欧州やアメリカを中心に広がっているスローフラワーが、日本でも広がりはじめています。花の地産地消ともいわれるスローフラワー運動の背景と、具体的な取り組みを紹介します。
花の生産背景にある問題
スローフラワーについて紹介する前に、まずは花の生産背景にある問題について触れておきましょう。
1980年代、アメリカ合衆国は先進国のなかで最大の花生産国でした。しかし、経済・貿易・政府の政策などにより、生産量が激減したのです。
その後、オランダが花の生産国として知られるようになりますが、燃料や人件費の高騰により、近年は生産量が減少。コロンビア・マレーシア・ケニア・中国の昆明といった、一日を通して日射が豊富で温暖な赤道近くの高地に、生産地が移りつつあります。
多くの国は、こうした生産地から花を輸入しており、その際にジェット燃料や水などの資源を多く消費します。また、多くの生産地では花を安定供給するため、栽培時に化学肥料を使用したり、長期保存のために化学薬品を使用したりするのが現実です。これらは、環境や生産地で働く人たちに負担がかかることを意味します。
他にも、規格に合わないものや、開花時期と市場ニーズがあわないものは廃棄されるなど、消費者からは見えない問題を複数抱えていることが明らかになっています。
スローフラワー(スローフラワー運動)とは
「スローフラワー」とは、地域に根差した持続可能な花の生産と消費に取り組む活動です。
前述の通り、花の生産・消費には多くの問題があります。切り花の80%を海外からの輸入に頼っていた2000年代のアメリカも例外ではなく、それらの問題を解決するために「スローフラワー・ムーブメント(スローフラワー運動)」がはじまりました。
その先駆者として知られているのが、作家であり、園芸家でもあるデブラ・プリンジングです。2013年にスローフラワーズソサエティ(スローフラワー協会)を設立し、この活動を広めてきました。
「そもそも人は、自然に生息している花や葉を摘み取り飾り、地域に根差した文化的で精神的な慣習にも取り込んできました。自然のサイクルにそったそれらの行為は、生命の本質を象徴しており、人生に欠かすことのできないものです。
低コストで大量に生産し国境を越えて大量に消費する体制が、花の価値を著しく低下させ、国内の花き農家が十分な収入を得ることが難しくなっただけでなく、人生に欠かすことのできない文化的で精神的な慣習の価値も下げた」と、デブラ・プリンジングはいいます。
スローフラワー運動の目的は、消費から生産までのプロセスを取り戻すことだけでなく、本来の花の価値と、花のある生活の意味と意義を取り戻すことも含まれているのです。
なお、「スローフラワー」という言葉単体で使われる際には、「地域に根ざした持続可能な方法で育てられた花のこと」を指す場合もあります。
スローフラワー協会の取り組み
スローフラワー協会は、エシカルで持続可能な花の生産と消費の地域循環を目指して、以下のような取り組みを行っています。
- 花が自然に咲く時期を尊重する
- 地元で栽培された花を調達し、花の輸送による環境負荷を軽減する
- 協会会員ラベルの提示によって、花農家や販売店の信頼性を証明する
- 多様な人々の公平性を追求し、人や環境に負荷のかからない栽培を推進する
- 花き産業における廃棄と、化学薬品などの使用を削減する
具体的には、ポッドキャストの配信、Webジャーナルの発行、生産者と消費者をつなぐプラットフォームの運営、アイデアをかたちにするワークショップ、ポップアップイベント、シンポジウムといったさまざまな活動を行っています。
世界に広がるスローフラワー運動の事例
アメリカと同じように花の輸入が盛んだったヨーロッパでも、スローフラワー運動が広がりました。
英国では「フラワーズ・フロム・ザ・ファーマーズ協同組合」が設立され、花農家と近くの消費者をつなぐ仕組みがつくられました。
フランスでは、農作物の品質認証支援団体による花の認証制度「フラワーズ・オブ・フランス」ができ、地元の花を求める消費者が地元の生産者の花を選びやすくなったのです。
日本におけるスローフラワー運動の事例
消費する切り花の約70%を国内で生産している日本では、フラワーロスの削減や、エシカルで持続可能な栽培などを中心に、スローフラワー運動が広がりをみせています。
例えば、神奈川県の花き農家four peas flowersでは、農薬や化学肥料などを使わずに種子の状態から開花までを自然な流れに委ねる、エシカルで持続可能な栽培を実践。フラワーライフ振興協議会では、「花のある生活は人生の価値を高める」というスローガンとともに、フラワーロスに取り組んでいます。
そんな日本において、実は近年では切り花の輸入割合が微増しています。農林水産省と財務省の資料を基に日本農業新聞が作成したデータによると、2002年に15%以下だった割合が、2022年には28%に増加。母の日のカーネーション、お彼岸の菊などの輸入が増えています。
そういった背景から、スローフラワー運動は今後さらに広がるかもしれません。
日本でスローフラワーを手に入れるには?
欧米では、スローフラワーに取り組む生産者と消費者がつながりやすい環境にあり、直接買うこともできます。では日本でスローフラワーを手に入れるには、どのような方法があるのでしょうか。
実は日本でも、オンラインで直接花農家から購入したり、花屋などの販売店から購入したりできます。また、ファーマーズマーケットなどで購入する方法もあります。欧米に比べると、スローフラワーに取り組む生産者や販売店は多くはないものの、ゆっくりと静かに広がりつつあるようです。
ここではスローフラワーを生産・販売する農園やお店をご紹介します
埼玉県のオーガニックフラワー農園Green Field Flowers
https://www.greenfield-flowers.com
スローフラワーを販売する東京のフラワーショップわなびや
http://www.wanabiya.com/
ゆっくり種子から育てる神奈川県の花農家 four pease flowers
https://fourpeasflowers.com
生活を豊かに彩るスローフラワーをはじめてみませんか
自然な流れのなかで育った人にも地球にも優しいスローフラワーは、気負わず始められ、購入するだけで生産者の支援にもつながります。
なにより花は生活に彩りを添え、心を豊かにしてくれます。まずは季節の花を飾ってみるところから、スローフラワーをはじめてみませんか。