持続可能な社会のかたち、ドーナツ経済学ってなに?

「持続可能な社会を」と言われ始めて数年。SDGsの考え方とも重なる、「ドーナツ経済学」という新しい経済の概念があります。この記事では、ドーナツ経済学とはなにか、ドーナツ経済が提唱する社会はどのようなものかを説明していきます。

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ドーナツ経済学とは

出典:unsplash.com

ドーナツ経済学とは、2011年にケイト・ラワース氏(英オックスフォード大学の経済学者)が提唱した新しい経済の在り方です。現在の経済システムでは解決の難しい、地球環境の破壊や激しい貧富の差。彼女は、現在の経済システムに新しく代わるものとして、ドーナツ経済を提案しています。

概念の詳細については、ケイト・ラワースが著書「ドーナツ経済」を発表しています。

ドーナツ経済学の名前は、概念のビジュアルイメージがドーナツの形をしていることからつけられました。

ドーナツの外側の線は、自然環境の上限を表しています。その上限を超えると、温暖化や生物多様性の喪失など、資源の使い過ぎや環境汚染により自然環境への悪影響を及ぼす範囲となります。
一方、ドーナツ図の輪の中心の空洞は衣食住や人権が守られない範囲、すなわち食料や水、医療、教育、健康などの人間としての基本的欲求が満たされない状態を示しています。

出典:https://www.kateraworth.com/doughnut/

ドーナツ経済学ではこのドーナツの輪の範囲(図の緑色の部分)に人類みんなが収まること、「地球の限りある資源の中で、人類が安全・公正であること」を目指しています。

言い換えると、自然環境を守りながら、地球上の全員が危険や飢餓などに脅かされず幸せに暮らせる社会を作っていこうという考え方です。

現在の経済システムの問題点とは?

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経済の成長を目指して働いてきた私たちですが、それにともなって大きな弊害も出ています。経済の成長を優先し、大量生産や大量消費が行われた結果、環境に大きな負担がかかっているのです。

経済を成長させ続けることはそもそも不可能で、GDPなどの経済指標を最重要視した「成長依存」を脱却しなければならないと、ケイト氏は考えます。
「経済は成長しなければならない」というこれまでの概念を今一度、考え直すところにきているのです。

ケイト氏は、これからは成長ありきの経済ではなく、繁栄の経済こそが求められているとしています。
繁栄の経済とは、経済の成長にこだわらず、人間の生活そのものが豊かになることを示します。それは集団の中で人々が助け合い、お金だけでなく正義や公正、文化や伝統などの価値を置き、自然と共存する社会です。

「どこまでも成長し続けなければならない」というのは、自然環境や人間にとって持続可能なものなのか。環境汚染が進み、貧富の差が激しい今、経済システムが見直され始めています。

私たちにとっても他人ごとではない環境問題と貧困問題

今、日本各地でも台風や洪水、酷暑など異常気象などが見られ、気候変動を、身を持って感じることにより、危機感をいだくようになった方も多いのではないでしょうか。

私たちの社会は、経済の成長のために大量にモノを作り、消費しています。それにはロスや売れ残りなどの大量廃棄も生じます。それは限りある資源を使い、多くのCO2を排出します。環境に負荷がかかり、それがまわりまわって、結果として、自然破壊や気候の異常が起きており、私たちの生活が脅かされています。

一方、問題として取り上げられて久しい世界の貧困問題や、食糧不足、水不足や衛生的な環境の改善は、なかなか解決へとは向かいません。先進国が発展途上国とフェアな取引をしているかというとそうでない場合も多いのではないでしょうか。

現在の富の一極集中や、環境破壊といった問題が生まれるなか、ドーナツ経済学は、貧困の根絶と地球環境の保全、二つの両立を提案しており、これからの私たち一人ひとりと社会の在り方を提案しています。

ドーナツ経済を実現するための7つの基礎

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前述しているように、ドーナツ経済学で用いられるドーナツの図は、地球環境を守れる範囲内で人類が幸福に暮らせる社会を示しています。

それでは、ドーナツ経済学を実現するためには具体的にはどのような点に取り組んでいけばよいのでしょうか。

ドーナツ経済学の基礎となる7つの考え方をみていきましょう。

1. 目標を変える

国内総生産(GDP)の成長に固執しない。極端な貧富の差を生み出し、地球環境をおざなりにする経済発展をやめ、バランスのとれた繁栄の道を歩む。

2. 全体を見る

今までは経済は、狭く限定的な範囲に焦点が当たっていたが、そもそも経済は社会や自然のなかに存在するものとして考えることが必要である。

3. 人間性を育む

二十世紀の経済学では「合理的、利己的、自然の征服者」として人間が描かれてきたが、本来、人々は社会の中で共生し、自然に頼り合うという豊かなものである。その中で、みんなが安全・公正に生きることができるよう、人間性を育むことが重要である。

4. システムに精通する

経済は、需要と供給の図のように単純で人間が自由自在に操作できるものではなく、もっと複雑で流動的なシステムとして認識すべきである。

5. 分配を設計する

単なる所得だけではなく、土地や企業、技術、知識などを含んだ富の再分配やお金を生み出す力の再分配が必要である。

6. 環境再生を創造する

循環型の経済を想像し、環境再生を目指した経済思考を取り入れる。

7. 成長にこだわらない

経済が成長してもしなくても、金銭、政治、社会面すべてにおける繁栄を目指し、成長依存を克服する。

未来に向けた持続可能な社会のためにできること

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では具体的に私たちが本当に豊かだと思える社会はどのようなものでしょうか。ドーナツの輪の中にみんなが入るために、個人でできることを考えてみます。

たくさんある中で、例えば地域社会とのつながりが挙げられます。人間関係に限った話ではなく、地域の農業、漁業などに根付いた伝統的な社会の価値観を見直すことも大事です。

地元の農産物や、環境に配慮された栽培方法で作られた作物を選ぶ、物は必要な分だけを購入し、リペアをしながら長期間使う工夫も大切です。新しいものを買うときには環境に大きな負担をかけていないか確認すること、また、フェアトレードのものやエシカルなものを選んでいくことも必要です。

大量生産・大量消費が行われ、経済の発展を最優先した時代に見落としてしまった人類として大切なことが、豊かな社会をつくる礎となるのです。

ドーナツ経済学を取り入れた具体例

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世界でも多様性豊かなオランダの首都アムステルダムでは、持続可能なまちづくりの一環として2020年4月にドーナツ経済学の導入を発表。
互いに作用しあう4つのポイント「都市の繁栄」「生態系の繫栄」「世界の人々にとっての幸福」「地球環境の尊重」を提示し、ドーナツ経済を構想から実践へと落とし込もうとしています。
具体的には、地産地消を含むサステナブルで健康的な食品の流通、町の緑化、リサイクルやリユースリペアなどで資源の無駄を減らすなど、様々な側面から取り組みが始まっています。

アムステルダムはドーナツ経済を行政で取り入れた初めての市で、世界からも注目を集める画期的な挑戦をおこなっています。

ドーナツ経済学を現実のものとするために

21世紀の人類にとって共通の目標としたいドーナツ経済学について紹介しました。
その考え方に共感できる方も多いのではないでしょうか。
わたしたちに身近なものとして、一人ひとりがこのような社会への理解を深めることが人類の繁栄への第一歩となるのです。

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