まで、生活者目線での企画を得意とする。2023年、ヤングカンヌに日本代表として出場。2025年、同大会に2度目の日本代表として出場予定。

課題解決にクリエイティビティは欠かせない。ヤングカンヌに挑戦する二人が持つ共通の想い

―今回、お二人でヤングカンヌの世界大会に挑戦されますが、そもそもお二人の出会いはどのような形だったのでしょうか。

世一さん:私たちは早稲田大学の同級生だったのですが、出会ったのは、大学2年生の冬頃です。学内の部活動やサークル活動が盛んな時期で、私たちの学年が中心となってさまざまなイベントを企画していました。あるとき、サークル同士の交流会があり、そこで初めて顔を合わせました。

岡田さん:懐かしいですね。ただ、この時は本当に軽く言葉を交わした程度で、お互いをしっかり認識したのは、4年生の時でした。

世一さん:文化祭の運営を一緒に行ったのですが、岡田はその企画や仕掛けを担当し、私は演出として関わりました。

岡田さん:コロナ禍でオンライン開催の文化祭でしたが、新しい出会いが少ない時期に繋がることのできた、とてもいい縁だと思っています。二人とも、“本気でもの作りをしたい”という気持ちは共通していましたね。それぞれの活動を経て再会し、社会に出た今、こうして一緒にヤングカンヌに挑戦することになったんです。

―課題解決には、ボランティアや専門的な研究などさまざまな方法がありますよね。その中で、クリエイティブやアイデアの力を使うというのは、少し変化球のアプローチのように思えます。世の中の課題を解決していく手段として、その力を信じる理由は何でしょうか。

岡田さん:私がクリエイティブが持つ力の大きさを感じたのは、小学校6年生の時に東日本大震災を経験したことがきっかけでした。私は山形県出身で、特に東北地方では甚大な被害が出ていました。そんな中、ボランティアの尊さを強く実感する一方で、別の手段で一度に多くの人を救うこともできるんじゃないかと気づいたんです。

例えば、サンドウィッチマンさんが漫才をすればみんなが笑うし、田中将大投手が東北楽天ゴールデンイーグルスを優勝に導いた時、東北全体が活気づいた。こうした“象徴的なアクション”が、1対1の支援を超えて、大きなエネルギーとなり世の中を変えていく。それを目の当たりにして、私自身もそうした力に惹かれるようになったんです。

大学生の頃、大雨で被害を受けた栃木県へボランティアをしに行った経験も大きなきっかけのひとつです。

その際、インターン先の先輩から言われたのが、『体を動かして人助けをすることは素晴らしいし、あなたの魅力でもあるが、アイデアの力を使えば、多くの人を一気に動かすことができるし、ネガティブな状況をひっくり返してポジティブなものに変えることもできる。あなたは、そっちに挑戦してみるのもいいんじゃないか』という言葉でした。その言葉を受けて、自分はその方向で頑張るのが向いているのかもしれない、と思うようになったんです。

―子供の頃の原体験と、大人になってからの先輩からの言葉。それらが今の岡田さんの原動力なんですね。世一さんはどうですか。

世一さん:私の場合、もともと「課題を解決すること」と「クリエイティビティ」が、比較的近い距離にありました。物心ついた時から、走るのが好き、とかお喋りが好き、といったことと同様に、作ることが好きだったんです。ゆえに昔から、何か困った頃があった時には、「どう工夫すれば解決するかな?」という考え方をしていたように思います。

そんな私の表現の幅が大きく広がったのは、2010年前後のインターネットに初めて触れたときです。特に、当時一部の小中学生が夢中になっていた「DS うごくメモ帳」や「ニコニコ動画」を通じ、他の人の創作物と自分の創作物が共存する世界に出会いました。同世代のクリエイターたちが自由自在に作品を作っていることに大きな衝撃を受けたんです。デジタルペイントでアニメーションを作っているような世界で、私も思うがままに表現できるような力が欲しくて、制作活動にのめり込むようになりました。

高校時代、軽音学部に所属したことで、初めて自分の創作活動が他者と交わることになりました。「文化祭のライブに観客が集まらない」という課題があったのですが、当時のライブって内輪のノリが強く、ちょっとアングラで。もっと良い形ってあるよね?という話になり、同級生たちと学内外を駆け回ってロックフェスのようなステージを立てたんです。満席のライブが実現した時、初めて「自分の創造性が他人の役に立つ」という手応えを得ました。ずっと一人で制作してきた自分にとって、人と一緒に、そして誰かのために理想を叶えたあの日は、間違いなく原点でしたね。

社会には沢山の課題があって。自分の手が届くところからひとつずつ取り組んで、今に至ります。コロナ禍では、人と人との関係性が希薄になる中で、全国の学生と「今だからこそ作れる表現」を模索しました。現在は、世界における日本の存在感をカルチャーの面から盛り上げるために活動しています。

