Yahoo!ニュース ドキュメンタリー 今月観たい1本  12月『再起、能登の料理人』

社会や人々のありのままを切り取り、映し出すドキュメンタリー。映像というかたちでこの世界の“リアル”を知ることは、地球にも人にも優しい未来を考えるきっかけになります。

本連載では、気軽に観ることのできる約10分のドキュメンタリー作品を配信する「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」から、今観たい1本をセレクト。毎月テーマを変えて、映像という切り口から、持続可能でエシカルな社会を考えます。

12月のテーマは「今年を振り返る1本」です。

能登半島地震からまもなく1年

2024年も年の瀬を迎えようとしています。

今年を振り返るにあたって思い出されるニュースのひとつと言えば、1月1日に起こった能登半島地震ではないでしょうか。

北陸地方に大きな被害をもたらし、特に能登半島の日本海沿岸における津波や火災、道路の寸断による支援物資の不足やライフライン断絶のニュースは大きく報道されました。

能登半島地震からおよそ1年が経とうとしているものの、現地の人々の暮らしや街はまだ以前の活気を取り戻していません。

『再起、能登の料理人』は能登・七尾のミシュラン1つ星店「一本杉 川嶋」の料理人を追った作品。自らも被災者である一人の料理人が地域を巻き込みながら復興に尽力する物語から、被災地の今と能登の人々の想いを見つめます。

『再起、能登の料理人』

再起、能登の料理人(Yahoo!ニュース ドキュメンタリー)

監督:岸田浩和

作品のあらすじ

料理人である川嶋亨さんが2020年に能登・七尾にオープンした日本料理店「一本杉 川嶋」。「ミシュランガイド北陸2021」の一つ星に選ばれた名店で、川嶋さん自身も2024年にミシュランと並ぶレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ」の「明日のグランシェフ賞」を受賞するなど、国内外から高い評価を受けています。

繊細な味付けの料理が評判で、客足が途絶えない「一本杉 川嶋」では、能登の食材を中心に使用。生産から流通に至るまで多くの地元の人たちが関わるため、お店は地域経済の循環に大きく貢献してきました。

人気店として順風満帆な道を進んでいた矢先、2024年元日に能登半島地震が発生。国の有形文化財にもなっている築92年の店舗は外壁の一部が崩れ落ち、壁も傾いた状態に。

店を構える通りは、今も瓦礫が片付づかず、ブルーシートで覆われただけの家屋が目立ち、あの日から時が止まってしまっているかのような状態です。

店舗の再建を目指す川嶋さん。(撮影:岸田浩和)

震災後、川嶋さんには開業予定であった宿泊施設の準備に要した約1億円の借金に加え、地道に収集してきた器の1千万円を合わせた計1億1千万円の借金や損害が残りました。

未だ営業再開の見込みが立たず、料理人であるのに厨房に立つことができない日々を過ごす中、まるで先の見えないマラソンをしているような辛さが襲うと川嶋さんは話します。

しかし、そのような絶望的な状況の中でも、川嶋さんは自身の店の再建や地域復興のために一念発起する道を選びます。

震災後のイベントで川嶋さんが提供した一皿。かたはの胡麻和え能登ふぐの昆布締めに、土佐酢のジュレ掛け花穂紫蘇をのせた一品。川嶋さんの料理の多くが、能登産の食材を使う。(撮影:岸田浩和)

地元の料理人たちに呼びかけ作ったチームによる炊き出し、地元マルシェへの出店など今できることを模索する川嶋さん。地域の復興とともに「一本杉 川嶋」の再開を目指し奮闘する様子が描かれています。

絶望の中で見つけた能登の希望

北陸地方を襲った能登半島地震は、災害関連死も含めて445人が亡くなるなど甚大な被害をもたらしました。(2024年11月1日現在)

9月の豪雨の影響も重なり街の復興は未だ進んでおらず、元通りの生活に戻ることができない人が大勢います。

そのような厳しい状況の中で、自らも被災者でありながら能登の復興に向け挑戦を続ける川嶋さんには、大きな希望を感じずにはいられません。

世界にも通用する料理人が能登に残り、地元を盛り立てていこうとする姿には、多くの人が勇気づけられていることでしょう。

震災直後の炊き出し活動の様子。川嶋さんの呼びかけで地元の料理人たちが集まり、3月まで活動を続けた。(写真提供:川嶋亨)

川嶋さんが震災前から持ち続けてきた故郷・能登を大切に想う気持ちは、彼自身やお店の復興だけでなく、周りを巻き込みながら地域全体で立ち直ろうとする現在の活動に繋がっています。

川嶋さんをはじめ、辛い状況にありながらも前を向いて歩く人々。作品では、様々なシーンを通して能登の今に触れることができます。

能登の生活や文化を次世代に繋いでいくために

2024年もまた、国内外で多くの出来事があった1年でした。中でも、元日に日本を襲った地震のニュースには、多くの人が目を疑ったことでしょう。

震災から早くも1年が経過しようとしていますが、復興は思うように進んでいません。

今もなお、避難先で元の生活に戻る日を待ち望む人が大勢いるのです。被災地では、引き続き支援の手が求められています。

また、北陸地方には、石川県輪島市の輪島塗や各地で盛んにおこなわれてきた酒造など、震災によって存続が危ぶまれる文化や産業があります。後世に受け継いでいきたい日本を代表する文化や精神にも、目を向けていきたいものです。

私たちには何ができるのか、今もう一度考えてみませんか。

文/かがり

※作品はこちらから視聴できます
再起、能登の料理人(Yahoo!ニュース ドキュメンタリー)

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