GOOD VIBES ONLY。最新技術で目指す、“衣類廃棄ゼロ”への道

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環境省によると、一年間でごみに出される衣類は約50.8万トン。消費者が廃棄する衣類が膨大であるのに加え、売り切ることができずに在庫として残り、結果として消費者のもとに届く前に廃棄される衣類も多く存在します。

今回は、“衣類廃棄ゼロ”を目標に掲げ、最新のデジタル技術を取り入れたアパレル企業向けのプラットフォームを展開する、GOOD VIBES ONLYを取材。
代表の野田貴司さんに、今のアパレル産業が抱える課題についてお聞きしました。

在庫ロスは生産量の30%以上が当たり前。多くのアパレル企業が抱える課題

出典:unsplash.com

本当に欲しいと思った洋服しか買わない、長持ちする素材を選ぶ、など消費者が衣服に関わる環境負荷を低減するためにできることは、大方想像がつくものです。
しかし、企業がどのような問題を抱えているかは、なかなか知る機会がないもの。長年アパレル業界に携わる野田さんは、企業における衣類廃棄問題を以下のように話します。

「時代の流れもあり、現在は少しずつ在庫を減らしている企業さんは多いものの、生産量の30%以上は在庫として常に倉庫で保管しているというのが一般的です。機会損失を避けるため、売り切れを出さないよう、はじめから売れ残りを想定して、発注なども行っているところが多いですね。プロパーの在庫消化率70%だと、かなりいい方という印象です。在庫の処分方法はもちろん、倉庫の維持費もかさみ、実は課題があったのにもかかわらず、そのモデルが出来上がっている中で、なかなか改善されてきませんでした。」

GOOD VIBES ONLY代表の野田貴司さん

そのようにして売れ残った在庫がたどる経路は様々です。

「企業として、在庫の処分を行う際は、サンプルセールなどを行う、焼却、バイヤーに買ってもらって海外に売る、バッタ屋(商品を格安で販売する店)に買ってもらって安く売るという選択肢があります。最終的には、海外に送られて埋め立てられるケースも多く、アパレルは生産だけでなく、廃棄の方法も問題になっています。」

なぜそんなに在庫をかかえているのかという質問に答えることができなかった

野田さんが初めて衣類廃棄について問題意識を持ったのは、他業界の人の何気ない一言でした。

「以前携わっていたアパレルブランドを売却するときに、今までアパレルには全く携わってこなかった業種の企業からの、デューデリジェンス(事前調査)がありました。当時20~30億円ほどの売上がある会社で4億円分の衣類が過剰在庫になっていることをお伝えしたのですが、そのときに“なぜ在庫が4億円分もあるのですか?”と驚かれて、そのときにはっとしました。」

アパレル企業では、その量の在庫を抱えることは極めて一般的であり、疑問に思うことがなかったため、その質問に答えられなかったと言います。

その出来事をきっかけに、野田さんは“衣類廃棄ゼロ”をミッションに掲げたGOOD VIBES ONLYを設立。アパレル企業が抱える課題を解決しながら衣類廃棄をなくすためのプラットフォーム“Prock(プロック)”の開発に着手しました。現場や企業の声を反映し、自社ブランドでのテストを繰り返しながら、およそ3年の歳月をかけて実用化にこぎつけたのです。

廃棄衣類ゼロを目指して開発、現場の課題解決にも繋がるツールの開発

Prockが提案する新しい洋服のサプライチェーン

「Prockでは、アパレル企業が行う企画・デザイン~販売までの管理をDX化し、業務の効率化を測りながら、余剰在庫問題をワンストップで解決することができるサービスです。
大きな特徴の一つは、3Dデジタルサンプル技術です。試作品であるサンプルを実際に作らなくとも、特徴や質感など細かく数値化された生地を画面上で選び、リアルに限りなく近い質感の立体的なサンプルを確認することが可能になっています。洋服のサンプルはもちろん、生地屋さんから送られてくる生地のサンプルの廃棄も減らすことにも寄与しています。品質の高い日本の生地をデジタルサンプルとして海外に展開することも考えています。」

実際のデジタルサンプル。すでに大手のアパレルブランドでも取り入れられている

Prockの二つ目の特徴として、AIによる需要予測があります。これまで現場の人の経験と勘で行ってきた発注作業を、AIを使用してどのくらいの需要が見込めるのかを判断することにより、正確で、売れ残りのない数の発注が可能になったのです。