ちなみに、クリエイティブにも色々ありますが、アイデアって、かなりストラテジーに近いんですよ。

目の前の課題と未来の理想像をしっかり因数分解して、どう繋げるかを考えなければいけません。変化球だとその軌道が目立ちがちですが、それ以上に「正しい方向に狙いを定められるかが全て」という点がミソなんです。

「課題解決が必要なのに、できる人がいない」という状況は、やはり燃えますね。ひとりで生きるには人生は長すぎますから、誰かのために自分の創造力を活かせたら嬉しいです。

「難民は働ける人材であり、リスペクトすべき存在」。グローバルな視座で価値あるアイデアを

―今回のヤングカンヌ国内予選の課題は、「How can we use the power of creativity to raise awareness of the refugee crisis and to enhance support for people who are forced to flee their homes」(難民危機への認知拡大・支援拡大策を考えよ)」でした。それに対してお二人は、「LinkedIn(世界最大の人材系SNS)を通じて、難民の就業機会を作る」「先進国と難民キャンプの時差を活かして、難民を”背中合わせの仕事仲間”・”地球の裏側のヒーロー”に変える」というアウトプットを打ち出しましたね。日本で暮らしていると、難民の状況を実感しにくい部分もあって、必然的にグローバルな視点や新しい切り口が求められる課題だったのではないでしょうか。このテーマに取り組む中で、特に苦労した点や難しかった点はありましたか。

岡田さん:確かに、難民という存在が日本では遠いものに感じられていると思います。ただ、9日間のコンペ準備期間のうちに、“難民は働ける能力を持った人材”と定義できるということに気づいたんです。そして、この視点を世界に認知させることが大切だと考えました。

そもそも、多くの人は難民を“かわいそうな存在”として認識しがちですが、それ自体を変えなければいけない。難民は単に保護すべき対象ではなく、同じ人間として社会で活躍できる力を持っている。まず、その価値を再定義することが必要だと考えたんです。私たちが働く場所を探すのと同じように、難民もまた活躍の場を必要としている。そして、彼らには他の人にはない強みやスキルがある。そこに価値を見出せば、新たな可能性が生まれるのではないかと考えたんです。

―雇用にフォーカスするというアウトプットの方向性は、コンペ期間の中で本質的な課題を突き詰めた結果、導き出されたものなんですね。

岡田さん:そうですね。ユーモアを使って心の距離を縮めたり、誇張して難民の価値を打ち出したりすることはできるかもしれません。でも、それでは本質的な課題解決にはならないと感じました。

物理的距離が遠いとはいえ、扱っているのは“人の命”に関わる問題です。だからこそ、安易に面白おかしくしたり、軽く扱ったりすることはできないという感覚がありました。

他にも、仕組みとして伝わりやすくしたり、仕掛けを作って募金を増やしたりすることはできるかもしれませんが、それではとっつきにくいなと。

例えば、“難民体験ミュージアム”のようなものを作って、難民の生活をエンタメ化することは、見せ方が難しいと思いました。私は、東日本大震災の被災地の隣県で育ちましたが、“東京の人が震災生活を体験し、それによって寄付が集まる”というようなアミューズメント施設があったとしたら、そこには違和感を覚えると思います。あくまで私の意見にはなりますが、難民の問題をわかりやすくするのはいいとしても、人に興味を持ってもらえるように、楽しく面白くエンタメ化するという方向性はかなりリスキーだと感じました。

そうした議論を重ねた結果、“難民は働ける人材であり、リスペクトすべき存在”という視点をコアに据えて、企画を進めることにしました。環境問題など、色んな社会課題がある中でも、やはり人の命に関わるものはより繊細に考えないといけない課題だと思いますね。

―万人に受け入れられやすいようなアウトプットの形も一度は検討した上でなんですね。

岡田さん:はい、そこも通りました。本当は、アイデアベース、”楽しい”ベースの手法で「気づいたら解決しちゃってた」くらいの方が、クリエイティブとしては評価されると思います。「ゲームをしていたら気候変動が変わってた」などできたら最高です。ただ、今回は人の命が関係する内容だったので。

世一さん:私の中に、「一方的な綺麗事だけでは人は動かない」という考えがあります。結局、ほとんどの人は、個人的な課題解決であれ、自己実現であれ、自分にとって強く欲しいものでなければ動こうとしません。もちろん、社会に貢献したい人や、楽しそうだからとりあえずトライしてみる人もいます。でも、多くの人にとっては、自分に直接関係のないことにお金や時間を使うハードルは高い。だからこそ、「自分たちが本当に動くアイデアか?」「このアイデアで動く人を具体的に思い浮かべられるか?」は常に問いかけていましたね。

