【KANPAI for GOODレポート】海で活動するゲストに聞く。海とのサステナブルな付き合い方

月に一回、水曜日の夜に銀座のスナック「SNACK LIFE IS ROSE GINZA」で開催されるKANPAI for GOOD。お酒を片手に、社会や環境のために活動するゲストのトークを通して参加者みんなで社会に思いを馳せる、ソーシャルグッドなイベントです。
7月には第二回目となるKANPAI for GOOD拡大版が開催されました。

KANPAI for GOODとrootusのコラボレーションによって実現した今回のテーマは、「海とのサステナブルな付き合い方は?」です。

海に囲まれ、その恵みを享受している私たちですが、海洋ごみや漁業の現状など、海についてどのくらい知っているでしょうか。
イベントでは、海をめぐる様々な問題に取り組むゲストのお二人に、豊かな海を次世代に引き継ぐための課題やヒントについてお話いただきました。

ゲストプロフィール

村上 春二さん

株式会社UMITO Partners代表。パタゴニア日本支社での勤務、国際環境NGOであるWild Salmon Centerの日本コーディネーター、持続可能な漁業を推進する非営利団体、オーシャン・アウトカムズの設立メンバーなどを経て、2021年にUMITO Partnersを設立。「ウミとヒトのポジティブな関係をつくる」をビジョンに掲げ、環境・社会・経済面でサステナブルな漁業を実現するため、日本全国で様々なプロジェクトやコンサルティングを行う。

松倉 杏奈さん

一般社団法人エシカルモデル協会代表。自治体のアンバサダーやPRモデルとしての経験を活かしながら、社会・地域課題の解決に取り組む。エシカルモデル協会を設立し、「ときめきで地球を救う」をテーマに社会的な課題に対して積極的に行動し発信する、エシカルモデルを育成。海洋ごみ問題や海の磯焼け問題解決のため、ビーチクリーンやウニの殻を使用したアップサイクルジュエリー制作・販売などを行う。

海岸に打ち上げられる大量の海洋ごみ。ゲストはどうみる?

イベントは、まずカンパイからスタート!

今回は、rootusでも取り上げているYahoo!ニュースドキュメンタリーの作品を参加者全員で鑑賞し、海が抱えるごみ問題について考えます。今回観た『AT ANY COAST』は、長崎県で海洋ごみ問題に取り組む一人の男性を追った作品。海洋ごみの現状と地道に活動を続ける主人公の葛藤などが描かれています。

―ゲストのお二人は作品をどうご覧になりましたか。

村上さん:海洋ごみの問題は、構造的な部分が大きい中、とにかく主人公の男性がひたむきに頑張り、少しずつ結果が見えてくる様子が印象的でした。
活動を続けるため、人を巻き込むためには資金の問題に突き当たるといったリアルなところも作中で語られていて、共感するポイントのひとつでした。

松倉さん:私たちの団体でも、秋にビーチクリーンを予定しているため、作品を観ながら多くの人を巻き込んでいきたいなと強く思いました。

海洋ごみの多くを占めているのがプラスチックですよね。2050年には魚より多くなると言われていることに強い危機感を覚えていて、人々にこのことをどうやって伝えていくべきなんだろうと改めて考えさせられました。

誰が処理費用を負担するのか。課題が山積する海洋ごみ問題

―実際のところ、お二人の活動の現場における海洋ごみの現状はいかがでしょうか。

松倉さん:江の島の海岸などで行うクリーンアップでは、海洋ごみは陸から流れてきていることを実感しています。よく目にするプラスチックごみはお菓子の袋や歯ブラシなど、私たちの生活にとても身近なものばかりですね。

村上さん:私は、漁業用ブイなど漁具由来のものをよく見ますね。山形県の海岸に多く漂着しているのを見かけました。

ゴースト・ギア(漁具の幽霊)と呼ばれる、海洋に流出した漁網やロープなどの漁具の問題は深刻です。耐久性に優れた漁具は、適切に廃棄されないと半永久的に海を漂い、海鳥やウミガメなどの生き物に絡まるなど、動物の命を奪ってしまう存在になりかねません。

最近私たちが関わっている事例では、アナゴを採るためのプラスチック製の漁具がハワイ沖で漂流し、アザラシが被害を受けているというものがありました。ハワイ沖に漂流する漁具類は台湾・中国・韓国周辺より流れ着いたものと推測されています。

今観た作品でも問題提起されているように、海洋ごみは処理費用の負担に関する課題も大きいです。
例えば北海道では、海外から木造漁船が流れ着くことがあるのですが、誰が費用を出して処分するのかが決まらず、そのまま放置されることもあると聞きますね。

漁師さんが漂流ごみを漁港に持ち帰っても、誰が処分費用を払うのかが決まらず困っているという話も耳にしたことがあります。

ごみ問題以外にも目を向けたい、海をめぐるサステナビリティ

―海洋ごみ問題以外にも、海は私たちの経済活動が原因となって様々な問題が起きていますよね。松倉さんから村上さんにお聞きしたいことがあるということでしたが、いかがでしょうか。

