昨今、SDGsという言葉をあらゆる場面で見聞きするようになりました。SDGs(持続可能な開発目標)は2015年9月の国連サミットで採択され、持続可能な社会の実現に向けた17の目標と169のターゲットからなるものです。
その取り組みはさまざまな分野に広がってきていますが、実は企業や個人だけでなく全国各地の自治体もSDGsの取り組みを行っています。
地域の取り組みを知ることは自分の生活にも関わります。「SDGsってなんかとっつきにくいな」とか「具体的に何をすればいいんだろう」と思っている方も、自治体による取り組みを知ることで何かヒントが見えてくるかもしれません。
今回は、自治体におけるSDGsの取り組みに目を向けてみましょう。
自治体におけるSDGsの取り組みとは
自治体におけるSDGsとは、全国の地方自治体が、それぞれの地域社会で「持続可能な開発目標(SDGs)」を達成するために行う取り組みのことです。
SDGsに含まれる17の目標と169のターゲットは、貧困解消や環境保護、経済成長など、さまざまな課題の解決を目指しており、自治体におけるSDGsとは、この目標を地域の課題に即して具体化したものということになります。人口減少の克服や地方創生を推進する上で、各自治体におけるSDGsの取り組みは重要視されているのです。
実際に、「SDGs未来都市」や「フェアトレードタウン」、「ジャパンSDGsアワード」などの公的な認定を受ける自治体の例は増えてきており、またそうした認定の有無に関わらず、SDGsに取り組んでいる自治体はたくさんあります。
では、自治体がSDGsの取り組みを行うとどんなメリットがあるのでしょうか?また、実際に自治体の行うSDGsの取り組みとはどのような内容なのでしょうか?
本記事では、全国の各自治体での取り組み事例もご紹介します。
自治体がSDGsに取り組むメリット
自治体がSDGsに取り組む意義、メリットはたくさんあります。
ここではこの「なぜ、自治体がSDGsに取り組むのか?」について、いくつかのポイントに絞って確認してみましょう。
地域の課題解決につながる
各自治体は、人口減少や高齢化、環境問題など、さまざまな課題を抱えています。
記事の冒頭でも触れましたが、SDGsはまさにこれらの課題を「経済」「社会」「環境」という3つの柱を軸にバランスよく解決しようとする目標であり、SDGsに取り組むことで地域の課題解決にも繋がる可能性があるといえます。
例えば、
- 高齢者が地域社会で活躍できる仕組みを作る
- ゴミを減らすための新しいアイデアを取り入れる
など、地域の状況に合わせて工夫することができるのです。
世界共通の目標に参加できる
SDGsは、世界中の国や地域で取り組まれている国際的な目標です。
国内の自治体がこの目標に取り組むことで、地域独自の課題を解決するだけでなく、海外の成功事例を参考にしたり、国際的な交流を深めたりすることができるのです。
また、地域住民も「世界の課題解決に貢献している」という自信や誇りを感じることができ、地域全体の活性化にも繋がることが期待されます。
地域の魅力アップ
SDGsの取り組みは、「環境に優しい地域」や「誰もが住みやすいまち」というポジティブなブランドイメージをつくる上でも効果的です。
例えば、プラスチックゴミを減らすキャンペーンや、公共交通機関を便利にするプロジェクトなどを行うことで、地域の暮らしが快適になり、観光客や新しい住民を呼び込むきっかけにもなり得ます。
また、地域の特産品などを持続可能な方法で生産・提供することで、地元産品の価値が向上し、外部からの注目を集めることにも繋がります。
地方自治体におけるSDGsの取り組み事例
ここで、実際にSDGsの取り組みを行っている自治体の事例を5つご紹介します。
千葉県いすみ市|有機米と自然が紡ぐ、持続可能なまち
最初にご紹介する千葉県いすみ市は、自然や人々の暮らしを大切にしながら、地域住民が安心して暮らせる持続可能な社会を目指して、さまざまな取り組みを実施。
特徴的な取り組みの一つとして、市内の学校給食に地元で育てられた有機米を100%使用しています。
このお米は、農薬や化学肥料を使わずに作られており、子どもたちの健康を守るだけでなく、地元の農家さんや環境にも優しいもの。
いすみ市の有機米は「いすみっこ」というブランド名で全国に広がっており、地域の魅力を多くの人に伝えることにも貢献しています。
市内では「自然と共生する里づくり」という取り組みが進行しており、子どもたちが自然とふれあいながら学べる活動を行っています。学校の要望に応じ有機水田での環境学習や食農体験を支援しており、子どもたちは土や生き物に触れながら、命の循環の大切さを楽しく学んでいるのです。
こうした取り組みが評価され、いすみ市は環境省が主催する「SDGsリーダー研修」の会場にも選ばれています。この研修では、未来のリーダーを育てるために、地域や環境を守る知識や経験を学べる場を提供しており、滋賀県東近江市、福岡県久留米市・うきは市と共に、いすみ市が研修地に選ばれました。
