『源氏物語』1000年以上愛される文学を紹介。現代語訳のおすすめも【平安時代を紐解く】

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紫式部を主人公とした、2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』。本作がきっかけで、平安時代に興味を持った方も多いのではないでしょうか。

平安時代はその名の通り、平和な時代でした。そのために独自の文化が発展し、日本らしさのベース が形成されたといえるでしょう。どんどんグローバル化していく現代にこそ、日本の文化の基盤が築かれたプロセスを知ることは、とても重要なことではないでしょうか。

本連載では、さまざまな視点から平安時代を紐解き、「豊かな文化」とは何なのかを考えていきます。

4回目となる今回は、平安時代を代表する文学作品『源氏物語』の魅力を、わかりやすく紹介します。

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『源氏物語』とは?

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『源氏物語』は、「世界最古の長編小説」といわれています。作者の紫式部は、平安中期に活躍した作家です。

『源氏物語』の作者として有名な彼女ですが、物語を書くだけではなく、『紫式部日記』などの日記文学も残しています。また、『源氏物語』の中では795首の和歌が詠まれるなど、多くの優れた歌を生み出し、文学的才能に優れた女性として知られています。

そんな紫式部は、時の権力者である藤原道長の娘・彰子(しょうし、またはあきこ)に仕えていました。
宮中女房として仕え、執筆活動にも積極的に取り組んだ紫式部から生まれた『源氏物語』は、誕生から1000年以上経った現在でも、世界中の多くの人々に愛されています。そこには昔も今も変わらず私たちを魅了する人間心理があるのです。

『源氏物語』のあらすじ

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ここからは、『源氏物語』のあらすじをわかりやすく紹介します。

『源氏物語』の主人公は、平安時代の帝(国を治める人)の息子である、光源氏です。幼い頃から、光り輝くように美しかったため、周囲の人々が彼を「光源氏」と呼ぶようになりました。
「源氏」というのは、皇族の身分を離れて臣下に下ることになった際、「源(みなもと)」という姓をつけられたことから、この呼び名がついています。

『源氏物語』は、そんな光源氏の生涯を綴った物語です。

彼はその美貌で、多くの女性と恋に落ち、浮名を流します。また、帝の子であるという高い部分から、『光る君』でも描かれているような権力争いに巻き込まれるなど、単なる恋物語だけではなく、さまざまな苦悩を描いた人間ドラマとしても優れた作品です。

3部構成から成り立つ『源氏物語』

現在、『源氏物語』は一般的に三部構成として考えられています。

【第一部】光源氏の女性遍歴や成功を描いた物語
【第二部】栄華を極めた光源氏の苦悩に満ちた後半生を描いた物語
【第三部】光源氏の息子である「薫」を中心とした物語

『源氏物語』は、全部で五十四帖(五十四編)からなる長編小説で、およそ500人のキャラクターが登場します。70年もの出来事が描かれた大作ですが、三部のうちどこから読んでも、独立した物語として楽しめるのも大きな特徴です。

『源氏物語』の魅力とは

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『源氏物語』は、宮中で人気を博し、写本されて様々な人に広がっていきました。一条天皇からも評価を受けたとされています。そんな『源氏物語』が誕生してから1000年以上が経つ今。現在でも多くの人に『源氏物語』が愛される理由はどこにあるのでしょうか。

光源氏をとりまく個性的な女性たち

『源氏物語』には、光源氏の恋の相手となるさまざまな女性たちが登場します。

彼女たちは年齢や身分、性格などがそれぞれに異なり、魅力的なキャラクターとして描かれています。

たとえば、光源氏の初恋の相手であり、光源氏の父(桐壺帝)の妃である藤壺の宮は、「輝く日の宮」と呼ばれるほどの美貌の持ち主。才女でもあり、非の打ち所の無い藤壺の宮と光源氏が繰り広げる禁断の恋は、物語の大きな見どころです。

他にも、恋敵への嫉妬から生霊になってしまう六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)、『源氏物語』のヒロイン的存在であり、幼少期に光源氏に見初められたことで、彼の理想の女性として成長する紫の上など、個性的な女性たちの生きざまが物語を彩ります。

