京都・西陣の住宅街を歩いた先に、古い町家を生かした小さな八百屋カフェ「ベジサラ舎」があります。
八百屋であり、カフェでもあるこの店には、農家が丁寧に育てた旬の野菜が並びます。
旬の野菜を使った食事を味わい、気に入ったものを買って帰る―。ただ“買う”だけではない時間を求めて、この場所を訪れる人が後を絶ちません。
この場所に人が惹かれる理由を探してみると、そこには中本千絵さんが大切にしてきた食の安全性へのこだわりと居場所の心地よさにありました。
農家を訪ね、自分の感覚で選び抜いたこだわり野菜
ベジサラ舎の店内には、旬を迎えた色とりどりの野菜が並びます。
その時期にいちばんおいしい旬の野菜を、滋賀県の農家を中心に、農家同士の紹介を通じてつながった農家から仕入れているそうです。
そのつながりは少しずつ広がり、今では全国各地の農家を訪ねながら、野菜を届けています。

農家を直接訪ね、仕入れる理由について尋ねると、中本さんはこう話してくれました。
「抽象的になるけど、お野菜のもつパワーを感じるんです。農家さんが一つひとつ愛情を込めて大切に作った野菜は、食べてみると味が全然違う。その感覚を大事に仕入れています」

畑の様子、訪れたときの全体の雰囲気も含めて、野菜を調達しているという中本さん。農家との関係は、仕入れ先というより、人と人としてのつながりに近いものです。
知識やデータだけではなく、自分で食べて感じた感覚を大切にしながら選ばれた野菜だからこそ、ベジサラ舎に並ぶ野菜にはどこか力強さがあるのかもしれません。
“食べて納得する”という循環
ベジサラ舎ではカフェとして食事の提供もおこなっています。
「ここで食べてもらって、納得して買ってもらえる。そういう循環が生まれたらいいなと思って」と中本さんはそう話します。
取材当日には、ヴィーガンの定食をいただきました。

雑穀の一種で、お肉の代替食材としても使われるたかきびで作ったハンバーグは、食べ応え十分です。
無農薬のお米はつややかで、旬の野菜を使った副菜はやさしい味つけ。素材の良さが光ります。
なかでも、伸びすぎた規格外のほうれん草を使ったという白和え風の一品は、ナッツの食感がアクセントになり、野菜本来の味わいが引き立っていました。

にんじんのドレッシングや、ひじきと野菜の和え物など、どれも手が込んでいながら、どこか家庭的でほっとする味わい。食べ進めるうちに、体だけでなく気持ちまでゆるんでいく感覚がありました。
「元気が出る、って言ってくれはるんです」
食べることは、栄養を摂ることだけではなく、どんな気持ちで食べるかもまた、食の一部なのだと感じました。そんな豊かな時間を過ごしたあと、素材の野菜を買って帰るお客さんが後を絶たないといいます。
食べることと買うことが、同じ場所でつながる。ベジサラ舎は食の循環を生み出しています。
規格外ではなく、“まだ生きている野菜”を生かす

ベジサラ舎では、いわゆる規格外野菜の利用を前面に打ち出しているわけではありません。
しかし、日々の営業のなかで自然に生まれた“使い切る工夫”があります。
たとえば、少し色が変わっただけで商品としては売りづらくなった野菜は、カフェの副菜として生かされます。行き場を失いがちな野菜が、新しい役割を持つ。そこには、“もったいない”を掲げるのではなく、当たり前に生かす感覚があります。
「子どもに食べさせたい」から始まった

中本さんは、もともと食の仕事をしていたわけではありません。
会社員として働いたあと、子どもが生まれたことをきっかけに、「家でできる仕事をしたい」と考えるようになったと言います。
当時暮らしていた滋賀県で始めたのは、テーブルコーディネートと料理教室。続けるうちに関心は盛りつけよりも、その素材そのものへと移っていきます。
「生徒さんも主婦の方が多かったし、私自身も子どもが小さかったので、何を食べさせるか、何を避けたいか、そっちのほうが気になるようになっていったんです」
双子の母でもある中本さん。特に息子さんは野菜が苦手だったそうです。
「野菜を食べてほしいなあ、という気持ちはずっとありました」

しかし、中本さんは最初から野菜の知識があったわけではありません。
「ほんまに、スーパーで野菜を買うくらいの感覚しかなかったんです」
そんな中本さんが野菜に惹かれるきっかけになったのは、滋賀・近江八幡のイタリアンレストランで食べた一皿でした。
前菜の野菜がおいしく、「滋賀の野菜」と聞き、そのまま農家を訪ね歩いたといいます。
「もう、ほんまに突撃です」
その後、料理教室の生徒に野菜の配達販売をスタートしたのが、ベジサラ舎のはじまりです。

直接農家を訪ねて野菜を仕入れた野菜の質の高さは評判をよび、配達先が増えるにつれて冷蔵設備も必要になっていきました。
そうして2017年に、西陣の町家で店を開くことになったのです。

野菜を買うだけではない、“集まる理由”がある

いまベジサラ舎では、いちごの食べ比べ会のような小さなイベントも開かれています。
野菜を買いに来た人が、そのまま食事をしたり、誰かと話したり。
気づけば長居してしまう——そんな空気が、この場所には流れています。
「こういう、ゆるい会ってええなと思ったんです」
中本さんはそう話します。
八百屋やカフェという枠だけではなく、誰かがふらっと立ち寄り、少し気持ちを緩められる場所。
農家から届く野菜をきっかけに、人と人がゆるやかにつながっていく。
ベジサラ舎には、そんな“暮らしの延長”のような時間がありました。

「選んだ野菜のもつパワーで元気になって欲しい。複雑な調理法ではなく、素材を生かした味付けで、見えない幸せのエネルギーを感じてもらえたら嬉しいです。」
中本さんは笑顔でそう話します。
昔ながらの町家で、静かに流れる時間を過ごすと、食べることと暮らすことが、自然につながっているような感覚になります。
効率や便利さとは少し違う、“豊かさ”の形。べジサラ舎には、そんな時間が流れていました。
【店舗情報】
京都府京都市上京区西社町179
八百屋部 /10:00〜17:00
すこやか食堂/11:30〜17:00 (L.O16:30)※月・日曜日定休







