【KANPAI for GOODレポート】フェアトレードはどうやったら社会や企業に浸透する?

月に一回、どこかの水曜日の夜に銀座のスナックで開催されるKANPAI for GOOD。ソーシャルグッドコインを通じて社会貢献を支える「actcoin(アクトコイン)」、ソーシャルグッドな銀座のスナック「SNACK LIFE IS ROSE」が主催となり、人や環境のために活動する方をゲストに招いて、お酒を飲みながら参加者みんなで社会に思いを馳せる、ソーシャルグッドなイベントです。

2月に行われたのは、KANPAI for GOOD拡大版。KANPAI for GOODとrootusのコラボレーションによって実現した今回のテーマは、「フェアトレードはどうやったら社会に浸透する?」です。

異業種のゲストお二人に、フェアトレードの概念を社会に広めていくための現実的な課題などをお話しいただきました。

ゲストプロフィール

潮崎 真惟子さん

認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン 事務局長。幼少期から国際協力に携わることを志し、デロイトトーマツコンサルティングを経て2021年に事務局長に就任。大企業や市民団体等を巻き込んだ国内のフェアトレード普及活動を推進。一橋大学経済学部卒・経済学修士。

鈴木 芳典さん

株式会社ファントム取締役。茨城県日立市出身。グラフィックデザイナーとして25年、様々なプロジェクトに参画。現在は、株式会社ファントム取締役にて、クリエイティブ事業、総合ベーカリー、食パン専門店、飲食店を経営。

そもそもフェアトレードってなに?

ゲストと参加者の自己紹介が一通り済んだら、まずはカンパイ!

そこから潮崎さんによる「フェアトレードとは?」というテーマから対談がスタート。和やかな雰囲気の中、全員参加のクイズなども交えながら、なぜフェアトレードであることが重要なのかを学ぶ場となりました。

潮崎さん:フェアトレードと言っても様々な形があるのですが、私たちが行っているのは認証ラベルの普及啓発と認証・ライセンス事業です。国際フェアトレード認証ラベルは、大きく3つの基準を守られた商品についています。森や土壌・水に配慮し、農薬・薬品の使用基準を守っているなど環境にやさしいこと、社会・人権を守り児童労働がないこと、そして生産者に支払われる適正な価格を調査し定めているのですが、その価格を守っているかということです。

国際フェアトレード認証ラベル

例えばコーヒーやチョコレートは小規模農家がほとんどです。コーヒー生産の7割は家族規模の小さな農園で作っています。そのような農家だと企業と交渉が難しいため、アンフェアな状況に陥りがちです。

問題は大きく3つあります。一つ目は、現地でのジェンダーギャップが大きいこと。同じ作業をする男女でも賃金が大きく異なります。生産地だけでなく世界的にみても、今のペースでいくと、男女の格差が埋まるまでには、あと169年かかると言われているんです。

フェアトレードの基準の3つの柱

二つ目は、環境の面の問題です。例えば、コーヒーは温暖化を背景に木が枯れてしまう病気が流行していて、2050年にはカフェなどで使われているアラビカ種の栽培地面積はなんと現在の50%に減少すると言われています。
現在生産者の中には、このコーヒーの病気で生産ができなくなり、収入がどんどん減って深刻な貧困に陥っている、いわゆる“気候難民”と呼ばれる方もいらっしゃいます。
なぜこれがアンフェアかというと、生産者は生活の中でCO2をほとんど出していません。先進国の私たちが多量のCO2を排出してきた結果、生産者がその被害を被っているんです。そこが不公平なところですね。
最後の問題としては、児童労働が行われていること。2020年に児童労働している子どもは、世界の子どもの人口の10人に一人とされているんです。

鈴木さん:深刻な問題がたくさんあるんですね…。少し視点は変わりますが、私たちはコーヒーも提供しています。パンにはコーヒーが欠かせません。コーヒーがまた高くなるのは私たちにとっても大きな痛手になります。みんなで考えていかなければならない問題ですね。

日本社会でフェアトレードが浸透していくために必要なこと

鈴木さん:フェアトレードの話ではないですが、例えば、今紙袋やビニール袋にお金がかかるようになり、みなさんの意識が少しずつ変わってきた気がします。自然と環境に良い選択ができていますよね。
お客さまからどんな取り組みをしているかと問い合わせをもらったり、企業の姿勢が若い人たちの採用に関わってきたりするなど、社会が大きく変化してきているのを感じます。
ただ、企業側からすると商業的にもデザインされた紙袋などはどんどん作りたいと考えるのも現実です。中小企業は大企業のように体力があるわけではないので、理想と現実のはざまで葛藤していると思うんですよね。
中小企業でフェアトレードを取り入れた成功例などの事例が出てくると、他の中小企業も参考にしやすいですよね。

