Yahoo!ニュース ドキュメンタリー 今月観たい1本『青の形』

社会や人々のありのままを切り取り、映し出すドキュメンタリー。映像というかたちでこの世界の“リアル”を知ることは、地球にも人にも優しい未来を考えるきっかけになります。

本連載では、気軽に観ることのできる約10分のドキュメンタリー作品を配信する「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」から、今観たい1本をセレクト。毎月テーマを変えて、映像という切り口から、持続可能でエシカルな社会を考えます。

11月のテーマは「見つめ直したい日本の伝統文化」です。

改めて見直したい日本文化の世界

コロナ禍を経て訪日観光客は右肩上がりに増え続けている中、日本の伝統文化に光があたり、その魅力が見直されています。
しかし一方で、過疎化や次世代の担い手がいないなどの理由から存続が危ぶまれる文化や伝統技術も少なくありません。

今回ご紹介する『青の形』は、徳島を代表する伝統文化である藍染めをテーマにした作品。映像を通して、日本の風土の中で育まれてきた文化やその継承について再考してみませんか。

『青の形』

青の形(Yahoo!ニュース ドキュメンタリー)

監督・プロデューサー:シビラ ・パトリチア(Sybilla Patrizia)
プロデューサー:細村舞衣
撮影監督:アンジェ・ルッズ
編集:井手麻里子
公開:2024年

作品のあらすじ

作品の舞台となるのは徳島県上板町。渡邊健太さんはこの街に工房を構える、この道12年の職人です。会社員の頃に、藍染工房を訪れその魅力に引き込まれたことをきっかけに会社を退職。藍師・染師になることを決意しました。

刈り取り中の渡邊さん

伝統的な染色技法である阿波藍が伝わる徳島。化学染料が広まると産業は衰退しましたが、その藍染めの美しい色合いは「ジャパンブルー」とも呼ばれ、近年国内外でその人気は復活しつつあります。

しかし、藍染の原料となる植物、蓼藍(たであい)を育てる作業は非常に手間がかかるため、担い手となる人の数は激減しているのが現状です。

染色を行う「染師」となることを目指し徳島に渡った渡邊さんは、そのような現状を知り、自分の手で原料の栽培からはじめることに。藍の栽培から染色までの全プロセスを手がける工房を立ち上げたのです。

染めたばかりの糸

渡邊さんと共に働くのは、加藤慎也さん。軽度の色覚異常がある加藤さんには、独特の色へのアプローチがあります。

色とは、単なる視覚的な印象ではなく、伝統や工芸の歴史にある深い洞察や他者への理解、その土地への尊敬から生ずると考えているのです。

色というのはビジュアルだけでなく、感情や感性によって影響されるものだと信じている加藤さん

加藤さんの持つ感性に触れた渡邊さんは、大きな衝撃を受けると同時に藍との向き合い方や本質を考えるきっかけとなったと語ります。

自然の本質的な部分とつながり、地元の文化や環境を尊重すること。そして、自然からのギフトである色に対して感謝の意を持つこと。

これらは渡邊さんにとって「美しさ」を理解するために必要な要素であり、どの部分も欠けてはならないものとなっています。

「僕がただ純粋に色を出す。夕暮れを見たら何かすごい、空がきれいだなとか。何かその自然のありのままのきれいさっていうことに、すごくひかれるんですよ。それを藍に置き換えたらどうなのかっていったら、もう自然で出来上がった時点で、これが一番いい色なんですよ」

と、藍への想いを語ります。

藍染から見えてくる日本文化の本質

作品の中で映し出される二人の藍への向き合い方からは、日本文化の捉え方を見直すための大切なヒントが詰まっています。

私たちは、知らず知らずのうちに、「藍染の色」にひとつの正解があると思い込んでいるかもしれません。
しかし作品を通して、色というものは生まれ育った国や文化など、見る人のバックグラウンドによって違って見えるのかもしれない、ということにはっとさせられます。

渡邊さんが「もう自然で出来上がった時点で、これが一番いい色なんですよ」と語る背景には、自身を自然や文化、人間の集団的な営みがからみあった有機的な体系の一部であると考えていることがあります。

渡邊さんの工房での藍染め

自然や季節、人などが密接に関わり合って醸成される文化。自分自身を空洞化し自然そのままの色をいかに出すかにこだわった渡辺さんの出す藍の色は、限りなく自然が生み出す色に近いものです。

自然のありのままの姿を映し出し、受け取る側の感性に捉え方がゆだねられるからこそ、藍染を含む日本の文化は多くの人の心を動かしてきてきたのでしょう。

今にも藍の匂いが立ち込めてきそうな冒頭のシーンや、アート作品そのものを見ているかのような蓼藍の加工風景など、藍の魅力を感じることができる映像美にもぜひ注目してみてください。

日本文化の魅力を再発見するきっかけに

日本の文化は古くから自然とともに暮らす人々の営みの中から生まれ、継承されてきました。

色を一つとっても、化学染料が入ってくるまでは藍を筆頭に、様々な草木や土など身近にある自然の中から色が抽出され、衣類や家具、建物から絵や焼き物、化粧品などに使用されてきた歴史があります。
茜色、桜色、牡丹色など、日本の伝統色には植物の名が付けられているものが多いことからも、人々が自然をいかに愛でてきたのかが伺えます。

伝統的な染物だけでなく、様々な工芸品や茶道・華道などの「道」、伝統芸能やまつりなど、あらゆる日本の文化には、自然を敬う精神が息づいています。大切に受け継がれてきたその心は、今の時代に、日本が世界に誇れるものの一つです。

そして日本に住む私たちもまた、日本の伝統文化を改めて知ることで、自然との付き合い方や私たちの生活を見つめなおすことができるのではないでしょうか。

まずは作品を通して、改めて日本の伝統文化の魅力に触れてみませんか。

文/かがり

※作品はこちらから視聴できます
青の形(Yahoo!ニュース ドキュメンタリー)

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