そして、ヤングカンヌのようなグローバルな大会に挑むなら、“世界視点”が不可欠です。

ヤングカンヌの国内選考会中の空いた時間で、海外で一人旅をしてみようと思い立ち、初めてニューヨークを訪れたんですよ。そこでさまざまな国の友人ができたのですが、ちょうど大統領選のタイミングだったこともあり、政治や経済の話をする機会が頻繁にありました。カジュアルなノリで各国の課題や各々の専門分野に踏み込んだ議論をする友人たちを見て、改めて日本の中にいるだけでは見えない視点があると実感しました。

日本と海外のユーモアが違う場面が多かったことも印象的でした。日本でウケそうな話を口に出しかけて、「あれ、これは通じないんじゃないか」と立ち止まった時、それがドメスティックな文化に基づいていたことに気付くんです。日本に帰国し、企画がファイナリストに選ばれたとき、改めて思ったんです。もし自分のプレゼンを、ニューヨークで出会った友人たちが聞いた時に、「良いね、おもしろいね」と言ってくれるだろうか、と。

その視点で考えると、どこかの国や文化を無意識にないがしろにすることはできないし、世界本戦で通用するものでなくてはいけない。グローバルな舞台に辿り着いてしまった以上、“世界の住民”としてアウトプットすることが、企画を見てくれる人にできる最大限の想いの伝え方だと考えるようになりました。

他国の文化や価値観を意識することは、もちろん簡単なことではありませんが、視野を広げていくうちに、異なる文化の中にも共通する「人の心の動き方」に気づく瞬間があります。例えば、今回の「仕事を助けてくれる人って、ヒーローみたいに心強い存在だよね」というのもそのひとつですね。

そうした根源的な感情や行動原理を捉えて表現に落とし込むことこそが、グローバルに伝わるアイデアを作るうえで、最も実用的かつ大切なことだと思うのです。

日本代表として、世界に誇る日本のクリエイティブを世界に

―お話を聞いていて、考え抜かれたグローバル視点のクリエイティブで予選を勝ち残ったことに大きな意味があるなと感じます。来たる世界大会に向けた意気込みをお願いします!

岡田さん:私は一昨年も、世界戦に出場しました。でもその時は、「絶対に世界一になってやる!俺しかいない!」と意気込む一方で、どこか弱気な部分もあって、結果的に負けてしまったんです。

今回はその時とは違い、純粋にワクワクしながら挑もうと思っています。この数年で2回、世界戦に進んでいることで、必要以上に気負わなくても自分が世界一になる姿を自然と思い描けるようになりました。そのくらいの気楽なマインドでないと、一昨年と同じ結果になってしまう気がしています。

大谷翔平選手を見ていると、彼は世界一の野球選手でありながら、心から野球を楽しんでいる。世界一になった時も、喜びながらグローブを投げていました。普通そんな風にグローブを投げることはしない。でも、大谷さんの姿を見て、「あ、投げていいんだ」って思うんです。彼は競技を純粋に楽しんでいる。それこそが本当に強い人の姿なんじゃないかと。

―単純に日本一をスケールさせた延長線上に世界一になるイメージがあると考えていましたが、より自由になるという感覚に近いものだと感じました。

岡田さん:自由になるというより、本当は誰もが最初から自由なはずなんです。学生の頃から、社会人、そして現在に至るまで、僕がやってきたことはずっと変わりません。まるで教室で友達を楽しませるように、世界の舞台でも、ただ誰かを救うためにアイデアを出してきます。

今回も含め同大会で2回、”日本一”にはなっていますし、「全部上手くいくでしょ、世界一すらも通過点だ」という気持ちです。

―世一さんはいかがですか。

世一さん:日本代表として、良い作品を作りたいですね。大前提として、このコンペティションはゴールではなく、あくまで通過点。今回しっかり結果を残して、次の挑戦に進みたいと思っています。

最近、自分の考え方やアウトプットの中に、過ごしてきた環境やカルチャーの影響を感じることが増えました。食べたもので体が出来るように、五感に触れたもので心が作られてきたようです。また、世界に踏み出すと、Japanという名札が付いてくることにも気づきました。それこそヤングカンヌのゴールド(最優秀賞)は、チーム名ではなく国名で発表されるんです。

そんな今、自分が強く感じているのは、日本の個性を語るうえで、クリエイティブやエンターテイメントは欠かせないということ。マンガやアニメは海外でも人気ですし、街を歩いているとお洒落なデザインやプロダクトをたくさん見かけますよね。

自分を育ててくれた日本の文化が豊かであり続けるための力になれたら嬉しいなと思うんです。

まずは日本のクリエイティブを背負う若手として、ヤングカンヌでの世界一を目指したいと思っています。世界中から集まったライバルたちの中で、日本チームとして胸を張れる作品を作れるよう、頑張ります!

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この記事を書いた人

元エコビジネス系コンサルタントのフリーライター/ラジオディレクター。大好きなあんこと白米を食べながら日々言葉とメディアの可能性を模索する。おはぎを考えてくれた人、本当にありがとう。将来素敵な本を出すためにいろんな経験をしたい20代。