Yahoo!ニュース ドキュメンタリー 今月観たい1本『あの夏、僕はもう一度生まれた。』

社会や人々のありのままを切り取り、映し出すドキュメンタリー。映像というかたちでこの世界の“リアル”を知ることは、地球にも人にも優しい未来を考えるきっかけになります。

本連載では、気軽に観ることのできる約10分のドキュメンタリー作品を配信する「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」から、今観たい1本をセレクト。毎月テーマを変えて、映像という切り口から、持続可能でエシカルな社会を考えます。

9月のテーマは「自然災害とどう向き合うか」です。

災害の多い季節に、改めて見直したい防災のありかた

1927年9月1日に関東大震災が起こったこと、そして季節的にも災害が多いことから、9月は防災月間とされています。過去の被害を風化させないために、防災訓練などの取り組みが各地で催されます。

そんな9月にご紹介する作品は、熱海の土石流で自宅を失った中国人と、彼に寄り添った人々の一年を追った『あの夏、僕はもう一度生まれた。』です。異国に住むひとりの男性が失意の中で人々に助けられ、地域と関わりながら立ち上がるストーリーから、自然災害の多い日本で生きることについて考えます。

『あの夏、僕はもう一度生まれた。』

あの夏、僕はもう一度生まれた。(Yahoo!ニュース ドキュメンタリー)

監督・撮影・編集:小田 大河
プロデューサー:金川 雄策
公開:2022年

作品のあらすじ

2021年7月3日に静岡県熱海市で発生した土石流災害は、災害関連死を含め28人の命を奪う甚大な被害をもたらしました。

在日中国人の徐浩予(じょ こうよ)さんは、民宿を営むために購入したばかりの一軒家が土石流によって半壊。
「家だけでなく財産も夢も全て失いました。ここは伊豆山神社に近いパワースポットなのに、神様はいないと思った。」と当時のことを振り返ります。

夢や希望が一瞬にして消え去り、絶望する徐さん。日本語が話せない上に、熱海市へ移り住んだばかりで住民票を移していなかったことから、行政の助けも得ることができない状況でした。

避難所やホテルを点々としながら、徐さんは、被害や自らの状況を伝える動画を配信。テレビや新聞の取材もきっかけとなり、地元の人々が支援に動き始め、また、全国の在日中国人からは314箱の支援物資が届きます。

そのような中、避難所で出会った人に日本語を教えてもらうなど、徐さんは同じ境遇の被災者たちと接点を持ち始めます。地域の復興に尽力しようと、徐さん自身もボランティア活動に参加し、初めて日本人の友達もできました。

災害から1年後には、事情を知った地元の人が家を安価で譲ってくれることとなり、熱海の地で新たなスタートを切る決意を固めます。

同じ年の夏、夏祭りで、地元の人々とそろいの法被を着て一緒に山車を引く徐さんの姿がありました。

一度はすべてを失い、人生に絶望した徐さんですが、そこで「被災経験を経てこれからは日本語や日本の文化を勉強し熱海人として日本の仲間とともに本当の人生を歩んでいきたい」と日本語で挨拶をするのでした。

改めて考えたい人や地域との繋がり

人と人との繋がりが希薄になっていると言われる現代社会。忙しい毎日を送る中で、地域の催しに参加する時間がなかったり、近所の人のことを知る余裕がなかったりするかもしれません。

作品では、災害をきっかけに積極的に地元の人との関係を構築する徐さんの姿が映し出され、他の人と共に生きていくことの重要性を強く訴えています。

徐さんは、一方的に助けを受けるだけではありませんでした。様々な人から支援されながらも、全国から集まった物資を全て自治体に寄付し、自らもボランティアに参加します。

1年後には、地元の人の好意で家を譲り受け、参加した夏祭りでは大勢の人々から叱咤激励を受けるなど、地域に尽くした徐さんを中心に、温かい助け合いの輪が広がっていくのです。

私たちが生きていく上で、人との関わりは欠かせないものです。日々の暮らしの中で支え合いながら生きる私たちですが、災害などの非常時には、さらにその大切さが浮き彫りとなります。

徐さんのような外国人だけではなく、ハンディキャップを持つ人、お年寄りや子どもなど災害時には支えを必要とする人たちの存在が可視化されやすくなります。

そうではない人も、災害をきっかけに孤立を味わう可能性は十分にあるでしょう。

災害時に誰ひとり取り残さないようにするためには、自治体の防災計画や物資などの備えが重要です。しかしそれだけでなく、普段から一人ひとりが他人を受け入れ、関わり合おうとする気持ちが大切であることを、作品は教えてくれます。

命を守るためにわたしたちにできることは?

今年も各地で地震や豪雨などが相次いでいます。気候変動による災害の激甚化を肌で感じる人も多いのではないでしょうか。

「防災」と聞くと地震がイメージされやすいですが、年々深刻さを増す河川の氾濫や土石流への危機意識も高めていきたいものです。

災害への備えとして代表されるものには、備蓄品の用意や家具類の転倒防止、ハザードマップや避難場所の確認、家族との待ち合わせ場所や連絡手段を決めておくことなどが挙げられます。
それ以外にも、周辺にはどのような人が住んでいるのかを知ることや、生活する地域の防災訓練に参加してみるなど、地域や近くに住む人への理解を深めることも防災のひとつです。

災害とどう向き合っていくべきか、映像から見つめなおしてみませんか。

文/かがり

※作品はこちらから視聴できます
あの夏、僕はもう一度生まれた。(Yahoo!ニュース ドキュメンタリー)

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この記事を書いた人

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