砂漠に動物が増える?CACTUS TOKYOに聞く、サボテンレザーの知られざる可能性

日本でも有数のサボテンレザーブランドCACTUS TOKYO。2023年9月に新たなコレクションを発表し、カーボンフットプリントの公開もスタートさせました。そして、今回から新たにコンセプトとして掲げられたのが「生物多様性」というキーワードです。
サボテンレザーと生物多様性にはどのような関係があるのでしょうか?製品に込めた想いを代表の熊谷渓司さんにお聞きしました。

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サボテンレザーの専門ブランド、CACTUS TOKYO

作り手の技が光る、洗練されたデザインのバッグやウォレット。CACTUS TOKYOは、本革にも引けをとらない滑らかな風合いを持つサボテンレザーアイテムを展開するブランドです。
国内サボテンレザー専門ブランドの先駆けとして2021年にスタートしたCACTUS TOKYO。

ここ数年サボテンレザーは、ファッションブランドをはじめとする各業界から熱い視線を集めていますが、いち早くそのサステナブルで機能的な素材に着目し、様々なプロダクトを世に送り出してきました。

都市と自然を結ぶプロダクトデザイン

2023年秋のコレクションであるビッグトート / サワロ(SAGUARO)

都会的なアイテムであるCACTUS TOKYOの製品の裏側には、プロダクトを通して、自然の豊かさを伝えたいという深い想いがあります。そこには、常に自然の中に身を置いてきた熊谷さんならではの感性が息づいています。

「私は北海道で育ち、幼い頃から自然が身近にありました。学生の頃はスキー部に所属し、山で過ごす時間がほとんどだったと思います。その頃からこの自然を守りたいという気持ちはずっとありました。」

CACTUS TOKYO代表の熊谷さん

「今は都市に住んでいますが、都市部に住んでいても、自然を感じられる機会や場所は重要です。CACTUS TOKYOは、都市に馴染むデザインでありながら、持つことで自然と繋がれるものでありたいと思っています。」

熊谷さんは、これまでの経験から環境問題に興味をいだき、ブランドを立ち上げる前は、ブログなどで環境問題に関する情報を発信してきました。

機能性が高く、環境負荷の低い素材として注目されるサボテンレザー

環境問題についての発信を行う活動の中で出会ったのが植物性レザーという新たな可能性です。数ある植物性レザーの中からサボテンレザーを選んだのには大きな理由があります。

「様々な植物性レザーのサンプルを取り寄せたのですが、サボテンレザーを触った時にその滑らかさに驚きました。本革に劣らない手触りだったのです。また、水や汚れに強く、軽いのも魅力的でした。」

未使用のサボテンレザー(写真左)と熊谷さんがブランド立ち上げ当初から使用している名刺入れ(右)。ほとんどメンテナンスをしなくても綺麗な白をキープしている

サボテンレザーは、軽く濡れてしまった程度であれば撥水し、メンテナンスもほとんど必要としません。ハンドバッグ一つでおおよそリンゴ1個分の重さという、美しさと機能性を持ち合わせた素材です。

サボテンレザーを語るうえで、サステナブルであるという点も非常に重要です。サボテンは、砂漠の過酷な環境下でも、水や肥料を必要とせず自生することのできる植物であるため、生育にかかる環境負荷が圧倒的に低く済むのです。
製造段階で排出されるCO2が他の素材と比べて格段に少ないことも、サボテンレザーがサステナブルである理由の一つです。

CACTUS TOKYOは今年からカーボンフットプリントを明示し、CACTUS TOKYOの長財布と他素材の長財布を比較したとき、動物由来の製品と比べて約7430g、石油由来の製品と比べて約410gのCO2を削減できることが分かっています。

CACTUS TOKYOの製品は、一般的なブランドと比べてCO2の排出が少ないことがわかる

サステナブルなだけではなく、リジェネラティブな製品へ

サボテンは、環境負荷が低いだけでなく、植えることで緑が増え、生物多様性に寄与することもわかってきています。

「サボテンを植えることで、微生物が増え、それを餌とする虫が寄ってくることによって、多様な鳥や動物が集まってくることがわかっています。サボテンが増えることによって、そこに小さな生態系が生まれるのです。
直接サボテンレザーの生産地であるメキシコの生産者からも、実際に鳥類が増えたという話を聞いています。」