「AIによる需要予測では、SNSに3Dサンプルを掲載した際の反応から、発注の段階で、販売数の見込みがわかります。必要以上の生産をしないことにより、無駄になってしまう衣服を生まないことに繋がります。
Prockは、アパレル産業で長い間慣習化されてきたやり方を見なおし、課題を一つずつ解決しながら辿り着いた結果です。デジタルサンプルに置き換えるだけで、国内だけでも1600万着と言われるサンプルを削減することができます。また、アパレル業界全体の余剰在庫を10%削減すると、国内で2億着近くの在庫ロスをなくすことができると試算しています。」

課題解決と売上アップの両立を目指す

衣類廃棄ゼロを掲げProckを各アパレルメーカーに提案する中で、課題も見えてきています。

「現場の作業をより効率化し、同時に在庫管理を行えるツールとしてProckの導入をお勧めする中で、企業さんからは、課題解決も嬉しいけれど売上も伸ばしたい、という声が聞かれるようになりました。業務を効率化するだけでは、今のアパレル業界にアジャストできないと感じています。
そんな中、私たちは、不特定多数の人にアプローチする販売方法ではなく、SNSの分析結果を利用したPRを行っています。その洋服を必要としている人に効率的に情報を届けることで、売上に繋げながらも、無駄になる衣服を減らしていくことを目指しています。」

結果、サンプルコストは80%削減し、プロパーでの利益率がアップした事例が出てきています。

また、NFTとしてデジタルサンプルを販売し、ゲームの中のキャラクターにリアルなアパレルメーカーの衣装を着させることができるような、新たな挑戦も。デジタルで洋服を売るという、アパレル企業にとって新しいビジネスモデルを提案しています。

そして、すべてがオンライン上のサービスであるからこそ、人の顔が見える機会を大切にしたいと、野田さんは言います。

「オンライン上で完結してしまう時代ですが、人との繋がりは、サステナブルな社会にリンクしていると思います。私たちがやっていることはデジタルだからこそ、リアルイベントなども行っていきたいと思っています。デジタルファッションを通じて、買う過程を楽しめるようなエンターテインメント性のあるものが良いですね。」

消費者の私たちにできることは?

出典:pexels.com

メーカーでも細部まで把握しきれないほど、複雑になっている洋服のサプライチェーン。その中で販売される前に捨てられ、日の目を見ることのない洋服が大量にあるという現実。
私たち消費者が洋服を購入するとき、どのようにブランドを選ぶのがよりエシカルなのでしょうか。

最後に、サステナブルな生産に配慮したブランドかどうか見極めるための方法をお聞きしました。

「サステナビリティを打ち出しているブランドさんは増えてきていますが、洋服を購入する際は、生産情報を開示しているかどうか、確認してみるのが良いと思います。
販売員さんに、どのように生産されているのか直接聞いてみるのも良いと思います。売り場の販売員さんが生産の背景まで知っているブランドなら、信頼も高まります。オンラインのショップであればぜひ問い合わせしてみてください。
消費者が変われば、その需要に応じて生産者も変わります。どちらか一方ではなく、両方の意識が、透明性の高いアパレル産業の実現には欠かせません。」

「アパレルが汚染産業であることから目を背けず、目を向けることが大切だと思っています。アパレル産業を含む社会全体もそうであってほしい。」と話す野田さんからは、アパレル産業を変革していくという強い意志を感じました。
持続可能な社会へ大きく舵を切るためには、新しい技術を取り入れ、時代や社会のニーズに合った取り組みが不可欠なのではないでしょうか。

お話を聞いた人

株式会社グッドバイブスオンリー代表取締役 野田貴司さん

 1992年、福岡県出身。大学を経て上京し、22歳からソーシャルメディアマーケティングに携わる。その後、D2Cの先駆けであるD2Cファッションブランド「eimyistoire」の立ち上げに貢献。
2017年に同社を退社し、「廃棄衣類ゼロ」をミッションに掲げるGOOD VIBES ONLYの立ち上げに参画。これまでの経験を活かし、従来の洋服のサプライチェーンをより効率的かつサステナブルにするシステム「Prock」を開発。3DデジタルサンプルをはじめとするProckは、現在大手アパレルメーカーにも取り入れられている。

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