社会や人々のありのままを切り取り、映し出すドキュメンタリー。映像というかたちでこの世界の“リアル”を知ることは、地球にも人にも優しい未来を考えるきっかけになります。
本連載では、気軽に観ることのできる約10分のドキュメンタリー作品を配信する「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」から、今観たい1本をセレクト。毎月テーマを変えて、映像という切り口から、持続可能でエシカルな社会を考えます。
1月のテーマは「家族と向き合う」です。
一年の始まりに家族について考える
実家に帰省する人が増え、家族や親族との集まりが増える年末年始。この時期に、改めて家族について考えてみませんか。
今回は染色体異常「9トリソミーモザイク」を生まれながらに抱える5歳の女の子とその両親が抱く感情を繊細にとらえた作品をご紹介します。
『理想の世界』
監督・撮影・録音・編集:杉岡太樹
プロデューサー:前夷里枝
作品のあらすじ
高知県ののどかな一軒家で暮らす3人家族。作品に登場する5歳の娘、近澤莉央ちゃんは生まれつき、染色体異常である「9トリソミーモザイク」という疾患があります。
娘が9トリソミーモザイクであること、そしてこの疾患は死産や流産になることがほとんどで、世界でも50ほどしか症例がないことを知り、娘の行く先を案じた両親は途方もない不安と深い孤独感を抱えます。
母の知美さんは、自身が生活することもままならない状態になり、「死にたい」とノートに綴っていた過去を振り返ります。
その後も治療法など新たな情報を得られないまま、いつ尽きてしまうのか分からない命の灯や合併症のリスクなど多くの不安を抱えながら生活を送っていた知美さん。
しかし、莉央ちゃんには心配されていた合併症の発症がなく、リハビリで歩行や咀嚼の練習を行うなど、彼女は自身のペースで着実に成長しています。
その姿は、絶望の淵に立たされていた両親の心境に前向きな変化をもたらします。
莉央ちゃんはいつも、新しいことに果敢にチャレンジし、うまくいかなくても決して諦めません。両親はそんな莉央ちゃんに大きな勇気を与えられてきました。
莉央ちゃんは、言葉を発することや一人での歩行が困難であるにも関わらず、保育園では他の子どもたちと同じ一人の人間として対等な関係を築いています。彼女に向けられる周囲の温かなまなざしにもまた、両親は固定概念を揺さぶられています。
「莉央はこっちから見たらひとよりすごい劣ってるじゃん。本人は1ミリもそこを、劣等感を抱かないんだよね。何もできないけどあんな正々堂々と生きててさ。」「莉央が見せてくれる世界が理想の世界なんじゃないかな」と、今知美さんは語るのです。
家族だからこそ感じる葛藤や幸せ
莉央ちゃんが生まれてからの心の内をまっすぐに語る知美さんの横顔からは、言葉では表現しきれないほどの多くの苦悩や葛藤、そして娘への揺るぎない愛が感じられます。
娘に障がいがあることが判明した当時、絶望に支配されたと振り返る知美さん。産む前に戻りたいと思ったこともあると、胸の内を明かしています。
その言葉からは、自分の娘とどうやってともに生きていけばよいのかわからない、という想像を超える葛藤があったことを伺い知ることができます。
そして、絶望の先に知美さんに光をもたらしてくれたのは莉央ちゃん自身でした。
障がいとともに生きることの困難がなくなることはありませんが、莉央ちゃんは、よく食べよく遊び、しなやかに今この瞬間を力強く生きています。
「莉央と共に過ごす世界は優しい」と語る両親からは、「家族」になっていくまでの苦悩と温かさに満ちた過程を垣間見ることができるのです。
あなたにとっての家族とは?
「家族」と一口に言ってもその関係性や距離感などは千差万別です。最も身近で血のつながりがあるからこそ割り切れない場面も多々あり、正解を導きだせないこともあるでしょう。
しかし、映像に映し出される莉央ちゃんの屈託のない笑顔や、それを見守る両親の表情からは、ゆるぎない信頼関係や絆、そして確かな無償の愛を感じることができます。
自分にとって、家族はどんな存在なのか―。映像を通して、家族のありかたを柔軟にとらえ、自身の家族を見つめ直してみませんか。
文/かがり
※作品はこちらから視聴できます
理想の世界(Yahoo!ニュース ドキュメンタリー)