Yahoo!ニュース ドキュメンタリー 今月観たい1本『「おすそわけ食堂まど」〜持続可能なまちづくりへ 22歳の挑戦〜』

社会や人々のありのままを切り取り、映し出すドキュメンタリー。映像というかたちでこの世界の“リアル”を知ることは、地球にも人にも優しい未来を考えるきっかけになります。

本連載では、気軽に観ることのできる約10分のドキュメンタリー作品を配信する「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」から、今観たい1本をセレクト。毎月テーマを変えて、映像という切り口から、持続可能でエシカルな社会を考えます。

10月のテーマは「食欲の秋に考えたい、フードロス」です。

日本の豊かな食文化の裏側で起きているフードロス問題

店頭には新米が並び始め、多くのフルーツや野菜が旬の季節を迎える、食欲の秋の到来です。
この時期、農作物の収穫を祝うお祭りが催されるなど、日本には古くから自然の恵みや食料に感謝する慣習があります。

その一方で、私たちの食卓や外食産業、食品の流通過程において、多くの食品が廃棄される「フードロス」が近年大きな問題となっています。
さらに、低水準の食料自給率や農家の後継者不足など、日本はフードロスのみならず多くの食にまつわる問題を抱えています。

持続可能な食の在り方が問われる今、ドキュメンタリー作品『「おすそわけ食堂まど」〜持続可能なまちづくりへ 22歳の挑戦〜』から私たちの生活から切り離すことのできない“食”ついて考えてみましょう。

『「おすそわけ食堂まど」〜持続可能なまちづくりへ 22歳の挑戦〜』

「おすそわけ食堂まど」〜持続可能なまちづくりへ 22歳の挑戦〜(Yahoo!ニュース ドキュメンタリー)

監督・撮影・編集:今治 建城
公開:2021年

作品のあらすじ

地理的条件が悪く、農業生産条件が不利である中山間地域にあり、人口減にも苦しむ高知・香北町。この街に2021年にオープンしたのが「おすそわけ食堂 まど」です。

名前の通り、食堂では規格外やとれすぎた野菜などを、地域の協力農家からおすそわけしてもらい、その日に入った食材を使用して日替わり定食を提供しています。

店主の陶山智美さんは、大学を卒業したばかりの22歳。学生時代のアルバイト先で、農家が愛情を込めて育てた野菜でも、売れ残ると自身の手で廃棄せざるを得ないことを知り、その現実をどうにか変えたいと強く思ったと語ります。

学生時代は農業を学び、将来は海外で農業支援の道に進みたいと考えていた陶山さんでしたが、日本国内で農業を巡る課題に取り組むことを決意し、「おすそわけ食堂 まど」の開店に至りました。

誰かと繋がる”窓口”となり、ここから広がるおすそわけの連鎖が”円”になって循環していくことを目指して名前が付いた、「まど」。

お店はフードロス削減に貢献するだけでなく、急速な過疎化が進んでいる街で人々の交流拠点としての側面も持ち、地域の活性化にも一役買う存在です。

「おすそわけ」から始まる優しい循環がもたらす希望

生産者や地元の人々を巻き込みながら、様々なものをおすそわけしてもらうと同時に、食材や地域に愛情を注ぎ、温かい循環を生み出す「おすそわけ食堂 まど」。

行き場を失った野菜を引き取り、その日手に入った食材でその日のメニューが決まるというのは、日常からたくさんの食の選択肢が用意されている今の時代に、新鮮ささえ感じさせます。

作品は、手間ひまかけて農家が育てた作物を、その地域で余すことなくいただくことがどれだけ幸せなことであるかを私たちに教えてくれるのです。

食堂を開店するにあたり、集落消滅の可能性もある山あいの地域を選んだことからも、陶山さんが今の日本が抱える問題に真正面から向き合っていることが伺い知れます。

若者が外に出て行ってしまうなかで、大学を卒業したばかりの彼女がこのような活動を行っていることは、地元の人にとって大きな希望となっているのではないでしょうか。

そこからは、お金では買うことのできない真の豊かさについて考えさせられるものがあります。

フードロスをはじめとした食にまつわる問題を解決するためには、家族や地域社会、自然環境とのつながりなど「食」を包括的にとらえる必要があるのかもしれません。

食べ物を手に入れるのも捨てるのも簡単な時代。豊かな「食」はどこにある?

農林水産省が発表しているデータによると、令和4年度は、事業者と一般家庭を合わせて472万トンの食品ロスが発生しています。 これは、毎日、日本国民全員が ご飯茶碗 1 杯分の食品を捨てていることに値します。

その一方で、世界有数の食料輸入国である日本は、 カロリーベースで食料の約6割を輸入に頼っているという現実があります。さらに、農業は高齢化が進み、次の担い手不足が大きな問題となるなど、今の日本の食料事情は決して持続可能とは言えません。

いつでも多種多様な食料が手に入り、捨てることも簡単な時代。飽食の時代に生きる私たちだからこそ、一度立ち止まり、豊かな食とはなにか考える機会をつくってみませんか。

文/かがり

※作品はこちらから視聴できます
「おすそわけ食堂まど」〜持続可能なまちづくりへ 22歳の挑戦〜(Yahoo!ニュース ドキュメンタリー)

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