月に一回、銀座のスナック「SNACK LIFE IS ROSE GINZA」で開催されるKANPAI for GOOD。お酒を片手に、社会や環境のために活動するゲストのトークを通して参加者みんなで社会に思いを馳せる、ソーシャルグッドなイベントです。
2026年5月には、第4回の拡大版を開催。rootusとのコラボレーションにより、「日本の学校教育の魅力」をテーマに、ドキュメンタリー監督・山崎エマさんをゲストに迎えました。
ゲストプロフィール

山崎 エマさん
ドキュメンタリー監督。高校野球や小学校教育などの題材を通して日本社会を見つめ、独自の視点で物語を描く。2026年、米エミー賞にノミネートされた『小学校〜それは小さな社会〜』から生まれた短編『Instruments of a Beating Heart』は、2025年米アカデミー賞短編ドキュメンタリー部門にノミネートされ、国際的な注目を集めた。2026年3月、多様な教育を受けた経験をもとに綴った自身初の著書『それでも息子を日本の小学校に通わせたい』(新潮新書)を発売。
「自身にしか書けないこと」を綴った初の書籍
イベントは、ドリンク片手に「カンパイ」からスタート!
イギリス人の父と日本人の母を持つ山崎さんが、世田谷区の公立小学校の1年間を追った『小学校〜それは小さな社会〜』の予告編映像を上映後、トークセッションがスタートしました。
―まずは、ドキュメンタリー作品『小学校~それは小さな社会~』がアカデミー賞、エミー賞にノミネートされたのは快挙でしたね。それに続き、著書『それでも息子を日本の小学校に通わせたい』の出版おめでとうございます! ドキュメンタリー作品に続き、なぜ書籍という形でも発信しようと思われたのでしょうか。

山崎さん:アカデミー賞ノミネート後に日本に帰国すると、想像を超える仕事のオファーがありました。その中で改めて問い直されたのが、なぜドキュメンタリーを制作してきたのか、何のために自分は生きているのだろう、という根本的な問いでした。
当初は映画の裏側を書いてほしいと言われていたのですが、それは正直私でなくても、他の人でもできることだなと思ったんですよね。
書籍のタイトルにもある通り、私は息子を公立小学校に通わせたいと思っているのですが、私自身が各国で教育を受けた背景や夫がアメリカ人であることを理由にその選択に驚かれることも少なくありません。
そこで、この機会に現在の選択へとつながった私の半生を中心に書くことにしました。
もうひとつのねらいとして映像では難しい「気づき」を提供したいと思いました。社会を変えることは時間がかかりますが、気づきなら1秒でできる。
親としての自分の経験、受けた教育、人生の選択—それらを通じて、読者の皆さんに日本の小学校教育、そして日本社会の本質を問い直すきっかけにしてもらいたいという思いがありました。
世界が評価した日本の小学校教育
―作品は、係活動や掃除など生活面の描写が多いのが特徴ですが、取材の中でどのような「日本らしさ」が見えてきたのでしょうか。また海外ではどんな反応があったのでしょうか。

山崎さん:日本の教育システムは、本当に良さと課題が表裏一体だと思います。掃除、給食、係活動など、生活そのものが教育の対象となる日本の小学校のシステムは国際的には極めて特殊です。
組織の一員、コミュニティの一員としてどうあるべきかを最初に学ぶ。いわゆる集団生活教育は、フィンランドの人からはコミュニティづくりの教科書だと言われました。
フィンランドは教育大国と名高い国のひとつですが、個人主義に走りすぎてしまった結果、自分のことしか考えられない子どもたちが増えていることが現在の課題となっているそうです。
日本では集団という言葉がネガティブに捉えられることも多いですが、すごく素敵なものかもしれないと気づかされる出来事でした。
また、ニューヨーク・タイムズ紙に「子どもに身につけてほしいレジリエンス力のお手本」として作品を紹介されたこともあります。グローバル社会から見た日本の教育の価値が評価された事例と言えるでしょう。
一方、連帯責任や同調圧力のような側面があることも否定できませんし、一歩間違えたら行き過ぎてしまうのも難しいところだと思います。
自分一人で人は生きていけないし、社会は成り立たないことがベースとしてある古き良き日本の教育を残しつつ、うまく個人主義を取り込んでいければより良い教育の未来が描けるのではないでしょうか。
7段ピラミッドを組んだ経験が制作の原点に
―著書の中では、大阪の公立小学校時代の印象的なエピソードとして「組体操」に取り組んだことが紹介されています。特に挿入されていた7段ピラミッドの写真は印象的でした。

山崎さん:インターナショナルスクールに進学したり、海外で働くようになってあれは特殊な経験だったと気づいたのですが、そもそも、準備期間がある大がかりな運動会自体が世界では珍しいんです。
当初は、運動会の組体操の短編ドキュメンタリーを撮りたいと計画していました。しかし撮影に向けた準備期間を経る過程で組体操そのものが廃止される流れとなり、視野を広げ、小学校教育そのものにフォーカスすることにしたのです。
エシカルな社会につながる、日本の教育の力
―私たちがより良い社会をつくっていくために、日本の教育から学べることは何だと思いますか。
山崎さん:自分だけでなく周りへの配慮を考える力が養われる点が、「心の豊かさ」にもつながってくるのかなと。どんな時も、自分のことだけでなく周りのことを考え、感謝する気持ちがありますよね。
卒業式で卒業生の代表が「私たちを支えてくださってありがとうございます」という12歳とは思えないほど心のこもった感謝のスピーチをすることが多いと思いますが、象徴的な例ですよね。
『The Making of a Japanese』と原題をつけたように、日本の小学校教育を受けた子どもたちは12歳には「日本人」となっているのです。
そのような姿勢に希望を感じる一方で、同じ台本がないのに、気づけば同じことを言える人間が完成する点には注意すべき部分もあるかもしれません。
日本独自の思いやりの心が、グローバル社会が必要としているものであり、エシカルな社会を築くヒントになるのではないかと感じています。
教育と心の豊かさの関係をひも解く一夜
参加者には教育関係者も多く、日本の教育の課題や葛藤についての議論が交わされ、書籍に盛り込み切れなかったエピソードも飛び出すなど、濃い時間となった今回のKANPAI for GOOD。
日本の教育を独自の視点で捉える山崎さんのお話から、足元にある「当たり前」に気づき、見つめ直すきっかけとなる一夜でした。

取材・文/kagari
イベントでは、スナックならではのフランクな雰囲気の中、さまざまな活動を行うゲストから直接話を聞くことができます。初めての方も大歓迎。興味のある方はぜひ足を運んでみては?
最新の開催情報はSNACK LIFE IS ROSE GINZA公式インスタグラムからご確認ください。


















