旅のスタイルの一つとして、スロートラベルの人気が高まっています。海外ではすでに新スタンダードになりつつあるとも言われ、その人気はさらに高まるといわれています。スロートラベルとは何か。なぜ今注目されているのでしょうか。
スロートラベルとは

スロートラベルとは、一つのエリアに長く滞在し、ゆっくり時間をかけてその地の歴史や文化、人の暮らしにふれるような経験をして、新しい感動を得る旅のスタイルです。
一つのエリアに長く滞在し、ゆっくりした時間を過ごす「スロー」と、地域の伝統的な食文化を尊重し、環境に配慮した食生活のスタイルである「スローフード」の意味があるとされ、その地の食材を使った料理や、伝統的な食文化にふれることも欠かせません。
滞在先の人々の生活や経済、伝統、自然への配慮を前提に、時間に追われず自分のペースで心と体を癒し、人と地球の持続可能性を考えた旅の在りかたとして、じわじわと人気が広まっています。
スロートラベルはどんなことを意識する?

スロートラベルには、意識することがいくつかあります。
・オーバーツーリズムを避ける
・移動を減らし、一つのエリアに長く滞在する
・徒歩・自転車・公共交通機関など環境負荷の低い移動手段を選ぶ
・地元の歴史や文化、自然、人の暮らしに触れる体験をする
・地元の食材を使った料理、地元の飲食店で食事を楽しむ
・地元のお店で買い物するなど、その地の経済に貢献する
・なるべく荷物を減らし、人と環境に配慮した行動を心がける
例えば街の散策に車ではなく自転車を使う、その地の文化的な行事に参加する、なるべくゴミをださない工夫をする、その地で作られた製品を買う、地元の人が買い物をする市場をふらっと覗いてみるなどが挙げられます。
このように、環境への配慮と旅先への理解を深めることを前提に、楽しむ旅の在り方が、スロートラベルです。
スロートラベルはなぜ注目されている?

これまでは、数日間で効率よく観光スポットを巡る移動の多い旅が主流でした。
その結果、たくさんの人が空港や駅、観光スポットなどに集中し大混雑を招いています。交通量の増加による渋滞、文化と価値観の違いによるトラブルなども頻発し、ツーリストにとっても、その地に暮らす人にとってもストレスのかかる観光の在り方が長年問題となっていたのです。人だけでなく、ゴミのポイ捨てや、ゴミを分別しないなど、環境への負荷も軽くはありませんでした。
近年では、環境問題への意識の高まりや価値観の変化などから、自分のペースでその地の文化や歴史に触れたい、心も体も癒される旅をしたいなど旅に求めるものが変わり、スロートラベルに注目が集まるようになりました。
混雑・渋滞の解消や、地元の食材を使った伝統的な料理の継承、地産地消による地域経済の活性化などが期待され、ツーリストを受け入れる側からの注目度も高くなっています。
スロートラベルの例

スロートラベルにはさまざまなパターンがあり、明確な定義やルールはありません。
ボランティア活動を目的とした数ヵ月の滞在や、目的地までキャンピングカーなどの車で移動し、しばらくそこで生活した後、次の目的地に移動するような旅のスタイルも含まれます。デジタルデトックス、マインドフルネスなど旅の目的も様々です。
ここでは、スロートラベルの例をいくつかみていきましょう。
ユニークな体験ができるEU
100年を優に超える建物が多く、歴史や文化、自然を満喫しやすいヨーロッパ。なかでも英国は、長年スロートラベルを推奨してきた国です。歴史的な刑務所をまわるユニークな体験やトレッキングなど、旅に求めるものにあわせて自由にプランをカスタマイズして楽しめるでしょう。
https://www.slow-travel.uk/ideas
ヨーロッパでは、フランスのプロヴァンス、イタリアのトスカーナなども人気です。
B&Bに宿泊し、自転車やトラムをうまく利用しながら博物館や美術館を訪れたり、ワイナリーを見学したりするなど、カスタマイズできるのが魅力です。
ヨーロッパは、クロストレインやフリックスバスでゆっくりと次の目的に向かうこともでき、いくつかの国の文化や人にふれる長期滞在には適した環境といえます。
https://global.flixbus.com/bus-routes
ブータンでマインドフルネスな旅
旅先として人気の高いブータンは、マインドフルネスなスロートラベルにもぴったりです。
ホームステイのように民家に滞在することも、地元の行事に参加することもできます。手付かずの自然に触れたり、独特な伝統を体験したりと、ブータンならではの特別なスロートラベルが味わえるでしょう。
ブータンの旅はホスピタリティの高さでも定評があります。
タイやベトナム、ラオスの他、モンゴルでの遊牧民ステイも人気が高くなっています。
日本の里山文化にふれる旅
オーバーツーリズムで注目を集める京都にも、豊かな自然に囲まれた静かで美しいエリアがあります。茅葺屋根の民家が今も保存されている美山地区です。数年前、その風景とホスピタリティに感動した台湾のツーリストが動画をアップしたことで注目を集めました。
地区内の移動が少し不便ですが、里山の環境を守る大切さや必要性、生態系を守るとはどういうことかなど、現地で体感しながら学べることが多いのが特徴です。
森林に入る機会がほぼなくなった今、里山文化に触れる旅はとても貴重な体験になるでしょう。
スロートラベルは、地域の伝統や文化、自然、人の暮らしと地域経済を、みんなで守り未来に繋ぐ持続可能な旅の在りかたとして、すでに定着しているのかもしれません。
スロートラベルで、自分にも地域にも魅力ある旅を

ここまで見てきたように、スロートラベルに明確な定義はなく、きまりもありません。しかし、地元の環境や人々、伝統文化や慣習に触れながら深くその土地を知る旅のスタイルは、オーバーツーリズムが問題になっている今、ますます注目されることでしょう。
また観光客にとっても、観光地を巡るだけでなく、その土地をリスペクトしながら、その土地でしか味わえない体験をすることは、旅の醍醐味と言えるでしょう。
次の旅行はスロートラベルを意識して計画してみませんか。