2023年山形国際ドキュメンタリー映画祭のハイライトをレポート

東京から約3時間の山形県山形市で隔年開催される映画の祭典、山形国際ドキュメンタリー映画祭(以下YIDFF)。2023年の今年は、10月5日~12日の開催となりました。
「世界の今」をドキュメンタリー映画の視点から知ることができるYIDFFは、世界から多くの映画制作関係者やファンが集う一大イベントです。今回は2023年YIDFFの魅力を現地の写真とともにレポートします。

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山形国際ドキュメンタリー映画祭2023はどんな映画祭だった?

YIDFFは、山形市の市政100周年を記念してスタートしたアジア初のドキュメンタリー映画祭です。隔年開催されており、2万人を超える動員を誇ります。
世界各地から選りすぐりのドキュメンタリー作品が集まり、約1週間の会期中は山形駅周辺の複数施設が上映会場となり朝から晩まで映画が上映。
コロナ渦でオンライン開催となった2019年を乗り越え、2023年は4年ぶりの現地開催となりました。

2023年のYIDFFでは、2024年に劇場公開予定を控える音楽家 坂本龍一の長編コンサート映画「Ryuichi Sakamoto | Opus」が開催式にて上映され、大きな話題を呼びました。
また関連イベントとして野外上映企画「野外スクリーン! で東北を魅る」が山形駅西口にて実施され、東北復興のバトンが繋がれる機会となりました。

2023年の受賞作品

毎回YIDFFでは、会期の最終日前日に表彰式が行われ各賞に輝く作品が決定します。
今回の受賞作品は以下の作品です。

<インターナショナル・コンペティション>

ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)
『何も知らない夜』

山形市長賞(最優秀賞)
『訪問、秘密の庭』

優秀賞
『自画像:47KM 2020』
『ある映画のための覚書』

審査員特別賞
『ニッツ・アイランド』

<アジア千波万波>

小川紳介賞
『負け戦でも』

奨励賞
『ベイルートの失われた心と夢』
『列車が消えた日』

気になった作品は http://yidff.jp/2023/2023.html#award より確認してみてください。

今年注目を浴びていた作品は?

ドキュメンタリー作品は、大手メディアで報道されている時事問題やニュースなどをよりリアルに映します。
刺激的な仕掛けが多くある劇映画や、世界経済を軸に語られる報道番組などとは違い、人々の日常生活により密着して今起きている社会問題をわたしたちに伝える点が魅力です。
YIDFFでも、マスメディアの報道では取り上げられることのない、世界の人々のリアルを追体験することができる作品が多く上映されます。

ウクライナ侵攻の現地の救護兵自らが撮影する作品、軍事政権で揺らぐミャンマーでデモに参加した当事者が監督となった作品などが上映されました。
政治分野以外にも、山形の文化を紹介する作品や、世界の人々の価値観が伝えられている作品など上映作品はバラエティに富んでいます。

鑑賞した13作品の中でも、特に注目を集め、心に残った作品を紹介していきます。

『東部戦線』

インターナショナル・コンペティション部門の1,132本の応募作品から選ばれた15本の内の1作品である『東部戦線』は、ロシア・ウクライナ侵攻を題材とした作品。
ボランティアの救護隊員として、監督自らがウクライナ現地で活動する様が衝撃的な内容でした。
マスコミの報道では語られることのない一般市民から見た戦地、兵士たちがつかの間の休憩をとる様子、兵士の戦争への向き合い方、ウクライナの人々が受けたロシアのプロパガンダによる影響などが赤裸々に映し出されます。
プーチン大統領も、ゼレンスキー大統領の姿も作中では登場せず、一般市民が中心となり、粛々と映画は進みます。

上映後には、監督による質疑応答の時間が設けられました。
「戦争につきものである憎しみを感じるシーンがないように思われるがなぜか?」との質問には、「伝えたいことは、同じ地球に生きる我々に何が起こっているのか、正義とは何か?ということです。」と語りました。
生活に密着したシーンと戦闘シーンが交差する構成から見え隠れする「戦争がある日常」から、その言葉の意味を考えさせられる作品でした。

『負け戦でも』

アジア19作品が集うアジア千波万波部門の作品『負け戦でも』は、軍事政権下のミャンマーで抵抗運動に参加し投獄された若者が撮影した作品です。
隠し撮りをした抵抗運動の様子や、頻繁に登場する暗い窓辺のシーンなどから自分たちの未来に絶望を感じる語る監督の心の内が投影されているように取れます。
獄中生活が終わった後もなお、トラウマがあり、いまだ解放されていない仲間のことを想うと苦しいと語ります。
クーデターが勃発した2021年当時は日本国内でも大きく報道されていたものの、直近ではその機会も少なくなっているミャンマーの今。その地に生きる彼らの声を知ることができる貴重なフィルムです。

匿名で公開しなければならない政治的な状況でありながら、世界へ発信することへの信念を強く感じる作品でした。

作品鑑賞以外にも楽しめるイベントが満載

YIDFFでは、作品上映以外にワークショップなどの関連イベントも多く開催されています。ここでは、実際に参加したものを紹介します。

YIDFFの期間中、毎晩人々が集うのは映画祭ボランティアが運営する居酒屋「香味庵クラブ」。映画祭に集う人々の憩いの場である香味庵は、会場を移転してから初の開催でした。
入場料500円で、お酒とおつまみが提供され、映画祭に訪れている人々や世界から来日した監督、その他関係者とフラットに交流できる場所として映画祭の名物となっています。

会場はごった返し立ち飲みをする人の姿も

YIDFFで長年通訳として活躍し、『あきらめない映画 山形国際ドキュメンタリー映画祭の日々』の著書である山之内悦子さんにご挨拶することができ、直接書籍を拝読したことを伝える機会を得ました。

上映会場周辺では、キッチンカー出店やマルシェ「ドキュ山マルシェ」も開催。
地元の事業者によるコーヒーや焼き菓子などが提供され、映画鑑賞の合間に出店者のみなさんと、気さくなコミュニケーションを楽しむ憩いの場となりました。

ドキュメンタリーの魅力を再確認する映画祭に

慌ただしい日常から切り離され、世界の様々な地や環境下でひたむきに生きる人々が描かれる作品を浴びるように観ると、自分自身の生き方や今後の人生についても深く考えさせせられます。
YIDFFのコピーである、「世界の今を知る」。ウクライナやミャンマーの一般市民が置かれている状況などを目の当たりにし、「世界の今を目撃するひとりとなる」となることを改めて実感する映画祭でした。

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