福岡県北九州市|エコタウン事業で資源循環型社会へ
続いてご紹介する北九州市は、ものづくりの技術や公害を克服する中で得た人材やノウハウを活かし、環境保全と産業復興を組み合わせた独自の政策として、「北九州エコタウン事業」を推進しています。
この取り組みは、資源循環型社会の実現を目指して1997年に国の認定を受けて開始。
エコタウン事業は、「ゴミを他の産業の材料として活用し、廃棄物をゼロにすること(ゼロ・エミッション)」を目指した取り組みであり、廃棄物を無駄にせず資源として再利用することで、資源循環型の社会をつくることを目標にしています。
特に北九州市では、「北九州エコタウンプラン」という環境とリサイクル産業を中心にした計画を立て、国の承認を受けながら市全体で実践。この取り組みを通じて環境問題の解決だけでなく、新しい産業の発展にも繋がる魅力的なモデルを示しているのが特徴的です。
北海道下川町|自治体×エンタメ× SDGs
北海道下川町もSDGsに取り組む代表的な自治体の1つです。
下川町は2017年、経済・社会・環境の3分野を統合的に解決する取り組みが評価され、第1回「ジャパンSDGsアワード」で最高賞である本部長(内閣総理大臣)賞を受賞しました。
具体的には、「森林総合産業の構築」「地域エネルギーの自給と低炭素化」「超高齢化社会への対応」などに取り組み、人口減少の緩和やエネルギー自給率の向上といった地域の課題解決に繋がる成果も出ています。
そんなSDGsに先進的な北海道下川町で実施されている面白い取り組みがあります。なんと、吉本興業とSDGs推進のための包括連携協定を結び、ユニークなプロジェクトを展開しているのです。
2021年には、下川町の特産品であるフルーツトマト「はるか」と「エイト」を主人公にした4コマ漫画「トマト漫才師 下川はるかエイト」を制作・配信。漫才師を目指す2人のトマトが時事ネタやトマト栽培の「あるある」をネタにしています。
こうしたコラボレーションは、人々とSDGsとの距離が近づくようなキャッチーな取り組みといえます。
熊本県熊本市|フェアトレードシティくまもと
熊本県熊本市は、日本だけでなく、アジアで初めてフェアトレードシティに認定された都市です。
フェアトレードとは、貧困のない公正な社会を目指し、開発途上国の生産者が作った商品を適正な価格で継続的に購入することで、生産者の生活や生産性の向上を支援する仕組みのこと。フェアトレードは、貿易やビジネス、消費者運動、国際協力を通じて行われています。
そしてフェアトレードシティとは、まち全体でこのフェアトレードを応援する市町村であることを認定機関から認められた都市のことです。
熊本市がフェアトレードシティに認定されてから2021年で10周年を迎え、フェアトレード製品を取り扱うお店は、10年前の約50カ所から109カ所になりました。
こうしたフェアトレードの取り組みを進める市の活動は、SDGsの目標である「貧困をなくそう」「つくる責任 つかう責任」「平和と公正をすべての人に」などの項目と特に親和性が高く、熊本市は「SDGs未来都市」にも選定されています。
埼玉県さいたま市|「スマートホーム・コミュニティ」で新しいまちづくり
最後にご紹介するさいたま市は、「大宮駅グランドセントラルステーション化構想」や「東日本連携事業」、浦和美園地区を中心とした「スマートシティ」などの取り組みを通し、地域のブランド価値向上や国際的な交流を深めることで、SDGs推進に高い可能性があるとして「SDGs未来都市」に選ばれました。
特に浦和美園駅西口では、再生可能エネルギー100%の電力供給や電気自動車の蓄電池・シェアカー活用を導入した「スマートホーム・コミュニティ」のモデル街区を整備。
この取り組みでは、通信網や電力ラインを地中化する無電柱化も実施し、災害リスク軽減と景観向上を図っています。
脱炭素化と災害時のエネルギーの強靭性向上を目指した「自助」と「共助」の新しいまちづくりは、国際的にも注目され、アメリカの環境保護庁長官など海外からの視察も受けています。
住んでいる地域の取り組みにも注目してみよう
本記事では、自治体の行うSDGsの取り組み事例をご紹介してきましたが、これらはほんの一例に過ぎません。
普段は意識していなくても、今住んでいる自治体や地元、身近な地域でも、実はさまざまな面白いSDGsの取り組みが検討、実施されています。各自治体の公式サイトやSDGs関連のページをのぞいてみると、新たな発見があるかもしれません。
それぞれのまちで生活する一人一人が意識を向けることは、こうした活動の活性化に繋がります。まずは身近な地域の取り組みを知ってみませんか。
参考:
JIAM 全国市町村国際文化研修所
内閣府地方創生推進事務局「地方創生に向けた自治体SDGsの推進について」
自治体問題研究所
いすみ市
環境省
北九州市エコタウンセンター
北九州市
下川町
北海道下川町 × 吉本興業「トマト漫才師下川はるかエイト」
熊本市
自治体国際化フォーラム
さいたま市