今、日本の発酵食品が注目を集めています。近年、SNSなどで発酵食品を取り入れたレシピを目にする機会は増えたのではないでしょうか。塩麹のように日常生活に取り入れやすい食品や、発酵カフェ、発酵教室なども増えてきています。
また、海外に向けて輸出量も年々増え、海外サイトでのレシピや料理動画が数多く見られるようになるなど、世界からの注目も集めています。
今回は、日本の発酵食品に光を当て、その概要や魅力、代表的な発酵食品の例などをご紹介します。
発酵食品とは
発酵食品とは「食材を微生物の働きによって発酵させて製造する食品のこと」とされています。
すぐに思い浮かぶのは、ヨーグルトやチーズ、納豆、味噌、キムチなどではないでしょうか。日本の漬物、ドイツのザワークラウト、イタリアのアンチョビ、中国の搾菜、ビールやワイン、日本酒、焼酎、紅茶、パンなど、世界にはたくさんの発酵食品があります。
ヨーグルトやチーズ、漬物は乳酸菌、パンやビールは酵母菌、納豆は納豆菌、味噌や醤油は麹菌という菌を使って作られます。微生物とはこれらの菌の総称です。菌はもともと自然界に生息していて、病気などを引き起こす悪い物と良い作用を引き起こす物があります。発酵食品に使われるのは後者です。
微生物は、食材の旨みを引き出し保存性を高めるだけでなく、腸内環境を整えて免疫力を高めたり、活性酸素を除去して体が錆びるのを防いだり、代謝を促進する力があります。
発酵食品には潤いのある健康的な体の維持に欠かせない要素が詰まっているのです。
日本の発酵食品はなぜ注目されている?
国内のみならず世界から大きな関心を集める日本の発酵食品。人気の理由は主にこの2点にあります。
①腸内環境を整え、内側から錆びない健康的な体を維持できるヘルシーさ
②菌類のもつ性質が、生産時の環境負荷が低く栄養価の高い代替肉を作るのに適していて、サステナブルな社会の実現への貢献度が高い
食材の保存性を高め無駄なく使い切ることができるので、食品ロスの削減に繋がることも、注目されている理由の一つにあるようです。
日本の発酵食品の特徴
日本は発酵大国ともいわれるほど種類が豊富で、他の国とは異なる独自の発酵文化を持っているといわれています。
大きな特徴は、独自の「麹菌」を育てて使っていることです。
麹菌は麹を作るための糸状菌の総称で、東アジアと東南アジアにも生息していますが、日本に生息するのは、それらと異なる独自の麹菌です。発見された経緯は明らかではありませんが、木桶のなかで菌を育て、菌の生態系を守りながら発酵を促すスタイルが長く定着しているのは日本だけのようです。
菌を育て菌の生態系を守る木桶
木桶は日本酒や醤油などを熟成させる大きな桶で、杉板と縄や木材のみで作られます。木桶での熟成が日本各地に広まったのは江戸時代といわれています。
木桶には目に見えない無数の穴があり、そこに微生物がすみついて少しずつ自分たちの仲間を増やし、長い時間をかけて木桶の中で独特の生態系を作っていきます。それを壊さないよう守りながら熟成させ、発酵食品ができあがります。
適度な通気性と温度と湿度を保てる木桶は微生物にとって最適の環境で、木桶は発酵文化と共にあったといわれるほど、発酵食品との関係がとても深いのです。
木桶は、始めは大きな酒桶として酒蔵で数十年。次に味噌か醤油の木桶として少し小さく仕立て直されて、味噌蔵や醤油蔵で数十年。次はさらに小さく仕立て直されて、漬物屋で数十年使われます。
そして最後は薪として燃やされて灰になり、土に還ります。長い物は200年近くもの間、微生物を育て守る役目を担うのです。
代表的な日本の発酵食品とローカルの発酵食品
代表的な日本の発酵食品
日本独自の麹菌を利用してできた味噌、醤油、本みりん、酢、日本酒、焼酎の他、漬物、納豆、枯節(鰹節)など数ある発酵食品の中から、代表的な物をいくつか紹介します。
味噌
米や麦などの穀物に麹菌を育成させ、蒸した大豆と塩を加えて発酵させる日本の伝統的な発酵食品。米味噌、麦味噌、合わせ味噌の他、蒸した大豆に麹菌を培養し塩を混ぜた豆味噌などがあります。調味料としてだけでなく、ご飯のお供、酒の肴など幅広く親しまれています。製造工程も多くなく、特別な道具が必要ないので、家庭でも作ることができます。
醤油
蒸煮した大豆と麦に麹菌を育成させた麹に、濃厚な塩水を加えて発酵、熟成させた発酵調味料。原材料も途中までの工程も味噌とほぼ同じですが、まめに空気を含ませたり、最後は圧搾が必要だったりと手間がかかるため、昔から味噌蔵より醤油蔵の方が少なかったといわれています。濃口、薄口、溜りなど種類も豊富です。
枯節(鰹節)
魚の旨みが凝縮された日本固有の魚の保存食で、世界で最も硬い食品の一つ。鰹の身を煮て燻製しながら乾燥させた荒節に、鰹節カビを付着させ、閉めきった室で2週間放置します。カビが十分繁殖したら、それをハケで落とし天日で干します。そしてまたカビを付着させ、しばらく置いたらカビを落として天日で干します。これを5〜6回繰り返して作られます。出汁をとったり和え物にかけたりと、日本料理にはなくてはならない物の一つです。
