今年も世界幸福度ランキングが発表されました。幸福度ランキングはどのように決まるのでしょうか。またランキング上位の国の国民は本当に幸福なのでしょうか。
今回のレポートでは、ランキングの発表だけでなく、世代間の差が大きく取り上げられました。今、若者に何が起こっているのか、解説していきます。
世界幸福度ランキングとは?
世界幸福度ランキングとは国連の関連団体であるSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)が2012年から発行している「World Happiness Report」に記載されているランキングです。
同年3月20日に宣言された「国際幸福デー」に合わせて毎年ランキングが発表されています。
背景に2011年の国連総会で、幸せの国としても知られるブータンのティンレイ首相(当時)が「幸福度を国際社会全体の開発目標に据えよう」と問題提起し、全会一致で採択されたことがあります。
世界的な金融危機や環境破壊の経験を踏まえ、GDPなどの経済指標だけでは豊かさや幸福度を測れないことから、世界的に幸福度を重視するような機運が高まっています。
ランキングはどうやって決まる?
世界幸福度ランキングはどのように決まるのでしょうか。
幸福度の調査はカントリルラダー(Cantril ladder)と呼ばれる方法を用いた世論調査によって行われます。具体的には、可能な限り最高の人生を10、最悪の人生を0とし、回答者に自分の人生が0から10のどの段階にあるかを評価してもらいます。得られた回答の過去3年間の平均値をスコアとし、ランク付けをしています。
また、報告書においては得られたスコアがどのような要因で説明できるか、統計学的な観点から分析しています。説明に使われる要因は以下の6つの項目です。
- 一人当たり国内総生産(GDP)
- 社会的支援(社会保障制度など)
- 健康寿命
- 人生選択の自由度
- 他人への寛容さ(寄付活動など)
- 腐敗認識度(国・政治への信頼)
ここで注意が必要なのが、6つの項目は結果を後から分析するために用いられるものであって、幸福度のスコアやランキングには影響していないということです。World Hapiness Reportのホームページには以下の記述があります。
“Our happiness rankings are not based on any index of these six factors – the scores are instead based on individuals’ own assessments of their lives, in particular, their answers to the single-item Cantril ladder life-evaluation question”
https://worldhappiness.report/about/
(我々の幸福度ランキングは6つの指標に基づきません。代わりに、スコアは個人の生活の評価、特に単一項目のカントリルラダー生活評価質問への回答に基づいています)
ランキングはあくまでも、個人の主観的な生活評価に基づいているのです。
最新の幸福度ランキング
今年も2024年3月20日に最新の幸福度ランキングが発表されました。
図には分析された6つの項目を色別で記載しています。6つの項目とは前述したとおりですが、紺色の「基準値 + 残差」の「基準値」は、全ての国に対して基準となる共通の値を与え、「残差」は6つの項目で分析しきれない部分を表すことを目的として導入されています。
一位は7年連続、不動のフィンランドでした。上位3国は昨年と変わらない結果となっています。また、日本は51位となっており、昨年の47位もから順位を落としています。
地域別ごとの特徴を見ると、北欧5カ国すべてがトップ10に入っています。大きく違う点として、20位以降には東ヨーロッパ諸国(チェコやリトアニア、スロベニアなど)の幸福度が上昇していることが分かります。昨年は15位の米国や昨年16位のドイツはランキングで23位と24位に下がっています。
世界幸福度ランキング1位 フィンランドの特徴
7年連続で幸福度ランキング1位となったフィンランド。
透明性の高い政治で国民からの信頼が厚いと言われており、社会保障制度が充実していることで知られています。また、質の高い教育や子育て支援にも力を入れています。
