自転車が主役。世界が注目するミラノの都市デザイン【現地レポート】

今世界で、自転車人口が増えているのをご存知でしょうか。
移動手段を語る際、長らく副次的にポジション甘んじてきた自転車。それがパンデミック以降、 熱い視線を注がれ、国や市町村単位で取り入れる動きが活発化しています。
今回はミラノから、最新の自転車事情をレポート。大気汚染という大きな問題を抱えた工業都市が今どのように生まれ変わろうとしているのでしょうか。世界の都市、そして私たちがミラノから学べることとは。

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大気汚染の問題に乗り出したミラノ市

60年代、ニューヨークを破壊的な都市計画から救った都市思想家ジェイン・ジェイコブズが唱えた「日常生活の主な目的地は徒歩圏内にあるべき」という都市デザイン。その考え方が近年再評価される中、徒歩や自転車での移動を要とする都市計画が、世界各地で取り入れられています。

イタリアの経済・ファッションの中心地ミラノもその例のひとつ。ミラノは、自動車産業などで発展した工業都市でもあり、車通勤が一般的だった上に盆地でスモッグが溜まりやすく、深刻な大気汚染という問題を長年抱えてきました。

ミラノが動き出したのは2015年の万博、そして2016年のCO2削減目標を宣言したパリ協定。長年環境と健康に大きなダメージを与えてきた大気汚染の問題に、市をあげての本格的な取り組みが始まりました。

市民の生活が少しずつ変わり、街には自然も

ミラノ市営のバイクシェア「bikeMi」

2020年からスタートした「STRADE APERTE(=オープンロード)計画」は、車通勤から自転車通勤へのシフトを目的に、自転車に関するあらゆる法令を整備しました。同年5月には、ロックダウン解除のタイミングで自転車補助金制度をスタート。自転車を購入すると、市から費用の60%、最大500ユーロ(約65,000円)の補助がキャッシュバックされるという制度に、多くの市民が自転車を購入同時に道路には自転車道が急ピッチで増設されました。
ミラノ市営のレンタル自転車は最初の30分を無料、その後も30分50セントで格安で利用ができます。
また、民間の企業がレンタルを始めた自転車、キックボードバイクなども街なかでよく見かけるようになりました。

結果、1990年代には89台だった人口100人当たりの自家用車の数を、2021年には49台にまで減らことに成功。交通渋滞が緩和され、車から発生する汚染物質ベンゼンと窒素酸化物は3分の2に減少したのです公園には虫や鳥が戻ってきたと指摘する専門家もいます。

グレタ・トゥーンベリも称賛。世界の都市に広まる動き

この「STRADE APERTE」計画は、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリが称賛し、同じく自転車通勤を推進するニューヨーク市が、モデル事例と携えるなど、世界各地の都市計画を牽引し始めています。

パリ、ロンドン、上海なども同様に、互いに競い合うのではなく情報をシェアし学び合う姿勢が見えてきたのもパンデミック後の大きな変化です。

フィンランドも注目する自転車社会の副産物

自転車保有率世界一のオランダ

交通手段としての自転車の利点は、健康上のメリットも。
自転車は、ダイエットにも効果的で続けやすい有酸素運動。ペダルを漕ぐことで腸の動きも良くなり、睡眠の質が向上するのに加え、幸福感をもたらすドーパミンや、精神を安定させるセロトニンが分泌され、メンタルにもいいことがわかっています。
2030年までに徒歩と自転車の利用を増やす計画を打ち出しているフィンランドでは、2019年比で自転車利用者が20%増えると、40億ユーロの医療費を削減できると試算しているほど、健康上の大きな効果も見込んでいます。

一方課題としては、安全の確保、インフラの整備、市民の意識改革などが挙げられます。
それらの課題を解決して、自転車をブームで終わらせない。
それが今後、世界規模での大きな目標となっていくでしょう。

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