地球温暖化が進み、自宅や公園、観光施設などで人々の癒しとなっている草木がダメージを受ける中、「ドライガーデン」に注目が寄せられています。
ドライガーデンは、水の少ない環境下でも成長する植物を取り入れた持続可能な庭園として、欧米を中心に広がりを見せているのです。
今回は、ドライガーデンが発展した背景、魅力、そして未来における重要性を紹介します。
ドライガーデンとは

従来の庭園には、程よい湿気を含んだ土壌や定期的な水やりが必要でした。
地球温暖化が進んでいる現在、水不足や強い日照りによる土壌の水分蒸発、水道代の高騰などの問題が発生しており、庭園の維持管理はけっして簡単ではありません。
その課題の解決策として、注目を集めているのが「ドライガーデン」です。
ドライガーデンで用いられているのは、主に乾燥に強い植物。そのため、水分が不足している環境下でも緑豊かな風景を作れることで、注目を集めてきました。
ドライガーデンで用いられる植物のなかには、多肉植物のほか、香りのよさやかわいらしい見た目が人気のラベンダーやゼラニウムといった花も含まれています。
水不足が進む現在の環境に適応しているだけではなく、庭園にふさわしいはなやかな風景をデザインできる点も、人気を集める理由の一つでしょう。
ドライガーデンが発展した背景

ドライガーデンが発展しはじめたのは、1960年代。当時のアメリカでは、庭の芝生に大量の水が消費されていることが問題視されていました。そして、庭園での水の使用そのものが、本当に必要なのか問われはじめたのです。その結果、少ない水で維持管理ができるドライガーデンが、徐々に広がるようになりました。
1990年代のヨーロッパでも、同様の動きが見られています。例えば、イギリスの降水量が少ない地域では、現地の環境に合わない植物を一生懸命人の手を加えて育てようと尽力する庭園づくりから、その時々の地域の気候や環境に適した植物を選ぶ方向へと変わっていきました。
ただ緑豊かな風景を守っていくのではなく、ときには資源を大切に使い、ときには現在の状況を見極め柔軟な考えを大切にする。そうした姿勢のなかで、ドライガーデンは生まれました。
ドライガーデンの魅力

ドライガーデンの人気は現在も広がりつつあります。
その主な理由は、次の3つです。
維持管理に多くの水を必要としない
日照りが強くなっている近年、土壌はますます乾燥しやすくなっています。世界では水不足への懸念が高まっている一方で、庭園の植物を守っていくために必要な水の量も増えています。
さらに、暑い時期に水やりをすることで植物が傷んでしまう可能性も。葉や花びらの表面に残った水分が日光の熱で蒸発する際に、やけどをしてしまうからです。つまり、庭園の植物や景観は、定期的な水やりだけで守れるとは言い切れません。
しかし乾燥に強い植物を用いたドライガーデンであれば、必要最低限の水があれば維持管理が可能です。
庭園の維持管理にかかる水の量を削減するのはもちろんですが、水の使用にともなう水質汚染やCO2の発生を抑えるといった効果も期待できます。
維持管理のコストが減る
庭園の管理維持には、水やりや人件費といったコストがかかります。
さらに大規模な庭園であれば、灌漑やスプリンクラーを整備することもあります。これには、導入時の工事だけでなく、定期的なメンテナンスやポンプにかかる電気代が必要です。
乾燥に強い植物を用いた場合、基本的に灌漑やスプリンクラーといった設備が不要です。
そのため、ドライガーデンは維持管理にかかるコストが低い傾向にあります。
色鮮やかな庭園風景が作れる
乾燥に強い植物で庭園を作るとなると、植物の種類が限られると考える方もいるかもしれません。
ドライガーデンによく使われる植物は、かわいらしい花を咲かせる低木のチョウチクトウ、安らぎのある香りが人気のラベンダー、色鮮やかな花弁が魅力的なゼラニウムなど、多種多様です。
従来の庭園とは異なる植物を使いながらも、鮮やかな風景を作り、人々の目を楽しませることができる点も、ドライガーデンの魅力です。
ドライガーデンのパイオニアもその重要性を強調
地球温暖化が進む現在の環境に適応しているだけでなく、色とりどりの花々を活用できるドライガーデンの需要は、これからも高まっていくでしょう。
ドライガーデンのパイオニアとして約30年間、地中海地域の植物を庭園に取り入れてきたオリヴィア・フィリップ氏は、イギリスのガーデニング専門誌「GARDENS ILLUSTRATED」とのインタビューで、ドライガーデンは「これからの世代の人々が生きる未来にとって必要」だと語っています。
例えば、イギリスでは2022年8月、国内の複数の地域で干ばつが発生した際、水道管につないだホースの使用が禁止されました。これにより、洗車や庭園の水やりができなくなりました。
オリヴィア氏は、この出来事を例に出し、「芝生や雑木林は数週間から1カ月間は、水のない環境に耐えられる。しかし、真夏日が何カ月も続けば、話は別だ」と将来を懸念しています。
ますます重要になる、地球や人に優しいドライガーデン
地球温暖化が進み、庭園の手入れへの負担が増していく今、ドライガーデンは重要な庭園スタイルの一つになっています。
水の使用量やそれに伴う環境負荷を抑え、手入れにかかる負担も軽減するなど、地球にも人にも優しい庭園だといえるでしょう。
一方で、ドライガーデンが発展してきた背景を振り返ってみると、将来の地球環境に適応できない植物がある現状を思い知らされます。自然豊かな景色を保つことと、生物の多様性や今見ている光景を守ることは同じではありません。
現状への解決策として新しい様式を取り入れる姿勢と、現在当たり前のように享受している環境を守る方法を考えていく姿勢。その2つが、大切なのかもしれません。
参考:
GARDEN ILLUSTRATED|Dry gardening guru Olivier Filippi
BBC|UK Heatwave: Official drought declared across large parts of England