「失われつつある生物多様性を回復させ、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする30by30(サーティ・バイ・サーティ)という動きがありますが、CACTUS TOKYOは、30by30の取り組みに賛同し、私たちのプロダクトを使うことで緑を増やし、生態系を取り戻していく循環ができればと思っています。」

環境省によると、森林の減少、外来種による生態系の喪失やかく乱、生物資源の過剰な利用などの人間活動によって、既知の哺乳類、鳥類、両生類の種のおよそ10~30%に絶滅のおそれがあるとされています。

地球上の生物多様性が失われつつある中、私たちの生活の中でどう多様性を守っていけるのかは喫緊の課題です。
“今の状態を維持する”というサステナブルな取り組みだけでは、もはや自然は守れないと言われています。緑を増やし生物の棲みかを積極的に増やしていくリジェネラティブな考え方は、私たちの消費にとって大切な選択肢かもしれません。

「素材にも多様性を持たせ、バランスの良い社会にしていきたい」

サボテンレザー専門ブランドである点に加えて、CACTUS TOKYOは製品づくりのなかでこだわっている点があります。それは、日本の技術や伝統を残していきたいという思いのもと、製品はすべて、国内の熟練した職人の手によってひとつひとつ丁寧に作られているという点です。

一方で、サボテンレザーならではの課題にも直面してきました。
「当たり前ですが、革製品を作る工房の機械や技術は、本革に合わせています。サボテンレザーとなると扱い方に工夫が必要になってくるんです。はじめはそこに苦労しました。今では、職人さんたちがサボテンレザーの特性を理解してくださり、以前のような問題は起きなくなりましたね。」

熊谷さんは、今抱える課題について他にもこう話します。
「サボテンレザーは今、世界中で取り扱われ始めています。現にサボテンレザーの価格は値上がりしています。サボテンレザーの知名度が上がっていくのは喜ばしい一方で、一つの素材ばかりに需要が集中してしまうと、環境負荷は高くなってしまうと思うんです。どんなものでもそうですが、一つの素材をみんなが集中して使うのではなく、適度なバランスと“多様性”が必要だと思っています。」

熊谷さんは今、サボテンレザーだけでなく、近年登場し始めた他の植物性レザーにも注目。それぞれの素材が持つ特徴などを細かく調査しています。

CACTUS TOKYOが今見つめるもの

最後に、熊谷さんに今後の展望をお聞きしました。

「海外の方に知ってもらう機会を増やしたいですね。日本では、分業ではなく、一人の職人さんがすべての工程を担うことができます。みなさん世界に誇れる技術を持っているのです。立体的な造形や細かい縫製など、今後はより一層、ものづくりの技術があるからこそ実現できるような製品をリリースし、ぜひ海外のみなさんに手に取って見ていただきたいと思っています。
また、生物多様性を打ち出し始めたいま、今後は、ビジュアルも“生物多様性”を体現したものを生み出していけたらと思っていますので、楽しみにしていただければと思います。」

都市と自然を“生物多様性”というキーワードでつなぐ、CACTUS TOKYO。従来のものと比べて環境負荷が低い製品や資源を有効活用した製品は多く存在するものの、持つことで緑や生物を増やせるというプロダクトは、私たちの消費に新たな流れを作り出していくことでしょう。

お話を聞いた方

熊谷渓司さん

CACTUS TOKYO代表。年間100日を山で過ごす学生時代を過ごし、その後大手機械メーカーで経営企画に携わる。自然との触れ合いの中で環境問題に関心を持ち、自ら情報発信をする中でサボテンレザーに出会い、ファッションを通じて環境問題を解決することを目的とするCACTUS TOKYOを2021年に立ち上げた。

CACTUS TOKYO公式HP
https://cactus-tokyo.com/

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