Yahoo!ニュース ドキュメンタリー 今月観たい1本『憎しみが癒される時』

社会や人々のありのままを切り取り、映し出すドキュメンタリー。映像というかたちでこの世界の“リアル”を知ることは、地球にも人にも優しい未来を考えるきっかけになります。

本連載では、気軽に観ることのできる約10分のドキュメンタリー作品を配信する「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」から、今観たい1本をセレクト。毎月テーマを変えて、映像という切り口から、持続可能でエシカルな社会を考えます。

8月のテーマは「平和と戦争」です。

戦争がもたらす負の連鎖をどうやって断ち切るのか

日本において8月15日は終戦の日。1945年のこの日、昭和天皇により、日本はポツダム宣言を受け入れて戦争を終結するという声明が、ラジオを通して伝えられました。

第二次世界大戦終結から79年経とうとしている今、世界を見渡してみるとロシアのウクライナ侵攻、ガザにおける紛争など、戦争は終わる気配を見せません。

戦争と平和について改めて考えたい今、ご紹介するドキュメンタリー作品は、『憎しみが癒される時』。元日本兵の父を持つ本作品の監督が、インドネシアで日本軍に抑留された経験を持つオランダ人女性を訪ねた記録です。

戦争によって大きな犠牲をはらった日本もまた、他国の多くの人々を傷つけてきました。日本や他国が受けた悲しみや憎しみは、80年近く経つ今も完全に消えてはいないのです。

戦争が引き起こす負の連鎖はどのように断ち切れるのでしょうか。平和のために私たちが忘れてはいけないこととは――。

『憎しみが癒される時』

憎しみが癒される時(Yahoo!ニュース ドキュメンタリー)

監督・撮影・編集:小西 晴子
プロデューサー:井手 麻里子
制作:ドキュメンタリーアイズ
公開:2022年

作品のあらすじ

1945年の日本敗戦後、オランダはインドネシアを再び植民地にしようと侵攻。それに対し、日本軍の補助部隊としてインドネシアの青年たちが闘い、オランダからの独立を果たします。

本作の監督である小西さんの父は、当時インドネシアの義勇軍を教育した人物。

「自分たち日本軍がインドネシア人を教育したから、オランダとの戦いに勝利し、インドネシアの独立へとつながった。」と父は語りますが、当時の日本兵側からだけではなく、日本の占領下にいたオランダの人々の体験も知りたいと考えた小西さんはオランダに住む元抑留者にコンタクトを取ります。

小西さんが直接会うことになったのは、オランダ人の女性、ティネケさん。

インドネシアで幸福な少女時代を送っていた彼女は、日本軍の侵攻により、家族とともに抑留所の中でも劣悪とされていたチデン抑留所に収容されます。

理不尽に殴られた母の姿など、彼女が語ったそこでの壮絶な体験は、深い傷となって今も心に残っています。

しかし話し続けるうちに次第に心を開き、当時の思い出の品などを見せてくれるティネケさん。

終盤には、現在も行われているチデン抑留所協会の集まりで「憎しみを終わらせなければならない」と人々に語りかけます。

憎しみや分断を乗り越えるために必要なこととは

過去の戦争で日本は多くの犠牲者を出してきました。しかし、日本もまた、他国で多くの人々を傷つけてきたことを、ティネケさんの体験談から知ることができます。

戦争ではどの国も傷つき、傷つけられています。たとえ正義感を持って戦っても、戦争の中に正義や倫理は存在しないのです。

元日本兵の小西さんの父と、ティネケさん。両者の話からは同じ出来事とは思えないほど、その見え方や認識に大きな差が存在しています。

そこには、戦争がもたらした大きな分断がありますが、その大きな違いを乗り越えられる一つの方法が対話であると作品は私たちに教えてくれます。

「80 年たっても憎しみは完全には消えない。それでも憎しみの対象だった日本人と対話することで、その痛みが軽くなったことも知ってほしい。私たちは、自分たちの体験を話すべきだと思います。そして、この憎しみを終わらせなければならないと思います」

長年の時を経てティネケさんから出てくる言葉は、相手を知ろうとする気持ちが憎しみの連鎖を終わらせ、平和をもたらすことを私たちへ強く語りかけてきます。

この夏、もう一度平和について考えよう

戦争は、決して遠い過去の出来事ではありません。今この瞬間も世界各地で罪なき人々や子どもたちが命を失い、尊重されるべき権利が無視されています。

各国の紛争で、日本に住む私たちも戦争とは決して無関係ではないと感じている方は多いのではないでしょうか。

他国や異文化に対し負の意識を持っていることがあれば、争いの火種となると認識することが重要であり、相手を知り、理解しようとすることが、個人が平和のためにできるアクションです。

過去から学び、歩み寄る気持ちを持ち続けることが、平和に繋がることをもう一度心に留めておきたいものです。

文/かがり

※作品はこちらから視聴できます
憎しみが癒される時(Yahoo!ニュース ドキュメンタリー)

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