光源氏の栄光と挫折に描かれる人間ドラマ

『源氏物語』には、数多くの恋物語が登場しますが、物語の魅力はそれだけではありません。

前述のとおり、光源氏は高い身分と唯一無二の美貌、深い教養や雅な心を持つ、恵まれた人物です。栄華を極め、誰もが羨む人生を送っているように思われます。

しかしその一方で、光源氏は多くの挫折や苦しみを経験します。政敵に敗れ官位を失ったり、晩年に娶った妻、女三宮(おんなさんのみや)の密通を経験するなど、華やかな人生の裏には挫折と苦悩が存在しています。

『源氏物語』は華やかな恋愛模様だけでなく、紆余曲折の人間ドラマが繰り広げられているのです。

登場人物の深い背景から読み取る普遍的な人間の感情

実に多くの人物が登場する『源氏物語』。

それぞれのキャラクターには深い人物造形があり、現代の私たちも共感できる人間の機微が丁寧に描かれています。

光源氏の親友であり、ライバルでもある頭中将(とうのちゅうじょう)や、彼の息子であり、光源氏の妻・女三宮が不倫していた柏木、光源氏の息子である夕霧(ゆうぎり)など、光源氏にかかわるサブキャラクターも個性が光っています。

『源氏物語』を読んでいると「自分に似ている」「共感できる」と感じられる登場人物が見つかるかもしれません。

入門編にも最適!源氏物語の現代語訳5選

1000年以上も前に書かれた『源氏物語』には多くの作家による現代語訳が刊行されています。ここでは『源氏物語』を読んだことのない方に向けて、『源氏物語』の入門書として最適な書籍をご紹介します。

「瀬戸内寂聴」訳で読む名場面『瀬戸内寂聴の源氏物語』

『源氏物語』は非常に長いので、読むのをためらう方も多いのではないでしょうか。

『瀬戸内寂聴の源氏物語』(講談社)は、生前『源氏物語』を現代語訳を精力的に行った作家・瀬戸内寂聴さんの現代語訳から、名場面のみをセレクトした一冊です。

非常に読みやすい現代語訳であり、光源氏をとりまく女性たちの個性や人間模様を楽しむこともできます。

こちらを読んで興味を持った方は、瀬戸内寂聴さんの完全版を読むのもいいかもしれません。

読みやすく美しい『源氏物語』 

直木賞作家・角田光代さんが訳す新訳『源氏物語』(河出書房新社)。

2017年に刊行されたため、数多くの『源氏物語』現代語訳のなかでも、かなり新しいものといえるでしょう。

原文に忠実ながらも読みやすく訳されており、現代語で歯切れのいい会話文が魅力です。

10代向けに書かれたやさしい『源氏物語』

ファンタジー作家・荻原規子さんによる『紫の結び』シリーズ(理論社)は、『源氏物語』の要ともいえる、光源氏、藤壺、紫の上の一生を中心に描かれています。

10代向けに書かれたやさしい現代語訳でありながら、若い方だけではなく大人が読んでも楽しめる作品です。

源氏物語を漫画化した超大作『あさきゆめみし』

大和和紀さんによる『源氏物語』のマンガ版『あさきゆめみし』は、少女漫画の金字塔ともいえる名作。

『源氏物語』の耽美な世界観を「目」で楽しめる貴重な作品です。

特に、姫君たちの衣裳の美しさ、平安時代に行われていた宮中行事の数々を絵で楽しめます。

普段活字を読まない方も、『源氏物語』の世界を堪能できるでしょう。

庶民感覚で楽しめる『源氏物語』

『源氏物語』に対し、「堅苦しい」「むずかしい」というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。

そんな方におすすめしたいのが、田辺聖子さんによる『私本・源氏物語』(文春文庫)です。源氏物語の主人公・光源氏の従者(召使い)の目線で描かれた本作は、全編を通して大阪弁で書かれたコメディタッチの作品。

読みながら、思わず笑ってしまうかもしれません。

また、田辺聖子さんは、『新源氏物語』という『源氏物語』の全訳も刊行されています。

長く愛される『源氏物語』から普遍的な価値や豊かさを感じよう

『源氏物語』が長い間読み継がれている理由には、1000年経っても変わらない普遍的な心が描かれているからではないでしょうか。
長きにわたり読み継がれ、これからも愛され続けるであろう文学の魅力を知り、千年先の未来を想像してみると、普遍的な豊かさのヒントが見つかるかもしれません。

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