松倉さん:村上さんに、魚介類のトレーサビリティの重要性や必要性、課題についてお聞きしたいです。農産物や衣服については取り組んでいるのですが、海については実は私自身あまり想像がついていません。

村上さん:世界の漁業の現場では禁止されている海域に入り込む、規定以上の量を水揚げしているなどの持続可能ではない違法漁業が横行しています。現状、スーパーで選んでいる魚が、正規・違法漁業のどちらによって採られたかどうか追跡することはほぼ不可能なんです。

海は陸地と違い、監視することが難しい環境です。私たちは魚介類をトレースできるアプリの開発を行い、正規漁業を行っている漁業者を可視化・応援する仕組みづくりを進めています。

普段みなさんが選んでいる魚が、違法漁業によって採られた可能性があることやトレーサビリティが大切だといった認知を広げていきたいですね。

松倉さん:食べ物だけでなく、使うものなど、生産者と消費者が分断されすぎている感覚がありますよね。サプライチェーンを意識しながら食べたり使ったりできたらいいと思います。繋がりが見えることが大切ですね。

磯焼け問題も深刻ですよね。磯焼けは、気候変動が原因と言われていて、水温の上昇や異常気象でウニなどが大量発生し、藻場を食べつくしてしまう現象です。
ウニは飢餓に強いので、殻の中がスカスカになっても生き残ります。藻場は一旦喪失すると回復させるのが難しいと言われています。

松倉さんが手掛けるウニの殻を使用したアップサイクルジュエリー「雲丹華」

自然環境と私たちの関係をポジティブにするためには?

村上さん:一方で、サステナビリティを真剣に考えれば考えるほど、重くネガティブになりがちだと思うんです。ごみは溢れかえっているし、魚は減少しているし、気候変動は深刻だし、どうすればいいんだ…と。

私は、「魚はもう食べない」や「プラスチックは悪者」などと決めつけずに向き合っていくことが大切なのではないかと考えていますが、松倉さんはどういったマインドで日々取り組まれていますか。

松倉さん:私は、「サステナビリティを考えている生産者さん、素敵だよね!」など親しみやリスペクトを持ちながら関わる姿勢が大切だなと考えています。

ルールだから、流行りだから、周りがやっているから…は本質ではないと思うんです。誰かに影響されるのは良いことだと思うのですが、その中で心に響く体験のようなものを感じられたらいいかなと思います。

例えば私たちは、地方の魅力を知ってもらえるような体験型のイベントを通じて、「エシカル」や「サステナブル」といったワードにあまり親しみがない人も参加できるよう、まずは間口を広げることを意識しています。アートやファッションなど楽しみながら取り入れていけるものも良いですよね。

松倉さんが行う海ごみを用いたワークショップの様子

村上さん:アクションに必要なことは、まず心や感情が動くことですよね。流行りすたりで終わせないためにも、どう人々の感情を動かしていくのかということを大切に活動されているんですね。

自分の食べる魚に興味を持つこと、地球環境をキレイにすることが当たり前の社会に

―最後に、豊かな海を残していくために、取り入れたい考え方や、今すぐできるアクションを教えてください。

村上さん: 私が言えることは、旬を意識して食べる魚を選ぶことですね。「これはどこで採れたんだろう」「違う産地の魚を食べ比べてみよう」など、興味を持ってみることがまずは大切かなと思います。

さらに一歩踏みこんで行動を起こせそうな人は、スーパーや飲食店で「これはどうやって採れた魚ですか」と聞いてみてください。店員さんが答えられるのに越したことはないですが、答えられない場合でも提供する人が改めてどうやって採られた魚なのかを確認するアクションに繋がるはずです。

松倉さん:まずは、誰がつくったのか興味を持つことが重要ですよね。それは、自分と自然との距離が近くなっていくということだと思います。

水は地球上を循環していて、すべて水で繋がっていますよ。海は決して遠い存在ではありません。そう考えると、海はもちろん、地球全体を綺麗にしたいと思うのは当然ですよね。クリーンナップなど、それが当たり前のことになっていくと嬉しいですね。

持続可能な海との付き合い方を目指して

地球の約7割を占める海は、私たちに大きな恵みをもたらす存在です。しかし今、海洋ごみや違法漁業による水産資源の減少、気候変動による磯焼けなど、私たちの経済活動が原因となり、豊かな海の持続可能性が危ぶまれています。

まずは海にまつわる様々な問題を知ることから始め、可能であれば海に足を運び自然と触れ合うこと。そして自分には何ができるかを考えること。海を舞台に活動するお二人のお話から、海と私たちの良い関係を築いていくためのヒントを得た一夜となりました。

取材・文/かがり

イベントでは、スナックならではのフランクな雰囲気の中、様々な活動を行うゲストから直接話を聞くことができます。初めての方も大歓迎。興味のある方はぜひ足を運んでみては?
最新の開催情報はSNACK LIFE IS ROSE GINZA公式インスタグラムから。

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この記事を書いた人

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