漬物
糠や塩に野菜を漬け込み、乳酸菌発酵させた保存食。冬場の野菜不足に備えるため、長期保存の方法としてできたといわれています。ビタミンが豊富で、腸内環境を整えて免疫力を高める美容と健康に良い食品としても知られています。
納豆
蒸した大豆と納豆菌で作られる発酵食品。納豆菌はビタミンを生産し、ナットウキナーゼと呼ばれる酵素を発生させ、動脈硬化や骨粗しょう症など、さまざまな病気のリスクをさげるとされています。年間の生産量から算出すると、日本人は一人当たり年間約40パック食べているともいわれています。
ここ数年、米国内製造のボストン納豆が発売されるなど、海外では納豆が身近なものになりつつあります。日本食ブームや世界的な健康志向の高まり、海外スーパーでの取扱量が増加したことなどが理由にあげられるでしょう。
ローカルの発酵食品
発酵大国といわれるように、日本各地にはさまざまな発酵食品があります。
古くから親しまれてきた物、比較的新しい物など数々ありますが、古くから親しまれてきた名産品といわれる物をいくつか紹介します。
久寿餅(関東)
東京、千葉、神奈川を中心に親しまれてきた、小麦の澱粉を乳酸菌発酵させて蒸した和菓子です。くず餅と呼ばれる物は各地にありますが、発酵させているのは久寿餅だけです。
くさや(伊豆諸島)
何年も継ぎ足してきた無数の微生物がすむ液に、開いた魚を漬け込んでから干した干物です。非常に強い独特な匂いと、魚の旨みが凝縮された深い味わいが特徴です。
鮒ずし(滋賀)
琵琶湖の固有種である二ゴロブナを、米と一緒に漬けこんで乳酸菌発酵させた保存食。骨まで柔らかくなった魚は丸ごと食べられ、特有の強い香りが癖になるといわれています。
海外からも注目される日本の発酵食品
今海外では、日本独自の菌である麹菌を活用した代替食品の開発が活発になっています。
なかでも米国 Prime Roots 社は、麹に着目し、独自の技術で加工した代替肉を開発。生産時の環境負荷を低減でき、肉本来の味と食感が感じられ、栄養的にも優れた食品として注目を集めました。
麹菌に着目したのはフードテック業界だけではありません。
麹を使って、コーヒー豆の甘みを引き出すことに成功したのは、フィンランドのバリスタ・チャンピオンであるカーボ・バーヴォライネン氏。大阪の麹専門店、樋口松之助商店から技術的なアドバイスを受けながら、麹発酵コーヒーを完成させました。
このように世界では、日本の麹菌とその発酵技術を活用して、サステナブルな社会の実現に取り組む企業が増えています。国内でもこの動きは活発で、産官学連携による次世代食品の研究開発や、麹菌を活用した砂糖代替甘味料を開発した日本企業の海外進出など、新しい流れが加速しています。
食卓に発酵食品を取り入れよう
紹介してきたように、国内外を問わず、その価値が見直されている発酵食品。
最近の研究では、発酵食品に含まれる天然アミノ酸の一種であるGABAに抗ストレス作用があることも分かり、ストレス軽減に役立つともいわれています。
発酵ドレッシング、カカオ醤、発酵スイーツなどの商品も増え、無理なく手軽に発酵食品を取り入れやすくなりました。もう少し手間をかけたい方には、発酵食品を作れるレシピ、発酵食品を使った料理教室、手作り味噌キットなど、それぞれの志向とライフスタイルに合わせて発酵食品の取り入れ方を選ぶこともできます。
美味しく楽しく、心と体と地球に優しい発酵生活を始めてみませんか。
参考:
https://www.life.tsukuba.ac.jp/laboratory/lab_hagiwara_20220215
https://www.meiji.net/life/vol262_harushi-nakajima
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2211/spe1_01.html
https://www.s-shoyu.com/knowledge/0715
https://www.teradahonke.co.jp/products/kioke/
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_002929.html
https://oshima-navi.com/gourmet/kusaya01.html
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/funa_zushi_shiga.html
https://www.primeroots.com/collections/koji-deli-meats
https://perfectdailygrind.com/2022/03/what-is-koji-fermented-coffee/