探していた結婚式がここに。エシカルウェディングが紡ぐ二人の未来

“エシカルな結婚式”と言うワードからどんなウェディングを想像しますか。環境に優しいナチュラルテイストの装飾?プラントベースのお料理?

エシカルと聞くと、質素なものというイメージが先行するかもしれませんが、エシカルウェディングは、主役の二人や、式に関わる全ての人はもちろん、地球の未来を大切に考える要素を取り入れた結婚式。多種多様なスタイルと可能性に満ちたニューノーマルな結婚式の在り方です。

今、ウェディング業界に新しい風をもたらす一般社団法人エシカルウェディング協会代表の野口雅子さんと、これからの時代の結婚式に求められるものを考えていきます。

エシカルウェディングとは

エシカルウィディングの一例として、米粉のマフィンで作られたウェディングケーキと 自然農園で育てられた花の装飾などを取り入れている

エシカルウェディングとは、人と地球環境、地域社会、に配慮する“エシカル”な価値観を取り入れたウェディングのことです。

野口さんは、「大量消費の時代に生まれた従来の日本の結婚式・披露宴は、華やかである一方で、実は社会課題が多数存在しています。」と話します。

「エシカルウェディングは、まず、二人が本当に望む未来とは?結婚式とは?の本質的な意味をディスカッションすることで、必要のないものや無駄なことを省くことから始まります。

また、ウェディングの事業者さんと、体に優しい食材を使った料理や、フードロスがでない料理の出し方を工夫するアイデアをシェアしたり、デザイナーさんと資材を使い切る装飾方法を考えたりすることを積極的に行っています。他にも、自然素材で作られたドレスやフェアトレードや地域創生につながるギフトアイテムなどを選ぶなど、ひとつひとつエシカルな提案を行い、それが多くの人の選択肢となれば、結果として環境負荷を減らし、社会貢献に繋がると考えています。」

レースカーテンの残布で作られたドレスで前撮り。ドレス制作: KUMIKO TANI

そんなエシカルウェディングを普及するために、野口さんが2021年に立ち上げたエシカルウェディング協会では、現在約30名のウェディングプランナーとクリエイターが活動。

ウェディングプランナーとクリエイターは、本質を大切にした結婚式を実現するために、常に情報のキャッチアップやアイデアの交換を欠かしません。協会では、個人向けにはもちろん、事業者向けにも具体的な情報やノウハウの提供も行っています。

エシカルウェディング協会2周年記念イベントにて

みんなが少しずつ感じている“結婚式はこうあるべき”の違和感

新婦の祖母が遺してくれた毛糸や布でギフトを兼ねて装飾

エシカルウェディング協会による結婚式・披露宴に関するアンケート調査では、「結婚式を通じて環境や社会に貢献するアイデアを周囲の人に共有したい」と答えた人が約8割にのぼる結果に。
また、同調査において結婚式・披露宴に持つマイナスイメージとして上位に挙げられた項目は「多額の費用がかかる」、「形式的でどれも同じテンプレートに感じる」などがあります。

そんな時代の流れの中、野口さんは、長年、多くのウェディングの現場に携ってきた経験から、従来のやり方にとらわれないウェディングにシフトしていくべきだと強く感じています。

「式場ではパッケージ化されたプランが一般的です。より深くお二人に寄り添いたいと思っても、実現するのが難しいという歯がゆさを感じてきました。」

エシカルウェディング協会では、あらゆる選択肢の中から、二人に寄り添ったウェディングスタイルを提案しています。

教会や神社、ゲストハウス、ホテル、レストランだけが結婚式の舞台ではありません。

「お二人のご希望をお聞きして、様々な場所をご提案します。場所の使用許可さえ取れればどんな場所でもウェディングは実現可能なんです。
ゆかりのある場所、思い入れのある場所ならば、二人の母校や、ご自宅でも。ライブハウス、撮影スタジオ、キャンプ場、アーチェリー場、古民家、歴史的建造物、料亭、旅先の旅館、ワイナリー、無人島、農園、原っぱ、田んぼの真ん中など、考えもつかなかった場所が会場となり、二人の門出に最もふさわしい場所になるかもしれません。」