潮崎さん:環境に良いものや人に良いものがもっと売れるようにならないと、ビジネスのほうが持続可能でなくなってしまいますよね。そのような声はよく耳にします。消費者も変わっていくことが大切ですよね。

鈴木さん:欧米などは市場にサステナブルな商品やフェアトレードの商品がうまく入り込んでいる印象です。なぜそれが成り立っているのかが気になります。日本とは何が違うんですかね。

潮崎さん:そうですね。例えばスイスのフェアトレードの商品購入額は一人当たり、日本の約100倍です。まず消費者や投資家の社会問題への意識が強いですね。
それから、セレブがフェアトレードやサステナブルな選択を発信することで、“かっこいい”というイメージも広がっています。チャリティ文化が根付いているのもひとつですね。
欧米では、最初に小売店がプライベートブランドをフェアトレードやサステナブルな商品に置き換えていき、そこに卸すメーカーが変わっていったというように広まりました。

鈴木さん:日本も労働力が不足している今、時代が変わり、リモートが増えたこともあって、同じ企業内でも若い世代と関わることが少なくなったように感じます。その中でどのように会社の理念を伝えていくか、たとえばフェアトレードを取り入れたとして、どのように想いを共有していくのか、難しいところもあります。そういうところも含めて、先ほど言ったように事例を一緒に作っていけたら嬉しいです。それから、国の制度でもどのくらいの予算やサポートがあったらフェアトレードが広まっていくのかという具体的な数字などが示されるとわかりやすいですよね。

企業がフェアトレードを受け入れる第一歩は、現場を理解することから

潮崎さん:私からひとつ、お聞きしたいことがあります。例えば、店頭のフェアトレード商品に“社会にとって良いものです”のようなポップなどを置いてもらってピーアールすることはどう思いますか。

鈴木さん:正直ポップは万能ではないというのが現実かもしれません。お客さんは意外と目にとめていないんですよね。“うちはいいことしています!”と押しつけのようになってしまうのもあまり良くないかもしれません。結局お客さんに商品の良さを伝えるのは現場の店員です。その店員がどういうモチベーションで話せるか、というのが課題になってくると思いますね。
できれば、まずは一日店舗に立ってみると、学べることが多いと思います。どのようなお客さんとどのような会話をしているのか、何か伝えたいことがあるときにどのような伝え方が良いのか、聞いているだけで違うと思います。

潮崎さん:確かに、ポップや配布物などは考えていましたが、店員さんが接客の中でフェアトレードのことをどのようにお伝えしていけるかというのは考えていませんでした。
実は、今度啓発キャンペーンの一環として、店頭での販売を一緒に手伝わせてもらえないかと初めて依頼しているところです。

鈴木さん:それは企業にとってはとても嬉しいですね。ポップやポスターだけ送られてきて“これでお願いします”と言われても、正直困ってしまうところがありますので。
それから、“きれいごと言ってもつぶれたら意味がない、雇用が守れないと意味がない”と思う経営層の方は多いと思います。そのような経営層の考えを知ること、そして現場を見ること。そこに寄り添えた提案ができれば、受け入れてくれる企業は増えていくのではないでしょうか。

潮崎さん:なるほど。意外と企業さんの本音を聞ける機会はありません。そのような意見を聞けるのは貴重ですね。

鈴木さん:このように企業とフェアトレードを推進する団体が、ディスカッションを増やしていくことこそ、重要なのではないかと思いますね。

国を巻き込み、法律の整備を進めることも重要

途中、参加者からは、「消費者や企業しか話に出ていないけれど、政府や制度というものもかなり重要になってくるのではないか。個人の良心に頼った活動だと、広がり、継続していくのは現実的に難しいのでは?」という意見がありました。
それに関して、潮崎さんは、「もちろん制度も重要です。例えば、児童労働を行っていない商品には関税をかけないなどの制度を作ることで、消費者も企業もフェアトレードの商品を取り入れやすくなると思います。ただ、世界的に見ても、政府よりも企業の方がよっぽどお金(経済的な力)を持っています。そして児童労働などはビジネスの中で生まれているため、やはり企業の姿勢は大切だと考えます。」とおっしゃっていました。

潮崎さん、鈴木さんだけでなく、参加者からも、今回のようにみんながフラットに話し合える場がどんどん増えたら社会は少しずつ変わっていくのでは、という会話で締められた今回のKANPAI for GOOD。

経済や雇用を守ろうとする社会の中で、フェアトレードをどのように取り入れていくのか。

まずは、私たちが何気なく購入しているものの裏側に、気候変動の被害を受けていたり児童労働が行われていたりするなど、アンフェアな立場にいる人がいる可能性があることを知ること。そして、その解決のためには様々な立場の人が本音で対話を重ね、お互いの意見に耳を傾けることが重要であることを認識した一夜となりました。

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