さらに、ウェルビーイングが世界的に見直される今、自然と国民の生活が密接な関係であることや、持続可能な生活に国全体で取り組んでいることなども特徴です。
教育の質の高さ
・学力を競うのではなく、自分のために勉強するという価値観
・生徒一人ひとりの状況を把握できるよう少人数教育を実施
・教員は修士号取得など、厳しい条件をクリアしている
・現象ベース学習(科目にとらわれず、文化や歴史など、その土地固有の問題や時事問題を学ぶ)などの学習方法を取り入れている
子育て環境
・就学前教育から高等教育まで学費や給食費が無料
・親の就労の有無にかかわらず、すべての子どもが保育園に入ることができる
・16時ごろまでに仕事を終わらせる文化があり、残業はほとんどしない
・妊娠期から就学するまで「ネウボラ制度」により家庭をサポートする担当者がつく
・男性が育休を取得しやすい
自然環境との共存やサステナブルな生活が根付く
・自然享受権という法律があり、すべての人に対して他人の土地への立ち入りや自然環境の享受を認める権利がある
・子どもの頃から自然の中で身体を動かすことを楽しめる環境が整っている
・持続可能な開発に関する国家委員会を設立した世界で唯一の国
円安で日本の順位は51位に後退
2024年の世界幸福度ランキングで日本は51位となり、昨年の47位から順位を下げました。また、スコアも昨年の6.129ポイントより下がって6.060ポイントとなっています。
6つの分析項目では主に一人当たりGDPの項目が大きく低下しました。一人当たりGDPはドル換算のため、円安の影響を大きく受けます。
円安が進んだことで多くの人が物価の高騰や海外との格差を実感し、幸福度が下がったように感じているといえそうです。
6つの分析項目でランキング1位のフィンランドと比較すると、人生選択の自由度、他人への寛容度、腐敗認識度が低いようです。
しかし、何よりも差が大きいのは「残差」の部分です。宗教や文化の違いから東アジアの人はカントリルラダーを控えめに回答する傾向にあることが知られています。残差の部分にその結果が表れ、ランキングに影響していると考えられます。
日本の幸福度を高めるためには?
実は残差を除いた6つの項目による分析結果だけをみると日本は12位のコスタリカや19位のリトアニアよりもスコアが高いです。
主観的な回答に基づいて決まる世界幸福度ランキングですが、宗教や文化の違いから東アジアの人はカントリルラダーを控えめに回答する傾向にあることが知られています。
そのため、高順位の国を見て日本の幸福度が低いと考えるのは安直です。大切なことは順位を上げることではなく、分析結果から学ぶことだと言えます。
もし比較するのであれば、順位を見るのではなく、分析結果から日本の良いところや日本に足りないものを考える、過去の日本のスコアと比較して今の日本がどうかを評価する、などが良いでしょう。
今回の調査では、世代間の格差が浮き彫りに
今回のレポートでは、国ごとの世界幸福度ランキングだけでなく、世代ごとに幸福度の差がみられることが大きく取り上げられています。
30歳未満の幸福度に着目すると、リトアニアが7.756ポイントで1位。2位はイスラエル、3位はセルビアという、全世代のランキングとは全く異なる結果となったのです
日本は、73位とさらに順位を落としています。60歳以上の高齢者の順位が36位であるため、それと比較して大きな乖離があることが分かります。
一般的には、多くの地域で、若者は高齢者よりも幸せであるとされています。しかし、北米やドイツなど、先進国を中心に若者の幸福度が急激に低下。彼らの幸福度は高齢者よりも低くなっているのです。
報告書をまとめたオックスフォード大学ウェルビーイング・リサーチ・センターのヤン・エマニュエル・デ・ネーヴ所長らは、一部の国では未成年者がすでに「中年の危機」と同じような状態にあり、早急に政策措置を講じる必要があることを指摘しています。
世界幸福度ランキングの楽しみ方
政治への信頼度や社会保障制度の充実度など、世界幸福度ランキングからわかること、学べることはたくさんあります。
しかし、先に述べたように、ポイントの高い国でも世代間に大きなギャップがあることが分かっています。また、どれほど幸福度が高い国でも社会的な問題は抱えており、「幸せであるかどうか」は一人ひとりが持つ価値観によって異なります。
世界幸福度ランキングを参考にしつつ、若者の幸福度を上げていくことや、取り残される人のいない社会であることが求められています。