東京都主催TOKYO ETHICAL ACTIONのエシカルマルシェで模擬挙式を実演

結婚式を出発点に、社会全体が幸せに溢れたものに

進行についても、予定調和なスタイルだけが答えではありません。

「これまでも、ご家族全員からお二人への手紙を読んでいただく挙式、お二人がカフェ店員になってゲスト全員にドリンクを提供するウェルカムパーティ、アーチェリーのレクチャーを取り入れた結婚式、二箇所のメインブースを設けて過去と未来を行ったり来たりするかのように体験できるパーティスタイル、ライブハウスを貸し切って思いっきり音楽とサンバを楽しむパーティーなど、二人の夢や要望をとことんヒアリングし、それを形にしてきました。
大切なのは、“なにをやるか”ではなく、“どうしてそれをやるのか”。その理由を明確にするからこそ、結婚式は、二人の心に深く刻まれる日となります。そして、そこから始まった家族の歴史は、やがて社会や未来に繋がっていくんです。結婚式というのは、そういう役割があると感じています。」と野口さん。

エシカルウェディング協会のウェディングプランナーやクリエイターは、結婚式当日だけでなく、その後ずっと続く未来も見据えて、二人の本当の幸せとはなんだろう?ということに想いを馳せ、一緒に結婚式を作り上げてくれます。

ウェディング業界自体は思い切った変革が必要

ロスフラワー®を使った装飾も積極的に取り入れている

高度経済成長期から続く慣習が根強く残ると言われる、ウェディング業界。

例えば、二人はもとより、ゲストもゆっくり食事をとる時間がない、といったケースも少なくありません。
また、会場のバックヤードでは、ケーキや料理が大量に残ってしまい食品ロスになってしまう、せっかく作った席次表などのペーパーアイテムやお金をかけた装飾資材が廃棄されてしまう、などの問題が常に起きています。
さらには、ウェディングを取り巻く環境においても、人手不足や労働環境、高い離職率など、悩みは尽きません。

「二人やゲストが幸せになる場の裏側で、地球や誰かに負担がかかってしまうことは一つでも減らしたい。結婚式だからこそ、本当にお二人の未来につながるあり方であってほしいと願っています。」と野口さんは話します。

SDGsの達成や循環型社会が叫ばれるなか、ウェディング業界も持続可能な方向へさらに大きくシフトチェンジしていく必要があるのです。

競争ではなく、手を取り合ってウェディングを変えていく

TOKYO ETHICAL ACTIONのエシカルマルシェで協会活動を紹介する野口さん

「存在しないなら自分たちでつくるしかない」と新しい試みに対してもとても前向きな野口さん。

賛同するフリープランナーや事業者が増えているものの、エシカルウェディング協会の取り組みは発展途上であり、さらなる広がりを目指していると言います。

「ウェディング業界内で差別化したり、競争し合ったりするのではなく、業界全体で手を取り合うことが非常に重要だと考えています。そのため、今後はより多くのウェディング事業者やSDGsに取り組まれている企業、公共団体、個人をつなげ、大きなチームとしてエシカルウェディングのムーブメントを起こしていきたいです。」

多様な価値観が広がる今、形式を重視するのではなく、自分たちやゲストが本当に望む結婚式を挙げたいと思っている人も多いのではないでしょうか。

どこかに負担のかかる結婚式ではなく、人にも地球にも社会にも優しいエシカルウェディングという選択肢が、結婚式のスタンダードになる日は遠くないかもしれません。

編集後記

「厳かなチャペルで式を挙げて、披露宴会場では多くの余興とともにフルコースのフレンチが次々と並べられる……」

これは今回の取材を行う前、筆者がウェディングに持っていた固定概念です。

しかし、パッケージ化されたウェディングスタイルのみが結婚式ではなく、場所、料理、余興、進行などすべての要素において、二人の願いをしなやかな発想で最大限に叶えられることを知り、エシカルウェディングは従来のウェディングと比べるととても自由であることに驚かされました。

また、華やかな舞台の裏側では、食品ロス、資材などの廃棄ロス、関わる人々の労働問題など、長年見て見ぬフリがされてきた現実があります。未来を見つめ持続可能性を探るエシカルな結婚式は、大量生産・大量消費に違和感を持つ人が多い現代、人々のニーズにもマッチしているのではないでしょうか。

お話を聞いた方

野口雅子さん

一般社団法人エシカルウェディング協会発起人&代表理事
エシカルウェディングコンサルタント
IWPA認定ウェディングコンサルタント
自身の海外結婚式の経験がきっかけで自然との共生をコンセプトとした結婚式のプロデュースをスタート。2011年5月、日本初となる「エシカルウェディング」を手掛ける。プロデュース歴28年 経験組約1500組。

一般社団法人エシカルウェディング協会 公式情報サイト
https://ethicalwedding.info

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この記事を書いた人

フリーライター/エシカル・コンシェルジュ。学生時代、100本以上のドキュメンタリー映画を通して、世界各国の社会問題を知る。
個人SNSでも都会からはじめるエシカル・ゆるべジな暮らしを発信中!